説明

排尿情報測定大便器

【課題】 一般に排泄を行うトイレで溜水水位変化を測定することによって尿量や尿流率等の排尿状態に関する情報を測定するにあたって、衛生的に排泄された尿を処理するという必然性は維持しながら、他の器具から下水配管に排水されることに起因する下水配管内で発生した圧力変動が影響しないようにすることにより、常時、高精度の排尿情報測定することを可能とする。
【解決手段】 本発明では、排水ソケットに水路の開閉手段を配したことを特徴とすることにより、他の器具から下水配管に排水されることに起因する下水配管内で発生した圧力変動が、溜水の水位変化を発生させないようにすることで、常時、高精度の排尿情報測定を可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大便器内部の測定対象である溜水の水位の下水配管の圧力変動による変動を防止することに係り、特に溜水水位の再現性を高めることに好適な、排尿情報測定便器の高精度化構造に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
従来の排尿情報測定機能を有する便器装置は、便器ボール面を採尿器として使用しそこに貯まる溜水の水位を測定するものもある(例えば、特許文献1参照。)。
この例では、測定を行う際には尿が下水側に流出しないようトラップ部の溢流水位を変える必要があり、伸縮構造を持つ便器のトラップ部を利用している。しかしながら、便器の排出経路は常に下水配管と連通状態として測定するため、下水配管に連通されている他の器具からの水の流れに起因して発生する圧力変動の影響がトラップ内の溜水水位に変動を与えるため、正確な排尿情報測定を常に実現することが難しかった。
【0003】
また、便器ボール面水位を測定する方式としては、ボール面と下水配管を連通させて実現するものもある(例えば、特許文献2参照。)。
しかし、この場合も前記の例と同じく測定時に便器の排水経路を下水配管と連通状態としているために、前記の例と同様、溜水水位の測定時には下水配管からの圧力変動の影響を受ける構成となっていた。
【特許文献1】特開平08−299348号公報
【特許文献2】特開平10−082783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、一般に排泄を行うトイレで溜水水位変化を尿量関連測定値を測定するにあたって、
衛生的に排泄された尿を処理するという必然性は維持しながら、排泄された全尿を測定対象とすると共に、その測定精度に他の器具から下水配管に排水されることに起因する下水配管内で発生した圧力変動が影響しないようにすることで、常時、高精度の排尿情報測定大便器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、使用者の排尿を受けるボール面と、該ボール面の下部と連通し上方に屈曲した管路からなり前記ボール面に溜水を形成するためのトラップ部を介して下水配管に連通された排水配管と、前記溜水の水位を測定する溜水水位測定手段と、排尿に伴う前記水位測定手段から得られる溜水水位を予め設定された溜水水位と溜水量との関係式に基づいて溜水量に変換する溜水量算出部、及び前記溜水量算出部から得られる溜水量の変化挙動に基づいて尿量を算出する尿量換算部とからなる演算手段とを有して排泄される尿の量や排泄速度等の尿排泄情報を計測する排尿情報測定大便器において、
前記排水配管は別体に設けられた配管接続部材を介して下水配管と接続され、前記配管接続部材は管路を開閉する管路開閉手段を有していることを特徴とすることにより、
溜水水位の測定に際して溜水管路を下水道配管から遮断することによって、他の器具から下水配管に排水されることに起因する下水配管内で発生した圧力変動が測定精度に影響しないようにすることで、常時、高精度の排尿情報測定を可能とするだけでなく、遮断手段を便器側配管及び下水配管から独立した部材に持たせてることによって、システムを設置する場合や、万一遮断手段に不具合が生じた場合等のメンテナンス時の取り扱いを容易に出来る。
【0006】
また、請求項2記載の発明によれば、前記管路開閉手段はボール弁であることを特徴とすることにより、
排泄物が通過する経路に障害となる部分が発生しにくいため排泄物の詰まり等が発生しにくく、かつ単純な機構構成で流路の閉止が実現でき、下水配管内の圧力変動が溜水に伝達されることを防止することができる。
【0007】
また、請求項3記載の発明によれば、前記管路開閉手段はフラッパー弁構造であることを特徴とすることにより、
