説明

指掌紋読み取り用皮膚調整剤

【目的】 温度適用範囲がひろく、屋外設置にも適した指掌紋読み取り用の皮膚調整剤を提供すること。
【構成】 指掌から指掌紋を読み取る際に、前記指掌に塗布して使用する皮膚調整剤。ポリエチレンワックス等のワックス成分を、網目構造を形成する分散媒とし、高級アルコール等のオイル(油)成分を前記網目構造に保持される分散質とする。オイル成分の分離防止のために、剤形安定化剤(オイル成分保持助剤)を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指掌から指掌紋を読み取る際に、指掌に塗布して使用する皮膚調整剤に関する。詳しくは、容器に充填され、指で触れ(なで)て指掌に塗布する皮膚調整剤に関し、検出器を用いる指紋認証システムに好適な発明である。ここでは、指紋認証を例に採り説明するが、その他の指紋や掌紋の採取(読み取り)においても同様である。
【背景技術】
【0002】
検出器を用いて指先から指紋を読み取り、照合することで、個人識別を行う指紋認証システムが現在注目されつつある。例えば、警察関係で使用される犯人の割り出し等の迅速化に有用な指紋押捺装置をはじめ、一般家庭や各種企業においては、マンションの玄関、出入り口等のセキュリティーシステム、クレジットカードの悪用防止や、パソコン、タイムレコーダー等各種機器の本人認証等に指紋認証システムを適用することが検討され一部実用化されている。
【0003】
上記指紋認証システムにおける指先からの指紋の読み取りにおいては、例えば下記の方法が採用されている。
【0004】
1)静電容量型半導体センサによる方法:
指を半導体センサの上に置き、指先の凹凸で生じる電位の差を利用して静電容量を計測し、指紋の模様を読み取るもの、
2)光学式(CCD)方法:
指をガラス面の上に置き、光の反射を利用し、反射光量の大小を電気信号に変換して指紋の模様を読み取るもの、
上記指紋の読み取りにおいて、従来、多汗症の人、脂症の人、乾燥肌の人、指紋隆線が細い人(特に女性)等は、認証率が低くなる傾向にあった。原因としては、多汗症・脂性の人は汗や皮脂分が多すぎて指紋(隆線)が潰れるためで、一方、乾燥肌の人は逆に皮脂分が少なく、うまく感知できないためである。
【0005】
したがって、指先の皮膚の状態を良好にし、認証率を上げるために、本願出願人は、先にエアゾール式の指掌紋押捺用皮膚調整剤を出願している(特許文献1参照)。該皮膚調整剤は、泡状に噴射して使用するものであって、その泡を手に馴染ませて塗布した後、上記システムを用いて指紋を認証することで、より認証率を向上させることができる。
【0006】
また、本願出願人は、検出器を用いて指先から指紋を読み取る際に、指先に塗布して使用する皮膚調整剤として、O/Wエマルションをゲル化させた油脂性成分を含有させた指掌紋読み取り用皮膚調整剤を、提案している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−245714号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2003−159233号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の皮膚調整剤は、エアゾール剤であり塗布に際して、指紋認証の度に噴射させる必要があり、固定設置に適しない。また、特許文献2に記載の皮膚調整剤は、水を含むとともに、剤形の温度安定性(特に高温時)に欠ける。したがって、当該皮膚調整剤は、外気環境の影響を受け易く、屋外設置に適しない。
【0009】
本発明の課題(目的)は、上記にかんがみて、温度適用範囲が広いとともに、密閉保存(密閉蓋)の必要性が無く、屋外設置にも適した指掌紋読み取り用の皮膚調整剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究・開発に努力する過程で、下記構成を有する皮膚調整剤に想到した。
【0011】
検出器を用いて指掌から指掌紋を読み取る際に、前記指掌に塗布して使用する皮膚調整剤であって、
