説明

持久力向上・抗疲労剤

【課題】 焼酎蒸留時に副生されるポットエールに新規機能性である持久力向上効果や抗疲労効果を見出すことによって、幅広い年代の人々の健康に寄与できる持久力向上・抗疲労剤およびそれを含有する飲食品を提供すること。
【解決手段】 醸造酒蒸留残渣から得られる持久力向上・抗疲労剤およびそれを含有する飲食品、並びに、醸造酒蒸留残渣を用いて持久力を向上させ、疲労を抑制する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、持久力を向上させ、疲労を抑制する持久力向上・抗疲労剤とこれを含有する飲食品とに関し、詳しくは、醸造酒蒸留残渣から得られる持久力向上・抗疲労剤と、これを有効成分として含有する持久力向上・抗疲労効果を有する機能性食品又は飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の我が国における生活の近代化や生活スタイルの多角化による運動不足、食生活の欧米化やインスタント食品摂取に伴う栄養バランスの偏重等が原因で、多くの人々にとって運動能力や基礎体力の低下が問題となっている。
そのため、運動実施時のみならず日常生活を送る上でも、活動的かつ持続的な活動をすることが時として困難になり、疲労感を感じ易く、また休息後も疲労感がなかなか抜けない状態が継続することになる。
これは働き盛りの中年世代のみならず、加齢による体力低下を伴う高年齢者や、塾通い等に追われる就学児童まで、幅広い年代層にあてはまる問題で、これを解決する天然由来で安全な持久力向上効果や抗疲労効果を有する食品素材が強く望まれている。
【0003】
一方、アルコール飲料業界の近年の動向として、健康イメージの高まりや消費者層の拡大によって、焼酎の生産量・消費量は年々増加の一途を辿っており、それと共に焼酎製造時に副生される蒸留残渣(以下、ポットエールと称すこともある。)も増加してきている。
ポットエールは、発酵液、原料(穀物)、麹、酵母等の混合物からなり、有機酸、ミネラル、アミノ酸等の栄養成分が豊富に含まれている。
しかし、一部は飼料や肥料に再利用されているものの、従来それ以外の利用方法が見出されておらず、大半が廃棄されており、処理する際に産業廃棄物として多大な費用が必要となっているのが現状であった。
【0004】
特に、焼酎は麹を用いて調製した醪を酵母で発酵させ、これを蒸留して得られる蒸留酒である。この焼酎製造工程において、発酵した醪から蒸留によりエチルアルコールや香気成分を取り出した後の蒸留釜に残ったものが焼酎蒸留残渣(焼酎粕)であり、発酵液を蒸留した後に発生するアルコールや有機酸を含む酸性の液状残渣である。
この焼酎蒸留残渣は、焼酎蒸留後に30万kl以上発生し、その処理としては海洋投棄50%、肥料としての農業分野での利用19%、家畜飼料19%、その他焼却処分等12%となっており、生産される焼酎蒸留残渣の50%以上が廃棄処分となっている。
【0005】
そこで、焼酎メーカーや泡盛メーカー各社が、ポットエールの機能性や有効利用について検討を重ねてきている。
現在までにポットエールの機能性成分の探索として、「微生物としての培養基としての有効性」、「増殖促進因子」の存在が確認され、また「脂肪肝抑制効果」や「食物繊維による整腸作用」、「血圧降下作用」、「血糖上昇抑制作用」、「脂質代謝の促進」等の機能性成分の存在が報告されている(非特許文献1)。
しかし、持久力向上効果や抗疲労効果について直接的に証明されたものはない。
【0006】
また、ポットエールの再利用方法の検討としてはこれまでの複数の出願があり、もろみ酢原料となるポットエールを原料としてγアミノ酪酸を高生産させる方法および飲食品(特許文献1〜3)、焼酎粕と豆腐粕を原料とする健康食品(特許文献4)、甘しょ焼酎粕を固液分離して得られる健康食品及び健康飲料(特許文献5)、泡盛蒸留粕と乾燥おから粉末からなる健康食品(特許文献6)などがあげられるが、各成分や製造方法、商品形態に関するものが多くを占める。
【0007】
ポットエールの機能性に着目した再利用方法としても、アルコール性肝障害発症抑制剤及び治療剤(特許文献7)、肥満抑制、血中脂質改善性、血圧降下性、健忘症抑制性等の機能性(特許文献8)、酸化防止剤(特許文献9)、抗血栓剤(特許文献10)、血糖値上昇抑制剤(特許文献11)等があるが、持久力向上効果や抗疲労効果を直接証明して言及しているものはない。
【0008】
