説明

捕水剤及びこれを用いた有機電子デバイス

【課題】固体密着封止構造の有機EL素子において、有機層への影響がなく、充填時の流動性を確保できるとともに有機層への物理破壊が防止できる捕水剤を提供する。
【解決手段】絶縁性の素子基板上に有機層が一対の電極により挟持された積層体を内包するように前記素子基板と封止基板とで気密封止された気密容器内に充填される捕水剤であって、有機溶媒を添加した下記化学式で示される有機金属化合物を乾燥成分とし、前記乾燥成分との相溶性を有する粘性置換材料で前記有機溶媒を溶媒置換して得られることを特徴とする捕水剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密容器内に封入された電子部品の水分を長期に亘って捕水する捕水剤に関し、特に固体密着封止構造を有する有機EL素子に充填したときに有機層への影響がなく、充填時の流動性を確保して有機層への物理破壊が防止できる捕水剤及びこれを用いた有機電子デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL(Electroluminescence) 素子、有機発光デバイスである有機ELディスプレイや有機EL照明、更には有機半導体や有機太陽電池等の様々な有機電子デバイスについての研究が活発に行われており、広範な基本素子及び用途への展開が期待されている。
【0003】
そして、有機EL素子は、蛍光性有機化合物を含む薄膜である有機層を一対の電極をなす陽極と陰極との間に挟んだ構造であり、前記薄膜に正孔(ホール)及び電子を注入して再結合させることにより励起子(エキシトン)を生成させ、この励起子が失活する際の光の放出(蛍光・燐光)を利用する自発光素子である。
【0004】
ところで、上記有機EL素子の最大の課題は耐久性の改善であり、その中でもダークスポットと呼ばれる非発光部の発生とその成長の防止が最も大きな課題となっている。ダークスポットの直径が数10μmに成長すると目視で非発光部が確認できるようになる。ダークスポットの主原因としては、水分及び酸素の影響が最も大きいとされ、特に水分は極めて微量でも大きな影響を及ぼすということが知られている。
【0005】
そこで、水分を有機EL素子に侵入させない方法が考えられており、現在の代表的な封止構造としては、下記特許文献1に開示される「中空封止構造」が一般的と言える。この中空封止構造は、有機EL素子を乾燥させた不活性ガス雰囲気に封止することで、水分や酸素の浸入量を抑制する方法である。
【0006】
図5に示すように、有機EL素子31の中空封止構造は、絶縁性及び透光性を有する素子基板32上に、ITO膜による陽極35が形成されている。陽極35の上面には、例えば、分子線蒸着法、抵抗加熱法等のPVD法により、有機化合物材料の薄膜による有機層34が積層され、陽極35の上にホール注入層34aとしての銅フタロシアニン(CuPc)と、ホール注入層34aの上面にホール輸送層34bとしてのBis[N-(1-naphthyl)-N-pheny]benzidine(α−NPD)と、ホール注入層34bの上面に発光層兼電子輸送層34cとしてのトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3 )の3層構造からなる。そして陽極35、有機層34及び後述する陰極36との積層構造からなる積層体により、発光部が形成されている。また、陰極36は、有機層34における発光層兼電子輸送層34cの上面に金属薄膜として形成され、陰極の一部が素子基板32の端部まで引き出されて不図示の駆動回路に接続される。さらに、素子基板32、封止基板33、接着剤38により気密に保たれた容器内部の封止基板33上に乾燥手段として乾燥膜37が設けられている。
【0007】
ところが、中空封止構造では、封止シールの性能が十分でないため、内部に水分を化学若しくは物理吸着するための無機乾燥シート等の乾燥手段を設置する空間をつくるザグリ加工が必要となり製造コストが嵩むという問題があった。また、陰極上面に接触するものがなく、放射及びパネル内対流のみでしか放熱することができないため、例えば照明向け有機ELでは十分に排熱することができなかった。さらに、一定以上の大きさのパネルでは、中央部分を押下することで撓みが生じ、素子に接触して物理破壊する虞があった。
【0008】
そこで、下記特許文献1に開示されるような、放熱性とパネル強度に優れ、有機層をレジンやガラス膜の中に封止することで水分や酸素の浸入速度を遅くする「固体密着封止構造」が提案されている。
【0009】
図6に示すように、固体密着封止構造を有する有機EL素子41は、絶縁性及び透光性を有する素子基板42上に、ITO膜による陽極45が形成されている。陽極45の上面には、例えば、分子線蒸着法、抵抗加熱法等のPVD法により、有機化合物材料の薄膜による有機層44が積層され、陽極45の上にホール注入層44aとしての銅フタロシアニン(CuPc)と、ホール注入層44aの上面にホール輸送層44bとしてのBis[N-(1-naphthyl)-N-pheny]benzidine(α−NPD)と、ホール注入層44bの上面に発光層44cとしてのトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3 )と、発光層44cの上面に電子注入層44dとしてフッ化リチウム(LiF)の4層構造からなる。また、陰極46は、有機層44における発光層44dの上面に金属薄膜として形成され、バッファ層47を介して水分から保護する保護膜としてSiNやSiON、SiO2 等のパッシベーション膜48を物理蒸着により成膜している。そして、素子基板42、封止基板43、接着剤49により気密容器を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−33187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、有機EL素子で発生したEL光を封止基板側から外部に取り出す上面発光(トップエミッション)型の固体封止構造では、光を取り出す側となる保護基板上に透光性を有さない乾燥剤は自由に配置することが困難であり、乾燥剤を配置しない場合に封止性能が十分に確保できない可能性があるため、工数の多いパッシベーション膜で有機層を保護するように成膜している。従って、保護膜を成膜する工数が増えることにより、製造コストや製造時間が増加してしまうという問題があった。
【0012】
また、基板上の有機EL素子を封止基板で封止し、その中に乾燥手段である捕水剤を充填することでダークスポットの発生を抑制することも考えられるが、現在使用されている透光性を有する捕水剤には粘度を調整するための有機溶媒が添加されており、充填時に有機層と接触することで有機層が侵されてしまうという問題があった。このため、捕水剤を充填後に乾燥工程を行って有機溶媒を揮発させているが、この乾燥工程により乾燥した捕水剤は有機溶媒の揮発により硬化して内部充填が困難となり、また硬化した捕水剤との接触により有機層が物理破壊される虞があった。
【0013】
さらに、この種の捕水剤は、素子内の水分を吸着したときにひび割れを起こすことがあり、取り出す光が乱反射して透過率が減少してしまうため、特にトップエミッション型の構造には適用することができなかった。
【0014】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、固体密着封止構造の有機EL素子へ充填した際に有機層への影響がなく、充填時の流動性を確保して有機層の物理破壊を防止できる捕水剤及びこれを用いた有機電子デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した目的を達成するために、請求項1記載の捕水剤は、絶縁性の素子基板上に有機層が一対の電極により挟持された積層体を内包するように前記素子基板と封止基板とで気密封止された気密容器内に充填される捕水剤であって、
有機溶媒を添加した下記化学式(化1)で示される有機金属化合物を乾燥成分とし、前記乾燥成分との相溶性を有する粘性置換材料で前記有機溶媒を溶媒置換して得られることを特徴とする。
【0016】
【化1】

