説明

排尿量記録作成システム

【課題】 特に専門知識を持たない排尿障害を持つ患者が、家庭で簡便かつ衛生的に排尿日誌を測定し、合わせて患者にもたらす経済的な負担が小さな排尿量記録作成システムを提供することを可能とする。
【解決手段】 本発明では、排尿量を測定し排尿時刻と排尿量との一覧記録を作成する排尿量記録作成装置において、医療機関に設けられた尿流時間と排尿量を測定する尿流率測定手段の測定値を入力情報とし、前記排尿量記録作成装置の排尿量はこの入力情報と排尿時間とから算出されることを特徴とする。また、測定結果は排尿日誌の形で出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機関で使用される尿流量測定装置との組合せに係り、特に専門知識を持たない被験者であっても、家庭において排尿状態を簡便に測定することに好適な、排尿状態を把握するための排尿量測定システムに関する発明である。
【背景技術】
【0002】
排尿障害のある患者に対して、排尿時刻と排尿量とをある程度の長期間にわたって継続して記録した排尿記録は、泌尿器科や婦人科の医師が患者の排尿障害状態を把握するために有益な情報とされている。そのため、患者はビーカー等で排尿量を測定して排尿時刻とともに、排尿日誌と称される所定の記録帳票に記録していた。
【0003】
この場合、健康な場合の排尿は5〜6回/日程度とされているが、排尿障害を持つ患者の場合は排尿回数が多くなることも多く、例えば1週間程度の期間継続して排尿記録を取得しようとすると測定自体が大変な手間となり、加えて、尿こぼれ等による測定場所の汚れや使用するビーカーの洗浄等の使用器具の後始末も必要である。
【0004】
ここで、前述したような排尿障害を持つ患者の中には、症状が入院を必要としない比較的軽度のため、定期的な通院による治療を行なう患者も多い。このような場合には、測定の継続のため患者の家庭での測定が必要となる。しかしながら、この場合は患者自身だけで測定・記録だけでなく、使用器具の後始末まで行なうことになり患者自身だけでは大きな負担となる。そのため、家族や介護者の協力を求めることも考えられるが、その協力を行なうだけの時間的な余裕が家族や介護者にない等の問題もあった。
【0005】
またこのように、家庭等で被験者自身が排尿時刻と排尿量とをある程度の長期間にわたって継続して記録をとるためには、当然のことながら、測定機器が必要となる。
【0006】
衛生的に尿量を測定するものとして、洋風大便器に排泄しただけで尿量・排尿時刻等を自動測定するものもある(例えば、特許文献1参照。)。
この装置は、普段通りのトイレで排泄するだけで排尿情報を測定することができ、かつ、排泄物を処理するための作業が不要という利点があり、排尿記録をとって普段通りの排尿状態を知るという点では最も推奨される方式である。しかし家庭に設置されたトイレを、排尿情報測定機能付きトイレに交換する必要があることから、患者の費用負担が大きく、疾病が改善された後はトイレから尿量測定機能が不要になることを鑑みると、その導入には経済的な問題があった。
【0007】
また、マイクロ波帯の波長の電波のドップラー効果を利用した電波センサーで尿流を検出して、その尿流検知時間から排尿量を推定して洗浄水量を制御するものもある(例えば、特許文献2参照。)。
しかし、この場合に用いられている技術は、排尿時間と尿量との関係を一定と見做して排尿量を推定するものであり、実際の排尿時間と尿量との関係は個人によって異なるため性能的な限界があり、個人を対象とする医療用の目的に使用するような高精度の尿量情報を測定することはできない。
【特許文献1】特許第3876919号公報
【特許文献2】特開2004−100357号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、本発明の課題は、特に専門知識を持たない排尿障害を持つ患者が、家庭で簡便かつ衛生的に排尿量を継続的に測定し、合わせて患者にもたらす経済的な負担が小さな排尿量測定システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、被験者の排泄する尿の量である排尿量を継続的に測定し排尿時刻とともに記録して被験者の排尿量記録を作成するする排尿量記録作成装置において、前記被験者の単位時間当たりの排尿量である尿流率を予め取得し、被験者と関連付けて記憶する尿流率取得手段と、前記被験者の排尿時間を計測する排尿時間計測手段と、
前記尿流率と前記排尿時間とに基づいて前記被験者の排尿量を求める排尿量算出手段と、
前記尿流率取得手段、前記排尿時間計測手段及び前記排尿量算出手段を配設する筐体として機能するベース部材と、を有し、
