説明

捲縮性を有する分繊用マルチフィラメント

【課題】捲縮性マルチフィラメントを効率よく分繊して捲縮したモノフィラメントを得ること。
【解決手段】単一種類の熱可塑性重合体を溶融紡糸して得られる異型断面繊維であって、その断面の長軸(外接円の径)と短軸(内接円の最大径)との長さ比率が3〜15対1であり、単糸繊度が5乃至55dtexであり、120℃において1.1倍延伸した後の糸長1m当りの捲縮頻度が50山から200山までの捲縮性を有する分繊用マルチフィラメント。この扁平断面繊維は、異種重合体を貼合わせた複合繊維と異なり、分繊時にフィブリル化を起こすことがなく、作業性よく分繊できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単一のポリマーを用いることによって得られる異型断面を有する分繊用マルチフィラメントに関するものであり、繊維製造後の後工程において捲縮を付与することなく、繊維製造工程において捲縮性を備えた分繊用マルチフィラメントに関し、さらにマルチフィラメントを分繊して得られるモノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、マルチフィラメントを分繊する技術は、単に衣料用途のみならず、一般産業用の資材用途にも幅広く用いられてきており、その技術の適応範囲が拡大してきている。
また、分繊用のマルチフィラメントに後加工により捲縮を付与した後に分繊することによって得られる捲縮処理の施された分繊モノフィラメントのニーズも高まってきている。
この分繊用マルチフィラメントに後工程で捲縮を付与する方法には、例えば仮撚加工法などが挙げられるが、捲縮加工は低速度での処理となりコストが嵩むだけでなく、その加工糸の分繊には特殊な手法が必要となる。
【0003】
また、後工程を設けることなく、繊維に捲縮を与えるための製糸技術としては、熱収縮率の異なる2種類以上の熱可塑性樹脂を使用し繊維断面の両サイドにおいて、これら複種類のポリマーを貼り合わせるサイドバイサイド型のコンジュゲート紡糸技術が挙げられる。この技術には特殊な紡糸設備が必要であり、設備投資費用が高くなってしまうことや、分繊工程においてポリマー接合面が剥離し、フィブリルを起こし、分繊作業性が低くなるという問題があった。
【0004】
本発明は、防視認性又は遮光性を呈する布帛の製造において、扁平断面繊維を適用すると、布帛を構成する繊維のカバーファクターが大きくなり、防視認性効果や遮光効果が向上することを知見した際に(特開2004−162194号公報参照)、派生的に見出した扁平断面繊維の潜在的性質である捲縮性能を利用するものである。
【特許文献1】特開2004−162194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、単独ポリマー使いでありながら、後工程を経ることなく捲縮を備え、分繊性に優れた分繊用マルチフィラメント、及びマルチフィラメントを分繊してなるモノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂の溶融紡糸の際に、扁平度が特定範囲である繊維の場合に異方性冷却が生じ、扁平断面繊維に捲縮性能を付与できることが判明し、発明を完成させたのである。
【0007】
即ち、請求項1に係る発明は、単一種類の熱可塑性重合体を用いることによって得られる異型断面繊維であって、その断面の外接円と内接円との直径比率が3〜15であり、単糸繊度が5から55dtexであり、120℃において1.1倍延伸した後の糸長1m当りの捲縮頻度が50山から200山までの捲縮性を有する分繊用マルチフィラメントである。
【0008】
ここに、単一種類の熱可塑性重合体とは、単にホモポリマーのみでなく、均質に共重合されたコポリマーを含む。これを要するに、本発明では従来技術の主流である複数種の異種ポリマーの組合わせによるコンポジット構造を適用する必要性がないことが本発明の特徴である。
【0009】
また、その断面の外接円と内接円との直径比率が3〜15であれば、その断面形状は、三角形状でも四辺形でも、構わない。本発明は、熱可塑性樹脂が溶融紡糸ノズルから吐出される際に、異型・扁平形状に基づく異方冷却効果を利用したものである。原理的に広く扁平形状の繊維やフィルムヤーンに適用できるものである。
【0010】