同じく単純な機構構成で流路の閉止が実現でき、下水配管内の圧力変動が溜水に伝達されることを防止することができる。また停電時など電力供給がストップした時に、バネ力やフラップ弁に連結された釣り合い錘などを利用して、排泄通水による通路開放が容易なため、停電時の便器使用において汚物詰まりによる汚水溢れなどが発生することがない。
【0008】
また、請求項4記載の発明によれば、前記管路開閉手段は少なくとも排尿情報測定時に閉止されることを特徴とすることにより、
下水圧変動によって溜水水位が変動するような状態が無いため、より高精度の測定が可能となる。
【0009】
また、請求項5記載の発明によれば、前記管路開閉手段は手動で作動させて管路を開放するための手動開放手段を有することにより、
停電時や排尿情報測定装置部の故障時など排水ソケット内の弁体を制御できない時にも流路の確保が容易であり、生活環境としてその素材が不可避な便器の使用ができないという状態が発生することが無い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、衛生的に排泄された尿を処理するという必然性は維持しながら、排泄された全尿を測定対象とすると共に、その測定精度に他の器具から下水配管に排水されることに起因する下水配管内で発生した圧力変動が影響しないようにすることで、常時、高精度の排尿情報測定が可能という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態に関し、以下に図を用いて詳説する。
【実施例】
【0012】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態による排尿情報測定大便器を説明する。
まず、図1乃至図5を参照して本発明の第1実施形態による排尿情報測定大便器を説明する。
図1は本発明の第1実施形態による大便器ユニットの断面図である。図1に示すように、本発明の第1実施形態による大便器ユニット1は、洋風大便器2と、大便器ユニット1を作動させる種々の機能部4と、を有する。洋風大便器2は、ボール6と、洗浄水を吐水させるリム吐水ノズル7と、ボール6を水封するトラップ部8と、トラップ部8に向けて洗浄水を噴出するサイホン現象発生手段であるゼット吐水ノズル9と、を有する水道直圧式の洗浄を行う洋風大便器である。さらに、大便器ユニット1は、洋風大便器2のトラップ部8に接続された排水ソケット10と、洋風大便器2に取り付けられ、市水から供給された洗浄水を切替えて供給する給水バルブである水路切替手段16と、を有する。排水ソケット10の内部には、後述の機構構成で示すような流路を開閉する開閉手段28が組み込まれている。
【0013】
洋風大便器2と排水ソケット10は各々別体で構成されているため、施工時は先ず排水ソケット10を下水配管Dと接続する作業を実施してから、次いで洋風大便器2の組み付けを行えばよいため、本システムを施工するに際して、従来の洋風大便器を施工するのと同じ順序で施工ができるため、工事作業者の誤りの無い施工作業が期待できる。また排水ソケット10は電動機などのアクチュエーターやシールのためのゴム部材が必要なためメンテナンスが発生することがあるが、洋風大便器2と切り離して作業が実現できるため、作業時の取り扱いが容易である。

なお、洋風大便器2と排水ソケット10を一体構成としておいた場合、別体とした場合に比べて現場での接続部位が少なくなるため漏水事故が発生しにくいという面もある。
【0014】
また、機能部4は、ボール6底部の静水圧を測定する水位測定手段である圧力センサ18を有する。また、機能部4は、貯水タンク24と、貯水タンク24内の水を圧送して、排尿情報測定に使用される管路を洗浄するポンプ36と、を有する。さらに、機能部4は、水路を切替え又は開閉する、第1開閉弁30、第2開閉弁32、第3開閉弁34、及び第4開閉弁26を有する。また、機能部4は、水路切替手段16、各三方弁、及び各開閉弁を制御するコントローラ38を有する。このコントローラ38は、圧力センサ18による測定値に基づいて、尿量又は尿流率を算出する尿量算出手段40を内蔵している。
【0015】
トラップ部8の出口側端部は、排水ソケット10を介して下水管Dに接続されている。 リム吐水ノズル7は、ボール6の上部から、リムの接線方向に洗浄水を吐出させ、ボール6の壁面を洗浄するように構成されている。ゼット吐水ノズル9は、ボール6の底部からトラップ部8に向けて洗浄水を噴出させ、トラップ部8内にサイホン現象を誘発するように構成されている。