前記ベース部材が既設の洋風大便器に脱着可能に固定された状態で前記排尿時間を計測して排尿量を求めることを特徴とすることにより、
特に専門知識を持たない排尿障害を持つ患者が、家庭で排尿するだけで排尿量を測定することを可能とした。
【0010】
また、請求項2記載の発明のよれば、請求項1に記載の発明において、前記尿流率取得手段は、医療機関で測定された排尿時間と排尿量との相関関係により求められた尿流率を前記尿流率として取得することを特徴とすることにより、
医療機関で医療関係者が確認した情報によって、排尿に関する相関情報である尿流率が更新されることから、高い信頼性で尿量量を測定することを可能とした。
【0011】
また、請求項3記載の発明のよれば、請求項1又は2に記載の発明において、前記排尿時間計測手段は、尿の移動または前記洋風大便器内の溜水水面の変位の少なくともどちらか一方による電波の周波数遷移を検知することによって前記排尿時間を計測する電波センサーを備えたことを特徴とすることにより、
被験者の尿流時間を一般的な家庭のトイレで測定することを可能とし、結果的に家庭のトイレで尿量測定することを可能とした。洋風大便器の略前方または側方に設けられた電波センサーは後付が可能であることから、測定手段を取り付けることに関する患者の経済的な負担を抑制することを可能とした。
【0012】
また、請求項4記載の発明のよれば、請求項1又は2に記載の発明において、前記排尿時間計測手段は、尿の移動による音圧情報を検知することによって前記排尿時間を計測するマイクロフォンを備えたことを特徴とすることから、
高額な電波センサーや周波数解析手段などを要することなく、低廉なマイクロフォンを利用して、本発明の排尿量記録作成システムの実現を可能にした。
【0013】
また、請求項5記載の発明のよれば、請求項1乃至4のいづれか1項に記載の発明において、さらに、足踏み操作で尿量測定動作を起動する足踏みスイッチを有することを特徴とすることにより、
被験者の患者は、衛生的に排尿情報を得ることができるようになった。
【0014】
また、請求項6記載の発明のよれば、請求項1乃至5のいづれか1項に記載の発明において、さらに、被験者の排尿行為に付帯する排尿付帯情報として、被験者の排尿時の感覚情報または就寝情報の少なくともどちらか一方を入力する排尿付帯情報入力手段を有し、
前記尿量と排尿時刻と共に前記排尿付帯情報を記載した所定期間の一覧リストとして出力することを特徴とすることから、
被験者は排尿状態を思い出しながら排尿量記録を作成するという手間がなくなるだけでなく、漏れのない正確な排尿量記録を作成することができる。また医療関係者は、今までのように不完全な排尿記録に対して、疾病の内容や程度を推測する必要がなく、誤りのない診断を行うことができるようになった。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、患者を特定した場合に排尿時間と排尿量の相関関係が高いことに着目したものである。医療機関等他の場所で測定した尿流時間と排尿量の相関関係を利用し、家庭のトイレで尿流時間を測定可能とすることにより、測定された尿流時間から排尿量を推定し、特に専門知識を持たない排尿障害を持つ患者が、家庭のトイレで排尿するだけで排尿量の記録を、衛生的かつ無拘束で得ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面により詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る排尿量記録作成装置の第一の実施形態を示す斜視図である。排尿量記録作成装置40は、筐体となるベース部材44を備え、家庭で用いられる洋風大便器31の前方に取り付けられている。
ベース部材44の上部に配置されているのは電波センサー1であり、下部に配置されているのは尿量測定動作を起動するための起動スイッチ42である。
【0018】
電波センサー1は便器31の外壁からボウル内部に向けてマイクロ波の波長帯の電波を発信する電波発信部と、ボウル65内部から反射されてくる反射波を受信する電波受信部とを備えている。電波発信部から前記電波を発信している状態で被験者が放尿を開始すると、前記電波は尿などで反射されて一部が反射波として電波受信部に戻ってくるが、この反射波は尿粒の移動によって前記電波の周波数が遷移したものとなる。従って、この周波数の遷移の有無を監視することによって、尿粒の有無、即ち、排尿に伴う尿流の有無が判別できるため、本発明における尿流検出手段として機能する。
【0019】
