説明

排煙設備および排煙方法

【課題】外開き避難扉の場合であっても、火災発生室内と室外との圧力均衡を図り、避難扉を開きやすくして避難の安全性を確保でき、特に防音室のような気密性の高い空間に実施する場合、気密性を確保しつつ効果的な排煙設備および排煙方法を得る。
【解決手段】映画館の観客席などの火災発生室1と通気手段である通気ダクト6を連通する圧力調整用の空間5としての小部屋である映写室などを設け、火災発生室1と避難空間3とに同時に開放する排煙口2a,2bを備え同時起動する機械排煙設備2を配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物、特に映画館などにおける防災システムとしての排煙設備および排煙方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば店舗ビルなどの商業施設では、特許文献1に示すように各階に防火防煙区画を設定し、その上部に蓄煙空間を確保し、この蓄煙空間から排煙ファンによって強制機械排煙を行うようにしている。
【0003】
これは図2にも示すように火災発生室1内の空気を機械排煙設備2単独で強制的に火災発生室1の外部に引き出すもので、排煙機を作動して室内から排煙するようにしており、火災発生室1内は他の空間である例えば避難廊下などの避難空間3よりも負圧状態となる。
【特許文献1】特開2007−24469号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような強制機械排煙システムを例えば映画館の観客席などのような防音室などに実施した場合、前記防音室などは遮音性が要求される空間であるために気密性が高く、機械排煙設備2の作動により火災発生室1内は極度の負圧状態となる。
【0005】
火災発生時には、避難扉4から避難することになるが、避難扉4は法制上、外開きとなっているため、火災発生室1内が前記のように負圧となると扉に対してこれを引く方向に力が加わり、室外との圧力差により避難扉4をあけにくくなり、安全に避難することが困難である。
【0006】
なお、火災発生室1内に外気を直接導入して圧力差をなくすことも考えられるが、このようにすると新鮮空気が火災発生室1内に突然入ることにより火災が助長されることになり、危険であり、法制上も認められない。
【0007】
本発明は前記従来例の不都合を解消するものとして、外開き避難扉の場合であっても、火災発生室内と室外との圧力均衡を図り、避難扉を開きやすくして避難の安全性を確保でき、特に防音室のような気密性の高い空間に実施する場合、気密性を確保しつつ効果的な排煙設備および排煙方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の本発明は、設備として、火災発生室と通気手段で連通する圧力調整用の空間を設け、火災発生室と避難空間とに同時に起動する機械排煙設備を配設することを要旨とするものである。
【0009】
請求項2記載の本発明は、圧力調整用の空間は、火災発生室に近接する小部屋であることを要旨とするものである。
【0010】
請求項3記載の本発明は、排煙方法として、火災発生室と通気手段で連通する圧力調整用の空間を設け、火災発生室と避難空間とに同時に起動する機械排煙設備を配設して、火災発生時には火災発生室を圧力調整用の空間に連通させて火災発生室内の負圧を前記空間に分散させて減圧するとともに、火災発生室に接している避難空間内も火災発生室内と同時に減圧して圧力の均衡化を図ることを要旨とするものである。
【0011】
請求項1、請求項3記載の本発明によれば、火災発生時には通気手段により火災発生室を圧力調整用の空間に連通させて火災発生室内の負圧を前記空間に分散させて減圧するとともに、機械排煙設備を火災発生室と避難空間とに同時に作動させて排煙ダクト内の圧力を分散させることで、火災発生室に接している避難空間内と火災発生室内を同時に減圧して圧力の均衡化を図る。よって、火災発生室に設けた避難扉が外開きであっても開放しやすくなる。
【0012】
請求項2記載の本発明によれば、例えば映画館において、火災発生室が気密性遮音性の高い防音室である観客席を想定した場合、火災発生室に近接する小部屋は映写室、音響室などであり、このような室は平常時は騒音の発生が少なく、かつ遮音対策がとりやすいことから、圧力分散を行う空間として好適である。
【発明の効果】
【0013】
以上述べたように本発明の排煙設備および排煙方法は、外開き避難扉の場合であっても、火災発生室内の空気を機械排煙設備で強制的に排気するときに火災発生室内と室外との圧力均衡を図り、火災発生室内を減圧し避難扉を開きやすくして避難の安全性を確保でき、特に防音室、遮音室のような気密性の高い空間に実施する場合に、気密性を確保しつつ効果的なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面について本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の排煙設備および排煙方法の実施形態を示す説明図で、図2に示した従来例と同一の構成要素には同一の参照符号を付してある。
【0015】