ワックス(固体蝋)を分散媒とし、オイル(油)成分を分散質とし、剤形安定化剤(オイル成分保持助剤)を含有するワックス組成物であることを特徴とする。
【0012】
上記構成とすることにより、特許文献1記載のO/Wエマルション型の指掌紋読み取り用皮膚調整剤に比して、外気温度・湿度の影響を受け難く、安定した皮膚調整が可能となる。
【0013】
上記において、ワックス成分が融点60℃以上であり、オイル成分が融点(mp)−5℃以下で沸点(bp)80℃以上であることが、さらには、ワックス成分が融点85℃以上であり、オイル成分が融点−10℃以下で沸点100℃以上であることが望ましい。
【0014】
オイル成分の融点が高過ぎると冬季屋外等においてオイル成分が固化しやすく、また、沸点が低すぎると夏季屋外等において経時揮散しやすい。すなわち、密閉保存が必要となる。また、ワックス成分の融点が低すぎると、夏季等において形態保持性を確保し難くなる。
【0015】
上記において、ワックス成分が融点85℃以上であり、オイル成分が融点−10℃以下で沸点100℃以上であることが、外気環境の影響を受け難く、すなわち、温度適用範囲が広いとともに、指先で調整剤の表面をなでる(触れる)ときにおける、指先の滑り性が良好で、且つ、べとつき感も発生し難い。同時に、融点が高いワックス(固体蝋)成分からなる網目構造体中に、融点が常温より格段に低いオイル成分が保持される結果となり、指先に触ったときにオイル成分が浸出し易く、指先に対する濡れ性(皮膚調整作用)を確保し易くなる。
【0016】
前記ワックス(固体蝋)成分としては、通常、炭化水素系とするが、一価乃至二価の高級アルコールエステルであるエステル系も併用使用可能である。炭化水素系のうち、特に、n−パラフィン系が望ましい。オレフィン系に比して、耐老化性に優れている。また、一価乃至二価の高級アルコールエステルであるエステル系を炭化水素系と併用した場合は、すべり性が向上する(実施例4)。
【0017】
前記オイル成分としては、アルコール系が望ましいが、ポリテルペン(スクワラン)等の炭化水素系、さらには、高級脂肪酸エステル、グリセライド等のエステル系も使用可能である。上記融点・沸点の範囲のものを得易い。また、アルコール系であるため、塗布後のベトツキ感を抑えやすく、皮膚調整剤塗布後の不愉快感がない。
【0018】
前記剤形安定化剤(オイル成分保持助剤)としては、多糖類誘導体が、ゼリー等食品関係に多く使われている多糖類を使用しているので安全性が高くて望ましい。特に、デキストリン(澱粉の加水分解物)の高級脂肪酸エステル(C10〜C18)が、それ自体熱影響を受け難くて望ましい。
【0019】
さらに、本発明の皮膚調整剤は、粉体潤滑剤、特に、無機系の粉体潤滑剤を含有させることが望ましい。皮膚調整剤ゲル体の表面滑り性を改善するとともに、認証面に残留指紋が発生し難い作用(以下「二次付着防止作用」という。)を奏する。
【0020】
上記各構成において、残留指紋の発生をよりし難くさせるために、下記構成とすることが望ましい。
【0021】
前記ワックス成分中にシリコーンワックスを、ワックス成分全体量の10〜30%含有させ、さらには、オイル成分中にシリコーンオイル5〜30%を含有させ、該シリコーンオイルと前記シリコーンワックスの組成物全体における合計含有率が10〜20%とする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の指掌紋読み取り用皮膚調整剤を適用する屋外設置用の認証装置の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明を行う。本明細書において、配合率(含有率)を現す「%」等は、特に断らない限り質量基準とする。
【0024】
なお、本明細書で、各成分の配合率の数値範囲は、絶対的なものではなく、当業者が本発明を実施するに、すなわち、皮膚調整剤を製造するに際しての、妥当な一基準を示すものである。すなわち、従来の日本の標準的な気候(本州)を想定(適用外気温度:−20℃〜60℃)しており、他の地域においては、気候状態において数値範囲が多少ずれる可能性がある。したがって、数値範囲の前には「約」を付してある。