起動スイッチ42は、足踏み方式としている。使用者がトイレに近接した時に自然に操作することができ、かつ、手を触れないようにすることで、衛生性も配慮されている。制御部41の前方には、後述する排尿情報推定のための相関情報を入力したり、所定期間の測定結果である排尿記録としての排尿日誌を電子データとしてとして取り出すための記憶媒体挿入部43が設けられている。使用者は排尿に際して起動スイッチ42を踏んで測定を開始し、排尿が終わったら再び起動スイッチ42を踏んで測定を終了するようになっている。
【0020】
洋風大便器31とベース部材44の間は、図示しない粘着性を持つゲル状緩衝体によって陶器に対して固定されている。ここでは、ベース部材44は可撓性を持つ素材で構成された屈曲自在構造を持つことにより、洋風大便器の意匠的なデザインの多様性に起因する便器外郭形状の多様性にも対応して取付け可能に配慮したものとなっている。
【0021】
ベース部材44は、具体的には自在定規のように柔軟性を持つ心材を有することが推奨される。またゲル状緩衝体には、密着性・粘着性はあるものの、接着性はないものを選択することにより、患者の疾病治療が終了したら容易に取り外せるように配慮されている。そのため、例えば、排尿量記録作成装置40は医療機関の保有物とし、排尿記録取得が必要な患者に貸し出すような方法も、具体的な運用事例として可能となる。
【0022】
洋風大便器31の背部には、収納機能を持つキャビネット35、衛生洗浄装置36、便座37、および便ふた38を有するものとして実施例を記載しているが、特に実施例の外観に捉われるものではない。また、本実施例の排尿量記録作成装置40は全ての機構構成を一体化したものとして記載しているが、例えば制御部41を別体構成とし、洋風大便器31から分離したものであっても、本発明の狙いが変るものではない。
【0023】
図2は、本発明に係る排尿量記録作成装置の第一の実施形態である排尿量記録作成装置40を示すの断面図である。本図では測定機能に着目して、測定機能に直接関与しない部分は省略記載している。一般に陶器で作られた洋風大便器31の内部には、使用者10が排泄する尿20を受けるボウル面32と、ボウル面32に貯溜される溜水33と、図示しない下水に対して水封を形成するトラップ34が構成されている。
【0024】
図示しない便座に着座した使用者10の尿道口を出た尿20は、溜水33に接しないボウル面32の乾燥面に沿いながら、あるいは直接、溜水33に落下する。尿混じりの溜水33の一部は、トラップ34を通って下水に流れる。そして便器洗浄が行なわれると、尿混じりの溜水33は、ボウル面32に供給される洗浄水に押し出されて下水に排出される。
【0025】
洋風大便器31のボウル面32の前方の外壁部には、ボウル面32に相対して尿量検出手段1が設置されている。尿量検出手段1から送信される電波5は、陶器を透過する性質があるため、ボウル面32の上方部を洋風大便器31の前方から後方に向けて発信される。使用者10が放尿すると、発信された電波5は尿20とぶつかり、その一部は反射して尿量検出手段1が受信することになる。
【0026】
尿の排泄時間は、反射対象である尿の落下移動によるドップラー効果により周波数シフトした反射電波と、送信電波との間に差分周波数成分が発生している時間に基づいて判断することが可能である。また、尿による反射電波の強度が一定以上である時間で判断してもよい。
【0027】
なお、使用者10が男性の場合、陰茎先端の尿道口から尿が排泄されるため、尿20の流れは図2に示すように前方に向けて排泄されている。使用者が女性であった場合の尿は、排泄方向が下向きとなり、溜水33に落下する。
【0028】
図3は、排尿中の尿流時間と排尿量の関係を複数の被験者(男性)について各々複数回測定した事例の実測値を累積した状態示すグラフである。尿流時間Tは尿が排出されている累積時間である。当然、各被験者とも尿流時間が長いほど排尿量Rが大きいという関係はあるが、その相関度はそれほど高くない。
【0029】
それは、尿道の口径に個人差があったり、排出するために膀胱に加える筋肉量に個人差がある等の理由により、単位時間当たりの排尿量である尿流率が被験者毎に異なるためである。このことより、尿流時間Tによって、排尿量Rが多いまたは少ないという目安は得られるものの、具体的な排尿量Rを尿流時間Tだけで推定することはできないことが判る。
【0030】
本出願人が健康な20歳代から50歳代の日本人男性および日本人女性をモニター者30名で実測した相関関係は、以下の通りとなった。
即ち、男性において、
【0031】
【数1】


女性において
【0032】
【数2】


であった。
【0033】
図4は、排尿中の尿流時間と排尿量の関係を、複数の被験者毎に各々複数回測定した事例の実測値を示すグラフである。この場合、尿流時間と排尿量とは明らかに高い相関関係があることが分かる。
【0034】
