説明

接着剤液の塗布方法

【課題】ノズル径が小さいインクジェット記録装置を用いて接着剤液を薄膜塗布することにより、必要箇所にのみ接着剤液を設けることができる接着剤液の塗布方法を提供する。
【解決手段】基材にインクジェット塗布方法で付与する接着剤液の塗布方法において、該接着剤液は主剤及び硬化剤から構成され、それぞれ有機溶媒で希釈、混合した溶液で、インクジェット記録ヘッドからの射出温度における粘度が0.9〜20mPa・sで、該基材は下式(1)を満たす下引き剤がいずれか一方の面に付与され、該下引き剤が付与された面に対する該接着剤液の後退接触角が0〜15度で、該インクジェット塗布方法が、ノズルプレート、圧力室、圧力発生素子、電圧印加手段及び静電力を用いた電界印加手段を有するインクジェット記録装置を用いて該基材上に該接着剤液を付与する方法であることを特徴とする接着剤液の塗布方法。 式(1):γ接着剤液/γ水>θ接着剤液/θ水

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置による接着剤液の塗布方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器の小型化、高機能化、多機能化等を達成するための手段として、半導体チップ等の小型化が図られており、高密度な実装が望まれている。そのため、半導体チップを接合するための接着剤に関しても、塗膜の薄膜化が必要とされている。現在、半導体チップの接合には、ダイボンドペーストやダイボンドフィルムが用いられているが、フィルムを用いた場合では、得られる厚みが数十μmレベルであり、依然として薄膜化への余地があると思われる。
【0003】
一方、接着剤を含む液体をインクジェット記録装置で射出することは既に知られている。しかし、接着剤を薄膜化するという観点での射出方法についてはほとんど開示されていない。さらには、ピエゾ等の圧力発生素子に電圧を印加する電圧印加手段、及び静電力を用いた電界印加手段を有するインクジェット装置を用いて、接着剤液を微小液滴として安定に射出する方法に関しては全く開示がなされていない。
【0004】
その中で、例えば、特許文献1及び特許文献2において、ダイボンド(チップの接合)用の接着剤を、ディスペンサーを用いて液滴状態で塗布し、接合の際にその液滴を押しつぶして薄膜化を図っている方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記提案されている方法では、余分な接着剤を逃がすために、凹部やホールを設ける必要があり、また、滴滴量や液滴の濡れ広がりを考慮した液滴配置を考える必要もあり、接着剤付与方法として極めて煩雑な方法である。
【特許文献1】特許第3992038号公報
【特許文献2】特開2007−194658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、ノズル径が小さいインクジェット記録装置を用いて接着剤液を薄膜塗布することにより、必要箇所にのみ接着剤液を設けることができる接着剤液の塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0008】
1.基材にインクジェット塗布方法により接着剤液を付与する接着剤液の塗布方法において、
該接着剤液は主剤及び硬化剤から構成され、該主剤及び硬化剤をそれぞれ有機溶媒で希釈、混合した溶液で、かつインクジェット記録ヘッドからの射出温度における粘度が0.9mPa・s以上、20mPa・s以下であり、
該基材は、下式(1)で規定する条件を満たす下引き剤がいずれか一方の面に付与されており、かつ該下引き剤が付与された面に対する該接着剤液の後退接触角が0度以上、15度以下であり、
該インクジェット塗布方法が、吐出孔を有するノズルプレート、吐出孔に連通する圧力室、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子、圧力発生素子に電圧を印加する電圧印加手段、及び静電力を用いた電界印加手段を有するインクジェット記録装置を用いて該基材上に該接着剤液を付与する方法であることを特徴とする接着剤液の塗布方法。
【0009】
式(1)
γ接着剤液/γ水>θ接着剤液/θ水
〔式中、γ接着剤液、γ水は、30℃におけるそれぞれの液体の表面張力(mN/m)を表し、θ接着剤液、θ水は、30℃におけるそれぞれの液体の下引き剤が付与された面に対する静的接触角(rad(θ≠0))を表す。〕
2.前記接着剤液の希釈に用いる前記有機溶媒の少なくとも1種が、沸点が150℃以上、250℃以下の有機溶媒であることを特徴とする前記1に記載の接着剤液の塗布方法。
【0010】
3.前記接着剤液の希釈に用いる前記有機溶媒が、沸点が150℃以上、250℃以下の有機溶媒と、沸点が100℃以上、150℃未満の有機溶媒をそれぞれ少なくとも1種類含むことを特徴とする前記1に記載の接着剤液の塗布方法。
【0011】
4.前記接着剤液は、電気伝導度が0.1μS/cm以上であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の接着剤液の塗布方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、ノズル径が小さいインクジェット記録装置を用いて接着剤液を薄膜塗布することにより、必要箇所にのみ接着剤液を付与することができ、高精細で、塗布ムラが少ない接着剤液の薄膜を安定に形成できる接着剤液の塗布方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0014】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、基材にインクジェット塗布方法により接着剤液を付与する接着剤液の塗布方法において、該接着剤液は主剤及び硬化剤から構成され、該主剤及び硬化剤をそれぞれ有機溶媒で希釈、混合した溶液で、かつインクジェット記録ヘッドからの射出温度における粘度が0.9mPa・s以上、20mPa・s以下であり、該基材は、前記式(1)で規定する条件を満たす下引き剤がいずれか一方の面に付与されており、かつ該下引き剤が付与された面に対する該接着剤液の後退接触角が0度以上、15度以下であり、該インクジェット塗布方法が、吐出孔を有するノズルプレート、吐出孔に連通する圧力室、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子、圧力発生素子に電圧を印加する電圧印加手段、及び静電力を用いた電界印加手段を有するインクジェット記録装置を用いて該基材上に該接着剤液を付与する方法であることを特徴とする接着剤液の塗布方法により、必要箇所にのみ接着剤液を付与することができ、高精細で、塗布ムラが少ない接着剤液の薄膜を安定に形成できる接着剤液の塗布方法を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0015】
すなわち、本発明の接着剤液の塗布方法は、インクジェット記録装置を用いて、特定の粘度特性を備えた二液混合型の接着剤液を、特定のぬれ特性を備えた下引き剤を有する基材上に射出塗布することを特徴とするものである。
【0016】
本発明に係る接着剤液としては、二液型接着剤であれば特に制限はないが、エポキシ系接着剤等を有機溶媒で希釈したものであることが好ましく、この様なエポキシ系接着剤としては、例えば、市販のエポキシ系接着剤を、適当な有機溶媒で希釈したものを用いても構わない。
【0017】
本発明者らは、インクジェット記録装置を用いて、シリコンウェハーに直接、接着剤液の薄層を塗布する方法について検討を進める過程で、接着剤液を付与した後に接着剤溶液がシリコンウェハー上で液寄りを起こし、均一な接着剤塗膜を形成することができず、薄膜化が困難であることが判明した。そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、シリコンウェハーにシランカップリング剤などの下引き剤を塗布し、そこへ接着剤液を付与することにより、接着剤液の液寄りの発生を防ぐことができることを見出した。しかしながら、下引き剤を選定する過程で、下引き剤に対し接着剤液が濡れにくいときは、下引き剤が塗布されていないときと同様の液寄りが発生してしまうため、下引き剤の選定が、安定して均一な接着剤薄膜を形成する上において、極めて重要な要素であることが判明した。引き続き検討を進めた結果、本発明で規定するように、接着剤液に適した下引き剤を適切に選定するにより、接着剤液の塗布ムラをなくすことができ、接着剤液の薄膜化が可能になった。