請求項2に係わる発明は、請求項1に記載の分繊用マルチフィラメントであって、その断面形状の長軸と短軸との断面偏平度が3〜15である偏平断面糸である。断面形状から、長方形若しくは端部が丸みを帯びた長方形や楕円形を想定できよう。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の分繊用マルチフィラメントでその断面形状が2箇所以上のくびれ部を有する断面偏平度が3〜15である偏平断面糸である。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の分繊用マルチフィラメントを分繊して得たモノフィラメントである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数種の異種ポリマーをサイドバイサイド型に貼り合わせるまでもなく、単一ポリマーから捲縮性を呈する扁平断面繊維が得られる。本発明では、溶融紡糸が容易に実施できるばかりでなく、設備も通常と同様に簡易であって、作業性が良好でることに加え、故障がほとんど発生しないことから、設備装置のメンテナンスも容易であり、しかも生産コストが低い利点がある。
【0014】
さらに、分繊において、本発明の扁平状捲縮繊維は、異種ポリマーをサイドバイサイド型に貼り合わせたものに較べ、接合面における剥離がなく、したがってフィブリル化の心配もなく、分繊時の作業性がよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本発明で提供されるマルチフィラメントは、ポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂から形成されるものであり、具体的には、ポレエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート等があるが、その用途によって適切なものが使用される。
【0016】
この捲縮を有する分繊用マルチフィラメントを得るためには、単糸繊度が5乃至55dtex(好ましくは11乃至33dtex)であり、単糸断面形状が異型断面繊維であって、その断面と外接円と内接円との直径の比率が3〜15対1である。この異型断面繊維はその形状として長方形や楕円形を選択することができ、扁平断面の形状寸法として長軸と短軸との長さの比率を3〜15対1となしうる。また、この扁平断面繊維はその断面形状として、さらに2箇所以上のくびれ部を有するものをも選択できる。
【0017】
本発明では、断面形状を上記のように規定することによって、紡糸口金から溶融紡出されたポリマーを冷却する際に、その繊維断面方向の冷却速度に差異が生じ、その結果繊維断面方向の配向差が生まれ、捲縮を有する糸となる。外接円と内接円との直径の比率あるいは偏平断面の長軸と短軸との断面偏平度が、もしも3よりも小さいときには捲縮性が殆ど得られない。また、もしも扁平度が15を超えると製糸性が悪くなり、このような超扁平度の扁平繊維を生産性よく製造することは困難となる。
【0018】
即ち、本発明においては、衣料用や産業資材用のポリエステルやポリアミドからなる単一種類の熱可塑性重合体を用い、これを異型断面ノズルから溶融紡糸することによって得られる異型断面繊維であって、その断面の長軸(外接円)と短軸(内接円の最大径)との長さ比率が3〜15対1であり、単糸繊度が5乃至55dtexである扁平断面繊維を通常の手段で製造する。この扁平断面繊維は120℃において1.1倍延伸した後の糸長1m当りの捲縮頻度が50山から200山までの捲縮性を有する。そして、1度の溶融紡糸において捲縮したマルチフィラメントを効率よく製造でき、このマルチフィラメントを作業性よく分繊して高品質のモノフィラメントを得ることができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例中に記載されている評価は以下に示す方法によって測定した。
(1)捲縮性
分繊したサンプルを120℃の乾熱雰囲気中にて糸速度10m/分、1.1倍延伸処理した後、無荷重状態のサンプル糸長20cmの山数を5回計測し、1mあたりの捲縮性として表わす。
(2)分繊性
10kg捲に巻き取ったドラム状パッケージ50個を分繊速度600m/minで4本のモノフィラメントに糸切れなく分繊できた割合を%で示した。
【0020】
[実施例1]
固有粘度0.64のポリエチレンテレフタレートを図1に示す断面偏平度4となるような口金から、紡糸温度290℃で紡出し、油剤を付与し、紡糸速度900m/minで引き取った後、一旦巻き取ることなく、予熱温度90℃、熱セット温度120℃、延伸倍率4.0の条件で延伸し、3500m/minの速度でドラム状に巻き取り、総繊度66dtex、フィラメント数4、単糸繊度15dtexの本発明の異型断面繊維からなるマルチフィラメントを得た。
