説明

排ガス浄化フィルタ、排ガス浄化フィルタの製造方法

【課題】粒子状物質の高捕集効率と低圧力損失とを共有できる排ガス浄化フィルタを提供することを目的とする。
【解決手段】粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備えた排ガス浄化フィルタであって、前記フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、該隔壁の表面に、前記隔壁の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜が設けられ、前記多孔質膜の表面の少なくとも一部に、深さが当該多孔質膜の厚さよりも浅い微小みぞが形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のディーゼルエンジンなどから排出される排ガスから粒子状物質を除去するための排ガス浄化フィルタおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等のエンジン、特にディーゼルエンジンから排出される排ガス中に含まれる種々の物質は、大気汚染の原因となり、これまでに様々な環境問題を引き起こしている。特に排ガス中に含まれる粒子状物質(PM:Particulate Matter)は、喘息や花粉症のようなアレルギー症状を引き起こす原因と言われている。
一般に、自動車用ディーゼルエンジンでは、粒子状物質を捕集するための排ガス浄化フィルタとして、セラミックス製の目封じタイプのハニカム構造体(フィルタ基体)を有するDPF(Diesel Particulate Filter)が使用されている。このハニカム構造体は、セラミックス製のハニカム構造体のセル(ガス流路)の両端を市松模様に目封じしたものであり、このセル間の隔壁中の細孔を排ガスが通過する際、粒子状物質が捕集される(例えば特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、このようなDPFでは、隔壁中の細孔径がPMの粒子径よりも大きいために、特に使用初期や、再生処理(PM除去によるフィルタの目詰まり解消処理)の直後の状態においては、PMの捕集率が十分ではないという問題があった。すなわち、DPFは、PMがある程度捕集され隔壁表面にPMの層が形成されることで始めて捕集率が向上するため、使用初期や再生直後の捕集率が低いという問題があった。この問題を解決するため、隔壁の表面ないしは隔壁中の細孔内に、微小間隔を有する微粒子の凝集体を連接装備して、通気性を有し且つPMを捕集する微細孔構造を設けた構造が提案されている(特許文献3)。
また、DPFにおける触媒成分の有効利用を目的として、コージェライト等の多孔質無機基材の表面に、10nm〜200nmの粒子間隙間よりなる細孔とこの細孔同士を連通させる10nm以下の粒子間隙間よりなる細孔連通孔とを有するアルミナ等の酸化物粒子からなるコート層を形成し、このコート層における細孔内に、触媒成分を担持させる構造も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−23512号公報
【特許文献2】特開平09−77573号公報
【特許文献3】特開2005−296935号公報
【特許文献4】特開2006−239544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3,4で示された、多孔質基材の表面ないしは孔中に微細孔を有するコート層(多孔質膜)を形成する構造の場合、確かに使用初期や再生直後からPMの捕集率は高いが、微細孔を有する多孔質膜による通気性の減少から圧力損失が増大するという問題点があった。
圧力損失増大を抑えるためには、微細孔を有する多孔質膜の気孔率を高めるとともにその膜厚を薄くすればよいが、気孔率を高め膜厚を薄くした場合には、多孔質膜の強度低下を招き、微細孔を有する多孔質膜の破損を招きやすくなるという問題点があった。特に、DPFにおいては、使用時の温度が高温である上に不使用時には外気温度まで冷却され、さらには、捕集されたPMを燃焼させることで除去する再生処理を行う場合には、繰り返し高温の熱履歴を受けるため、多孔質膜の破損を招きやすい。
また、膜厚を薄くした場合には、均質な多孔質膜を得ることが難しくなり、隔壁や多孔質基材の表面のみに膜体が形成され、本来多孔質膜が必要とされる隔壁中の細孔中や多孔質基材の孔上には膜体が形成されない、あるいは膜体が形成されても多孔質膜中に開口部が発生する、等の問題点があった。
【0006】
以上のように、粒子状物質の捕集というDPFの目的に即して、粒子状物質の捕集率の向上や圧力損失の抑制という観点から、多孔質基材の表面ないしは孔中に微細孔を有するコート層(多孔質膜)を形成する構造による効果が検討されている。しかし、捕集した粒子状物質をDPFから除去する再生処理、具体的には、排気ガス中に燃料を導入して燃焼させること等により排気ガスの温度を上昇させ、DPFに捕集されている粒子状物質を燃焼除去する処理における、処理時間の短縮や処理温度の低下ということについては検討がなされていない。
このように、微細孔を有する膜体を形成させた構造のDPFにおいても、PMの高捕集効率と低圧力損失を共有でき、さらには再生条件の改善も行うことができるような、良好な特性を有するものを得ることは難しかった。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、PMの高捕集効率と低圧力損失とを共有できる排ガス浄化フィルタを提供することを目的とする。また、このような排ガス浄化フィルタを容易に製造する製造方法を提供することをあわせて目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、多孔質基材からなる隔壁の表面に、微細孔を有する多孔質膜を設けるとともに、多孔質膜の表面の少なくとも一部に、深さが当該多孔質膜の膜厚よりも浅い微小みぞを形成することにより、粒子状物質の高捕集効率と低圧力損失を共有できる排ガス浄化フィルタが得られることを見出し、さらに、多孔質膜の材質として炭化ケイ素を選択した場合には、微小みぞの存在により排ガス浄化フィルタの再生時における処理時間の減少と処理温度の低減を図ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の排ガス浄化フィルタは、粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備えた排ガス浄化フィルタであって、前記フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、該隔壁の表面に、前記隔壁の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜が設けられ、前記多孔質膜の表面の少なくとも一部に、深さが当該多孔質膜の厚さよりも浅い微小みぞが形成されていることを特徴とする。
【0010】
前記多孔質膜表面における前記微小みぞの存在割合は、前記多孔質膜の膜面方向の投影面積をF、前記微小みぞの同方向への投影面積をGとしたときに、0.05≦G/F≦1であることが好ましい。
前記微小みぞは、幅が1μm以上であり、深さが0.5μm以上かつ15μm以下であることが好ましい。
前記多孔質膜の厚さが5μm以上かつ80μm以下であることが好ましい。
前記多孔質膜の気孔径は、前記フィルタ基体の気孔径よりも小さく、かつ前記多孔質膜の表面側の気孔径が、前記多孔質膜の前記フィルタ基体側の気孔径よりも小さいことが好ましい。
前記多孔質膜の材質が、炭化ケイ素を主成分としていることが好ましい。
【0011】
本発明の排ガス浄化フィルタの製造方法は、上述の排ガス浄化フィルタの製造方法であって、少なくとも、多孔質膜を形成するための粒子成分と、分散媒と、を含有する塗料を用意する工程と、前記塗料をフィルタ基体の表面上に塗布して塗布膜を形成する工程と、前期塗布膜中の分散媒の一部を除去することにより、流動性を喪失した塗膜を形成させる工程と、前記流動性を喪失した塗膜中の分散媒をさらに除去することにより、塗膜表面に微小みぞを形成させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の排ガス浄化フィルタの他の製造方法は、少なくとも、多孔質膜を形成するための粒子成分と、分散媒と、バインダー成分と、を含有する塗料を用意する工程と、前記塗料をフィルタ基体の表面上に塗布してバインダー成分を含有する塗布膜を形成する工程と、前記バインダー成分を含有する塗布膜中の分散媒を除去することにより、硬化した塗膜を形成させる工程と、前記硬化した塗膜中のバインダー成分を除去することにより、塗膜表面に微小みぞを形成させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
なお、本発明において「塗布膜」とは、塗料を塗布して得られる塗料の膜を指し、「塗膜」とは、塗布膜から分散媒の一部または全部を除去して塗布膜を乾燥させることにより、流動性を失った膜を指す。
【0014】
前記粒子成分は、一次粒子径が10nm以上かつ120nm以下の粒子を90体積%以上含む第1の粒子と、一次粒子径が300nm以上かつ1000nm以下の粒子を90体積%以上含む第2の粒子と、により形成されており、前記第1の粒子と前記第2の粒子との体積比が、3:97から97:3の範囲に含まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の排ガス浄化フィルタによれば、粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備えた排ガス浄化フィルタであって、フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、該隔壁の表面に、隔壁の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜が設けられ、多孔質膜の表面の少なくとも一部に、深さが当該多孔質膜の膜厚よりも浅い微小みぞが形成されていることとしたので、この微小みぞを設けた効果により、PMの高捕集効率と低圧力損失を共有することができる。従って、大気汚染の原因となるPMを外気に放出することなく、一方で低圧力損失ゆえにエンジンに対して負荷を与えることなく燃費を悪化させることもない、良好な特性を有する排ガス浄化フィルタを得ることができる。
