説明

排水ソケット

【課題】 便器本体を後方の壁に寄せて便器本体の排出口と下水管につながる排水管との前後方向の距離が更に大きくなっても、サイホン効果の低下や汚物の詰まりを起こしにくい排水ソケットを提供する。
【解決手段】 流入部に連続するソケット流路入口15の中心O2は、便器本体1の前後方向を基準として、前記流入部12の中心O1に対して前方に偏心し、また前記流出部13に連続するソケット流路出口16の中心O3は、便器本体1の前後方向を基準として、前記流出部13の中心O4に対して後方に偏心している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便器本体の排出口と下水管につながる排水管とを接続する排水ソケットに関する。
【背景技術】
【0002】
排水ソケットに関しては、サイホン作用を高めるために各種工夫がなされている。例えば特許文献1には、排水ソケット全体を曲管状とするとともに、ソケット流路の上端開口の下部の内面に、流下する排水を受け止める排水受面と、受け止めた排水を内方に向けて導くための排水案内面を形成した内容が開示されている。
【0003】
また特許文献2には、排水ソケットの上部に別体として、洗浄水滞留手段を設け、この洗浄水滞留手段において洗浄水を一時的に滞留させてサイホンを発生させるようにした内容が内示されている。特に洗浄水滞留手段の流路断面積を洗浄水の流れる方向に沿って徐々に減少させることで、上記の効果を高めている。
【特許文献1】特開平8−326136号公報
【特許文献2】特開2001−123514号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図10(a)は排水ソケットによって便器本体の排出口と下水管につながる排水管とを接続した一般的な構造を示す図である。図10(a)に示すように従来はタンクの後方への飛び出しや便器の製作誤差の吸収などを考慮して、便器と壁面との距離をある程度大きくとっていた。
【0005】
ところが最近ではタンク形状の変更、便器自体の製作精度の向上もあり、トイレ空間を広くするため、図10(b)に示すように、便器本体を壁側に寄せ、壁面から便器本体の先端までの寸法(前出)を小さくする試みがなされている。
【0006】
しかしながら、トイレの床面に開口する排水管の位置はそのままであるので、便器本体を後方にずらすと、便器本体の排出口と下水管につながる排水管との前後方向の距離が更に大きくなる。その結果、排水ソケット内の流路の屈曲がきつくなり、汚物の詰まりが発生しやすくなる。
また、屈曲がきつくなると射出成形によって排水ソケットを一体成形することが困難になってコストアップにつながる。
【0007】
特許文献1,2に開示される内容は、サイホンを効果的に発生させることについての開示はなされているが、便器本体の排出口と下水管につながる排水管との前後方向の距離が大きくなった場合についての対処に関しては何ら開示されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく本発明に係る排水ソケットは、便器本体の排出口に連結される流入部と、床面の排水管に連結される流出部と、これら流入部と流出部との間に設けられるソケット流路とを備え、便器本体の前後方向を基準として、前記流入部に連続するソケット流路入口の中心は前記流入部の中心に対して前方に偏心し、前記流出部に連続するソケット流路出口の中心は前記流出部の中心に対して後方に偏心した構成とした。
【0009】
上記構成とすることによって、便器本体の排出口と下水管につながる排水管との前後方向の距離が更に大きくなっても、実質的な偏心距離を小さくすることができ、サイホンは有効に発生し、また汚物の詰まりもない。
【0010】
前記流入部下端の後部でソケット流路入口との境界部には、棚部を形成することが好ましい。この棚部を形成すると、水が当って空気の流入が防止され、サイホンが有効に発生する。
【0011】
また、前記ソケット流路出口の前部には垂下部を形成することが好ましい。この垂下部を形成すると、下方からの空気の侵入が防止されサイホンが有効に発生する。
【0012】
また、前記ソケット流路の前方内側面を上部曲面と下部曲面を連続して構成し、上部曲面はソケット流路内方に向かって膨出し、下部曲面はソケット流路外方に向かって膨出し、更にソケット流路の後方内側面は全体がソケット流路外方に向かって膨出した形状とすることが好ましい。
【0013】
ソケット流路の前方内側面の上部曲面をソケット流路内方に向かって膨出せしめて絞り形状とすることで、ソケット流路内での空気の溜まりが防止され、より強力なサイホンが発生し、それが持続する。また、ソケット流路の前方内側面の下部曲面をソケット流路外方に向かって膨出せしることで、大きな汚物でも詰まることなく通過し、更にソケット流路の後方内側面の全体をソケット流路外方に向かって膨出せしめることで、流路に汚物が衝突してもスムーズに流れ、且つ洗浄水の流れもスムーズになってサイホンが誘発されやすくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水洗便器のトラップ排水口と外部配水管との間の前後方向の距離(偏心距離)が離れた場合でも排水ソケット内での汚物の詰まりが発生しにくい。したがって、水洗便器を従来よりも後方の壁に近づけ、トイレ空間を広くすることが可能になる。
また本発明に係る排水ソケットは、金型形状を工夫することによって射出成形による一体成形が可能となる
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の実施の一例を添付図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る排水ソケットを適用した水洗便器の縦断面図、図2は同排水ソケットの正面図、図3は同排水ソケットの側面図、図4は同排水ソケットの平面図、図5は同排水ソケットの下面図、図6は同排水ソケットの縦断面図である。
【0016】
