説明

押出加工用ダイス

【課題】穴の不成形や強度不足などが生じにくい扁平多穴チューブを成形するための押出加工用ダイスを提供する。
【解決手段】複数の突起部2…2、3…3が互いに間隔をおいて並んだ突起部列が2列で設けられ、列が異なる隣接突起部2、3間で、壁面の一部が互いに対向する平面状の壁面2a、3aまたは扁平曲面壁で形成されており、前記平面状の壁面2a、3aまたは扁平曲面壁は、列が異なる隣接突起部間で略平行に対向していることが望ましく、さらには、幅方向の延長線が他の突起部の接線5、6の内側に位置していないことが望ましく、上記押出加工用ダイスによれば、押出加工により製造する際の成形性が良好で、欠陥の少ない扁平多穴チューブを製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、各種の熱交換器などに用いられる扁平多穴チューブ、特にマイクロチューブと呼ばれる超小形のチューブを押出加工する際に用いる押出加工用ダイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種の電気機器や自動車に用いられるエバポレータ、凝縮器、ラジエター等の熱交換器では、小型、省スペースなどの観点から多数の穴が並列された扁平多穴チューブがよく用いられている。この扁平多穴チューブは、各種金属による押出加工により成形され、材料として、特にアルミニウムが熱間加工性が良いことから広く用いられる。
【0003】
上記扁平多穴チューブの一例を図7に基づいて説明する。このチューブ30は、アルミニウム製などからなる扁平材31に、丸穴32…32および丸穴33…33が並列して設けられたものであり、穴列が2列に設けられている。該扁平多穴チューブは、例えば、図6に示すように複数の円柱状突起部41を有するオスダイス40と、前記突起部41が挿入されて、これら突起部41との間に製品押出成形用の隙間を形成する型穴を有するメスダイス45とを用いた押出成形によって製造することができる(特許文献1参照)。押出成形によって、前記突起部41の周りに材料が流れ込むことで各突起部41によって図7に示す各丸穴32および丸穴33が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−211215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、扁平多穴チューブの製造において、前記オスダイス突起部の内側へ材料が流れる際に、突起部の周面に沿って回り込みながら材料が流れることになる。しかし、このような材料の流れでは押出力が伝わりにくく、材料の回り込みが不十分になってチューブの内側で、形成される穴の不成形や強度不足などの欠陥を招きやすいという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、穴の不成形や強度不足などが生じにくい扁平多穴チューブを成形するための押出加工用ダイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、第1の本発明の押出加工用ダイスは、複数の穴が互いに間隔をおいて並んだ穴列が形成される扁平多穴チューブを成形するための押出加工用ダイスであって、
複数の突起部を有するオスダイスと、前記突起部が挿入されて該突起部との間に製品押出成形用の隙間を形成する型穴を有するメスダイスとを備え、
前記オスダイスは、前記複数の突起部が互いに間隔をおいて並んだ突起部列が2列で設けられ、かつ前記突起部列が異なる隣接突起部間で、該突起部の壁面の一部が互いに略対向する平面状または扁平曲面状の壁面で形成されていることを特徴とする。
【0008】
第2の本発明の押出加工用ダイスは、前記第1の本発明において、前記平面状の壁面は、前記突起部列が異なる隣接突起部間で略平行に対向していることを特徴とする。
【0009】
第3の本発明の押出加工用ダイスは、前記第1の本発明において、前記扁平曲面状の壁面は、該扁平曲面状の壁面両端を結ぶ割線が略平行に位置していることを特徴とする。
【0010】
第4の本発明の押出加工用ダイスは、前記第1〜第3の本発明において、前記突起部の壁面は、前記平面状の壁面部分および前記扁平曲面部分を除いて、周方向に円弧状の形状を有していることを特徴とする。
【0011】
第5の本発明の押出加工用ダイスは、前記第1〜第4の本発明のいずれかにおいて、前記平面状の壁面は、幅方向の延長線が他の突起部の接線の内側に位置していないことを特徴とする。
【0012】
第6の本発明の押出加工用ダイスは、前記第1〜第4の本発明のいずれかにおいて、前記扁平曲面状の壁面は、該扁平曲面状の壁面両端を結ぶ割線に平行な接線が、他の突起部の接線の内側に位置していないことを特徴とする。
【0013】
