説明

排水の処理方法

【課題】様々な工程から排出される重金属や分散剤を含む排水は、通常の水酸化物処理では容易に水酸化物が得られない。また、重金属捕集剤や重金属吸着樹脂にも吸着しないという課題があった。
【解決手段】金属系排水のpHを4以下に調整する工程と、前記金属系排水を所定時間(5乃至60分間)保持する工程と、前記金属系排水のpHを5乃至12に調整する工程を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属系排水に含まれることがある重金属を始めとする生体や環境に悪影響を及ぼす金属、思わぬ問題原因になると見込まれる金属を回収する金属回収方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
排水中の重金属などは生体や環境への影響上、古くから回収対象とされてきた。このような重金属を回収する技術は特許文献1〜8などで知られる。
【0003】
特許文献1は、排水中の酸性または中性付近で沈澱しない、カドミウム、亜鉛、ニッケル、鉛および二価の鉄などの重金属を分離する際に、アルカリを加えて排水中の重金属を水酸化物として凝集させて固液分離した後、固液分離後のアルカリ性排水をpH5以下とした後、キレート樹脂または弱酸性イオン交換樹脂でアルカリ性排水中の重金属イオンを効果的に吸着除去する技術を開示している。
【0004】
特許文献2は、火力発電において電気集塵機、エアーヒータ等の機器類を洗浄したときの洗浄排水に含まれる亜鉛、銅、鉄、ニッケルなどの複数の重金属イオンや高濃度のアンモニウムイオンを除去するのに、重金属含有排水をpH調整槽にてpH調整した後、凝集沈殿処理により第1重金属イオンを分離除去し、この第1重金属イオン分離後の排水を先のpH調整槽に戻して先のpHよりも高いpHに調整した後、凝集沈殿処理により第1重金属イオンとは異なる種類の重金属イオンを分離除去し、重金属イオンの凝集を図るためのpH調整域が複数ある場合に対応した技術を開示している。
【0005】
特許文献3は、銅、クロム、亜鉛、鉛、マンガン、鉄、ニッケル、カドミウムなどの重金属を含むメッキ排水、塗装排水を処理するのに、臭気の問題がなく放流に適合した中性のpHの点で有利なキレート系重金属捕集剤による重金属の凝集沈殿処理をする際に、キレート系重金属捕集剤の添加量と、このキレート系重金属捕集剤の添加前後の排水のORP(酸化還元電位)の変化量を測定し、この測定結果に基づいて、キレート系重金属捕集剤の添加量を決定することで、排水中の重金属を除去するのに必要なキレート系重金属捕集剤の必要な添加量を、簡単かつ的確に決定できる技術を開示している。
【0006】
特許文献4は、特許文献3の技術での問題点、ORP値がpHの変動によって変動する点につき、pHを一定に保ちながら特許文献3の処理を実行、キレート系重金属捕集剤の添加量に過不足が生じないようにする技術を開示している。
【0007】
特許文献5は、自動車の車体の下塗りをする電着塗装の前処理や後処理、特に、化成処理で塗装面に形成するリン酸亜鉛などの皮膜を洗浄して多量に発生する洗浄排水に含まれる亜鉛などの重金属や、リン、フッ素を除去するのに、フロック形成層で重金属含有排水にpH調整剤を含むフロック形成剤を添加して、重金属化合物のフロックを形成させた後、この重金属化合物のフロックを第1膜分離処理装置で排水から膜分離し、第1膜分離処理装置からのろ過水を第2膜分離処理装置で逆浸透膜(RO膜)により処理する技術を開示している。
【0008】
特許文献6は、工場排水、重金属汚染土壌の浄化工事において発生する排水などの処理において、濁質を含む重金属含有排水に無機系凝集剤を添加して、攪拌した後、ゼオライトを添加し、重金属および濁質を容易に除去できる技術を開示し、ゼオライトを添加した後、高分子凝集剤を添加してもよいとしている。
【0009】
特許文献7は、従来、鉱山廃水中の鉄、マンガン、銅、亜鉛あるいはアルミ二ウムなどの重金属が汚泥中に沈降除去される結果、廃棄物として排出以外の処理方法はなく、金属資源として再利用できなかったことに対応して、含有排水を第1の凝集槽でpH3以上6以下に調整して、重金属含有排水中のフェライトの生成を抑える重金属の不溶化と、第1鉄イオンの一部を第2鉄イオンへの酸化と、を図って、重金属含有排水から汚泥を分離した後、第2の凝集槽でpHを7以上11以下に調整して重金属含有排水中にフェライトを含む汚泥Mを生成させ、この汚泥Mを第1の沈殿槽で固液分離すると共に、分離した汚泥Mの重金属含有排水からフェライトを含む汚泥Mを効率よく生成でき、汚泥Mの発生量を削減できる技術を開示している。
