説明

接着剤組成物

【課題】紙工用高速塗布ラインで使用する場合のように、せん断速度が速い条件でも粘度低下が小さく、高速塗布時の糊飛びを抑制でき、ダイラタンシー性を有しないため移送等の取り扱いも容易な接着剤組成物を提供するものである。
【解決手段】酢酸ビニルモノマー100重量部に対し、けん化度が90〜97.5%であるポリビニルアルコール12〜20重量部を保護コロイドとして重合することを特徴とする酢酸ビニル系樹脂エマルジョン型接着剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙工用高速塗布のようにせん断速度が速い条件でも粘度低下が小さく、高速塗布時の糊飛びを抑制でき、移送等の取り扱いも容易な接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、紙工用の接着剤として酢酸ビニル系樹脂エマルジョンが使用されている。この理由としては、適度なタックを有する、初期接着力が良い、塗布性に優れる、取り扱いが容易である、水性であり安全である、安価で使用しやすい等が挙げられる。このような特性が得られるのは、それ自体が紙への良好な接着剤となるポリビニルアルコール(PVA)を酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの保護コロイドとして使用しているためだと考えられる。なお、酢酸ビニル系樹脂エマルジョンは、少なからず擬塑性を有する傾向が認められる。擬塑性は木工用途等においては、塗布しやすく、かつ塗布後は垂れにくいという好ましい粘性となる。しかしながら、紙工用途のように高速ラインにて使用される場合、塗布時のせん断速度が非常に速いと粘度が大幅に低下してしまい、塗布時に接着剤が周囲に飛び散る現象(いわゆる糊飛び)が発生する原因となり、作業場の汚染や製品ロス等の問題があった。
【0003】
このような課題に対し、無機及び/又は有機電解質を添加することにより、ダイラタンシー性を付与する方法が開示されている。ダイラタンシー性を有すると、塗布時は相対的に粘度が高くなるため、糊飛びの抑制に関しては一定の効果が認められる。一方、接着剤の流動時においてもせん断速度が速く相対的に粘度が高くなるため、移送時のせん断力により増粘して移送に時間がかかったり、増粘によって接着剤が受けるせん断力が大きくなり、場合によってはエマルジョンが破壊されるという欠点を有していた。また、界面活性剤を添加する方法が開示されているが、界面活性剤の添加によって耐水性が低下するという問題があった。
【特許文献1】特公平7−30294号公報
【特許文献2】特許第3568660号公報
【特許文献3】特開2005−162989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、せん断速度が速い条件でも粘度低下が小さく、高速塗布時の糊飛びを抑制でき、移送等の取り扱いも容易な接着剤組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
酢酸ビニル100重量部に対して、けん化度が90〜97.5%であるPVA12〜20重量部を保護コロイドとして重合することを特徴とする酢酸ビニル系樹脂エマルジョン型接着剤組成物により、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0006】
本発明からなる接着剤組成物は、せん断速度が速い条件でも粘度低下が小さく、高速塗布時の糊飛びを抑制できる。また、ダイラタンシー性ではないため、移送等の取り扱いも容易である。従って、特に紙工用接着剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、酢酸ビニル100重量部に対して、けん化度が90〜97.5%であるPVA12〜20重量部を保護コロイドとして重合することを特徴とする酢酸ビニル系樹脂エマルジョン型接着剤組成物である。
【0008】
酢酸ビニル系樹脂エマルジョンを構成するモノマーとしては、酢酸ビニル単独であっても、共重合可能なモノマーが含まれていても良い。共重合モノマーの使用量は、モノマーの合計100重量部に対して20重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下がさらに好ましい。共重合モノマーの使用量が20重量部を超える場合、重合性が低下したり、得られる樹脂エマルジョンの性状が変わって糊飛び抑制効果が減少するため好ましくない。共重合モノマーとしては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロニトリル、(N−メチロール)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。
【0009】
酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの重合に際しては、酢酸ビニル100重量部に対して、けん化度が90〜97.5%であるPVA12〜20重量部を保護コロイドとして重合することが必要である。この範囲でのみ得られる酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの高せん断力下における粘度低下が小さく、実用的な接着剤組成物が得られる。けん化度が97.5%を超えるいわゆる完全けん化PVAを用いた場合、得られる樹脂エマルジョンの粘度低下は小さくなるものの、保護コロイド能が低いため重合性が低下する。また、完全けん化PVA水溶液は低温下で著しく増粘する性質を有するため、これを保護コロイドとして得られた樹脂エマルジョンも低温下で大きく増粘するため好ましくない。けん化度が90%未満のいわゆる部分けん化PVAを用いた場合、得られる樹脂エマルジョンの粘度低下が大きくなり、糊飛びし易くなる。
【0010】
けん化度が90〜97.5%である中間けん化PVAを用いる場合であっても、モノマー100重量部に対する使用量が12部未満の場合、構造粘性が十分に低下しないため好ましくない。また、20重量部を超える場合は粘度が高くなりすぎるため好ましくない。なお、モノマー100重量部に対し、けん化度が90〜97.5%であるPVAを12〜20重量部使用し、さらに、けん化度が90%未満及び/又はけん化度が97.5%を超えるPVAを併用することは可能である。この場合、90%未満及び/又はけん化度が97.5%を超えるPVAの使用量が増えると前記問題が発生するため、モノマー100重量部に対する使用量は5部以内が好ましく、さらには3部以内が好ましい。
【0011】
酢酸ビニル系樹脂エマルジョンの重合開始剤には、過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤、過硫酸塩系開始剤などが使用される。過酸化物系開始剤としては、ベンゾイルペルオキサイド、ラウリルペルオキサイド、メチルエチルケトンペルオキサイド、ジクミルペルオキサイド、ブチルヒドロペルオキサイド、過酸化水素等が挙げられる。アゾ系開始剤としては、アゾビスイソブチルニトリル、アゾビスシアノバレリアン酸、アゾビスシアノペンタン酸などが挙げられる。過硫酸塩系開始剤としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどが挙げられる。中でも、擬塑性を小さくするため過硫酸塩系開始剤が好ましい。また、重亜硫酸ソーダ、アスコルビン酸、硫酸第一鉄等の還元剤を併用してレドックス系とすることもできる。このほかに重合調整剤として、例えばチオグリコール酸、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ラウリルメルカプタン等が使用されてもよい。
【0012】
重合温度は使用する重合開始剤の種類により異なってくる。例えば過硫酸アンモニウムなど熱分解により重合を進める場合は60℃以上の温度が適合している。また、レドックス系では60℃以下で重合を行うことができる。
【0013】
なお、必要により可塑剤、湿潤剤、濡れ剤、充填材、顔料、消泡剤、防腐剤等を適時添加できる。
【0014】
以下、実施例に基づき説明する。
【実施例】
【0015】
実施例1
攪拌機、温度計、加熱ヒーター、還流冷却管を備えたフラスコ中に水245部、PVAとしてH−17(電気化学工業株式会社製、けん化度95〜96%、平均重合度1700、商品名)30部とを仕込んで80℃に加熱して溶解させ、80℃に保った状態で水10部に過硫酸アンモニウム1部を溶解させた重合開始剤と酢酸ビニル205部を3時間かけて滴下しながら乳化重合を進めた。その後、可塑剤としてCS−12(チッソ株式会社製、2.2.4−トリメチル−1.3−ペンタンジオールモノイソブチレート、商品名)20部を添加し、酢酸ビニル系樹脂エマルジョン(固形分50重量%、粘度1800mPa・s/23℃)を調製した。
実施例2〜6、比較例1、2
表1記載のように、PVAとしてH−17の他にB−17(電気化学工業株式会社製、けん化度87〜89%、平均重合度1700、商品名)、K−05(電気化学工業株式会社製、けん化度97.5〜98.5%、平均重合度500、商品名)を組み合わせて用いた他は実施例1の方法に従い、表1記載の実施例、比較例の接着剤組成物を得た。
【0016】
【表1】