(式中、Rは炭素数1個以上のアルキル基,アリール基,アルコキシ基,シクロアルキル基,複素環基, アシル基を含む有機基を示し、Mは3価の金属原子を示し、nは重合度を示す1以上の整数である。なお、Rはそれぞれ同じ有機基でも異なる有機基でも良い。)
【0017】
請求項2記載の捕水剤は、絶縁性の素子基板上に有機層が一対の電極により挟持された積層体を内包するように前記素子基板と封止基板とで気密封止された気密容器内に充填される捕水剤であって、
有機溶媒を添加した下記化学式(化2)で示される有機金属化合物を乾燥成分とし、前記乾燥成分との相溶性を有する粘性置換材料で前記有機溶媒を溶媒置換して得られることを特徴とする。
【0018】
【化2】

(式中、R1 〜R3 、R5 は炭素数1 個以上のアルキル基,アリール基,アルコキシ基,シクロアルキル基,複素環基, アシル基を含む有機基を示し、Mは3価の金属原子を示す。なお、R1 〜R3 、R5 はそれぞれ同じ有機基でも異なる有機基でも良い。)
【0019】
請求項3記載の捕水剤は、絶縁性の素子基板上に有機層が一対の電極により挟持された積層体を内包するように前記素子基板と封止基板とで気密封止された気密容器内に充填される捕水剤であって、
有機溶媒を添加した下記化学式(化3)で示される有機金属化合物を乾燥成分とし、前記乾燥成分との相溶性を有する粘性置換材料で前記有機溶媒を溶媒置換して得られることを特徴とする。
【0020】
【化3】

