説明

振動アクチュエータの制御方法

【課題】
ダイナミック構造の振動アクチュエータを用いてタッチパネル等、触感用の振動を発生する際に、振動デバイスとしての応答速度を向上させると共に、多機能型振動アクチュエータでの振動発生時に於けるポップノイズを低減させることが可能な制御方法を提供する。
【解決手段】
振動アクチュエータでは振動の立ち上がり時に前記信号の電圧を昇圧すると共に、振動の立ち下がり時に逆位相波形を入力する。また、多機能型振動アクチュエータではコイルへ入力する信号に正弦波信号を用いて、入力する正弦波の開始後半波長及び停止前波長を振幅変調する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネットとコイルとを備え、サスペンションを用いて前記マグネット又はコイルの一方をハウジング内に弾性支持して可動子を構成し、他方をハウジング内に固定した構造を有し、前記コイルへの信号入力によって、前記コイル−マグネット間に相互の磁気力を発生させ、該磁気力によって前記可動子を振動させるダイナミック構造の振動アクチュエータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、携帯電話に代表される移動体通信機器は、体感振動の発生によって使用者に着信を知らせる機能を備えており、例えば特開2005−096740(以下特許文献1として記載)といったような単機能型振動アクチュエータを用いることで該機能を付与している。また、一部では特許4146346(以下特許文献2として記載)といった多機能型振動アクチュエータを組み込むことで、単一のデバイスによる音響の再生と体感振動の発生を可能にした機種も用いられている。特許文献2に代表されるダイナミック構造の多機能型振動アクチュエータは、ボイスコイルへ入力する信号の周波数帯域を切り換えることで、ダイアフラムの振動による音響再生と、マグネットを有する可動子の振動による体感振動の発生とを可能にしている。
【0003】
ここで、特許文献1記載の単機能型振動アクチュエータは、前記体感振動発生時に於いて、前記可動子の振動に入力信号を同期させることで、制御による振動出力の高効率化を図っている。また、特許文献2に記載の多機能型振動アクチュエータは前記可動子周辺の空気をダンパとして用いることで、構造による振動の安定化を可能にしている。以降、単機能型振動アクチュエータと多機能型振動アクチュエータをまとめて「振動アクチュエータ」と表記する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−095740
【特許文献2】特許4146346
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した振動アクチュエータを搭載する携帯電話について近年、タッチパネルを搭載した機種が現れている。これに伴い、従来では着信の報知に留まっていた振動発生機能に、使用者に対する触感の提供という機能が要求されている。
【0006】
この様な機能に関して、従来の振動アクチュエータは着信の報知を目的としており、立ち上がり、立ち下がりといった駆動応答性の速度を要求されてはいなかった。この為、従来の入力信号によって特許文献1及び2に記載の振動アクチュエータが発生する振動を触感用の振動として用いると、高効率化及びダンパ効果による安定化を重視している為に駆動時の応答速度が遅くなり、使用者がクリック感を得ることが難しいという課題があった。
【0007】
また、音響機能が付与されている多機能型振動アクチュエータの場合は、入力信号開始時、駆動電圧逆位相波形への切り換え時、及び信号終了時に於いてダイアフラム側が振動するポップノイズが発生する。この為、入力信号の増幅等によって応答速度の短縮を図ると、ダイアフラム側の振動によるポップノイズも拡大し、触感としてクリック感のみを得ることは難しくなってしまう。
【0008】