【0018】
一般に、微小液滴を安定に吐出するインクジェット記録装置として、吐出孔を有するノズルプレート、吐出孔に連通する圧力室、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子、圧力発生素子に電圧を印加する電圧印加手段及び静電力を用いた電界印加手段とを有するインクジェット記録装置が知られている。このような電圧印加手段と電界印加手段とを用いた吐出方式のインクジェット記録装置を、本発明の接着剤液の塗布方法の付与手段とし適用することにより、より精密に接着剤液の薄膜を形成することができ、本発明に至った次第である。
【0019】
以下、本発明の接着剤液の塗布方法の詳細について、更に説明する。
【0020】
〔接着剤液〕
本発明に係るインクジェット記録装置で射出を行う本発明に係る接着剤液は、主剤及び硬化剤から構成される二液型接着剤であれば特に制限はないが、エポキシ系樹脂等を有機溶媒で希釈したものであることが、本発明の目的とする効果を安定して発揮できる観点から好ましい。
【0021】
また、エポキシ系樹脂が用いられている市販のエポキシ接着剤を、インクジェット記録装置での射出が可能になる粘度まで有機溶媒で希釈して用いても良い。本発明においては、基材上に塗布した後の乾燥性、接着力等を考慮すると、出来る限り有機溶媒の比率は低い方が好ましい。
【0022】
一般に、市販のエポキシ系接着剤を用いる際、沸点が150℃未満の有機溶媒(例えば、トルエン/メタノールの混合溶媒系)のみが用いられている商品を使用している有機溶媒で射出可能な粘度まで希釈して使用しても、これらの有機溶媒は乾燥性が高いため、ノズルが詰まってしまうなどの問題を発生させることがあり、使用は困難である。
【0023】
本発明においては、主剤と硬化剤がそれぞれ独立して構成される二液型接着剤を希釈して用いることが、射出に適正な粘度やポットライフを確保する上では好ましい。
【0024】
これらの二液型接着剤では、主剤及び硬化剤を有機溶媒で希釈した後、混合して接着剤液として用いるが、混合後は有機溶媒で希釈し低濃度状態にはなっているが、インクタンク内やインクジェット記録ヘッド内では硬化が確実に進行するため、インクジェット記録ヘッドからの吐出直前に、主剤と硬化剤を混合して用いることが、射出安定性及びポットライフの観点からより好ましい。
【0025】
具体的な方法としては、インクジェットでの射出を行う直前に、
1)主剤を所定量の有機溶媒で希釈した液に、硬化剤を添加、混合して所望の粘度に調整した接着剤液を調製した後、直ちにインクジェット記録ヘッドより射出して、基材上に接着剤液薄膜を形成する方法、
2)インクジェット記録ヘッドに連結した主剤調製用及び硬化剤調製用の各タンク中で、主剤、硬化剤のそれぞれを有機溶媒で希釈した後、両希釈液を、インクジェット記録ヘッド内のインク室に独立して導入、混合して接着剤液とし、インクジェット記録ヘッドより射出して、基材上に接着剤液薄膜を形成する方法、
3)インクジェット記録ヘッドに連結した各タンク中で、独立して主剤、硬化剤、希釈用有機溶媒を貯蔵し、各タンクより所定量の各材料をインクジェット記録ヘッド内のインク室に独立して導入、混合して接着剤液とし、インクジェット記録ヘッドより射出して、基材上に接着剤液薄膜を形成する方法、
等が挙げられるが、好ましくは、インクジェット記録ヘッドのインク室内で、射出直前に主剤と硬化剤を混合して接着剤溶液を調製する2)項、3)項に記載の方法が好ましい。
【0026】
また、インク室内で主剤と硬化剤を混合して接着剤溶液を調製する方法においては、接着剤溶液が吐出しない程度の圧力波をインク室内に印加して、接着剤溶液に振動を付与することにより、各構成液の均一な混合を促進する方法も好ましい。
【0027】
本発明に適用可能な市販の二液型のエポキシ系接着剤の例としては、エポキシテクノロジー社製のエポテック301、301−2、301−2FL、302、302−3M、305、310、314、320、330、354、360、377、353ND、353ND BLACK、353ND−4、353ND−T、OE188などが挙げられる。
【0028】
また、本発明の接着剤の塗布方法においては、接着剤液を射出するのに用いるインクジェット記録装置が、静電力を用いた電界印加手段を有することを特徴の一つとする。
【0029】
この電界印加手段(詳細については後述する)は、記録ヘッドと基材間に電界を形成し、ノズルより吐出する微小な接着剤液滴を安定に飛翔させる方法であるが、この電界印加手段による飛翔安定化の効果を発揮させる観点から、接着剤液の希釈に用いる有機溶媒の誘電率が20以上であることが好ましい。有機溶媒の誘電率が20以上であれば、電界を用いて、接着剤液の微小液滴を基材上に着弾させるときの精度が上昇し、不必要な場所への着弾を減らすことができる。
【0030】
本発明でいう誘電率の測定方法としては、インピーダンス測定装置を用いて測定することが可能であり、具体的な測定装置としては、例えば、「4284AプレシジョンLCRメーター(ヒューレット・パッカード社製)」等が代表的なものである。
【0031】
また、希釈に用いる有機溶媒の沸点が150℃以上であれば、ノズル近傍(メニスカス部)での有機溶媒の乾燥が起こりにくくなり、ノズル内の液物性の変化や吐出休止直後の液滴の吐出速度の遅れによるデキャップが発生しにくくなる。
【0032】
一方、沸点が150℃以上の有機溶媒のみを接着剤液の希釈有機溶媒として用いた場合、基材へ描画後の乾燥性があまり良くないことが懸念される。乾燥性が良くないと、描画後の接着剤薄膜を形成した後の接着剤液を含む未乾燥の溶媒が移動してしまい、均一な接着剤液薄膜を形成することが困難になってくる。
【0033】
これらを防止するためは、沸点が100℃以上、150℃未満の低沸点有機溶媒Bを併せて用いることが、描画後の乾燥を速め、塗布ムラを制御する方法が好ましい。
【0034】
接着剤溶液を構成する有機溶媒としては、沸点が150℃以上、250℃以下の高沸点有機溶媒Aと、沸点が100℃以上、150℃未満の低沸点有機溶媒Bとの質量比率(A:B)としては、40:60〜90:10の範囲とすることが好ましい。高沸点有機溶媒Aの比率が総有機溶媒量の40質量%以下になると、乾燥性が高くなってしまい、射出時のデキャップ性が悪化することが懸念される。また、低沸点有機溶媒Bの比率が総有機溶媒量の10質量%以下になると、塗布ムラ改善の効果が発現しないことが懸念される。
【0035】
本発明に適用可能な沸点が150℃以上、250℃以下の高沸点有機溶媒Aの例としては、エチレングリコール、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコール、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶媒、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコールエーテルアセテート系溶媒、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトンなどの環状エステル系溶媒等が挙げられる。特に、炭酸プロピレンやγ−ブチロラクトンは、粘度や誘電率、ポットライフの観点からも使用することが好ましい。
【0036】
本発明に適用可能な沸点が100℃以上、150℃未満の低沸点有機溶媒Bとしては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、トルエン、キシレン、酢酸ブチル、1−ブタノールなどが挙げられる。
【0037】
〔接着剤液の物性〕
本発明に係るインクジェット記録装置で射出を行う接着剤液は、射出温度における粘度が0.9mPa・s以上、20mPa・s以下であることを一つの特徴とする。更には、2mPa・s以上、10mPa・s以下であることが射出安定性の観点から好ましく、3mPa・s以上、7mPa・s以下が最も好ましい。本発明で言う接着剤液の粘度(mPa・s)は、従来公知の粘度計、例えば、振動式粘度計(VISCOMATE VM−1G−MH、YAMAICHI.CO.LTD製)を用いて求めることができる。
【0038】