(式中、R1 、R3 、R4 は炭素数1 個以上のアルキル基,アリール基,アルコキシ基,シクロアルキル基,複素環基, アシル基を含む有機基を示し、Mは4価の金属原子を示す。)
【0021】
請求項4記載の捕水剤は、請求項1〜3の何れかに記載の捕水剤において、前記粘性置換材料は、平均分子量300〜3700の範囲で、且つ含有濃度が5〜75%の範囲で60℃に加熱したときに600Pa・S以下の粘度が得られる長鎖炭化水素系高分子であることを特徴とする。
【0022】
請求項5記載の有機電子デバイスは、請求項1〜4の何れかに記載の捕水剤を気密容器内の捕水手段として当該容器内に充填したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の捕水剤によれば、固体密着封止構造を有する有機電子デバイスに用いた場合に、充填した補水剤によって有機層が侵されることのない新規の捕水剤を提供することができる。また、粘性置換材料が適度な粘度を有しているため、気密容器内に容易に充填できるとともに、外部からの衝撃を吸収して有機層の物理破壊を防止する効果を奏することができる。さらに、捕水時にひび割れ等を起こさず非透明化しないため、素子基板と反対側から光を取り出すトップエミッション型の構造にも採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係る固体密着封止構造の有機EL素子の構成を示す断面図である。
【図2】本発明に係る捕水剤における温度と粘度の特性を示すグラフである。
【図3】(a)〜(d) 本発明に係る固体密着封止構造の有機EL素子の製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明に係る捕水剤を用いた有機EL素子の経過時間における発光面積率を示すグラフである。
【図5】従来の中空封止構造の有機EL素子の断面図である。
【図6】従来の固体密着封止構造の有機EL素子の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではなく、この形態に基づいて当業者等によりなされる実施可能な他の形態、実施例及び運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれる。
【0026】
本発明の捕水剤は、例えば有機EL素子をはじめとして有機ELディスプレイ、有機EL照明、有機半導体、有機太陽電池等の、絶縁性の素子基板上に有機層が一対の電極により挟持された積層体を素子基板と封止基板とで気密封止する固体密着封止構造の各種有機電子デバイスに使用され、水分を吸着して有機層におけるダークスポットの発生を抑制するためのものである。なお、以下の説明では、本例の捕水剤を有機EL素子に用いた例で説明する。
【0027】
図1に示すように、固体密着封止構造の有機EL素子1は、絶縁性及び透光性を有する矩形状のガラス基板からなる素子基板2を基部としている。図1において、素子基板2の上には、透明性を有する導電材料として、ITO膜による陽極5が形成されている。ITO膜は、例えば 真空蒸着法、スパッタ法等のPVD(Physical Vapor Deposition )法により素子基板2に成膜される。その後、フォトレジスト法の手段によるエッチングで所定パターン形状にパターニングされ、陽極5を形成する。電極としての前記陽極5の一部は、素子基板2の端部まで引き出されて不図示の駆動回路に接続される。
【0028】
陽極5の上面には、例えば、真空蒸着法、抵抗加熱法等のPVD法により、有機化合物材料の薄膜による有機層4が積層されている。図1の例における有機層4は、陽極5の上に数10nmの膜厚で形成されたホール注入層4aとしての銅フタロシアニン(CuPc)と、ホール注入層4aの上面に数10nmの膜厚で成膜されたホール輸送層4bとしてのBis[N-(1-naphthyl)-N-pheny]benzidine(α−NPD)と、ホール輸送層4bの上面に数10nmの膜厚で成膜される発光層4cとしてのトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3 )、発光層4cの上面に数nmの膜厚で成膜される電子輸送層4dとしてのフッ化リチウム(LiF)の4層構造からなる。そして、陽極5、有機層4及び後述する陰極6との積層構造からなる積層体により、発光部が形成されている。
【0029】
陰極6は、図1に示すように有機層4(電子輸送層4d)の上面に金属薄膜が形成されている。金属薄膜の材料としては、例えばAl、Li、Mg、In等の仕事関数の小さい金属材料単体やAl−Li、Mg−Ag等の仕事関数の小さい合金からなる。陰極6は、例えば数10nm〜数100nm(好ましくは50nm〜200nm)の膜厚で形成される。陰極6の一部は、素子基板2の端部まで引き出されて不図示の駆動回路に接続される。
【0030】
素子基板2の外周部には、水分を極力取り除いた不活性ガス(例えばドライ窒素)やドライエアによるドライ雰囲気において、封止部材として矩形状の封止基板3が、例えば紫外線硬化樹脂による封止シール剤8により固定されている。これにより、陽極5、有機層4及び陰極6を保護している。
【0031】
また、素子基板2、封止基板3、封止シール剤8により気密に保たれた容器内部に乾燥手段として化1に示す乾燥成分として機能する有機金属化合物に、有機金属化合物に混合された有機溶媒と溶媒置換する粘性置換材料を添加して得られた捕水剤7が充填される。
【0032】
ここで、有機EL素子1に充填される捕水剤7に添加される乾燥剤と粘性置換材料について説明する。
[乾燥剤]
本例の捕水剤7における乾燥成分として機能する乾燥剤は、(化1)に示すように式中Rは炭素数1個以上のアルキル基,アリール基,アルコキシ基,シクロアルキル基,複素環基, アシル基を含む有機基を示し、Mは3価の金属原子を示し、nは重合度を示す1以上の整数である有機金属化合物である。
【0033】
この(化1)に示す有機金属化合物がn=3となるとき、下記化学式(化4)に示すようにR1 〜R3 は独立に炭素数1個以上のアルキル基,アリール基,アルコキシ基,シクロアルキル基,複素環基,アシル基を含む有機基を示し、Mは3価の金属原子を示す環状構造となる。また、(化1)が環状構造となったときの水との反応式を下記化学式(化5)に示す。(化5)に示すように、反応は水分子と付加反応を行い、容器内の水分を捕水する。
【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