【0010】
特許文献8は、電池工場、ビニルコンパウンドの製造工場、半導体工場、メッキ工場などの工業排水での鉛を始めとするカドミウム、ニッケル、コバルト、クロム、銅、亜鉛などを含む重金属の除去処理において、重金属含有排水にキレート剤を添加して、重金属とのキレート化合物を形成した後、pH調整手段を有した中和槽でキレート化合物を含有する重金属含有排水中和し、この中和された排水に無機系凝集剤を添加して重金属含有不溶物を生成させてから、ろ材によりろ過して重金属含有不溶物を捕集することにより、重金属の除去率が高く、小型化が可能で、多量の凝集剤を必要としない技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−168798号公報
【特許文献2】特開平11−221575号公報
【特許文献3】特開2001−340874号公報
【特許文献4】特開2003−164886号公報
【特許文献5】特開2003−340450号公報
【特許文献6】特開2005−28246号公報
【特許文献7】特開2005−125316号公報
【特許文献8】特開2006−224023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、含有している重金属の種類、組み合わせに応じてそれぞれに工夫した排水処理が行われている。しかしこれらはイオン化し溶解した重金属化合物に有効な技術でしかない。これに対して、電子デバイス産業で使用される重金属類は金属単体あるいは酸化物など難溶性の化合物が使用されており、イオン化している排水は少ない。また最近の微細化で粒子径も微細粉末化が進んでいる。粉体の微細化により成分濃度の均質化のために分散剤が用いられるケースが増えている。この分散剤の影響により排水中に含まれる重金属イオンはコロイド状態を呈すものが多い。
【0013】
従来は、これらの金属を処理するのに水酸化物として固液分離したり、重金属捕集剤あるいは重金属吸着樹脂に吸着させたりして処理していた。
【0014】
しかし、分散剤を含む上記のような排水は、通常の水酸化物処理では容易に水酸化物が得られない。また、重金属捕集剤や重金属吸着樹脂にも吸着しないという課題があった。すなわち、上記排水中の重金属イオンの処理が困難な場合が多い。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明の発明者は、多種類の金属が含まれる排水中の金属化合物を水酸化物として沈澱回収する前に、排水を酸性環境で十分酸分解反応を行うことで、界面活性剤などの微粒子分散効果を弱め、かつ酸により溶解した金属イオンの水酸化物化に伴って残留する微粒子を包含・凝集させることが可能であることを見出し、本発明を想到するに至った。具体的に本発明の排水処理方法は、金属系排水のpHを4以下に調整する工程と、前記金属系排水を所定時間保持する工程と、前記金属系排水のpHを5乃至12に調整する工程を有するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の金属処理方法によれば、分散剤を含む重金属排水を水酸化物あるいは重金属捕集剤により固液分離したり、重金属吸着樹脂に吸着除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施の形態の金属系排水の重金属分離装置の1つの例を示す概略ブロック図である。
【図2】本発明に係る実施の形態の金属系排水の重金属分離装置の1つの例を示す第2の概略ブロック図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の金属系排水の重金属分離装置の1つの例を示す第3概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1乃至図3に本発明の排水処理方法を実施するための施設の構成の一例を示す。本発明の排水処理方法は、電子デバイス関連の特に電池製造、コンデンサなどの電子部品製造、液晶・プラズマ・有機ELなどのフラットパネルディスプレイ製造および半導体製造工程から排出される微粒子状縣濁物質を含有する排水の処理に好適に利用することができる。
【0019】
図1において、複数の工程から排出される排水1はまず反応槽10に送られる。反応槽10は、耐酸性を有する材質で構成され、少なくともpHメータ11aが設置されている。また、複数の工程から排出される排水1には、複数の重金属イオンが含まれており、特有の重金属イオンを吸着させるために、その重金属イオンを吸着できる液体キレート剤3を適宜投入する。
