説明

排ガス再結合器及びその触媒温度測定方法

【課題】原子力発電所等において設置される気体廃棄物処理システムの排ガス再結合器において、内部に充填された金属触媒の温度を監視することができる排ガス再結合器を提供する。
【解決手段】金属触媒を内蔵する排ガス再結合器において、内部に熱電対を内蔵する温度計ウェルを排ガス再結合器の内部に設置することにより、熱電対周囲の金属触媒温度を監視する。これにより、金属触媒の再結合性能を監視するとともに、金属触媒の寿命および交換時期を把握する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力発電所等において設置される気体廃棄物処理システムにおける排ガス再結合器及びその内部に充填される金属触媒の温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガス再結合器は、例えば、特許文献1に記載されているように原子力発電所に設置される気体廃棄物処理システムに用いられ、金属触媒を内蔵しており、原子力発電所において、放射線の照射により水蒸気から分解され発生する酸素と水素を触媒作用により再結合させるために設置されている。
【0003】
金属触媒の再結合性能は、触媒の経年劣化や触媒毒物質の被毒による影響により低下することが知られており、例えば、特許文献2や特許文献3に記載されているように金属触媒の再結合性能が低下すると、金属触媒から発せられる酸素と水素の反応熱が減少し、金属触媒および触媒近傍の周囲温度が低下することが知られている。
【0004】
また、特許文献4では反応域の入り口、出口および内部に複数の温度センサが設けられている。さらに特許文献5に示す様に、ハニカム状の触媒層に温度センサを差し込む例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−55270号公報
【特許文献2】実開昭62−61919号公報
【特許文献3】特開平9−166015号公報
【特許文献4】特開2009−216707号公報
【特許文献5】特開2001−310114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
原子力発電所においては、排ガス再結合器内部に設置された金属触媒の経年劣化又は触媒毒物質等の影響により、酸素と水素の再結合性能が低下し、水素を含んだ排ガスが排ガス再結合器を通った際に十分に再結合反応を達成できなかった場合、下流出口における水素濃度が上昇する。運転中に水素濃度が上昇すると、水素燃焼発生の可能性があり、安全上の観点から発電所の運転が停止される。このため、排ガス再結合器内部に設置された金属触媒の運転中における再結合性能の低下を把握することは極めて重要である。
【0007】
従来の排ガス再結合器は排ガス出口側配管に温度計を設置し、排ガス温度から触媒による水素と酸素の再結合反応に伴う反応熱を監視し、金属触媒の再結合性能の劣化を監視している。しかし、上記の構成では排ガスの温度低下を検知した時点では既に水素濃度が上昇している可能性がある。このため、触媒が完全に劣化する以前に、事前に触媒劣化状況を把握するためには、反応システムの上流部分で触媒又は触媒近傍の温度を監視することが有効である。
【0008】
しかし、これまでの金属触媒を使用した排ガス再結合器では排ガス再結合器内部に設置された金属触媒の温度を直接測定することが困難であった。排ガス再結合器はメンテナンス時の金属触媒交換作業性を考慮し容器内にカートリッジを設けて金属触媒を収納する二重構造を用いており、温度計を任意の領域に挿入することは構造上の制約があり、金属触媒の性能状況を容易に把握することができないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、排ガスを内部に給送する金属触媒が充填されたカートリッジを有する気体廃棄物処理システムの排ガス再結合器において、前記カートリッジ内の金属触媒の複数測定領域における反応温度を検出する複数の温度センサを設けたことを特徴とする。
【0010】
また、温度センサを設置する複数測定領域は、カートリッジ内の金属触媒の排ガス給送方向における異なる測定領域であることを特徴とする。
【0011】
また、温度センサは、前記カートリッジの金属触媒内に排ガス給送方向に挿入した温度計ウェル内に前記温度検出する複数測定領域毎に保持されることを特徴とする。
【0012】
また、温度計ウェルは排ガスに対し機密性を有することを特徴とする。
【0013】
また、温度センサは熱電対で構成したことを特徴とする。
【0014】
また、温度計ウェルは複数のスペーサブロックを有し、各スペーサブロックにより保持した前記熱電対により、各スペーサブロック設置測定領域の金属触媒周囲温度を測定することを特徴とする。
【0015】
また、温度計ウェルと金属触媒の間に隙間からの排ガスの漏れを防止するリーク防止板を設けたことを特徴とする。
【0016】
また、温度計ウェルは前記排ガス再結合器の下部配管に設けられた管台に支持され、また排ガス再結合器の上鏡板に設けられた管台に支持されることを特徴とする。
【0017】
また、カートリッジ外面の排ガス給送方向各測定領域に、排ガス再結合器の側面から複数の温度計ウェルを押圧したことを特徴とする。温度計ウェルは少なくともその一部に軸方向に可撓性を持つベローズを有する。
【0018】
