説明

接着促進ポリマー添加剤を含む歯科用接着剤組成物及び方法

歯科用組成物及び使用方法が本明細書に記載される。本明細書に記載される歯科用接着剤組成物は、重合性有機成分(即ち、エチレン性不飽和部分を有する)を含む硬化性成分を多量に含み、極性基又は分極性基を含む繰り返し単位及び疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位を含む(例えば、水分散性)ポリマーを少量含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
水分散性ポリマーフィルム形成剤を含む様々な歯科用接着剤組成物及び歯科用セメントが記載されている。
米国特許第7,449,499号に記載されているもの等の自己エッチング歯科用組成物も記載されている。
【0002】
唾液の混入は、修復歯科学において蔓延している問題である。全修復プロセス中、清浄で乾燥した窩洞形成を維持することは困難であることが多い。これは、患者の協力に大きな開きのある小児歯科において特に問題である。理想的には、修復手技中ラバーダムによって孤立させて唾液の混入を防ぐ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
低濃度の(例えば、水分散性)ポリマーを添加することにより、硬化性歯科用接着剤組成物の剪断接着強度を改善できることが見出されている。また、このようなポリマーの添加は、接着剤の唾液混入耐性も改善することができる。本明細書に記載されるように唾液混入耐性の改善された接着剤は、清浄で乾燥した窩洞形成を維持することが困難又は不可能である状況において満足のいく臨床転帰を歯科医に保証する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの実施形態では、歯科用組成物を塗布する方法が記載される。この方法は、重合性有機成分及び接着促進ポリマーを含む歯科用接着剤又はプライマー組成物を提供する工程であって、ポリマーが1つ以上の極性基又は分極性基を含む繰り返し単位及び1つ以上の疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位を含む工程と、歯科用接着剤を硬組織表面に塗布する工程と、重合性有機成分を硬化させる工程とを含む。硬歯科組織は、典型的に、エナメル質、象牙質、又はこれらの組み合わせである。幾つかの実施形態では、硬歯科組織は、唾液が混入した場合等のように濡れている。幾つかの実施形態では、エッチング剤又はプライマーで表面を前処理することなく(例えば、自己エッチング)接着剤を硬組織表面に塗布する。他の実施形態では、このような前処理を用いてもよい。
【0005】
別の実施形態では、酸性官能基を有するエチレン性不飽和化合物を含む重合性有機成分と、10重量%以下の接着促進ポリマーとを含む(例えば、自己エッチング)歯科用接着剤組成物であって、このポリマーが極性基又は分極性基を含む繰り返し単位及び疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位を含む組成物が記載される。(例えば、自己エッチング)歯科用接着剤組成物は、任意で、光硬化性アイオノマーを含んでもよい。
【0006】
別の実施形態では、少なくとも1つの光硬化性アイオノマーを含む重合性有機成分と、10重量%以下の接着促進ポリマーとを含む歯科用接着剤組成物であって、前記ポリマーが極性基又は分極性基を含む繰り返し単位及び疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位を含む組成物が記載される。
【0007】
これら各実施形態では、ポリマーは、典型的に、6個以下の炭素原子を有するカルボン酸に由来する極性基又は分極性基を含む。ポリマーは、好ましくは、四級アンモニウム基等のイオン基を含む。ポリマーは、典型的に、8〜22個の炭素原子を有する疎水性炭化水素基を含む。好ましい実施形態では、ポリマーは、少なくとも1つの酸性重合性基及び1つの四級アンモニウム基を含む。疎水性基は、ポリマーから分岐(pendent)していてもよく、又は四級アンモニウム基に付加されていてもよい。可溶性及び/又は粘度を調節するための更なる調節基がポリマー構造中に存在してもよい。
【0008】
光硬化性アイオノマーは、典型的に、ペンダントイオン基及びペンダントフリーラジカル重合性基を含み、前記重合性基のうちの少なくとも1つは、アミド結合によって前記アイオノマーに結合する。前記アイオノマーは、好ましくは、カルボキシル基及び(メタ)アクリレート基を含む。前記接着促進ポリマーは、典型的に、ペンダントエチレン性不飽和部分を含まない。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書で使用するとき、「接着剤」又は「歯科用接着剤」とは、「歯科材料」(例えば、「修復剤」、歯列矯正器具(例えば、ブラケット))を歯構造体に接着させるために、歯構造体(例えば、歯)上で前処理として使用される組成物を指す。プライマーも前処理であるので、本明細書で使用するとき、用語「接着剤」は、このようなプライマーが本明細書に記載される接着促進ポリマー添加剤及び重合性成分を含む限りプライマーも含む。
【0010】
幾つかの実施形態では、接着剤組成物は、典型的に、(例えば、無機酸化物)充填剤を含まない「無充填」接着剤組成物である。この実施形態では、接着剤組成物と重合性有機成分とは等価である。他の実施形態では、「充填」接着剤組成物は、重合性有機成分及び(例えば、無機酸化物)充填剤を含む。
【0011】
本明細書で使用するとき、「歯科材料」とは、歯構造体表面に固着させることができる材料を指し、例えば、歯科用修復剤又は歯列矯正器具が挙げられる。
幾つかの実施形態では、歯科材料との接着力を高めるために、例えば、エッチング、下塗り、及び/又は接着剤の塗布によって歯構造体表面を前処理してもよい。
【0012】
本明細書で使用するとき、「エッチング剤」は、歯構造体表面を完全に又は部分的に可溶化する(即ち、エッチングする)ことができる酸性組成物を指す。エッチング効果は、肉眼で見ることができる及び/又は機器で(例えば、光学顕微鏡検査によって)検出可能である。典型的に、エッチング剤は、約10〜30秒間、歯構造体表面に塗布される。
【0013】
本明細書で使用するとき、「自己エッチング」組成物とは、歯構造体表面をエッチング剤で前処理することなく歯構造体表面に固着させる組成物を指す。好ましくは、自己エッチング組成物は、プライマーを使用しない自己プライマーとしても機能することができる。
