説明

接地抵抗低減剤の注入装置および接地抵抗低減方法

【課題】道路掘削工事なしで地上から接地極の近傍に接地抵抗低減剤を注入可能にして、接地抵抗の迅速な低減対処を可能にする接地抵抗低減剤の注入装置および接地抵抗低減方法を提供すること。
【解決手段】軸方向の一端の打ち込み先端部11A側で閉塞され他端部11Bで開放される筒穴状の低減剤供給通路13が内部に形成され、側壁にこの低減剤供給通路13に連通する複数の流出孔12が軸方向に沿って互いに間隔を隔てて形成されてなる杭本体11と、この杭本体11の他端部11Bに接続して低減剤供給通路13に接地抵抗低減剤を加圧注入する低減剤供給管14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力設備を接地するための接地極の接地抵抗を低減するための接地抵抗低減剤の注入装置、およびその注入装置を用いた接地抵抗低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、変圧器、避雷針、高圧機器などの電力設備を備える、コンクリート柱、木柱、複合鉄筋コンクリート柱、鋼管柱など(以下、電柱という。)には、落雷や漏電による事故を防ぐために、電気設備に関する技術基準を定める省令(以下、省令という。)により、接地対策が義務づけられている。このような接地対策に伴う接地工事では、図8に示すように、電柱1に近接する場所の地中に互いに接続された複数の接地極2A,2B,2C同士を、間隔を隔てて埋設している。そして、電柱に最も近い位置に埋設された接地極2Aを、電柱に取り付けられる接地端子に接続している。
【0003】
このような接地極は、接地電流を地中に逃がしやすくする接地抵抗低減剤を用いることで、接地抵抗をさらに低減させることができる。接地極を埋設する際に、接地抵抗低減剤を土壌に効果的に注入する方法としては、パイプ状の接地棒本体に長手方向に沿って間欠的に流出孔を形成したものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−23220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、接地測定により接地極の接地抵抗が規定値を超過している場合は、速やかに接地抵抗を低減させる必要がある。従来、接地極の接地抵抗を確保するには、図8に示すように、電柱1の近傍の新たな領域に複数の新規接地極3A,3B,3Cを埋設していた。新規接地極を埋設するには、複数の接地極3A,3B,3Cを埋設する領域(図8中、長方形で囲んだ領域)のアスファルトの舗装を切り出し、地面を掘削する必要があった。道路舗装箇所での新規の接地極の埋設作業には、許認可申請・舗装復旧および地下埋設物への影響により改修までに時間と多額の費用を要している。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、道路掘削なしで地上から接地極の近傍に接地抵抗低減剤を注入でき、迅速な対処を可能にする接地抵抗低減剤の注入装置および接地抵抗低減方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る接地抵抗低減剤の注入装置の一態様は、軸方向の一端部で閉塞され他端部で開放される筒穴状の低減剤供給通路が形成され、側壁に、低減剤供給通路に連通する複数の流出孔が軸方向に沿って互いに間隔を隔てて形成され、かつ一端部が尖端状に形成された杭本体と、この杭本体の他端部に接続して低減剤供給通路に接地抵抗低減剤を加圧注入する低減剤供給管と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記注入装置の一態様では、杭本体を埋設されている接地極の近傍に打ち込むことにより、流出孔から接地抵抗低減剤を接地極へ向けて放出することができる。この結果、接地極の周囲の土壌へ接地抵抗低減剤を浸透させることができ、接地極の接地抵抗を速やかに低減させることができる。また、この一態様によれば、例えば、地表にアスファルト舗装が施されていても、杭本体分の極めて狭い領域のみの舗装を除去するに留めることができる。
【0009】
