説明

排尿抑制具

【課題】薬剤に頼ることなく、かつ、皮膚を侵襲することなく、頻尿ないし尿失禁を防止するようにした簡単かつ安価であって、何人も極めて容易に使用することができる排尿抑制具を提供する。
【解決手段】粘着性を持ち、かつ、平らな表面を有する柔軟な弾性体により形成された押圧部1を備え、該押圧部により人体の会陰部を押圧することにより膀胱の排尿収縮運動を抑制するようにしたことを特徴とする排尿抑制具。該弾性体は好ましくはエラストマーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排尿抑制具に関するものであり、更に詳しくは、人体の特定部位を押圧することにより排尿を抑制し、以て、特に高齢者又は子供の頻尿ないし尿失禁を防止するようにした排尿抑制具に係るものである。
【背景技術】
【0002】
頻尿又は尿失禁の治療・予防剤は、例えば特開平11−1440号公報等により既に開示されている。
【0003】
この頻尿又は尿失禁の治療・予防剤は、中枢性の排尿反射抑制作用とカルシウム拮抗作用とを持つ化合物を有効成分として含んでなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−1440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の頻尿又は尿失禁の治療・予防剤は、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、注射剤等に製剤され、例えば経口投与されるものであるが、本発明は、薬剤に頼ることなく、かつ、皮膚を侵襲することなく、頻尿ないし尿失禁を防止するようにした簡単かつ安価であって、何人も極めて容易に使用することができる排尿抑制具を提供しようとしてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、下記の排尿抑制具を提供するものである。
【0007】
(1)粘着性を持ち、かつ、平らな表面を有する柔軟な弾性体により形成された押圧部を備え、該押圧部により人体の会陰部を押圧することにより膀胱の排尿収縮運動を抑制するようにしたことを特徴とする排尿抑制具(請求項1)。
【0008】
(2)前記弾性体はエラストマーである(請求項2)。
【0009】
(3)前記弾性体はゲルである(請求項3)。
【0010】
(4)前記押圧部は、円柱状に形成され、柄部を備えている(請求項4)。
【0011】
(5)前記押圧部は前記柄部に回転自在に取り付けられている(請求項5)。
【発明の効果】
【0012】
[請求項1の発明]
粘着性を持ち、かつ、平らな表面を有する柔軟な弾性体により形成された押圧部により人体の会陰部を押圧したときには、膀胱の排尿収縮運動が抑制される。したがって、この排尿抑制具は、膀胱の不随意の収縮による尿意切迫感を伴う過活動膀胱の治療に有効であり、特に高齢者又は子供の頻尿ないし尿失禁を効果的に防止することができる。
【0013】
この排尿抑制具は、簡単かつ安価であって、何人も極めて容易に使用することができるものであり、薬剤に頼ることなく、頻尿ないし尿失禁を防止することができる。押圧部は、平らな表面を有する柔軟な弾性体により形成されているため、会陰部を押圧することにより該会陰部の皮膚に非侵害刺激を与える。換言すれば、該押圧部による皮膚刺激は侵襲を与えるおそれがない。
【0014】
[請求項2の発明]
押圧部を形成する弾性体がエラストマーであるため、上記効果は一層顕著にあらわれる。
【0015】
[請求項3の発明]
押圧部を形成する弾性体がゲルであるため、上記効果は一層顕著にあらわれる。
【0016】
[請求項4の発明]
押圧部は、円柱状に形成され、柄部を備えているため、使用者は該柄部を手指で把持し、該押圧部により人体の会陰部を好ましく押圧することができる。
【0017】
[請求項5の発明]
前記押圧部は柄部に回転自在に取り付けられているため、使用者は該柄部を手指で把持し、該押圧部を人体の会陰部上にて回転させることにより、該会陰部をより好ましく押圧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、排尿抑制具の一例を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す排尿抑制具の断面図である。
【図3】図3は、図1に示す排尿抑制具の側面図である。
【図4】図4は、排尿抑制具の別の一例を示す斜視図である。
【図5】図5は、図4に示す排尿抑制具の断面図である。
【図6】図6は、排尿抑制具の更に別の一例を示す斜視図である。