水路切替手段16は、コントローラ38の制御信号に従って、市水から供給された洗浄水を、リム吐水ノズル7及びゼット吐水ノズル9から交互に吐水させるように構成されている。
【0016】
圧力センサ18は、ゼット吐水ノズル9と連通した圧力導管12によって導かれた、ボール6底部の静水圧を測定するように構成されている。図1に示すように、ゼット吐水ノズル9と連通した圧力導管12は、第3開閉弁34を介して圧力センサ18に接続されている。さらに、第3開閉弁34は、コントローラ38によって、圧力センサ18による水位測定を行う際には開放され、水位測定を行わない時には閉鎖されるように構成されている。
【0017】
また、図1に示すように、市水と貯水タンク24の間には、第4開閉弁26が設けられている。第4開閉弁26が連通すると、市水は貯水タンク24に導かれる。水路切替手段16とリム吐水ノズル7の間には、分岐路22が設けられている。第1開閉弁30が閉止した場合、市水は水路切替手段16から直接リム吐水ノズル7に吐水されるようになっている。
【0018】
図1に示すように、貯水タンク24は、洗浄用タンク24aが、水位設定手段である溜水タンク24bを取り囲む二重構造であり、溜水タンク24bから溢れた水が洗浄用タンク24aに流入するようになっている。溜水タンク24bの底部には、流出管24dが接続されており、溜水タンク24b内の水が、流出管24dに接続された第1開閉弁30を介してリム吐水ノズル7から吐水されるようになっている。
【0019】
また、洗浄用タンク24aには、給水管24cから溜水タンク24bの中に給水され、溜水タンク24bから溢れ出た水が流入するように構成されている。給水管24cと溜水タンク24bの間には吐水口間隙が確保されているため、溜水13が逆流しても、市水に連通することがなく、衛生面での問題もない。このため、溜水タンク24bに貯められる水の量は溜水タンク24bの容積によって決まり、溜水タンク24bには一定量の水が貯められることになる。さらに、洗浄用タンク24aには、オーバーフロー管24eが接続されている。このオーバーフロー管24eは、トラップ管25を介して排水ソケット10に接続されている。これにより、万一、溜水タンク24bへの給水が不具合等によって停止されなくなったとき、洗浄用タンク24aの水を排水ソケット10へ排出し、洗浄用タンク24aから水が溢れるのを防止している。オーバーフロー管24eは、トラップ管25を介して排水ソケット10接続されているので、下水管内の臭気が、オーバーフロー管24eを通って大気に漏れることがない。
【0020】
さらに、洗浄用タンク24aの底部には、流出管24fが接続されている。この流出管24fは、ポンプ36、第2開閉弁32を介して圧力導管12に接続されている。従って、第2開閉弁32を開放した状態でポンプ36を作動させると、洗浄用タンク24a内の水が圧力導管12に流入する。
【0021】
コントローラ38は、水路切替手段16、各三方弁、及び各開閉弁に制御信号を送って、洋風大便器2の洗浄機能及び排尿情報測定機能を実行するように構成されている。また、コントローラ38に内蔵された尿量算出手段40は、圧力センサ18によって測定された圧力に基づいて、ボール6内の水位を求め、使用者の排尿量を計算するように構成されている。コントローラ38、及び尿量算出手段40は、マイクロプロセッサ(図示せず)、及びこれを作動させるためのプログラムを記憶したメモリ(図示せず)等で構成することができる。
【0022】
次に、図2を参照して、本発明の第1実施形態による大便器ユニット1の作用を説明する。図2は大便器ユニット1の作用を時系列で表すグラフである。
図2に示すように、待機時においては、大便器ユニット1のボール6内の溜水13の水位は、図1にYで示すスタート水位になっており、また、操作・表示部(図示せず)には「測定可」と表示されている。本実施形態において、このスタート水位Yは、溢流水位Hの約36mm下方、トラップ部8の封水が破れる破封水位の約25mm上方に設定されている。次に、大便器ユニット1の使用者が、操作・表示部(図示せず)の準備スイッチ又は個人認証のためのIDカード挿入などの所定の起動手段(図示せず)を操作すると、操作・表示部(図示せず)の表示は「準備中」になる。これと同時に、コントローラ38は、第2開閉弁34に制御信号を送る。これにより、圧力導管12と圧力センサ18が連通される。また、コントローラ38は、圧力センサ18に制御信号を送り、これらを作動させる。
【0023】