本発明に係る接着剤液においては、表面張力は20mN/m以上、60mN/m以下好ましい。更には射出安定性の観点から30mN/m以上、50mN/m以下が好ましい。本発明で言う接着剤液の表面張力(mN/m)の測定方法は一般的な界面化学、コロイド化学の参考書等において述べられているが、例えば、新実験化学講座第18巻(界面とコロイド)、日本化学会編、丸善株式会社発行:P.68〜117を参照することができ、例えば、ビック・マリンクロット・インターナショナル社製、ダイノメーター、表面張力計(協和界面科学製:CBVP−Z)等を用いて測定することができる。
【0039】
本発明に係る接着剤液の電気伝導度は、25℃において0.1μS/cm以上、1000μS/cm以下が好ましいが、描画性の観点から、1μS/cm以上、500μS/cm以下が更には好ましい。接着剤液の電気伝導度の測定は、JIS K 0130(1995)に記載の方法に示されるような方法に従って容易に行うことができる。
【0040】
〔基材〕
本発明に係る接着剤液を用いて薄膜を形成するのに用いる基材としては、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム等の樹脂フィルム、ガラス−エポキシ基板、シリコン基板、セラミックス基板、ガラス基板等が挙げられる。半導体チップ等への応用を考えると、シリコン基板がより好ましい。
【0041】
本発明で用いられる樹脂フィルムの材質としては、特に限定はないが、例えば、ポリエステル系フィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリカーボネート系フィルム、ポリアリレート系フィルム、ポリスルホン(例えば、ポリエーテルスルホンも含む)系フィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレンビニルアルコールフィルム、シンジオタクティックポリスチレン系フィルム,ポリカーボネートフィルム、シクロオレフィンポリマーフィルム(アートン(JSR製)、ゼオネックス、ゼオネア(以上、日本ゼオン製))、ポリエーテルスルフォンフィルム、ポリスルホン系フィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、ポリエーテルケトンイミドフィルム、ポリアミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ナイロンフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリアクリレート系フィルム、ポリアリレート系フィルム等を挙げることができる。また、これらの素材を主成分とする異なる材質のフィルムを積層したフィルムであってもよい。
【0042】
〔下引き剤〕
本発明に係る基材では、少なくとも一方の面に下引き剤が付与されていることを特徴の一つとする。
【0043】
特に、基材としてシリコン基板やガラス基板などを用いる場合には、塗設する接着剤液の塗布ムラを防ぐために、基材上にシランカップリング剤やチタンカップリング剤等の下引き剤の塗布を行うことが好ましい。その際、基材とその上に設ける下引き剤層との密着性を高める観点から、基材表面にプラズマ処理、コロナ放電処理、火炎処理、オゾン処理、プライマー処理、紫外線処理、放射線処理、粗面化処理、化学薬品処理を施すことが好ましい。
【0044】
本発明で用いることのできるシランカップリング剤とは、シランに加水分解性のあるアルコキシ基などの親水性基と疎水性の官能基を持つ側鎖が結合している化合物のことを示す。例えば、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシラン、トリメチルクロルシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、メチルトリクロルシラン、アリルジメチルクロルシラン、アリルフェニルジクロルシラン、ベンジルジメチルクロルシラン、ブロムメチルジメチルクロルシラン、α−クロルエチルトリクロルシラン、β−クロルエチルトリクロルシラン、クロルメチルジメチルクロルシラン、トリオルガノシリルメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジフェニルテトラメチルジシロキサン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3,4−エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、メルカプトプロピルトリメトキシシラン及び1分子当たり2〜12個のシロキサン単位を有し、末端に位置する単位にそれぞれ1個の硅素原子に結合した水酸基を有したジメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0045】
チタンカップリング剤とは、チタンに加水分解性のあるアルコキシ基などの親水性基と疎水性の官能基を持つ側鎖が結合している化合物のことを示す。例えば、味の素ファインテクノ製のプレンアクトシリーズ(KR38S、KR44、KR46B、KR55、KR9SA、KR TTS、KR 41B、KR 41BK、KR 138S、KR 238S、KR 338X等)が挙げられる。
【0046】
下引き剤を基材に付与する方法としては、特に限定されないが、例えば、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー方式、バーコート法、スピンコート法、刷毛による方法等を挙げることができる。更には、本発明の接着剤液の塗布に適用するのと同様のインクジェット記録装置を用いて、下引き層を形成することも出来る。
【0047】
本発明の接着剤液の塗布方法においては、本発明に係る接着剤液の液物性値(表面張力、静的接触角)と基材上に設けた下引き層の表面特性との関係が、下式(1)規定する条件を満たすことを、一つの特徴とする。
【0048】
式(1)
γ接着剤液/γ水>θ接着剤液/θ水
上記式(1)において、γ接着剤液、γ水は、30℃における接着剤液、水の表面張力(mN/m)を表し、θ接着剤液、θ水は、30℃における接着剤液、水の下引き剤が付与された面に対する静的接触角(rad(θ≠0))を表す。
【0049】
例えば、基材上に設けた下引き剤が、γ接着剤液/γ水<θ接着剤液/θ水の関係をとった場合には、基材上に接着剤液を塗布した後、接着剤液が液寄りを起こしやすくなり、塗布ムラが起こりやすくなる傾向になる。このため、使用する接着剤液の液特性(表面張力、静的接触角)に対し、上記式(1)で規定する条件を満たす下引き剤を基材上の設けることが重要である。
【0050】
本発明でいう表面張力は、静的表面張力を意味し、例えば、化学大辞典(化学大事典編集委員会編 共立出版社)第7巻の543〜544ページに記載されている通りのものであり、本発明においては、各溶液(接着剤液、水)と大気間との表面張力をいう。
【0051】
本発明において、表面張力の測定に用いる計測装置としては、例えば、協和界面化学株式会社製自動表面張力計CBVP−Z型などが挙げられる。
【0052】
また、本発明でいう静的接触角とは、試験液体の液滴を基材上に滴下したとき、静止している液滴が、基材表面と成す角度を意味する。
【0053】
具体的な測定方法としては、検液として接着剤液、水を用い、接触角計(CA−DT、協和界面科学(株)製)により、2mgの質量の検液を基材上に滴下して静的接触角を測定する。
【0054】
また、本発明の接着剤液の塗布方法においては、下引き剤が付与された基材面に対する接着剤液の後退接触角が0度以上、15度以下であることを一つの特徴とする。下引き剤に対する接着剤液の後退接触角が15度を超えると、接着剤液の密着性が良くないため、着弾後、他の未乾燥状態の接着剤液滴と会合を起こしやすくなるため、均一な厚みを持つ接着剤液薄膜を形成することが困難になるためである。
【0055】
一般的に、接着剤液滴が基材上で移動を開始すると静的接触角θが消滅して、前進接触角θaと後退接触角θrが現れ、これらの接触角は動的接触角と呼ばれている。接着剤液滴に作用する表面張力の大きさは、接着剤液滴を進める方向にσcosθa、接着剤液滴の移動を妨げる方向にσcosθrとなる。前進接触角θaは、まだ接着剤液滴で濡れていない基材表面に対する接触角であり、後退接触角θrは、既に接着剤液で濡れた基材表面に対する接触角であるので、常にθa>θrが成立する。接着剤液滴に外力が作用して移動を開始し、θaとθrが現れると、その時、接着剤液滴には、液滴の移動を妨げる方向にσcosθr−σcosθaの力が働き、これが、液滴の移動を妨げる力となる。
