説明

振動低減構造体及び振動低減工法

【課題】既存の構造体の形状のみを変えることによって、新たな部材や構造を追加することなく振動を低減でき、他の振動低減工法との組み合わせが容易で適合する振動の周波数帯域を適宜調整でき、施工コストの削減と工期の短縮とを図ることのできる振動低減構造体及び該振動低減構造体を使用した振動低減工法を提供すること。
【解決手段】振動低減構造体1は、振動源3から地盤Gを通じて生活環境に伝搬される振動Vを低減するために建物4の基礎5の一部として、あるいは建物4の基礎5の側方に設けられ、建物4の基礎5の一部である耐圧板6の底面8ないし、建物4の基礎5の側方に設けられる地中壁7の外壁面10に凹凸形状部9を設け、凹凸形状部9の形状効果を利用して建物4に伝搬される振動を低減させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば道路等を通行する車輌や建設工事現場で使用される建設機械等を振動源として発せられた振動が住宅やオフィス等の生活環境の存する建物に伝搬して快適な生活空間を害して不快にしたり、建物や家具、あるいは電化製品や電子機器等に障害を及ぼすことがないようにする、建物の基礎の一部として、あるいは建物の基礎に付帯して設けられる振動低減構造体及び該振動低減構造体を使用した振動低減工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの建物が林立し、縦横に何本もの自動車道路や鉄道の軌道が張り巡らしている都市部では、振動が生活環境に及ぼす種々の影響が顕在化してきている。例えば道路等を通行する車輌や建設工事現場で使用される建設機械等を振動源として発せられた振動が、住宅やオフィス等の生活環境の存する建物に伝搬して快適な生活空間を害して不快にしたり、建物や家具、あるいは電化製品や電子機器等に障害を及ぼすことが問題となっている。
【0003】
そして、このような振動は、振動源から地盤を通じて生活環境の存する建物に伝搬されるため、建物の基礎に振動が伝搬される前の段階で該振動を低減させる種々の試みが提案され、実施されている。下記の特許文献1には、建物の基礎の側方の地盤中にコンクリート製の表面が平坦な地中壁を設け、外部から伝搬されてくる振動を遮断すると共に地中壁中に設けた振動低減層によって地中壁の外壁面に伝搬された振動を低減するようにした振動低減工法が開示されている。
【0004】
また、下記の特許文献2には、建物の地中壁と、該地中壁の外方に設けられる表面が平坦な連続壁との間に溝状の間隙を設け、該間隙に多数のゴム球を充填することで外部から伝搬されてくる振動を吸収して低減するようにした振動低減工法が開示されている。この他、建物と建物の基礎との間に振動低減効果のある防振ダンパ等を介在させたり、防振シート等を敷き詰めることによって建物に伝搬される振動を低減させるようにした振動低減工法も提案されている。
【0005】
しかし、これら既存の工法は、何れも振動低減のために新たな部材や構造が必要であり、振動低減部材の設置や振動低減構造の構築に当たり別途の工程が必要となっており、施工コストの増大と工期の長大化とを招いていた。また、この種の振動は、振動源が何であるか、振動源からの距離、あるいは振動が伝搬される地盤の状態等によって周波数帯域が異なり、上記の各振動低減工法は、このうち一部の周波数帯域の振動を吸収するに過ぎなかった。従って、広い範囲の周波数帯域の振動を低減しようと思えば種々の振動低減工法を組み合わせて使用することが必要であり、組み合わせが容易で、適合周波数帯域を適宜調整できるような新たな振動低減工法の開発が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】特開2001−241061号公報