これは、前述したように相関関係の低下の原因となる尿道の口径、排出するために膀胱に加える筋肉量等が個人単位ではバラツキが小さくなったためと考えられる。このことより、尿流時間Tを測定することによって、排尿量Rを高精度に推定することが可能なことが判る。
【0035】
即ち、尿流時間Tと排尿量Rには相関係数kとしたときに、被験者毎には以下の関係式が高い相関度で成立することが確認された。
【0036】
【数3】

【0037】
ここで、前記[式3]の相関係数kは被験者毎に値が異なるが、特に排泄機能に何らかの症状を持った被験者の場合では、同じ被験者でも症状の変化によって前記相関係数kの値も変化する。
【0038】
例えば前立腺肥大症によって尿の出具合が悪い患者の場合、相関係数kは5[mL/s]以下になっていると推定されるが、その値が治療によって改善し、前述の健康な20歳代から50歳代の日本人男性の臨床モニター解析で得られた[式1]で示すところの約15[mL/s]に近づくことになる。
【0039】
従って、本発明を実施した排尿量記録作成装置では、医療機関で測定した尿流時間Tと排尿量Rとの関係から求められる相関係数を利用してこの相関係数kを適宜更新することによって、尿流時間Tを測定して排尿量Rを高精度で推定することが継続的にできるようになっている。
【0040】
図5は、本発明に係る排尿量記録作成装置の第一の実施形態を使用した排尿量記録作成システムの第一の実施形態を示すシステムブロック図である。
本実施形態の排尿量記録作成システムは、被験者の住居に設置される前述の排尿量記録作成装置40と、被験者が通院する医療施設に設置される排尿情報測定装置60と、排尿量記録作成装置40と排尿情報測定装置60との間の各種データの移送をオフラインで行なうためのデータ移送手段となる電子記録媒体70と、で構成されている。
【0041】
医療関係者は、医療施設に設置された排尿情報測定装置60を使用して、被験者である患者の尿流時間Tと排尿量Rとの関係を測定する。その尿流時間Tと排尿量Rとのデータを相関係数kを算出するための相関データとして、データ移送手段としての例えば半導体メモリーカードなどの電子記録媒体70に記録し、患者に受け渡すようになっている。
【0042】
そして、患者がこの電子記録媒体70を自宅に設置されている排尿量記録作成装置40に装着することによって、排尿量記録作成装置40は、前記の尿流時間Tと排尿量Rとのデータから最新の相関係数kを算出するデータとして記憶する。その結果、排尿量記録作成装置40は最新の相関係数kを使用して排尿量を算出することが可能となるため、家庭でも排尿量を正確に測定することができるようになる。
【0043】
図5を使用して、先ず医療機関に設置された排尿情報測定装置60について説明する。本排尿情報測定装置60は本出願人が特許第3876919号公報で開示したものと同様な構成のものである。トイレで容易に尿量や尿流率等を測定して各種の排尿情報を得る装置であり、前記の尿流時間Tと排尿量Rを相関係数kを得る手段としても推奨されるが、構成的に本方式に限定されるものではなく相関係数kが求められるものであれば良い。
【0044】
排尿情報測定装置60は洋風大便器61に併設されている。そして、洋風大便器61の内側には被験者が排泄を行うボウル65が形成され、このボウル65の内部はトラップ部63から排水ソケット62を介して下水配管に連通されている。ボウル65内にはトラップ部63によって下水配管に対しての封水として機能する溜水64が形成されており、下水配管内で発生した臭気や衛生害虫がトイレ内に侵入しないよう衛生面が配慮されている。また市水に接続されボウル65内に水を供給する水位形成手段66を備えている。
【0045】
ボウル65内部には、ボウル65内に吐水して内周面の洗浄や溜水64を形成するリム吐水ノズルが上部に、また、吐水によって排泄物を下水配管に送出するゼット吐水ノズルが下部に、それぞれ配設されている。
【0046】
水位形成手段66からリム吐水ノズルへの給水路がリム吐水流路66aであり、ゼット吐水ノズルへの給水路がゼット吐水流路66bである。ゼット吐水流路66bは分岐部66cを持ち、溜水水位測定手段67に分岐接続されている。溜水水位測定手段67には溜水64の水位ヘッドを伝達するためのものであり、圧力導管内部に発生する振動を、機械的・電気的に除去するための振動除去手段67aと、後述する水位測定用圧力センサを絶対校正するための校正手段67bが内蔵されている。
【0047】
下水配管との接続部分となる排水ソケット62には、下水圧変動の影響を測定する水位差計測手段68が接続されている。水位形成手段66、溜水水位測定手段67、操作・表示部80、および下水圧変動の影響を測定する水位差計測手段68は共通の制御部69に接続されており、それぞれ給水動作の制御、排尿情報の測定、被験者の操作受付処理や測定結果の出力等の各種の制御が行なわれる。