【0014】
本明細書で使用するとき、組成物を「硬化する(hardening)」又は「硬化する(curing)」は、互換的に使用され、例えば、組成物中に含まれる1種以上の材料が関与する光重合反応及び化学重合技術(例えば、エチレン性不飽和化合物を重合するために有効であるラジカルを形成するイオン反応又は化学反応)を含む重合反応及び/又は架橋反応を指す。
【0015】
本明細書で使用するとき、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び/又は「メタクリル」を指す短縮語である。例えば、「(メタ)アクリルオキシ」基は、アクリルオキシ基(即ち、CH=CHC(O)O−−)及び/又はメタクリルオキシ基(即ち、CH=C(CH)C(O)O−−)を指す短縮語である。
【0016】
本明細書で使用するとき、「硬組織表面」とは、歯構造体(例えば、エナメル質、象牙質、及びセメント質)及び骨を指す。
本明細書で使用するとき、「濡れている」歯構造体表面とは、その上に水性液体(例えば、水又は唾液)が存在し、かつそれらが肉眼で見える歯構造体の表面を指す。
本明細書で使用するとき、「乾燥している」歯構造体表面とは、乾燥され(例えば、風乾され)かつ目に見える水が存在しない歯構造体の表面を指す。
【0017】
歯科用接着剤組成物及び使用方法が本明細書に記載される。本明細書に記載される歯科用接着剤組成物は、重合性有機成分(即ち、エチレン性不飽和部分を有する)を含む硬化性成分を多量に含み、極性基又は分極性基を含む繰り返し単位及び疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位を含む(例えば、水分散性)ポリマーを少量含む。このようなポリマーを検討することができ、また、本明細書では接着促進ポリマー添加剤と呼ばれる。
【0018】
接着促進ポリマー添加剤は、一般的に、少なくとも0.5重量%、1固形分重量%、2固形分重量%、又は3固形分重量%の量で無充填接着剤組成物中に存在する。しかし、場合によっては、前記ポリマーの分子量に依存してより高濃度が必要になる場合もある。ポリマー添加剤は、一般的に、(例えば、乾燥している又は唾液が混入している)接着強度を高めるという望ましい効果を得るために最低限の量で存在する。したがって、ポリマー添加剤の量は、典型的に、約8、9、又は10固形分重量%以下の量で存在する。
【0019】
極性基又は分極性基
接着促進ポリマー添加剤は、極性基又は分極性基を含む繰り返し単位を含む。このような極性基又は分極性基は、典型的に、アクリレート、メタクリレート、クロトネート、イタコネート等のビニルモノマー由来の親水性基である。極性基は、酸性、塩基性又は塩であってよい。これらの基はまた、イオン性又は中性であってもよい。ポリマーの極性基又は分極性基は、一般的に、ポリマーを水分散性にする。したがって、このようなポリマーは、水分散性ポリマーフィルム形成剤とも記載される。
【0020】
極性基又は分極性基の例としては、ヒドロキシ、チオ、置換及び非置換アミド等の中性基、環状エーテル(オキサン、オキセタン、フラン及びピラン等)、塩基性基(ホスフィン及び、一級、二級、三級アミンを含むアミン等)、酸性基(酸素酸及び、C、S、P、Bのチオ酸素酸(thiooxyacids)等)、イオン基(四級アンモニウム、カルボン酸塩、スルホン酸塩等)、並びにこれらの基の前駆体及び保護された形態が挙げられる。更に、極性基又は分極性基は、マクロモノマーであってよい。これら極性基又は分極性基が由来するモノマーのより具体的な例を以下に記載する。
【0021】
極性基又は分極性基は、以下の一般式によって表される分子を含む一官能性又は多官能性カルボキシル基に由来し得る:
CH=CRG−(COOH)
式中、Rは、H、メチル、エチル、シアノ、カルボキシ、又はカルボキシメチルであり、dは1〜5であり、Gは、任意で置換又は非置換へテロ原子(例えば、O、S、N及びP)により置換された及び/又は中断された、原子価d+1の1〜12個の炭素原子を含有する結合、あるいはヒドロカルビルラジカル連結基である。所望により、この単位は塩の形態で提供されてよい。この分類の好ましいモノマーは、アクリル酸(AA)、メタクリル酸、イタコン酸、及びN−アクリロイルグリシン等の6、5、又は4個以下の炭素原子を有する一官能性カルボン酸である。
【0022】
極性基又は分極性基は、例えば、以下の一般式によって表される分子を含む一官能性又は多官能性ヒドロキシ基に由来し得る:
CH=CR−CO−L−R−(OH)
式中、R=H、メチル、エチル、シアノ、カルボキシ、又はカルボキシアルキルであり、L=O、NHであり、d=1〜5であり、Rは、1〜12個の炭素原子を含有する原子価d+1のヒドロカルビルラジカルである。この部類の好適なモノマーは、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、トリス(ヒドロキシメチル)エタンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、及びヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミドである。
【0023】
極性基又は分極性基は、あるいは、以下の一般式の分子を含む一官能性又は多官能性アミノ基に由来し得る:
CH=CR−−CO−L−R−−(NR
式中、R、L、R、及びdは、上記定義の通りであり、R及びRは、H又は1〜12個の炭素原子を有するアルキル基であるか、あるいは共に炭素環式基又は複素環基を構成する。この分類の好ましいモノマーは、N−イソプロピルアクリルアミド(例えば、NIPAAM)、アミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、及び4−メチル−1−アクリロイル−ピペラジンである。
【0024】
また、極性基又は分極性基は、メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート又はポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートのようなアルコキシ置換(メタ)アクリレート又は(メタ)アクリルアミド由来であってもよい。
【0025】
極性基又は分極性基単位は、以下の一般式の置換又は非置換アンモニウムモノマーに由来し得る:
CH=CR−−CO−L−R−−(N