また、本発明に係る接地抵抗低減方法の一態様は、上記注入装置を用いて、地中に埋設された接地極の接地抵抗を低減させる接地抵抗低減方法であって、接地極の埋設位置情報に基づいて、接地極の近傍の地中に、流出孔が接地極に対向するように杭本体を打ち込むボーリング工程と、杭本体に低減剤供給管を接続した状態で、低減剤供給管から杭本体に接地抵抗低減剤を加圧注入する低減剤注入工程と、杭本体を地中から抜き出す除去工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記接地抵抗低減方法の一態様では、接地極の埋設位置情報に基づいて注入装置の杭本体を地中に打ち込むため、確実に接地極の近傍の土壌に接地抵抗低減剤を浸透させることが可能となる。施工領域は、杭本体の打ち込み、除去に必要な極めて小さい領域でよいため、地表の舗装などの修復を含めて迅速な処理が可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、道路掘削なしで地上から接地極の近傍に接地抵抗低減剤を注入でき、迅速な対処を可能にする接地抵抗低減剤の注入装置および接地抵抗低減方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係る接地抵抗低減方法により注入装置を挿入する位置を示す断面説明図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施の形態に係る接地抵抗低減剤の注入装置の正面図である。
【図3】図3は、図2のIII−III断面図である。
【図4】図4は、本発明の第1の実施の形態に係る接地抵抗低減方法により注入装置を注入する位置を示す平面図である。
【図5】図5は、本発明の第1の実施の形態に係る接地抵抗低減方法を示す工程説明図である。
【図6】図6は、本発明の第1の実施の形態に係る接地抵抗低減方法により再度接地抵抗低減剤を注入した結果、接地抵抗低減剤が接地極の周囲の土壌に浸透した状態を示す説明図である。
【図7】図7は、本発明の第2の実施の形態に係る注入装置の正面図である。
【図8】図8は、従来の改修方法を示し、新規接地極の埋設ための掘削領域を示す平面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る接地抵抗低減剤の注入装置の一態様としては、軸方向の一端部で閉塞され他端部で開放される筒穴状の低減剤供給通路が形成され、側壁に、低減剤供給通路に連通する複数の流出孔が軸方向に沿って互いに間隔を隔てて形成され、かつ一端部が尖端状に形成された杭本体と、この杭本体の他端部に接続して低減剤供給通路に接地抵抗低減剤を加圧注入する低減剤供給管と、を備える構成である。このような構成に加えて、以下のような構成としてもよい。
【0014】
すなわち、上記態様としては、流出孔が、軸方向に沿って1列に配置されている構成としてもよい。
【0015】
また、上記態様としては、側壁の外側面に、流出孔を囲む領域に凹部が形成されている構成としてもよい。
【0016】
さらに、上記態様としては、杭本体の他端部に、杭本体の延長方向に低減剤供給管を収納する空間を有する被押圧部が設けられている構成としてもよい。
【0017】
本発明に係る接地抵抗低減方法の一態様としては、上記注入装置を用いて、地中に埋設された接地極の接地抵抗を低減させる接地抵抗低減方法であって、接地極の埋設位置情報に基づいて、接地極の近傍の地中に、流出孔が接地極に対向するように杭本体を打ち込むボーリング工程と、杭本体に低減剤供給管を接続した状態で、低減剤供給管から杭本体に接地抵抗低減剤を加圧注入する低減剤注入工程と、杭本体を地中から抜き出す除去工程と、を備える構成であるが、以下のような他の構成としてもよい。
【0018】
すなわち、上記態様としては、接地極の埋設位置情報が、GPS情報、写真情報、図面情報のいずれかまたはこれらの組み合わせによりデータ化されているものであってもよい。
【0019】
以下に、本発明の各実施の形態に係る接地抵抗低減剤の注入装置および接地抵抗低減方法の詳細を図面に基づいて説明する。但し、図面は模式的なものであり、各部材の寸法や寸法の比率などは現実のものと異なることに留意すべきである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0020】
[第1の実施の形態]
図1〜6は、本発明の第1の実施の形態に係る接地抵抗低減剤の注入装置および接地抵抗低減方法を示している。
【0021】
(注入装置)
図1に示すように、本実施の形態に係る注入装置10は、杭本体11と低減剤供給管14とを備えてなる。杭本体11はパイプ状の棒体であり、軸方向の一端部が尖端状に形成された打ち込み先端部11Aを有している。この杭本体11には、打ち込み先端部11A側で閉塞され他端部11Bで開放される筒穴状の低減剤供給通路13が形成されている。
【0022】