一方、持久力向上または抗疲労効果を有する素材として、トウガラシまたはトウガラシ成分であるカプシノイドの発酵生産物(特許文献12)、カプシノイドを含む持久力向上剤(特許文献13)、梅干の製造過程において生じる梅酢から得られるスポーツ飲料(特許文献14)などが知られているが、いずれの先行技術においても、ポットエールの持久力向上または抗疲労効果を想定させるものではない。
【0009】
【非特許文献1】「むぎ焼酎粕は宝の山」大森俊郎,日本醸造協会誌、99(6),398-403(2004)
【特許文献1】特開2005−40号公報
【特許文献2】特開2004−313032号公報
【特許文献3】特開2004−290114号公報
【特許文献4】特開2003−210135号公報
【特許文献5】特開2004−121221号公報
【特許文献6】特開2003−310210号公報
【特許文献7】特開2004−210686号公報
【特許文献8】特開2004−261119号公報
【特許文献9】特開2004−238452号公報
【特許文献10】特開2005−124517号公報
【特許文献11】特開2002−371003号公報
【特許文献12】特開2005−161号公報
【特許文献13】特開2004−149494号公報
【特許文献14】特開2005−27539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、毒性のない安全な天然由来素材で、かつ今までは利用することが出来ずに処理コストを掛けて廃棄されていたポットエールを原料に、持久力向上効果や抗疲労効果といった新規機能性を付加した飲食品の開発が可能になれば、廃棄による環境への負担やコストの面のみならず、体力低下や慢性的な疲労を感じる多くの人々の健康やクオリティ・オブ・ライフ(QOL)改善に貢献することが可能になると期待される。
【0011】
従って、本発明の目的は、焼酎蒸留時に副生されるポットエールに新規機能性である持久力向上効果や抗疲労効果を見出すことによって、幅広い年代の人々の健康に寄与できる飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を達成するために為されたもので、焼酎蒸留時に副生されるポットエールの上清液や、それを元に製造した乳酸菌発酵液に、持久力向上効果や抗疲労効果を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、醸造酒蒸留時(特に、焼酎蒸留時)に副生されるポットエールの上清液や、それを元に製造した乳酸菌発酵液から得られる持久力向上・抗疲労剤と、それを有効成分として含有する持久力向上効果や抗疲労効果を有する飲食品とを提供する。
【0014】
(1)醸造酒蒸留残渣から得られる持久力向上・抗疲労剤。
(2)醸造酒蒸留残渣の上清液から得られる(1)に記載の持久力向上・抗疲労剤。
(3)醸造酒蒸留残渣又はその上清液を乳酸菌により発酵させてなる持久力向上・抗疲労剤。
(4)乳酸菌による発酵後、さらに酵母により発酵させてなる(3)に記載の持久力向上・抗疲労剤。
(5)(1)〜(4)のいずれかに記載の持久力向上・抗疲労剤を含有する飲食品。
(6)醸造酒蒸留残渣を用いて持久力を向上させ、疲労を抑制する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、焼酎蒸留時に副生されるポットエールの有効活用を可能にし、かつ、ポットエールの上清液や、それを元に製造した乳酸菌発酵液から得られる持久力向上・抗疲労剤と、それを有効成分として含有する持久力向上効果や抗疲労効を有する飲食品とを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
請求項1に記載の本発明は、醸造酒蒸留残渣から得られる持久力向上・抗疲労剤である。
【0017】
本発明における醸造酒蒸留残渣とは、発酵飲料の原料となりうるものであれば特に限定されないが、例えば麦焼酎、米焼酎、芋焼酎、ソバ焼酎、泡盛、ウィスキー等を製造する際に生産される蒸留残渣(蒸留粕)を挙げることができ、特に、焼酎製造工程において得られる焼酎蒸留残渣が好ましい。
【0018】
一例として、一般的な焼酎の製造方法により説明すると、まず、掛け原料に水、麹及び酵母を添加して仕込みを行い、発酵させることにより醪を得る。次に、常圧蒸留法や減圧蒸留法等によってエチルアルコール及び香気成分を蒸留し、焼酎を製造する。