以上から、この有機金属化合物が化学的に水分を除去する機能を有することが推定できる。
【0036】
下記に置換基の一例を示すがこれに限られるものではなく、Rはそれぞれ同じ有機基でも異なる有機基でも良い。
Rは、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、シクロアルキル基、複素環基、アシル基を示す。アルキル基は置換若しくは未置換のものであるが、具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル等とあるが好ましくは炭素数が8以上のものが良い。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。アルケニル基は置換もしくは未置換のもので、具体例としてはビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキシセニル基等があり、好ましくは炭素数が8以上のものが良い。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0037】
アリール基は置換若しくは未置換のもので、具体例としては、フェニル基、トリル基、4-シアノフェニル基、ビフェニル基、o,m,p−テルフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、9−フェニルアントラニル基、9,10−ジフェニルアントラニル基、ピレニル基等がありが好ましくは炭素数が8以上のものが良い。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0038】
置換若しくは未置換のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基等でありが好ましくは炭素数が8以上のものが良い。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0039】
置換若しくは未置換のシクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボナン基、アダマンタン基、4−メチルシクロヘキシル基、4−シアノシクロヘキシル基等であり好ましくは炭素数が8以上のものが良い。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0040】
置換若しくは未置換の複素環基の具体例としては、ピロール基、ピロリン基、ピラゾール基、ピラゾリン基、イミダゾール基、トリアゾール基、ピリジン基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、トリアジン基、インドール基、ベンズイミダゾール基、プリン基、キノリン基、イソキノリン基、シノリン基、キノキサリン基、ベンゾキノリン基、フルオレノン基、ジシアノフルオレノン基、カルバゾール基、オキサゾール基、オキサジアゾール基、チアゾール基、チアジアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ビスベンゾオキサゾール基、ビスベンゾチアゾール基、ビスベンゾイミダゾール基等がある。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0041】
置換若しくは未置換のアシル基の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、ピメロイル基、スベロイル基、アゼラオイル基、セバコイル基、アクリロイル基、プロピオロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、イソクロトノイル基、オレオイル基、エライドイル基、マレオイル基、フマロイル基、シトラコノイル基、メサコノイル基、カンホロイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、イソフタロイル基、テレフタロイル基、ナフトイル基、トルオイル基、ヒドロアトロポイル基、アトロポイル基、シンナモイル基、フロイル基、テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、グリコロイル基、ラクトイル基、グリセロイル基、タルトロノイル基、マロイル基、タルタロイル基、トロポイル基、ベンジロイル基、サリチロイル基、アニソイル基、バニロイル基、ベラトロイル基、ピペロニロイル基、プロトカテクオイル基、ガロイル基、グリオキシロイル基、ピルボイル基、アセトアセチル基、メソオキサリル基、メソオキサロ基、オキサルアセチル基、オキサルアセト基、レブリノイル基これらのアシル基にフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが置換しても良い。好ましくはアシル基の炭素は8以上が良い。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0042】
Rを上記置換基で置換し、3価金属がアルミニウムである有機金属化合物の一例として下記化学式(化6)〜(化13)が上げられる。
【0043】
【化6】

【0044】
【化7】

【0045】
【化8】

【0046】
【化9】

【0047】
【化10】

【0048】
【化11】

【0049】
【化12】

【0050】
【化13】

【0051】
更に、本願発明者らは(化2)に示す有機金属化合物が、下記化学式(化14)に示すように水分子と置換反応を行い捕水することを見出し、有機EL素子の乾燥剤として使用できるという作用・原理を有するものと推定されることから、(化2)に示す有機金属化合物が乾燥手段として有効であることを見出した。
【0052】
【化14】