【0016】
また、本発明の排ガス浄化フィルタの製造方法によれば、粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備え、フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、該隔壁の表面に、隔壁の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜が設けられ、多孔質膜の表面の少なくとも一部に、深さが当該多孔質膜の膜厚よりも浅い微小みぞが形成されている排ガス浄化フィルタの製造方法であって、少なくとも、多孔質膜を形成するための粒子成分と、分散媒と、を含有する塗料を用意する工程と、塗料をフィルタ基体の表面上に塗布して塗膜を形成する工程と、塗膜中の分散媒の一部を除去することにより、流動性を喪失した塗膜を形成させる工程と、流動性を喪失した塗膜中の分散媒をさらに除去することにより、塗膜表面に微小みぞを形成させる工程と、を含むこととしたので、本発明の排ガス浄化フィルタを容易に製造することができる。従って、大気汚染の原因となるPMを外気に放出することなく、一方で低圧力損失ゆえにエンジンに対して負荷を与えることなく燃費を悪化させることもない、良好な特性を有する排ガス浄化フィルタを容易に製造することができる。
【0017】
また、本発明の排ガス浄化フィルタの製造方法によれば、粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備え、フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、該隔壁の表面に、隔壁の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜が設けられ、多孔質膜の表面の少なくとも一部に、深さが当該多孔質膜の膜厚よりも浅い微小みぞが形成されている排ガス浄化フィルタの製造方法であって、少なくとも、多孔質膜を形成するための粒子成分と、分散媒と、バインダー成分と、を含有する塗料を用意する工程と、塗料をフィルタ基体の表面上に塗布してバインダー成分を含有する塗膜を形成する工程と、バインダー成分を含有する塗布膜中の分散媒を除去することにより、硬化した塗膜を形成させる工程と、硬化した塗膜中のバインダー成分を除去することにより、塗膜表面に微小みぞを形成させる工程と、を含むこととしたので、本発明の排ガス浄化フィルタを容易に製造することができる。従って、大気汚染の原因となる粒子状物質を外気に放出することなく、一方で低圧力損失ゆえにエンジンに対して負荷を与えることなく燃費を悪化させることもない、良好な特性を有する排ガス浄化フィルタを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態の排ガス浄化フィルタを示す一部破断斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の排ガス浄化フィルタに係る隔壁構造を示す断面図である。
【図3】本発明の排ガス浄化フィルタの内面における表面状態を示す模式図である。
【図4】実施例で用いた試験装置の構成を示す模式図である。
【図5】実施例の結果を示す電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例の結果を示す電子顕微鏡写真である。
【図7】実施例の結果を示す顕微鏡写真である。
【図8】実施例の結果を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[排ガス浄化フィルタ]
本発明の排ガス浄化フィルタの一形態について説明する。ここでは、自動車用ディーゼルエンジンに用いられる排ガス浄化フィルタであるDPFを例にとり説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであって、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0020】
本発明の排ガス浄化フィルタは、粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備えた排ガス浄化フィルタであって、前記フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、該隔壁の表面に、前記隔壁の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜が設けられ、前記多孔質膜の表面の少なくとも一部に、深さが当該多孔質膜の膜厚よりも浅い微小みぞが形成されていることを特徴とする排ガス浄化フィルタである。
【0021】
図1は、本発明の排ガス浄化フィルタの一実施形態であるDPFを示す一部破断斜視図である。図2は、図1において符号βで示す面におけるDPFの隔壁構造を示す断面図である。
図1に示すように、DPF10は、多数の細孔(気孔)を有する円柱状の多孔質セラミックスからなるフィルタ基体11と、このフィルタ基体内に形成されたガス流路12と、ガス流路12のうち排気上流側端部が開放された流入セル12Aの内壁面12aに設けられた多孔質膜13と、を備えている。
フィルタ基体11の軸方向の両端面のうち一方の端面αが、粒子状物質を含む排ガスGが流入する流入面であり、他方の端面γが、上記の排ガスGから粒子状物質を取り除いた浄化ガスCを排出する排出面である。
【0022】
フィルタ基体11は、炭化ケイ素、コーディエライト、チタン酸アルミニウム、窒化ケイ素等の耐熱性の多孔質セラミックスからなるハニカム構造体である。フィルタ基体11には、排ガスGの流れ方向である軸方向に沿って延びる隔壁14が形成されており、隔壁14により囲まれた軸方向の中空の領域が多数のセル状のガス流路12とされている。
ここで、本実施形態における「ハニカム構造」とは、フィルタ基体11に複数のガス流路12を互いに平行となるように形成した構造を用いている。ガス流路12の軸方向に直交する方向の断面形状は四角形状であるが、これに限らず、多角形、円形、楕円形などの種々の断面形状とすることができる。また、フィルタ基体11の外周付近に形成されたガス流路12は、断面形状の一部が円弧状となっているが、これはフィルタ基体11の外周付近まで隙間無くガス流路12を配置するために、フィルタ基体11の外形状に倣う断面形状のガス流路12としたものである。
【0023】
多孔質セラミックスからなる隔壁14の平均気孔径は、5μm以上かつ50μmであることが好ましい。平均気孔径が5μmを下回ると、隔壁14自体による圧力損失が大きくなるため好ましくない。逆に、平均気孔径が50μmを上回ると、隔壁14の強度が十分でなくなり、隔壁14上に多孔質膜13を形成するのが困難になるため好ましくない。
【0024】
ガス流路12は、排ガスGの流れ方向(長手方向)から見た場合に、上流側端部と下流側端部とが交互に閉塞された構造、すなわち、排ガスGの流入側である上流側端部(流入面)が開放された流入セル12Aと、浄化ガスCを排出する側である下流側端部(排出面)が開放された流出セル12Bとにより構成されている。
【0025】
ここで、DPF10における排ガスの流れを示すと、図2のようになる。流入面側、すなわち端面α側から流入した粒子状物質30を含む排ガスGは、流入面に開口している流入セル12AからDPF10内に流入し、流入セル12A内を端面α側から端面γ側へと流れる過程で、フィルタ基体11の隔壁14を通過する。この際、排ガスG中に含まれる粒子状物質30は、流入セル12Aの内壁面12a(流入セル12Aを構成する隔壁14の表面)に設けられた多孔質膜13により捕集されて除去され、粒子状物質30が除去された浄化ガスCは、流出セル12B内を端面α側から端面γ側へと流れ、流出セル12Bの開口端(端面γ)からフィルタ外へ排出される。
【0026】
また、図3に示すように、流入セル12Aの内壁面12a(流入セル12Aを構成する隔壁14の表面)には、表面の少なくとも一部に多孔質膜13が設けられ、多孔質膜13には浅い微小みぞ(マイクログローブ)15が複数形成されている。微小みぞ15の深さは、多孔質膜13の膜厚よりも小さい(浅い)ものとなっている。すなわち、微小みぞ15は、多孔質膜13を貫通した裂け目状とはなっておらず、微小みぞ15を形成する多孔質膜の「割れ」が、多孔質膜13の厚さ方向で見た場合に、その途中で収斂している。
【0027】
このような多孔質膜13は、フィルタ基体11の隔壁14を構成する多孔質セラミックスの細孔内にあまり入り込むことなく、流入セル12Aの内壁面12a上に独立した膜として形成されている。すなわち、多孔質膜13は、隔壁14に形成されている気孔の入口部分までしか侵入しない状態で流入セル12Aの内壁面12aに形成されている。そして、多孔質膜13は、多数の気孔を有することにより、これらの気孔が連通し、結果として、貫通孔を有するフィルタ状多孔質となっている。
【0028】