【0048】
ここで、下水圧変動の影響を測定する水位差計測手段68は、本装置が接続されている下水配管の圧力変動が本装置が尿量測定に使用している便器の溜水の水位に与える影響量を測定するものであり、本実施例では排水ソケット62に連通する管路に圧力センサーを設置して、前記影響量因子として便器のトラップ部63の圧力変動を計測する形態をとっている。圧力センサーの設置方法としては、下水配管の圧力変動を測定できればその設置形態は問わず、この他にも便器トラップに設置、あるいは下水配管部の圧力変動を測定するものでも採用可能である。
【0049】
この圧力センサーは半導体圧力センサーを想定しているが、組み込まれた半導体ダイアフラムは通電や環境温度によって出力が変化するドリフト現象を発生することがあるため、それらの影響を防止するために測定の都度、測定開始直前の圧力値を基準値として測定中の圧力値との差分量を測定することとしている。下水圧変動が溜水水位にもたらす影響量として利用して、溜水水位測定手段67によって測定された溜水水位の補正演算を実施するのが、水位演算手段69aである。
【0050】
また、前記影響量を測定する方法としてこの他にも、下水配管の圧力変動の影響によって引き起こされる溜水の水位変化を通常用いられる各種の水位測定手段を設けて測定する方法を採用することも可能である。この場合、本発明の背景基盤となっている下水配管の圧力変動による水位変化量を直接得られるため実際の尿量測定で得られる溜水水位測定値の補正が簡単になる。
【0051】
排尿情報の測定に際して、溜水の水位は溢流水位Hより低い測定開始水位Yに下げられており、この溢流水位Hと測定開始水位Yの間の溜水量差が排尿情報の測定範囲ということになる。下水排管内の圧力変動が大きいと、溜水はトラップ部の溢流水位Hを乗り越えて流出してしまい、水位と溜水量との対応関係が崩れてしまう。即ち、負圧の場合、溜水はそのまま下水配管方向に吸引され、溢流が発生する。正圧の場合、除荷されたときに溜水の揺り戻しが発生して、下水配管に向けて溜水が流出する溢流現象が発生する。
【0052】
従って、本技術では下水圧変動の測定結果によって溜水溢流の恐れがを検知するまでのデータを使用して排尿情報を排尿情報算出手段69bが演算している。溜水水位測定手段67が測定する溜水水位、および、下水圧変動の影響を測定する水位差計測手段68が測定する下水配管内圧力に基づいて、排尿情報演算を実施するのが排尿情報算出手段69bである。
【0053】
なお、本実施例では溜水水位測定手段67の水位検出手段として、水位変化に比例する出力がとれる圧力センサーを使用している。その測定原理は、圧力センサーで求められる溜水の水位測定値を予め記憶された水位と溜水量の関係を求めた検量線から溜水量に換算し、排尿前後の溜水量差から尿量、また、時間的な溜水量変動カーブの微係数から尿流率などの排尿情報を求めるものであり、これを排尿中に連続して行なうことにより測定開始から任意の時刻の排尿量を精度良く計算することができる。この場合、水位変動を直接測定できることから装置の構成が簡単になる。
【0054】
測定されるボウル部水位からその時の溜水量を求めるためには、任意のボウル部水位における溜水量の関係である検量線を予め求めておく必要があるが、洋風大便器61は一般的に陶器製であり形状面で個体差が大きいため、本実施例では検量線を求める機能を持たせて、便器ボウル部の個体間差をなくすことによって、より高精度な測定が行なえるようにしている。記憶された溜水水位と溜水量の各測定点のデータは、例えばラグランジュ補間などの補間関係を利用して検量線に演算されている。
【0055】
次に、排尿情報測定装置40について同じく図5を用いて説明する。
排尿情報測定装置40は家庭の洋風大便器31にに取り付けられる。この取り付けは被験者となる患者によっても簡易に行なえるものである。次に、測定に必要な相関係数kの設定を行なうが、本実施形態においては、予め医療機関で測定された尿流時間Tと排尿量Rの関係データが記録された電子記録媒体70によって排尿情報測定装置40に入力される。これによって、尿流時間Tと排尿量Rの関係データから相関係数kが自動的に算出され記憶される。
【0056】
なお、この相関係数kの入力は、10キーなどで数値を入力するものであったり、携帯電話などを使用して無線入力するものであっても良い。また、直接、相関係数kを入力するものであっても良い。
【0057】