また、コントローラ38は、排水ソケット10に内蔵される開閉手段28に制御信号を送り、流路を閉止する。待機時に流路を開放状態として、排尿情報測定を実施しない方が便器にバケツの水を流すようなことがあったとしても、汚水溢れなどが発生することがないよう配慮されている。使用者の測定を開始するという意思表示に従って流路が閉止されることにより、下水配管D内で発生した他の器具に由来する水の流れで発生する圧力変動が溜水13の水位に伝達されないようになる。
【0024】
なお待機時の開閉手段28の状態は、前述の開放状態とするものに加え、閉止状態としておいても良い。溜水高さが充分に確保できるような便器であったり、下水配管内で圧力変動が発生しても溜水が切れることが無いように下水配管内の圧力をモニターし、必要に応じて補水するようなシステムとして溜水が切れることが無いようにしている場合は待機時の開閉手段28は開放することが推奨される。しかし溜水高さが充分になく、下水配管内の臭気や衛生害虫のトイレ内侵入が懸念される場合は、待機時の開閉手段28は閉止することが推奨される。前述のバケツの水を流すような場合に対しては、圧力センサー18の出力や、便器近傍に使用者がいることを検知する人体検知センサーなどの出力で開閉手段28を開放すれば、汚水の溢れを防止することができる。
少なくとも測定中は開閉手段28は閉止されているため、溜水13の水位が下水配管内の圧力変動によって変動することはない。
【0025】
所定時間経過すると、操作・表示部(図示せず)の表示が「測定中」に変化する。表示が「測定中」に変化した後、使用者はボール6に排尿する。使用者が排尿すると、図2に示すように、ボール6内の水位は上昇し、排尿後、水位Zとなる。コントローラ38は、圧力センサ18によって測定される圧力変化がなくなるか、又は使用者が操作・表示部(図示せず)の排尿終了スイッチ(図示せず)を操作すると、使用者の排尿が終了したと判定し、使用者の排尿量の計算を開始する。コントローラ38に内蔵された尿量算出手段40は、圧力センサ18によって測定された圧力に基づいて、使用者の排尿量を計算する。
【0026】
また、排尿量の計算開始と同時に、コントローラ38は、圧力センサ18に制御信号を送り、これをOFFにし、第3開閉弁34に制御信号を送り、これを閉鎖する。また、コントローラ38は、排水ソケット10に内蔵される開閉手段28に制御信号を送り、流路を開放し、排泄された汚物が下水配管Dに排出できるよう準備する。
【0027】
また、コントローラ38は、第2開閉弁32を開放して、ポンプ36を作動させる。これにより、洗浄用タンク24a内の水は、ポンプ36、第2開閉弁32、圧力導管12を通ってゼット吐水ノズル9から吐水され、これらの経路が洗浄される。なお、尿に接したこれらの配管経路の洗浄は、毎回の測定毎に行っても良いし、或いは、所定の測定回数毎、又は所定時間毎に行っても良い。このように洗浄を毎回行わない場合には、1回の測定に要する全体の時間を短縮することができる。
【0028】
排尿情報測定終了後、使用者が、操作・表示部(図示せず)の便器洗浄スイッチ(図示せず)を操作すると、操作・表示部の表示が「準備中」に変化する。これと同時に、コントローラ38は、水路切替手段16に制御信号を送って、リム吐水ノズル7から所定時間吐水させ、図2に示すように、ボール6内の水位が溢流水位Hまで上昇する。次いで、コントローラ38は、リム吐水ノズル7からの吐水を停止し、ゼット吐水ノズル9から吐水させる。ゼット吐水ノズル9からの吐水により、サイホン現象が発生し、ボール6内の溜水はトラップ部8に吸引され、ボール6内の溜水量はほぼゼロの空水位Xになる。
【0029】
所定時間ゼット吐水を行った後、コントローラ38は、ゼット吐水を停止させる。これと同時に、コントローラ38は、第1開閉弁30に制御信号を送ってこれを開放し、溜水タンク24b内に貯められた所定量の水を、第1開閉弁30、リム吐水ノズル7を介してボール6内に吐水させる。所定時間第1開閉弁30を開放すると、溜水タンク24b内の水が全てボール6内に流入する。ここで、溜水タンク24bからの給水を行う前のボール6内の溜水量はほぼゼロの空水位Xであるので、所定量の水が貯められた溜水タンク24b内の水を全てボール6内に流入させた後のボール6内の溜水量は常にほぼ一定となり、この時の水位が、所定のスタート水位Yになる。従って、溜水タンク24bは水位設定手段として機能する。
【0030】