このような排ガス浄化フィルタ10では、流入セル12Aの内壁面12aに、隔壁14の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜13が設けられ、多孔質膜13の表面の少なくとも一部に、深さが多孔質膜13の膜厚よりも浅い微小みぞ15が形成されていることとしている。そのため、この微小みぞ15を設けた効果により、粒子状物質30の高捕集効率と低圧力損失を共有することができる。すなわち、後に詳述するように、多孔質膜13において微小みぞ15が設けられた部分では、多孔質膜13の実効的な膜厚が薄くなるため圧力損失が低下する。また、微小みぞ15が形成されることにより、多孔質膜13の表面積を広げることができるため、高い捕集効率を実現する排ガス浄化フィルタ10とすることが可能となる。さらには、微小みぞ15を設けた多孔質膜13の主成分を炭化ケイ素の微細粒子とすることにより、再生処理における改善をも図ることも可能となる。
【0029】
[多孔質膜]
次に、隔壁14上に形成された多孔質膜13と、多孔質膜13に形成された微小みぞ15と、について詳細に説明する。ここではまず、多孔質膜13について詳細に説明する。
多孔質膜13の形成材料は、特に限定されるものではなく、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、コーディエライト、チタン酸アルミニウム、等の耐熱性のセラミックス材料を使用することができる。ただし、後述のように、排ガス浄化フィルタ11の再生処理時における処理時間の短縮や処理温度の低下をも目的とする場合には、主成分として炭化ケイ素を用いることが好適である。多孔質膜13は、これらのセラミックス材料の粒子を焼結させて形成する。なお、本発明における焼結とは、多幸質膜13を形成するセラミックス材料の粒子同士の接触部が加熱により結合するという意味であって、粒子間に空隙が残るものである。
また、多孔質膜13に触媒を担持させる場合には、触媒特性の発現に適した材料を選択することが好ましい。さらには、酸化セリウム等の触媒活性を有する酸化物自体を多孔質膜13の材質としても良い。
さらに、この多孔質膜13は、後述するように、隔壁14の表面にセラミックス材料の粒子が分散した塗料を塗布することにより、セラミックス材料の粒子の塗布膜を形成し、この塗布膜を乾燥・焼結することにより得ることができる。従って、多孔質膜13としての特性を損なわない範囲で、焼結助剤を添加しても良い。
【0030】
このような微小みぞ15を有する多孔質膜13の膜厚は、5μm以上かつ80μm以下であることが好ましく、8μm以上かつ60μm以下であればより好ましい。
多孔質膜13の膜厚が5μm未満の場合は、膜表面に微小みぞ15を設ける場合に、多孔質膜13を貫通した裂け目状となってしまいやすく、所望の微小みぞ15を形成することが難しくなるため好ましくない。あるいは、多孔質膜13を貫通することなく微小みぞ15が形成されたとしても、当該微小みぞ15が小さすぎる(浅すぎる)ため、微小みぞ15が捕集したPM堆積物中に容易に埋没してしまい、微小みぞ15を設けない場合との差がなくなってしまう(微小みぞ15が有効に機能しない)ため好ましくない。
一方、膜厚が80μmを越える場合には、微小みぞ15が存在していても、多孔質膜13による圧力損失が大きくなり、結果として本発明の排ガス浄化フィルタ10を取り付けたエンジンの出力低下や燃費の悪化を招く虞があるため好ましくない。
【0031】
また、この多孔質膜13における固形分体積率は10%以上かつ70%以下であることが好ましく、15%以上かつ50%以下であればより好ましい。
多孔質膜13の固形分体積率が70%を越えた場合、多孔質膜13の平均気孔率がフィルタ基体11の気孔率に比べて低くなるため、微小みぞ15が存在していても、多孔質膜13における圧力損失の上昇を招き、結果として本発明の排ガス浄化フィルタ10を取り付けたエンジンの出力低下や燃費の悪化を招く虞があるため好ましくない。また、排ガス浄化フィルタとしてのコスト増加要因となる虞もある。多孔質膜13の平均気孔率をフィルタ基体11の気孔率と同等とする、すなわち微小みぞ15による効果を考慮しない場合でも圧力損失を問題ない範囲とするためには、固形分体積率が50%以下であればより好ましい。
一方、多孔質膜13の固形分体積率が10%未満の場合、構造部材が少なすぎるために多孔質膜13の構造や強度を維持することが困難となる虞がある。特に、微小みぞ15が存在する部分においては、多孔質膜13の膜厚が薄くなり膜自体の強度が低下するため、固形分体積率は15%以上であることが好ましい。
【0032】
多孔質膜13の平均気孔径は、0.05μmより大きく、かつ3μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.06μm以上3μm以下であり、最も望ましくは0.1μm以上2.5μm以下である。
このように多孔質膜13の平均気孔径は、隔壁14の気孔径(すなわち従来のDPFの平均気孔径:5〜50μm程度)より小さい。このため、粒子状物質30は、隔壁14にほとんど入り込むことなく、その堆積量が少ない段階から多孔質膜13により高効率に捕集される。
多孔質膜13の平均気孔径が上記範囲とされるのは、平均気孔径が0.05μm以下では、粒子状物質を含む排ガスを排ガス浄化フィルタ10内に流入させた場合に、微小みぞ15が形成されていても圧力損失が大きくなるからであり、多孔質膜13の平均気孔径が3μmを超えると、多孔質膜の気孔径と隔壁14と気孔径が実質的に同等となり、PMの捕集効率が改善されなくなる虞があるからである。
【0033】
なお、これらの多孔質膜13の固形分体積率および平均気孔径は、多孔質膜13内で均一であっても良いが、後述のように多孔質膜13の表面側とフィルタ基材11側との間でこれらの値に差異を設けた傾斜構造とすれば、より効果的である。
【0034】
[微小みぞ]
次に、微小みぞ15について詳細に説明する。なお、以下の説明において、微小みぞ15の形成面における面方向の長さのうち、長手方向の長さを微小みぞ15の「長さ」と称し、短手方向の長さを微小みぞ15の「幅」と称する。
【0035】
微小みぞ15の幅は、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であればより好ましい。
ここで、微小みぞ15の幅が1μm未満の場合、みぞの開口部が狭すぎるために、PM堆積物がみぞの開口部を容易に埋めてしまい、微小みぞ15として有効に機能しなくなるため好ましくない。一方、微小みぞ15の幅には、形状や機能面からの上限は無いが、後で述べる製法を用いる場合には、開口部幅が10μm幅を越えるみぞを形成することは難しいことから、10μmが目安となる。
【0036】
また、微小みぞ15の長さには特段の制限は無いが、10μm以上かつ200μm以下が目安となる。その理由として、後で述べる製法を用いる場合、1μm幅の微小みぞ15を形成するためには、最低でも10μm程度の開口部長さが必要となることが挙げられる。一方、多孔質膜13において微小みぞ15が形成された部分は、微小みぞ15により膜厚が薄くなっており強度が低くなっていることから、長さが200μmを越えると、当該みぞ部分からクラックが発生するなどの問題点が発生する虞がある。そのため、微小みぞ15の長さは200μm以下とすると良いと考えられる。
【0037】
微小みぞ15の深さは、多孔質膜13において微小みぞ15が形成された部分の多孔質膜13の膜厚と比較して浅ければ良い。すなわち、微小みぞ15が多孔質膜13を貫通した裂け目状とはなっておらず、微小みぞ15を形成する多孔質膜13の「割れ」が、多孔質膜13の途中で収斂していれば良い。
ただし、微小みぞ15の深さが多孔質膜13の膜厚の50%を越えるほど深くなると、微小みぞ15が形成された部分の強度が不足するほか、微小みぞ15には、排ガス浄化フィルタとしての使用に伴う高温の繰り返し履歴による熱応力が集中するために、微小みぞ15の底部の「割れ」が進行し、貫通孔となる虞がある。また、微小みぞ15の深さが多孔質膜13の膜厚の10%未満となるほど浅くなると、後述する微小みぞ15を設ける効果が得られにくくなる。これらのことから、微小みぞ15の深さは、当該微小みぞ15が形成されている部分の多孔質膜13の膜厚の10%以上かつ50%以下であることが好ましく、20%以上かつ30%以下であればより好ましい。
【0038】
また、多孔質膜13の表面における微小みぞ15の存在割合は、多孔質膜13の膜面方向の投影面積をF、微小みぞ15の同方向への投影面積をGとした場合において、0.05≦G/F≦1示される関係を示すことが好ましい。
上記FとGをより具体的に示せば、多孔質膜13の表面の写真を撮像した場合において、写真全体の面積がFであり、当該写真において微小みぞ15と認識される部分の面積の合計がGとなる。
【0039】
ここで、G/Fの最小値を0.05としたのは、G/F値が0.05未満の場合には、微小みぞ15の量が少なすぎるために、微小みぞ15を設ける効果が得られなくなるためである。
一方、多孔質膜13全体に微小みぞ15が形成された状態、すなわち隣り合う微小みぞ15同士が多孔質膜13の元々の表面において互いに接した状態であれば、最も微小みぞ15が多くなり、みぞを設けた効果が得られることになる。この場合、GとFの値は等しくなるから、G/Fの最大値は1となる。
なお、微小みぞ15を、例えば多孔質膜13の部分的なエッチングで形成した場合には、G/F=1に到達した時点からさらにエッチングを進めることにより、実効的なみぞの量は逆に減少してしまうが、後で述べる製法ではそのようなことは生じない。
【0040】
また、微小みぞ15は、多孔質膜13の全面に、略均一に分布していることが好ましい。すなわち、微小みぞ15は内壁面12aにおける角部(隔壁14を構成する面同士の突き当て部)だけでなく、内壁面12aにおける平面部にも多数形成されていることが好ましい。
すなわち、多孔質膜13の形成は、後に詳述するように、多孔質膜13の形成材料であるセラミックス材料の粒子が分散した塗料を塗布して塗布膜を形成した後に、乾燥・焼結する湿式法により形成される。この場合、流入セル12Aの断面形状が四角形等の多角形状であると、角部は塗料の表面張力により平面部に比べてセラミックス材料の粒子を含む塗膜の膜厚が厚くなる。このように塗膜の膜厚が厚い角部では、微小みぞ15を形成しやすいが、この角部はフィルタ作用をあまり示さない。しかし、平面部にも微小みぞ15が形成されていると、各微小みぞ15を通過する排ガスからPMを良好に捕集することができ、高いい効果を得ることができるためである。