【0056】
本発明に係る動的接触角の測定は、例えば、協和界面科学(株)製接触角計CA−X型を用いて、付属マクロシリンジによって、初期液滴量=15μl、吸引速度=5μl/secの条件で、基材上に形成した下引き層表面上に、検液として接着剤液を用い、接着剤液が縮小するときの接触角を測定することにより、後退接触角θrを求めることができる。
【0057】
更に、図を用いて、後退接触角について具体的に説明する。
【0058】
図1は、本発明に係る後退接触角の測定方法の一例を示す概略図である。
【0059】
動的接触角を測定する方法には、大きく分けて、つり下げ平板法と液滴法とがある。つり下げ平板法は、容器内に溜めた液体中に固体平面板を垂直に浸漬して測定するものであり、ウィルヘルミ・プレート法(Wilhelmy Plate法)などはつり下げ平板法に属する。液滴法は、基材の水平面に適当量の液滴を付与し、基材と接着剤液滴とのなす角を測定するものである。液滴法はつり下げ平板法に比べ、液体試料の量が少なくて済む、基材の形状に制約が少ない等の利点を有し、本発明に係る後退接触角を測定する上で好ましい。
【0060】
図1は、後退接触角θrを説明するための図であり、ガラス毛細管Cの先端から表面に下引き剤層を有する基材A上の接着剤微小液滴Dを一定流量で引き込みながら収縮させてその接触角を測定することにより、後退接触角θrを測定する。
【0061】
接着剤微小液滴の形状が球体の一部をなす形状である場合、後退接触角θrは微小液滴の接触面直径Lr及び高さHrより、
θr=2tan−12Hr/Lrで求められる。
【0062】
ここでは後退接触角θrを液滴法、特に拡張収縮法で求めることとしたが、他の方法で測定しても良い。
【0063】
〔インクジェット記録装置〕
本発明の接着剤液の塗布方法においては、本発明に係る接着剤液を、吐出孔を有するノズルプレート、吐出孔に連通する圧力室、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子、圧力発生素子に電圧を印加する電圧印加手段、及び静電力を用いた電界印加手段を有するインクジェット記録装置を用いて該基材上に付与する方法であることを特徴とする。
【0064】
以下、本発明に係るインクジェット記録装置の構成について説明する。
【0065】
(インクジェット記録装置の概要)
以下、本発明に係るインクジェット記録装置の実施形態の一例について、図面を参照して説明する。
【0066】
図2は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の内部構成を示す斜視図である。本実施形態におけるインクジェット記録装置100は、底板1と、水平ガイドレール2を下方から所定高さ位置で支持するガイドレール支持台3を備えている。水平ガイドレール2は、垂直ガイドレール6を介してキャリッジ7を支持しており、垂直ガイドレール6とキャリッジ7は、一体となって、図示しない移動機構により所定の搬送方向である水平な主走査方向Xに、水平ガイドレール2に沿って往復移動するようになっている。また、キャリッジ7は、図示しない移動機構により垂直方向Zに、垂直ガイドレール6に沿って往復移動するようになっている。
【0067】
底板1には、図示しない基材を非記録面側から支持する支持台4と、インクジェット記録ヘッド8のメンテナンスを行うメンテナンス装置5とが、水平ガイドレール2の長手方向に並んで配設されている。支持台4は、図示しない搬送機構により主走査方向Xと直交する副走査方向Yに、記録媒体を搬送するものである。
【0068】
また、支持台4は、静電吸引力により接着剤液を吐出させるいわゆる電界印加手段(以下、電界アシスト法ともいう)の電極としての機能を具備する。
【0069】
キャリッジ7には、本発明に係る接着剤液を下引き剤を表面に有する基材に対して吐出するインクジェット記録ヘッド8が搭載されている。
【0070】
インクジェット記録ヘッド8の内部には、主剤、硬化剤及び有機溶媒により構成される接着液を吐出する複数のノズルが副走査方向Yに沿って列状に設けられており、インクジェット記録ヘッド8の基材と対向する面は、これらノズルの接着剤液吐出口が形成された接着剤液吐出面となっている。接着剤液吐出面には、接着剤液が付着し難いように、フッ素加工処理を施す等、撥水処理が施されていることが好ましい。
【0071】
インクジェット記録ヘッド8のノズルには、例えば、アクチュエータとして電圧を印加することにより変形する圧電素子としてのピエゾ素子(図示せず)が付設されている。このピエゾ素子に駆動電圧を印加することによってピエゾ素子を変形させ、図示しない接着剤液流路を圧縮してノズルの接着剤液吐出口から接着剤液を吐出させるようになっている。なお、ノズルの先端部では接着剤液がノズルの外側に突出するように曲面形状(メニスカス)を形成するようになっており、このメニスカスの形状が正常に整えられていると正常な接着剤液吐出を行うことができるようになっている。
【0072】
本発明に係るインクジェット記録ヘッドは、オンデマンド方式でもコンティニュアス方式でも構わない。また吐出方式としては、電気−機械変換方式(例えば、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型、シェアードウォール型等)、電気−熱変換方式(例えば、サーマルインクジェット型、バブルジェット(登録商標)型等)等などいずれの吐出方式を用いても構わない。
【0073】
その他、本発明に適用可能なインクジェット記録装置には、接着剤液供給路を介して、インクジェット記録ヘッド8に接着剤液を供給する接着剤液タンク(図示せず)が設けられている。また、接着剤液供給路の途中には、接着剤液タンクから記録ヘッド8に対して接着剤液を送液する送液ポンプが設けられている。
【0074】
(接着剤液の供給方法)
図3は、インクジェット記録ヘッドへの接着剤液の各構成材料を供給する方法の一例を示す概略図である。
【0075】
図3のa)において、11はインクジェット記録ヘッド、12は硬化剤タンク、13は主剤タンク、14は有機溶媒タンク、15はドレインタンク、16は主剤、硬化剤及び有機溶媒からなる接着剤液を、フィルタFを経てインクジェット記録ヘッド11へ供給する接着剤液供給路、17はインクジェット記録ヘッド11からドレインタンク15へ向かう廃液路、V1〜V6はそれぞれ流路を開閉するバルブ、P1〜P3は送液ポンプである。
【0076】
インク供給路7には、該インク供給路7に設けられた2つのバルブV2及びV8の間から分岐流路10が分岐している。C1はインク供給路7と分岐流路10との接続部である。分岐流路10の端部は液体の排出端とされ、ドレインタンク5に接続されている。
【0077】
本発明に係るインクジェット記録ヘッド11への接着剤液の充填方法としては、はじめに、バルブV1〜V3及びV6を開き、ポンプP3より有機溶媒タンク14に貯蔵している有機溶媒の所定量を接着剤液供給路16に供給する。次いで、バルブV5を開き、ポンプP2より主剤タンク13に貯蔵している主剤の所定量を接着剤液供給路16に供給し、有機溶媒との会合位置で、ミキサーM2により二液を均一に混合する。次いで、バルブV4を開き、ポンプP1より硬化剤タンク12に貯蔵している硬化剤の所定量を接着剤液供給路16に供給し、主剤及び有機溶媒との会合位置で、ミキサーM1により二液を均一に混合した後、接着剤液供給路16、フィルタFを経て、インクジェット記録ヘッド11に接着剤液を供給する。インクジェット記録ヘッド11の圧力室内の気泡等を取り除くため、初期導入時の接着液を、廃液路17を経て、ドレインタンク15に送液する。
【0078】
インクジェット記録ヘッド11内で均一状態で接着液が充填されたことを確認した後、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子、圧力発生素子に電圧を印加する電圧印加手段、及び静電力を用いた電界印加手段を作動させて、インクジェット記録ヘッド11の底面に設けたノズルより、下引き剤19を表面に有する基材18上に接着剤液を吐出して、接着剤薄膜20を形成する。
【0079】
図3のb)に記載の方法は、上記図3のa)に記載の方法に対し、有機溶媒に所定量の主剤を添加して、希釈した主剤/有機溶媒を予め調製し、これを主剤/有機溶媒タンク21に貯蔵して供給する方法である。