この杭本体11の側壁には、低減剤供給通路13に連通する複数の流出孔12が軸方向に沿って1列をなすように互いに間隔を隔てて形成されている。また、図2および図3に示すように、杭本体11の側壁の外側面には、流出孔12を囲む領域に凹部12Aが形成されている。すなわち、図3に示すように、凹部12Aの底部に流出孔12が配置された構造となっている。このため、凹部12Aは、流出孔23から流出する接地抵抗低減剤の流出する向きを規定する作用を有する。また、本実施の形態では、流出孔23が凹部12Aの底部に配置されているため、杭本体11を土壌中に打ち込む際に、流出孔23へ土が入り込むことを抑制できる。
【0023】
上記構成の杭本体11の他端部11Bには、低減剤供給管14が接続されるようになっている。低減剤供給管14の端部には、杭本体11の他端部11Bに水密的に結合するコネクタ14Aが設けられている。低減剤供給管14が杭本体11に結合されると、低減剤供給管14から供給される接地抵抗低減剤が低減剤供給通路13に供給可能となる。なお、低減剤供給管14は可撓性を有し、加圧注入される接地抵抗低減剤の圧力に耐え得るようになっている。
【0024】
なお、コネクタ14Aと杭本体11の他端部11Bの結合は、螺合により結合する構成でもよいし、各種のジョイント構造を適用することも可能である。
【0025】
図1に示すように、本実施の形態に係る注入装置10は、埋設されている接地極2Cに対して流出孔23を対向させた状態で、接地極2Cの上端から下端までに亘る周辺の土壌41に対して接地抵抗低減剤を流出させることが可能となる。なお、本実施の形態の注入装置10は、杭本体11の打ち込み箇所のアスファルト舗装42のみを除去した後、土壌41に打ち込まれるようになっている。
【0026】
上記構成の注入装置10では、流出孔12から接地抵抗低減剤を接地極2Cへ向けて放出することができるため、接地極2Cの周囲の土壌41へ接地抵抗低減剤を浸透させることができ、接地極2Cの接地抵抗を速やかに低減させることができる。図4においてAc,Ab,Acは、接地抵抗低減剤が浸透した浸透領域を示している。また、この注入装置10によれば、アスファルト舗装42が施されていても、杭本体11分の極めて狭い領域のみの舗装を除去するに留めることができる。したがって、接地抵抗の低減を迅速に改修することができる。
【0027】
(接地抵抗低減方法)
次に、本実施の形態に係る注入装置10を用いて接地極2Cの接地抵抗低減方法について説明する。
【0028】
図4に示すように、一般に、電柱1に近接する場所の地中に互いに接続された複数の接地極2A,2B,2Cが間隔を隔てて埋設されている。電柱1に最も近い位置に埋設された接地極2Aは、電柱1に取り付けられる図示しない接地端子に接続されている。
【0029】
本実施の形態では、これら接地極2A,2B,2Cの埋設位置情報は、GPS情報、写真情報、図面情報等のいずれかまたはこれらの組み合わせによりデータ化されている情報を予め用意しておく。埋設位置情報により特定された接地極2A,2B,2Cのそれぞれの周囲に例えば4箇所の注入位置5に本実施の形態の注入装置10を用いて接地抵抗低減剤の注入を行う。
【0030】
まず、図5に示すように、例えば接地極2Cの埋設位置情報に基づいて、この接地極2Cの近傍の土壌41に、流出孔12が接地極2Cに対向するように杭本体11を打ち込むボーリング工程を行う。なお、このボーリング工程では、本実施の形態のように杭本体11分のアスファルト舗装42を予め除去してもよいし、アスファルト舗装42の上から杭本体11を打ち付けて貫通させてもよい。
【0031】
次に、図1に示すように、杭本体11の他端部11Bにコネクタ14Aで低減剤供給管14を接続する。そして、低減剤供給管14に別途用意された加圧供給駆動装置(図示省略する)から低減剤供給管14に接地抵抗低減剤を送出して、杭本体11に接地抵抗低減剤を加圧注入する(低減剤注入工程)。その後、杭本体11を土壌41より抜き取り(除去工程)、埋設されている接地極13の埋設位置情報に基づいて接地極2Cの近傍の他の位置に杭本体11を打ち込むボーリング工程を再度行い、再度低減剤供給管14を接続して接地抵抗低減剤の注入の注入を行う。このような工程を繰り返すことにより、図6に示すように、接地極2Cの近傍には、接地抵抗低減剤が浸透した浸透領域Acを形成して接地極2Cの接地抵抗の低減化を達成することができる。最後に、図6に示すように、杭本体11を打ち込んだ部分のアスファルト舗装42Aを修復して接地抵抗低減化が完了する。
【0032】
以上のような接地抵抗低減方法では、接地極2A,2B,2Cの埋設位置情報に基づいて注入装置10の杭本体11を地中に打ち込むため、確実に接地極2A,2B,2Cの近傍の土壌41に接地抵抗低減剤を浸透させることが可能となる。
【0033】
また、この接地抵抗低減方法では、施工領域が、杭本体11の打ち込みおよび除去に必要な極めて小さい領域でよいため、地表の舗装などの修復を含めて迅速な処理が可能となる。