【図7】図7は、図6に示す排尿抑制具の断面図である。
【図8】図8は、排尿抑制具の更に別の一例を示す斜視図である。
【図9】図9は、図8に示す排尿抑制具の断面図である。
【図10】図10は、図8に示す排尿抑制具の変形例を示す断面図である。
【図11】実施例1における膀胱内圧の変化を示すグラフである。
【図12】比較例1における膀胱内圧の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明による排尿抑制具は、粘着性を持ち、かつ、平らな表面を有する柔軟な弾性体により形成された押圧部1を備え、該押圧部1により人体の会陰部を押圧することにより膀胱の排尿収縮運動を抑制するようにしたものである。
【0020】
会陰部(会陰)は、排尿口と肛門との間の部分である。すなわち、会陰部の長さは、人により著しく異なる。女性の会陰部の長さは、概ね3〜5cm程度であるが、男性の会陰部は、女性の会陰部よりも一般に広い。
【0021】
押圧部1は、適度の粘着性を有することが必要である。また、押圧部1は、会陰部を押圧することにより該会陰部の皮膚に非侵害刺激を与えるように、平らな表面を有する柔軟な弾性体により形成される。
【0022】
押圧部1は、好ましくは約4〜20g、より好ましくは約12gの押圧力で会陰部を押圧するものとする。
【0023】
押圧部1を形成する弾性体は、好ましくはエラストマーである。エラストマーとしては、例えば熱可塑性エラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー等が用いられる。押圧部1を形成する弾性体は、ゲルであってもよい。
【0024】
図1〜図3に示す事例における押圧部1aは、円柱状に形成され、柄部3を備えている。この事例においては、使用者は、柄部3を指で把持し、円柱状の押圧部1aを会陰部に押圧する。
【0025】
図1〜図3に示す事例における円柱状の押圧部1aは、柄部3に回転自在に取り付けられることが望ましい。押圧部1aが柄部3に回転自在に取り付けられている場合には、使用者は、柄部3を指で把持し、円柱状の押圧部1aを会陰部の皮膚に当接させた状態で柄部3を該皮膚に沿って移動させることにより、押圧部1aを該皮膚上にて回転させる。
【0026】
図1〜図3に示す事例における押圧部1aは、円柱状の芯材5aの外面にエラストマーの表面部7aを取り付けてなるものである。符号9に示すものは押圧部1aの回転軸である。
【0027】
図4、図5に示す事例における押圧部1bは、球状に形成され、柄部3を備えている。この事例においては、使用者は、柄部3を指で把持し、球状の押圧部1bを会陰部に押圧する。
【0028】
図4、図5に示す事例における押圧部1bは、球状の芯材5bの外面にエラストマーの表面部7bを取り付けてなるものである。
【0029】
図6、図7に示す事例における押圧部1cは、略直方体状に形成され、柄部3を備えている。この事例においては、使用者は、柄部3を指で把持し、略直方体状の押圧部1cを会陰部に押圧する。
【0030】
図6、図7に示す事例における押圧部1cは、略直方体状の芯材5cの外面にエラストマーの表面部7cを取り付けてなるものである。
【0031】
図8、図9に示す事例における押圧部1dは、略直方体状に形成され、柄部を備えていない。この事例においては、使用者は、直方体状の押圧部1dを手で把持して会陰部に押圧する。
【0032】
図8、図9に示す事例における押圧部1dは、略直方体状の芯材5dの外面にエラストマーの表面部7dを取り付けてなるものである。
【0033】
図10に示す事例における押圧部1eは、エラストマーのみにより形成されている。
【実施例1】
【0034】
芯材の外面に粘着性を持ち、かつ、平らな表面を有するエラストマーの表面部を備えさせてなる円柱状の押圧部(直径14mm、長さ14mm、重さ4.6g)を合成樹脂製の柄部に回転自在に取り付けてなる排尿抑制具(重さ12g)を作成した。
【0035】
[試験]
この実施例1の排尿抑制具による軽い皮膚刺激が膀胱機能に及ぼす効果を麻酔した成熟雄ラットを用いて調べた。
【0036】
[試験方法]
成熟雄ラットを麻酔し、人工呼吸下で深部体温を生理的範囲に維持した。該ラットの膀胱頸部より膀胱内にポリエチレンチューブを挿入し、これを圧トランスデューサーに接続して膀胱内圧を測定した。膀胱内に生理食塩水を注入して膀胱を充満させ、該膀胱の排尿収縮運動を誘発した。
【0037】
上記排尿抑制具の柄部を把持し、押圧部を該ラットの会陰部に当接させ、ゆっくりと回転させることにより、1分間の皮膚刺激を行った。