実際に使用する場合の動作を説明する。被験者は洋風大便器31に近接して、足踏み式の起動スイッチ42を操作し、排尿情報測定装置40を起動する。電波センサー1を備えた尿流検出手段45がマイクロ波の発信を開始して被験者の排尿する尿流の有無を監視する。そして、排尿時間演算手段46が検出された尿流検知時間から尿流時間を演算して求める。次に、尿量推定手段47がこの尿流時間と記憶されている相関係数kとにより尿量を推定するようになっている。このとき、時計手段49は排尿時刻を随時モニターしており、推定された被験者の尿量はその時刻とともに、時系列の一覧データとして排尿記録記憶手段50に記憶されるようになっている。
【0058】
排尿記録記憶手段50に、排尿感覚情報入力手段91を接続しても良い。排尿日誌の作成に当っては、時刻と排尿量と共に、その時の被験者の排尿時の排尿感覚情報を医療関係者より要求されることがある。一般的な排尿感覚情報としては、尿意切迫感(尿意がどれだけ緊急だったか?)の有無、尿漏れ(我慢できずにもらしてしまったか?)の有無、および排尿(実際に排尿があったと感じたか?)の有無がある。
【0059】
また就寝後、排尿のために離床しなければならなくなることはQOL(生活の質)を低下させることにつながるため、被験者の就寝時間帯の排尿か否かを入力する就寝情報入力手段92を接続しても良い。就寝するときの最終排尿時と、起床後の朝一番排尿時に行動を入力することになる。
【0060】
後述する図6のリストを見ながら医師が要望する情報を記載しようとしても失念しているケースが想定されるが、このように排尿感覚情報入力手段91や就寝情報入力手段92を付設して排尿の都度、感覚情報やを入力しておけば医師の要望する情報を漏れなく伝達することができる。
【0061】
図6は、実際に測定された排尿記録を出力する形態の事例を示す表である。本実施形態ではこの出力形態を排尿日誌と呼んでいる。この排尿日誌は半導体メモリーカードなどの電子媒体を介して医療機関に持ち込むことにより、次回の医療施設における診断時に医師に提示することによって医師に判断を仰げるようになっている。例えば1週間程度の排尿記録でも、この排尿日誌の形態にすると一見して排尿状態の変化動向が判るため、医師の診断も高精度で実施できることになる。
【0062】
排尿日誌の紙片には、各測定日毎の排尿回数・排尿時刻・尿流時間・排尿量推定値、および、各1日の総尿量が記載されている。排尿記録の活用は泌尿器系の疾病を抱える患者のものとして説明してきたが、高齢者においては尿量減少として簡便に認知することのできる脱水状態の管理にも使用できる。また、多数の使用者が共用する場合は、例えばRFIDを利用した個人認証を利用するような構成を採用してもよい。
【0063】
図7は、本発明に係る第二の実施形態を示す排尿量記録作成装置の斜視図である。洋風大便器31の前方に、家庭で用いられることになる排尿量記録作成装置40が取り付けられている。前記した尿量検出手段や制御部などを一体化し、粘着部材を介して洋風大便器31の陶器面に貼り付ける構成としている。この場合、床置き部分が無いため、清掃性を配慮すると推奨される構成ということになる。
【0064】
図8は、尿流が尿道口を出て溜水に着水した時の音を測定した測定例である。排尿量記録作成装置40に組み込まれる尿流検出手段45の方式としては、前述の電波センサーで尿流による周波数遷移を測定する方法だけでなく、マイクロフォンによる尿流によって生じる落下音の音圧測定であっても良い。また測定された音圧レベルは周波数特性に差が生じるため、簡便に尿流率の判定を行うことも可能である。また排泄音を消すために便器洗浄水を流しながら排尿すると、マイクロフォンで尿流の落下音を測定することは不可能であるため、擬音発生装置を組み込む構成とすれば両者の音源の位置の違いにより尿流の落下音は判別可能となるため、このような構成にすることも使用者の利便性を考えると有益である。マイクロフォンを利用した場合、高額な電波センサーや周波数解析手段などを要しないため、本発明の排尿量記録作成システムを低廉に実現することが期待できる。
【0065】
第三の実施形態として尿流の落下によって波立ち、かつ、水位上昇する便器ボウル内の溜水の自由表面の移動を検出する方法が考えられる。
前述した第一の実施形態の尿流を直接測定する方法では、立位排尿と座位排尿では尿流のベクトル方法が違うため、検出される尿流の値が逆になるが、本実施形態の方法では、立位排尿であっても座位排尿であっても検出状態に差は無く、変位があった時間として尿流時間が検出されるようになっている。以下で図9と図10を使用して、排尿時間を測定する方法を詳説する。
【0066】
図9は、本発明に係る第三の実施形態を示す排尿量記録装置の断面図である。図10は、電波センサーで溜水自由表面の波立ちと水位上昇に起因する周波数変位を測定した時の測定グラフである。
【0067】