式中、R、R、R、R、L、及びdは、上記定義の通りであり、Rは、H又は1〜12個の炭素原子を有するアルキルであり、Qは、有機又は無機アニオンである。このようなモノマーの好適な例としては、2−N,N,N−トリメチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレート、2−N,N,N−トリエチルアンモニウムエチル(メタ)アクリレート、3−N,N,N−トリメチルアンモニウムプロピル(メタ)アクリレート、N(2−N’,N’,N’−トリメチルアンモニウム)エチル(メタ)アクリルアミド、N−(ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム)プロピル(メタ)アクリルアミド、又はこれらの組み合せが挙げられ、対イオンとしては、フッ化物、塩化物、臭化物、アセテート、プロピオネート、ラウレート、パルミテート、ステアレート、又はこれらの組み合せを挙げることができる。モノマーはまた、有機又は無機対イオンのN,N−ジメチルジアリルアンモニウム塩であってもよい。
【0026】
ポリマーを含有するアンモニウム基はまた、極性基又は分極性基、上記モノマーを含有する任意のアミノ基を用い、得られたポリマーを有機又は無機酸でペンダントアミノ基が実質的にプロトン化するpHまで酸性化することにより、調製してもよい。全体的にポリマーを含有する置換アンモニウム基は、上記アミノポリマーをアルキル化基でアルキル化することにより調製してよく、その方法はメンシュトキン(Menschutkin)反応として当該技術分野において公知である。
【0027】
極性基又は分極性基はまた、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルオキシベンゼンスルホン酸等のような、モノマーを含有するスルホン酸基由来であってもよい。あるいは、極性基又は分極性基は、亜リン酸又はホウ素酸基含有モノマー由来であってよい。これらのモノマーは、モノマーのようなプロトン化酸形態で用いてよく、得られた対応するポリマーは有機又は無機塩基で中性化してポリマーの塩形態を得てもよい。
【0028】
極性基又は分極性基の好ましい繰り返し単位としては、アクリル酸(AA)、イタコン酸(ITA)、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAM)、又はこれらの組み合わせが挙げられる。ポリマーは、典型的に、このような極性又は分極性単位に由来するモノマー単位を少なくとも10、15、又は20重量%含む。
【0029】
疎水性炭化水素基
また、接着促進ポリマー添加剤は、疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位を含む。疎水性炭化水素部分は、典型的に、少なくとも8、9、又は10個の炭素原子を有し、典型的に、22個以下の炭素原子を有する。炭化水素部分は、芳香族であってもよいが、典型的に、本質的に非芳香族であり、所望により部分的に又は完全に飽和した環を含有してよい。好ましい疎水性部分は、典型的に、ラウリル(LA)、ドデシル、オクタデシル(ODA)、及びイソオクチル(IOA)メタクリレート等の少なくとも12個の炭素原子を有する非芳香族長鎖炭化水素である。このような疎水性炭化水素部分は、典型的に、少なくとも160g/モルの分子量を有する。
【0030】
幾つかの実施形態では、極性基又は分極性基及び疎水性炭化水素基は、同じモノマーに由来する。したがって、同じ繰り返し単位が、極性基又は分極性基と疎水性基との両方を含む。例えば、既に記載したように、置換又は非置換アンモニウムモノマーが用いられ、R、R又はRのうちの少なくとも1つが、少なくとも8、9、10、11、又は12個の炭素原子を有するアルキル基であるとき、このようなアルキル基は、疎水性炭化水素基である。この実施形態では、R、R、又はRのうちの少なくとも1つは、24個以下の炭素原子を有してもよい。この種の好ましいモノマーは、ジメチルヘキサデシルアンモニウムエチルメタクリレートブロミド(DMAEMA−C16Br)である。
【0031】
好ましくは、接着促進ポリマー添加剤は、ジメチルヘキサデシルアンモニウムエチルメタクリレートブロミド等のアンモニウムモノマーに由来するイオン基及び疎水性基を含むモノマーに由来する少なくとも3又は5重量%の繰り返し単位を含む。より好ましくは、接着促進ポリマー添加剤は、少なくとも10、15、又は20重量%のこのようなモノマーを含む。一般的に、接着促進ポリマー添加剤は、イオン基及び疎水性基を含むモノマーに由来する繰り返し単位を40重量%以下含む。
【0032】
参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許出願第2008/0305457号に記載されているように、疎水性フッ素含有基を含むもの等の他の疎水性炭化水素部分を使用してもよい。
【0033】
接着促進ポリマー添加剤は、典型的に、調節基を更に含む。代表的な調節基は、アクリレート又はメタクリレート又は他のビニル重合性出発モノマー由来であり、所望により、ガラス転移温度、担体媒質への溶解度、親水性−疎水性バランス等のような特性を調節する官能基を含有する。
【0034】
調節基の例としては、炭素数1〜12の、直鎖、分岐、又は環状アルコールの低級〜中級メタクリル酸エステルが挙げられる。典型的に、調節基は、8、7、又は6個未満の炭素原子を有し、C1〜C4が最も典型的である。幾つかの実施形態では、調節基は、イソブチルメタクリレート(IBMA)に由来する。
【0035】
幾つかの実施形態では、接着促進ポリマー添加剤は、エチレン性不飽和基を含まない。ポリマーは、任意で、エチレン性不飽和基、あるいはエポキシ基又はシラン部分等の他の反応性基を含んでもよい。
幾つかの実施形態では、接着促進ポリマー添加剤は、グラフトポリシロキサン鎖を含む繰り返し単位も含む。グラフトポリシロキサン鎖は、エチレン性不飽和予形成オルガノシロキサン鎖に由来する。この単位の分子量は、一般的に、500g/モル超であり、最大10,000g/モル又はそれ以上の範囲であってもよい。
【0036】
本発明のグラフトポリシロキサン鎖を提供するために使用されるモノマーは、単一官能基(ビニル、エチレン性不飽和、アクリロイル、又はメタクリロイル基)を有する末端官能性ポリマーであり、時に、シリコーンマクロモノマー又はシリコーンマクロマー(SiMac)と呼ばれることもある。グラフトポリシロキサン鎖を含む繰り返し単位を含むと、縮合反応を受けることができるシラン部分を有するポリマーが得られる。
【0037】