【特許文献2】特開平6−10369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような背景技術及び背景技術が抱える問題点の存在を踏まえてなされたものであって、既存の構造体の形状のみを変えることによって、新たな部材や構造を追加することなく振動を低減でき、他の振動低減工法との組み合わせが容易で、適合する振動の周波数帯域を適宜調整でき、施工コストの削減と工期の短縮とを図ることのできる振動低減構造体及び該振動低減構造体を使用した振動低減工法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明の第1の態様に係る振動低減構造体は、振動源から地盤を通じて生活環境に伝搬される振動を低減するために建物の基礎の一部として設けられる振動低減構造体であって、前記振動低減構造体は建物の基礎の最下部に設けられる耐圧板であり、地盤と接する該耐圧板の底面に、凹凸形状による形状効果を利用して建物に伝搬される振動を低減するように構成された凹凸形状部が設けられていることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の第1の態様によれば、既存の構造体の一部であるコンクリート製の耐圧板を使用して、該耐圧板の底面に凹凸形状部を設けるだけの構成によって、耐圧板の底面に伝搬される振動が凹凸形状部に衝突し、伝搬方向が変わって拡散ないし消失することにより建物に伝搬される振動が低減される。また、振動低減部材の設置や振動低減構造の構築のための別途の工程が不要となるから、施工コストの削減と工期の短縮とを図ることができる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る振動低減構造体は、振動源から地盤を通じて生活環境に伝搬される振動を低減するために建物の基礎と別に設けられる振動低減構造体であって、前記振動低減構造体は建物の基礎の側方に設けられる地中壁であり、地盤と接する該地中壁の外壁面に、凹凸形状による形状効果を利用して建物に伝搬される振動を低減するように構成された凹凸形状部が設けられていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、既存の構造体の一部であるコンクリート製の地中壁或いは別個独立に設けられる地中壁といった建物の基礎の側方に設けられる地中壁を使用して、該地中壁の外壁面に凹凸形状部を設けるだけの構成によって、地中壁の外壁面に伝搬される振動が凹凸形状部に衝突し、伝搬方向が変わって拡散ないし消失するため、建物に伝搬される振動が低減される。また、振動低減部材の設置や振動低減構造の構築のための別途の工程が不要となるから、施工コストの削減と工期の短縮とを図ることができる。
【0012】
本発明の第3の態様に係る振動低減構造体は、振動源から地盤を通じて生活環境に伝搬される振動を低減するために建物に設けられる振動低減構造体であって、前記振動低減構造体は建物の地盤中に位置して該地盤と接する外面部分に、凹凸形状による形状効果を利用して建物に伝搬される振動を低減するように構成された凹凸形状部が設けられていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の第3の態様によれば、建物の地盤中に位置して地盤と接する底面部及び側面部といった外面部分、すなわち地中で地盤に接するコンクリート製の外壁部分に凹凸形状部を設けることにより、第1の態様と同様に建物に伝搬される振動を低減することができる。すなわち、建物の地下構造部分の外壁部分に当該凹凸形状部を設けることによって建物に伝搬される振動を低減することができる。
【0014】
本発明の第4の態様に係る振動低減構造体は、本発明の第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記凹凸形状部はリブ状の凸部と溝状の凹部が規則的に互い違いに連続して配置されることによって構成されていることを特徴とするものである。
本発明の第4の態様によれば、耐圧板の底面あるいは地中壁の外壁面にリブ状の凸部と溝状の凹部を形成するという比較的簡単な構成によって、耐圧板あるいは地中壁の振動低減効果を向上させることができる。また、凸部と凹部の大きさ、形状、設置個数ないし間隔等を適宜変更することによって、適合する振動の周波数帯域を調整でき、他の振動低減工法等との組み合わせが容易になる。
【0015】