以上述べた課題に対して本願記載の発明では、振動アクチュエータの応答速度を向上させることが可能な制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的のために本発明の制御方法では、ハウジングの底面にコイル及びボイスコイルを固定した振動アクチュエータの制御方法に於いて、入力信号の立ち上がり時に於ける電圧を昇圧し、立ち下がり時に振動波形と逆位相の波形をコイル及びボイスコイルに入力する方法を用いている。
【0010】
また、本発明に於ける第2の態様に記載の制御方法では、前記ダイナミック構造の多機能型振動アクチュエータを用いたタッチパネルに代表される触感デバイスへの振動出力時、多機能型振動アクチュエータに設けたボイスコイルへの入力信号について、振動の立ち上がり時に前記信号の電圧を昇圧すると共に、振動の立ち下がり時に半波長分のブランクを加えて逆位相波形を入力する方法を用いている。
【0011】
また、本発明に於ける第3の態様では、前記体感振動の発生時、ボイスコイルへ入力する信号に正弦波信号を用いて、入力する正弦波の開始後半波長及び停止前波長を振幅変調する方法を用いている。
【発明の効果】
【0012】
この様な制御方法を用いた事で本発明記載の構造は、振動アクチュエータに対する立ち上がり時の昇圧と立ち下がり時の逆位相入力とを用いた相乗効果による応答性の向上と共に、多機能型振動アクチュエータに対して同制御方法を用いた際の立ち上がり時間及び立ち下がり時間をも短縮させることが可能になった。
【0013】
また、本発明に於ける第2の態様では、位相への切り換え前に半波長分のブランクを入れることで、前記可動子が入力信号に対して数ミリ秒遅れて駆動する。この為、位相をずらすことによってポップノイズの発生を抑えると同時に、ズレが数ミリ秒となることで前記可動子の立ち下がり時間の遅延を最小限に留めることが可能となった。
【0014】
また、前記第2の態様記載の制御方法を用いることで、従来用いられているダイナミック構造の多機能型振動アクチュエータに対し、タッチパネル操作時に於けるクリック感等、触感の出力機能を付与する事ができる。加えて、従来用いられていた触感専用の振動デバイスが不要となる為、取付筐体に於ける部品点数を減少させることもできる。
【0015】
また、本発明に於ける第3の態様を用いることにより、正弦波信号の振幅変調のみで第2の態様と同様の効果を得ることが可能となる。より具体的には、第2の態様にて記載した制御方法が信号入力中に半波長分のブランクを加える必要があったのに対して、本態様記載の方法では信号の振幅について、開始後半波長及び停止前半波長分を振幅変調させる事で、応答速度の向上と、逆位相等への切り換え時に於けるポップノイズの低減とを可能にしている。また、本態様記載の方法では、第2の態様にて記載した方法と比較して信号を途切れさせることなく触感出力を行うことができるという利点を有している。
【0016】
また、上記述べた各制御方法は従来の用途である体感振動の発生時に於いても用いることが可能となっている。この為、振動アクチュエータ及び多機能型振動アクチュエータの薄型化及び小径化に際して、構造的な改良だけではなく、入力信号を用いた応答速度の向上によって使用者が容易に感知することのできる振動出力を提供することができる。
【0017】
以上述べたように、本願記載の制御方法を用いることで、ダイナミック構造の振動アクチュエータ及び多機能型振動アクチュエータを用いてタッチパネル等、触感用の振動を発生する際に、振動デバイスとしての応答速度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に於いて用いる多機能型振動アクチュエータの側断面図
【図2】図1に示す多機能型振動アクチュエータの分解斜視図
【図3】本発明の第1の実施形態に於いて用いる入力波形の立ち上がり時に昇圧を加えた入力信号及び、該入力信号による振動出力
【図4】本発明の第1の実施形態に於いて用いる入力波形の立ち下がり時に逆位相を加えた入力信号及び、該入力信号による振動出力
【図5】本発明の第2の実施形態に於いて用いる半波長ブランクを加えた入力信号及び、該入力信号による振動出力
【図6】本発明の第3の実施形態に於いて用いる振幅変調を加えた入力信号及び、該入力信号による振動出力
