説明

押出装置

【課題】袋状容器内に残存する液状物の量を少なくする。
【解決手段】対向して連結された可撓性を有する一対のバッグ20,30の間に液状物が充填された袋状容器90を保持させた状態でバッグ内に流体を送り込みバッグを膨らませることによって、袋状容器を加圧し袋状容器内の液状物を外界に押し出す押出装置10である。一対のバッグのそれぞれには、一対のバッグが対向する方向の寸法を増大させる第1マチ22a,22b,32a,32bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出装置に関する。特に、可撓性を有する袋状容器を加圧することにより、この袋状容器内の液状物を押し出すことができる押出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
食道や口腔の外傷、疾患、又は手術等によって食物を口腔から胃に送り込むことが困難となった患者に栄養剤、流動食、又は薬剤など(一般に「経腸栄養剤」と呼ばれる。以下、「液状物」と称する)を投与する方法として経腸栄養療法が知られている。経腸栄養療法では、袋状容器に充填された液状物を、可撓性を有するチューブ(一般に「経腸栄養カテーテル」と呼ばれる)を介して患者の体内に送り込む。経腸栄養療法に用いられるチューブとしては、チューブの挿入経路によって、患者の鼻腔を通って胃又は十二指腸にまで挿入される経鼻チューブ、患者の腹に形成された胃ろうを通って胃内に挿入されるPEG(Percutaneous Endoscopic Gastrostomy)チューブ、患者の首の付け根に形成された穴を通って胃にまで挿入されるPTEG(Percutaneus Trans Esophageal Gastro-tubing)チューブなどが知られている。
【0003】
経腸栄養療法に用いられる液状物の粘度が低いと、胃内の液状物が食道に逆流して肺炎を併発したり、液状物の水分が体内で吸収しきれずに下痢したりする等の問題がある。この問題を防止するために、半固形化したり、トロミ剤や増粘剤を加えたりすることで粘度を高めた液状物が用いられることが多い(例えば、特許文献1、特許文献2)。
【0004】
ところが、このような高粘度の液状物を患者の体内に送り込むためには、液状物が充填された袋状容器を圧縮する必要がある。この作業を素手で行おうとすると、非常に大きな力が必要であるので作業者(例えば看護師、介護者)の負担が大きく、また、袋状容器全体を一度に圧縮することが困難であるので袋状容器内に液状物が残存しやすい等の問題があった。
【0005】
この問題を解決するため、図11に示すような押出装置100が実用化されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
この押出装置100は、可撓性を有する袋状のエアバッグ120と、エアバッグ120の一対の長辺に取り付けられた保持シート115と、エアバッグ120に空気を供給する送気球(手動ポンプ)156を含む加圧装置150とを備える。エアバッグ120と保持シート115との間のポケット118に液状物が充填された袋状容器90を挿入し保持させる。図12は、この状態を示した、エアバッグの長辺と直交する面(図11の12−12線を含む面)に沿った断面図である。参照符号99は袋状容器90内に充填された液状物を指す。次いで、送気球156でエアバッグ120に空気を供給してエアバッグ120を膨らませる。図13は、この状態を示した、図12と同じ面に沿った断面図である。袋状容器90はエアバッグ120及び保持シート115から圧縮力を受け、袋状容器90内の液状物99がスパウト91(図11参照)から押し出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−248981号公報
【特許文献2】特開2006−273804号公報
【特許文献3】特開2007−29562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、図11に示した従来の押出装置100を用いても、袋状容器90内に液状物99が残存してしまい、患者の適切な栄養管理の観点から問題があった。また、袋状容器90内に残存した液状物99を残らず患者に投与するためには、袋状容器90を押出装置100から取り出して袋状容器90を搾るなどの作業が必要であった。
【0009】
