説明

持久力向上剤

【課題】効果に優れ、且つ安全性が高い持久力向上剤及び抗疲労剤の提供。
【解決手段】グルコース−1−リン酸又はその塩を有効成分とする持久力向上剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広義の運動に対する持久力向上剤及び抗疲労剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、交通手段の発達や情報・通信技術の発展に伴い、運動が不足している。運動不足は、持久力の低下や筋力の低下等、運動機能の低下の原因となり、その後のQOL(quality of life:生活の質)に重大な悪影響をもたらすと考えられる。また、加齢に伴う筋萎縮や持久力、筋力の低下は運動機能を低下させ、寝たきり等の原因となる。したがって、日常の生活機能を改善、維持し、健康寿命を延伸するためには、日頃から運動機能を維持または高めておくこと、また老化に伴う運動機能の低下を抑制することが重要である。
【0003】
運動機能を向上させるには、運動トレーニングを行うことが適切であるといえるが、忙しさのため十分な運動をする時間がとれない人や、運動してもすぐに疲労してしまい、継続して運動できない人も多いのが現状である。また、高齢者においては、適度な運動を実践する、あるいはリハビリテーションを実践する等が運動能力低下を防ぐ手段として用いられているが、モチベーションの維持の困難さや怪我の恐れもあり、現実的にはなかなか難しく、より効果的な方法が望まれている。
【0004】
これらの問題を解決する一つの手段として、持久力向上作用や抗疲労作用を有する食品成分を日常的に摂取することが考えられる。持久力向上作用や抗疲労作用を有する成分の例としては、例えば、カテキン(特許文献1)、サンザシ抽出物(特許文献2)、霊芝成分(特許文献3)、プロアントシアニジン及びリコペン(特許文献4)、コエンザイムQ10やカルニチン配合物(特許文献5)、グルタミンペプチド(特許文献6)、レスベラトロール及び/又はブドウ葉抽出物(特許文献7)、ヒドロキシプロピル化澱粉(特許文献8)、オリーブ抽出物(特許文献9)等が知られている。
【0005】
グルコース−1−リン酸(以下「G1P」とも称する)は、抗菌剤、抗腫瘍剤、心疾患治療薬等の医薬品や糖合成の基質として広く知られており、更に近年では、体内への優れたカルシウム吸収促進作用や腸管ミネラル吸収能を改善すること(特許文献10〜11)、カテキンと共に使用されると骨形成を促進させること(特許文献12)が報告されている。
【0006】
しかし、G1Pが、持久力をはじめとする運動能力や疲労に対して与える影響については、これまで全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−89384号公報
【特許文献2】特開平8−47381号公報
【特許文献3】特開平5−123135号公報
【特許文献4】特開2005−334022号公報
【特許文献5】特開2005−97161号公報
【特許文献6】特開2005−97162号公報
【特許文献7】特開2007−145809号公報
【特許文献8】特開2008−013460号公報
【特許文献9】特開2009−161459号公報
【特許文献10】特開2005−41784号公報
【特許文献11】特許第4485169号
【特許文献12】特開2009−107994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れた持久力向上作用、抗疲労作用を有し、且つ安全性の高い医薬品、医薬部外品及び食品を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、身体機能向上において有効な成分の探索を行った結果、グルコース−1−リン酸(G1P)に持久力向上作用、抗疲労作用の効果があり、持久力向上剤、抗疲労剤として有用であることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に係るものである。
(1)グルコース−1−リン酸又はその塩を有効成分とする持久力向上剤。
(2)グルコース−1−リン酸又はその塩を有効成分とする抗疲労剤。
(3)持久力向上剤の製造のためのグルコース−1−リン酸又はその塩の使用。
(4)抗疲労剤の製造のためのグルコース−1−リン酸又はその塩の使用。
【発明の効果】
【0011】
本発明の持久力向上剤、抗疲労剤は、運動及び日常の動作及び労働を含む広義の運動に対する持久力向上、抗疲労効果を発揮する医薬品、医薬部外品及び食品等の有効成分として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】試験食5週間摂取後の限界走行時間。*: P <0.05(t-test)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、「持久力向上」とは、スポーツ等の運動や筋肉労作を伴う労働、及び日常の動作等を含む広義の運動に対する持久力が向上することを意味し、抗疲労剤における「抗疲労」とは、当該運動によって生じる疲労を抑制又は回復することを意味する。
【0014】