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図1乃至図6を用いて、本発明に於ける実施形態を示す。図1に本実施形態で用いる多機能型振動アクチュエータの側断面図を、図2に同分解斜視図を、図3及び図4に立ち上がり時の昇圧及び立ち下がり時の逆位相入力を行った際の入出力特性を、そして図5及び図6に半波長分のブランクBを加えた入力信号を用いた場合の入出力特性及び、振幅変調Cを加えた場合の入出力特性をそれぞれ示す。
【0020】
図1、図2から解るように、本実施形態の信号を入力する多機能型振動アクチュエータは、マグネット1、ポールピース2、ヨーク3からなる可動子と、ボイスコイル6を有する振動板5とを備え、サスペンション4を用いて前記可動子をハウジング7内に支持し、該ハウジング7端部に前記振動板5を設け、前記ボイスコイル6への入力によって、前記可動子の振動による体感振動の発生及び、前記振動板の振動による音響再生機能を有するダイナミック構造を用いている。
【0021】
また、図3に本発明の第1の実施形態に於いて用いる、立ち上がり時に入力電圧を昇圧した入力信号I1’と、本実施形態を用いない場合の入力信号I1との比較図を示す。図3では、立ち上がり時の昇圧を加えた入力信号波形I1u’を入力して前記多機能型振動アクチュエータを駆動した場合の振動波形V1u’と、昇圧を加えないIuを加えた場合の振動波形V1uを示している。加えて、図4には本発明の第1の実施形態に於いて用いる、立ち下がり時の逆位相信号入力を加えた入力信号I1d’と、逆位相信号入力を行わない場合の入力信号I1dとの比較図を示す。図4では、立ち下がり時の逆位相信号入力を加えた入力信号波形I1d’を入力して前記多機能型振動アクチュエータを駆動した場合の振動波形V1d’と、逆位相信号入力を加えないI1dを加えた場合の振動波形V1dを示している。
【0022】
図3及び図4から解るように、入力信号に対して立ち上がり時の昇圧と立ち下がり時の逆位相入力を共に行うことで、立ち上がり時間T1及び立ち下がり時間T2を短縮し、振動特性に於ける即応性を向上させることが可能となった。尚、本実施形態では振動アクチュエータとしての効果を確認している為、音響出力の比較については省略した。
【0023】
また、図5に本発明の第2の実施形態での入力波形I2’と、本実施形態を用いない場合の入力波形I2との比較図を示す。本実施形態では、立ち上がり時の昇圧と、立ち下がり時の逆位相を加えた入力信号波形I2に半波長分のブランクBを加えた信号I2'を入力して前記多機能型振動アクチュエータを駆動した場合の振動波形V2'及び音響波形S2'と、ブランクBを加えないI2を用いた場合の振動波形V2及び音響波形S2とを示している。また、図6は図1記載の多機能型振動アクチュエータの入力信号波形に前記I3'を用いた場合の振動波形V3'及び音響波形S3'と、変調を加えないI3を用いた場合の振動波形V3及び音響波形S3とを示している。
【0024】
図5から解るように、入力波形に半波長分のブランクBを加えたことによって体感振動の波形V2、V2'は変化しないが、音響振動部分の波形に於いて、ブランクBを加えた挙動の音響波形S2'は加えてない音響波形S2に比べて起伏の少ない波形となっている。この様な入力波形I2'を用いたことで、本実施形態記載の制御方法は従来の多機能型振動アクチュエータを用いてクリック感等、特定の触感を出力しつつ、該触感出力時のノイズを低減することが可能となった。加えて、本制御方法によって従来は別途設ける必要があった触感出力専用の振動アクチュエータが不要となり、取付筐体内に於ける部品点数の削減という効果も得ることが出来た。
【0025】
また、図6に本発明の第3の実施形態及び、本実施形態を用いない場合の比較図を示す。本実施形態では、入力信号に立ち上がり時の昇圧と立ち下がり時の逆位相入力を付与した正弦波信号に、正弦波の開始後半波長及び停止前波長の振幅変調を加えた信号I3'を用いて駆動している。図6は図1記載の多機能型振動アクチュエータの入力信号を正弦波信号とした場合に於ける、入力信号に立ち上がり時の昇圧と立ち下がり時の逆位相入力を付与した正弦波信号I3を用いた場合の振動波形V3及び音響波形S3と、I3の開始後半波長及び、停止前波長に振幅変調Cを加えたI3'を用いた場合の振動波形V3'及び音響波形S3'を示している。図6から解るように、I3'を用いた本実施形態記載の駆動方法により、音響振動S3'の波形に関してS3の突出部分が大幅に低減させることが可能となった。この為、前記第1の実施形態が有する効果に加えて、より高い静音性を実現することができた。