【0020】
本発明では排水を酸性にするため酸性剤2が投入される。酸性剤2の投入は反応槽10に具備されたpHメータ11aによりpH値が4以下(好ましくは3以下)になるように調整する。この反応槽10は排水1の特性に応じた必要な反応時間以上に酸性状態が維持できるように反応槽1の容積を確保する。
【0021】
また、排水1の重金属イオンの種類や量によって適宜、液体キレート剤3を投入してもよい。さらに、排水1に金属イオンが含まれない場合は、無機凝集剤、例えばポリ鉄、塩化鉄、硫酸バンドあるいはポリ塩化アルミニウムやなどを添加してもよい。
【0022】
反応槽10で酸分解された分解水は、反応槽10内に具備しているバッフル板7aを介してオーバーフローさせて、次のpH調整槽20に流入させる。このpH調整槽20では、アルカリ剤4が投入される。アルカリ剤4の投入はpH調整槽20に具備されたpHメータ11bによりpH値を5以上12以下、好ましくは5.5以上10.5以下の一定値の範囲内に調整される。次にpH調整槽20内に具備しているバッフル板7bを介してオーバーフローさせて、次の固液分離槽30に流入させる。
【0023】
このように反応槽10内で酸分解した後に所定のpH値とすることにより、単に無機凝集剤を添加しpH値を調整しただけでは凝集しなかった排水中の含有物質を凝集させることが可能となり、高分子凝集剤を必要に応じ添加し、フロックを粗大化させて固液分離を行うことが容易にできるようになる。
【0024】
また図2においては、排水1を通常(一般的な)の水酸化物処理方式の凝集反応を反応槽35で行った後、固液分離槽31に流入させ、固液分離槽31で排水中の金属水酸化物を除去し、固液分離槽31からオーバーフローする上澄み液を反応槽10において、pHメータ11aのpH値が4以下(好ましくは3以下)になるように調整し、所定時間経過させた後、反応槽10で酸分解された分解水を、反応槽10内に具備しているバッフル板7aを介してオーバーフローさせて、次のpH調整槽20に流入させる。
【0025】
このpH調整槽20では、アルカリ剤4が投入される。アルカリ剤4の投入はpH調整槽20に具備されたpHメータ11bによりpH値を5以上12以下、好ましくは5.5以上10.5以下の一定値の範囲内に調整される。pH調整槽20内に具備しているバッフル板7bを介してオーバーフローさせて、次の固液分離槽30に流入させる。この固液分離槽30において、流入水を任意の時間保持することで、この場合は図1で説明した排水処理方式よりもさらに高度な処理水6の水質を得ることができる。
【0026】
また、図3を参照して、図2で説明した排水処理の工程を一部変更して、反応槽10において酸分解した分解水を、pH調整槽20に流入させる前段にキレート樹脂塔40を配置して、キレート樹脂による吸着操作を行ってもよい。
【実施例】
【0027】
次に具体的な実施例としてリチウム電池製造排水の処理方式について説明する。排水は生産の予定によって含有する金属や構成成分が変動する。そのため、典型的な排水として模擬排水を作製し、本発明の排水処理方法の効果を示す。
【0028】
模擬排水は、リチウム電池の正極を作製する際に生成される排水、負極を作製する際に生成される排水、およびタイプの異なる2種類の電池の製造過程から生じる排水を用いた。2種類の原料製造工程、正極製造工程および負極製造工程それぞれの製造過程から得られる排水を各排水量の比率で混合したものを模擬排水とした。また、それぞれの排水は、同日に得た排水を用いて作製した。
【0029】
これらの模擬排水を3種類用意し、それぞれ異なる処理を行った。まず、処理水1は模擬排水にPACを全体の300ppmだけ添加し、pHを6に調整した。処理水2は模擬排水に塩化鉄を全体の300ppm添加し、pHを6に調整した。処理水3は、模擬排水にまず硫酸を添加し、pHを3に下げた。その後PACを全体の300ppm添加してpHを6に戻した。これらの処理水の上澄み水の濁度と含有成分を測定した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1には処理を行わない模擬排水の値も示した。処理水1および2を見ると、濁度は模擬排水より格段に低くなっていた。またNi、Co、Cuについては、若干低下していた。これは若干量回収できていたことを示す。しかし、ZnやFeについては、ほとんど回収できなかった。すなわち、PACや塩化鉄によってpHを6に調整する処理では、あまり大幅な回収はできなかった。
【0032】