【0025】
本発明は、検出器を用いて指掌から指掌紋を読み取る際に、指掌に塗布して使用する皮膚調整剤であって、ワックス(固体蝋)成分を分散媒としオイル(油)成分を分散質として、剤形安定化剤(オイル成分保持助剤)を含有するワックス組成物であることを基本的特徴とし、粉体潤滑剤を、適宜配合することが望ましい。
【0026】
(A)ワックス(固体蝋)成分としては、常温・常圧下で、流動性を示さないものなら特に限定されないが、通常、日本の本州での使用を想定すると、形態保持性も考慮して、融点(mp)約60℃(望ましくは約100℃)以上のものから適宜選択する。
【0027】
上記特性を満足させるものなら、特に限定されない。例えば、炭化水素系、高級カルボン酸、脂肪族一価高級アルコール、高級脂肪酸、シリコーンワックス等を挙げることができ、それらの具体例を下記する。これらのうちで、特にポリエチレンワックス(ポリエチレン粉末)が好ましい。
【0028】
なお、下記例示中には、上記温度特性を示さないものもあるが、少量の混合は問題がない。
【0029】
1)炭化水素系:
ポリエチレンワックス(PE粉末)、固形パラフィン(パラフィンロウ)、微晶ロウ(マイクロクリスタリンワックス)、ワセリン(ペトロラタム)(mp38〜60℃)、セレシン、オゾケライト等。
【0030】
2)エステル系:
蜜ロウ、カルナバロウ(カルナウバワックス)、キャンデリラロウ、鯨ロウ、モンタンロウ、ラノリン、セレシン等。
【0031】
3)高級脂肪酸:
ラウリン酸(C12)(mp44℃、bp225℃(100Torr))、ミリスチン酸(C14)(mp54℃、bp250℃(100Torr))、パルミチン酸(16)(mp63〜64℃、bp215℃(15Torr))、ステアリン酸(C18)(mp71.5〜75℃、bp232(15Torr))、オレイン酸(C18)(mp16℃、bp203〜205℃(15Torr))、リノール酸(C18)(mp-5℃、bp228℃(14Torr))等。
【0032】
4)脂肪酸アミド:
ステアリン酸アミド(ステアロアミド)(mp108.5〜109℃、bp250℃(12Torr))、オレイン酸アミド(オレオアミド)(mp75〜76℃)等。
【0033】
5)高級アルコール:
ラウリルアルコール(1-ドデカノール)(C12)(mp24℃)、セチルアルコール(C16)(mp50℃)、オクタデカノール(C18)(ステアリルアルコール)(mp61℃、bp210℃(15Torr))等。
【0034】
(B)オイル成分としては、常温・常圧下で、流動性を示すものなら特に限定されないが、通常、日本の本州での使用を想定すると、融点(mp)約−5℃(望ましくは約−10℃)以下で、沸点(bp)約80℃(望ましくは約100℃)以上のものから適宜選択する。
【0035】
例えば、脂肪族一価アルコール、脂肪族多価アルコール(グリコール)、芳香族アルコール、脂肪酸エステル、トリグリセリド、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、シリコーンオイル、等を挙げることができ、それらの具体例を下記する。これらのうちで、融点および沸点が低い値(mp:−10℃以下、bp:100℃以上)を示しかつ極性化合物であるものが、例えば、オクチルドデカノール、イソステアリルアルコール、オレイン酸エチル、トリエチルヘキサン酸グリセリン、グレープシード油、コーン油、ヒマワリ油等が特に好ましい。
【0036】
なお、下記オイル成分の例示中には、上記温度特性を示さないものもあるが、少量の混合は問題がない。下記化合物名の後の「mp(融点)」及び「bp(沸点)」のほとんどは、「化学大辞典編集委員会編「化学大辞典9」(昭37-7-31)共立出版」及び「日本化学会編「化学便覧 基礎編I」(昭41−9−25)丸善)」から引用したものである。
【0037】
1)脂肪族一価アルコール:
オクチルドデカノール(mp-20℃以下、bp100℃以上)、オレインアルコール(オレイルアルコール)(曇り点6℃以下、bp205〜210℃(15Torr))、n-アミルアルコール(mp-79℃、bp138℃)、イソアミルアルコール(mp-117℃、bp132℃)、ヘキシルアルコール(mp-52℃、bp155.7℃)、ヘプチルアルコール(mp-34.1℃、bp176.3℃)、オクチルアルコール(mp-16.7℃、bp194.5℃)、カプリルアルコール(mp-39℃、bp179.5℃)、ノニルアルコール(mp-5℃、bp215℃)等。
【0038】
これらの内で、化粧品に使用されているオクチルドデカノール、オレインアルコールが望ましい。
【0039】
2)脂肪族多価アルコール:
オクチルドデカノール、グリセリン(mp-18℃、bp290℃))、1,3−プロパンジオール(mp-32℃、bp214.22℃)、1,3−ブタンジオール(mp-77℃、bp207.5〜208℃)、エチレングリコール(mp-12.6℃、bp197.7℃)、ジエチレングリコール(mp-11.5℃、bp245℃(760Torr))等。
【0040】
これらの内で、化粧品に使用されているオクチルドデカノール、オレインアルコール、グリセリン、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、が望ましい。
【0041】
3)芳香族アルコール:
ベンジルアルコール(mp-15.3℃、bp205.3℃)等。
【0042】
4)液状ロウ類:
流動パラフィン、スクワラン(mp-75℃、bp285℃(25mmHg))等。
【0043】
5)脂肪油:グレープシード油、ホホバ油、コーン油、オリーブ油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ツバキ油、コメ油、ミンク油等。
【0044】
6)脂肪酸エステル:オレイン酸エチル(bp216〜217℃)、ミリスチン酸イソプロピル(mp5℃、bp304℃)、イソオクタン酸セチル(曇り点-5℃、bp228℃)等。
【0045】
7)グリセリド:トリエチルヘキサン酸グリセリル(mp-30℃、bp227℃)、クエン酸トリエチルヘキシル等。
【0046】
8)シリコーン油:ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、オクタンメチルシクロテトラシロキサン等。
【0047】
(C)上記剤形安定化剤(オイル成分保持助剤)としては、高温時にオイル保持作用を奏するものなら、特に限定されない。
【0048】
例えば、多糖類誘導体が、安全性及び熱安定性の見地から望ましい。具体的には、デキストリン(澱粉分解物混合体)、キサンタンガム、カラギーナン、ジュランガム、ローカストビーンガム、寒天、グアーガム、タマリンドガム、アルギン酸ナトリウム等の植物性多糖類及びそれらの誘導体(エステル体、エーテル体、グラフト体)、及び、ゼラチン等の動物性たんぱく質、さらには、高級脂肪酸金属塩(ステアリン酸Mg・Al)、高級脂肪族ヒドロキシ酸(例えば、12−ヒドロキシステアリン酸)、芳香族ヒドロキシ酸、などを例示できる。
【0049】
これらのうちで、デキストリン高級脂肪酸エステル(炭素数12〜20の混合エステル)が好ましい。
【0050】
(D)上記粉体潤滑剤は、滑り剤と二次付着防止の双方の作用を担えるものなら特に限定されず、通常、層状(layer)ないし薄片状(lamellar)(鱗片状を含む)の構造を有するものを使用する。
【0051】
例えば、窒化ほう素(NB)、二硫化モリブデン(MoS2)、二硫化タングステン(WS2)、黒鉛、タルク、シリカ、アルミナ、二酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、ふっ化黒鉛、等の無機系潤滑剤の他に、ナイロンパウダー、ポリテトラフルオロエチレン(フッ素樹脂)パウダー等の樹脂粉末、さらには、有機合成系潤滑剤(例えば、L−リシンの高級脂肪酸((C10〜C16)アミド)等を挙げることができる。これらのうちで、特に、窒化ほう素(NB)が望ましい。なお、無機系潤滑剤は、極性型のオイル又はワックスとの親和性(分散性)の見地からシランカップリング処理をしたものを使用することが望ましい。