【0080】
また、図3のc)に記載の方法は、上記図3のb)に記載の方法に対し、更に硬化剤に所定量の有機溶媒を添加して、希釈した硬化剤/有機溶媒を予め調製し、これを硬化剤/有機溶媒タンク22に貯蔵して供給する方法である。
【0081】
上記各供給方法に対し、図3のd)に示す方法は、硬化剤、主剤、有機溶媒をそれぞれ硬化剤タンク12、主剤タンク13、有機溶媒タンク14に貯蔵した後、それぞれを供給路23、24、25、フィルタFを経て、直接インクジェット記録ヘッド11に導入した後、インクジェット記録ヘッド11内で混合する方法である。
【0082】
(静電力を利用した電界印加手段)
図4は、本発明に好ましく用いられる静電吸引方式の電界印加手段の全体構成を示す断面図である。なお、本発明に係るインクジェット記録ヘッド402は、いわゆるシリアル方式あるいはライン方式等の各種の液体吐出装置に適用可能である。
【0083】
本実施形態の電界印加手段401は、帯電可能な接着剤液Lの液滴Dを吐出するノズル410が形成された液体吐出ヘッド402と、液体吐出ヘッド402のノズル410に対向する対向面を有すると共にその対向面で液滴Dの着弾を受ける基材Kを支持する対向電極403とを備えている。
【0084】
インクジェット記録ヘッド(以下、液体吐出ヘッドともいう)402の対向電極403に対向する側には、複数のノズル410を有する樹脂製のノズルプレート411が設けられている。液体吐出ヘッド402は、ノズルプレート411の対向電極403に対向する吐出面412からノズル410が突出されない、あるいはノズル410が30μm程度しか突出しないフラットな吐出面を有するヘッドとして構成されている。
【0085】
各ノズル410は、ノズルプレート411に穿孔されて形成されており、各ノズル410には、それぞれノズルプレート411の吐出面412に吐出孔413を有する小径部414とその背後に形成されたより大径の大径部415との2段構造とされている。本実施形態では、ノズル410の小径部414および大径部415は、それぞれ断面円形で対向電極側がより小径とされたテーパ状に形成されており、小径部414の吐出孔413の内部直径(以下、ノズル径という。)が例えば10μm、大径部415の小径部414から最も離れた側の開口端の内部直径が、例えば75μmとなるように構成されている。
【0086】
ノズルプレート411の吐出面412と反対側の面には、例えばNiP等の導電素材よりなりノズル410内の液体Lを帯電させるための帯電用電極416が層状に設けられている。本実施形態では、帯電用電極416は、ノズル410の大径部415の内周面417まで延設されており、ノズル内の接着剤液である液体Lに接するようになっている。
【0087】
また、帯電用電極416は、静電吸引力を生じさせる静電電圧を印加する静電電圧印加手段としての帯電電圧電源418に接続されており、単一の帯電用電極416が全てのノズル410内の液体Lに接触しているため、帯電電圧電源418から帯電用電極416に静電電圧が印加されると、全ノズル410内の液体Lが同時に帯電され、液体吐出ヘッド402と対向電極403との間、特に液体Lと基材Kとの間に静電吸引力が発生されるようになっている。
【0088】
帯電用電極416の背後には、ボディ層419が設けられている。ボディ層419の各ノズル410の大径部415の開口端に面する部分には、それぞれ開口端にほぼ等しい内径を有する略円筒状の空間が形成されており、各空間は、吐出される液体Lを一時貯蔵するためのキャビティ420とされている。
【0089】
ボディ層419の背後には、可撓性を有する金属薄板やシリコン等よりなる可撓層421が設けられており、可撓層421により液体吐出ヘッド402が外界と画されている。
【0090】
なお、ボディ層419には、キャビティ420に液体Lを供給するための図示しない流路が形成されている。具体的には、ボディ層419としてのシリコンプレートをエッチング加工してキャビティ420、共通流路、および共通流路とキャビティ420とを結ぶ流路が設けられており、共通流路には、外部の図示しない液体タンクから液体Lを供給する図示しない供給管が連絡されており、供給管に設けられた図示しない供給ポンプにより或いは液体タンクの配置位置による差圧により流路やキャビティ420、ノズル410等の液体Lに所定の供給圧力が付与されるようになっている。
【0091】
可撓層421の外面の各キャビティ420に対応する部分には、それぞれ圧力発生手段としての圧電素子アクチュエータであるピエゾ素子422が設けられており、ピエゾ素子422には、素子に駆動電圧を印加して素子を変形させるための駆動電圧電源423が接続されている。ピエゾ素子422は、駆動電圧電源423からの駆動電圧の印加により変形して、ノズル内の液体Lに圧力を生じさせてノズル10の吐出孔413に液体Lのメニスカスを形成させるようになっている。なお、圧力発生手段は、本実施形態のような圧電素子アクチュエータのほかに、例えば、静電アクチュエータやサーマル方式等を採用することも可能である。
【0092】
駆動電圧電源423および帯電用電極416に静電電圧を印加する前記帯電電圧電源418は、それぞれ動作制御手段424に接続されており、それぞれ動作制御手段424による制御を受けるようになっている。
【0093】
動作制御手段424は、本実施形態では、CPU425やROM426、RAM427等が図示しないBUSにより接続されて構成されたコンピュータからなっており、CPU425は、ROM426に格納された電源制御プログラムに基づいて帯電電圧電源418および各駆動電圧電源423を駆動させてノズル410の吐出孔413から接着剤液である液体Lを吐出させるようになっている。
【0094】
なお、本実施形態では、液体吐出ヘッド402のノズルプレート411の吐出面412には、吐出孔413からの液体Lの滲み出しを抑制するための撥液層428が吐出孔413以外の吐出面412全面に設けられている。撥液層428は、例えば、液体Lが水性であれば撥水性を有する材料が用いられ、液体Lが油性であれば撥油性を有する材料が用いられるが、一般に、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン)、PTFE(ポリテトラフロロエチレン)、フッ素シロキサン、フルオロアルキルシラン、アモルファスパーフルオロ樹脂等のフッ素樹脂等が用いられることが多く、塗布や蒸着等の方法で吐出面412に成膜されている。なお、撥液層428は、ノズルプレート411の吐出面412に直接成膜してもよいし、撥液層428の密着性を向上させるために中間層を介して成膜することも可能である。
【0095】
液体吐出ヘッド402の下方には、基材Kを支持する平板状の対向電極403が液体吐出ヘッド402の吐出面412に平行に所定距離離間されて配置されている。対向電極403と液体吐出ヘッド402との離間距離は、0.1mm〜3mm程度の範囲内で適宜設定される。
【0096】
本実施形態では、対向電極403は接地されており、常時接地電位に維持されている。そのため、前記帯電電圧電源418から帯電用電極416に静電電圧が印加されると、ノズル410の吐出孔413の液体Lと対向電極403の液体吐出ヘッド402に対向する対向面との間に電界が生じるようになっている。また、帯電した液滴Dが基材Kに着弾すると、対向電極403はその電荷を接地により逃がすようになっている。
【0097】
なお、対向電極403または液体吐出ヘッド402には、液体吐出ヘッド402と基材Kとを相対的に移動させて位置決めするための図示しない位置決め手段が取り付けられており、これにより液体吐出ヘッド402の各ノズル410から吐出された液滴Dは、基材Kの表面に任意の位置に着弾させることが可能とされている。
【0098】
以下、図面を参照しながら本発明に好ましく用いられる静電吸引方式の液体吐出装置の好ましい一態様について説明する。但し、本発明はこれらに限定されない。
【0099】
本発明に用いられる静電吸引方式のインクジェット装置は、図5に示すようにマルチノズルヘッド500を有している。マルチノズルヘッド500はノズルプレート531、ボディプレート532および圧電素子533を有している。ノズルプレート531は150μm〜300μm程度の厚みを有したシリコン基板また酸化シリコン基板である。ノズルプレート531には複数のノズル501が形成されており、これら複数のノズル501が1列に配列されている。
【0100】