極性基又は分極性基と疎水性炭化水素基とを含む必須モノマーは、典型的に、上記調節モノマー及び任意モノマーと共に、重合してポリマーを形成する。ポリマーの重量平均分子量は、典型的に、少なくとも10,000g/モルかつ最高100,000g/モルである。好ましい実施形態では、接着促進ポリマー添加剤は、500g/モルを超える分子量を有する繰り返し単位を含まない。
【0038】
例えば、参照することにより本明細書に組み込まれる米国特許出願第2008/0305457号に記載されているように、様々なポリマーを調製することができる。以下の表は、好適な代表的接着促進ポリマー添加剤の組成を示す。
【表1】

【表2】

【0039】
少量のこの(即ち、予め重合している)ポリマー添加剤が、当該技術分野において公知であるように、重合性(例えば、(メタ)アクリレート)有機成分を含む従来の硬化性歯科用接着剤組成物と組み合わせられる。
幾つかの実施形態では、接着剤組成物は、水、及びエタノール又はイソプロピルアルコール等の共溶媒に分散した重合性有機成分及び接着促進ポリマー添加剤を含む水性歯科用接着剤である。このような実施形態では、重合性有機成分は、水分散性ポリマーフィルム形成剤を含む。
【0040】
他の実施形態では、接着剤組成物は、1重量%未満、より好ましくは0.5重量%未満、最も好ましくは0.1重量%未満の水を含む非水性である。この実施形態では、接着剤組成物の重合性成分は、水分散性である必要はない。
【0041】
本発明の歯科用組成物に使用することができる好適な光重合可能な成分は、例えば、エポキシ樹脂(カチオン系活性エポキシ基を含有する)、ビニルエーテル樹脂(カチオン系活性ビニルエーテル基を含有する)、エチレン不飽和化合物(フリーラジカル活性不飽和基(例えば、アクリレート及びメタクリレート)を含有する)、及びこれらの組み合わせが挙げられる。同様に、単一化合物中にカチオン活性官能基とフリーラジカル活性官能基との両方を含有する重合性物質も好適である。例としては、エポキシ官能性アクリレート、エポキシ官能性メタクリレート、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
ある実施形態では、組成物は光重合可能である、すなわち、組成物は、化学線の照射によって組成物の重合(又は硬化)を開始する、光開始剤(すなわち、光開始剤系)を含有する。このような光重合性組成物は、フリーラジカル重合性又はカチオン重合性であってもよい。他の実施形態では、組成物は化学的に硬化性である、即ち、組成物は、化学線の照射に依存することなく、組成物を重合、硬化、又は別の方法で硬化させ得る化学反応開始剤(即ち、反応開始剤系)を含有する。このような化学的に硬化可能な組成物は、時に、「自己硬化(self-cure)」組成物と呼ばれることもあり、かつガラスアイオノマーセメント(例えば、従来型であり樹脂変性されたガラスアイオノマーセメント)、酸化還元硬化系、及びこれらの組み合わせを含んでもよい。
【0043】
好適な硬化性組成物は、エチレン性不飽和化合物(フリーラジカル活性不飽和基を含有する)を含む硬化性成分(例えば、光重合可能な化合物)を含んでよい。有用なエチレン性不飽和化合物の例としては、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性アクリル酸エステル、ヒドロキシ官能性メタクリル酸エステル、及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0044】
また、本明細書に記載される接着剤組成物は、典型的に、酸官能基を含まないエチレン性不飽和化合物の形態である1つ以上の硬化性成分を含む。
【0045】
好適な化合物は、少なくとも1つのエチレン性不飽和結合を含有し、付加重合を受けることが可能である。このようなフリーラジカル重合性化合物としては、モノ−、ジ−又はポリ−(メタ)アクリレート(すなわち、アクリレート及びメタクリレート)例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4−ブタントリオールトリメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1−(2−アクリロキシ)]−p−エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1−(3−アクリロキシ−2−ヒドロキシ)]−p−プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、及びトリスヒドロキシエチル−イソシアヌレートトリメタクリレート;(メタ)アクリルアミド(すなわち、アクリルアミド及びメタクリルアミド)例えば、(メタ)アクリルアミド、メチレンビス−(メタ)アクリルアミド、並びにジアセトン(メタ)アクリルアミド;ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールのビス−(メタ)アクリレート(好ましくは、分子量200〜500)、米国特許第4,652,274号(Boettcherら)に記載されているような、アクリレート化モノマーの共重合性混合物、米国特許第4,642,126号(Zadorら)に記載されているような、アクリレート化されたオリゴマーが挙げられる。他の好適なフリーラジカル重合性化合物としては、例えば、国際公開第00/38619号(Guggenbergerら)、同第01/92271号(Weinmannら)、同第01/07444号(Guggenbergerら)、同第00/42092号(Guggenbergerら)に開示されているようなシロキサン官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。必要に応じて、2つ以上のフリーラジカル重合性化合物の混合物を使用することが可能である。
【0046】
接着剤組成物は、好ましくは、単一分子中にヒドロキシル基及びエチレン性不飽和基を含む硬化性成分を含む。このような物質の例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(HEMA)、及び2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;グリセロールモノ−又はジ−(メタ)アクリレート(例えば、GDMA);トリメチロールプロパンモノ−又はジ−(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールモノ−、ジ−、及びトリ−(メタ)アクリレート;ソルビトールモノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、又はペンタ−(メタ)アクリレート、並びに2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシ−プロポキシ)フェニル]プロパン(BisGMA)が挙げられる。また、好適なエチレン性不飽和化合物は、Sigma−Aldrich,St.Louis,Mo等の広範囲にわたる商業的供給元から入手可能である。必要に応じて、エチレン性不飽和化合物の混合物を用いてもよい。