【0052】
(E)上記必須ないし準必須成分の他に、汎用の皮膚(スキン)用化粧品組成物に使用されている、各種、抗菌剤/防腐剤(例えば、パラペン系)、酸化防止剤(例えば、ビタミン系)、香料、界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、色素等を、本発明の目的(効果)を阻害しない範囲で適宜配合することができる。
【0053】
(F)上記必須成分であるオイル成分、ワックス成分及び剤形安定化剤並びに準必須成分である粉体潤滑剤の配合仕様は、適用(可使)温度を−20℃〜60℃の範囲とした場合、下記の如くである。
【0054】
1)ワックス成分(A成分)及びオイル成分(B成分)の各配合率は、全組成物中、前者(オイル成分):約10〜65%、より好ましくは約20〜60%、更に好ましくは約30〜50%とする。同じく、後者(ワックス成分):約10〜60%、より好ましくは約20〜55%、更に好ましくは約30〜50%とする。
【0055】
そして両者の比率(ワックス成分(A成分)/オイル成分(B成分))は、約30/70〜70/30、好ましくは約35/65〜60/40とする。
【0056】
ここで、オイル成分の配合比率が過少であるとワックス成分の配合比率が相対的に過多となって、低温時における本皮膚調整剤(組成物)が固く(硬く)なり過ぎて、調整剤(オイル成分)が指掌に付着し難くなり認証率の向上が期待できなくなる。一方、ワックス成分の配合比率が過少であるとオイル成分の配合比率が過多となって、高温時に皮膚調整剤が柔らかくなりすぎて、指掌紋が調整剤で埋まってしまったり、必要以上に付着したりして、認証率が不安定となる。
【0057】
3)上記剤形安定化剤(オイル成分保持助剤)(C成分)の配合率は、全組成物基準で、例えば、デキストリンエステルの場合、通常約0.1〜20%、より好ましくは約0.5〜15%、更に好ましくは約1〜10%とする。
【0058】
剤形安定化剤(オイル成分保持助剤)の配合率が過少であると、高温時にオイル成分が分離してしまい、高温時における認証率の安定性を確保し難い。一方、剤形安定化剤が過多であると、指先でなでる(塗布)に際して、本皮膚調整剤の低温時滑り性が低下したり、表面高温時べた付き感が発生し易くなったりする。
【0059】
4)粉体潤滑剤(D成分)の配合率は、全組成物基準で、通常約0.1〜35%、好ましくは約0.5〜30%、更に好ましくは約1〜25%とする。粉体潤滑剤の配合率が過少であると、皮膚調整剤の塗布時の表面潤滑性を得難く、二次付着防止(阻止)作用を得難い。一方、過多であると塗布時にオイル成分が指紋に付着し難くなって認証率の向上作用を却って阻害する。
【0060】
5)上記構成において、必須成分であるワックス成分(A)において、前記シリコーンワックス(変性シリコーンワックスを含む。)を、ワックス成分全体量の約0.1/10〜3.5/10、望ましくは約0.5/10〜3.0/10、さらに望ましくは約1.0/10〜2.5/10含有させることが、残留指紋が発生し難くなる(特に、屋外に設置した場合の)。シリコーンオイルは温度の影響を受け難いためである。
【0061】
ここで、オイル成分(B)中に、オイル成分全体量のシリコーンオイル(B´)約0.5/10〜5/10、望ましくは1/10〜3/10、さらに望ましくは1.2/10〜2/10を含有させ、該シリコーンオイルと前記シリコーンワックスの組成物全体の含有比率が約2〜25%、望ましくは約5〜20%、更に望ましくは約8〜18%とすることが、上記残留指紋がさらに発生し難くなる。
【0062】
上記において、シリコーンオイルの一部(通常、3〜7割)を芳香族置換または極性基導入した変性シリコーンオイルとすることが望ましい。極性型であるオイル成分との混和性が向上するためである。
【0063】
本発明の皮膚調整剤(ワックス組成物)は、公知の方法により製造することができる(後述の実施例の項参照)。
【0064】
次に、上記指掌紋読み取り用皮膚調整剤(ワックス組成物)の使用方法について説明する。
【0065】