図中1は例えば映画館などの観客席である防音室、遮音室などで火災発生室を示し、この火災発生室1に近接する小部屋を通気ダクト6で連通し、この小部屋を圧力調整用の空間5とする。図中7はこの空間5に設けてある内開きの扉を示す。
【0016】
前記小部屋は映写室、音響室などの裏方部屋として使用されるもので、内開きの扉7が取り付けられ、平常時は騒音発生が少なく、遮音対策が講じやすい空間である。
【0017】
火災発生室1となることが想定される観客席には機械排煙設備2を設置し、排煙口2aを火災発生室1に開口する。
【0018】
また、火災発生室1に隣接する避難廊下などの避難空間3にも前記機械排煙設備2に接続する別の排煙口2bを開口し、排煙口2a、2bが機械排煙設備2の起動により同時に開放されるように構成する。
【0019】
かかる排煙設備を使用して火災発生室1に想定される観客席の火災発生時の排煙方法を説明する。映画館の観客席などに火災が発生し、ここが火災発生室1になると、機械排煙設備2が起動して火災発生室1内の空気が排煙口2aから室外に排出される。
【0020】
このとき、火災発生室1内は排煙によって例えば約1600paの負圧が火災発生室1の壁面にかかっている状態となり、この負圧では避難扉4は外開きであるから人力で開くことは困難である。人力で避難扉4を開ける限界の負圧は約100paとされている。
【0021】
しかしながら本発明は、隣接の小部屋を圧力調整用の空間5として通気ダクトで連通してあるから、前記空間5内の空気を火災発生室1に引き込むことができ、これにより火災発生室1内の負圧が隣接の空間5に分散される。
【0022】
その結果、火災発生室1の壁面にかかる負圧は約600paに減圧される。
【0023】
さらに本発明では、火災発生室1内の排煙口2aだけでなく、避難空間3の排煙口2bも同時に開放し、機械排煙設備2の排煙ダクト内の圧力を分散することで、火災発生室1内の壁にかかる圧力を低減する。
【0024】
これにより、火災発生室1内の負圧は約60paに低減される。この値は避難扉4を人力で開けられる値である。このようにして火災発生室1と空間5と避難空間3との3つの空間で圧力の均衡化が図られる。よって、火災発生室1内の観客は安全に室外の避難空間3に脱出できる。
【0025】
この場合、火災発生室1内の圧力を減圧するため、直接外部から空気を取り入れることはないから、危険性はなく、また、通気ダクトで連通する圧力調整用の空間5を、隣接の映写室や音響室とすることで、圧力調整用の空間5を別途格別に設置する必要がないだけでなく、このような空間を隣接して形成しても騒音発生源となることもなく、また、遮音対策も講じやすく合理的である。
【0026】
なお、圧力調整用の空間5を形成する場合の空間的合理性を問わないのであれば、火災発生が想定される火災発生室1とは離間した場所、例えば遠隔地であっても通気ダクトで連通することができれば、ここに圧力調整用とする空間を別途設置することも可能である。
【0027】
また、圧力調整用の空間5は、火災発生室1と連動することによって、他の空間に比較して負圧となるが、空間5のここに設けてある扉7は内開きであるから、空間5からの避難者はこの扉7を容易に開けられる。なお、この扉7を火災連動の開放式とすれば、火災発生と連動した圧力調整と空間5からの避難の安全性を同時に確保できる。
【0028】
本発明は、前記のような映画館などの観客席に実施できるだけでなく、排煙装置の試験時において、火災発生想定室に適用でき、かかる場合は、試験時に火災発生想定室の壁が負圧により破壊されることを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の排煙設備および排煙方法の実施形態を示す説明図である。
【図2】従来の排煙設備および排煙方法の説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 火災発生室 2 機械排煙設備
2a、2b 排煙口 3 避難空間
4 避難扉 5 空間
6 通気ダクト 7 扉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災発生室と通気手段で連通する圧力調整用の空間を設け、火災発生室と避難空間とに同時に起動する機械排煙設備を配設することを特徴とする排煙設備。
【請求項2】
圧力調整用の空間は、火災発生室に近接する部屋である請求項1記載の排煙設備。
【請求項3】
火災発生室と通気手段で連通する圧力調整用の空間を設け、火災発生室と避難空間とに同時に起動する機械排煙設備を配設して、火災発生時には火災発生室を圧力調整用の空間に連通させて火災発生室内の負圧を前記空間に分散させて減圧するとともに、火災発生室に接している避難空間内も火災発生室内と同時に減圧して圧力の均衡化を図ることを特徴とする排煙方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−2108(P2010−2108A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−160423(P2008−160423)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】