説明

接着剤組成物

【課題】酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは低温造膜性が無く、環境上問題のある可塑剤の添加が必要であるため、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン若しくはアクリル樹脂系エマルジョンの存在下で酢酸ビニルを乳化重合したものなどが提案されている。しかしながら、耐熱性、塗工作業性、低温下での塗布性が悪い、酢酸ビニルの重合速度が遅くなり製造効率が低下するという課題がある。
【解決手段】酢酸ビニル樹脂系エマルジョンに、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョンならびにポリビニルアルコール水溶液が配合された接着剤組成物により、前記の課題を解決できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低温造膜性、接着強度並びに塗布作業性に優れる水性の接着剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水性で使用しやすい接着剤として、接着性能、塗布作業性などに優れる酢酸ビニル樹脂系エマルジョンが広範囲に利用されている。
しかしながら、酢酸ビニル樹脂系エマルジョンは低温造膜性が無く、そのままでは0℃付近では使用できないという問題があるために、可塑剤を配合した形態として利用することが必須になっている。
ところが、近年、可塑剤は環境ホルモンの疑いがあることから含有しない接着剤が求められている。
【0003】
可塑剤の配合を避ける方法として、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン若しくはアクリル樹脂系エマルジョンの存在下で酢酸ビニルを乳化重合して調製する方法などが提案されている。
しかしながら、前者では耐熱性、塗工作業性などに課題があり、後者では低温造膜性、初期接着性能などには優れるものの、低温下での塗布性が悪い、酢酸ビニルの重合速度が遅くなり製造効率が低下するという問題があり改良余地が残されていた。
【0004】
【特許文献1】特開2003−213235号公報
【特許文献2】特開2001−294833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明では、前記のような課題、即ち、可塑剤を含有せず、製造時間が長くならず、低温造膜性、低温接着性、初期接着性能並びに塗布作業性など、多くの性能を兼ね備えた接着剤組成物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、鋭意、検討した結果、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン(以下 PVAc)に、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン(以下 EVA)、アクリル樹脂エマルジョン(以下 AE)、ポリビニルアルコール溶液(以下 PVA液)を配合して調製された接着剤組成物により、前記のように課題を解決することができた。
【発明の効果】
【0007】
本発明になる接着剤組成物は、製造時間が長くならず、低温造膜性、低温接着性、初期接着性能並びに塗布作業性、など多くの性能を兼ね備えたものであるために、冬季、夏季を問わずオールシーズン、各種用途に安心して利用できる。
また、環境ホルモンの疑いのある可塑剤を含有しないため環境汚染の不安なく利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係わるPVAcは、たとえば、保護コロイドとしてポリビニルアルコール(以下 配合PVA)を含む水系で、重合開始剤により酢酸ビニル、もしくは酢酸ビニルと共重合可能なコモノマーとが乳化重合されて調製される。
配合PVAが配合されると乳化重合の際に乳化剤として作用するとともに、接着剤として適正な粘度への調整並びに塗布作業性、初期接着力が向上する。
配合PVAについては、平均重合度300〜4000であって、部分ケン化品、中間ケン化品、完全ケン化品のいずれも使用できるが、木工用途の場合は部分ケン化PVAを使用することが、塗布性を向上させる点から好ましい。配合量については、PVAcの樹脂固形分100重量部に対して2〜40重量部が配合され、場合により重合度、ケン化度などの異なる2種類以上のものを併用することもできる。
更に、場合によっては変成PVA、例えばアセトアセチル化PVA、カルボキシル基変性PVAなどが採用されてもよい。
【0009】
酢酸ビニルと共重合可能なコモノマーとして、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシル、などの各種(メタ)アクリル酸エステル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有アクリル系モノマー、(メタ)アクリロニトリル、(N−メチロール)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。
【0010】
なお乳化剤として、例えばポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンステアリル酸エステルなどのノニオン性界面活性剤、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテルサルフェート若しくはスルフォネート、アルキルベンゼンスルフォネートなどアニオン性界面活性剤、ステアリルアミン塩酸塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどのカチオン性界面活性剤、ラウリルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキサイドなど両性界面活性剤が使用されたり、配合PVAともに併用されてもよい。
【0011】
重合開始剤については、例えば、過酸化水素水、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物のほか、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、アゾビスイソブチルニトリルなどが挙げられる。
また、酒石酸、アスコルビン酸など還元剤と併用してレドックス系としても利用できる。
重合開始剤の使用量は酢酸ビニル100重量部に対して0.05〜2重量部が採用される。
【0012】
調製されるPVAcとしては、樹脂固形分30〜60重量%、20℃における粘度0.1〜300Pa・sのものが接着剤組成物の調製に適している。
【0013】
AEには、アクリル系モノマーやこれと共重合可能なコモノマーなどを乳化剤、重合開始剤、重合調整剤などの存在下に乳化重合することにより得られるもので、 アクリル系モノマーとしては、たとえば(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2エチルヘキシル、など(メタ)アクリル酸エステル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有アクリル系モノマー、(メタ)アクリロニトリル、(N−メチロール)アクリルアミドなどが例示される。