得られたマルチフィラメントを以下の各方法で評価を行った結果を表1に示す。
【0021】
[実施例2]
実施例1において、紡糸口金を変更し、図2に示す断面の外接円と内接円との直径比率を6に変更した以外は、実施例1と同様にして分繊用マルチフィラメントを得てそれらを分繊してモノフィラメントを得た。その結果を表1に示す。
【0022】
[実施例3]
実施例1において、紡糸口金を変更し、図3に示す断面形状が2箇のくびれ部を有し断面偏平度が4である偏平断面糸に変更した以外は、実施例1と同様にして、分繊用マルチフィラメントを得てそれらを分繊してモノフィラメントを得た。その結果を表1に示す。
【0023】
[比較例1及び比較例2]
実施例1において、紡糸口金を変更し、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして分繊用マルチフィラメントを得て、それらを分繊してモノフィラメントを得た。その結果を表1に示す。
【0024】
[比較例3]
固有粘度0.64と0.45のポリエチレンテレフタレートをサイドバイサイドのコンジュゲートで貼りあわせたもので繊維断面が丸断面となるような口金から、実施例1と同様にして分繊用マルチフィラメントを得た。その結果を表1に纏めて示す。
【0025】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、複数種の異種ポリマーをサイドバイサイド型に貼り合わせるまでもなく、単一ポリマーから捲縮性を呈する扁平断面繊維が得られる。本発明では、溶融紡糸が容易に実施できるばかりでなく、設備も通常と同様に簡易であって、作業性が良好でることに加え、故障がほとんど発生しないことから、設備装置のメンテナンスも容易であり、しかも生産コストが低い利点がある。
【0027】
さらに、分繊において、本発明の扁平状捲縮繊維は、異種ポリマーをサイドバイサイド型に貼り合わせたものに較べ、接合面における剥離がなく、したがってフィブリル化の心配もなく、分繊時の作業性がよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例となる扁平断面繊維の例示であって、繊維断面の長軸(A)と短軸の最大径(B)との関係を模式的に示す図である。
【図2】本発明の実施例となる三角断面繊維の例示であって、繊維断面の外接円直径(A)と内接円直径(B)との関係を模式図として示したものである。
【図3】本発明の実施例となる括れを4個有する扁平断面繊維の例であって、繊維断面の長軸(A)と短軸の最大径(B)との関係を模式的に示している。
【符号の説明】
【0029】
A 繊維断面の長軸又は三角断面繊維の外接円直径
B 繊維断面の短軸の最大径又は三角断面繊維の内接円直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一種類の熱可塑性重合体を用いることによって得られる異型断面繊維であって、その断面の外接円と内接円との直径比率が3〜15対1の範囲であり、単糸繊度が5乃至55dtexであり、120℃における1.1倍延伸後の繊維長1m当りの捲縮数が50山乃至200山の捲縮性を有する分繊用マルチフィラメント。
【請求項2】
マルチフィラメンを構成する個々のモノフィラメントはその断面が長方形若しくは端部が丸みを帯びた長方形又は楕円形であって、長軸と短軸との断面偏平度が3〜15対1の範囲である偏平断面糸からなる請求項1に記載の分繊用マルチフィラメント。
【請求項3】
マルチフィラメンを構成する個々のモノフィラメントはその断面形状が2箇所以上のくびれ部を有し、しかも長軸と短軸との断面偏平度が3〜15対1の範囲である偏平断面糸からなる請求項1に記載の分繊用マルチフィラメント。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の分繊用マルチフィラメントを分繊して得られる扁平断面を有するモノフィラメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−138360(P2007−138360A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−336913(P2005−336913)
【出願日】平成17年11月22日(2005.11.22)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】