【0047】
本明細書に記載される(例えば、自己エッチング)接着剤組成物は、酸及び/又は酸前駆体官能基を含むエチレン性不飽和化合物の形態である1つ以上の硬化性成分を含む。酸前駆体官能基としては、例えば、無水物、酸ハロゲン化物、及びピロリン酸塩が挙げられる。酸性官能基としては、カルボン酸官能基、リン酸官能基、ホスホン酸官能基、スルホン酸官能基、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。
【0048】
酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物としては、例えば、アルファ,ベータ−不飽和酸性化合物、例えば、グリセロールホスフェートモノ(メタ)アクリレート、グリセロールホスフェートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシエチル)ホスフェート、((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシ)プロピルオキシホスフェート、(メタ)アクリルオキシヘキシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシヘキシル)ホスフェート(MHP)、(メタ)アクリルオキシオクチルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシオクチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシデシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシデシル)ホスフェート、カプロラクトンメタクリレートホスフェート、クエン酸ジ−又はトリ−メタクリレート、ポリ(メタ)アクリレート化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリカルボキシル−ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリクロロリン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリスルホネート、ポリ(メタ)アクリレート化ポリホウ酸等が挙げられ、これらは、硬化性成分系の成分として使用してもよい。(メタ)アクリル酸、芳香族(メタ)アクリル化酸(例えば、メタクリレート化トリメリット酸)等の不飽和炭酸のモノマー、オリゴマー、及びポリマー、並びにこれらの無水物を使用することも可能である。酸官能基を含む他のエチレン性不飽和化合物は、既に引用された米国特許出願第2006/0204452号に記載されているように、当該技術分野において公知である。
【0049】
自己エッチング接着剤組成物は、無充填組成物の総重量固形分に基づいて、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物を少なくとも5重量%、10重量%、15重量%、又は20重量%、かつ75重量%以下含む。6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート等の少なくとも1つのP−OH部分を有する酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物が、典型的に好ましい。
【0050】
幾つかの実施形態では、接着剤組成物は、光硬化性アイオノマー、即ち、硬化反応することができるペンダントイオン基と、放射エネルギーに曝露されたとき、得られる混合物を重合、即ち硬化させることができるペンダントフリーラジカル重合性基とを有するポリマーを更に含む。
【0051】
例えば、米国特許第5,130,347号に記載されているように、光硬化性アイオノマーは、以下の一般式を有する:
B(X)(Y)
式中、
Bは、有機骨格鎖を表し、
各Xは、独立して、イオン基であり、
各Yは、独立して、光硬化性基であり、
mは、2以上の平均値を有する数であり、
nは、1以上の平均値を有する数である。
好ましくは、骨格鎖Bは、任意で酸素、窒素、又は硫黄ヘテロ原子等の非干渉(non-interfering)置換基を含む炭素−炭素結合のオリゴマー又はポリマー骨格鎖である。用語「非干渉」とは、本明細書で使用するとき、光硬化性アイオノマーの光硬化反応のいずれにも過度に干渉しない置換基又は連結基を指す。
【0052】
好ましいX基は、酸性基であり、カルボキシル基が特に好ましい。
好適なY基としては、重合性エチレン性不飽和基及び重合性エポキシ基が挙げられるが、これらに限定されない。エチレン性不飽和基は、特に、フリーラジカル機構を用いて重合され得るのが好ましく、その例は、置換及び非置換アクリレート、メタクリレート、アルケン、及びアクリルアミドである。
【0053】
X及びY基は、骨格鎖Bに直接連結してもよく、又は置換及び非置換アルキル、アルコキシアルキル、アリール、アリールオキシアルキル、アルコキシアリール、アラルキル、又はアルカリール基等の任意の非干渉有機連結基を用いて連結してもよい。
【0054】
好ましい光硬化性アイオノマーは、各Xがカルボキシル基であり、各Yが、フリーラジカル機構によって重合され得る(メタ)アクリレート基等のエチレン性不飽和基であるものである。このようなアイオノマーは、ポリアルケン酸(例えば、式B(X)m+n(式中、各Xは、カルボキシル基である)のポリマー)と、エチレン性不飽和基、及びNCO基等のカルボン酸基と反応することができる基の両方を含むカップリング化合物とを反応させることにより都合よく調製される。得られる光硬化性アイオノマーは、好ましくは、アミド結合を用いて前記アイオノマーに連結するフリーラジカル重合性(例えば、(メタ)アクリレート基)のうちの少なくとも1つを有する。得られる光硬化性アイオノマーの分子量は、典型的に、約1000〜約100,000g/モルである。
【0055】