【0026】
以上述べたように、本実施形態記載の制御方法を用いたことで、ダイナミック構造の多機能型振動アクチュエータを用いてタッチパネル等、触感用の振動を発生する際に、振動デバイスとしての応答速度を向上させつつ、発生するポップノイズを低減させることが可能な制御方法を得ることができた。

【符号の説明】
【0027】
1 マグネット
2 ポールピース
3 ヨーク
4 サスペンション
5 振動板
6 ボイスコイル
7 ハウジング
8 カバー
9 グリル
B ブランク
C 振幅変調部分
T1、T2 立ち上がり、立ち下がり時間
I1u’ 入力信号(立ち上がり部昇圧有り)
I1u 入力信号(立ち上がり部昇圧無し)
V1u’ 振動波形(立ち上がり部昇圧有り)
V1u 振動波形(立ち上がり部昇圧無し)
I1d’ 入力信号(立ち下がり部昇圧有り)
I1d 入力信号(立ち下がり部昇圧無し)
V1d’ 振動波形(立ち下がり部昇圧有り)
V1d 振動波形(立ち下がり部昇圧有り)

I2’ 入力信号(ブランク有り)
I2 入力信号(ブランク無し)
V2’ 振動波形(ブランク有り)
V2 振動波形(ブランク無し)
S2’ 音響波形(ブランク有り)
S2 音響波形(ブランク無し)

I3’ 入力信号(変調有り)
I3 入力信号(変調無し)
V3’ 振動波形(変調有り)
V3 振動波形(変調無し)
S3’ 音響波形(変調有り)
S3 音響波形(変調無し)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネットを有する可動子と、コイルを有する底面とを備え、サスペンションを用いて前記可動子をハウジング内に支持し、該ハウジング端部に前記底面を設け、前記コイルへの入力によって、前記可動子の振動による体感振動の発生を行うダイナミック構造の振動アクチュエータの制御方法であって、
前記体感振動の発生時、コイルへ入力する信号について、振動の立ち上がり時に前記信号の電圧を昇圧すると共に、振動の立ち下がり時に逆位相波形を入力する、振動アクチュエータの制御方法。
【請求項2】
マグネットを有する可動子と、ボイスコイルを有する振動板とを備え、サスペンションを用いて前記可動子をハウジング内に支持し、該ハウジング端部に前記振動板を設け、前記ボイスコイルへの入力によって、前記可動子の振動による体感振動の発生及び、前記振動板の振動による音響再生機能を有するダイナミック構造の多機能型振動アクチュエータの制御方法であって、
前記体感振動の発生時、ボイスコイルへ入力する信号について、振動の立ち上がり時に前記信号の電圧を昇圧すると共に、振動の立ち下がり時に半波長分のブランクを加えて逆位相波形を入力する、多機能型振動アクチュエータの制御方法。
【請求項3】
マグネットを有する可動子と、ボイスコイルを有する振動板とを備え、サスペンションを用いて前記可動子をハウジング内に支持し、該ハウジング端部に前記振動板を設け、前記ボイスコイルへの入力によって、前記可動子の振動による体感振動の発生及び、前記振動板の振動による音響再生機能を有するダイナミック構造の多機能型振動アクチュエータの制御方法であって、
前記体感振動の発生時、ボイスコイルへ入力する正弦波信号について、入力する正弦波の開始後半波長及び停止前波長を振幅変調する、多機能型振動アクチュエータの制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−70134(P2013−70134A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205618(P2011−205618)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000240477)並木精密宝石株式会社 (210)
【Fターム(参考)】