本発明は、上記の従来の問題を解決し、袋状容器内の液状物をほとんど残らず押し出すことができる押出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の押出装置は、互いに対向して連結された可撓性を有する袋状の一対のバッグを備え、液状物が充填された袋状容器を前記一対のバッグの間のポケットに保持させた状態で前記一対のバッグ内に流体を送り込み前記一対のバッグを膨らませることによって、前記袋状容器を加圧し前記袋状容器内の前記液状物を外界に押し出す押出装置である。そして、前記一対のバッグのそれぞれには、前記一対のバッグが対向する方向の寸法を増大させる第1マチが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液状物が充填された袋状容器を、その両側から第1マチが設けられた一対のバッグで圧縮する。これにより、圧縮時にバッグの袋状容器に接する圧縮面の曲面状の変形が抑えられ、袋状容器はほぼ平面状の圧縮面によって両側から圧縮される。従って、圧縮面に皺が発生するのを抑えることができ、また、圧縮面内において袋状容器の圧縮量をほぼ均一にすることができる。その結果、袋状容器内の液状物をほとんど残らず押し出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る押出装置の概略構成を示した斜視図である。
【図2】図2は、図1の2−2線に沿った押出装置の断面図である。
【図3】図3は、図1に示した押出装置の分解斜視図である。
【図4】図4は、図1に示した押出装置を構成するバッグの分解斜視図である。
【図5】図5は、図1に示した押出装置に設けられる流路形成部材の斜視図である。
【図6】図6は、本発明の一実施形態に係る押出装置が液状物が充填された袋状容器を圧縮している状態を示した断面図である。
【図7】図7Aは本発明の一実施形態に係る押出装置が液状物の残存量が僅かとなった袋状容器を圧縮している様子を示した断面図、図7Bは図7Aの部分7Bの拡大断面図である。
【図8】図8A〜図8Fは、本発明の押出装置に設けることが可能な各種の流路形成部材の断面図である。
【図9】図9Aは本発明の押出装置に設けることが可能な別の流路形成部材の斜視図、図9Bは図9Aに示した流路形成部材の作用を説明する断面図である。
【図10A】図10Aは、実施例における、栄養剤の吐出積算量、栄養剤の圧力、及び、バッグ内圧力の経時的変化を示した図である。
【図10B】図10Bは、比較例における、栄養剤の吐出積算量、栄養剤の圧力、及び、バッグ内圧力の経時的変化を示した図である。
【図11】図11は、従来の押出装置の概略構成を示した斜視図である。
【図12】図12は、液状物が充填された袋状容器をポケットに保持させた従来の押出装置の断面図である。
【図13】図13は、液状物が充填された袋状容器をポケットに収納した状態でバッグ本体を膨らませた、従来の押出装置の断面図である。
【図14】図14Aは従来の押し出し方法において液状物が残存した袋状容器を説明する平面図、図14Bはその側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の押出装置を適用可能な袋状容器は、特に制限はなく、例えば液状物が充填された公知のパウチ(パック)を用いることができる。袋状容器は、圧縮するとその内容積が減少することができるように可撓性を有する材料からなることが好ましい。袋状容器は、内部と連通したスパウト(管状のポート)を有している。
【0014】
袋状容器に充填される液状物は、特に制限はない。例えば、経腸栄養療法において使用される経腸栄養剤や、静脈栄養療法において使用される輸液など医療分野で使用される液状物の他、流動性を有する各種食品、接着剤などの工業製品などいずれであってもよい。
【0015】
本発明の押出装置は一対のバッグを備え、一対のバッグは互いに対向して環状に連結される。その結果、一対のバッグの間に、液状物が充填された袋状容器を保持するためのポケットが形成される。袋状容器をポケットに保持させた状態で一対のバッグ内に流体を送り込み一対のバッグを膨らませることによって、袋状容器を加圧し袋状容器内の液状物を外界に押し出す。
【0016】
バッグは可撓性を有している。これにより、液状物が充填された袋状容器の三次元的な形状に追従して変形することができるので、袋状容器に略均一な圧縮力を印加することが
できる。
【0017】
一対のバッグのそれぞれには、一対のバッグが対向する方向(即ち、袋状容器を圧縮する方向)のバッグの寸法を増大させる第1マチが設けられている。第1マチは、バッグの全周囲に設けられていても良いし、その一部のみ(例えば対向する二対の辺のうちの一方のみ)に設けられていても良い。バッグに第1マチを設けることにより、袋状容器を圧縮する際に、バッグの袋状容器に対する圧縮面の変形を小さくすることができる。
【0018】