ボディプレート532は、200μm〜500μm程度の厚みを有したシリコン基板である。ボディプレート532には接着剤液供給口601、接着剤液貯留室602、複数の接着剤液供給路603および複数の圧力室604が形成されている。
【0101】
接着剤液供給口601は直径が400μm〜1500μm程度の円形状の貫通孔である。
【0102】
接着剤液貯留室602は幅が400μm〜1000μm程度で深さが50μm〜200μm程度の溝である。
【0103】
接着剤液供給路603は幅が50μm〜150μm程度で深さが30μm〜150μm程度の溝である。圧力室604は幅が150μm〜350μm程度で深さが50μm〜200μm程度の溝である。
【0104】
ノズルプレート531とボディプレート532とは互いに接合されるようになっており、接合した状態ではノズルプレート531のノズル501とボディプレート532の圧力室604とが1対1で対応するようになっている。
【0105】
ノズルプレート531とボディプレート532とが接合された状態で接着剤液供給口601に接着剤液が供給されると、当該接着剤液は接着剤液貯留室602に一時的に貯留され、その後に接着剤液貯留室602から各接着剤液供給路603を通じて各圧力室604に供給されるようになっている。
【0106】
圧電素子533はボディプレート532の圧力室604に対応した位置に接着されるようになっている。圧電素子533はPZT(lead zirconium titanate)からなるアクチュエータであり、電圧の印加を受けると変形して圧力室604の内部の接着剤液をノズル501から吐出させるようになっている。
【0107】
なお、図5では図示しないが、ノズルプレート531とボディプレート532と間には硼珪酸ガラスプレート534(図6参照)が介在している。
【0108】
図6に示す通り、1つの圧電素子に対応してノズル501と圧力室604とが1つずつ構成されている。
【0109】
ノズルプレート531においてノズル501には段が形成されており、ノズル501は下段部501aと上段部501bとで構成されている。下段部501aと上段部501bとは共に円筒形状を呈しており、下段部501aの直径D1(図6中左右方向の距離)が上段部501bの直径D2(図5中左右方向の距離)より小さくなっている。
【0110】
ノズル501の下段部501aは上段部501bから流通してきた接着剤液を直接的に吐出する部位である。下段部501aは直径D1が1μm〜10μmで、長さL(図6中上下方向の距離)が1.0μm〜5.0μmとなっている。下段部501aの長さLを1.0μm〜5.0μmの範囲に限定するのは、接着剤液の着弾精度を飛躍的に向上させることができるからである。
【0111】
他方、ノズル501の上段部501bは圧力室604から流通してきた接着剤液を下段部501aに流通させる部位であり、その直径D2が10μm〜60μmとなっている。
【0112】
上段部501bの直径D2の下限を10μm以上に限定するのは、10μmを下回ると、ノズル501全体(下段部501aと上段部501b)の流路抵抗に対し上段部501bの流路抵抗が無視できない値となり、接着剤液の吐出効率が低下しやすいからである。
【0113】
逆に、上段部501bの直径D2の上限を60μm以下に限定するのは、上段部501bの直径D2が大きくなるほど、接着剤液の吐出部位としての下段部501aが薄弱化して(下段部501aが面積増大して機械的強度が小さくなる。)、接着剤液の吐出時に変形し易くなり、その結果接着剤液の着弾精度が低下するからである。すなわち、上段部501bの直径D2の上限が60μmを上回ると、接着剤液の吐出に伴い下段部501aの変形が非常に大きくなり、着弾精度を規定値(=0.5°)以内に抑えることができなくなる可能性があるからである。
【0114】
ノズルプレート531とボディプレート532との間には数百μm程度の厚みを有した硼珪酸ガラスプレート534が設けられており、硼珪酸ガラスプレート534にはノズル501と圧力室604とを連通させる開口部534aが形成されている。開口部534aは、圧力室604とノズル501の上段部501bとに通じる貫通孔であり、圧力室604からノズル501に向けて接着剤液を流通させる流路として機能する部位である。圧力室604は、圧電素子533の変形を受けて当該圧力室604の内部の接着剤液に圧力を与える部位である。
【0115】
以上の構成を具備するマルチノズルヘッド500では、圧電素子533が変形すると、圧力室604の内部の接着剤液に圧力を与え、当該接着剤液は圧力室604から硼珪酸ガラスプレート534の開口部534aを流通してノズル501に至り、最終的にノズル501の下段部501aから吐出されるようになっている。
【0116】
なお、本発明に係るインクジェット記録装置の一態様としては、マルチノズルヘッド500のノズルプレート531に対向する位置に基板電極が設けられており(図示略)、ノズル501と当該基板電極との間には静電界が作用するようになっている。
【0117】
そのため、ノズル501から吐出された接着剤液はその静電界の作用を受けながら基板電極上の被記録物に着弾するようになっている。
【実施例】
【0118】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0119】
《接着剤液の調製》
〔接着剤液1の調製〕
下記に示す添加比率で、トルエンに1液型接着剤であるアロンマイティBX−60(エポキシ系接着剤、東亞合成社製)を混合、溶解した。得られた溶液を0.45μmフィルタでろ過して、接着剤液1を調製した。
【0120】
トルエン(沸点:110.6℃) 66.0質量%
アロンマイティBX−60 34.0質量%
〔接着剤液2の調製〕
下記に示す添加比率で、トルエンに、2液型接着剤であるエポテック330(エポキシ系接着剤、エポキシテクノロジー社製)の主剤を混合した後、硬化剤を添加し、溶解した。得られた溶液を0.45μmフィルタでろ過して、接着剤液2を調製した。
【0121】
トルエン(沸点:110.6℃) 73.2質量%
エポテック330A剤(主剤) 24.4質量%
エポテック330B剤(硬化剤) 2.4質量%
〔接着剤液3の調製〕
下記に示す添加比率で、γ−ブチロラクトンに、2液型接着剤であるエポテック330(エポキシ系接着剤、エポキシテクノロジー社製)の主剤を混合した後、硬化剤を添加し、溶解した。得られた溶液を0.45μmフィルタでろ過して、接着剤液3を調製した。
【0122】
γ−ブチロラクトン(沸点:204℃) 73.2質量%
エポテック330A剤(主剤) 24.4質量%
エポテック330B剤(硬化剤) 2.4質量%
〔接着剤液4の調製〕
下記に示す添加比率で、γ−ブチロラクトン及びトルエンの混合有機溶媒に、2液型接着剤であるエポテック330(エポキシ系接着剤、エポキシテクノロジー社製)の主剤を混合した後、硬化剤を添加し、溶解した。得られた溶液を0.45μmフィルタでろ過して、接着剤液4を調製した。
【0123】
γ−ブチロラクトン(沸点:204℃) 58.6質量%
トルエン(沸点:110.6℃) 14.6質量%
エポテック330A剤(主剤) 24.4質量%
エポテック330B剤(硬化剤) 2.4質量%
〔接着剤液5の調製〕
図3のa)に記載の方法に従って、有機溶媒として下記の比率で混合したγ−ブチロラクトン及びトルエンの混合有機溶媒を有機溶媒タンク14に貯蔵し、エポテック330A剤(主剤)を主剤タンク13に貯蔵し、エポテック330B剤(硬化剤)を硬化剤タンク12に貯蔵し、それぞれ有機溶媒:主剤:硬化剤が73.2:24.4:2.4(質量比)となるように接着剤液供給路16を経由して、インクジェット記録ヘッド11に供給した。この方法で供給した接着剤液を、接着剤液5とした。
【0124】
(混合有機溶媒)
γ−ブチロラクトン(沸点:204℃) 80.1質量%
トルエン(沸点:110.6℃) 19.9質量%
(主剤)
エポテック330A剤(主剤)単独
(硬化剤)
エポテック330B剤(硬化剤)単独
〔接着剤液6の調製〕
図3のb)に記載の方法に従って、接着剤液の主剤及び有機溶媒を下記の比率で混合した主剤/有機溶媒混合液を主剤/有機溶媒タンク21に貯蔵し、エポテック330B剤(硬化剤)を硬化剤タンク12に貯蔵し、それぞれ有機溶媒:主剤:硬化剤が73.2:24.4:2.4(質量比)となるように接着剤液供給路16を経由して、インクジェット記録ヘッド11に供給した。この方法で供給した接着剤液を、接着剤液6とした。