評価方法
粘度 JISK6833に準拠し、BM型回転粘度計を用いて23℃で30回転の条件で測定した。
構造粘性指数 JISK6833に準拠し、BM型回転粘度計を用いて23℃において、6、12、30回転で粘度測定した。6、12、30回転における粘度をそれぞれ(V、V12、V30)として、構造粘性指数(SVI)を以下のように求めた。
【0017】
【数1】

糊飛び 各接着剤を封筒胴糊用横出し機にて、ラインスピード250枚/分にて封筒の胴部分に塗布し、封筒を作製した。塗布工程における糊飛びを観察した。
○:糊飛びなし、または軽微な糊飛びがあるものの実用上問題なし
×:糊飛びが多く、問題あり
接着性能 上記条件にて製造した封筒を強制はく離し、紙破状況を確認した。
○:紙破率100%
×:界面はく離部位あり
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明からなる接着剤組成物は、せん断速度が速い条件でも粘度低下が小さいため、高速塗布時の糊飛びを抑制できる。また、ダイラタンシー性ではないため、移送等の取り扱いも容易である。従って、特に紙工用接着剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル100重量部に対して、けん化度が90〜97.5%であるポリビニルアルコール12〜20重量部を保護コロイドとして重合することを特徴とする酢酸ビニル系樹脂エマルジョン型接着剤組成物。

【公開番号】特開2007−246729(P2007−246729A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−73466(P2006−73466)
【出願日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】