説明

接着剤組成物

【課題】接着剤中の成分のブリードや、ブリードした成分の変色による被着体の汚染を低減した接着剤組成物を提供する。
【解決手段】反応性ケイ素基を有する湿気硬化性樹脂、1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサンまたはジブチル錫塩と正ケイ酸エチルとの反応生成物から選ばれる少なくとも1種の触媒、ポリプロピレングリコール、を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤中の成分のブリードや、ブリードした成分の変色による被着体の汚染を低減した接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
変成シリコーン樹脂などの反応性ケイ素基を有する湿気硬化性樹脂を用いた接着剤は、湿気による硬化が可能であり、被着材適性に優れ、弾性を有するなどの特徴を有することから各種用途に使用されており、タイルやシート状装飾材の接着にも使用されている。一方、接着後に時間が経過するにつれて被着体が変色する問題が指摘されている。この原因は明らかではないものの、接着剤中の成分のブリードが影響しているものと考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特許文献1には耐候性に優れると共に、接着したタイルの防汚性に優れるタイル用接着剤が開示されている。しかしながら、該接着剤はタイル表面に付着した汚れ成分による変色を防止するものであり、接着剤そのものの変色については十分に検討されていなかった。
【特許文献1】特開2009-221422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、接着剤中の成分のブリードや、ブリードした成分による被着体の汚染を低減した接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らが検討を行った結果、反応性ケイ素基を有する湿気硬化性樹脂を用いた接着剤における実質的必須成分である触媒と可塑剤との組み合わせにおいて、特定の場合のみ変色が生じないことを見出し、さらに検討を重ねることによって本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、反応性ケイ素基を有する湿気硬化性樹脂、1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサンまたはジブチル錫塩と正ケイ酸エチルとの反応生成物から選ばれる少なくとも1種の触媒、ポリプロピレングリコール、を含有することを特徴とする接着剤組成物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の接着剤組成物は、使用後に被着体が汚染されにくい。その理由は明らかではないが、接着剤中の成分のブリードが低減され、さらにブリードした成分の変色が抑制されているためと推察される。したがって、タイルやシート状装飾材の接着用途などに特に適する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の接着剤組成物は、反応性ケイ素基を有する湿気硬化性樹脂を含有する。反応性ケイ素基を有する湿気硬化性樹脂は、水のような活性水素基含有化合物と反応することによりシラノール基を生成できる官能基を有する樹脂であり、脱離する保護基の種類によって、脱アルコール型、脱オキシム型、脱酢酸型、脱アミド型、脱アセトン型などがある。また、主鎖としてポリシロキサン構造を有するもの(シリコーン樹脂)や、ポリオキシアルキレン構造を有するもの(変成シリコーン樹脂)が挙げられる。接着用塗に用いる場合、密着性に優れる変成シリコーン樹脂を用いることが好ましい。
【0009】
反応性ケイ素基を有する湿気硬化性樹脂を硬化させる際、通常は硬化触媒が用いられるが、本発明においては1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサンまたはジブチル錫塩と正ケイ酸エチルとの反応生成物から選ばれる少なくとも1種の触媒を用いる。その他の有機錫、無機錫、チタン触媒、ビスマス触媒、金属錯体、白金触媒、塩基性物質及び有機燐酸化物などの触媒を用いた場合、被着体を汚染するおそれがある。したがって、これらの触媒は全く使用しないか、本発明の趣旨を損なわない範囲での使用に留める必要がある。
1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサンまたはジブチル錫塩と正ケイ酸エチルとの反応生成物の使用量の合計は前記反応性ケイ素基を有する湿気硬化性樹脂100重量部に対して0.01〜20重量部が適当である。
【0010】
ポリプロピレングリコールは、接着剤組成物の粘度や流動性を調整するために添加されるものであるが、本発明においては被着体の汚染が少ないという理由で選択されている。粘度や流動性の調製という機能だけについてみれば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシルなどフタル酸エステル系の希釈剤、ジメチルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコンーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイルなどのシリコーンオイル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、アゼライン酸ジアルキル、セバシン酸ジブチル、エポキシ化大豆油、アクリルポリマーなどのポリプロピレングリコールでも同様な効果が期待されるが、被着体を汚染してしまう点でポリプロピレングリコールよりも劣っている。したがって、ポリプロピレングリコール以外の希釈剤は使用しないか、使用するとしても本発明の趣旨を損なわない範囲での使用に留める必要がある。
【0011】
本発明の接着剤組成物にエポキシ樹脂を添加することにより、樹脂強度を向上することができる。また、耐水性、耐候性、耐アルカリ性なども向上する。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型のエポキシ樹脂、それらの水添化物、ノポラツク型、グリシジル型及びグリシジルアミン型のエポキシ樹脂のほか、ポリオキシプロピレンやポリオキシエチレンのグリシジルエーテル、ウレタン結合を持つウレタン変性エポキシ樹脂、エステル結合を持つエステル変性エポキシ樹脂、ゴム成分で変性されたゴム変性エポキシ樹脂等が挙げられる。また、これらのエポキシ樹脂に加えて、エポキシ基含有シランカップリング剤を用いることができる。