幾つかの実施形態では、接着剤組成物は、単一モノマーにおいてヒドロキシル基及びエチレン性不飽和基を含む硬化性成分を含む。例えば、接着剤組成物は、20〜40重量%以下のBisGMA及び15〜35重量%のHEMA、10〜30重量%のGDMAを含んでもよい。このような硬化性成分の合計量は、典型的に、硬化した接着剤組成物の70重量%〜80固形分重量%である。接着剤は、10重量%以下のウレタンジアクリレート(UDMA)及び約25重量%以下の光硬化性アイオノマーを更に含んでもよい。
【0056】
他の実施形態では、(例えば、自己エッチング)接着剤組成物は、単一モノマー中にヒドロキシル基及びエチレン性不飽和基を含む硬化性成分、並びに酸官能基を含む硬化性成分を含む。例えば、接着剤組成物は、15〜30重量%以下のBisGMA、25〜45重量%のHEMA、5重量%以下のGDMA、及び15〜35重量%のMHPを含んでもよい。接着剤は、10重量%以下の光硬化性アイオノマーを更に含んでもよい。
【0057】
本明細書に記載される硬化した接着剤組成物は、典型的に、無充填組成物の総重量に基づいて、エチレン性不飽和化合物に由来する固形分を少なくとも50重量%、60重量%、又は70重量%、かつ最大95重量%含む。
接着剤組成物は、任意で、組成物の被覆性及び機械的強度を改善するための充填剤を含有してもよい。充填剤の例は、無機充填剤、有機充填剤、無機/有機複合充填剤と呼ばれるものである。
【0058】
1つ以上のこのような充填剤を単独で又は組み合わせて用いてもよい。接着剤組成物が有機溶媒又は水を含有する場合、その中の充填剤の量は、好ましくは、最大30重量%である。好ましい充填剤としては、最大0.1μmの平均粒径を有するコロイドシリカ及びヒュームドシリカが挙げられる。
【0059】
本発明の接着剤組成物は、任意で、上記成分に加えて、重合阻害剤、酸化防止剤、UV吸収剤、顔料、染料、及び他の添加剤を含有してもよい。フッ化ナトリウム等のう触防止能を有するフッ素化合物を接着剤組成物に組み込んでもよい。
【0060】
本発明の方法は、ヒト及び動物組織を含む、硬組織の処理を提供する。硬組織としては、例えば、骨、歯、及び歯の構成要素(例えば、エナメル質、象牙質、及びセメント質)が挙げられる。
本発明の歯科用接着剤組成物が2つ以上の部分を含むとき、この2つ以上の部分は、塗布プロセスの直前、又は塗布プロセスの間に混合されることが好ましい。好適な混合装置としては、例えば、静的混合装置が挙げられる。
【0061】
歯科用接着剤組成物は、例えば、重合性有機成分の反応を誘導することによって硬化される。例えば、組成物がエチレン性不飽和基を含む場合、重合は、化学線の適用により誘導され得る。組成物は、好ましくは400〜1200nmの波長、より好ましくは可視光を有する放射線を照射される。可視光線源としては、例えば、太陽、レーザー、金属蒸気(例えば、ナトリウム及び水銀)ランプ、白熱電灯、ハロゲンランプ、水銀灯、蛍光室内灯、懐中電灯、発光ダイオード、タングステンハロゲンランプ、及びキセノン閃光電球が挙げられる。
【0062】
幾つかの実施形態では、組成物は、歯科用材料を塗布する前に硬化される(例えば、従来の光重合技術及び/又は化学重合技術によって重合される)。他の実施形態では、組成物は、歯科用材料を塗布した後に硬化される(例えば、従来の光重合技術及び/又は化学重合技術によって重合される)。幾つかの実施形態では、接着剤組成物は、エナメル質及び象牙質の両方に対する接着を促進することができる。更に、組成物は、エナメル質及び象牙質の両方に対して、エッチング剤、プライマー、及び接着剤として機能するよう配合されてもよい。
【0063】
一旦本発明の接着剤組成物が硬化されると、組成物は、一般的に、容易には除去されない。歯構造体表面に歯科材料を固着させる方法は、好ましくは、実施例に記載される切り欠け付縁部剪断接着試験法に従って試験したとき、少なくとも10MPa、より好ましくは少なくとも15MPa、最も好ましくは少なくとも20MPaでエナメル質又は象牙質(又は好ましくは両方)に固着させる。
【0064】
本発明を以下の実施例によって例示する。特定の実施例、物質、量及び手順が本明細書で記載された本発明の範囲及び趣旨により広く解釈されるべきであることが理解されるべきである。指示がない限り、全ての部及びパーセントは重量基準であり、全ての水は脱イオン水であり、全ての分子量は重量平均分子量である。
【実施例】
【0065】
試験方法
歯の調製:軟組織を含まないウシの切開歯を円形アクリル製ディスクに埋め込んだ。使用前、埋め込まれた歯は、水に入れて冷却装置の中で保存した。試験する接着剤の調製において、埋め込まれた歯は、平坦なエナメル質又は象牙質の表面を露出させるために、宝石研磨ホイールに実装した120グリットのサンドペーパーを用いて研削した。宝石研磨ホイール上の320グリットのサンドペーパーを用いて、歯の表面を更に研削し研磨した。研削プロセス中は、歯を水で連続的にすすいだ。研磨された歯を脱イオン水中で保存し、研磨後8時間以内に試験に使用した。使用前に、歯を36℃のオーブンで室温(23℃)〜36℃に加温した。
【0066】
歯科用接着剤組成物対照B及び実施例4〜6の試験のために、エッチング剤を使用することなく、乾燥している又は唾液でコーティングされている表面に接着剤を塗布した。
歯科用接着剤組成物対照A及び実施例1〜3の試験のために、以下の前処理I及びIIに記載の通りエッチング剤を使用して歯を前処理し、次いで、切り欠け付縁部剪断試験法で試験した。
【0067】
前処理I:320グリットで研磨されたウシのエナメル質又は象牙質表面を風乾させ、次いで、3M ESPEから商品名「Scotchbond」として市販されているエッチング剤を使用して15秒間エッチングした。エッチング剤を水で10秒間すすぎ、歯表面を吸い取って乾燥させ、表面に僅かに水分を残した。
前処理II:前処理Iに記載のようにエッチング剤をすすぎ、歯表面を吸い取って乾燥させた後、Microbrush Superfine Size使い捨てアプリケータを用いて、固着表面全体に唾液の層を塗布した。
【0068】
切断されたエナメル質又は象牙質に対する切り欠け付縁部剪断接着
試験される接着剤の2つのコーティングを(ブラシで塗装することにより)露出している平坦なエナメル質又は象牙質歯表面に塗布し、5秒間風乾させて溶媒を蒸発させ、ハロゲン硬化装置(3M ESPEから商品名「XL3000」として市販されている)を用いて10秒間光硬化させた。直径約2.38mmの円形の穴を有する厚さ2mmのテフロン成形型(例えば、Ultradentから市販されている)を、成形型の穴が接着調製された歯表面の一部を露出させるように、埋め込まれた歯に固定した。硬化性複合材(3M ESPEから商品名「Filtek Z250」として市販されている)を成形型の穴に充填し(穴が完全に充填されるが、過剰充填にはならないように)、ハロゲン硬化装置で光硬化させ、円筒形の円形末端のうちの一方で歯に接着結合した円筒形「ボタン」を形成させる。テフロン成形型を慎重に取り外し、固着した歯表面に結合している複合材ボタンを残す。試験前に、仕上がったサンプルを37℃の脱イオン水中で約24時間保存した。