一対のバッグは、後述する流路形成部材を除いて、同一仕様であることが好ましい。また、一対のバッグ内の流体の圧力が同一になるように一対のバッグが連通されていることが好ましい。これらにより、袋状容器の表裏面に略同一の圧縮力を印加することができるので、袋状容器の表裏の被圧縮面の圧縮量がほぼ同一になり、袋状容器内の液状物の残存量を更に少なくすることができる。これとは逆に、一対のバッグの仕様が異なっていたり、一対のバッグ内の流体の圧力が異なっていたりすると、図11に示した従来の押出装置100で圧縮した場合と同様に袋状容器が一方の側に突出するように曲面状に湾曲変形してしまうので、袋状容器内に液状物が残存しやすくなる。
【0019】
バッグを膨らませるためにバッグ内に送り込まれる流体は、特に制限はなく、気体、液体のいずれであってもよい。気体としては、空気、窒素ガスなどを用いることができる。
【0020】
ポケットは、袋状容器のほぼ全体を覆うことができる程度の大きさを有していることが好ましい。これにより、袋状容器全体を圧縮することができるので、袋状容器内に残存する液状物の量を少なくすることができる。
【0021】
一対のバッグが、その間隔が変化しうるように、第2マチを介して連結されていても良い。これにより、ポケットに保持させた袋状容器を圧縮する際に、バッグの袋状容器に接する圧縮面の変形を更に小さくすることができる。第2マチは、ポケットに対して対称に配置されることが好ましい。第2マチは、一対のバッグの間隔が容易に変化できるように可撓性を有する材料からなることが好ましい。
【0022】
ポケットの袋状容器と接する内周面に少なくとも1つの流路形成部材が設けられることが好ましい。流路形成部材は、独立した部品として形成して、ポケットの内周面に接着、融着等の方法により取り付けられてもよい。あるいは、流路形成部材は、ポケットの内周面と一体成形などにより形成されてもよい。
【0023】
流路形成部材は、袋状容器内に液状物がスパウトに向かって流動するための流路を形成する。流路は、袋状容器の内外を隔てる壁面が流路形成部材の形状に応じて変形することにより形成される。
【0024】
流路形成部材の形状は特に制限はないが、例えば長尺部材とすることができる。これにより、流路形成部材に沿った連続した流路を形成することができる。この場合、前記長尺部材は、袋状容器内においてスパウトに向かって流動する液状物の流動方向と略平行に配置されていることが好ましい。これにより、液状物を効率よくスパウトに導くことができる。
【0025】
流路形成部材の長手方向と直交する面での断面形状が略円弧状または略U字状であることが好ましい。これにより、液状物の流路を安定的に形成することができる。
【0026】
この場合、前記流路形成部材の長手方向に平行な端縁に切り欠きが形成されていることが好ましい。これにより、液状物の流動性が向上するので、更に多くの液状物を押し出すことができる。
【0027】
流路形成部材の材料は特に制限はないが、バッグ内の圧力を50kPaに加圧したときに袋状容器に印加される圧縮力によって容易に変形することがない程度の機械的強度を有する硬質材料からなることが好ましい。具体的には、テフロン(登録商標)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、アクリルニトリルブタジエンスチレン共重合体等の樹脂や、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム等の金属を用いることができる。
【0028】
本発明の押出装置は、更に、前記バッグ内に前記流体を送り込むポンプを備えることが好ましい。ポンプとしては特に制限はなく、流体の種類に応じて公知のポンプから適宜選択することができる。ポンプの動力源は、手動、機械駆動などいずれであってもよい。
【0029】
更に、本発明の押出装置は、流体の圧力を検知する圧力計、流体の移動を制限したり、バッグ内から流体を放出させたりするためのバルブ、クレンメ、三方活栓などなどを必要に応じて備えていても良い。
【0030】
以下に本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0031】
図1は本発明の一実施形態に係る押出装置10の概略構成を示した斜視図である。図2は図1の2−2線に沿った押出装置10の断面図である。図3は図1に示した押出装置10の分解斜視図である。本実施形態の押出装置10は、一対のバッグ20,30を備える。
【0032】
図4はバッグ20の分解斜視図である。バッグ20は、同一寸法の略矩形の2枚のバッグシート21a,21bを、一対の第1マチ22a,22bを挟んで接合してなる袋状物である。
【0033】