【0012】
エポキシ樹脂の硬化剤として、潜在硬化剤であるケチミン類が好ましい。ケチミン類は、1分子中に2つ以上のアミノ基を持つアミン化合物とケトン化合物との脱水縮合反応物であり、分子内の窒素の塩基性が弱いために水分のない状態では、エポキシ樹脂とは殆ど反応しないものの、空気中の水分と反応すると一級アミンが容易に生成し、エポキシ樹脂と反応が進行する特徴があり、吸湿しないかぎり硬化が進行しない利点がある。この特徴が生かされて一液タイプエポキシ樹脂に利用できるもので、具体例として、ポリオキシプロピレンジアミンとメチルイソブチルケトンとを脱水反応したもの、ポリオキシプロピレントリアミンとメチルイソブチルケトンとを脱水反応したもの、ポリオキシアルキレンジアミンとメチルイソブチルケトンとを脱水反応したもの、ヘキサメチレンジアミンとメチルイソブチルケトンとを脱水反応したもの等が挙げられる。
【0013】
その他に必要に応じて脱水剤、カップリング剤、充填材、老化防止剤、揺変剤、顔料、防腐剤等を適宜使用することができる。
脱水剤の添加により貯蔵中における湿気硬化性樹脂組成物と湿気との反応を抑制でき、その例として、ビニルトリメトキシシラン、オルソギ酸エチルなどが挙げられる。湿気硬化性樹脂100重量部に対して0.1〜10重量部の範囲で添加される。
【0014】
カップリング剤は被着体に対する密着性を向上させるなどの目的で用いることができ、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、シラン系又はチタネート系カップリング剤とポリイソシアネート系化合物との反応生成物などを用いることができる。これらは単独で使用、または2種以上を併用することができる。
【0015】
充填材は粘度調整、粘性調整、固形分調整などの目的で配合され、具体例として、炭酸カルシウム、硅砂、タルク、カーボンブラック、酸化チタン、カオリンなどの無機充填材、硬化樹脂の補強のためにガラス繊維などの補強材、軽量化及び粘度調整などのためにシラスバルーン、ガラスバルーンなどの中空体などが挙げられる。
【0016】
老化防止剤としては、亜リン酸塩系、ナフチルアミン系、p−フェニレンジアミン系、キノリン系、ヒドロキノン系、ビスフェノール系、トリスフェノール系、ポリフェノール系、チオビスフェノール系、ヒンダードフェノール系などが挙げられ、単独で使用しても良いし、2種以上を併用することもできる。
【0017】
以下、実施例、比較例により本発明を更に説明する。当然のことながら本発明は実施例に制約されるものではない。
【実施例】
【0018】
反応性ケイ素基を有する湿気硬化樹脂として、変成シリコーン樹脂であるカネカサイリルEST280(株式会社カネカ製、商品名)200重量部、エポキシ樹脂としてアデカレジンEP−4100(株式会社ADEKA製、商品名)30重量部、ポリプロピレングリコールとしてP−3000(株式会社ADEKA製、商品名)240重量部、充填材として表面処理炭酸カルシウムである白艶華CCR−B(白石工業株式会社製、商品名)400重量部、表面未処理炭酸カルシウムであるホワイトンSB(白石カルシウム株式会社製、商品名)400重量部、シランカップリング剤としてDYNASYLAN VTMO(ビニルトリメトキシシラン、エボニック・デグサ・ジャパン株式会社製、商品名)10重量部、SH−6040(グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名)15重量部、ケチミン化合物としてエポニットK−100(日東化成株式会社製、商品名)15重量部、硬化触媒としてネオスタンU−130(1,1,3,3−テトラブチル−1,3−ジラウリルオキシカルボニル−ジスタノキサン、日東化成株式会社製、商品名)3重量部を減圧下で攪拌・混合し、実施例1の湿気硬化性樹脂組成物を得た。
【0019】
実施例1で用いた配合材料の他、ポリプロピレングリコールであるPMLS1004F(旭硝子株式会社製、商品名)、希釈剤としてアジピン酸ジイソノニル(DINP)、硬化触媒としてジブチル錫塩と正ケイ酸エチルとの反応生成物であるネオスタンU−700(日東化成株式会社製、商品名)およびジブチル錫ジアセチルアセトナートであるU−220H(日東化成株式会社製、商品名)を用いて、表1記載の配合にて実施例1と同様に製造を行い、実施例2〜5、比較例1〜6の各接着剤組成物を得た。
【0020】
<耐ブリード性試験方法>
調製された接着剤組成物をSUS板に厚く塗布した後、シート状装飾材であるモダンアート(菊水化学工業株式会社製、商品名、約3mm厚)を貼り付ける。塗布厚はスペーサー等を用い接着剤組成物の厚みが約5mmになるよう調整する。23℃雰囲気下にて7日養生後、さらに80℃雰囲気下にて4週間放置し、シート状装飾材の表面の変色状況を目視にて観察して以下のように評価した。
○:変色はほとんど無く、耐ブリード性に優れる
△:変色が少し見られ、耐ブリード性は若干不足である
×:顕著な変色が見られ、耐ブリード性は認められない
【0021】
<接着強さ試験方法>
調製された接着剤組成物を、表面を研磨したJISモルタルへ5mmピッチくし目ごてを用いて塗布した後、4cm角とした前記シート状装飾材を全裏面に接着剤が充填されるように圧着し試験体を作成する。試験体を23℃雰囲気下にて7日養生後、平面引張強さ試験に供した。
○:接着強さ0.2N/mm以上またはシート状装飾材の材料破壊
×:接着強さ0.2N/mm未満かつシート状装飾材の材料破壊未発生
【0022】
【表1】

【0023】
実施例の各接着剤組成物を用いた場合、被着体の変色はほとんどなく、接着性能にも優れていた。一方、比較例の各接着剤組成物を用いた場合、被着体の変色が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性ケイ素基を有する湿気硬化性樹脂、1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサンまたはジブチル錫塩と正ケイ酸エチルとの反応生成物から選ばれる少なくとも1種の触媒、ポリプロピレングリコール、を含有することを特徴とする接着剤組成物。

【公開番号】特開2012−82290(P2012−82290A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228455(P2010−228455)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】