この蒸留工程で留出せずに蒸留釜に残った液状の残渣が、焼酎蒸留残渣である。
なお、本発明において、醸造酒蒸留残渣を得る方法は特に限定されないが、蒸留工程後に常圧蒸留釜あるいは減圧蒸留釜に残留したものを回収する方法等がある。
【0019】
上記の醸造酒製造工程において、醪発酵に用いられる麹としては、蒸煮した原料に麹菌を増殖させた固体麹が一般的であるが、麹菌を適当な液体培地で増殖させた液体麹であってもよい。
液体麹は固体麹と比較して、蒸留残渣からの固液分離が容易であり、より清澄度の高い液体を得ることができる。
なお、上記の麹に用いる麹菌としては、Aspergillus oryzae等の黄麹菌、A. kawachii等の白麹菌、A. awamoriやA. niger等の黒麹菌などが挙げられるが、特に限定されない。
【0020】
得られた醸造酒蒸留残渣は、請求項2に記載したように、さらに上清液として用いることが好ましい。
本発明において上清液とは、醸造酒蒸留残渣より固液分離して得られる液体を指す。この固液分離処理によって、醸造酒蒸留残渣中に含まれる穀皮や酵母、麹菌の菌糸等の固形物を除去することができる。
固液分離のための手段としては、醸造酒蒸留残渣(焼酎蒸留残渣)中の固形物が物理的に除去できれば特に限定されないが、例えば振動篩や遠心分離、濾過等が挙げられる。
これらの中でも、振動篩及び遠心分離は、組み合わせて使用しても、遠心分離のみを使用しても良い。振動篩や遠心分離により固液分離した後、更に清澄性を高めるために濾過を行っても良い。
固液分離する際の醸造酒蒸留残渣の温度は、4〜95℃、好ましくは20℃〜50℃とする。
【0021】
固液分離に用いることができる振動篩としては、20メッシュ以上、好ましくは60メッシュ以上の篩が挙げられる。
遠心分離によって固液分離する場合は、イーストセパレーター等の遠心分離機で1,000G以上、好ましくは3,000G以上で行う。
また、濾過の方法としては珪藻土濾過、MF膜濾過等が挙げられるが、濾過後の液が官能的に清澄であれば良く、特に限定されない。
【0022】
醸造酒蒸留残渣、又は、醸造酒蒸留残渣から上記の固液分離処理により得られた上清液は、そのままでも持久力向上・抗疲労剤の製造に用いることができるが、請求項3に記載したように、さらに乳酸菌により発酵させることにより、風味を改善させることができる。
なお、乳酸菌発酵工程の前に、必要に応じて殺菌処理を行うこともできる。殺菌処理方法としては、加熱殺菌などが挙げられるが、特に限定されない。
【0023】
また、乳酸菌発酵工程に先立ち、醸造酒蒸留残渣又は上清液に、乳成分を添加することによって、持久力向上効果と抗疲労効果を向上させることができると共に、醸造酒蒸留残渣に特有の風味を改善することができる。
本発明における乳成分としては、牛乳、全乳粉、もしくは、脱脂粉乳を固形分が5〜20%、好ましくは固形分が8〜12%(いずれもw/v)になるように調整した水溶液(以下、「脱脂粉乳液」ということもある。)等が挙げられる。
なお、乳成分には、上白糖や砂糖などの甘味料等を適宜添加することもできる。
乳成分は、醸造酒蒸留残渣又は上清液と混合する前に、予め殺菌処理を行っても良い。殺菌処理方法としては、加熱殺菌などが挙げられるが、特に限定されない。
【0024】
醸造酒蒸留残渣又は上清液に対する乳成分の混合比率(容量比)は、醸造酒蒸留残渣又は上清液:乳成分=1:9〜9:1、好ましくは2:8〜8:2とする。
このとき、混合後のpHが3.0〜10.0、好ましくは5.0〜8.0となるように混合比率を調整する。なお、pHを上記範囲とするためにpH調整剤を使用しても良い。pH調整剤としては、クエン酸、乳酸、リン酸、重曹など、食品に用いることのできるものを使用することができる。
【0025】
本発明の乳酸菌発酵工程に用いられる乳酸菌としては、ストレプトコッカス属(Streptococcus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトカッコス属(Lactococcus)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、ロイコノストック属(Leuconostoc)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)などの乳酸菌を用いることができ、これら乳酸菌に替えて市販のヨーグルトスターターを用いてもよい。