溜水タンク24b内の水が全てボール6内に流入すると、コントローラ38は、第1開閉弁30を閉鎖させる。同時に、コントローラ38は、第4開閉弁26に制御信号を送り、市水を貯水タンク24に連通させる。これにより市水は、第4開閉弁26を通って空になっていた溜水タンク24bに流入する。溜水タンク24bに水が流入すると、溜水タンク24b内の水位が上昇する。溜水タンク24bが満杯になると、水は溜水タンク24bから溢れて洗浄用タンク24aに流入する。洗浄用タンク24aの水位が上昇し、所定の水位に達すると、コントローラ38は、第4開閉弁26からの給水を停止させる。第4開閉弁26からの給水が停止すると、操作・表示部(図示せず)の表示が「測定可」に変化し、大便器ユニット1は待機状態に復帰する。
【0031】
また、万一、洗浄用タンク24aの水位が所定の水位に達しても給水が停止されなかった場合には、洗浄用タンク24a内の水は、トラップ管25を介して排水ソケット10に排水され、水が洗浄用タンク24aから溢れることがないようにしている。
【0032】
図3は、本実施形態の大便器ユニット1を排尿情報測定ではなく、大便の用途で使用する場合の作用を示す。この場合には、使用者が操作・表示部(図示せず)の大便使用スイッチ(図示せず)を押してから、または、準備スイッチや個人認証のためのIDカード挿入などの所定の起動手段(図示せず)を操作せずに着座した場合である。尿量を測定するのではなく、大便を排泄する目的であることを認知すると、コントローラ38は、リム吐水ノズル7からリム給水を行い、ボール6内の溜水水位を、溢流水位Hまで上昇させる。リム給水は毎分20L程度の流量で行われるため、溢流水位Hにおいて溜水の全体量が2〜3Lの本実施例においては、水位を溢流水位Hまで上昇させるために要する時間は約10秒以内であり、使用者の使い勝手が悪くなることはない。また、水位を溢流水位Hまで上昇させることにより、十分な溜水面積を確保することができ、また、ゼット吐水によるサイホン現象を有効に発生させることができる。
【0033】
次に、図4を参照して、圧力センサ18による尿量の測定を説明する。図4は、ボール6の水位と、ボール6内に溜まっている溜水量の関係の一例を示すグラフである。圧力センサ18は、ボール6の底部に設けられたゼット吐水ノズル9に連通された圧力導管12によって伝達された圧力を測定するように構成されており、圧力センサ18によって測定される圧力は、ボール6の水位に比例する。コントローラ38に内蔵された尿量算出手段40は、図4に一例を示す水位と溜水量の関係を予め記憶している。尿量算出手段40は、使用者が排尿を終えた後の圧力センサ18の測定圧力から使用者の排尿後の溜水水位Zを求める。次に、尿量算出手段40は、記憶している水位と溜水量の関係に基づいて、溜水水位Zにおけるボール6内の溜水量を計算する。この排尿後の溜水量から、予め設定され、既知である排尿前のスタート水位Yにおける溜水量を差し引くことによって、使用者の尿量が計算される。
【0034】
また、尿量算出手段40は、同様にして、使用者の排尿中の水位変化を時々刻々測定することにより、単位時間当たりの排尿量である尿流率を計算する。なお、水位又は圧力測定値と溜水量の関係は、設計値として尿量算出手段40に予め記憶させておいても良いが、陶器で形成される一般的な大便器においては、製品毎に個体差があるので、施工現場で所定の水量をボール6に投入することによって、水位又は圧力測定値と溜水量の関係を尿量算出手段40に学習させ、記憶させるように構成することもできる。
【0035】
次に、図5を参照して、溜水13水位と下水配管D内の圧力変動の影響を説明する。排水ソケット10に内蔵される開閉手段28を作動させない場合で説明を行う。図5(a)は、下水管内の圧力が大気圧と等しい場合のボール6内及びトラップ部8内の水位を示す図であり、(b)は下水管内の圧力が負圧の場合、(c)は正圧の場合の水位を示す図である。図5(a)に示すように、下水管内の圧力が大気圧と等しい場合には、ボール6内の水位とトラップ部8内の水位は等しいので、圧力センサ18の圧力測定値から水位を求めることによって、精度良く尿量を演算することができる。これに対して、図5(b)のように、下水管内の圧力が負圧になると、トラップ部8内の溜水が下水管の方に吸引されるので、トラップ部8内の水位は上昇し、ボール6内の水位は下降する。逆に、図5(c)のように、下水管内の圧力が正圧になると、トラップ部8内の溜水が押され、トラップ部8内の水位が下降し、ボール6内の水位が上昇する。これら、図5(b)又は(c)の場合には、圧力センサ18の圧力測定値からそのまま水位を求め、溜水量を計算すると、溜水量の計算値に誤差を生じることになる。本実施例では、下水配管D内の圧力変動が溜水13に伝達されないため、常に図5(a)の状態で測定が実施されることになる。