上記ワックス組成物は、実質的にワックスからなる三次元網目構造体中にオイル成分を分散媒として保持してなる分散構造であるため、指先が皮膚調整剤表面に触れると、触れた皮膚の部分にオイルが塗布され、指先は、指掌紋認証に良好な皮膚状態となる。
【0066】
そのため、指紋を認証する場合には、認証する指を皮膚調整剤の表面を軽くなづる(なでる)だけで、適度なオイル分が指先表面に付着して、皮膚の状態を指掌紋認証に良好な状態とすることができる。
【0067】
例えば、携帯用容器に充填すれば、持ち運び自由となり、どこでも指紋認証が可能となる。また、ワックス組成物を充填した容器を、認証システムの近くの壁面等に常設しておけば、より便利になる。
【0068】
また、屋外用認証システム装置として、図1に示すようなものがある。装置本体12には操作パネル14、指掌紋検知部16及び皮膚調整剤保持ユニット(収納容器)18を備え、全体がエスカッション(保護カバー)20で覆われ、太陽光・塵埃・風雨に曝されないようになっている。この状態で、皮膚調整剤保持ユニット18は、密閉保管状態ではない。
【0069】
そして、本皮膚調整剤は、融点の高いワックス成分を網目構造(骨格)とし、内部にオイル成分を保持するワックス組成物であり、充填した容器を壁面など垂直に近い状態で常設しても、変形したり流下したりするおそれはない。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明を行う。下記表1・2の処方に従い、各実施例の皮膚調整剤を下記方法により調製した。
【0071】
ワックス成分以外の組成物成分を80℃前後で攪拌しながら均一混合し、その後、ワックス成分を加え加熱溶融させてさらに攪拌して均一な溶融組成物を調製した。該溶融組成物を製品容器(充填形状:20mm×30mm×5mmt)に直接充填して冷却・固化させた。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1・2における各実施例・比較例の皮膚調整剤について、皮膚調整剤(ワックス組成物)の物性状態及び指に塗布して指紋検知を行った場合について評価を行った。
【0075】
各物性状態評価および官能評価の方法および評価基準は、下記の通りとした。パネラーは5人(成人男性:3人、女性2人)とし、一番多い評価を採用した。評価に使用した指紋認証装置として、SECOM社製「セサモIDs」を使用した。
【0076】
1)剤形安定性
60℃、−20℃の各雰囲気温度に1ヶ月放置後のワックス組成物の状態変化(割れ乃至変形等)を目視で判定した。
【0077】
<評価>A:両温度で状態変化(割れ乃至変形)見られず
B:−20℃で割れが又は60℃で変形が殆ど見られず
C:-20℃で割れが又は60℃で変形が僅かに見られる
D:-20℃で割れが、60℃で変形のどちらかが見られる。
【0078】
2)ワックス組成物の表面滑り性
上記各雰囲気温度で1ヶ月放置後の各ワックス組成物の表面を指先でなでて塗布したときの滑りの感触で判定をした。
【0079】
<評価>A:双方の温度で良好
B:双方の温度で殆ど違和感なし
C:双方の温度で僅かに違和感あり
D:双方の温度で違和感あり。
【0080】
3)オイル付着状態(保湿効果)
同じく指先のオイル付着状態で目視判定。
【0081】
<評価>A:双方の温度で良好
B:-20℃で良好、60℃で普通
C:双方の温度で普通
D:双方の温度で悪い 。
【0082】
4)認証度
上記各雰囲気温度に1ヶ月放置後のワックス組成物に指を載せることで、オイル付着量が適量で、認証後の映像が鮮明か否かをモニター画面で判定。
【0083】
<評価>A:双方の温度で鮮明
B:-20℃で鮮明、60℃で普通
C:-20℃で普通、60℃で普通
D:双方の温度で不鮮明。
【0084】
5)残留指紋
上記各雰囲気温度に1ヶ月放置後のワックス組成物の表面を指でなでて認証面に押し付けた後の認証面の残留指紋の有無を目視判定。
【0085】
<評価>A:双方の温度で残留指紋見られず
B:-20℃で残留指紋見られず、60℃で残留指紋僅かに見られる
C:双方の温度で残留指紋僅かに見られる