また、これらアクリル系モノマーと併せて使用されるコモノマーとして、例えば、スチレン、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸などが挙げられる。
AEは、Tgが0℃以下、好ましくは0〜−60℃であることが、調製される接着剤組成物の低温造膜性並びに低温接着性などのために好ましく、このようなガラス転移温度になるようなアクリル系モノマーならびにコモノマーが選択されることが必要になる。
Tgが0℃を超える場合は調製された樹脂エマルジョンの造膜温度が十分に低下しない懸念があり好ましくない。また−60℃未満では調製された接着剤組成物が余りに柔らかくなりすぎて凝集力が低くなり接着性能を低下させるため適合しない。
【0014】
AEの乳化重合は、公知の方法により行うことができ、例えば、還流冷却管、モノマー滴下口並びに攪拌機の敷設された加熱可能な反応容器内において、乳化剤の存在する水溶液中に前記のような重合開始剤を添加したのちアクリル系モノマーを滴下しながら50〜90℃の温度で、アクリル系モノマーの転化率が90%以上、好ましくは95%以上になるまで攪拌しながら行われる。
【0015】
AEには、前記のようにして得られたもの、或いは市販のアクリル樹脂エマルジョンなどが使用されるが、前記と同様にTgが0℃以下に調製されたものがPVAcの造膜温度を下げる点から観て使用に適している。
【0016】
EVAには、Tgが0℃以下のものが使用に適している。
Tgが0℃を超えるとEVA自体に可とう性に欠ける傾向があり、調製される接着剤組成物の可とう性を損ない、低温接着性や初期接着力が低下する懸念があり好ましくない。
【0017】
PVA液に使用されるポリビニルアルコールは、平均重合度300〜4000の部分ケン化品、中間ケン化品、完全ケン化品のいずれも使用できる。PVA液の濃度に関しては特に制約はないが、10〜30重量%が好ましい。10重量%未満では、配合時に不揮発分が大きく低下するため好ましくない場合がある。30重量%を超えるとPVA液の粘度が高くなり、取り扱いにくくなる場合がある。なお、重合度、ケン化度などの異なる2種類以上のものが併用されてもよい。更に、場合によっては変成PVA、例えばアセトアセチル化変性ポリビニルアルコール、カルボキシル基変性ポリビニルアルコールなどが使用もしくは併用されてもよい。
【0018】
本発明になる接着剤組成物の調製は、PVAc、EVA、AEならびにPVA液が配合して調製され、配合手順は特に制約はないが、製造プロセスから、主原料であるPVAcにその他の配合材が添加、混合する作業手順が製造プロセスの点から好都合である。
接着剤組成物の好ましい配合割合は、樹脂固形分相当でPVAc100重量部に対して、EVA0.1〜100重量部、AE0.1〜20重量部、PVA液0.1〜5重量部であり、これら好ましい配合割合を外れる配合によっては期待されるような性能は得られない。
【0019】
本発明になる接着剤組成物は、低温造膜性ならびに塗布作業性、などの特性を備えるものになっている。
【実施例】
【0020】
以下、本発明について実施例、比較例により詳細に説明する。なお、重量部は単に部、重量%は単に%として表示する。
PVAcの合成例
攪拌機、温度調節器、還流冷却管、温度計を備えた反応容器に水558部を仕込み、ポリビニルアルコール(ケン化度88モル%、平均重合度1700)55部を加え、80℃まで加熱して溶解させ、系内の温度を80℃に保ったままで水20部に過硫酸アンモニウム1部を溶解させた触媒と酢酸ビニル330部を3時間にわたり滴下して乳化重合を進めた。重合反応率は99.3%であった。得られたPVAcの性状値を表に示す。
【0021】
AE
ガンツ化成株式会社のウルトラゾールC−70(Tg −30℃、不揮発分55%)を使用した。性状値を表1に示す。
【0022】
EVA
電気化学工業株式会社のデンカEVAテックス♯59(Tg −18℃、不揮発分56%)を使用した。性状値を表1に示す。
【0023】
PVAの調製
電気化学工業株式会社のデンカポバールB−17(ケン化度88モル%、重合度1700)の15%水溶液を調製した。性状値を表1に示す。
【0024】
接着剤組成物の調製
攪拌機付きの容器に、上記調製したPVAc、EVA、AEならびにPVA液を表2のように配合(表2の配合数値は部を表す。)して実施例、比較例の接着剤組成物を得た。調製された接着剤組成物の特性値ならびに性能は表2の通りであつた。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
試験・評価方法
1.粘度 Pa・s/23℃ BH型粘度計 4rpmと10rpmの平均値
2.常態接着強さ JISK6804(2003年版) 8.8に基づき、かばのまさ目板を用いてブロックせん断試験を行った。
○:接着強さ 10N/mm以上
×:接着強さ 10N/mm未満
3.耐水接着強さ JISK6804(2003年版) 8.8に基づき、かばのまさめ板を用いて試験体を作製し、30℃水中に3時間浸せき後23℃水中に10分間浸せきし、試験を行った。
○:接着強さ 3N/mm以上
×:接着強さ 3N/mm未満
4.低温造膜性/JISK6804(2003年版) 6.8.2に基づき、温度こう配熱板形最低造膜温度測定器を用いて測定した。
5.塗布作業性/30cm角の合板に5℃に調整した接着剤組成物をゴムローラーで100g/m塗布した。
○:接着剤の塗布性が良く、均一に塗布できる。
×:接着剤の塗布性が悪く、均一に塗布できない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明になる接着剤組成物は、低温造膜性、低温接着性、初期接着力並びに塗布作業性に優れるものであるため、冬季、夏季を問わずオールシーズンにわたり安心して特に木工用などの用途に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニル樹脂系エマルジョンに、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョンならびにポリビニルアルコール水溶液が配合されて調製されていることを特徴とする接着剤組成物。
【請求項2】
固形分換算で酢酸ビニル樹脂系エマルジョン100重量部に対して、エチレン・酢酸ビニル樹脂エマルジョン0.1〜100重量部、アクリル樹脂エマルジョン0.1〜20重量部、ポリビニルアルコール水溶液0.1〜5重量部が配合されていることを特徴とする請求項1記載の接着剤組成物。

【公開番号】特開2007−91887(P2007−91887A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283432(P2005−283432)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】