【0036】
図6は排水ソケットに内蔵される開閉手段の第一の実施例を示す断面図である。
排水ソケット10の流路には、モーター101で回動するボール弁102が配置されている。ボール弁102は直径約55mmの流路103が形成されると共に、その周囲にはシール体104が構成されている。排泄物を排出する時、および待機時には、ボール弁102の流路103は下水Dとトラップ部を連通させると共に、排尿情報測定時にはボール弁102を回動させて流路を閉止し、下水配管内の圧力変動が溜水に伝わらないようになっている。ボール弁102には外部から手動駆動するための軸105が、便器外に露出している。停電時等、流路が閉止状態でボール弁102が停止している時には、手動でボール弁102を回動させて流路を連通させることにより、便器としての排出・排水機能は維持できるよう配慮されている。
【0037】
なおボール弁102が閉止された場合、トラップ部8は密閉空間となる。溜水13に排尿されて水位が上昇し、やがて排水ソケット10側に溢流することになるが、上記密閉性が高い場合はトラップ部8の空気が圧縮される、または水位上昇によって発生したトラップ部8内部圧力上昇によって下水配管D側への空気漏れが生じて溢流が生じるため、閉止手段が無い時に比べて排尿量の増加に対して溢流が遅れ気味となる。従って、排尿量と水位変化が相対関係を持ち排尿情報測定できる範囲が広くすることも期待できる。
【0038】
図7は排水ソケットに内蔵される開閉手段の第ニの実施例を示す断面図である。
排水ソケット10の流路には、ソレノイド201で吸引・回動するフラップ弁202が配置されている。フラップ弁202は直径約55mmの流路203が形成されると共に、その周囲にはシール体204が構成されている。排泄物を排出する時、および待機時には、フラップ弁202の流路203は下水Dとトラップ部を連通させると共に、排尿情報測定時にはフラップ弁202を回動させて流路を閉止し、下水配管内の圧力変動が溜水に伝わらないようになっている。フラップ弁202にはソレノイド201への給電が停止した時には回動・閉止すべく、スプリング205が設けられている。停電時等、流路が閉止状態でフラップ弁202が停止することを防止することにより、便器としての排出・排水機能は維持できるよう配慮されている。
【0039】
図8は排水ソケットに内蔵される開閉手段の第三の実施例を示す断面図である。
図7ではソレノイド201の吸引力でフラップ弁202を閉止し、スプリング205の力によって開放する構成としている。図8その応用例であり、フラップ弁202に接続した釣り合い錘206で閉止動作を実施し、開放は通水に伴う流水力のみを利用するというアクチュエータ不要の構成としたものである。釣り合い錘のトルク設定としては、閉止すべき下水圧変動に抗すると共に、便器の排水に伴う流水力に開放されるような設定とすればよい。また上述の釣り合い設定ができない場合は、図7で採用したようなアクチュエータを組合せる構成としても良い。
【0040】
図9は排水ソケットに内蔵される開閉手段の第四の実施例を示す断面図である。
排水ソケット10の流路には、モーター301で回動する変曲路302が配置されている。変曲路302は直径約55mmの流路303が形成されている。排泄物を排出する時、および待機時には、変曲路302の流路303は下水Dとトラップ部を連通させると共に、排尿情報測定時には変曲路302を回動させて流路303を排水ソケット10の内周に向けることにより流路を閉止し、下水配管内の圧力変動が溜水に伝わらないようになっている。変曲路302には図示しない回動用スプリングが配置されており、停電時等、流路が閉止状態で変曲路302が停止した時には、スプリング力で変曲路302を回動させて流路を連通させることにより、便器としての排出・排水機能は維持できるよう配慮されている。
【0041】
図10は排水ソケットに内蔵される開閉手段の第五の実施例を示す断面図である。