第1マチ22a,22bは、いずれも略長方形状を有するシートからなる。第1マチ22a,22bは、断面が略U字状(又は略V字状)に湾曲(又は屈曲)されて、バッグシート21aの一対の長辺とバッグシート21bの一対の長辺との間に挟まれて、これらとドット模様を付したシール領域23にて接合(例えば融着、接着など)される。バッグシート21aの一対の短辺とバッグシート21bの一対の短辺とはシール領域23にて直接接合(例えば融着、接着など)される。本実施形態では、第1マチ22a,22bはバッグシート21a,21bの一対の長辺にのみ設けられているが、バッグシート21a,21bの一対の短辺の一方又は両方にも第1マチ22a,22bと同様のマチを設けても良い。
【0034】
バッグ20の内外を連通させる連通管24が、バッグシート21a,21bの一方の短辺間に挟まれてシール領域23にてこれらバッグシート21a,21bと一体化される。
【0035】
バッグ30は、流路保持部材60(詳細は後述する)が設けられていない点を除いてバッグ20と同じ構成を有する。
【0036】
図2、図3に示すように、バッグ20とバッグ30とは、一対の第2マチ42a,42bを挟んで接合される。第2マチ42a,42bは、上述した第1マチ22a,22bと同様に、いずれも略長方形状を有するシートからなる。第2マチ42a,42bは、断面が略U字状(又は略V字状)に湾曲(又は屈曲)されて、バッグ20の一対の長辺とバッグ30の一対の長辺との間に挟まれて、これらと、ドット模様を付したシール領域43にて接合(例えば融着、接着など)される。バッグ20の連結管24が設けられていない短辺とバッグ30の連結管34が設けられていない短辺とはシール領域43にて直接接合(例えば融着、接着など)される。この結果、バッグ20とバッグ30との間に、液状物が充填された袋状容器90を挿入して保持することができるポケット(空間)18が形成される。バッグ20の連結管24が設けらた短辺とバッグ30の連結管34が設けられた短辺とは接続されておらず、これら短辺間の開口を袋状容器90を出し入れするための挿入口とすることができる。なお、バッグ20の連結管24が設けられていない短辺とバッグ30の連結管34が設けられていない短辺とを、第2マチ42a,42bと同様のマチを介して接続しても良い。あるいは、第2マチ42a,42bを介することなく、バッグ20とバッグ30とを3辺で直接接合しても良い。あるいは、バッグ20の連結管24が設けられていない短辺とバッグ30の連結管34が設けられていない短辺とは接合されていなくても良い。
【0037】
図2において、31a,31bはバッグ30を構成するバッグシートであり、バッグ20のバッグシート21a,21bに対応する。また、32a,32bは、バッグシート31aの一対の長辺とバッグシート31bの一対の長辺とを接続する第1マチであり、バッグ20の第1マチ22a,22bに対応する。
【0038】
図1に示すように、バッグ20,30の内外を連通させる連通管24,34には、バッグ20,30内に空気を送り込んでその内圧を上昇させるための加圧装置50が接続される。加圧装置50は、連通管24,34に接続される、可撓性を有するチューブ51a,51b、チューブ51a,51bとチューブ52とを接続する略Y字状の分岐コネクタ53、チューブ52の途中に設けられた圧力インジケータ54及び三方活栓55、チューブ52の終端に接続された手動式ポンプとしての送気球56を備えている。分岐コネクタ53は、バッグ20及びバッグ30を連通させて、これらの内圧を同一に保つ。圧力インジケータ54はチューブ52内の圧力(即ち、バッグ20,30内の圧力)を表示する。三方活栓55は、三方活栓55の両側のチューブ52の連通や、チューブ52と外界との連通を切り替える。送気球56は、ゴム等からなるラグビーボール状の中空体であり、圧縮して押し潰すことでチューブ52,51a,51bを通じてバッグ20,30内に空気を送り込むことができる。
【0039】
バッグ20,30は、その内部に充填される空気を外部に漏らさないシール性と、その内部の圧力(例えば60kPa)によって破裂することがない機械的強度とを備えることが好ましい。バッグ20,30を構成するバッグシート21a,21b,31a,31b及び第1マチ22a,22b,32a,32bとしては、上記の特性を満足すれば特に制限はなく、例えばポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンシート、ナイロンシート、またはこれらのシートに他の材料からなる層が積層された積層シートなどを用いることができる。また、バッグ20,30は、伸縮性を有する材料で構成されていてもよい。
【0040】