【0041】
このような微小みぞ15が設けられることにより、微小みぞ15が設けられた部分の多孔質膜13膜厚が他の部分に比べて薄くなり、圧力損失も低減される。従って、多孔質膜13の実効的な膜厚を減少することと同じ効果が得られる。ここで、多孔質膜13の全体の膜厚を一定値以下に薄くする、特にフィルタ基体11の空孔上に薄い多孔質膜13を支えなしで形成することは技術的に難しいが、本発明のように多孔質膜13に微小みぞ15を設けることにより実効的な膜厚を薄くすることとすると、微小みぞ15を設けない箇所の膜厚を厚くできるので、そのような問題を回避でき、形成が容易となる。
【0042】
ここで、微小みぞ15を設けた部分において圧力損失が低減していることは、実験的にも確かめられており、微小みぞ15を有する多孔質膜13を用いてPMの捕集を行った場合には、PMは使用初期には微小みぞ15に選択的に捕集され、ある程度微小みぞ15の壁面にPMが付着した後、微小みぞ15を含む多孔質膜13の全体で捕集が進むことが確かめられている。
これは、微小みぞ15における圧力損失が、微小みぞ15が無い部分に比べて低減している(流動損失が小さくなっている)ために、次のような挙動を示していると考えられる。すなわち、使用初期には、排ガスが微小みぞ15に選択的に流れるため、PMが微小みぞ15において選択的に捕集される。そして、ある程度の量のPMが微小みぞ15の表面に捕集されることにより、微小みぞ15を設けた部分と微小みぞ15の無い部分との圧力損失が同等となり、その後は、微小みぞ15の有無に関係なく多孔質膜13の全体を介して排ガスが流れ、多孔質膜全体でPMの捕集が行われると考えることができる。
【0043】
さらに、微小みぞ15が設けられることにより、多孔質膜13の実効的な表面積を増加させることができる。例えば、微小みぞ15が無い場合の多孔質膜13の表面積をXとした場合、表面に対する傾斜角θのみぞが多孔質膜13の表面に設けられれば、多孔質膜13の表面積はX/cosθに増加する。多孔質膜13の表面積が増加することにより、圧力損失の低減やPM捕集量の増加が得られることから、特性の向上した排ガス浄化フィルタ10とすることができる。
【0044】
多孔質膜13の表面に微小みぞ15を形成することにより、PMの高捕集効率と低圧力損失とを両立する排ガス浄化フィルタ10とすることができるが、多孔質膜13の気孔径や気孔率が、多孔質膜13の表面部で小さく、フィルタ基体11側で大きくなる傾斜構造となっていれば、より好ましい特性が得られる。
すなわち、多孔質膜13内の気孔径が、多孔質膜13がフィルタ基体11に接する部分においてはフィルタ基体11の気孔径よりも小さく、更に、多孔質膜13の表面部に向かって気孔径が減少することにより、多孔質膜13の表面部の気孔径が膜内部に比べてさらに小さくなっていることが好ましい。
また、気孔率については、多孔質膜13がフィルタ基体11に接する部分の気孔率が高く、多孔質膜13の表面部に向かって気孔率が減少することにより、多孔質膜13の表面部の気孔率が膜内部に比べて低くなっていることが好ましい。
【0045】
このような傾斜構造を有する多孔質膜13においては、圧力損失は、多孔質膜13の表面が最も高く、膜内部に入るに従って低減し、多孔質膜13がフィルタ基体11に接する部分が最も低くなる。一方、PMの捕集効率は、多孔質膜13の表面が最も高く、膜内部に入るに従って減少し、多孔質膜13がフィルタ基体11に接する部分が最も低くなる。
【0046】
このような傾斜構造を有する多孔質膜13に対して、微小みぞ15を形成した場合、微小みぞ15の部分においては、多孔質膜13内部、つまり圧力損失が低く捕集効率が表面に比べて劣る部分が、多孔質膜13の表面として露出する。さらには、多孔質膜13の表面から深い位置ほど、より圧力損失が低く捕集効率が表面よりも劣るため、微小みぞが深くなるほど、より圧力損失が低く、より捕集効率が低下した部分が露出することになる。すなわち、微小みぞ15を形成すれば、微小みぞ15の深さにより圧力損失とPMの捕集効率を制御することが可能となる。従って、微小みぞ15の深さを調整することにより、圧力損失と捕集効率とのバランスを調整することが可能となり、良好な特性を有する排ガス浄化フィルタ10を得ることができる。
【0047】
なお、このような気孔径や気孔率の分布を有する多孔質膜13は、粒子径の異なる2種以上の粒子を混合して形成することにより得られる。すなわち、このような多孔質膜13は、後述のように、粒子径の異なる2種以上の粒子を混合し分散媒に分散させた塗料を用いて多孔質膜13の形成を行うことにより、得ることができる。
【0048】
(炭化ケイ素の使用)
多孔質膜13の材質として、主成分に炭化ケイ素を選択することにより、排ガス浄化フィルタ11の再生処理時における処理時間の短縮や処理温度の低下を図ることが可能である。この理由は、つぎのように考えられる。
なおここで、主成分とは、多孔質膜13を構成する成分の内、炭化ケイ素の存在量が50体積%を超えていることを意味しており、炭化ケイ素が他の物質と複合炭化物を構成している場合は、各成分ごとの炭化物に換算した上で比較するものとする。
【0049】
一次粒子径が数nmから数100nmの炭化ケイ素の微細粒子を用いて多孔質膜を形成することにより、この多孔質膜上に捕集された粒子状物質の燃焼効率が特段の酸化触媒を添加することなく向上し、排ガス浄化フィルタの再生時における粒子状物質燃焼時間を短縮できることが知られている(例えば、特WO2009/133857号公報参照)。
一方、従来の(多孔質膜が形成されていない)炭化ケイ素製の排ガス浄化フィルタには、このような粒子状物質の燃焼効率改善効果は有していない。
すなわち、ナノメートルサイズの炭化ケイ素微細粒子を用いて形成された多孔質膜は、粒子状物質の燃焼効率に対して何等かの触媒効果(燃焼促進効果)を有していると考えられる。
【0050】
ここで、本願発明者らは、炭化ケイ素を酸素雰囲気中で数100℃に加熱することにより、炭化ケイ素に酸素が吸着することを確認している。この吸着酸素が、粒子状物質の燃焼効率に対して触媒効果(低温での粒子状物質の酸化、COやCOへの転化率の低温域での増大、等)を示すと考えられる。粒子状物質の燃焼効率に対する触媒効果が炭化ケイ素の吸着酸素によるとすれば、粒子状物質粒子に接する炭化ケイ素粒子数が多いほど、粒子状物質の燃焼効率は改善することになる。
粒子状物質の粒子径は、用いる炭化ケイ素微細粒子よりも大きいことから、炭化ケイ素微細粒子により形成された多孔質膜に捕集された粒子状物質は,多数の炭化ケイ素微細粒子により保持されることになり、これら多数の炭化ケイ素微粒子と接する粒子状物質の燃焼効率が改善すると考えられる。
一方、従来の炭化ケイ素製排ガス浄化フィルタを構成する炭化ケイ素粒子は、粒子状物質の粒子径より大きいために、粒子状物質に接する炭化ケイ素粒子の数が少なく、粒子状物質と炭化ケイ素粒子との接触面積が、炭化ケイ素微粒子を用いる場合よりも小さくなるために、粒子状物質の燃焼効率が改善しないと考えられる。
したがって、粒子状物質の燃焼効率改善には、粒子状物質とナノメートルサイズの炭化ケイ素微細粒子とを、いかに接触させるかが重要となる。
【0051】
ここで、本発明の微小みぞ15を有する多孔質膜13においては、微小みぞ15の形成により多孔質膜13の実効的な表面積を増加されているから、多孔質膜13に直接接している粒子状物質は、微小みぞを有さない多孔質膜に比べて増加している。
また、微小みぞ15部分においては、圧力損失が低減している(流動損失が小さくなっている)ことから、粒子状物質は微小みぞ15に数多く捕集される。一方、この微小みぞ15は、排ガス浄化フィルタ11の再生処理時においても排ガスの大きな通り道となるため、微小みぞ15内の粒子状物質は、再生処理時においても微小みぞ15内部に押し込まれることになる。従って、微小みぞ15内の粒子状物質は、常に表面積の大きい微小みぞ15内部に押し込まれ、多孔質膜と接することになる。
【0052】
そこで、ナノメートルサイズの炭化ケイ素微細粒子を用いて、微小みぞ15を有する多孔質膜13を形成すれば、炭化ケイ素微細粒子に直接接する粒子状物質量(炭化ケイ素微粒子と粒子状物質との接触面積)は、微小みぞを有さない炭化ケイ素多孔質膜に比べて、大幅に増加する。従って、粒子状物質の燃焼効率に対してより高い触媒効果を得ることができ、より燃焼効率の改善を図ることができる。
このように、多孔質膜13の材質として、主成分に炭化ケイ素を選択することにより、排ガス浄化フィルタ11の再生処理時における粒子状物質の燃焼効率を改善させ、再生処理時間の短縮や処理温度の低下を図ることが可能となる。
【0053】
[排ガス浄化フィルタの製造方法]
次に、本発明の排ガス浄化フィルタ10の製造方法を説明する。
本発明の排ガス浄化フィルタ10は、少なくとも、多孔質膜13を形成するための粒子成分と、分散媒と、を含有する塗料を用意する工程と、前記塗料をフィルタ基体の表面上に塗布して塗膜を形成する工程と、前記塗膜中の分散媒の一部を除去することにより、流動性を喪失した塗膜を形成させる工程と、前記流動性を喪失した塗膜中の分散媒をさらに除去することにより、塗膜表面に微小みぞ15を形成させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0054】
本製造方法においては、塗膜中の分散媒の一部を除去することにより、流動性を喪失した塗膜を形成させた後、この流動性を喪失した塗膜から、さらに分散媒を除去して体積収縮を起こすことにより、塗膜中に収縮応力を発生させる。この際、塗膜表面では、この収縮応力が塗膜の結合力を上回ることにより「割れ」が発生し、微小みぞ15が形成される。一方、塗膜のフィルタ基材11側は、フィルタ基材11に塗膜が固定されているため、分散媒が除去されても体積収縮が妨げられるために、割れが生じない。これにより、塗膜表面に微小みぞ15を形成させることができる。