【0053】
下記に置換基の一例を示すがこれらに限られるものではない。R1 〜R3 、R5 は、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、シクロアルキル基、複素環基、アシル基を示す。アルキル基は置換若しくは未置換のものであるが、具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル等がある。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。アルケニル基は置換もしくは未置換のもので、具体例としてはビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキシセニル基等があり、好ましくは炭素数が8以上のものが良い。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0054】
アリール基は置換若しくは未置換のもので、具体例としては、フェニル基、トリル基、4−シアノフェニル基、ビフェニル基、o,m,p−テルフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、9−フェニルアントラニル基、9, 10−ジフェニルアントラニル基、ピレニル基等がある。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0055】
置換若しくは未置換のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基等である。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0056】
置換若しくは未置換のシクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボナン基、アダマンタン基、4−メチルシクロヘキシル基、4−シアノシクロヘキシル基等である。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0057】
置換若しくは未置換の複素環基の具体例としては、ピロール基、ピロリン基、ピラゾール基、ピラゾリン基、イミダゾール基、トリアゾール基、ピリジン基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、トリアジン基、インドール基、ベンズイミダゾール基、プリン基、キノリン基、イソキノリン基、シノリン基、キノキサリン基、ベンゾキノリン基、フルオレノン基、ジシアノフルオレノン基、カルバゾール基、オキサゾール基、オキサジアゾール基、チアゾール基、チアジアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ビスベンゾオキサゾール基、ビスベンゾチアゾール基、ビスベンゾイミダゾール基等がある。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0058】
置換若しくは未置換のアシル基の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、ピメロイル基、スベロイル基、アゼラオイル基、セバコイル基、アクリロイル基、プロピオロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、イソクロトノイル基、オレオイル基、エライドイル基、マレオイル基、フマロイル基、シトラコノイル基、メサコノイル基、カンホロイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、イソフタロイル基、テレフタロイル基、ナフトイル基、トルオイル基、ヒドロアトロポイル基、アトロポイル基、シンナモイル基、フロイル基、テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、グリコロイル基、ラクトイル基、グリセロイル基、タルトロノイル基、マロイル基、タルタロイル基、トロポイル基、ベンジロイル基、サリチロイル基、アニソイル基、バニロイル基、ベラトロイル基、ピペロニロイル基、プロトカテクオイル基、ガロイル基、グリオキシロイル基、ピルボイル基、アセトアセチル基、メソオキサリル基、メソオキサロ基、オキサルアセチル基、オキサルアセト基、レブリノイル基これらのアシル基にフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが置換しても良い。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0059】
Rを上記置換基で置換し、3価金属がアルミニウムである有機金属化合物の一例として下記化学式(化15)〜(化18)の有機金属化合物が上げられる。
【0060】
【化15】

【0061】
【化16】

【0062】
【化17】

【0063】
【化18】

【0064】
3価金属がランタンである有機金属化合物の1例として下記化学式(化19)で表される化合物がある。
【0065】
【化19】

【0066】
3価金属がイットリウムである有機金属化合物の1例として下記化学式(化20)で表される化合物がある。
【0067】
【化20】

【0068】
3価金属がガリウムである有機金属化合物の1例として下記化学式(化21)で表される化合物がある。
【0069】
【化21】

【0070】
更に、本願発明者らは(化3)に示す有機金属化合物が、(化2)と同様、化学式(化14)に示すように水分子と置換反応を行い捕水することを見出し、有機EL素子の乾燥剤として使用できるという作用・原理を有するものと推定されることから、(化3)に示す有機金属化合物が乾燥手段として有効であることを見出した。下記に置換基の一例を示すがこれらに限られるものではない。
【0071】
1 、R3 、R4 は、炭素数1個以上のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、シクロアルキル基、複素環基、アシル基を示す。アルキル基は置換もしくは未置換のものであるが、具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル等がある。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。アルケニル基は置換もしくは未置換のもので、具体例としてはビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキシセニル基等があり、好ましくは炭素数が8以上のものが良い。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0072】
アリール基は置換もしくは未置換のもので、具体例としては、フェニル基、トリル基、4-シアノフェニル基、ビフェニル基、o,m,p−テルフェニル基、ナフチル基、アントラニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、9−フェニルアントラニル基、9,10−ジフェニルアントラニル基、ピレニル基等がある。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0073】
置換もしくは未置換のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、トリクロロメトキシ基、トリフルオロメトキシ基等である。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0074】
置換もしくは未置換のシクロアルキル基の具体例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボナン基、アダマンタン基、4−メチルシクロヘキシル基、4−シアノシクロヘキシル基等である。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0075】
置換もしくは未置換の複素環基の具体例としては、ピロール基、ピロリン基、ピラゾール基、ピラゾリン基、イミダゾール基、トリアゾール基、ピリジン基、ピリダジン基、ピリミジン基、ピラジン基、トリアジン基、インドール基、ベンズイミダゾール基、プリン基、キノリン基、イソキノリン基、シノリン基、キノキサリン基、ベンゾキノリン基、フルオレノン基、ジシアノフルオレノン基、カルバゾール基、オキサゾール基、オキサジアゾール基、チアゾール基、チアジアゾール基、ベンゾオキサゾール基、ベンゾチアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ビスベンゾオキサゾール基、ビスベンゾチアゾール基、ビスベンゾイミダゾール基等がある。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0076】
置換もしくは未置換のアシル基の具体例としては、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基、グルタリル基、アジポイル基、ピメロイル基、スベロイル基、アゼラオイル基、セバコイル基、アクリロイル基、プロピオロイル基、メタクリロイル基、クロトノイル基、イソクロトノイル基、オレオイル基、エライドイル基、マレオイル基、フマロイル基、シトラコノイル基、メサコノイル基、カンホロイル基、ベンゾイル基、フタロイル基、イソフタロイル基、テレフタロイル基、ナフトイル基、トルオイル基、ヒドロアトロポイル基、アトロポイル基、シンナモイル基、フロイル基、テノイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、グリコロイル基、ラクトイル基、グリセロイル基、タルトロノイル基、マロイル基、タルタロイル基、トロポイル基、ベンジロイル基、サリチロイル基、アニソイル基、バニロイル基、ベラトロイル基、ピペロニロイル基、プロトカテクオイル基、ガロイル基、グリオキシロイル基、ピルボイル基、アセトアセチル基、メソオキサリル基、メソオキサロ基、オキサルアセチル基、オキサルアセト基、レブリノイル基これらのアシル基にフッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが置換しても良い。またこれらのオリゴマー、ポリマーでも良い。
【0077】
Rを上記置換基で置換し、4価金属がゲルマニウム、シリコンである有機金属化合物の一例として(化22)(化23)の有機金属化合物が上げられる。
【0078】
【化22】