第7の本発明の押出加工用ダイスは、前記第1〜第6の本発明のいずれかにおいて、2つの突起部列間では、列方向に沿って互いの突起部が互い違いに並んでいることを特徴とする。
【0014】
第8の本発明の押出加工用ダイスは、前記第1〜第7の本発明のいずれかにおいて、前記突起部の壁面は、2つの突起部列間の内側部分が、オスダイスの長手幅方向に沿って、さらに平面状または扁平曲面状に平面状に形成されていることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、オスダイスにおいて、隣接する突起部の壁面の一部が対向するように平面状または扁平曲面状で形成されていることで、押出加工によって扁平多穴チューブを製造する際に、材料が平面状または扁平曲面状の部分から内側に回り込んでオスダイスの突起部に沿って円滑に流れる。そのため、扁平多穴チューブの穴を成形する際に、穴の周囲部分、特に内側に材料が円滑に流れ込み、穴壁の成形性が良好になる。また、扁平多穴チューブに欠肉が生じにくくなり、強度欠陥を招来することも回避できる。
【0016】
また、前記平面状または扁平曲面状の壁面は、特に互いに略平行または割線が略平行になっていることで、押出加工時の材料の流動をより円滑にできる。さらに、前記突起部の壁面のうち、2つの突起部列間の内側部分が、チューブの長手幅方向に沿って平面状または扁平曲面状に形成されていれば、幅方向での材料の流動も円滑になされる。また、平面状または扁平曲面の壁面を除いて、突起部の壁面を周方向に円弧状の形状とすれば、押出成形に際し、材料が突起部に沿って円滑に流れ、扁平多穴チューブの穴を成形する際に、穴の外側から内側に材料を円滑に流入させることができる。
なお、扁平曲面状の壁面は、円形状に対し扁平となっているものであればよく、扁平の程度は特に限定されない。ただし、扁平の程度が大きいほど材料の流動をより円滑にすることができる。
【0017】
また、前記平面状の壁面は幅方向の延長線、扁平曲面状の壁面は壁面両端を結ぶ割線に平行な接線が、他の穴の接線の内側に位置していないものにすれば、加工された扁平多穴チューブの穴壁に加わる応力が進展して他の穴方向に加わることで、扁平多穴チューブの強度が低下するのを回避できる。
【0018】
また、前記突起部を2つの突起部列間で列方向に沿って互い違いに並んでいるものとすることができる。このとき、突起部の並設数は特に限定されるものではなく、必要に応じてその数を選定することができる。
【0019】
また、突起部の壁面の一部を平面形状または扁平曲面形状とした場合、全体を円形とした場合と比べて、断面積が同じであっても表面積が大きくなる。そのため、扁平多穴チューブの穴壁の表面積を大きくすることができ、熱交換効率の向上した扁平多穴チューブを加工することができる。
【0020】
なお、本発明の押出加工用ダイスの寸法等は特に限定されないが、穴径を1mm以下とするようなマイクロチューブを押出加工する際に好適であり、強度改善効果も顕著になる。
【発明の効果】
【0021】
すなわち、本発明によれば、複数の穴が互いに間隔をおいて並んだ穴列が形成される扁平多穴チューブを成形するための押出加工用ダイスであって、複数の突起部を有するオスダイスと、前記突起部が挿入されて該突起部との間に製品押出成形用の隙間を形成する型穴を有するメスダイスとを備え、前記オスダイスは、前記複数の突起部が互いに間隔をおいて並んだ突起部列が2列で設けられ、かつ前記突起部列が異なる隣接突起部間で、該突起部の壁面の一部が互いに略対向する平面状または扁平曲面状の壁面で形成されているので、押出加工により扁平多穴チューブを製造する際の成形性を向上させることができる。そのため、欠陥の少ない扁平多穴チューブを歩留まり良く製造して、生産性を向上させることができる。また、扁平多穴チューブの強度欠陥の発生も防ぐことができ、特に小型のチューブにおける強度特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態の押出加工用ダイスの斜視図である。
【図2】同じくオスダイスの一部正面図である。
【図3】同じくオスダイスの一部を拡大した正面図である。
【図4】本発明の押出加工用ダイスを用いて製造した扁平多穴チューブの斜視図および一部を拡大した正面図である。
【図5】本発明の他の実施形態のオスダイスを拡大した一部正面図である。
【図6】従来の押出加工用ダイスの斜視図である。
【図7】従来の押出加工用ダイスを用いて製造した扁平多穴チューブの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の一実施形態を図1〜図3に基づいて説明する。