図9に示すように、洋風大便器31の内部にはボウル面32が構成され、内部には溜水33が溜められている。排尿情報記録装置40は洋風大便器31のリム31aに引っ掛ける構成となっており、電波2は電波センサーより溜水33の自由表面近傍に向けて照射されている。この状態で、使用者から排泄された尿は、直接またはボウル面32を介して間接的に溜水33に侵入することになり、その際に溜水33の自由表面には波立ちが発生するが、その波立ちは図10のように検出される。
【0068】
図10は使用者の排泄時の一連の動作に伴って生じる電波センサーの出力変化の様子を示している。このように、排尿による尿流、トイレットペーパー投入、離座、および便器洗浄による溜水の揺れが周波数変位として検出される。従って、この排尿に先立って排尿情報記録装置40を起動し、排尿が終了して測定終了操作された後にこの波形を解析することで図中に例示されているように尿流時間が検出されることになる。
【0069】
図11は本発明における排尿付帯情報入力手段90の1実施例を示す平面図であり、排尿感覚情報入力手段91および就寝情報入力手段92の両方を備えている。本実施例では、排尿情報記録装置40と有線または無線で連結されたリモコンで構成されている。
【0070】
被験者は排尿の都度、排尿感覚情報としての尿意切迫感(尿意がどれだけ緊急だったか?)の有無、尿漏れ(我慢できずにもらしてしまったか?)の有無、および排尿(実際に排尿があったと感じたか?)の有無の排尿感覚を入力するための排尿感覚入力スイッチ91a〜91cと、就寝することや起床したことの就寝情報を入力するための就寝情報入力スイッチ92a、92bとをその時の状況に応じて操作して入力する。
【0071】
なお、本実施例では排尿感覚情報入力手段91および就寝情報入力手段92の両方を備えた例であるが、本発明における排尿付帯情報入力手段90は、排尿感覚情報入力手段91又は就寝情報入力手段92の少なくともどちらか一方を備えていれば良い。
【0072】
図12は、実際に測定された排尿記録を出力する形態の第二の事例を示す表である。排尿感覚情報入力手段91と就寝情報入力手段92とで入力されたデータが、排尿回数・排尿時刻・排尿時間・推定排尿量等の測定結果と共に記載されている。データの先頭に記載されている*マークは、被験者の就寝時間帯に排尿されたことを示している。本例の場合、2回目の06時11分に排尿したときに起床したことが入力されたことを示している。このように、起床時の排尿は就寝中に溜まった尿であるから、就寝中の排尿でであることを示す*マークが付され、この排尿量は夜間排尿量に含まれる。従って、1回目の02時23分の排尿は、就寝中に排尿のために離床した時の排尿であることを示している。また、8回目の22時02分の排尿から*マークが付されていることから、7回目の21時11分の排尿時に就寝するために就寝入力されたことを示している。この7回目の排尿は行動時間帯である昼間排尿に含まれる。9回目の23時20分は就寝中に排尿のために離床したことを示している。夜間排尿量や総排尿量に占める夜間排尿量の比率である夜間排尿量率が自動演算されると、医療機関関係者は被験者のQOL(生活の質)低下具合が容易に判断できることになる。
【0073】
なお夜間排尿量の積算方法としては、本実施例に示したように1日単位で集計する方法だけでなく、連続した就寝を夜間排尿量と捉えても良い。図12の実施例の場合、1月3日の3回目から7回目までを昼間排尿量、1月3日の8回目から1月4日の1回目までを夜間排尿量とする方法である。この方法で集計するか、図12で示したように1日単位で集計するかは、選択切り替えできるようにしてもよい。
【0074】
なお、排尿日誌は家庭でだけ記載されるものではない。医療機関に入院している患者に対しても、排尿日誌の記載が求められることがある。医療機関に設けられた排泄情報測定装置60の操作・表示部80にも、同様の展開が可能である。図13は医療機関に設けられる操作・表示部80の事例を示す平面図であり、個人認証操作手段83と排尿感覚情報入力手段84aと就寝情報入力手段84bとが配置されれば、医療機関であっても個人毎で容易に排尿日誌を記載できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る第一の実施形態を示す排尿量記録作成装置の斜視図である。
【図2】本発明に係る第一の実施形態の排尿量記録作成装置の断面図である。
【図3】排尿中の尿流時間と排尿量との関係を、複数の被験者で複数回測定した事例の結果を示すグラフである。
【図4】排尿中の尿流時間と排尿量の関係を、被験者を固定して複数回測定した事例の結果を示すグラフである。
【図5】本発明に係る第一の実施形態の排尿量記録作成装置を使用した排尿量記録作成システムの構成を示すシステムブロック図である。
【図6】実際に測定された排尿記録の本実施形態における出力形態である排尿日誌の事例を示す図である。