【0079】
【化23】

【0080】
さらに、(化1)(化2)(化3)で表される物質はトルエン、キシレン等の芳香族有機溶剤、n−デカン等の脂肪族有機溶剤に溶解することから、一般的な乾燥剤である、ゼオライト等の物理吸着型乾燥剤、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等の化学吸着型乾燥剤を分散して装着出来るという作用・原理を有するものと推定される。
【0081】
[粘性置換材料]
乾燥剤に添加された有機溶媒と溶媒置換する粘性置換材料としては、乾燥剤との相溶性と充填時に充填しやすいよう適度な粘度とを有し、有機EL素子に充填した際に有機層4の侵さない材料であり、下記に示す長鎖炭化水素系高分子、シリコーンオイル、液化合成ゴムの3種類の材料を任意に選択して用いることができる。また、素子基板2と反対側から光を取り出すトップエミッション型の構造に採用しても捕水時にひび割れ等により非透明化しない性質を有する。
【0082】
(長鎖炭化水素系高分子)
長鎖炭化水素系高分子としては、平均分子量300〜3700の範囲で、且つ含有濃度が5〜75%の範囲で60℃に加熱したときに600Pa・S以下の粘度が得られる長鎖炭化水素系高分子であり、下記化学式(化24)に示す組成を有する。なお、有機層4の平均分子量は約500〜600であり、この範囲付近では有機層4が侵されやすくなるため、使用する長鎖炭化水素系高分子の平均分子量は600以上であること方が好ましい。
【0083】
【化24】

【0084】
長鎖炭化水素系高分子の添加量としては、有機金属化合物に添加される有機溶媒の添加量や捕水剤7の充填方法(ディスペンサ法、スクリーン印刷法、スプレー法、ホットメルト法等)により添加量を適宜調整可能であるが、概ね5〜95wt%の範囲で投入することができ、例えばディスペンサ法では25〜75wt%の範囲が好ましい。すなわち、塗布作業は塗布する対象の粘度が600Pa・S以下の範囲であることが好ましい。また、長鎖炭化水素系高分子の平均分子量が1400以下の場合は、添加量を5〜75wt%にするのが好ましい。図2は、平均分子量が1400の長鎖炭化水素系高分子の添加量に応じた温度と粘度の特性を示すグラフであるが、図示のように平均分子量1400の長鎖炭化水素系高分子の添加量が5〜75wt%のとき、60℃で600Pa・s以下の粘度が得られやすいことがわかる。なお、封止基板3に捕水剤7を塗布する場合に捕水剤7の柔軟性を高めて塗布しやすくするため、塗布時に常温よりも高温(30〜60℃)をかけることで塗布作業がしやすくなる。
【0085】
(シリコーンオイル)
シリコーンオイルとしては、組成として下記化学式(化25)に示すようなメチル基の一部に各種有機基を導入した両末端型カルボキシ変性構造若しくは下記化学式(化26)に示すような側鎖型カルボキシ変性構造を有する。
【0086】
【化25】

【0087】
【化26】

【0088】
また、シリコーンオイルの添加量としては、有機金属化合物に添加される有機溶媒の添加量や捕水剤7の充填方法(ディスペンサ法、スクリーン印刷法、スプレー法、ホットメルト法等)により添加量を適宜調整可能であり、例えばディスペンサ法では10〜25wt%が好ましい。
【0089】
(液化合成ゴム)
液化合成ゴムとしては、平均分子量4200の末端カルボキシル基含有ブタジエンゴムであり、下記化学式(化27)に示す組成を有する。
【0090】
【化27】