本明細書において、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処置行為を含まない概念である。
【0015】
本発明に用いられるグルコース−1−リン酸(G1P)は、馬鈴薯由来の酵素を用いた方法(特公平6−95492)や水溶性多糖に加リン酸付加反応を行う方法(特開2000−157186)等により製造することができ、また、Solmag Italian Spa社等から購入することもできる。また、本発明に用いられるG1Pは、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マグネシウム塩等の塩又は糖リン酸エステルの形態であってもよい。このうちナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩は、水に対する溶解性が高いことからより好ましく、ナトリウム塩が特に好ましい。上記G1Pの糖リン酸エステル又は塩は、水和物であってもよい。
【0016】
G1Pは、後記実施例に示すように、マウスのトレッドミル走行における限界走行時間を有意に延長し、持久力向上作用或いは抗疲労作用を有する。従って、G1P又はその塩は、持久力向上剤、抗疲労剤(以下、「持久力向上剤等」とする)として使用することができる。当該使用は、ヒト若しくは非ヒト動物における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。
【0017】
従って、本発明の持久力向上剤等は、G1P又はその塩を有効成分として含有する。一実施形態として、本発明の持久力向上剤等は、本質的にG1P又はその塩から構成される。
【0018】
本発明の持久力向上剤等はまた、持久力向上又は抗疲労のための組成物、医薬品、医薬部外品、飲食品若しくはその原料、又は飼料若しくはその原料の有効成分として使用することができ、あるいはそれらの製造のために使用することができる。あるいは、本発明の持久力向上剤等は、持久力向上又は抗疲労のための組成物、医薬、医薬部外品、飲食品、飼料、又は飲食品若しくは飼料の原料に素材として配合され得る。当該組成物、医薬、医薬部外品、化粧料、飲食品若しくはその原料、又は飼料若しくはその原料は、ヒト又は非ヒト動物用として製造され、又は使用され得る。
【0019】
本発明の持久力向上剤等を医薬品、医薬部外品の有効成分として配合して用いる場合の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与、又は注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、外用剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の製剤を調製するには、本発明の持久力向上剤等を単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。また、これらの投与形態のうち、好ましい形態は経口投与であり、経口用液体製剤を調製する場合は、嬌味剤、緩衝剤、安定化剤等を加えて常法により製造することができる。
【0020】
本発明の持久力向上剤等を飲食品の有効成分として配合して用いる場合、持久力向上、抗疲労をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した飲食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品とすることができる。
【0021】
本発明の持久力向上剤等を食品の有効成分として配合して用いる場合の形態としては、パン類、ケーキ類、麺類、菓子類、ゼリー類、冷凍食品、アイスクリーム類、乳製品、スープ類、食用油、調味料等の各種食品の他、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ等)、ならびに家畜用飼料、ペットフード等が挙げられる。飲料の有効成分として配合して用いる場合の形態としては、例えば、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、ニアウオーター、スポーツ飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等が挙げられる。また、飲料は、容器に充填した容器詰飲料とすることができる。
上記種々の形態の飲食品を調製するには、本発明の持久力向上剤等を単独で、又は他の飲食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることが可能である。
また、本発明の持久力向上剤等は、適当量の栄養補給が困難な高齢者やベッドレスト者等の病者においては、経腸栄養剤等の栄養組成物の有効成分として配合して用いることが可能である。
【0022】
上記医薬品、医薬部外品、飲食品等に対する本発明の持久力向上剤等の配合量は、その使用形態により異なるが、例えば、医薬品、医薬部外品の場合、G1P換算で、0.01〜95質量%、好ましくは0.5〜90質量%、より好ましくは2〜50質量%である。食品の場合、G1P換算で、0.0001〜20質量%、好ましくは0.001〜10質量%、より好ましくは0.002〜5質量%である。飲料の場合、G1P換算で、0.001〜5.0質量%、好ましくは0.005〜2.0質量%、より好ましくは0.01〜1.0質量%である。錠剤やカプセル等の形態の食品の場合、G1P換算で、0.1〜95質量%、好ましくは1〜90質量%、より好ましくは5〜50質量%である。