【0069】
歯表面が押し剪断力の方向と平行になるように、インストロン機器に1つずつサンプルを実装した。半円の切り欠け付縁部を有する金属製取り付け具をインストロンに取り付け、切り欠け付縁部を、歯面と同一表面の、ボタン上に注意深く噛み合わせた。押し剪断力はクロスヘッド速度1mm/分で開始した。固着が失われた力(kg)を記録し、この数字をボタンの既知の表面積を用いて単位面積あたりの力に変換した。4〜5サンプルの平均固着強度をメガパスカル(MPa)で報告した。
【0070】
略称、説明、及び材料供給元
AA−アクリル酸(Sigma−Aldrich)
IBMA−メタクリル酸イソブチル(Sigma−Aldrich)
SiMac−MW約10,000のシリコーンマクロマー(米国特許第4,693,935号(Mazurek)のカラム16における「モノマーC 3b」を製造するために記載されている通り調製される)
BisGMA−2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロイルオキシ−プロポキシ)フェニル]プロパン
HEMA−2−ヒドロキシエチルメタクリレート(Sigma−Aldrich,St.Louis,MO)
GDMA−グリセロールジメタクリレート
UDMA−ジウレタンジメタクリレート(CAS番号41137−60−4)、Rohamere 6661−0(Rohm Tech,Inc.,Malden,MA)として市販
光硬化性アイオノマー−米国特許第5,130,347号の実施例11
光開始剤
CPQ−カンファーキノリン(Sigma−Aldrich)
EDMAB−エチル4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンゾエート(Sigma−Aldrich)
DPIHFP−ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート(Johnson Matthey,Alpha Aesar)
【0071】
6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートの合成:1,6−ヘキサンジオール(1000.00g、8.46モル、Sigma−Aldrich)を、機械的攪拌機及びフラスコ中に乾燥空気を吹き込む細い管を装備した、1Lの3つ口フラスコに入れた。固形のジオールを90℃に加熱し、その温度で固形の全ジオールを融解させた。連続して攪拌しながら、p−トルエンスホン酸結晶(18.95g、0.11mmol)、続いてBHT(2.42g、0.011モル)及びメタクリル酸(728.49.02g、8.46モル)を入れた。攪拌しながら90℃加熱を5時間続け、その間、各0.5時間の反応時間毎に5〜10分間水道水吸引器を用いて真空を適用した。加熱を中止し、反応混合物を室温に冷却した。得られた粘性液体を10%炭酸ナトリウム水溶液で2回(2回、240mL)洗浄し、続いて水(2回、240mL)で洗浄し、最後に100mLの飽和NaCl水溶液で洗浄した。得られた油状物を無水NaSOを用いて乾燥し、次いで真空ろ過で分離し、1067g(67.70%)の黄色油状物である6−ヒドロキシヘキシルメタクリレートを得た。この所望の生成物は、15〜18%の1,6−ビス(メタクリロイルオキシヘキサン)と共に形成された。NMR分析によって化学的特性測定を行った。
【0072】
6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート合成:P(178.66g、0.63モル)及び塩化メチレン(500mL)を、機械的攪拌機を装備した1Lフラスコ中でN雰囲気下にて混合してスラリーを形成した。フラスコを氷浴(0〜5℃)中で15分間冷却した。連続的に攪拌しながら、6−ヒドオキシヘキシルメタクリレート(962.82g、それは3.78モルのモノ−メタクリレートを、上記のようにそのジメタクリレート副生成物と共に含有する)をフラスコに2時間にわたってゆっくりと添加した。添加を完了後、混合物を氷浴中で1時間、次いで室温で2時間攪拌した。BHT(500mg)を添加し、次いで温度を上げて、45分間還流(40〜41℃)した。加熱を中止し、混合物を室温に冷却した。溶媒を真空下で除去して、1085g(95.5%)の黄色油状物である6−メタクリルオキシヘキシルホスフェート(MHP)を得た。NMR分析によって化学的特性測定を行った。
【0073】
出発物質の調製
出発物質1:ジメチルヘキサデシルアンモニウムエチルメタクリレートブロミド(DMAEMA−C16Br)の合成
500mL丸底フラスコに、42.2部のDMAEMA、154.7部のアセトン、93.2部の1−ブロモヘキサデカン(Sigma−Aldrich)、及び0.34部のBHTを入れた。この混合物を16時間、35℃で撹拌した後、室温に冷却した。生じた白色固体沈殿物を、濾過によって分離して、冷酢酸エチルで洗浄し、真空下にて40℃で乾燥させた。固体生成物のNMR解析により、純ジメチルヘキサデシルアンモニウムエチルメタクリレートブロミドの構造が明らかになった。
【0074】
ポリマーA:ポリ(IBMA(60)/AA(20)/DMAEMA−C16Br(20))の調製
IBMA(60部)、AA(20部)、DMA−C16Br(20部)、VAZO−67(1.0部)、及びイソプロパノール(300部)を反応容器内で合わせ、得られた混合物を2分間窒素でパージした。この容器を密閉し、18時間一定温度の回転装置内で60℃に維持した。得られた透明な粘性ポリマー溶液を、本発明の接着剤組成物の調製に利用した。固形分パーセント分析によって、ポリマーAと命名され、かつIBMA(60部)、AA(20部)、及びDMA−C16Br(20部)のポリマーとして同定されている(重量比を括弧内に示す)ポリマーへの定量的変換が明らかになった。
【0075】
ポリマーAに記載した通りポリマーB及びCを調製し、モノマー単位及び重量比と共に以下の通り列記する。
ポリマーB:IBMA(69部)、AA(26部)、DMAEMA−C16Br(5部)
ポリマーC:IBMA(64部)、AA(20部)、DMAEMA−C16Br(12.5部)、及びSiMac(3.5部)