なお、乳酸菌の添加量は適宜設定することができる。
【0026】
本発明における乳酸菌発酵条件は、pH3.0〜10.0、好ましくは4.0〜8.0とし、5〜45℃、好ましくは25〜42℃で、4〜120時間、好ましくは6〜24時間とする。
なお、乳酸菌発酵工程中、攪拌はしてもしなくてもよい。
乳酸菌による発酵終了後の発酵液のpHは、希釈により、或いはクエン酸、乳酸、リン酸、重曹などのpH調整剤により、3.0〜5.5に調整する。
【0027】
本発明においては、請求項4記載のように、乳酸菌発酵後、さらに酵母により発酵させるのが好ましい。乳酸菌による発酵終了後、乳酸菌を除去又は殺菌する必要は無く、続けて酵母を添加することができる。
【0028】
本発明において用いる酵母としては、パン酵母、ビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母、焼酎酵母、ウイスキー酵母などが挙げられ、サッカロミセス属(Saccaromyces)の酵母や、醤油酵母であるチゴサッカロマイセス属(Zygosaccharomyces)、馬乳酒酵母であるクルベロマイセス属(Kluyveromyces)の酵母、カンジダ属(Candida)酵母、ハンゼヌラ属(Hansenula)酵母、Brettanomyces属酵母、Kloeckera属酵母、Zygosaccharomyces属酵母等も用いることができる。
上記の酵母は全て市販されており、簡単に入手できる。
なお、酵母の添加量は適宜設定することができる。
【0029】
本発明における酵母発酵条件は、pH3.0〜10.0、好ましくは3.5〜8.0とし、5〜45℃、好ましくは25〜40℃で、4〜120時間、好ましくは6〜24時間とする。
なお、酵母発酵工程中、攪拌はしてもしなくてもよい。
酵母発酵終了後の発酵液のpHは、希釈により、或いはクエン酸、乳酸、リン酸、重曹などのpH調整剤により、3.0〜5.5に調整する。
【0030】
上記発酵終了後に得られた発酵液は、外観品質を向上させるため、固液分離を行って固形分を除去しても良い。固液分離の方法としては、イーストセパレーター等による遠心分離や、珪藻土濾過、限外濾過膜等を用いる方法等があるが、特に限定されない。
【0031】
上記の如く得られた醸造酒蒸留残渣、その上清、又はこれらの発酵液は、そのままの形態(液状)でも持久力向上・抗疲労剤として利用できるが、噴霧乾燥もしくは凍結乾燥処理することにより粉末製剤とすることもできる。
また、製剤化にあたっては、適当な賦形剤、増粘剤、甘味剤など、通常用いられる添加物を使用することができる。剤形も散剤、顆粒剤などいずれの形態とすることもでき、投与方法も特に限定されないが、特に経口投与が好ましい。
本発明の持久力向上・抗疲労剤における、醸造酒蒸留残渣、その上清、又はこれらの発酵液の含有量は、1〜100%(w/w)、好ましくは20〜100%(w/w)とすれば良い。
【0032】
以上のように得られた本発明の持久力向上・抗疲労剤は、醸造酒蒸留時に副生される焼酎蒸留時に副生されるポットエール、その上清液、および、これらを元に製造した乳酸菌発酵液を元に製造した乳酸菌発酵液の利用を特徴としており、有機酸やアミノ酸、ポリフェノール等の栄養成分・機能性成分に富んでいる。
また、本発明の持久力向上・抗疲労剤は、醸造酒蒸留残渣特有のクセのあるフレーバが少なく、発酵により爽やかな呈味が付与されているため摂取しやすい。
【0033】
請求項5に記載の本発明は、上記請求項1〜4記載の持久力向上・抗疲労剤を含有する飲食品である。
飲食品の形態としては、飴やクッキー、ジュース、麦茶などとすることができ、特に限定されない。
なお、この飲食品の製造にあたっては、必要に応じて甘味料、調味料、抗酸化剤、保存料、増粘剤、着色料、香料など、通常飲食品に用いられる食品添加物を使用することができる。
本発明の持久力向上・抗疲労剤を含有する飲食品における、醸造酒蒸留残渣、その上清、又はこれらの発酵液の含有量は、1〜100%(w/w)、好ましくは1〜75%(w/w)とすれば良い。
【0034】
上述の如く、本発明によって、醸造酒蒸留残渣が持久力向上効果や抗疲労効果を有することが明らかとなった。
そこで、請求項6に記載の本発明は、醸造酒蒸留残渣を用いて持久力を向上させ、疲労を抑制する方法である。