第2マチ42a,42bも可撓性を有していることが好ましく、その材料としては、例えばポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンシート、ナイロンシート、またはこれらのシートに他の材料からなる層が積層された積層シートなどを用いることができる。また、第2マチ42a,42bも、伸縮性を有する材料で構成されていてもよい。なお、第2マチは、第1マチと異なり、気密性を有している必要はない。
【0041】
押出装置10のポケット18に挿入される袋状容器90としては、例えば経腸栄養剤が充填されたパック(パウチ)を使用することができる。袋状容器90は、可撓性を有しており、圧縮することによりその内部に収納された液状物を外界に押し出すためのスパウト91を備えている。
【0042】
図2、図3に示されているように、バッグ20の、ポケット18内に保持される袋状容器90に接する側の面(即ち、バッグ20のバッグ30に対向する側の面)に、棒状の流路形成部材60が取り付けられていることが好ましい。図5は流路形成部材60の斜視図である。流路形成部材60の長手方向と直交する面での断面形状は略半円状である。このような流路形成部材60は、例えば長尺の円筒状部材を、その中心軸を通る面に沿って2つに切断(即ち、半割)して得ることができる。流路形成部材60は、図2に示されているように、その長手方向と平行な両端縁61a,61bが袋状容器90側となるようにバッグ20に接合されている。また、図3に示されているように、流路形成部材60は、ポケット18内に保持された袋状容器90を圧縮したときにスパウト91に向かって流動する液状物の流動方向と略平行に配置されている。より詳細には、流路形成部材60は、バッグ20,30の長辺と略平行であり、また、ポケット18内に保持された略矩形の袋状容器90のスパウト91が取り付けられた辺と隣り合う一対の辺(通常は一対の長辺)と略平行である。図2、図3では、3本の流路形成部材60が設けられているが、流路形成部材60の数は3本に限定されず、これより少なくても多くてもよい。
【0043】
以上のように構成された本実施形態の押出装置10の使用方法を、PEGチューブを介して患者に液状物(経腸栄養剤)を投与する場合を例にとって以下に説明する。
【0044】
最初に、液状物が充填された袋状容器90のスパウト91と、患者の胃ろうに挿入されたPEGチューブとを、経腸栄養投与セットを介して接続する。このとき、経腸栄養投与セットに設けられたクレンメは閉じておく。
【0045】
次に、加圧装置50の三方活栓55を操作して、バッグ20,30の内部空間を外界と連通させる。そして、上記の袋状容器90を、バッグ20,30間のポケット18に挿入する。上記のようにバッグ20,30と外界とを連通させることにより、バッグ20,30の形状を自由に変えることができるので、袋状容器90をポケット18に容易に挿入することができる。
【0046】
次に、三方活栓55を操作して送気球56とバッグ20,30とを連通させる。そして、送気球56を繰り返し圧縮して押し潰し、チューブ52,51a,51bを通じてバッグ20,30に空気を送り込む。バッグ20,30は、送り込まれた空気によって膨らみ、袋状容器90は、バッグ20とバッグ30とに挟まれて圧縮される。圧力インジケータ54によりバッグ20,30内の圧力が所定値に達したのを確認すると、バッグ20,30への空気の送り込みを停止する。図6は、このときの押出装置10の断面図である。
【0047】
次に、経腸栄養投与セットに設けられたクレンメを開く。袋状容器90内の液状物99は、スパウト91を通じて押し出され、患者の体内に送られる。
【0048】
液状物が押し出され、袋状容器90が平らに押し潰されたのを確認した後、三方活栓55を操作してバッグ20,30内の空気を外界に放出させる。そして、袋状容器90をポケット18から取り出す。
【0049】
本発明の押出装置10によれば、図11に示した従来の押出装置100に比べて、袋状容器90内に残存する液状物の量を少なくすることができる。これについて以下に説明する。
【0050】
図11に示した従来の押出装置100では、袋状容器90に対する圧縮力は、袋状容器90に対して一方の側に配されたただ一つのバッグ120によって発生する。従って、バッグ120を膨らませたとき、図13に示すように、袋状容器90に接するバッグ120のバッグシート120aが袋状容器90側に突出するように曲面状に湾曲変形し、これに応じて袋状容器90及び保持シート115も曲面状に湾曲変形する。
【0051】
バッグシート120a及び保持シート115の曲面状の変形量が大きくなると、これらに多数の皺が発生する。バッグシート120a及び保持シート115に多数の皺が発生すると、袋状容器90を構成するシートがこの皺に対応して畝状に変形するので、袋状容器90を完全に押し潰すことができなくなったり、袋状容器90内での液状物99の流動が阻害されたりする。その結果、袋状容器90内に液状物99が残存してしまう。