本発明の第5の態様に係る振動低減構造体は、本発明の第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記凹凸形状部は分断された状態の凸部と凹部が縦横に規則的に連続して配置されることによって構成されていることを特徴とするものである。
本発明の第5の態様によれば、耐圧板の底面あるいは地中壁の外壁面に分断された状態の凸部と凹部を形成するという比較的簡単な構成によって、耐圧板あるいは地中壁の振動低減効果を向上させることができる。また、凸部と凹部の大きさ、形状、設置個数ないし間隔等を適宜変更することによって、適合する振動の周波数帯域を調整でき、他の振動低減工法等との組み合わせが容易になる。
【0016】
本発明の第6の態様に係る振動低減構造体は、振動源から地盤を通じて生活環境に伝搬される振動を低減するために建物の基礎と別に設けられる振動低減構造体であって、前記振動低減構造体は地盤中に形成した地盤改質部であり、該地盤改質部と地盤非改質部分との境界領域を利用して建物に伝搬される振動を低減するように構成されていることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の第6の態様によれば、公知の地盤改良剤の注入等の方法によって建物近傍の地盤を改質して地盤改質部を設けることにより、該地盤改質部と地盤非改質部分との境界領域を利用して建物に伝搬される振動を低減することができる。この振動低減構造体は地盤を改良するだけで実現できるので、簡単且つ低コストに行える。
【0018】
本発明の第7の態様に係る振動低減工法は、振動源から地盤を通じて生活環境に伝搬される振動を低減するために建物に関する施工工事として実施される振動低減工法であって、
前記振動低減工法は、前記施工工事において本発明の第1の態様から第4の態様のいずれかの振動低減構造体を使用することを特徴とするものである。
【0019】
本発明の第7の態様によれば、既存の構造体の一部である耐圧板または地中壁或いは地盤改質部等を使用して、該耐圧板の底面に或いは地中壁の外壁面に凹凸形状部を設けるだけのことによって、或いは地盤を改質するだけで、伝搬されてくる振動が凹凸形状部或いは地盤改質部に衝突し、伝搬方向が変わって拡散ないし消失するため建物に伝搬される振動が低減される。また、振動低減部材の設置や振動低減構造の構築のための別途の工程が不要となるから、施工コストの削減と工期の短縮とを図ることができる。また、耐圧板の底面に凸部と凹部を形成するという比較的簡単な構成によって耐圧板の振動低減効果を向上させることができる。また、凸部と凹部の大きさ、形状、設置個数ないし間隔等を適宜可変することによって適合する振動の周波数帯域を調整でき、他の振動低減工法等との組み合わせが容易になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、既存の構造体の形状のみを変えることによって、或いは地盤を改質することによって、新たな部材や構造を追加することなく外部から来る振動を低減でき、他の振動低減工法との組み合わせが容易で適合する振動の周波数帯域を適宜調整でき、施工コストの削減と工期の短縮とを図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本願発明に係る振動低減構造体及び該振動低減構造体を使用した振動低減工法について下記の実施例1と実施例2を例に採って説明する。尚、以下の説明では最初に本発明の振動低減構造体の概略の構成について説明し、次に実施例1と実施例2を採り上げ、構成を異ならせた2種類の振動低減構造体の具体的な構成について説明し、次に当該振動低減構造体を使用して建物の基礎の側方における工事に適用する場合の振動低減工法と、建物の基礎の施工工事に適用する場合の振動低減工法について説明し、最後に本発明の効果と利用範囲を確認するために行った模擬実験1と模擬実験2の内容と結果について説明する。
【0022】