さらに、排ガスを内部に給送する金属触媒が充填されたカートリッジを有し、前記金属触媒の排ガス給送方向の複数測定領域における反応温度を検出する複数の温度センサを有する気体廃棄物処理システムの排ガス再結合器の温度制御方法において、各測定領域の温度を測定し、各測定領域の温度が所定閾値以下に低下した時点で各測定領域における金属触媒の劣化を示す警告情報を出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、金属触媒カートリッジの内部に挿入された温度センサにより、排ガス再結合器内部に設置された金属触媒の任意領域における周囲温度を測定することができる。これにより、酸素と水素の再結合反応に伴い金属触媒から発せられる反応熱の変化を常時監視することができ、金属触媒の経年劣化又は触媒毒による再結合性能低下の兆候を反応領域で直ちに検知して、金属触媒の寿命および交換時期を迅速かつ正確に把握し適切に対応することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態による排ガス再結合器を示す断面図である。
【図2】図1のA部拡大断面図である。
【図3】本発明の金属触媒中の排ガスリーク防止構造を示す部分断面図である。
【図4】第1の実施形態の温度ウェルの詳細を示す模式図である。
【図5】図4の測定領域(a)(b)(c)における金属触媒の温度変化を示すグラフである。
【図6】本発明の第2の実施形態による排ガス再結合器を示す断面図である。
【図7】図6のB部拡大断面図である。
【図8】本発明の第3の実施形態による排ガス再結合器を示す断面図である。
【図9】図8のC部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
〔第1の実施形態〕
図1において、排ガス再結合器1は、原子力発電所に設置される気体廃棄物処理システムに用いられ、縦置円筒型の圧力容器からなる。排ガス再結合器1内部を流れる流体は、酸素、水素、水蒸気等から成る排ガスである。排ガス再結合器1内部には、水蒸気の一部が分解されて発生する酸素と水素を再結合させるために設けられた金属触媒2を収納するカートリッジ3が備えられている。4は排ガス再結合器1の入口である。
【0022】
金属触媒2は、多孔質のアルミナ基材に水素と酸素の結合を促す活性化金属(Pt、Pd等)を担持させた薄板構造の触媒を排ガス再結合器1のカートリッジ3内に積層形成させた構造を有する。
【0023】
図2に示す様に、排ガス再結合器1の下部配管6には管台7が設置されており、金属触媒層およびカートリッジ底板中心部に設けられた孔を貫通するように配置された温度計ウェル8が、この管台7により保持されている。温度計ウェル8を挿入するため、図3に示す様に各金属触媒2の中心部に孔5が設けられ、カートリッジ3の底板中心部に孔6が設けられている。温度計ウェル8には金属触媒2の層毎に円盤状のリーク防止部材14を設置して金属触媒2の孔5と温度計ウェル8との隙間からの排ガスの漏れを防止している。
【0024】
図4に示す様に、温度計ウェル8の内部には、金属等の熱伝導性の良い材質からなる複数のスペーサブロック10が配置されており、各スペーサブロック10には、案内管11に収納された熱電対12が取り付けられている。未反応の水素ガスが温度計ウェル8の内部を通じて流れるバイパスリークを防止するために、温度計ウェル8の上端にキャップ12を取り付け気密性を保つ。
【0025】
上部のスペーサブロック10に取り付けられる案内管11は、下部のスペーサブロック10を貫通し、上部のスペーサブロック10に保持される。金属触媒2の周囲温度を測定する熱電対12は、熱電対12先端の温度検出部が各スペーサブロック10に保持固定され周囲温度を検出する。この構成により、金属触媒2から生じる反応熱が温度計ウェル8を介してスペーサブロック10に固定された熱電対12に伝わり、金属触媒2の周囲温度が測定される。測定データは図示しない制御装置で処理され、システム制御に用いられる。
【0026】
各スペーサブロック10を任意の領域に設置することにより、任意の領域における金属触媒2の周囲温度を測定することができ、これにより金属触媒の全体にわたって再結合器性能を監視することができる。
【0027】
図5は図4の領域(a)(b)(c)における金属触媒周囲温度の測定状態を示すグラフである。金属触媒の寿命に対応する長期間の時間軸を横軸に取り、金属触媒の反応熱による温度を縦軸に取る。領域(a)に対応した温度曲線(a)では所定条件の下で例えば320℃で反応を持続し、金属触媒の劣化により徐々に反応温度が低下する。順次温度曲線(b)、温度曲線(c)のように金属触媒の劣化が進行してゆく。これらのデータは常時制御装置で監視され、必要に応じオペレータにディスプレイ等により伝達される。各温度曲線において反応温度が例えば300℃に低下したときに、各温度領域における金属触媒2が劣化したと判断してカートリッジ3を交換する。このとき、警告灯、警告表示、警告音等の警告情報を出力して、金属触媒2の交換を促すことができる。
【0028】
これに依れば、金属触媒2が完全に劣化して水素ガスが排出される前に、確実にカートリッジ3を交換できるので、排ガス再結合器1を安全に使用できる。金属触媒2は例えば40層程度の触媒層から構成され、上部から10層目を領域(a)、20層目を領域(b)、30層目を領域(c)と設定して、劣化状態を測定する。
〔第2の実施形態〕
図6は、本発明の第2の実施形態による排ガス再結合器の全体構成を示す断面図であり、図7は、排ガス再結合器上部鏡板管台と温度計ウェルとの取り合い構造を示す拡大断面図である。
【0029】