【0052】
また、上述したようにバッグシート120a及び保持シート115が曲面状に変形すると、圧縮面内において袋状容器90の圧縮量が不均一となり、特にその中央部で大きくなる。袋状容器90内の液状物99の残存量が少なくなったときに、例えば袋状容器90の長辺方向における略中央部分での圧縮量が相対的に大きいと、図14A及び図14Bに示すように、この部分で袋状容器90を構成する2枚のシートが密着してしまう。袋状容器90内の液状物が全て流出する前に袋状容器90の一部が押し潰され密着部分93が形成されると、密着部分93に対してスパウト91とは反対側に残存した液状物は、密着部分93を通過することができないので、スパウト91に向かって流動することができない。その結果、袋状容器90内に液状物が残存してしまう。
【0053】
これに対して、本発明の押出装置10は、図11に示した従来の押出装置100と異なり、一対のバッグ20,30を備え、袋状容器90をこの一対のバッグ20,30の間のポケット18に保持させた状態で一対のバッグ20,30を膨らませることによって、袋状容器90を加圧する。また、バッグ20,30のそれぞれには、袋状容器90を圧縮する方向のバッグ20,30の寸法を増大させる第1マチ22a,22b,32a,32bが設けられている。これらによって、バッグ20,30を膨らませたとき、袋状容器90は両側のバッグ20,30からほぼ均一な圧縮力を受け、また、図6に示すように袋状容器90と接するバッグ20,30の各バッグシート21a,31aの変形量は相対的に小さい。従って、バッグシート21a,31aに皺が発生しにくく、また、袋状容器90内の液状物99の残存量が少なくなっても図14A及び図14Bに示した密着部分93が形成されにくい。その結果、図11に示した従来の押出装置100に比べて、袋状容器90内の液状物99の残存量が少なくなるのである。
【0054】
また、本実施形態のように、バッグ20とバッグ30とを同一構成として、その内部の圧力が同一になるようにバッグ20とバッグ30とが連通しているので、袋状容器90の表裏の圧縮量がほぼ同一になる。即ち、袋状容器90の一方の面が他方の面に比べて極端に大きく圧縮されることが回避されるので、袋状容器90と接するバッグシート21a,31aの変形量を更に小さくすることができる。従って、袋状容器90内の液状物99の残存量を更に少なくすることができる。
【0055】
本実施形態のように、バッグ20とバッグ30とを第2マチ42a,42bを介して連結すると、ポケット18内に保持させた袋状容器90を圧縮する際のバッグシート21a,31aの変形量が、袋状容器90内の液状物99の量が変化してもほとんど変化せず、且つ、更に少なくなる。従って、袋状容器90内の液状物の残存量を更に少なくすることができる。
【0056】
次に、流路形成部材60の作用を説明する。
【0057】
図7Aは、液状物の残存量が僅かとなった袋状容器90を本実施形態の押出装置10で圧縮している様子を示した断面図である。図7Bは、図7Aの流路形成部材60を含む部分7Bの拡大断面図である。袋状容器90内の液状物99の残存量が少なくなると、袋状容器90を構成する2枚のシート90a,90bの間隔が狭くなる。しかしながら、袋状容器90内の液状物99は依然として押出装置10から圧縮力を受けている。従って、図7Bに示すように、流路形成部材60と接するシート90aは流路形成部材60の形状に沿って変形し、また、押出装置10のバッグシート31aと接するシート90bはバッグシート31aの形状に沿って変形する。流路形成部材60から離れた箇所ではシート90aとシート90bとは密着する。ところが、流路形成部材60近傍では、シート90aの変形は、シート90bの変形に比べて急峻であるので、流路形成部材60近傍においてはシート90aとシート90bとは完全に密着せず、両者間に液状物99が充満した僅かなキャビティ95が形成される。このキャビティ95は長尺の流路形成部材60に沿って連続して形成される。袋状容器90内の液状物99の残存量が少なくなるにしたがってキャビティ95の断面積は小さくなるが、袋状容器90内に液状物99が残存しているかぎり、キャビティ95が消失することはない。袋状容器90内の液状物99は、このキャビティ95内をスパウト91に向かって流動する。従って、流路形成部材60を設けることにより、仮にバッグシート21a,31aに皺が形成されたり、袋状容器90に密着部分93(図14A、図14B参照)が形成されたりしても、液状物99が流動するための流路が袋状容器90内に確保される。よって、袋状容器90内の液状物99の残存量を更に少なくすることができる。