以下、順に説明する。
【0055】
(塗料を用意する工程)
まず、次のようにして、多孔質膜13を形成するための粒子を含有・分散させた塗料を用意する。
粒子成分の材質は特に限定されるものではなく、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、コーディエライト、チタン酸アルミニウム、等の耐熱性のセラミックス材料を使用することができる。この材質は、フィルタ基体11との組み合わせを考慮して決定することが好ましい。また、多孔質膜に触媒を担持させる場合には、触媒特性の発現に適した材料を選択することが好ましい。さらには、酸化セリウム等の触媒活性(粒子状物質の燃焼促進効果)を有する酸化物自体を多孔質膜13の材質としても良い。
また、排ガス浄化フィルタに粒子状物質捕集能以外の効果を持たせるための触媒成分や、多孔質膜形成のための焼結助剤等の添加を行ってもよい。
【0056】
粒子成分の平均一次粒子径は0.01μm以上かつ4μm以下であることが好ましく、0.01μm以上かつ1μm以下であればより好ましい。
平均一次粒子径が0.01μm以上かつ4μm以下であることが好ましい理由は、平均一次粒子径が0.01μm未満では、生成する多孔質膜の気孔径が過小となり、得られる排ガス浄化フィルタ10に粒子状物質を含む排ガスを流入させた場合に圧力損失が大きくなる虞があるからであり、一方、平均一次粒子径が4μmを超えると、多孔質膜の気孔径が大きくなり、フィルタ基体の気孔径との実質的な差異が無くなるため、粒子状物質の捕集効率が改善されなくなる虞があるからである。
また、多孔質膜の気孔径や気孔率に傾斜構造を持たせるために、後述のように複数の粒子径のものを組み合わせて用いることも好ましい。
【0057】
多孔質膜形成用塗料は、上記の粒子成分を分散媒中に分散させることにより調整する。また、必要に応じて、後述の流動性制御剤や樹脂成分の添加を行ってもよい。
分散工程は、湿式法によることが好ましい。この湿式法で用いられる分散機は、開放型、密閉型のいずれも使用可能であり、例えば、ボールミル、攪拌ミルなどが用いられる。ボールミルとしては、転動ボールミル、振動ボールミル、遊星ミルなどが挙げられる。また、攪拌ミルとしては、塔式ミル、攪拌槽型ミル、流通管式ミル、管状ミルなどが挙げられる。
【0058】
分散媒は、水または有機分散媒が好適に用いられる。
上記の有機分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、へキシレングリコールなどのアルコール類、酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどのケトン類、N,N−ジメチルホルムアミドなどの酸アミド類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素などが好適に用いられ、これらの分散媒のうち1種または2種以上を用いることができる。
【0059】
なお、この粒子成分と分散媒との親和性を高めるために、粒子成分の表面処理を行っても良い。表面処理剤としては、粒子成分の材質と分散媒の種類に応じて選択することが好ましく、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のアルコキシシラン、トリメトキシアルミニウム、トリエトキシアルミニウム等のアルミニウムアルコキシド、テトラメトキシジルコニウム、テトラエトキシジルコニウム等のジルコニウムアルコキシド、テトラメトキシチタニウム、テトラエトキシチタニウム等のチタニウムアルコキシド、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート等のアルミニウム系カップリング剤、アンモニウムジルコニウムカーボネート等のジルコニウム系カップリング剤、チタニウムエチルアセトアセテート、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコレート等のチタニウム系カップリング剤、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪族アルコールエトキシレート等の非イオン界面活性剤、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム等の陽イオン界面活性剤、ジアルキルスルホサクシネート、アルキルエーテルカルボン酸塩等の陰イオン界面活性剤、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等の両性界面活性剤、ステアリン酸等の高級脂肪酸やその塩、アルキルリン酸エステル等のリン酸エステルなどが好適に用いられるが、これらに限定されるものではなく、粒子成分の表面に吸着する官能基を有し、かつ分散媒と親和性を持つ末端基を有する表面改質剤であれば良い。
また、粒子成分が炭化物系や窒化物系等の非酸化物形の場合には、表面処理剤を用いる代わりに、粒子表面を酸化ないしは水酸化することにより表面処理をおこなうこともできる。
【0060】
また、上述のようにして得られる粒子成分の分散液には、分散剤、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等を添加してもよい。
分散剤としては、例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩や、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの有機高分子などが用いられる。
【0061】
なお、これらの表面処理剤、分散剤、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等は、後述の流動性制御剤や樹脂成分としての効果も有する場合が多いことから、これらの成分を添加する場合には、分散液および塗料としての性質だけでなく、微小みぞ15の形成条件も考慮して添加する必要がある。
これは、微小みぞ15の形成が、これらの表面処理剤、分散剤、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等や、後述の流動性制御剤や樹脂成分等の添加により一義的に決定されるものではなく、分散媒の種類や分散媒の除去条件、さらには粒子成分の粒径や塗膜の厚さ等を含めた各種の条件が総合的に作用して決まるためである。
【0062】
以上のようにして、粒子成分が分散媒中に分散するとともに、必要に応じ、表面処理剤、分散剤、界面活性剤、防腐剤、安定化剤、消泡剤、レベリング剤等が添加された、多孔質膜形成用の塗料を作製することができる。
【0063】
(塗膜を形成させる工程)
次いで、フィルタ基体11の隔壁14の内壁面、すなわち、ガス流路12の流入セル12A側の内壁面12aに、上記塗料を塗布して塗膜を形成する。
塗料の塗布方法としては、バーコート法、スリップキャスト法、ウォッシュコート法、ディップコート法等の、塗布液を被処理物の表面に塗布する通常のウェットコート法などを用いることができる。
【0064】
(微小みぞ15を形成させる工程)
次いで、上述の塗膜中の分散媒の一部を除去し、流動性を喪失した塗膜を形成させた後、塗膜を熱処理することにより、フィルタ基体11のガス流路12の内壁面12aに微小みぞ15を有する多孔質膜13を形成する。
【0065】
ここで、塗布液の流動性を喪失させるための方法は特に限定されないが、例えば次のような方法を用いることができる。
最も単純な方法としては、塗料としては粒子成分と分散媒のみを含む系とし、粒子成分の組成と分散媒の成分、粒子成分の粒子径、及び粒子成分と分散媒との比率を調整することで、分散媒が残存した状態での流動性を極端に低下させることにより、塗布液の流動性喪失化を行う方法である。この方法においては、塗料中に粒子成分以外を含まないため、添加成分に起因する問題点、例えば不純物の混入等は問題とする必要が無い。ただし、流動性を喪失させ、かつ塗膜表面のみに割れを発生させるために必要となる条件範囲が狭いと考えられることや、必要とする多孔質膜13の特性を得るための粒子径の選択と、流動性喪失化を得るための粒子径の選択を整合させる必要があるため、適宜調整する必要がある。
【0066】
別の方法としては、塗料中に、塗布液の流動性喪失化を起こしやすくする流動性制御剤を添加する方法がある。粒子成分の分散液を用いて塗料を調整する際に、流動性制御剤を同時に混合することで、流動性制御剤を含む塗料を調整することができる。
【0067】
流動性制御剤としては、流動性制御剤の立体障害や、流動性制御剤同士が水素結合等により立体構造を形成することにより、流動性を喪失させる物質を選択することができる。このような物質としては、ゲル化作用を有する有機高分子が代表的なものとして挙げられる。
ここで、流動性制御剤をゲル化させる方法としては、溶媒(分散媒)の一部除去による高濃度化、温度変化(加熱または冷却)、pH変化など、任意の方法を用いることができる。ゲル化作用を有する有機高分子としては、例えば、寒天、ゼラチン、にかわ、メチルセルロース、エチルセルロース、カラギナン、アルギン酸塩等を挙げることができる。
【0068】
また、他の流動性制御剤としては、分散媒存在下で重合可能な有機モノマーないしはオリゴマーを選択することができる。この有機モノマーないしはオリゴマーを、分散媒が残留している状態で重合させて高分子立体構造を形成させることにより、流動性を喪失させればよい。このような有機モノマーないしはオリゴマーとしては、分散媒が除去されて高濃度化されることにより相互に重合を起こすものを好適に選択することができ、例えば、ビニル基、アクリロイル基、エポキシ基、イノシアネート基等の反応基、または濃縮することにより開環重合を起こす小員環(3〜6員環)を1ないし2つ以上含んだ有機モノマーないしはオリゴマーを挙げることができる。