便器本体1はボール部2の上縁部に沿って洗浄水に旋回流を生じさせる案内凹部3を形成し、またボール部2の底部から後方に向かってトラップ流路4を形成し、このトラップ流路4の下流端を便器本体の排出口5とし、床面に配設固定された排水管6と前記排出口5とを本発明に係る排水ソケット10にて接続している。
【0017】
排水ソケット10は左右に便器本体1を固定するための起立部11を形成している。また、排水ソケット10は便器本体の排出口5に連結される流入部12と、前記排水管6に連結される流出部13と、これら流入部12と流出部13との間に設けられるソケット流路14とを備えている。
【0018】
図6に示すように、流入部に連続するソケット流路入口15の中心O2は、便器本体1の前後方向を基準として、前記流入部12の中心O1に対して前方に偏心し、また前記流出部13に連続するソケット流路出口16の中心O3は、便器本体1の前後方向を基準として、前記流出部13の中心O4に対して後方に偏心している。
【0019】
また、前記流入部12の下端の後部でソケット流路入口15との境界部には、棚部17を設け、この棚部17に洗浄水を当てることで空気の流入を防止している。また棚部17に係止するように流入部12内には洗浄水滞留部材18を配置している。
【0020】
図8は洗浄水滞留部材18の断面図、図9は洗浄水滞留部材18の平面図である。これらの図に示すように、洗浄水滞留部材18は略筒状をなし、中間に絞り部19を形成し、下部をスカート部20とし、このスカート部20の内側に棚部17への汚物の詰まりを防ぐ突起片21を取り付け、更にスカート部20の一部を切欠22とし、この切欠22を前記棚部17に設けた突起23に係合することで、位置決めを行うようにしている。
【0021】
また図6に戻って、ソケット流路出口13の前部には垂下部24を設け、下方からの空気の侵入を防止してサイホン効果を高めるようにしている。
【0022】
更に、図7(a)〜(c)に示すように、ソケット流路14の前方内側面は上部曲面14aと下部曲面14bを連続して構成され、上部曲面14aはソケット流路14の内方に向かって膨出している。図7(a)の想像線で示すように上部曲面14aを外側に向かって膨出するか直線とすると、絞り効果がなくなり空気溜まりが形成され、これによりサイホンが途切れてしまうことが起きる。
【0023】
また、下部曲面14bはソケット流路14の外方に向かって膨出している。このように外方に向かって膨出せしめることで、図7(b)に示すように大き目の汚物であっても詰まることなく通過する。
【0024】
更に、ソケット流路14の後方内側面14cは全体がソケット流路14の外方に向かって膨出している。このように後方内側面14cを外方に向かって膨出せしめることで、図7(c)に示すように、汚物が通過する際に内側面14cに衝突してもスムーズに通過することができ、また汚物が通過しない場合でも洗浄水は内側面14cに衝突するような流れを形成するためサイホンが誘発されやすい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る排水ソケットを適用した水洗便器の縦断面図
【図2】同排水ソケットの正面図
【図3】同排水ソケットの側面図
【図4】同排水ソケットの平面図
【図5】同排水ソケットの下面図
【図6】同排水ソケットの縦断面図
【図7】(a)〜(c)はソケット流路の内面形状について説明した図
【図8】洗浄水滞留部材の縦断面図
【図9】洗浄水滞留部材の平面図
【図10】(a)及び(b)は従来の水洗便器と排水ソケットの関係を説明した図
【符号の説明】
【0026】
1…便器本体、2…ボール部、3…案内凹部、4…トラップ流路、5…便器本体の排出口、6…排水管、10…排水ソケット、11…起立部、12…排水ソケットの流入部、13…排水ソケットの流出部、14…ソケット流路、14a…上部曲面、14b…下部曲面、14c…後方内側面、15…ソケット流路入口、16…ソケット流路出口、17…棚部、18…洗浄水滞留部材、19…絞り部、20…スカート部、21…突起片、22…切欠、23…突起、24…垂下部、O1…流入部の中心、O2…ソケット流路入口の中心、O3…ソケット流路出口の中心、O4…流出部の中心。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体の排出口と下水管につながる排水管とを接続する排水ソケットにおいて、この排水ソケットは前記便器本体の排出口に連結される流入部と、前記排水管に連結される流出部と、これら流入部と流出部との間に設けられるソケット流路とを備え、便器本体の前後方向を基準として、前記流入部に連続するソケット流路入口の中心は前記流入部の中心に対して前方に偏心し、前記流出部に連続するソケット流路出口の中心は前記流出部の中心に対して後方に偏心していることを特徴とする排水ソケット。
【請求項2】
請求項1に記載の排水ソケットにおいて、前記流入部下端の後部でソケット流路入口との境界部には、水を当てて空気の流入を防止する棚部が形成されていることを特徴とする排水ソケット。
【請求項3】
請求項1に記載の排水ソケットにおいて、前記ソケット流路出口の前部には下方からの空気の侵入を防止する垂下部が形成されていることを特徴とする排水ソケット。
【請求項4】
請求項1に記載の排水ソケットにおいて、前記ソケット流路の前方内側面は上部曲面と下部曲面を連続して構成され、上部曲面はソケット流路内方に向かって膨出し、下部曲面はソケット流路外方に向かって膨出し、更にソケット流路の後方内側面は全体がソケット流路外方に向かって膨出していることを特徴とする排水ソケット。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−214106(P2006−214106A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−25834(P2005−25834)
【出願日】平成17年2月2日(2005.2.2)
【出願人】(000010087)東陶機器株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】