本発明の押出加工用ダイスは、オスダイス1と、製品押出成形用の隙間を形成する型穴7を有するメスダイス8とを備えている。オスダイス1の先端側には、前記メスダイス8の型穴内に位置させるべく、互いに間隔をおいて複数の突起部2…2または突起部3…3が並んだ突起部列が2列で設けられている。なお、突起部2と突起部3とは、列方向で位置がずれており、オスダイス1の幅方向において交互に位置している。また、突起部2と突起部3は、それぞれ隣接する突起部間で、突起部の壁面の一部が互いに対向する平面壁2a、3aで構成されており、平面壁2aと平面壁3aは、互いに平行に位置している。また、各突起部2、3の壁面は、突起部間の内側がオスダイス1の幅方向に沿った平面壁2b、3bで構成されており、さらに、上記平面壁2a、2b、3a、3bを除いて周方向に沿った円弧面壁2c、3cで構成されている。
【0024】
また、平面壁2a、3aは、図3に示すように、幅方向の延長線5、6上に他の突起部2または突起部3が位置しないように形成されている。すなわち、上記延長線5、6は、他の突起部2、3の接線上またはその外側に位置している。
【0025】
上記オスダイス1とメスダイス8とを用いて、押出加工により、例えば、図4に示すような扁平多穴チューブ10を製造することができる。扁平多穴チューブ10を製造するに際しては、前記したオスダイス1とメスダイス8とを設置して、オスダイス1の突起部2、3の周囲とメスダイス8の型穴7とによって型空間を形成する。そして、オスダイス1とメスダイス8とを押出装置(図示しない)に装着し、押出装置によって、オスダイス1の外周側から前記型空間に向けて材料を押し出すことで扁平多穴チューブ10が得られる。
なお、材料は特に限定されないが、軽量な材料としてアルミニウムまたはアルミニウム合金が好適である。
【0026】
上記押出加工時には、オスダイス1の突起部2、3の平面壁2b、3bから平面壁2a、3aにかけて材料が円滑に流れて、上記突起部2、3の配列に従って、互いに間隔をおいて複数の穴12…12および穴13…13が並んだ穴列が2列で形成される。つまり、扁平多穴チューブ10の穴12、13の成形時に、穴壁の平面壁12b、13b側から平面壁12a、13a側に向かって、材料が十分に流れ込む。また、オスダイス1の突起部2、3の円弧面壁2c、3cにより、材料が突起部に沿って円滑に流れる。つまり、扁平多穴チューブ10の穴12、13の成形時に、材料が突起部2、3の円弧状の周面に沿って回り込みながら内側に流れるものではないため、材料が突起部に沿って内側に十分かつ円滑に流れ込み、欠肉などの欠陥がない扁平多穴チューブ10が得られる。
【0027】
上記オスダイス1とメスダイス8とを用いて、押出加工により製造された扁平多穴チューブ10は、上記のように、上記突起部2、3の配列に従って、互いに間隔をおいて複数の穴12…12および穴13…13が並んだ穴列が2列で形成されている。そして、穴12…12と穴13…13とは、扁平多穴チューブ10の幅方向において交互に位置している。また、穴12と穴13は、それぞれ突起部列が異なる隣接する穴間で穴壁の一部が互いに背向する平面壁12a、13aで構成されており、平面壁12aと平面壁13aとは、互いに平行に位置している。また、各穴12、13の穴壁は、穴間の内側が扁平多穴チューブ10の幅方向に沿った平面壁12b、13bで構成されており、さらに、上記平面壁12a、12b、13a、13bを除いて周方向に沿った円弧面壁12c、13cで構成されている。また、平面壁12a、13aは、幅方向の延長線が他の穴12、13の接線上またはその外側に位置している。
【0028】
この扁平多穴チューブ10は、好適には熱交換器として使用される。例えば、穴内を熱媒が流れることで穴を流れる熱媒間で熱交換が行われたり、穴を流れる熱媒と扁平多穴チューブの外方との間で熱交換が行われる。
また、本発明の押出加工用ダイスでは、上記のように、オスダイス1の突起部の壁面が平面壁2a、2b、3a、3bで構成されている。そのため、当該オスダイス1を用いて、扁平多穴チューブを製造することで、表面積の拡大が図られた穴形状を有する扁平多穴チューブとすることが可能となり、扁平多穴チューブの熱交換効率を向上する効果を得られる。
【0029】
また、本発明の押出加工用ダイスは、オスダイスの突起部の壁面の一部を扁平曲面とするものでも良い。以下、本発明の他の実施形態を図5に基づいて説明する。
オスダイス20は、互いに間隔をおいて複数の突起部22…22または突起部23…23が並んだ突起部列が2列で設けられている。なお、突起部22と突起部23とは、オスダイス20の幅方向において交互に位置している。また、突起部22と突起部23は、それぞれ突起部列が異なる隣接突起部間で、突起部の壁面の一部が略対向する扁平曲面壁22a、23aで構成されている。扁平曲面壁22a、23aは、扁平曲面の端部を結ぶ割線25、26が略平行になっている。また、各突起部22、23の壁面は、穴間の内側がオスダイス20の幅方向に沿った平面壁22b、23bで構成されており、さらに、上記扁平曲面壁22a、23a、平面壁22b、23bを除いて周方向に沿った円弧面壁22c、23cで構成されている。また、扁平曲面壁22a、23aは、割線25、26に平行な接線27、28が、他の突起部の接線上またはその外側に位置している。