本発明における醸造酒蒸留残渣の投与量は、体重1kgあたり1〜50ml、好ましくは1〜20mlとすれば良い。なお、この場合の投与方法は特に限定されないが、特に経口投与が好ましい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
製造例1(焼酎及び焼酎蒸留残渣(ポットエール)の製造方法)
焼酎の製造工程は大きく分けて、原料処理工程、製麹工程、1次もろみ工程、2次もろみ工程、蒸留工程から成る。
原料処理工程では、麹原料として米330kgを洗米・浸漬後、100℃で40〜60分蒸きょうして、デンプンをアルファ化した後、放冷して38〜40℃とし、250〜330gの種麹を添加して製麹工程を行なった。
製麹工程は、種麹添加後約20時間の時点で攪拌し、更に32〜34℃の範囲で温度調節を行い、種麹添加後約2日間で出麹した。
次に1次もろみ工程として、麹100kgに対して、水400〜450kLと培養酵母1000億程度、或いは酵母前培養液として1000mL程度を添加し、20〜25℃前後で5〜7日後に1次もろみを得た。
次に1次もろみに主原料と水を加えて発酵させる2次もろみ工程に付した。主原料の麦は700kgを水洗・水浸漬後水切りを行い、蒸きょうしたものを使用した。1次もろみに水1240Lと蒸きょうした麦を添加して24〜25℃で発酵を行い、9〜20日後に2次もろみを得た。
2次もろみ液は常圧蒸留機或いは減圧蒸留機等を用いて常法により蒸留を行い、留出液画分と蒸留残渣画分(ポットエール画分)に分離した。
【0037】
製造例2
液体培地に麹菌[アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)]を増殖させた液体麹を用いて、通常の麦焼酎の製造方法により得られた焼酎もろみを、減圧蒸留法にて蒸留し、蒸留釜内に残った焼酎蒸留残渣(ポットエール画分)を得た。
【0038】
実施例1(ポットエール発酵液及び清澄化液の調製)
製造例2で得られた焼酎製造工程の蒸留後に得られる残渣であるポットエール画分100kgを回収し、60メッシュの振動篩にかけ、穀物原料に由来する穀皮等12kgを除去した。振動篩を通過した画分88kgを遠心分離し、麹・酵母菌体を含む沈殿画分29kgと、それら固形分を除去した上清画分である上清液59kgを得た。上清液をさらに珪藻土濾過することにより、清澄化液58kgを調製した。
得られた清澄化液について、各種有機酸含量を分析したところ、クエン酸の他、リンゴ酸、コハク酸、ピログルタミン酸、酢酸、乳酸、リン酸などが含まれ、特に他社製のポットエール利用もろみ酢市販品と比較すると、特にコハク酸含有量が高いことが分かった(表1)。
【0039】
【表1】

単位:ppm
【0040】
また、清澄化液のポリフェノール含量を分析したところ、ウーロン茶や緑茶、紅茶、麦茶等の各種茶と比較すると1.5倍以上、ポリフェノールが多いことが知られている赤ワインと同等程度含まれることを特徴とする(表2)。
【0041】
【表2】

単位:mg/L
【0042】
実施例2(ポットエール清澄化液の粉末化)
実施例1で得られた清澄化液について、真空凍結乾燥機を用いて凍結乾燥を行い、凍結乾燥粉末約3kgを得た。
【0043】
実施例3(脱脂粉乳を用いた乳酸菌発酵液の調製)
はじめに、脱脂粉乳(よつば乳業)10%、上白糖2%(いずれもw/v)を含む水溶液を調製し、脱脂粉乳液とした。
次に、実施例1で得られたポットエール清澄化液を33%、および脱脂粉乳液を67%(いずれも容量比)の割合で混合した。この混合液のpHは5.5であった。
当該混合液に市販ヨーグルト用乳酸菌[Florafit Lp-115(ダニスコ製)]を0.016〜0.05%(w/v)添加して、pH4.0〜6.0で40〜42℃、4〜10時間発酵させることにより、ポットエール特有のフレーバを抑制した乳酸菌発酵液を調製した。得られた乳酸菌発酵液のpHは4.0〜5.0であった。
次に、酵母による発酵を行った。
即ち、この乳酸菌発酵液に市販パン酵母(日清製粉社製)を0.015%(w/v)添加し、さらに30℃で発酵させたものを混合発酵液とした。
【0044】
実施例4(乳酸菌発酵液凍結乾燥物の調製)
実施例3で得られた乳酸菌発酵液について、真空凍結乾燥機を用いて凍結乾燥を行い、凍結乾燥粉末とした。
【0045】
実施例5(持久力向上・抗疲労効果評価試験方法)
ddy系マウス雄4週齢(日本エスエルシー社)を、1群5匹で下記の4群に分けた。
(1)蒸留水投与群(対照)