図1は実施例1に係る振動低減構造体を使用して建物の基礎の側方における工事に本発明の振動低減工法を適用した場合を示す斜視図、図2は実施例2に係る振動低減構造体を使用して建物の基礎の施工工事に本発明の振動低減工法を適用した場合を示す斜視図である。図3は実施例1に係る振動低減構造体の一例を示す斜視図(a)と横断面図(b)である。図4は実施例1に係る振動低減構造体の他の一例を示す斜視図、図5は実施例1に係る振動低減構造体の更に他の一例を示す斜視図である。図6は実施例2に係る振動低減構造体の一例を示す斜視図である。図7は実施例2に係る振動低減構造体の他の一例を示す斜視図、図8は実施例2に係る振動低減構造体の更に他の一例を示す斜視図である。
【0023】
図9は模擬実験において使用した基礎構造モデルと起振点および受振点の配置を示す模式図である。図10は模擬実験1において使用した耐圧板の基準モデル(a)と、4つの凹凸モデル(b)〜(e)を示す模式図である。図11は模擬実験1における基準モデルに対する2つの凹凸モデルの試験結果を示すグラフ(a)、(b)、図12は模擬実験1における基準モデルに対する他の2つの凹凸モデルの試験結果を示すグラフ(a)、(b)である。図13は模擬実験2において使用した耐圧板の基準モデル(a)と、2つの凹凸モデル(b)、(c)を示す模式図、図14は模擬実験2において使用した他の2つの凹凸モデル(a)、(b)と、他の比較モデル(c)を示す模式図である。また図15は模擬実験2における基準モデルに対する4つの凹凸モデルと1つの比較モデルの模擬実験結果を示すグラフである。
【0024】
本発明の振動低減構造体1は、図1、図2に示すように、道路2を走行する自動車3等を振動源として発せられた振動Vが地盤Gを通じて生活環境である居住スペースやオフィスを存する建物4に伝搬されるのを低減するために設けられる。また、振動低減構造体1は、建物4の基礎5の側方に設けられる既存の構造物であるコンクリート製の地中壁7、建物4の基礎5の一部として設けられる既存の構造物であるコンクリート製の耐圧板6を利用して一例として構成されている。
【0025】
即ち、本発明に係る振動低減構造体1の1つは、図1に示すように、建物4の基礎5における側方の地盤G中に直立姿勢で設けられる地中壁7自体によって構成されており、地盤Gと接する該地中壁7の外壁面10には凹凸形状部9が設けられている。また、本発明に係る振動低減構造体1の他の1つは、図2に示すように、建物4の基礎5の最下部において水平姿勢で設けられる耐圧板6自体によって構成されており、地盤Gと接する該耐圧板6の底面8には凹凸形状部9が設けられている。そして、これらの凹凸形状部9による形状効果を利用して建物4に伝搬される振動Vを低減させるように構成されている。
【0026】
[実施例1]
実施例1に係る振動低減構造体1は、矩形平板状の基板11と、該基板11の一面に形成される凹凸形状部9とを備えることによって構成されている。基板11は、それ自体、地盤Gを通じて伝搬されてくる振動Vを遮断して建物4に当該振動Vが伝搬されないようにする役割を有している。従って、基板11の厚さは、振動遮断効果を高めるという観点から言えばできるだけ肉厚であることが好ましい。しかし、基板11を過剰に肉厚にすると材料、施工コストを増大させる大きな要因となる。そのため、基板11の厚さは材料、施工コストとの兼合いと必要な振動低減レベル等を勘案して決定される。
【0027】
また、上記基板11は、すべての振動Vの周波数帯域に対して所望の振動低減効果を発揮するものではなく、基板11のみによっては遮断できなかった周波数帯域の振動Vの振動低減効果に寄与するのが凹凸形状部9である。そして、本実施例では凹凸形状部9は、リブ状の凸部12と溝状の凹部13が規則的に互い違いに連続して配置されることによって構成されている。
【0028】
そして、このような凹凸形状部9の一例が図3において開示されている。図3に示す凹凸形状部9には、蒲鉾状の縦に長い凸部12が密着状態で4本横方向に連接して設けられている。そして、横方向に連接した凸部12間に先端の尖った溝状の凹部13が3本連続して設けられており、このような凸部12と凹部13とを備えることによって凹凸形状部9が構成されている。そして、図3(b)に示すように、1つの凸部12の幅寸法Bが一例として0.3〜6.0m、0.3〜8.0mないし0.3〜10.0mで、1つの凸部12の高さ寸法Hが一例として0.1〜3.0m、0.1〜4.0mないし0.1〜5.0mになっている。