【0069】
さらには、粒子成分原料となるか、または焼結助剤成分の原料となる成分としてのケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタニウム等のアルコラートまたはエステル類と、上記のような有機モノマーないしはオリゴマーとを組み合わせてもよい。
【0070】
他にも、他の流動性制御剤としては、アイオノマーを生じる高分子および金属イオンを挙げることができる。アイオノマーを生成する高分子と金属イオンとの組み合わせとしては、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属との組み合わせを挙げることができる。
【0071】
これらの高分子物質および反応性物質は1種のみで用いることとしても良く、2種類以上を組み合わせて用いることとしても良い。
【0072】
このようにして得られた流動性を喪失した塗膜から、さらに分散媒を除去して体積収縮を起こすことにより、塗膜表面に「割れ」による微小みぞ15を形成させる。
微小みぞ15の寸法(幅、深さ)、形状や、単位面積あたりの微小みぞ数については、塗膜の厚さ、流動性喪失時点における分散媒の含有率、分散媒の除去条件(分散媒を加熱除去する場合であれば、加熱温度や加熱時間等)、等を調整することにより制御が可能である。
なお、微小みぞ15を形成するために分散媒を除去する方法としては、一般的には、加熱により分散媒を揮発除去させる方法が用いられる。ただし、流動性制御剤の種類によっては、加熱により流動性が復元してしまうものがあるため、この場合には減圧乾燥等の方法が用いられる。また、流動性を喪失した塗膜を形成させるために塗膜中の分散媒の一部を除去する方法として、塗膜を熱処理する場合においては、流動性を喪失した塗膜を形成させる工程と、微小みぞ15を形成させる工程とを合わせ、連続した加熱処理工程とすることも可能である。
【0073】
このようにして微小みぞ15を形成した塗膜を熱処理することにより、多孔質膜13を形成する。
塗膜の熱処理温度は粒子成分の材質等によって異なるが、塗膜中の有機成分が除去され、粒子成分が焼結を始める(粒子成分同士の接触部が加熱により結合する)温度以上であれば良く、500℃以上、2000℃以下であることが好ましく、より好ましくは600℃以上、1800℃以下である。
また、熱処理時間は、0.5時間以上、10時間以下であることが好ましく、より好ましくは1.0時間以上、4時間以下である。
さらに、熱処理雰囲気は特に限定されないが、塗膜の熱処理は、水素や一酸化炭素などの還元性雰囲気中;窒素、アルゴン、ネオン、キセノンなどの不活性雰囲気中;酸素、大気などの酸化性雰囲気中で行うことができる。これらは、用いる塗料の種類(粒子成分の材質、用いる反応性物質や高分子物質の種類)に応じて適宜選択することができる。
【0074】
また、塗料の中に、粒子径の異なる2種以上の粒子が混合されて分散している場合、このような塗料を塗布して塗膜を形成し、多孔質膜13を形成することにより、気孔径や気孔率が、多孔質膜13の表面部で小さく、フィルタ基体11側で大きくなる傾斜構造を有する多孔質膜13を形成することができる。
【0075】
例えば、本発明の排ガス浄化フィルタ10の製造法において、粒子成分として粒子径の異なる2種の粒子を用いる場合には、一次粒子径が10nm以上かつ120nm以下の粒子を90体積%以上含む第1の粒子と、一次粒子径が300nm以上かつ1000nm以下の粒子を90体積%以上含む第2の粒子とを、体積比として、3:97から97:3の範囲で混合させて使用することにより、本発明の排ガス浄化フィルタ10に適した気孔径や気孔率を有し、かつ表面側の気孔径や気孔率が小さく、フィルタ基体側で大きい多孔質膜を得ることができる。
そして、第1および第2の粒子の一次粒子径や、両者の混合比率を調整することにより、傾斜構造の度合い、すなわち、気孔径や気孔率の実際の値や変化度を調整することができる。
なお、粒子径の異なる2種以上の粒子を混合する代わりに、粒度分布の広い1種類の粒子を選択しても、同様の効果を得ることができる。
【0076】
ここで、第1の粒子はその粒子径が小さいために、分散液中で粒子はブラウン運動等で自由に動ける状態にあるが、第2の粒子はその粒子径が大きいために、分散液中で自由には運動することができず、分散媒の流れに乗って移動する確率が高い。
一方、塗料をフィルタ基体11に塗布した場合、塗膜表面には表面張力が働くとともに、分散液の揮発が生じるとともに、フィルタ基体11側では、フィルタ基体11に分散媒が吸収され拡散していく現象が発生する。
そこで、分散媒がフィルタ基体11に対してある程度以上の速度で吸収されていけば、第2の粒子は分散媒の流れに乗りフィルタ基体11側に移動することになる。一方、第1の粒子はこのような移動は発生しないが、第2の粒子がフィルタ基体11側に集中するために、結果として塗膜の表面側に集まることになる。この結果、塗膜の表面側には粒子径の小さい第1の粒子が、塗膜のフィルタ基材11側には粒子径の大きい第2の粒子が集まることになる。
このような塗膜を乾燥し焼結すれば、微細な粒子が集まる表面側では、気孔径や気孔率が小さい緻密な膜が得られ、粗い粒子が集まるフィルタ基材11側では、気孔径や気孔率が大きい粗い膜が得られる。
このようにして、傾斜構造を有する多孔質膜13を得ることができる。
【0077】
以上のようにして、本発明の排ガス浄化フィルタ10を製造することができる。
【0078】
また、本発明の排ガス浄化フィルタ10の他の製造方法としては、少なくとも、多孔質膜13を形成するための粒子成分と、分散媒と、バインダー成分と、を含有する塗料を用意する工程と、前記塗料をフィルタ基体の表面上に塗布してバインダー成分を含有する塗布膜を形成する工程と、前記バインダー成分を含有する塗膜中の分散媒を除去することにより、前記バインダー成分を含有する硬化した塗布膜を形成させる工程と、前記硬化した塗膜中のバインダー成分を除去することにより、塗膜表面に微小みぞ15を形成させる工程と、を含むことを特徴とする。
【0079】
この方法においては、乾燥硬化後の塗膜中に含まれるバインダー成分を除去して体積収縮を起こすことにより塗膜中に圧縮応力を発生させる。塗膜表面では、塗膜の自由度が高いために、この圧縮応力が塗膜の結合力を上回ることにより「割れ」を発生させることで微小みぞ15が形成される。一方、塗膜のフィルタ基材側は、フィルタ基材に塗膜が固定されているため、分散媒が除去されても体積収縮が妨げられるために、割れが生じない。これにより、塗膜表面に微小みぞ15を形成させることができる。
【0080】
ここで用いられるバインダー成分としては、分散媒に溶解するとともに、数100℃の比較的低温で分解除去される物質であることが好ましい。これらの条件から、有機高分子である各種のワックス類やパラフィン系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン等を好適に用いることができる。
【0081】
なお、粒子成分、分散媒や添加剤、さらに分散方法や塗布方法については、上記の、流動性を喪失した塗膜から、さらに分散媒を除去して微小みぞ15を形成する方法と変わりは無いことから、詳細な説明は省略する。
【0082】
本方法であれば、粒子成分と樹脂成分との比率を調整することにより、樹脂成分除去前後での体積変化量を求めることができ、従って微小みぞの形状や単位面積あたりの微小みぞ数を制御できるので、上記の、流動性を喪失した塗布膜からさらに分散媒を除去する方法に比べて、制御性が良好である。
なお、本方法と、前記の塗膜中の分散媒の一部を除去して流動性を喪失した塗膜を形成させた後、この流動性を喪失した塗膜から、さらに分散媒を除去して体積収縮を起こすことにより、微小みぞを形成させる方法とを、組み合わせて使用してもよい。
【0083】
以上のような構成の排ガス浄化フィルタ10によれば、粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備えた排ガス浄化フィルタであって、前記フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、該隔壁の表面に、前記隔壁の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜が設けられ、前記多孔質膜の表面の少なくとも一部に、深さが当該多孔質膜の厚さよりも浅い微小みぞが形成されていることとしたので、この微小みぞを設けた効果により、PMの高捕集効率と低圧力損失を共有することができる。従って、大気汚染の原因となるPMを外気に放出することなく、一方で低圧力損失ゆえにエンジンに対して負荷を与えることなく燃費を悪化させることもない、良好な特性を有する排ガス浄化フィルタ10を得ることができる。
【0084】
また、本発明の排ガス浄化フィルタの製造方法によれば、粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備え、前記フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、該隔壁の表面に、前記隔壁の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜が設けられ、前記多孔質膜の表面の少なくとも一部に、深さが当該多孔質膜の厚さよりも浅い微小みぞが形成されている排ガス浄化フィルタの製造方法であって、少なくとも、多孔質膜を形成するための粒子成分と、分散媒と、を含有する塗料を用意する工程と、前記塗料をフィルタ基体の表面上に塗布して塗布膜を形成する工程と、前期塗布膜中の分散媒の一部を除去することにより、流動性を喪失した塗膜を形成させる工程と、前記流動性を喪失した塗膜中の分散媒をさらに除去することにより、塗膜表面に微小みぞを形成させる工程と、を含むこととしたので、本発明の排ガス浄化フィルタを容易に製造することができる。従って、大気汚染の原因となるPMを外気に放出することなく、一方で低圧力損失ゆえにエンジンに対して負荷を与えることなく燃費を悪化させることもない、良好な特性を有する排ガス浄化フィルタを容易に製造することができる。