【0034】
[第2の実施の形態]
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る注入装置10Aを示している。この注入装置10Aは、上記第1の実施の形態に係る注入装置10と同様の構成を有する杭本体11を備え、この杭本体11の他端部11Bに、杭本体11の延長方向に低減剤供給管14を収納する空間を有する略筒状の被押圧部15が設けられている。この被押圧部15は、下端部15Aで杭本体11に固定される。
【0035】
また、被押圧部15の上部には、天板15Bが設けられている。この天板15Bは、杭本体11を土壌41に打ち込むときに、例えばハンマーなどで叩かれる部分である。この天板15Bは、杭本体11の打ち込みの際に打ち込み力の作用点となる。また、この被押圧部15内には、打ち込みの際に低減剤供給管14を収納できるため、低減剤供給管14を保護する機能を有している。本実施の形態に係る注入装置10Aの他の構成、作用は、上記第1の実施の形態に係る注入装置10と同様であるため、説明を省略する。
【0036】
この注入装置10Aでは、杭本体11に対して常時低減剤供給管14を接続した状態でよいため、除去工程の際に低減剤供給管14を杭本体11から取り外す手間を省くことができる。
【0037】
[その他の実施の形態]
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、各請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、すべての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【0038】
例えば、上記第1および第2の実施の形態では、流出孔12が凹部12Aの底部に形成された構成であるが、凹部12Aを形成しない構成であって勿論よい。
【符号の説明】
【0039】
2A,2B,2C 接地極
10,10A 注入装置
11 杭本体
11A 打ち込み先端部(一端部)
11B 他端部
12 流出孔
12A 凹部
13 低減剤供給通路
14 低減剤供給管
15 被押圧部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一端部で閉塞され他端部で開放される筒穴状の低減剤供給通路が形成され、側壁に、前記低減剤供給通路に連通する複数の流出孔が前記軸方向に沿って互いに間隔を隔てて形成され、かつ前記一端部が尖端状に形成された杭本体と、
該杭本体の他端部に接続して前記低減剤供給通路に接地抵抗低減剤を加圧注入する低減剤供給管と、
を備えることを特徴とする接地抵抗低減剤の注入装置。
【請求項2】
前記流出孔は、軸方向に沿って1列に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の接地抵抗低減剤の注入装置。
【請求項3】
前記側壁の外側面には、前記流出孔を囲む領域に凹部が形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の接地抵抗低減剤の注入装置。
【請求項4】
前記杭本体の他端部に、当該杭本体の延長方向に前記低減剤供給管を収納する空間を有する被押圧部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の接地抵抗低減剤の注入装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の接地抵抗低減剤の注入装置を用いて、地中に埋設された接地極の接地抵抗を低減させる接地抵抗低減方法であって、
接地極の埋設位置情報に基づいて、前記接地極の近傍の地中に、前記流出孔が前記接地極に対向するように前記杭本体を打ち込むボーリング工程と、
前記杭本体に前記低減剤供給管を接続した状態で、該低減剤供給管から前記杭本体に接地抵抗低減剤を加圧注入する低減剤注入工程と、
前記杭本体を地中から抜き出す除去工程と、
を備えることを特徴とする接地抵抗低減方法。
【請求項6】
前記接地極の埋設位置情報は、GPS情報、写真情報、図面情報のいずれかまたはこれらの組み合わせによりデータ化されていること特徴とする請求項5に記載の接地抵抗低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−84378(P2013−84378A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221989(P2011−221989)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】