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用組成物を塗布する方法であって、
重合性有機成分及び10固形分重量%以下の接着促進ポリマーを含む歯科用接着剤又はプライマー組成物を提供する工程であって、前記ポリマーが、
極性基又は分極性基を含む繰り返し単位、及び
疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位、を含む、工程と、
前記歯科用接着剤を硬組織表面に塗布する工程と、
前記重合性有機成分を硬化させる工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記硬歯科組織が、エナメル質、象牙質、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硬歯科組織の表面が濡れている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
エッチング剤又はプライマーで表面を前処理することなく、前記接着剤を前記硬組織表面に塗布する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
エッチング剤、プライマー、又はこれらの組み合わせで表面が前処理された前記硬組織表面に前記接着剤を塗布する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーが、6個以下の炭素原子を有する1個以上のカルボン酸に由来する極性基又は分極性基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーがイオン基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記イオン基が四級アンモニウム基を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマーが、8〜22個の炭素原子を有する疎水性炭化水素基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記接着剤組成物が、光硬化性アイオノマーを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記光硬化性アイオノマーが、ペンダントイオン基及びペンダントフリーラジカル重合性基を含み、前記重合性基のうちの少なくとも1つが、アミド結合によって前記アイオノマーに連結する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アイオノマーが、カルボキシル基及び(メタ)アクリレート基を含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記接着促進ポリマーが、ペンダントエチレン性不飽和部分を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記重合性有機成分が、少なくとも1つの(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリルオリゴマー、(メタ)アクリルポリマー、又はこれらの混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記歯科用接着剤組成物が、無機充填成分を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも10重量%の、酸官能基を有するエチレン性不飽和化合物を含む重合性有機成分と、
10重量%以下の接着促進ポリマーと、を含む歯科用接着剤組成物であって、前記ポリマーが、
極性基又は分極性基を含む繰り返し単位、及び
疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位、
を含む、組成物。
【請求項17】
前記接着剤組成物が、光硬化性アイオノマーを更に含む、請求項16に記載の歯科用接着剤組成物。
【請求項18】
少なくとも1つの光硬化性アイオノマーを含む重合性有機成分と、
10重量%以下の接着促進ポリマーと、を含む歯科用接着剤組成物であって、前記ポリマーが、
極性基又は分極性基を含む繰り返し単位、及び
疎水性炭化水素基を含む繰り返し単位、
を含む、組成物。
【請求項19】
前記光硬化性アイオノマーが、ペンダントイオン基及びペンダントフリーラジカル重合性基を含み、前記重合性基のうちの少なくとも1つが、アミド結合によって前記アイオノマーに連結する、請求項17又は18に記載の歯科用接着剤組成物。
【請求項20】
前記光硬化性アイオノマーが、カルボキシル基及び(メタ)アクリレート基を含む、請求項17〜19のいずれか一項に記載の歯科用接着剤組成物。
【請求項21】
前記ポリマーが、6個以下の炭素原子を有するカルボン酸に由来する極性基又は分極性基を含む、請求項17〜20のいずれか一項に記載の歯科用接着剤組成物。
【請求項22】
前記ポリマーがイオン基を含む、請求項16〜21のいずれか一項に記載の歯科用接着剤組成物。
【請求項23】
前記イオン基が四級アンモニウム基である、請求項22に記載の歯科用接着剤組成物。
【請求項24】
前記ポリマーが、8〜22個の炭素原子を有する疎水性炭化水素基を含む、請求項16〜23のいずれか一項に記載の歯科用接着剤組成物。
【請求項25】
前記接着促進ポリマーが、ペンダントエチレン性不飽和部分を含まない、請求項16〜24のいずれか一項に記載の歯科用接着剤組成物。
【請求項26】
前記重合性有機成分が、少なくとも1つの(メタ)アクリルモノマー、(メタ)アクリルオリゴマー、(メタ)アクリルポリマー、又はこれらの混合物を含む、請求項16〜25のいずれか一項に記載の歯科用接着剤組成物。
【請求項27】
前記歯科用接着剤組成物が、無機充填成分を更に含む、請求項16〜26のいずれか一項に記載の歯科用接着剤組成物。

【公表番号】特表2012−526817(P2012−526817A)
【公表日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−510859(P2012−510859)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際出願番号】PCT/US2010/033872
【国際公開番号】WO2010/132270
【国際公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】