【0058】
なお、キャビティ95が完全に消失せず、そのためにキャビティ95内に液状物99が最終的に残存してしまう可能性はあるが、流路形成部材60の形状、寸法、個数などを適切に設定することにより、キャビティ95内に残存する液状物99の量を低減することは可能である。
【0059】
流路形成部材60の高さ(袋状容器90を圧縮する方向に沿った寸法)H(図2参照)は、特に制限はないが1〜5mmが好ましい。流路形成部材60の高さHがこれより低いと、流路形成部材60による上記の作用が低下する。流路形成部材60の高さHがこれより高いと、キャビティ95の容積が大きくなるので、袋状容器90内に残存する液状物99の量が多くなる。
【0060】
本発明は上記の実施形態に限定されず、種々に変更することができる。
【0061】
上記の実施形態では、第1マチ及び第2マチは、いずれも断面が略U字状(又は略V字状)に湾曲(又は屈曲)されていたが、本発明はこれに限定されず、マチとして公知の形状を選択することができる。例えば、複数箇所で折り曲げられた蛇腹状のマチを用いてもよい。また、第1マチ及び第2マチの幅(袋状容器90を圧縮する方向に沿った寸法)は、バッグ20,30や袋状容器90の寸法などに応じて適宜設定することができる。第1マチと第2マチとは、その形状や幅が同一であってもよく、また異なっていてもよい。
【0062】
上記の実施形態では、バッグ20とバッグ30とは、加圧装置50を介して連通されていたが、本発明はこれに限定されず、例えば加圧装置50とは別の配管を設けてバッグ20とバッグ30とを連通させてもよい。
【0063】
上記の実施形態の流路形成部材60の長手方向と直交する面での断面形状は半円状であったが、本発明の流路形成部材はこれに限定されない。例えば、流路形成部材60の断面形状は、図8Aに示すような180度より小さな中心角を有する略円弧状、図8Bに示すような180度より大きな中心角を有する略円弧状、図8Cや図8Dに示すような略U字状であってもよい。流路形成部材60は、その断面形状が図5や図8A〜図8Dのように凹みを有する場合、図2に示すようにその凹みが袋状容器90に対向するように設置してもよく、あるいは、袋状容器90とは反対側を向くように設置してもよい。但し、前者は、液状物の流動に有効なキャビティ95が形成されやすくなるので好ましい。
【0064】
更に、流路保持部材60の断面形状は、図8Eに示すような略円形、図8Fに示すような略矩形であってもよい。
【0065】
図9Aは、更に別の流路形成部材65の斜視図である。この流路形成部材65は、図5に示した流路保持部材60の長手方向と平行な両端縁61a,61bに複数の切り欠き66を形成したものである。切り欠き66の作用を説明する。袋状容器90内の液状物の残存量が少なくなると、切り欠き66が形成されていない領域では、図7Bと同様に流路形成部材65の端縁61a,61b上にて袋状容器90のシート90aとシート90bとが密着する。ところが、切り欠き66が形成されている領域では、図9Bに示すようにシート90aとシート90bとは僅かに離間し隙間96が形成される。この隙間96を通って液状物99は図9Bの左右方向に流動することができる。従って、液状物99は流動抵抗が相対的に小さなキャビティ95を選択してスパウト91に向かって流動することができる。よって、液状物99の流動性が向上し、袋状容器90内に残存する液状物99の量を更に低減することができる。
【0066】
流路形成部材65の端縁61a,61bに形成される切り欠き66の形状、大きさ、数、位置などは適宜変更することができる。図8A〜図8Fに示した流路形成部材60の端縁に、上述した切り欠き66と同様の切り欠きを形成してもよい。
【0067】
上記の実施形態では、流路形成部材は長尺の部材であったが、流路形成部材の形状はこれに限定されない。袋状容器内の液状物の残存量が少なくなったときに、加圧された袋状容器内の液状物がスパウトに向かって流動するための流路(キャビティ95)を袋状容器内に形成することができる形状であればよい。例えば、流路形成部材が、互いに離間した複数の突起であってもよい。複数の突起のそれぞれの近傍に形成されたキャビティが順に連なって、液状物がスパウトに向かって流動するための流路が形成されれば、上記の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
流路形成部材は、ポケット18の袋状容器90と接する内周面に設けられていればよい。例えば上記の実施形態において、流路形成部材をバッグ30の袋状容器90と接する面に設けても良い。また、バッグ20及びバッグ30のそれぞれの袋状容器90と接する面に設けても良い。
