説明

拡散反射率測定装置

【構成】半球面状の台座1の底面2中央に入射光ビームを照射させる被測定試料3を配置すると共に、台座1には被測定試料3からの被測定散乱反射光bを受光するフォトダイオード4群を配置し、更に台座1の底面2にはフォトダイオード4群からの測定不要の反射光cを吸収する黒体物質5を配置した積分球を備えた拡散反射率測定装置。
【効果】積分球内での測定不要の反射光cは全て黒体物質5に吸収され、被測定散乱反射光bのみがフォトダイオードに受光されるので、従来不可能であった被測定散乱反射光の散乱強度分布の監視とその積分強度の正しい測定ができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、被測定試料に固有な光の拡散反射に関して、被測定散乱反射光強度の空間強度分布を監視しつつその積分強度を同時かつ高速に測定できる拡散反射率測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来この種の装置としては図6、図7に示すような装置が知られている。前者の装置は入射光導入口12、球面24の内壁に反射率の高い硫酸バリウムを塗布した反射面25、測定用窓26、出射光導出孔27、光強度対電気出力特性が直線関係にある光検知器28を備えた積分球による反射率測定装置である。
【0003】この装置においては、光源11、入射光導入口12を経て入射するビーム状の光aを積分球に入れ、この光を被測定試料3に照射して得られる被測定散乱反射光bを積分球の内壁面で多重反射し、混合一体化した光を光検知器28で電気量に変換するもので、この装置では被測定散乱反射光aの積分強度が測定できる利点がある。
【0004】他方、後者の装置は空間走査型反射率測定装置と称すべきものであって、ビーム状光aの光軸上に被測定試料3を置き、その反射位置3aから任意の距離を隔てて光検出器28を配置し、この光検出器28は機械的機構により被測定散乱反射光bの一部を常時望む傍ら、反射位置3aを中心半径の半球gをなぞるように走査させるものである。
【0005】この装置においては、光検知器28の移動、停止、測定を繰り返しながら被測定散乱反射光bを覆う空間をくまなく走査することによって被測定散乱反射光bの散乱強度分布を電気量で検知するものであり、このため被測定散乱反射光bの散乱強度分布とその総和としての積分強度が測定できる利点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、図6に示す装置においては、被測定散乱反射光bの散乱強度分布が全く分からない上、内壁面25で多重反射を繰り返す光が再び被測定試料3に戻るために被測定散乱反射光bの測定誤差を招くという重大な課題がある。
【0007】他方、図7に示す空間走査型反射率測定装置においては、原理上被測定散乱反射光bを、空間をくまなく走査できるが、光検知器28の移動、停止、光強度の測定などの操作と同時に、光検知器28が移動するが、光検知器28の法線dに対して反射角fを常に制御する必要があるなど複雑な機械的駆動が不可欠であり、それに伴って走査に要する時間も長く、走査を完了した後でなければ、被測定散乱反射光bの散乱強度分布の表示とその積分強度が求まらないために測定の手軽さや迅速性に欠け、一般に普及し難いという重大な課題があった。
【0008】
【課題を解決するための手段】そこで、この発明においては図7の空間走査型反射率反射率測定装置のように光検知器を機械的駆動により走査する方式でなく、しかも図6に示すように反射光の多重反射により測定誤差を生じないような、被測定散乱反射光のみを集光し、検知できる積分球(以下、アクティブ積分球と記す)を用いた拡散反射率測定装置を提案するものである。
【0009】この発明に使用するアクティブ積分球は、図1の概念図に示すように、半球面状の台座1の底面2中央に入射光ビームaを照射させる被測定試料3を配置すると共に、台座3には被測定試料3表面からの被測定散乱反射光bを受光するフォトダイオード4群を配置する。
【0010】なお、この場合フォトダイオード4は測定精度を損なわないように反射率の少ないもの、例えばその受光面に光散乱の基になる電極のないスルーホール型フォトダイオードを使用することが好ましい。
【0011】しかし、そのようなフォトダイオードの使用が技術的、経済的に困難な場合には、台座1の低部2にはフォトダイオード4群から反射光を吸収する黒体物質5を配置する。