【0125】
(主剤/有機溶媒混合液)
γ−ブチロラクトン(沸点:204℃) 60.0質量%
トルエン(沸点:110.6℃) 15.0質量%
エポテック330A剤(主剤) 25.0質量%
(硬化剤)
エポテック330B剤(硬化剤)単独
〔接着剤液7の調製〕
図3のc)に記載の方法に従って、接着剤液の主剤及び有機溶媒を下記の比率で混合した主剤/有機溶媒混合液を主剤/有機溶媒タンク21に貯蔵し、接着剤液の硬化剤及び有機溶媒を下記の比率で混合した硬化剤/有機溶媒混合液を硬化剤/有機溶媒タンク22に貯蔵し、それぞれ有機溶媒:主剤:硬化剤が73.2:24.4:2.4(質量比)となるように接着剤液供給路16を経由して、インクジェット記録ヘッド11に供給した。この方法で供給した接着剤液を、接着剤液7とした。
【0126】
(主剤/有機溶媒混合液)
γ−ブチロラクトン(沸点:204℃) 58.6質量%
トルエン(沸点:110.6℃) 14.6質量%
エポテック330A剤(主剤) 26.8質量%
(硬化剤/有機溶媒混合液)
γ−ブチロラクトン(沸点:204℃) 58.9質量%
トルエン(沸点:110.6℃) 14.4質量%
エポテック330B剤(硬化剤) 26.7質量%
〔接着剤液8の調製〕
図3のd)に記載の方法に従って、有機溶媒として下記の比率で混合したγ−ブチロラクトン及びトルエンの混合有機溶媒を有機溶媒タンク14に貯蔵し、エポテック330A剤(主剤)を主剤タンク13に貯蔵し、エポテック330B剤(硬化剤)を硬化剤タンク12に貯蔵し、それぞれを供給路23、24、25、フィルタFを経て、有機溶媒:主剤:硬化剤が73.2:24.4:2.4(質量比)となるように直接インクジェット記録ヘッド11に導入した後、インクジェット記録ヘッド11内で混合して接着液とした。この方法で供給した接着剤液を、接着剤液8とした。
【0127】
(混合有機溶媒)
γ−ブチロラクトン(沸点:204℃) 80.0質量%
トルエン(沸点:110.6℃) 20.0質量%
(主剤)
エポテック330A剤(主剤)単独
(硬化剤)
エポテック330B剤(硬化剤)単独
〔接着剤液9の調製〕
図3のb)に記載の方法に従って、接着剤液の主剤及び有機溶媒を下記の比率で混合した主剤/有機溶媒混合液を主剤/有機溶媒タンク21に貯蔵し、エポテック330B剤(硬化剤)を硬化剤タンク12に貯蔵し、それぞれ有機溶媒:主剤:硬化剤が57.0:39.1:3.9(質量比)となるように接着剤液供給路16を経由して、インクジェット記録ヘッド11に供給した。この方法で供給した接着剤液を、接着剤液9とした。
【0128】
(主剤/有機溶媒混合液)
γ−ブチロラクトン(沸点:204℃) 47.5質量%
トルエン(沸点:110.6℃) 11.8質量%
エポテック330A剤(主剤) 40.9質量%
(硬化剤)
エポテック330B剤(硬化剤)単独
〔接着剤液10の調製〕
図3のb)に記載の方法に従って、接着剤液の主剤及び有機溶媒を下記の比率で混合した主剤/有機溶媒混合液を主剤/有機溶媒タンク21に貯蔵し、エポテック330B剤(硬化剤)を硬化剤タンク12に貯蔵し、それぞれ有機溶媒:主剤:硬化剤が50.0:45.5:4.5(質量比)となるように接着剤液供給路16を経由して、インクジェット記録ヘッド11に供給した。この方法で供給した接着剤液を、接着剤液10とした。
【0129】
(主剤/有機溶媒混合液)
γ−ブチロラクトン(沸点:204℃) 42.0質量%
トルエン(沸点:110.6℃) 10.3質量%
エポテック330A剤(主剤) 47.7質量%
(硬化剤)
エポテック330B剤(硬化剤)単独
〔接着剤液11の調製〕
図3のb)に記載の方法に従って、接着剤液の主剤及び有機溶媒を下記の比率で混合した主剤/有機溶媒混合液を主剤/有機溶媒タンク21に貯蔵し、エポテック330B剤(硬化剤)を硬化剤タンク12に貯蔵し、それぞれ有機溶媒:主剤:硬化剤が43.0:51.9:5.1(質量比)となるように接着剤液供給路16を経由して、インクジェット記録ヘッド11に供給した。この方法で供給した接着剤液を、接着剤液11とした。
【0130】
(主剤/有機溶媒混合液)
γ−ブチロラクトン(沸点:204℃) 36.2質量%
トルエン(沸点:110.6℃) 9.1質量%
エポテック330A剤(主剤) 54.7質量%
(硬化剤)
エポテック330B剤(硬化剤)単独
〔接着剤液の特性値の測定〕
上記調製した各接着剤液(有機溶媒+主剤+硬化剤)について、下記の方法に従って、各特性値を測定した。
【0131】
(接着剤液の表面張力の測定)
各接着剤液の30℃における表面張力を、表面張力計(協和界面科学製:CBVP−Z)を用いて測定した。
【0132】
(接着剤液の電気伝導度の測定)
各接着剤液の30℃における電気伝導度を、JIS K 0130(1995)に記載の方法に従って測定した。
【0133】
(接着剤液の粘度測定)
各接着剤液(有機溶媒+主剤+硬化剤)の30℃における粘度を、振動式粘度計(VISCOMATE VM−1G−MH、YAMAICHI.CO.LTD製)を用いて測定した。
【0134】
以上により得られた各接着剤液の構成と特性値を、表1に示す。
【0135】
【表1】

【0136】
《基材の作製》
〔基材1の作成〕
下記に示す比率で、2−プロパノールにシランカップリング剤としてKBM−3063(ヘキシルトリメトキシシラン、信越シリコーン社製)を溶解させ、調製した液に、アルカリ性水溶液で洗浄したシリコンウェハーを5分間浸漬して、取り出した後、100℃で30分間の焼成を行い、シランカップリング剤から構成される下引き層を有する基材1を作製した。
【0137】
2−プロパノール 99.6質量%
KBM−3063 0.4質量%
〔基材2の作製〕
下記に示す比率で、2−プロパノールにチタネート系カップリング剤としてプレンアクト KR−44(味の素ファインテクノ製)を溶解させ、調製した液に、アルカリ性水溶液で洗浄したシリコンウェハーを5分間浸漬して、取り出した後、100℃で30分間の焼成を行い、チタネート系カップリング剤から構成される下引き層を有する基材2を作製した。
【0138】
2−プロパノール 99.6質量%
プレンアクト KR−44 0.4質量%
〔基材3の作製〕
上記基材1の作製において、KBM−3063の含有量を0.2質量%に変更した以外は同様にして、シランカップリング剤から構成される下引き層を有する基材3を作製した。
【0139】
〔基材4の作製〕
下引き層を付与していないシリコンウェハーそのものを、基材4とした。
【0140】
《パターンの形成》
〔パターン1の形成〕
上記調製した接着剤液1を30℃に保温し、図2、図4〜6に記載の圧力印加手段と電界印加手段とを備えたインクジェット記録装置(ノズル口径:10μm、吐出接着剤液滴量:0.5pl、保温温度:30℃)に充填し、10mm角のパターンを基材1に描画した。描画は、接着剤層を2層形成する方法で行った。1層目は液滴を10μmピッチで射出後、2層目は2μmピッチで射出し、描画を行った。その後、形成したパターンを150℃で30分間乾燥させて、目標膜厚が5μmのパターン1を得た。
【0141】
〔パターン2〜5の形成〕
上記パターン1の形成において、接着剤液1、基材1に代えて、表2に記載の接着剤液、基材を用いた以外は同様にして、パターン2〜5を形成した。
【0142】
〔パターン6の形成〕
上記パターン1の形成において、接着剤液1に代えて、図3のa)に記載の接着剤液付与方法に従って、接着剤液5を構成する有機溶媒、接着剤主剤、硬化剤を、それぞれ有機溶媒:主剤:硬化剤が73.2:24.4:2.4(質量比)となるようにインクジェット記録ヘッドに供給した以外は同様にして、パターン6を形成した。
【0143】
〔パターン7〜15の形成〕
上記パターン6の形成において、接着剤液付与方法、接着剤液の種類、基材の種類を、表2に記載の組み合わせに変更した以外は同様にして、パターン7〜15を形成した。
【0144】
〔パターン16の形成〕
上記パターン7の形成において、インクジェット記録装置での描画過程で、電界印加手段を用いなかった以外は同様にして、パターン16を形成した。
【0145】
〔接着剤液と基材との組み合わせによる特性値の測定〕
(後退接触角の測定)
各パターン形成に用いた接着剤液と基材を用い、図1に記載の方法に従って、ガラス毛細管Cの先端から下引き剤層を有する基材A上の接着剤微小液滴Dを一定流量で引き込みながら収縮させてその接触角を、接触角計CA−DT(協和界面科学(株)製)を用いて測定することにより、後退接触角θrを測定した。