【0038】
[試験結果]
〇刺激を与える前:
膀胱内に生理食塩水を注入して膀胱内圧を高めると、膀胱は排尿収縮運動を行った。尿道がポリエチレンチューブにより塞がれているため、膀胱が収縮しても膀胱内容は排出されず、膀胱は振幅の大きな排尿収縮運動を1分間あたり1.5〜2回の頻度で繰り返した。
【0039】
〇刺激を与えたとき:
実施例1の排尿抑制具により上述の如く1分間(図11における符号aに示す時間)の皮膚刺激を行ったときの膀胱内圧(単位:cmHO)の変化を図11に示す。図11から明らかなように、実施例1の排尿抑制具を用いて会陰部に皮膚刺激を加えることにより膀胱の排尿収縮運動が抑制された。膀胱の排尿収縮運動の抑制効果は、皮膚刺激を開始した時から現れ、皮膚刺激終了後も数分間持続した。
【0040】
[比較例1]
排尿抑制具として、非侵害刺激を与える毛筆を用いた。
【0041】
[試験]
この比較例1の毛筆によるブラッシング刺激が膀胱機能に及ぼす効果を麻酔した成熟雄ラットを用いて調べた。
【0042】
[試験方法]
実施例1と同様に、成熟雄ラットを麻酔し、人工呼吸下で深部体温を生理的範囲に維持した。該ラットの膀胱頸部より膀胱内にポリエチレンチューブを挿入し、これを圧トランスデューサーに接続して膀胱内圧を測定した。膀胱内に生理食塩水を注入して膀胱を充満させ、該膀胱の排尿収縮運動を誘発した。
【0043】
比較例1の毛筆により該ラットの会陰部に1分間のブラッシング刺激を与えた。
【0044】
[試験結果]
〇刺激を与える前:
上記実施例1と同じである。
【0045】
〇刺激を与えたとき:
比較例1の毛筆により上述の如く1分間(図12における符号bに示す時間)のブラッシング刺激を行ったときの膀胱内圧(単位:cmHO)の変化を図12に示す。図12から明らかなように、比較例1の毛筆により会陰部にブラッシング刺激を加えても、膀胱の排尿収縮運動の抑制効果はほとんど見られなかった。
【0046】
[考察]
以上の結果から、実施例1の排尿抑制具による軽微な皮膚刺激がラットにおける膀胱の排尿収縮運動を抑制することが明らかとなった。したがって、実施例1の排尿抑制具による軽微な皮膚刺激が人における過活動膀胱ないし尿失禁の治療に有効であるという可能性が期待される。
【0047】
従来、ラットにおける膀胱の排尿収縮運動は、会陰部皮膚に侵害刺激を与えたときには抑制されるものの、会陰部皮膚に非侵害刺激を与えてもほとんど影響を受けないことが報告されている(Sato et al. Brain Research 94:465-474, 1975)。上記試験においても、ラットの会陰部に対する毛筆による非侵害刺激は、膀胱の排尿収縮運動を抑制する効果をほとんど有しないことが明らかになった。
【0048】
これに対し、実施例1の排尿抑制具による軽微な皮膚刺激は、ラットにおける膀胱の排尿収縮運動に対し、皮膚の侵害刺激に匹敵するような顕著な抑制効果を有することが初めて明らかとなった。実施例1の排尿抑制具による皮膚刺激は、侵襲を与えるものではないため、人に対する臨床応用に適したものである。
【符号の説明】
【0049】
1 押圧部
1a 押圧部
1b 押圧部
1c 押圧部
1d 押圧部
1e 押圧部
3 柄部
5a 芯材
5b 芯材
5c 芯材
5d 芯材
7a 表面部
7b 表面部
7c 表面部
7d 表面部
9 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着性を持ち、かつ、平らな表面を有する柔軟な弾性体により形成された押圧部を備え、該押圧部により人体の会陰部を押圧することにより膀胱の排尿収縮運動を抑制するようにしたことを特徴とする排尿抑制具。
【請求項2】
前記弾性体はエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の排尿抑制具。
【請求項3】
前記弾性体はゲルであることを特徴とする請求項1に記載の排尿抑制具。
【請求項4】
前記押圧部は、円柱状に形成され、柄部を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の排尿抑制具。
【請求項5】
前記押圧部は前記柄部に回転自在に取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の排尿抑制具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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