一方、処理水3を他の処理水や模擬排水と比較すると、濁度は1/100となり、その他の元素についても、1桁以上低くなっていた。すなわち、模擬排水の処理では、一度pHを酸性側に下げた後、再度中和処理をしてpHが6程度になるように処理することで、効果的な金属イオンの回収ができることが分かった。
【0033】
そこで、別の模擬排水を4種類用意し、そのpHが2になるまで酸性剤(例えば塩酸、硫酸)を投入した。投入後そのまま60分放置したのち、4つのサンプル液に水酸化ナトリウムを投入し、それぞれpHが7、8、9、10とした。各上澄み水を濾紙でろ過し、それぞれ処理液A、B、C、Dとした。なお、環境は常温常湿でおこなった。
【0034】
次に模擬排水を3種類用意し、上記同様pHが2になるまで酸性剤を投入した。投入後の放置時間を5分、30分、60分放置したのち、各サンプル液に水酸化ナトリウムを投入し、それぞれpHを10とした。それぞれ30分静置し各上澄み水をそれぞれ処理液E、F、Gとし、濁度測定を行った。なお、環境は常温常湿でおこなった。
【0035】
処理前の模擬排水および処理後の処理排水中の金属濃度を表2に示す。それぞれ、1リットル当たりの重量(mg)で測定されている。「Cr(VI)」は六価クロムを表わす。
【0036】
【表2】

【0037】
処理液A、B、C、Dを参照すると、六価クロムおよび亜鉛(Zn)は処理液A(pH7)乃至D(pH10)でほとんど回収できており、銅(Cu)も処理液B(pH8)乃至D(pH10)でほとんど回収できていた。しかし、トータルクロム量、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)は、pHが大きくなるほど液中の含有量が減っており、効果的に回収できていた。すなわち、酸分解後の凝集pH値は10がもっとも効果が高かった。
【0038】
処理E、F、Gは、模擬排水を酸性にしてからの放置時間を変化させたときに、最終pH(pHを10に調整した後)の上澄みの濁度の差を示す。処理液E(5分)から処理液G(60分)になるに従い、濁度が低下しているのがわかる。これは、模擬排水を酸性にしてからの放置時間が長くなるに従い、pH10に調整した際の沈殿物の量が多くなっているためであった。すなわち、模擬排水中の金属をより効果的に回収できている結果であった。
【0039】
以上のように本発明の処理方法は、酸分解を適切な時間行うことにより通常の水酸化物凝集処理で排水中の重金属を高い収率で処理可能にできた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、電池製造、コンデンサなどの電子部品製造、液晶・PDP・有機ELなどのFPD製造および半導体製造の電子デバイスの洗浄工程から得られる排水処理でも利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 排水
2 酸性剤
3 液体キレート剤
4 アルカリ剤
6 処理水
7a バッフル板
7b バッフル板
7c バッフル板
10 反応槽
11a pHメータ
11b pHメータ
11c pHメータ
20 pH調整槽
30、31 固液分離槽
40 キレート樹脂塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属系排水のpHを4以下に調整する工程と、
前記金属系排水を所定時間保持する工程と、
前記金属系排水のpHを5乃至12に調整する工程を有する排水処理方法。
【請求項2】
前記金属系排水のpHを5乃至12に調整する工程後、前記金属系排水を前記固液分離槽で任意の時間放置することを特徴とする請求項1記載の排水処理方法。
【請求項3】
金属系排水のpHを4以下に調整する工程の前段に前記金属系排水の流量を調整する流量調整槽と前記固液分離槽を設け、所定時間前記流量調整槽で放置した後固液分離槽へ前記金属系排水を流入させ、前記金属系排水の上澄み液をpHを4以下に調整する工程で処理することを特徴とした請求項1又は2記載の排水処理方法。
【請求項4】
前記金属系排水のpHを5乃至12に調整する工程の前段にキレート樹脂塔を設けたことを特徴とする請求項2又は3記載の排水処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−121039(P2011−121039A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9251(P2010−9251)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】