【0146】
(静的接触角の測定)
各パターン形成に用いた接着剤液と基材を用い、接着剤液の静的接触角を、接触角計CA−DT(協和界面科学(株)製)を用いて測定した。
【0147】
(γ接着剤/γ水の測定)
各接着剤液及び水の表面張力を、協和界面化学株式会社製自動表面張力計CBVP−Z型を用いて測定してγ接着剤、γ水を求め、γ接着剤/γ水を算出した。
【0148】
(θ接着剤/θ水の測定)
各パターンの作製に用いた基材上に、対応する接着剤液及び水の静的接触角を、接触角計としてCA−DT(協和界面科学(株)製)を用い、2mgの質量の検液を対応する基材上の滴下し、静的接触角を測定してθ接着剤、θ水を求め、θ接着剤/θ水を算出した。
【0149】
パターン形成方法及び各特性値を、表2に示す。
【0150】
【表2】

【0151】
《接着液及び形成パターンの評価》
〔接着剤液のデキャップ耐性の評価〕
インクジェット記録装置で射出する接着剤液のデキャップ耐性について、以下の評価を行った。
【0152】
ノズル口径が10μm、吐出接着剤液滴量が0.5plの図2、4〜6に記載のインクジェット記録ヘッドを用いて、上記調製した各接着剤液について、23℃、60%RHの環境下で初期状態として、出射間隔1ミリ秒時、接着剤液滴速度が8m/secとなるように、液滴吐出ヘッド内に設けられた圧電素子の駆動電圧及び静電力を決定した。
【0153】
次いで、出射間隔時間を変化し、下式に従って液滴速度の相対比率を測定し、下記の基準に従ってデキャップ耐性の評価を行った。例えば、出射間隔1ミリ秒で接着剤液滴を100滴出射させ、最初の出射から間隔時間t秒後に、再び出射間隔1ミリ秒で100滴出射させ、間隔時間t秒後の最初の接着剤液滴の速度を測定して、これを間隔時間t後の液滴速度とする。
【0154】
液滴速度の相対比率(%)=(出射間隔t秒後の液滴速度)/(出射間隔1ミリ秒の液滴速度=8m/sec)×100
◎:液滴速度の相対比率が70%以下となる間隔時間tが2秒以上である
○:液滴速度の相対比率が70%以下となる間隔時間tが1秒以上、2秒未満である
△:液滴速度の相対比率が70%以下となる間隔時間tが0.3秒以上、1秒未満である
×:液滴速度の相対比率が70%以下となる間隔時間tが0.3秒未満である。
【0155】
〔形成パターンの膜厚均一性の評価〕
上記形成した各パターンについて、任意の50箇所における膜厚をレーザー顕微鏡で測定した後、平均膜厚T及び膜厚のばらつきを測定し、下記の基準に従って膜厚均一性の評価を行った。
【0156】
平均膜厚T(μm)=(T1+T2+・・・+T50)/50×100
式中、T1、T2、・・・、はそれぞれ1箇所目の測定位置の膜厚、2箇所目の測定位置の膜厚、・・・、を表す。
【0157】
膜厚バラツキ={(最大膜厚−最小膜厚)/平均膜厚}×100
◎:平均膜厚が5μm未満で、膜厚バラツキが2%未満である
○:平均膜厚が5μm未満で、膜厚バラツキが2%以上、5%未満である
△:平均膜厚が5μm以上、10μm未満で、膜厚バラツキが5%以上である
×:平均膜厚が10μm以上で、膜厚バラツキが5%以上である。
【0158】
〔形成パターンの表面粗さ評価〕
形成された各パターンについて、任意の100μm角で50箇所における中心線平均粗さRaをレーザー顕微鏡で測定し、下記の基準に従って表面粗さの評価を行った。
【0159】
中心線平均粗さRa(μm)=(Ra1+Ra2+・・・+Ra50)/50×100 式中、Ra1、Ra2、・・・、はそれぞれ1箇所目の中心線平均粗さ、2箇所目の中心線平均粗さ、・・・、を表す。
【0160】
◎:中心線平均粗さが1.0μm未満
○:中心線平均粗さが1.0μM以上、1.5μm未満
△:中心線平均粗さが1.5μm以上3μm未満
×:中心線平均粗さが3μm以上
以上により得られた結果を、表3に示す。
【0161】
【表3】

【0162】
表3に記載の結果より明らかなように、本発明で規定する構成からなる接着剤液の塗布方法により形成した形成方法はデキャップ耐性に優れ、形成したパターンの膜厚均一性及び表面平滑性(表面粗さ)に優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0163】
【図1】本発明に係る後退接触角の測定方法の一例を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係るインクジェット記録装置の内部構成の一例を示す斜視図である。
【図3】インクジェット記録ヘッドへの接着剤液の各構成材料を供給する方法の一例を示す概略図である。
【図4】本発明に好ましく用いられる静電吸引方式の電界印加手段の全体構成の一例を示す断面図である。
【図5】本発明に用いられる静電吸引方式のインクジェット装置のマルチノズルヘッドの概略構成の一例を示す分解斜視図である。
【図6】マルチノズルヘッドの内部構成の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0164】
1 底板
2 水平ガイドレール
3 ガイドレール支持台
4 基材を支持する支持台
5 メンテナンス装置
6 垂直ガイドレール
7 キャリッジ
8、11、402 インクジェット記録ヘッド
12 硬化剤タンク
13 主剤タンク
14 有機溶媒タンク
15 ドレインタンク
16 接着剤液供給路
17 廃液路
18 基材
19 下引き剤
20 接着剤液薄膜
21 主剤/有機溶媒タンク
22 硬化剤/有機溶媒タンク
23、24、25 供給路
401 電界印加手段
403 対向電極
410、501 ノズル
416 帯電用電極
500 マルチノズルヘッド
533 圧電素子
604 圧力室
A 基材
C ガラス毛細管
D 接着剤微小液滴
F フィルタ
P1〜P6 ポンプ
V1〜V8 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材にインクジェット塗布方法により接着剤液を付与する接着剤液の塗布方法において、
該接着剤液は主剤及び硬化剤から構成され、該主剤及び硬化剤をそれぞれ有機溶媒で希釈、混合した溶液で、かつインクジェット記録ヘッドからの射出温度における粘度が0.9mPa・s以上、20mPa・s以下であり、
該基材は、下式(1)で規定する条件を満たす下引き剤がいずれか一方の面に付与されており、かつ該下引き剤が付与された面に対する該接着剤液の後退接触角が0度以上、15度以下であり、
該インクジェット塗布方法が、吐出孔を有するノズルプレート、吐出孔に連通する圧力室、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生素子、圧力発生素子に電圧を印加する電圧印加手段、及び静電力を用いた電界印加手段を有するインクジェット記録装置を用いて該基材上に該接着剤液を付与する方法であることを特徴とする接着剤液の塗布方法。
式(1)
γ接着剤液/γ水>θ接着剤液/θ水
〔式中、γ接着剤液、γ水は、30℃におけるそれぞれの液体の表面張力(mN/m)を表し、θ接着剤液、θ水は、30℃におけるそれぞれの液体の下引き剤が付与された面に対する静的接触角(rad(θ≠0))を表す。〕
【請求項2】
前記接着剤液の希釈に用いる前記有機溶媒の少なくとも1種が、沸点が150℃以上、250℃以下の有機溶媒であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤液の塗布方法。
【請求項3】
前記接着剤液の希釈に用いる前記有機溶媒が、沸点が150℃以上、250℃以下の有機溶媒と、沸点が100℃以上、150℃未満の有機溶媒をそれぞれ少なくとも1種類含むことを特徴とする請求項1に記載の接着剤液の塗布方法。
【請求項4】
前記接着剤液は、電気伝導度が0.1μS/cm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の接着剤液の塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−69454(P2010−69454A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242230(P2008−242230)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】