【0029】
また、図示は省略するが、1つの凹部13の幅寸法は、上記1つの凸部12の幅寸法Bと同じ一例として0.3〜6.0m、0.3〜8.0mないし0.3〜10.0mであり、1つの凹部13の深さ寸法は上記1つの凸部12の高さ寸法Hと同じ一例として0.1〜3.0m、0.1〜4.0mないし0.1〜5.0mになっているものでもよい。
【0030】
尚、上記凸部12と凹部13の寸法は、図3に示す凹凸形状部9に限らず、以下述べる図4、図5に示す凹凸形状部9、後述する実施例2に係る振動低減構造体1の凹凸形状部9の図6〜図8に示す種々の態様を含め、本発明の振動低減構造体1の凹凸形状部9における凸部12と凹部13の好ましい寸法設定値として適用される。
【0031】
図4には本実施例に係る振動低減構造体1の凹凸形状部9の他の一例が開示されている。図4に示す凹凸形状部9には、先端が尖った三角形断面の縦に長い凸部12が密着状態で4本横方向に連続して設けられている。そして、横方向に連接した凸部12間に先端の尖った同じく三角形断面の溝状の凹部13が3本連続して設けられている。尚、凹部13は三角形断面の溝状ではなく、平坦面あるいは緩やかな凹曲面などであってもよい。
【0032】
また、図5には本実施例に係る振動低減構造体1の凹凸形状部9の更に他の一例が開示されている。図5に示す凹凸形状部9には、中央が最も高くなるように階段状に形成された縦に長い凸部12が4本横方向に連続して設けられている。そして、横方向に連接した凸部12間に中央が最も低くなるように階段状に形成された縦に長い凹部13が3本横方向に連続して設けられている。
【0033】
[実施例2]
実施例2に係る振動低減構造体1は、基板11の一面に分断された状態の凸部12と凹部13が縦横に規則的に配置された凹凸形状部9を設けることによって構成されている。そして、このような凹凸形状部9の一例が図6において開示されている。図6に示す凹凸形状部9には、球面状の分断された凸部12が間隙14を隔てて縦に6つずつ、横に4つずつ、計24個、格子状に配設されている。そして、これらの凸部12間に形成される窪みが凹部13になっており、このような凸部12と凹部13とを備えることによって凹凸形状部9が構成されている。
【0034】
図7には本実施例に係る振動低減構造体1の凹凸形状部9の他の一例が開示されている。図7に示す凹凸形状部9には、中央が尖った四角錐形状の分断された凸部12が縦に6つずつ、横に4つずつ、計24個、格子状に密着状態で配設されている。そして、これらの凸部12間に形成される多面体形状の窪みが凹部13になっている。
【0035】
また、図8には本実施例に係る振動低減構造体1の凹凸形状部9の更に他の一例が開示されている。図8に示す凹凸形状部9には、大きさの違う矩形平板が階段状に積み重なった形状の分断された凸部12が間隙14を隔てて縦に6つずつ、横に4つずつ、計24個、格子状に配設されている。そして、これらの凸部12間に形成される階段状の窪みが凹部13になっている。
【0036】
次に、上記振動低減構造体1を使用して、(1)建物の基礎の側方における工事に適用する場合、(2)建物の基礎の施工工事に適用する場合に分けて本発明の振動低減工法について説明する。
【0037】
(1)建物の基礎の側方における工事に適用する場合(図1参照)
例えば既に建設されている建物4の振動低減効果を高めるために建物4の基礎5における側方の地盤G中に地中壁7を構築する場合に適用できる。即ち、上記地中壁7の施工に当たり、図1に示すように一面に凹凸形状部9を備えた上述の振動低減構造体1を使用する。具体的には凹凸形状部9を外方に向けて地盤Gに接した状態で地中壁7を垂直に形成し、その後は通常の地中壁7の工事の手順に従って地中壁7を完成させる。従って、この場合にも別途の部材を設けたり、別途の構造を構築する等の新たな工程を設けることなく、建物4の基礎5の付帯工事と併せて、振動低減構造体1の設置が完成し、所望の振動低減効果が得られるようになる。
【0038】
(2)建物の基礎の施工工事に適用する場合(図2参照)