本図は排水ソケット10を背部より見た状態を示す断面図である。排水ソケット10の流路には、ゴム材質で形成された流路401が配置されている。流路401の内直径は約55mmである。排泄物を排出する時、および待機時には、流路401は下水Dとトラップ部を連通させると共に、排尿情報測定時には流路401は両側に設けられたピンチ弁体402によって力を加えることにより流路を閉止し、下水配管内の圧力変動が溜水に伝わらないようになっている。ピンチ弁体402には図示しない復帰用スプリングが配置されており、停電時等、流路が閉止状態で流路401が停止した時には、スプリング力で流路401を除力することで流路を連通させることにより、便器としての排出・排水機能は維持できるよう配慮されている。流路401の内部には突起等の異物が発生しないため、トイレットペーパーや異物などが引っかかったりしにくく、便器としての排出性能の低下が発生しにくいと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第1実施形態による大便器ユニットの断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による大便器ユニットの作用を時系列で表すグラフである。
【図3】本発明の第1実施形態による大便器ユニットを大便の用途で使用する場合の作用を示すグラフである。
【図4】ボールの水位と、ボール内に溜まっている溜水量の関係の一例を示すグラフである。
【図5】(a)下水管内の圧力が大気圧と等しい場合、(b)下水管内の圧力が負圧の場合、(c)下水管内の圧力が正圧の場合におけるボール内及びトラップ部内の水位を示す図である。
【図6】排水ソケットに内蔵される開閉手段の第一の実施例を示す断面図である。
【図7】排水ソケットに内蔵される開閉手段の第ニの実施例を示す断面図である。
【図8】排水ソケットに内蔵される開閉手段の第三の実施例を示す断面図である。
【図9】排水ソケットに内蔵される開閉手段の第四の実施例を示す断面図である。
【図10】排水ソケットに内蔵される開閉手段の第五の実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 本発明の第1実施形態による排尿情報測定大便器ユニット
2 洋風大便器
4 機能部
6 ボール
7 リム吐水ノズル
8 トラップ部
9 ゼット吐水ノズル
10 排水ソケット
12 圧力導管
13 溜水
16 水路切替手段
18 圧力センサ
22 下水管圧力センサ
24 貯水タンク
24a 洗浄用タンク
24b 溜水タンク
24c 給水管
24d 流出管
24e オーバーフロー管
24f 流出管
25 トラップ管
26 第4開閉弁
28 開閉手段
30 第1開閉弁
32 第2開閉弁
34 第3開閉弁
36 ポンプ
38 コントローラ
40 尿量算出手段
101 モーター
102 ボール弁
103 流路
104 シール体
105 軸
201 ソレノイド
202 フラップ弁
203 流路
204 シール体
205 スプリング
206 釣り合い錘
301 モーター
302 変曲路
303 流路
401 流路
402 ピンチ弁体
D 下水配管
H 溢流水位
X 空水位
Y スタート水位
Z 排尿後水位



【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の排尿を受けるボール面と、該ボール面の下部と連通し上方に屈曲した管路からなり前記ボール面に溜水を形成するためのトラップ部を介して下水配管に連通された排水配管と、前記溜水の水位を測定する溜水水位測定手段と、排尿に伴う前記水位測定手段から得られる溜水水位を予め設定された溜水水位と溜水量との関係式に基づいて溜水量に変換する溜水量算出部、及び前記溜水量算出部から得られる溜水量の変化挙動に基づいて尿量を算出する尿量換算部とからなる演算手段とを有して排泄される尿の量や排泄速度等の尿排泄情報を計測する排尿情報測定大便器において、
前記排水配管は別体に設けられた配管接続部材を介して下水配管と接続され、前記配管接続部材は管路を開閉する管路開閉手段を有していることを特徴とする排尿情報測定大便器。
【請求項2】
前記管路開閉手段はボール弁であることを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定大便器。
【請求項3】
前記管路開閉手段はフラッパー弁構造であることを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定大便器。
【請求項4】
前記管路開閉手段は少なくとも尿排泄情報測定時に閉止されることを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定大便器。
【請求項5】
前記管路開閉手段は手動で作動させて管路を開放するための手動開放手段を有することを特徴とする請求項1に記載の排尿情報測定大便器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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