【0012】また、この発明では上記フォトダイオード4群が発する信号の処理を、例えば電流電圧変換回路群6経由でバッファアンプ群7と発光ダイオード8群を組み合わせてなる被測定散乱反射光の散乱分布表示機能並びに加算回路9と電圧計10を組み合わせてなる被測定散乱反射光の積分強度の演算機能を備えた電子計測機器で行う。
【0013】
【作用】以上の構成において、アクティブ積分球の外部より入射光ビームaを被測定試料3に照射させると、これにより被測定試料3表面からは被測定散乱反射光bが発せられ、この被測定散乱反射光bは半球面状の台座3に配置されたフォトダイオード4群で受光される。
【0014】なお、フォトダイオード4群の各々の反射率が大きく、測定に不要な光cを生ずる場合、その光cは台座3の低部に配置された黒体物質5に完全に吸収されるので、この発明に使用するアクティブ積分球では被測定散乱反射光bのみを集光して検知できる。
【0015】また、フォトダイオード4群で検知した光強度信号は電流電圧変換回路群6で適度の電圧に変換された後、バッファアンプ群7に伝えられ発光ダイオード8群を点灯する。
【0016】一方、加算器9も光強度信号によって動作するので、その演算結果が電圧計10に現れる。したがって、発光ダイオード8群の輝度から被測定散乱反射光bの散乱強度分布が分かると同時に、電圧計10の指示値によって被測定散乱反射光bの積分強度の値を知ることができる。
【0017】
【実施例】以下、この発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。図2は更に具体的にこの発明に使用するアクティブ積分球を示すものであり、1はその頂部に光源11を適度のビームに絞るための大きさ数mm角の入射光導入口12を有する半球面状の絶縁物製台座で、台座1の底面2にはその中心部に直径数mmの穴13を開けた金属薄板14を固定し、その表面に黒体物質5を塗布またはメッキし、また穴13には被測定試料3を臨ませ、入射光導入口12を有する台座1にはこれに対応して入射光導入孔15を有するフォトダイオード4aを接着固定し、他の台座1には入射光導入孔15のないフォトダイオード4b群を接着固定する。
【0018】図3は選択エッチングで入射光導入孔15を孔開け加工したフォトダイオード4aの断面図であり、フォトダイオード4aは面方位<100> のシリコン基板16の表面に拡散層17を有し、また拡散層17及びシリコン基板16にはシリコン酸化膜18を介して拡散層用金属電極19と基板用金属電極20を接続し、更に選択エッチングで孔開け加工したスルーホール21を設ける構造であり、一方フォトダイオード4bは入射光導入孔15を有しない以外これと同様な構造である。
【0019】フォトダイオード4aとフォトダイオード4b群は被測定散乱反射光bに対して30°以内の入射角となるように台座1に接着固定され、更に電極19は引き出し電極22を介して、電極20は共通電極23を介して外部の電子計測機器に接続される。
【0020】フォトダイオード4aとフォトダイオード4b群は図4の展開図に示すように、被測定試料3の測定点3aを中心とした同心円状に配列される。
【0021】即ち、被測定散乱反射光bを覆う空間を方位角度で12分割し、そのうち8つの方位の仰角について10°と20°×4 個に組み合わせ、残り4方位の仰角を20°と10°×7 個として総数72個の立体角に区分し、この区分に当たる台座1にフォトダイオード4aとフォトダイオード4b群を接着固定するものである。
【0022】以上の構成において、光源11から入射光導入口12、入射光導入孔15を通過した入射光ビームaは被測定試料3の測定点3aに照射され、これより発する被測定散乱反射光bはフォトダイオード4aとフォトダイオード4b群に受光される。
【0023】一方、フォトダイオード4aとフォトダイオード4b群の受光面からは法線dを基準として反射光bの入射角eと等しい反射角fで反射光cを発生するが、この反射光cは台座1の底面2に配置された黒体物質5に至り、黒体物質5で吸収消滅される。したがって、フォトダイオード4a、及びフォトダイオード4b群は被測定散乱反射光bだけを選択的に集光し検知する。
【0024】なお、この実施例で使用するフォトダイオードは図3に示すように、その受光面には光散乱の基になるような物質が一切ないため、反射光cは上述のように法線dに対して反射角fで反射して、黒体物質5に照射されるので、黒体物質5で確実に吸収されて消滅する。
【0025】また、被測定散乱反射光bを受光することにより総数72個のフォトダイオード4a、フォトダイオード4b群から発生する電気信号は図5に示す電子計測機器でデータ処理を行う。