この場合には建物4の基礎5の施工に当たり、図2に示すように基礎5の構成部材として最下部に配設される耐圧板6として一面に凹凸形状部9を備えた上述の振動低減構造体1を使用する。即ち凹凸形状部9を下に向けて地盤Gに接した状態で耐圧板6を配置し、その後は通常の基礎工事の手順に従って建物4の基礎5を完成させ、完成した基礎5の上方に建物4を構築する。従って、別途の部材を設けたり、別途の構造を構築する等の新たな工程を設けることなく、建物4の基礎5の施工工事と併せて振動低減構造体1の設置が完成し、所望の振動低減効果が得られるようになる。
【0039】
次に、本発明の効果と利用範囲を確認するために行った[模擬実験1]と[模擬実験2]の、(1)内容と(2)結果について説明する。尚、下記の模擬実験では図9に示すような基礎構造モデル15を使用し、図示のように起振点Pと受振点Qを配置した。起振点Pは地上と地中の2カ所に設定し、それぞれの場合について解析を行っている。地上の起振点Pの下にはコンクリート製の床板を設定した。また、受振点Qの下にもコンクリート製の床板を設定し、この下面形状を変化させて、その振動低減効果を調べた。
【0040】
地盤は、上層と下層とで異なる材料特性を設定している。上層地盤の材料として粘性土と砂質土の2種類を設定し、下層地盤は砂質土とした。
起振点の位置の違いによる2ケースと上層地盤の材料による2ケースを組み合わせて、計4ケースについて解析を行い、下面形状の違いが振動低減効果に与える影響を調べた。
【0041】
[模擬実験1]
(1)内容(図10(a)〜(e)参照)
本模擬実験では、図10(a)に示す厚さ20cm、幅5mの耐圧板6を基準モデル17に採り、凸部12と凹部13の大きさ、設置個数を異ならせた図10(b)〜(e)に示す4つの凹凸モデル18について、上記基準モデル17に対する1/3オクターブバンド(Oct)中心周波数と振動加速度レベル低減量の関係を調べ、条件をケース1〜4の4種類設定して、ケース毎、模擬実験を実施した。
尚、図10中の1マスは20cm×20cmであり、ケース1では起振点Pを地表面GLに採り、地盤Gの上層が粘土層、下層が砂質層の場合、ケース2では起振点Pを地盤G中に採り、地盤Gの上層が粘土層、下層が砂質層の場合、ケース3では起振点Pを地表面GLに採り、地盤Gの上層及び下層が砂質層の場合、ケース4では起振点Pを地盤G中に採り、地盤Gの上層及び下層が砂質層の場合をそれぞれ示している。
【0042】
(2)結果(図11(a)、(b)、図12(a)、(b)参照)
図10(b)に示す比較的大きめの凸部12を設けた凹凸モデル18の場合が、模擬実験した周波数帯域のほぼ全範囲を通じて振動低減効果が高いことが分かった。また、図11(a)に示すように、ケース1の場合の図10(b)の凹凸モデル18が振動低減効果が最も高くなるが、50Hz周辺の振動加速度レベル低減量が低くなっており、図11(b)に示すケース2と比較した場合において、起振点Pが地表面GLに存するような場合には50Hz周辺の周波数帯域の振動加速度レベル低減量を向上させる必要性があることが分かった。
【0043】
[模擬実験2]
(1)内容(図13(a)〜(c)、図14(a)〜(c)参照)
本模擬実験では、図13(a)に示す厚さ1m、幅6mの耐圧板6を基準モデル19に採り、凸部12の高さ寸法Hを80cmに固定し、凹部13の幅寸法(凸部12のピッチ間距離であり、凸部12の幅寸法Bと一致する)を1m、1.5m、2m、3mに採った図13(b)、(c)及び図24(a)、(b)に示す4つの凹凸モデル20と図14(c)に示す厚さ1.4m、幅6mの耐圧板6によって構成される比較モデル21について模擬実験を行った。
【0044】
尚、凹部13の幅寸法が1mの凹凸モデル20の場合がケース1であり、1.5mの凹凸モデル20の場合がケース2であり、2mの凹凸モデル20の場合がケース3であり、3mの凹凸モデル20の場合がケース4であり、比較モデル21の場合がケース5であり、これらのケース毎の基準モデル19に対する1/3オクターブバンド中心周波数と振動加速度レベル低減量の関係を調べ、模擬実験を実施した。
【0045】
(2)結果(図15参照)