本実施形態による排ガス再結合器20は、金属触媒21に孔22が設けられ、カートリッジ23底部に孔24が設けられている。また、排ガス再結合器20の上鏡板25には、管台26が設置されており、金属触媒21およびカートリッジ底部に設けられた孔22、24を貫通するように配置された温度計ウェル27が、管台26により保持される。温度計ウェル27側面での排ガスのリーク防止構造は、前記第1の実施形態と同様である。
【0030】
上記構成により、前記第1の実施形態と同様に任意領域における金属触媒の周囲温度を測定することができ、これにより任意の領域での金属触媒の再結合性能を監視することが可能となる。
〔第3の実施形態〕
図8は、本発明の第3の実施形態による排ガス再結合器の全体構成を示す断面図であり、図9は、排ガス再結合器胴板と温度計ウェルとの取り合い構造を示す拡大断面図である。
【0031】
本実施形態における排ガス再結合器30の胴板31は貫通孔32を有し、貫通孔32には温度計ウェル取り付け用の座33が設けられている。温度計ウェル34の先端には管内側から熱電対35が取り付けられ、外側はカートリッジ36に接している。また、終端は取り付け用の座を有する管状構造としている。
【0032】
さらに、温度計ウェル34の一部をウェル長さが伸縮可能なベローズ37として、排ガス再結合器30の運転時の高温発熱に伴う構成部材の熱膨張を吸収している。温度計ウェル34は、先端から排ガス再結合器胴板31の貫通孔32に挿入され、排ガス再結合器30内部に固定されたカートリッジ36の外面に先端部が密着した状態で、座33に固定される。
【0033】
上記構成により、排ガス再結合器30内部に設置されたカートリッジ36が熱膨張した場合においても、温度計ウェル34先端部がカートリッジ36外面に密着した状態となり、カートリッジ36内部に充填された金属触媒38から生じる酸素と水素の反応熱の変化をカートリッジ36外面および温度計ウェル34の先端を通じ、温度計ウェル34内の熱伝対35により温度変化を測定・監視することができる。これにより、排ガス再結合器内部に充填された金属触媒の再結合性能を把握することができる。
【符号の説明】
【0034】
1、20、30:排ガス再結合器
2:金属触媒
3、23、36:カートリッジ
6:下部配管
8、27、34:温度計ウェル
10:スペーサブロック
11:案内管
12、35:熱電対
14:リーク防止板
25:上鏡板
37:ベローズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガスを内部に給送する金属触媒が充填されたカートリッジを有する気体廃棄物処理システムの排ガス再結合器において、前記カートリッジ内の金属触媒の複数測定領域における反応温度を検出する複数の温度センサを設けたことを特徴とする排ガス再結合器。
【請求項2】
請求項1において、前記温度センサを設置する複数測定領域は、カートリッジ内の金属触媒の排ガス給送方向における異なる測定領域であることを特徴とする排ガス再結合器。
【請求項3】
請求項1または2において、前記温度センサは、前記カートリッジの金属触媒内に排ガス給送方向に挿入した温度計ウェル内に前記温度検出する複数測定領域毎に保持されることを特徴とする排ガス再結合器。
【請求項4】
請求項3において、前記温度計ウェルは排ガスに対し機密性を有することを特徴とする排ガス再結合器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記温度センサを熱電対で構成したことを特徴とする排ガス再結合器。
【請求項6】
請求項5において、前記温度計ウェルは複数のスペーサブロックを有し、各スペーサブロックにより保持した前記熱電対により、各スペーサブロック設置測定領域の金属触媒周囲温度を測定することを特徴とする排ガス再結合器。
【請求項7】
請求項3において、前記温度計ウェルと金属触媒の間に隙間からの排ガスの漏れを防止するリーク防止板を設けたことを特徴とする排ガス再結合器。
【請求項8】
請求項3において、前記温度計ウェルは前記排ガス再結合器の下部配管に設けられた管台に支持されることを特徴とする排ガス再結合器。
【請求項9】
請求項3において、前記温度計ウェルは前記排ガス再結合器の上鏡板に設けられた管台に支持されることを特徴とする排ガス再結合器。
【請求項10】
請求項1又は2において、前記カートリッジ外面の排ガス給送方向各測定領域に、排ガス再結合器の側面から複数の温度計ウェルを押圧したことを特徴とする排ガス再結合器。
【請求項11】
請求項10において、前記温度計ウェルは少なくともその一部に軸方向に可撓性を持つベローズを有することを特徴とする排ガス再結合器。
【請求項12】
排ガスを内部に給送する金属触媒が充填されたカートリッジを有し、前記金属触媒の排ガス給送方向の複数測定領域における反応温度を検出する複数の温度センサを有する気体廃棄物処理システムの排ガス再結合器の温度制御方法において、
各測定領域の温度を測定し、各測定領域の温度が所定閾値以下に低下した時点で各測定領域における金属触媒の劣化を示す警告情報を出力することを特徴とする排ガス再結合器の触媒温度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−179992(P2011−179992A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44983(P2010−44983)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(507250427)日立GEニュークリア・エナジー株式会社 (858)