【0030】
図5に示すような、扁平曲面壁22a、23aが形成されたオスダイス20と上記メスダイス8とを用いて、扁平多穴チューブを製造する際にも、押出加工時に、オスダイス20の突起部22、23の扁平曲面22a、23aにより、材料が突起部に沿って円滑に流れ、さらに、平面壁22b、23bに沿って内側に材料が円滑に流れる。つまり、扁平曲面22a、23aの曲率が円弧面壁22c、23cよりも大きいため、従来のように、材料が突起部の円弧状の周面に沿って回り込みながら流れるよりも、材料が円滑に内側に流れ込む。そのため、扁平多穴チューブの穴壁の成形性が良好になり、欠肉などの欠陥が生じない。
【0031】
以上、本発明の押出加工用ダイスについて、上記実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態の説明内容に限定されるものではなく、本発明の範囲内において適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0032】
1 オスダイス
2 突起部
2a 平面壁
2b 平面壁
2c 円弧面壁
3 突起部
3a 平面壁
3b 平面壁
3c 円弧面壁
5 延長線
6 延長線
7 型穴
8 メスダイス
10 扁平多穴チューブ
20 オスダイス
22 突起部
22a 扁平曲面壁
22b 平面壁
22c 円弧面壁
23 突起部
23a 扁平曲面壁
23b 平面壁
23c 円弧面壁
25 割線
26 割線
30 扁平多穴チューブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の穴が互いに間隔をおいて並んだ穴列が形成される扁平多穴チューブを成形するための押出加工用ダイスであって、
複数の突起部を有するオスダイスと、前記突起部が挿入されて該突起部との間に製品押出成形用の隙間を形成する型穴を有するメスダイスとを備え、
前記オスダイスは、前記複数の突起部が互いに間隔をおいて並んだ突起部列が2列で設けられ、かつ前記突起部列が異なる隣接突起部間で、該突起部の壁面の一部が互いに略対向する平面状または扁平曲面状の壁面で形成されていることを特徴とする押出加工用ダイス。
【請求項2】
前記平面状の壁面は、前記突起部列が異なる隣接突起部間で、略平行に対向していることを特徴とする請求項1記載の押出加工用ダイス。
【請求項3】
前記扁平曲面状の壁面は、該扁平曲面状の壁面両端を結ぶ割線が略平行に位置していることを特徴とする請求項1記載の押出加工用ダイス。
【請求項4】
前記突起部の壁面は、前記平面状または前記扁平曲面状の壁面を除いて、周方向に円弧状の形状を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の押出加工用ダイス。
【請求項5】
前記平面状の壁面は、幅方向の延長線が他の突起部の接線の内側に位置していないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の押出加工用ダイス。
【請求項6】
前記扁平曲面状の壁面は、該扁平曲面状の壁面両端を結ぶ割線に平行な接線が、他の突起部の接線の内側に位置していないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の押出加工用ダイス。
【請求項7】
2つの前記突起部列間では、列方向に沿って互いの突起部が互い違いに並んでいることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の押出加工用ダイス。
【請求項8】
前記突起部の壁面は、2つの前記突起部列間の内側部分が、前記オスダイスの長手幅方向に沿って、さらに平面状または扁平曲面状に形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の押出加工用ダイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−121092(P2011−121092A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280738(P2009−280738)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)
【Fターム(参考)】