図から分かるように凹凸形状部9を設けたり、耐圧板6の厚さを厚くすることによって振動低減効果が向上する。また、中心周波数が20〜40Hz及び80〜125Hzではケース1の場合(幅寸法Bの小さな凸部12が6つ設けられている場合)が振動低減効果が最も高くなり、ケース4の場合(幅寸法Bの大きな凸部12が2つ設けられている場合)が凹凸モデル20中で振動低減効果が最も低くなり、ケース5の場合(耐圧板6の厚さを肉厚にした場合)は更に振動低減効果が低くなるという結果が出た。
【0046】
これとは逆に、中心周波数が40〜80Hzではケース5の場合が振動低減効果が最も高くなり、ケース4、3、2の順で低くなり、ケース1の場合が振動低減効果が最も低くなるという結果が出た。従って、凸部12の高さ寸法Hが一定であれば、20〜40Hz及び80〜125Hzでは凸部12の数が多いほど振動低減効果が高くなり、40〜80Hzでは凸部12の数が少ないほど振動低減効果が高くなるということが言える。そして、このような関係を踏まえて凹凸形状部9の大きさや設置個数等を可変することによって振動低減効果を調整し、他の振動低減手段等と組み合わせることによってすべての周波数帯域に亘って所望の振動低減効果が得られるようにする。
【0047】
[他の実施例]
本願発明に係る振動低減構造体1、該振動低減構造体1を使用した振動低減工法は、以上述べたような構成を基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的な構成の変更や省略等を行うことも勿論可能である。例えば凸部12と凹部13の形状や配置は、図3〜図8に示すような構成に限定されることはなく、例えば円筒状や角筒状の凸部12としたり、凸部12や凹部13を同心円状に配置する等、他の種々の形状及び配置の凸部12と凹部13を採用することが可能である。また、凹凸形状部9を形成する基板11の面は平面に限定されることはなく、曲面等であっても構わない。また、形状の違う凸部12と凹部13を組み合わせて配置したり、他の振動低減手段と組み合わせて使用することも勿論可能である。
【0048】
また、公知の地盤改良剤の注入等の方法によって建物近傍の地盤を改質して地盤改質部を設けることにより、該地盤改質部と地盤非改質部分との境界領域を利用して建物に伝搬される振動を低減する異が可能である。この振動低減構造体は地盤を改質するだけで実現できるので、簡単且つ低コストに行える。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本願発明は、例えば近くに振動源が存する場所に建物を建設したり、建設後の建物の近くに後発的に振動源が存在するようになった場合に振動を低減し快適な生活環境を提供できるようにするために実施される建物の基礎の施工工事や建物の基礎の付帯工事等において利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例1に係る振動低減構造体を使用して建物の基礎の側方に設けられる地中壁に本発明の振動低減工法を適用した場合を示す斜視図である。
【図2】実施例2に係る振動低減構造体を使用して建物の基礎の施工工事に本発明の振動低減工法を適用した場合を示す斜視図である。
【図3】実施例1に係る振動低減構造体の一例を示す斜視図(a)と横断面図(b)である。
【図4】実施例1に係る振動低減構造体の他の一例を示す斜視図である。
【図5】実施例1に係る振動低減構造体の更に他の一例を示す斜視図である。
【図6】実施例2に係る振動低減構造体の一例を示す斜視図である。
【図7】実施例2に係る振動低減構造体の他の一例を示す斜視図である。
【図8】実施例2に係る振動低減構造体の更に他の一例を示す斜視図である。
【図9】模擬実験において使用した基礎構造モデルと起振点及び受振点の配置を示す模式図である。
【図10】模擬実験1において使用した耐圧板の基準モデル(a)と、4つの凹凸モデル(b)〜(e)を示す模式図である。
【図11】模擬実験1における基準モデルに対する2つの凹凸モデルの実験結果を示すグラフ(a)、(b)である。
【図12】模擬実験1における基準モデルに対する他の2つの凹凸モデルの実験結果を示すグラフ(a)、(b)である。