【0085】
また、本発明の排ガス浄化フィルタの製造方法によれば、粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備え、前記フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、該隔壁の表面に、前記隔壁の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜が設けられ、前記多孔質膜の表面の少なくとも一部に、深さが当該多孔質膜の膜厚よりも浅い微小みぞが形成されている排ガス浄化フィルタの製造方法であって、少なくとも、多孔質膜を形成するための粒子成分と、分散媒と、バインダー成分と、を含有する塗料を用意する工程と、塗料をフィルタ基体の表面上に塗布してバインダー成分を含有する塗布膜を形成する工程と、バインダー成分を含有する塗布膜中の分散媒を除去することにより、硬化した塗膜を形成させる工程と、硬化した塗膜中のバインダー成分を除去することにより、塗膜表面に微小みぞを形成させる工程と、を含むこととしたので、本発明の排ガス浄化フィルタを容易に製造することができる。従って、大気汚染の原因となる粒子状物質を外気に放出することなく、一方で低圧力損失ゆえにエンジンに対して負荷を与えることなく燃費を悪化させることもない、良好な特性を有する排ガス浄化フィルタを容易に製造することができる。
【0086】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【実施例】
【0087】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお以下の説明においても、形成するフィルタを排ガス浄化フィルタと称する。
【0088】
(1)多孔質膜の膜厚
排ガス浄化フィルタの隔壁を破断し、この隔壁断面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)S−4000(日立計測器サービス社製)により観察することにより、排ガス浄化フィルタの多孔質膜の電子顕微鏡像を得た。測定倍率400倍にて、10点測定した厚みを平均して多孔質膜の厚みとした。
【0089】
(2)多孔質膜の平均気孔径および平均気孔率
水銀ポロシメータ装置(Pore Master 60GT、Quantachrome社製)を用いて、膜部分の水銀進入容積の50%累積を排ガス浄化フィルタの多孔質膜の平均気孔径とした。また、同装置を用いて平均気孔率を測定した。
【0090】
また、以下の(3)から(5)の試験については、図4に示す試験装置20を用いて行った。
図4(a)に示すように、試験装置20は、流路20aが形成された筒状の装置本体21を有し、流路20a内に、排ガス浄化フィルタ22を配置することとしている。
排ガス浄化フィルタ22は、作成した排ガス浄化フィルタから、流路と直交する方向に5mm×5mm角、流路と平行な方向に7mmの直方体状に切り出されたものである。この切り出された排ガス浄化フィルタ22には、流入セルおよび流出セルで形成された3×3のガス流路を含むものとする。
また、図4(b)に示すように、排ガス浄化フィルタ22は、上方の一面が除去されており、該一面に接して石英ガラス製の観察板23が設けられている。
排ガス浄化フィルタ22は、接着剤24を用いて観察板23と接する状態で流路20a内に固定されている。
【0091】
(3)圧力損失試験
まず、試験装置20の排ガス浄化フィルタ22に乾燥空気を流入させ、この乾燥空気を、排ガス浄化フィルタ22の隔壁を通過させて、排出口から排出させ、この時の流入口における圧力損失を測定した。
次に、試験装置20を、排気量230mLのディーゼルエンジン(Robin SGD2200、富士重工業社製)に取り付け、エンジン回転数3000rpmで運転して、粒子状物質を含む排ガスを、流速12cm/sで流路20a内に導入した。これにより排ガス浄化フィルタ22に粒子状物質を堆積させ、この時の流入口における圧力損失を測定した。
なお圧力損失測定時の流速は、10cm/sとした。
【0092】
(4)燃焼試験
作成した排ガス浄化フィルタについて、排気量230mLのディーゼルエンジンに取り付け、エンジン回転数3000rpmで運転し、排ガス浄化フィルタ内に粒子状物質を堆積させた。
次いで、粒子状物質を堆積させた排ガス浄化フィルタを、窒素雰囲気中で600℃まで加熱した後、温度を保持しつつ、酸素7%および窒素93%からなる混合ガスを導入して粒子状物質を燃焼させた。
燃焼処理においては、自動車排ガス測定器(MEXA-7500D、HORIBA社製)を用い、二酸化炭素量及び一酸化炭素量を測定し、堆積した粒子状物質の90質量%がガス化して除去されるまでの時間を用いて評価値とした。
【0093】
(5)排ガス浄化フィルタの観察
試験装置20を、排気量230mLのディーゼルエンジンに取り付け、エンジン回転数3000rpmで運転して、粒子状物質を含む排ガスを、流路20a内に導入し、排ガス浄化フィルタ22に粒子状物質を堆積させた。
また、粒子状物質を堆積した排ガス浄化フィルタ22を600℃に加熱し、酸素7%および窒素93%からなる混合ガスを導入して粒子状物質を燃焼させた。
これら粒子状物質の付着の様子および再生処理の様子を、図4(c)に示すように、観察板23を介して顕微鏡25(Focuscope FV-100C、フォトロン社製)を用いて観察した。観察箇所は、流入セルの内壁および隔壁の内部である。
【0094】
[実施例1]
平均粒子径0.5μmの炭化ケイ素粒子90質量%と、平均粒子径0.03μmの炭化ケイ素粒子10質量%と、を秤量して炭化ケイ素粒子の混合物を調整した。
次に、セラミックス粒子の含有量が9.0体積%、水の含有量が87.0体積%、ゲル化剤としてゼラチン(新田ゼラチン社製)の含有量が4.0体積%となるように計量した。そして、セラミックス粒子と純水とを攪拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリーとした後、スラリーにゼラチンを添加して、15分間混合して塗料を得た。
次いで、この塗料にフィルタ基体を浸漬したのち引き上げ、100℃で12時間乾燥させて、フィルタ基体の表面にセラミックス粒子からなる微小みぞが形成された塗膜を形成した。
次いで、セラミックス粒子の塗膜が形成されたフィルタ基体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で1700℃まで昇温し、2時間保持して焼結を行うことにより実施例1の排ガス浄化フィルタを製造した。
【0095】
[実施例2]
平均粒子径0.5μmの炭化ケイ素粒子10質量%と、平均粒子径0.03μmの炭化ケイ素粒子90質量%と、を秤量して炭化ケイ素粒子の混合物を調整した。
次に、セラミックス粒子の含有量が9.0体積%、水の含有量が87.0体積%、ゲル化剤としてゼラチンの含有量が4.0体積%となるように計量した。そして、セラミックス粒子と純水とを攪拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリーとした後、スラリーにゼラチンを添加して、15分間混合して塗料を得た。
次いで、この塗料にフィルタ基体を浸漬したのち引き上げ、100℃で12時間乾燥させて、フィルタ基体の表面にセラミックス粒子からなる微小みぞが形成された塗膜を形成した。
次いで、セラミックス粒子の塗膜が形成されたフィルタ基体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で1700℃まで昇温し、2時間保持して焼結を行うことにより実施例2の排ガス浄化フィルタを製造した。
【0096】
[実施例3]
平均粒子径0.5μmの炭化ケイ素粒子90質量%と、平均粒子径0.03μmの炭化ケイ素粒子10質量%と、を秤量して炭化ケイ素粒子の混合物を調整した。
次に、セラミックス粒子の含有量が16.0体積%、酢酸エチルの含有量が80.0体積%、ポリアクリル樹脂の含有量が4.0体積%となるように計量した。そして、セラミックス粒子と酢酸エチルとを攪拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリーとした後、メラミン硬化剤を添加して、5分間混合して塗料を得た。
次いで、この塗料にフィルタ基体を浸漬したのち引き上げ、100℃で4時間乾燥させて、フィルタ基体の表面にセラミックス粒子からなる塗膜を形成した。
次いで、セラミックス粒子の塗膜が形成されたフィルタ基体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気を窒素雰囲気にして650℃で5時間保持してバインダー成分の除去を行った後、アルゴン雰囲気で1700℃で2時間保持して焼結を行うことにより実施例3の排ガス浄化フィルタを製造した。
【0097】
[実施例4]
平均粒子径2.5μmの炭化ケイ素粒子80質量%と、平均粒子径0.03μmの炭化ケイ素粒子20質量%と、を秤量して炭化ケイ素粒子の混合物を調整した。
次に、セラミックス粒子の含有量が20.0体積%、水の含有量が76.0体積%、ゲル化剤としてゼラチンの含有量が4.0体積%となるように計量した。そして、セラミックス粒子と純水とを攪拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリーとした後、スラリーにゼラチンを添加して、15分間混合して塗料を得た。