【実施例】
【0069】
ポリエチレンからなるシートを用いて、図4に示すバッグ20と同一仕様のバッグ(株式会社ジェイ・エム・エス製セーフミックTPNバッグ3000ml)を2つ作成した。バッグの内寸法は縦270mm×横150mm、長辺に沿って設けられた第1マチの幅は20mmとした。この2つのバッグを、図3に示すように長辺に第2マチを介在させて連結して図1に示す押出装置を作成した(実施例)。但し、流路形成部材60は設けなかった。第2マチの幅は10mmとした。シートの接合はヒートシール法を用いた。そして、2つのバッグの連結管に図1に示す加圧装置を接続した。
【0070】
液状物が充填された袋状容器として、テルモ社製のテルミールPGソフト(400kcal/267g)を用いた。この袋状容器のスパウトに、クレンメが取り付けられた内径4,5mm、長さ300mmの柔軟性を有するチューブを介して、18Fr.規格のPEGカテーテルを接続した。
【0071】
上記の袋状容器を、上記の実施例に係る押出装置の2つのバッグの間のポケットに収納し、2つのバッグ内の空気圧を40kPaに加圧した後、チューブのクレンメを開いて袋状容器内の栄養剤を押し出した。栄養剤の吐出積算量、チューブとPEGカテーテルとの接続箇所での栄養剤の圧力(ライン内圧)、及び、バッグ内の圧力(バッグ内圧)の経時的変化を測定した。結果を図10Aに示す。
【0072】
比較例として、押出装置を図11に示す構成を有するテルモ社製のPG加圧バッグに代えて、上記と同様にして、栄養剤の吐出積算量、チューブとPEGカテーテルとの接続箇所での栄養剤の圧力(ライン内圧)、及び、バッグ内の圧力(バッグ内圧)の経時的変化を測定した。比較例では、測定を3回行った。結果を図10Bに示す。
【0073】
図10Aと図10Bとを比較すると、本発明である図10Aの方が、より多くの栄養剤を、より早く吐出させることができた。即ち、本発明によれば、袋状容器内の栄養剤の残存量を少なくすることができた。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の利用分野は特に制限はないが、例えば経腸栄養療法を行う際に、袋状容器内の経腸栄養剤を押し出すための押出装置として利用することができる。また、経腸栄養療法以外の分野、例えば輸液療法や介護等においても利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
10 押出装置
18 ポケット
20,30 バッグ
21a,21b,31a,31b バッグシート
22a,22b,32a,32b 第1マチ
23,43 シール領域
24,34 連通管
42a,42b 第2マチ
50 加圧装置
51a,51b,52 チューブ
53 分岐コネクタ
56 送気球(ポンプ)
60,65 流路形成部材(長尺部材)
61a,61b 流路形成部材の端縁
66 切り欠き
90 袋状容器
91 スパウト
95 キャビティ(流路)
99 液状物


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して連結された可撓性を有する袋状の一対のバッグを備え、液状物が充填された袋状容器を前記一対のバッグの間のポケットに保持させた状態で前記一対のバッグ内に流体を送り込み前記一対のバッグを膨らませることによって、前記袋状容器を加圧し前記袋状容器内の前記液状物を外界に押し出す押出装置であって、
前記一対のバッグのそれぞれには、前記一対のバッグが対向する方向の寸法を増大させる第1マチが設けられていることを特徴とする押出装置。
【請求項2】
前記一対のバッグが第2マチを介して連結されている請求項1に記載の押出装置。
【請求項3】
前記ポケットの前記袋状容器と接する内周面に少なくとも1つの流路形成部材が設けられており、
前記流路形成部材は、前記袋状容器が加圧されたときに前記袋状容器内の前記液状物が流動するための流路を前記袋状容器内に形成する請求項1に記載の押出装置。
【請求項4】
前記流路形成部材が長尺部材であり、前記長尺部材は、前記袋状容器内の前記液状物の流動方向と略平行に配置されている請求項3に記載の押出装置。
【請求項5】
前記一対のバッグ内の前記流体の圧力が同一になるように前記一対のバッグが連通されている請求項1に記載の押出装置。
【請求項6】
更に、前記一対のバッグ内に前記流体を送り込むポンプを備える請求項1に記載の押出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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