(2)ポットエール(PA)遠心上清画分(実施例2の上清液)投与群
(3)ポットエール(PA)珪藻土濾過画分(実施例2の清澄化液)投与群
(4)ポットエール(PA)乳酸菌発酵液(実施例4)投与群
【0046】
各群に毎日ゾンデを用いて、体重1kg当り20mLに相当する液量を強制胃内投与した。投与開始後、0日、10日、17日、25日目に遊泳試験を行なった。
遊泳試験は、5Lビーカー内に水温22℃の水を5L張り、洗剤で充分に洗ったマウスを無負荷(0日)、体重の3%の錘負荷(10日、17日)、体重の3.5%の錘負荷(25日)の各状態で行なった。遊泳開始時から、マウスが水没して7秒間以上水面に浮上できなくなるまでの時間を遊泳時間として測定し、持久力向上・抗疲労効果を評価した。
その結果、ポットエール各成分の投与群((2)〜(4))について、投与開始17日目以降に対照群よりも遊泳時間の延長傾向が見られ、持久力向上効果や抗疲労効果が確認された(図1)。なお、図1において**はp<0.01で有意差が出たことを示す。
【0047】
実施例6(散剤、顆粒剤)
清澄化液凍結乾燥粉末(実施例2) 20.0g
澱粉 30.0g
乳糖 50.0g
合 計 100.0g
上記の各成分を均一に混合し、常法に従って散剤、顆粒剤とした。
【0048】
実施例7(飴)
ショ糖 10.0g
水飴(75%固形分) 60.0g
水 9.5g
着色料 0.455g
香 料 0.045g
乳酸菌発酵液凍結乾燥粉末(実施例4) 20.0g
合 計 100.0g
上記の各成分を用い、常法に従って飴とした。
【0049】
実施例8(ジュース)
濃縮ミカン果汁 150g
果 糖 50g
クエン酸 2g
香 料 1g
色 素 1.5g
アスコルビン酸ナトリウム 0.5g
清澄化液凍結乾燥粉末(実施例2) 10g
水 785g
合 計 1000g
上記の各成分を用い、常法に従ってジュースとした。
【0050】
実施例9(麦茶)
麦茶 5.0g
水 2995g
合 計 3000g
上記の各成分を用い、常法に従って麦茶成分を抽出した後、
アスコルビン酸ナトリウム 1.8g
清澄化液凍結乾燥粉末(実施例2) 40g
を配合して麦茶とした。
【0051】
実施例10(クッキー)
薄力粉 32.0g
全 卵 16.0g
バター 16.0g
砂 糖 25.0g
水 10.8g
ベーキングパウダー 0.198g
乳酸菌発酵液凍結乾燥粉末(実施例4) 0.002g
合 計 100.0g
上記の各成分を用い、常法に従ってクッキーとした。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、醸造酒蒸留時に副生されるポットエールやその上清液、さらにはそれらを元に製造した乳酸菌発酵液に持久力向上効果や抗疲労効果を見出したもので、従来廃棄されていたポットエールの有効活用を可能にすると共に、体力低下や慢性的な疲労を感じる多くの人々の健康やQOL改善に貢献できる持久力向上・抗疲労剤を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】実施例6における遊泳試験の結果を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
醸造酒蒸留残渣から得られる持久力向上・抗疲労剤。
【請求項2】
醸造酒蒸留残渣の上清液から得られる請求項1に記載の持久力向上・抗疲労剤。
【請求項3】
醸造酒蒸留残渣又はその上清液を乳酸菌により発酵させてなる持久力向上・抗疲労剤。
【請求項4】
乳酸菌による発酵後、さらに酵母により発酵させてなる請求項3に記載の持久力向上・抗疲労剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の持久力向上・抗疲労剤を含有する飲食品。
【請求項6】
醸造酒蒸留残渣を用いて持久力を向上させ、疲労を抑制する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−254313(P2007−254313A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78337(P2006−78337)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000000055)アサヒビール株式会社 (535)
【Fターム(参考)】