【0026】このうち、初段の電流電圧変換回路群6は帰還抵抗値Rfの異なる総数72個の負帰還演算増幅器で構成し、フォトダイオード4a、及びフォトダイオード4b群が検知した光強度信号を短絡電流モードで計測する傍ら、その短絡電流を単位立体角当りの電圧に変換するように、各増幅器ごとに帰還抵抗の値を設定する。そのため、単位立体角で規格化した総数72個の相対出力電圧が生ずる。
【0027】総数72個の相対出力電圧信号を、更に総数72個の直列抵抗群を有する加算回路9と並列接続の総数72個のバッファー回路群7に加える。
【0028】ここで、加算回路9に電圧計10、バッファー回路群7に総数72個の電圧を積算した演算結果を指示し、それと同時にもう一方の発光ダイオード8群は総数72個の各々の電圧に比例した輝度で発光する。
【0029】なお、発光ダイオード8群は図4に示すようなフォトダイオード4a、フォトダイオード4bと同様に配列されており、 したがって電圧計10の指示値を測定し、他方発光ダイオード8群の輝度を監視することによって、当該電子機器の応答時間に匹敵する速さで、被測定散乱反射光bの積分強度の値、及び被測定散乱反射光bの立体角を72個に区分した散乱強度分布の様子を知ることができる。
【0030】以上信号処理の一例を示したが、電子計測機器以外の構成、例えば加算回路29と電圧計10の組合せの代わりにアナログ接点を有するスキャナーとコンピュータ、また発光ダイオード8群の代わりにCRTを用いることにより、被測定散乱反射光bの積分強度の値、及び被測定散乱反射光bをCRT上に表示させることもできる。
【0031】
【発明の効果】以上要するに、この発明によれば積分球内での測定不要の反射光は全て黒体物質に吸収され、被測定散乱反射光のみがフォトダイオードに受光されるので、従来不可能であった被測定散乱反射光の散乱強度分布の監視とその積分強度の正しい測定ができ、またにデータ取得時間の短縮化が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明に係る拡散反射率測定装置の概念図
【図2】この発明の実施例で使用するアクティブ積分球の断面図
【図3】この発明の実施例で使用するフォトダイオードの断面図
【図4】この発明の実施例におけるフォトダイオード群の被測定試料平面への展開図
【図5】この発明の実施例で使用する演算機能を有する電子計測回路図
【図6】従来の積分球による反射率測定装置の概念図
【図7】従来の空間型反射率測定装置の概念図
【符号の説明】
1 半球面状の台座
2 台座の底面
3 被測定試料
3a 測定点(反射点)
4、4a4b フォトダイオード
5 黒体物質
6 電流電圧変換回路群
7 バッファアンプ群
8 発光ダイオード
9 加算回路
10 電圧計
11 光源
12 入射光導入口
13 穴
14 金属薄板
15 入射光導入孔
16 シリコン基板
17 拡散層
18 シリコン酸化膜
19 拡散層用金属電極
20 基板用金属電極
21 スルーホール
22 引き出し電極
23 共通電極
24 球面
25 反射面
26 測定用窓
27 出射光導出孔
28 光検知器
a 入射光ビーム
b 被測定散乱反射光
c 測定不要な反射光
d 法線
e 入射角
f 反射角
g 半球

【特許請求の範囲】
【請求項1】 半球面状の台座の低部中央に入射光ビームを照射させる被測定試料を配置すると共に、上記台座には上記被測定試料からの被測定散乱反射光を受光するフォトダイオード群を配置した積分球を備えたことを特徴とする拡散反射率測定装置。
【請求項2】 上記積分球の台座の低部に上記フォトダイオード群から反射する測定に不要な反射光を吸収する黒体物質を配置した特許請求の範囲第1項記載の拡散反射率測定装置。
【請求項3】 積分球が上記フォトダイオード群が発する信号の処理において、被測定散乱反射光の散乱強度分布の表示機能と積分強度の演算機能を有する電子計測機器を備えた特許請求範囲第1項、又は第2項記載の拡散反射率測定装置。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平6−194223
【公開日】平成6年(1994)7月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−357571
【出願日】平成4年(1992)12月24日
【出願人】(000001144)工業技術院長 (75)
【指定代理人】
【氏名又は名称】工業技術院電子技術総合研究所長