【図13】模擬実験2において使用した耐圧板の基準モデル(a)と、2つの凹凸モデル(b)、(c)を示す模式図である。
【図14】模擬実験2において使用した他の2つの凹凸モデル(a)、(b)と、他の比較モデル(c)を示す模式図である。
【図15】模擬実験2における基準モデルに対する4つの凹凸モデルと1つの比較モデルの実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0051】
1 振動低減構造体、2 道路、3 自動車(振動源)、4 建物、5 基礎、
6 耐圧板、7 地中壁、8 底面、9 凹凸形状部、10 外壁面、11 基板、
12 凸部、13 凹部、14 間隙、15 基礎構造モデル、
17 基準モデル(模擬実験1の)、18 凹凸モデル(模擬実験1の)、
19 基準モデル(模擬実験2の)、20 凹凸モデル(模擬実験2の)、
21 比較モデル(模擬実験2の)、V 振動、G 地盤、B 幅寸法、H 高さ寸法、
P 起振点、Q 受振点、GL 地表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動源から地盤を通じて生活環境に伝搬される振動を低減するために建物の基礎の一部として設けられる振動低減構造体であって、
前記振動低減構造体は建物の基礎の最下部に設けられる耐圧板であり、地盤と接する該耐圧板の底面に、凹凸形状による形状効果を利用して建物に伝搬される振動を低減するように構成された凹凸形状部が設けられていることを特徴とする振動低減構造体。
【請求項2】
振動源から地盤を通じて生活環境に伝搬される振動を低減するために建物の基礎と別に設けられる振動低減構造体であって、
前記振動低減構造体は建物の基礎の側方に設けられる地中壁であり、地盤と接する該地中壁の外壁面に、凹凸形状による形状効果を利用して建物に伝搬される振動を低減するように構成された凹凸形状部が設けられていることを特徴とする振動低減構造体。
【請求項3】
振動源から地盤を通じて生活環境に伝搬される振動を低減するために建物に設けられる振動低減構造体であって、
前記振動低減構造体は建物の地盤中に位置して該地盤と接する外面部分に、凹凸形状による形状効果を利用して建物に伝搬される振動を低減するように構成された凹凸形状部が設けられていることを特徴とする振動低減構造体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項において、前記凹凸形状部はリブ状の凸部と溝状の凹部が規則的に互い違いに連続して配置されることによって構成されていることを特徴とする振動低減構造体。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項において、前記凹凸形状部は分断された状態の凸部と凹部が縦横に規則的に連続して配置されることによって構成されていることを特徴とする振動低減構造体。
【請求項6】
振動源から地盤を通じて生活環境に伝搬される振動を低減するために建物の基礎と別に設けられる振動低減構造体であって、
前記振動低減構造体は地盤中に形成した地盤改質部であり、該地盤改質部と地盤非改質部分との境界領域を利用して建物に伝搬される振動を低減するように構成されていることを特徴とする振動低減構造体。
【請求項7】
振動源から地盤を通じて生活環境に伝搬される振動を低減するために建物に関する施工工事として実施される振動低減工法であって、
前記振動低減工法は、前記施工工事において請求項1から6のいずれか1項に記載された振動低減構造体を使用することを特徴とする振動低減工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−342508(P2006−342508A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166636(P2005−166636)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000148346)株式会社錢高組 (67)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)