【図7】本発明に係る第二の実施形態を示す排尿量記録作成装置の斜視図である。
【図8】尿流が尿道口を出て溜水に着水した時の音を測定した測定例である。
【図9】本発明に係る第三の実施形態を示す排尿量記録装置の断面図である。
【図10】電波センサーの周波数変位で溜水自由表面の波立ちと水位上昇を測定した測定グラフ例である。
【図11】排尿感覚情報及び就寝情報を入力する排尿付帯情報入力手段の1実施例を示す平面図である。
【図12】実際に測定された排尿記録を出力する形態の第二の事例を示す表である。
【図13】医療機関に設けられる操作・表示部68の事例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0076】
1…電波センサー
2…電波
10…使用者
20…尿
31…洋風大便器
32…ボウル面
33…溜水
34…トラップ
35…キャビネット
36…衛生洗浄装置
37…便座
38…便ふた
40…排尿量記録作成装置
41…制御部
42…起動スイッチ
43…記憶媒体挿入部
44…ベース部材
45…尿流検出手段
46…排尿時間演算手段
47…尿量推定手段
48…換算情報入力手段
49…時計手段
50…排尿日誌記憶手段
60…排尿情報測定装置
61…洋風大便器
62…排水ソケット
63…トラップ部
64…溜水
65…ボウル
66…水位形成手段
66a…リム吐水流路
66b…ゼット吐水流路
66c…分岐部
67…溜水水位測定手段
67a…振動除去手段
67b…校正手段
68…水位差計測手段
69…制御部
69a…水位演算手段
69b…排尿情報算出手段
70…電子記録媒体
80…操作・表示部
81…便器・WL操作手段
82…排尿情報測定操作手段
83…個人認証操作手段
84…排尿付帯情報入力手段
84a…排尿感覚情報入力手段
84b…就寝情報入力手段
90…排尿付帯情報入力手段
91…排尿感覚情報入力手段
91a〜91c…排尿感覚入力スイッチ
92…就寝情報入力手段
92a,92b…就寝情報入力スイッチ

H…溢流水位
Y…測定開始水位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の排泄する尿の量である排尿量を継続的に測定し排尿時刻とともに記録して被験者の排尿量記録を作成するする排尿量記録作成装置において、
前記被験者の単位時間当たりの排尿量である尿流率を予め取得し、
被験者と関連付けて記憶する尿流率取得手段と、
前記被験者の排尿時間を計測する排尿時間計測手段と、
前記尿流率と前記排尿時間とに基づいて前記被験者の排尿量を求める排尿量算出手段と、
前記尿流率取得手段、前記排尿時間計測手段及び前記排尿量算出手段を配設する筐体として機能するベース部材と、を有し、
前記ベース部材が既設の洋風大便器に脱着可能に固定された状態で前記排尿時間を計測して排尿量を求めることを特徴とする排尿量記録作成装置。
【請求項2】
前記尿流率取得手段は、医療機関で測定された排尿時間と排尿量との相関関係により求められた尿流率を前記尿流率として取得することを特徴とする請求項1に記載の排尿量記録作成装置。
【請求項3】
前記排尿時間計測手段は、尿の移動または前記洋風大便器内の溜水水面の変位の少なくともどちらか一方による前記電波の周波数遷移を検知することによって前記排尿時間を計測する電波センサーを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の排尿量記録作成装置。
【請求項4】
前記排尿時間計測手段は、尿の移動による音圧情報を検知することによって前記排尿時間を計測するマイクロフォンを備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の排尿量記録作成装置。
【請求項5】
さらに、足踏み操作で尿量測定動作を起動する足踏みスイッチを有することを特徴とする請求項1乃至4のいづれか1項に記載の排尿量記録作成装置。
【請求項6】
さらに、被験者の排尿行為に付帯する排尿付帯情報として、被験者の排尿時の感覚情報または就寝情報の少なくともどちらか一方を入力する排尿付帯情報入力手段を有し、
前記尿量と排尿時刻と共に前記排尿付帯情報を記載した所定期間の一覧リストとして出力することを特徴とする請求項1乃至5のいづれか1項に記載の排尿情報測定装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−258078(P2009−258078A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−252110(P2008−252110)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】