【0023】
また本発明は、本発明の持久力向上剤等を投与するか又は摂取させることを特徴とする持久力向上又は抗疲労のための方法を提供する。当該方法において、本発明の持久力向上剤等は、持久力向上又は抗疲労のため、それらを必要とする対象に有効量で投与されるか、あるいは摂取される。投与又は摂取する対象としては、動物、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物、より好ましくはヒトが挙げられる。
本発明の持久力向上剤等の投与又は摂取の有効量は、G1P換算で、一日あたり1〜10000mg/60kg体重とするのが好ましく、5〜5000mg/60kg体重とするのがより好ましく、10〜3000mg/60kg体重とするのがさらに好ましい。
【0024】
本発明の持久力向上剤等、又は医薬、医薬部外品、飲食品、若しくは飼料を投与又は摂取する対象としては、持久力向上又は抗疲労を必要とするヒト又は動物が挙げられる。例えば、持久力の低下や疲労に悩む運動不足者、中高年者、及びベッドレスト者等の病者、持久力の向上を必要とする健常者やアスリート、肥満や体力低下に悩む家畜やペット等が挙げられる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0026】
試験例 G1Pの持久力向上及び抗疲労効果
(動物及び飼育)
雄性6週齢のBALB/cマウス(日本クレア)を用いた。購入後1週間は予備飼育を行い、予備飼育期間中は標準固形飼料(CE−2、日本クレア製)を自由摂食させた。また、予備飼育期間中に、トレッドミル走行に対する馴化を行った。飼育環境は、室温を23±2℃、湿度を55±10%とし、照明時間を7時から19時とした。
【0027】
(群分け)
7週齢時、マウス100匹について、トレッドミルを用いて、28m/minの走行条件下、走行しなくなるまでの時間(限界走行時間)を測定した。運動能力の遺伝的な面を考慮し、限界走行時間の長い(上限値より30%までの)個体と、短い(下限値より30%までの)個体を除外した。また、トレッドミル走行に馴化できなかった個体も除外し、試験用マウスとして32匹を選別した。選別した個体を限界走行時間及び体重が同じようになるように、グルコース1−リン酸(G1P)群と対照群の2群に分けた。
【0028】
(試験試料)
試験飼料はAIN−76組成に準じて配合した。G1P群には、グルコース1−リン酸2ナトリウム塩(G1P−2Na4水和物、Solchem italiana社製)を配合した試料(GIP食)を与え、対照群には、G1P−2Na中のPとNa量に合わせたリン酸水素2ナトリウムを配合した試料(対照食)を与えた。飼料はドーム型カバー(ローデンカフェ、オリエンタル酵母工業製)付き粉末給餌器を用いて自由摂食させた。各飼料の組成を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
(走行時間の測定)
試験食給餌開始5週間後、各個体について、トレッドミルを用いて、28m/minの走行条件下で、走行しなくなるまでの時間(限界走行時間)を測定した。得られた測定値について、各群の平均値及び標準偏差を求め、群間の有意差検定を行った(T-test、p<0.05)。
【0031】
(結果)
5週間の試験食給餌飼育中の総摂餌量は、G1P群で2757g、対照群で2782gであり、群間に有意差は認められなかった。
試験食給餌開始5週間後の体重は、G1P群で28.96±1.40g、対照群では28.89±1.05gであり、群間に有意差は認められなかった。
試験開始5週間後の限界走行時間は、G1P群:160.3±47.2分、対照群:129.9±34.3分であり、G1P群が対照群に対して有意な高値を示した(図1)。
【0032】
G1P群のマウスでは、対照群と比較して5週間飼育後の限界走行時間が有意に延長していた。すなわち、持久力が向上したとともに、疲労に対する耐性が向上したことが分かった。従って、G1Pは、持久力向上剤及び抗疲労剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコース−1−リン酸又はその塩を有効成分とする持久力向上剤。
【請求項2】
グルコース−1−リン酸又はその塩を有効成分とする抗疲労剤。
【請求項3】
持久力向上剤の製造のためのグルコース−1−リン酸又はその塩の使用。
【請求項4】
抗疲労剤の製造のためのグルコース−1−リン酸又はその塩の使用。

【図1】
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【公開番号】特開2012−77007(P2012−77007A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221242(P2010−221242)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】