【0091】
また、液化合成ゴムの添加量としては、有機金属化合物に添加される有機溶媒の添加量や捕水剤7の充填方法(ディスペンサ法、スクリーン印刷法、スプレー法、ホットメルト法等)により添加量を適宜調整可能であり、例えばディスペンサ法では10〜25wt%が好ましい。
【実施例】
【0092】
次に、本発明に係る捕水剤7の合成工程及びこの捕水剤7を用いた有機EL素子の製造工程についてそれぞれ具体的に説明する。なお、下記工程は本発明を限定するものではなく、前・後記の趣旨に照らし合わせて設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0093】
[実施例1]
(捕水剤の合成方法)
(化5)で表される有機金属化合物の一つである、アルミニウムオキサイドオクチレートと沸点170℃のn−デカンを10wt%混和して、n−デカン濃度10%の乾燥剤を作製する。
【0094】
次に、この乾燥剤をナス型フラスコに150g採り、粘性置換材料としてポリブテン(HV15(平均分子量630):新日本石油(株)製)を15g加え、エバポレータで真空加熱した。これにより乾燥剤に含まれるn−デカンを蒸発させ、粘性置換材料であるポリブテンに溶媒置換された捕水剤7を得た。
【0095】
[有機EL素子の製造方法]
まず、図3(a)に示すように、素子基板2上に透明性を有する導電材料としてITOによる陽極を140nmの膜厚でスパッタ法により成膜し、さらにフォトレジスト法によるエッチングで所定パターン形状にパターニングし、陽極5を形成する。なお、ITOの一部は素子基板2の端部まで引き出され不図示の駆動回路と接続している。次に、陽極5の上面に、抵抗加熱法により70nmの膜厚で形成されたホール注入層4aとしての銅フタロシアニン(CuPc)と、ホール注入層4aの上面に30nmの膜厚で成膜されたホール輸送層4bとしてのBis[N-(1-naphthyl)-N-pheny]benzidine(α−NPD)と、ホール輸送層4bの上面に50nmの膜厚で成膜される発光層4cとしてのトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(Alq3 )を成膜した。次に、発光層4cの上面に7nmの膜厚で成膜される電子輸送層4dとしてのフッ化リチウム(LiF)を成膜し、さらに陰極6としてAlを150nmの膜厚で物理蒸着した。なお、陰極6の一部は、素子基板2の端部まで引き出されて不図示の駆動回路に接続される。
【0096】
露点−76℃以下の窒素で置換されたグローブボックス中で、図3(b)に示すように、封止基板3上に、上記合成した捕水剤7を予め計測した容器内に充填可能な容量だけディスペンサで塗布した。次に、封止基板上に充填した捕水剤7を囲むように紫外線硬化型樹脂からなる封止シール剤8をディスペンサで塗布した。
【0097】
そして、図3(c)に示すように、有機層4を積層した素子基板2と封止基板3とを貼り合わせた後UV照射及び80℃の加熱により封止し、図3(d)に示すように気密容器内に補水剤7が充填された固体密着封止構造の有機EL素子1を得た。
【0098】
図4は、この有機EL素子1の発光部について、温度85℃、湿度85%の環境での高温高湿放置試験における300時間経過後のダークスポットの成長について顕微鏡観察した。
比較対象として、上記(化5)で示したアルミニウムオキサイドオクチレート(商品名ホープ製薬製オリープ AOO)に有機溶媒(石油系炭化水素)の量が全体の約52wt%となるよう混合したものを、300〜500Pa・s(25℃)のディスペンサ等で塗布可能な粘度まで真空加熱して溶媒成分を13wt%になるまで除去した従来の捕水剤を使用した中空封止構造の有機EL素子を用いた。
【0099】
図示のように、300時間経過後の点灯時の状態は、従来の捕水剤7を150℃で10分間乾燥したときと同等の発光面積率であった。また780時間経過後も同等であり、十分製品性能を満足する結果であった。さらに、従来の捕水剤7に乾燥処理を施さずに有機EL素子に実装した場合、有機溶媒の蒸発により有機層4が侵されダークスポット(非発光部)が多数発生したが、本例の捕水剤7を実装した素子の場合、有機溶媒が粘性置換材料に溶媒置換されているため、有機層4が侵されることなく初期状態と差異はなった。
【0100】
[実施例2]
実施例2は、実施例1で使用した捕水剤7の粘性置換材料として変性シリコーンオイル(X−22−3701E:信越化学工業(株)製)に替えた。その他は実施例1と同様である。その後、温度85℃、湿度85%の環境での高温高湿放置試験における200時間経過後のダークスポットの成長について顕微鏡観察した。比較対象は、実施例1と同様にアルミニウムオキサイドオクチレートを有機金属化合物とした溶媒成分が13wt%である従来の捕水剤を使用した中空封止構造の有機EL素子を用いた。
【0101】
図4に示すように、300時間経過後の点灯時の状態は、従来の捕水剤を150℃で10分間乾燥したときと略同等の発光面積率であった。また780時間経過後も同等であり、本例の捕水剤7は製品性能を十分満足する結果であった。さらに、本例の捕水剤7を実装した素子の場合、有機溶媒が粘性置換材料に溶媒置換されているため、有機層4が侵されることなく初期状態と差異はなかった。
【0102】
[実施例3]
実施例3は、実施例1で使用した捕水剤7の粘性置換材料として末端カルボキシル基含有ブタジエンゴム(HYCAR CTB 2000:宇部興産(株)製)に替えた。その他は実施例1と同様である。その後、温度85℃、湿度85%の環境での高温高湿放置試験における200時間経過後のダークスポットの成長について顕微鏡観察した。比較対象は、実施例1と同様にアルミニウムオキサイドオクチレートを有機金属化合物とした溶媒成分が13wt%である従来の捕水剤を使用した中空封止構造の有機EL素子を用いた。
【0103】
図4に示すように、300時間経過後の点灯時の状態は、従来の捕水剤を150℃で10分間乾燥したときと略同等の発光面積率であった。また780時間経過後も、従来の捕水剤に比べて発光面積率が約10%程度落ちるものの、本例の捕水剤7は製品性能を十分満足する結果であった。さらに、本例の捕水剤7を実装した素子の場合、有機溶媒が粘性置換材料に溶媒置換されているため、有機層4が侵されることなく初期状態と差異はなかった。
【0104】
[実施例4]
実施例4は、捕水剤7の粘性置換材料として変性シリコーンオイル(X−22−162C:信越化学工業(株)製)に替えた。その他は実施例1と同様である。その後、温度85℃、湿度85%の環境での高温高湿放置試験における200時間経過後のダークスポットの成長について顕微鏡観察した。比較対象は、実施例1と同様にアルミニウムオキサイドオクチレートを有機金属化合物とした溶媒成分が13wt%である従来の捕水剤を使用した中空封止構造の有機EL素子を用いた。
【0105】
図4に示すように、300時間経過後の点灯時の状態は、従来の捕水剤7を150℃で10分間乾燥したときと略同等の発光面積率であった。また、780時間経過後も、従来の捕水剤7に比べて発光面積率が約20%程度落ちるものの、本例の捕水剤7は十分製品性能を満足する結果であった。さらに、本例の捕水剤7を実装した素子の場合、有機溶媒が粘性置換材料に溶媒置換されているため、有機層4が侵されることなく初期状態と差異はなかった。
【符号の説明】
【0106】
1…有機EL素子
2…素子基板
3…封止基板
4…有機層(4a…ホール注入層、4b…ホール輸送層、4c…発光層、4d…電子輸送層)
5…陽極
6…陰極
7…捕水剤
8…封止シール剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性の素子基板上に有機層が一対の電極により挟持された積層体を内包するように前記素子基板と封止基板とで気密封止された気密容器内に充填される捕水剤であって、
有機溶媒を添加した下記化学式(化1)で示される有機金属化合物を乾燥成分とし、前記乾燥成分との相溶性を有する粘性置換材料で前記有機溶媒を溶媒置換して得られることを特徴とする捕水剤。
【化1】