次いで、この塗料にフィルタ基体を浸漬したのち引き上げ、100℃で12時間乾燥させて、フィルタ基体の表面にセラミックス粒子からなる微小みぞが形成された塗膜を形成した。
次いで、セラミックス粒子の塗膜が形成されたフィルタ基体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で1700℃まで昇温し、4時間保持して焼結を行うことにより実施例4の排ガス浄化フィルタを製造した。
【0098】
[実施例5]
平均粒子径0.5μmの炭化ケイ素粒子10質量%と、平均粒子径0.02μmの炭化ケイ素粒子90質量%と、を秤量して炭化ケイ素粒子の混合物を調整した。
次に、セラミックス粒子の含有量が20.0体積%、水の含有量が80.0体積%となるように計量した。そして、セラミックス粒子と水とを攪拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリー化し、チクソ係数の高い塗料を得た。
次いで、この塗料にフィルタ基体を浸漬したのち引き上げ、100℃で4時間乾燥させて、フィルタ基体の表面にセラミックス粒子からなる微小みぞが形成された塗布膜を形成した。
次いで、セラミックス粒子の塗膜が形成されたフィルタ基体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気で1700℃で2時間保持して焼結を行うことにより実施例4の排ガス浄化フィルタを製造した。
【0099】
[比較例1]
平均粒子径0.8μmの炭化ケイ素粒子90質量%と、平均粒子径0.03μmの炭化ケイ素粒子10質量%と、を秤量して炭化ケイ素粒子の混合物を調整した。
次に、セラミックス粒子の含有量が7.0体積%、水の含有量が92.0体積%、結着剤としてポリビニルピロリドン(日本触媒社製、K−30)の含有量が1.0体積%となるように計量した。そして、セラミックス粒子と純水とを攪拌機に入れ、ボールミルにて60rpmの回転速度で12時間混合してスラリーとした後、スラリーにゼラチンを添加して、15分間混合して塗料を得た。
次いで、この塗料にフィルタ基体を浸漬したのち引き上げ、100℃で12時間乾燥させて、フィルタ基体の表面にセラミックス粒子の塗膜を形成した。
次いで、セラミックス粒子が塗布されたフィルタ基体を雰囲気炉に入れ、炉内雰囲気をアルゴン雰囲気にして、炉内温度を毎分15℃の速度で1700℃まで昇温し、2時間保持して焼結を行うことにより比較例1の排ガス浄化フィルタを製造した。
【0100】
以上の実施例および比較例について、得られた排ガス浄化フィルタの評価結果を行ったところ、次の表1に示すような結果が得られた。
なお、表中の燃焼温度とは、燃焼試験時における燃焼温度を示す。
【0101】
【表1】

【0102】
また、電子顕微鏡観察の結果によれば、実施例1から5の排ガス浄化フィルタでは、いずれも多孔質膜の表面に幅1μm以上の微小みぞが形成されていること、当該微小みぞは多孔質膜を貫通しておらず、その深さは0.5μmから15μmの範囲内にあること、微小みぞの存在割合は5ないし10%以上であることが確認できた。
対して、比較例1の排ガス浄化フィルタでは、微小みぞがなく平坦な膜が観察された。
【0103】
図5、6は、実施例1の排ガス浄化フィルタについての電子顕微鏡写真であり、図5は、流入セル内の内壁を示す写真であり、図6は流入セルの内壁の拡大写真である。
図5に示すように、実施例1の排ガス浄化フィルタでは、流入セル内の角部のみならず平面部分においても多数の微小みぞが形成されている。図では、微小みぞの例として矢印で示しているが、矢印で示していない微小みぞが多数存在していることは写真から明白である。
また、図6に示すように、図5の写真の倍率では認識出来ないような微小みぞも多数形成されていることが分かる。
【0104】
さらに、排ガス浄化フィルタの観察結果によれば、実施例1、2、比較例1の排ガス浄化フィルタはいずれも、同様の捕集効率となった。図7には排ガス浄化フィルタの顕微鏡写真を示す。図7では、粒子状物質の捕集を行うに従ってフィルタ表面が黒く着色しているため、粒子状物質が捕集された場所を知ることができる。
【0105】
図7に示すように、実施例1の排ガス浄化フィルタでは、捕集の初期には微小みぞが選択的に黒く着色しており、微小みぞ部分を介して排ガスが排ガス浄化フィルタを通過し、微小みぞにおいて粒子状物質が選択的に捕集されていることが分かる。また、捕集時間が経過すると捕集開始時には認識できなかった微小みぞが浮かび上がる一方で、フィルタ全体が徐々に黒く着色するため、捕集の後期ではフィルタ全体で粒子状物質を捕集していることが分かる。さらに、捕集の後期であっても全体が一様に黒くなっているわけではなく、未だ白く見える部分、すなわち粒子状物質があまり堆積していない部分があることが分かる。このような部分では、粒子状物質が多く堆積した(黒く着色した)部分と比べると排ガスを通過しやすく、フィルタ機能が損なわれないと考えられる。
対して、比較例1の排ガス浄化フィルタでは、捕集の初期から全体的に一様に黒くなっており、フィルタ全体で粒子状物質の捕集効率には差が無いことが分かる。
【0106】
また、排ガス浄化フィルタの観察結果によれば、再生処理において比較例1は実施例1から5よりも長時間を要した。
例えば、図8に示すように、実施例1の排ガス浄化フィルタは、580℃で4分間処理を行うことにより再生処理が終了し、実施例2の排ガス浄化フィルタは、553℃で3分間処理を行うことにより再生処理が終了した。
これに対し、比較例1の排ガス浄化フィルタでは、608℃で15分間処理を行った後であっても粒子状物質が残存していた。比較例1の排ガス浄化フィルタは、実施例1,2の排ガス浄化フィルタと比べて、約4倍の再生処理時間を要した。
【0107】
以上の結果より、本実施形態の排ガス浄化フィルタでは、粒子状物質の高い捕集効率と低い圧力損失とを両立することができることが確かめられ、本発明の有用性が確かめられた。
【符号の説明】
【0108】
10 排ガス浄化フィルタ
11 フィルタ基体
12 ガス流路
12A 流入セル
12B 流出セル
13 多孔質膜
14 隔壁
15 微小みぞ
30 粒子状物質
α、γ 端面
G 排ガス
C 浄化ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状物質を含む排ガスが流入する流入面と、浄化ガスを排出する排出面と、多孔質体からなるフィルタ基体を備えた排ガス浄化フィルタであって、
前記フィルタ基体は、多孔質の隔壁と、該隔壁に囲まれたガス流路とを有し、該隔壁の表面に、前記隔壁の気孔よりも小さい気孔径の多孔質膜が設けられ、
前記多孔質膜の表面の少なくとも一部に、深さが当該多孔質膜の厚さよりも浅い微小みぞが形成されていることを特徴とする排ガス浄化フィルタ。
【請求項2】
前記多孔質膜表面における前記微小みぞの存在割合は、前記多孔質膜の膜面方向の投影面積をF、前記微小みぞの同方向への投影面積をGとしたときに、0.05≦G/F≦1であることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項3】
前記微小みぞは、幅が1μm以上であり、深さが0.5μm以上かつ15μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項4】
前記多孔質膜の厚さが5μm以上かつ80μm以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項5】
前記多孔質膜の気孔径は、前記フィルタ基体の気孔径よりも小さく、かつ前記多孔質膜の表面側の気孔径が、前記多孔質膜の前記フィルタ基体側の気孔径よりも小さいことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項6】
前記多孔質膜の材質が、炭化ケイ素を主成分としていることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法であって、
少なくとも、多孔質膜を形成するための粒子成分と、分散媒と、を含有する塗料を用意する工程と、前記塗料をフィルタ基体の表面上に塗布して塗布膜を形成する工程と、
前記塗布膜中の分散媒の一部を除去することにより、流動性を喪失した塗膜を形成させる工程と、
前記流動性を喪失した塗膜中の分散媒をさらに除去することにより、塗膜表面に微小みぞを形成させる工程と、を含むことを特徴とする排ガス浄化フィルタの製造方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法であって、
少なくとも、多孔質膜を形成するための粒子成分と、分散媒と、バインダー成分と、を含有する塗料を用意する工程と、
前記塗料をフィルタ基体の表面上に塗布してバインダー成分を含有する塗布膜を形成する工程と、
前記バインダー成分を含有する塗布膜中の分散媒を除去することにより、硬化した塗膜を形成させる工程と、
前記硬化した塗膜中のバインダー成分を除去することにより、塗膜表面に微小みぞを形成させる工程と、を含むことを特徴とする排ガス浄化フィルタの製造方法。
【請求項9】
前記粒子成分は、一次粒子径が10nm以上かつ120nm以下の粒子を90体積%以上含む第1の粒子と、一次粒子径が300nm以上かつ1000nm以下の粒子を90体積%以上含む第2の粒子と、からなり、
前記第1の粒子と前記第2の粒子との体積比が、3:97から97:3の範囲に含まれていることを特徴とする請求項7または8に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−218310(P2011−218310A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91628(P2010−91628)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】