D:双方の温度で残留指紋見られる。
【0086】
上記試験結果を示す表3から、下記のことが分かる。
【0087】
剤形安定化剤(オイル成分保持助剤)を含まない比較例1は、高温時のオイル成分保持安定性が良好でないことは勿論、室温(常温)塗布時の特性(滑り性、ベトツキ)及び認証面に対する二次付着防止性に問題がある。
【0088】
また、オイルが過多である比較例2は、高温安定性が良好でなく、常温におけるベトツキ、二次付着防止性に問題があることが分かる。
【0089】
オイル成分が無極性のみである実施例1やエステル系である実施例2は、他の実施例3〜10に比して、剤形安定性、滑り性、付着状態、認証度において、安定した特性を得難いことが分かる。
【0090】
また、オイル成分が高級一価アルコールのみで、シリコーン成分を含まない場合(実施例3、4)、又はシリコーン成分が多い場合(実施例7)、残留指紋が発生し易い。
【0091】
これに対して、シリコーンワックス及びシリコーンオイルの併用系でシリコーン成分が適量な実施例6、7は、いずれの項目においても安定した特性を得られる。
【0092】
【表3】

【符号の説明】
【0093】
12 装置本体
14 操作パネル
16 指掌紋検知部
18 皮膚調整剤保持ユニット(収納容器)
20 エスカッション(保護カバー)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指掌から指掌紋を読み取る際に、前記指掌に塗布して使用する皮膚調整剤であって、
ワックス(固体蝋)成分を分散媒とし、オイル(油)成分を分散質とし、剤形安定化剤(オイル成分保持助剤)を含有するワックス組成物であることを特徴とする指掌紋読み取り用皮膚調整剤。
【請求項2】
前記ワックス成分が融点60℃以上であり、前記オイル成分が融点(mp)−5℃以下で沸点(bp)80℃以上であることを特徴とする請求項1記載の指掌紋読み取り用皮膚調整剤。
【請求項3】
前記ワックス成分が炭化水素系であることを特徴とする請求項1又は2記載の指掌紋読み取り用皮膚調整剤。
【請求項4】
前記オイル成分が、炭化水素系、エステル系又はアルコール系であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の指掌紋読み取り用皮膚調整剤。
【請求項5】
前記剤形安定化剤(オイル成分保持助剤)が多糖類誘導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の指掌紋読み取り用皮膚調整剤。
【請求項6】
前記多糖類誘導体が、デキストリンの脂肪酸エステルであることを特徴とする請求項5記載の指掌紋読み取り用皮膚調整剤。
【請求項7】
さらに、粉体潤滑剤を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の指掌紋読み取り用皮膚調整剤。
【請求項8】
前記ワックス成分中にシリコーンワックスを、ワックス成分全体量の10〜30%含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の指掌紋読み取り用皮膚調整剤。
【請求項9】
前記オイル成分中に、さらに、シリコーンオイル5〜30%を含有し、該シリコーンオイルと前記シリコーンワックスの組成物全体における合計含有率が10〜20%であることを特徴とする請求項8記載の指掌紋読み取り用皮膚調整剤。
【請求項10】
前記シリコーンオイルの一部が芳香族置換又は変性シリコーンオイルであることを特徴とする請求項9記載の指掌紋読み取り用皮膚調整剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−19884(P2012−19884A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158927(P2010−158927)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(592201036)名古屋エアゾール株式会社 (1)
【Fターム(参考)】