(式中、Rは炭素数1個以上のアルキル基,アリール基,アルコキシ基,シクロアルキル基,複素環基, アシル基を含む有機基を示し、Mは3価の金属原子を示し、nは重合度を示す1以上の整数である。なお、Rはそれぞれ同じ有機基でも異なる有機基でも良い。)
【請求項2】
絶縁性の素子基板上に有機層が一対の電極により挟持された積層体を内包するように前記素子基板と封止基板とで気密封止された気密容器内に充填される捕水剤であって、
有機溶媒を添加した下記化学式(化2)で示される有機金属化合物を乾燥成分とし、前記乾燥成分との相溶性を有する粘性置換材料で前記有機溶媒を溶媒置換して得られることを特徴とする捕水剤。
【化2】

(式中、R1 〜R3 、R5 は炭素数1 個以上のアルキル基,アリール基,アルコキシ基,シクロアルキル基,複素環基, アシル基を含む有機基を示し、Mは3価の金属原子を示す。なお、R1 〜R3 、R5 はそれぞれ同じ有機基でも異なる有機基でも良い。)
【請求項3】
絶縁性の素子基板上に有機層が一対の電極により挟持された積層体を内包するように前記素子基板と封止基板とで気密封止された気密容器内に充填される捕水剤であって、
有機溶媒を添加した下記化学式(化3)で示される有機金属化合物を乾燥成分とし、前記乾燥成分との相溶性を有する粘性置換材料で前記有機溶媒を溶媒置換して得られることを特徴とする捕水剤。
【化3】

(式中、R1 、R3 、R4 は炭素数1 個以上のアルキル基,アリール基,アルコキシ基,シクロアルキル基,複素環基, アシル基を含む有機基を示し、Mは4価の金属原子を示す。)
【請求項4】
前記粘性置換材料は、平均分子量300〜3700の範囲で、且つ含有濃度が5〜75%の範囲で60℃に加熱したときに600Pa・S以下の粘度が得られる長鎖炭化水素系高分子であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の捕水剤。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の捕水剤を気密容器内の捕水手段として当該容器内に充填したことを特徴とする有機電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−38660(P2012−38660A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179670(P2010−179670)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【出願人】(000201814)双葉電子工業株式会社 (201)
【Fターム(参考)】