説明

接着絶縁レールの製造用ボルト及びそれを用いた製造方法

【課題】接着絶縁レールの品質の安定化を促進する。
【解決手段】接着絶縁レールの接着工程において、レール12を所定の温度まで加熱することで、絶縁性の接着シート24から接着剤26を溶出させ、貫通孔12a、16a、24aの内周部とチューブ18の外周部との間の隙間に接着剤を充填する際に、製造用ボルト36のフランジ36cの溝36eから、貫通孔の内周部貫通孔12a、16a、24aとチューブ18の外周部との間の空気を抜き、この隙間に接着剤26を確実に充填する。溝36eからフランジ36cの外周面へと接着剤26が染み出すことで、接着剤26が確実に充填されたことを、目視で簡単に確認することが可能となる。その後、製造用ボルト36に換えて、チューブ18に締結ボルトを挿通して、締結ボルトにナット22を所定のトルクで本締めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道の軌道において、信号機を制御する軌道回路や踏切警報機の制御区間を設けるために設置される、接着絶縁レールの製造技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道の軌道において、レールの継目は保守上の弱点箇所であり、また、騒音・振動の発生源となってしまうことから、溶接によって継目を無くしたロングレールの使用が一般的となっている。しかしながら、列車制御のための軌道回路を構成するために、閉鎖区間を区切る必要もあるため、当該閉鎖区間の端部を接着絶縁レールとして構成している(例えば、非特許文献1参照。)。
図6、図7に示されるように、接着絶縁レール10は、隣接する閉鎖区間の互いに突き合わされたレール12、12間に絶縁材14を挿入し、かつ、レール12、12の側面と継目板16との間に絶縁性の接着シート24を挟み込み、レール12、12の貫通孔12aと、継目板16の貫通孔16aと、絶縁性の接着シート24の貫通孔24aを一致させて、これらの孔にチューブ18及び締結ボルト20を挿通する。そして、締結ボルト20にナット22を締付け、レール12、12の側面に、絶縁性の接着シート24を介して継目板16を密着させ、加熱により絶縁性の接着シート24から溶出する接着剤26で、貫通孔12a、16aと、チューブ18との隙間を埋めるようにして、レール12、12と継目板16とを接着してなるものである。
【0003】
又、その製造手順は、図8に示されるように、表面処理工程S110と、予備加熱工程S120と、プライマ塗布工程S130と、密着工程S140と、接着工程S150と、締結工程S160とを含むものである。まず、表面処理工程S110は、レール12、12及び継目板16を研磨する工程であり、レール12、12及び継目板16の接着面がサンドブラスト処理、ショットブラスト処理又はショットピーニング処理されてこの接着面の錆などが除去され、必要に応じてアセトンなどの溶剤によってこの接着面の油脂分が除去される。
続く、予備加熱工程S120は、レール12、12及び継目板16を予備加熱する工程であり、レール12、12及び継目板16がレール加熱機などの電気炉内で所定の温度まで予備加熱される。
【0004】
又、プライマ塗布工程S130は、レール12、12及び継目板16にプライマを塗布する工程であり、レール12、12、継目板16、貫通孔12a、16a及び絶縁材14の接着面にエポキシ一液配合樹脂やエポキシ化フェノール樹脂系のプライマなどの表面処理材が塗布されて、接着面が指触乾燥状態にされる。
又、密着工程S140は、接着シートを複数重ね合わせた積層材からなる絶縁性の接着剤24(プリプレグ)をレール12、12の側面と継目板16との間に密着させる工程であり、先ず、貫通孔12a、16a、24aにチューブ18を挿入するとともに、チューブ18に締結ボルト20を挿入する。次に、レール12、12の突き合わせ部に絶縁材14を挿入し、レール12、12の側面と継目板16の側面との間に絶縁性の接着シート24を挟み込む。続いて、締結ボルト20に接続ボルト28(図1参照)をねじ込んで、締結ボルト20の軸長を延長し、コイルスプリング34(図1参照)を一組のワッシャ30、32(図1参照)で挟み込んだ状態で、接続ボルト28に挿通する。そして、接続ボルト28にナット22をねじ込んでコイルスプリング34を圧縮し、コイルスプリング34の弾性力によって、レール12、12の側面に、絶縁性の接着シート24を介して継目板16を密着させる。
【0005】
更に、接着工程S150は、レール12、12と継目板16とを絶縁性の接着シート24によって接着するとともに、貫通孔12a、16a、24aとチューブ18との間の隙間に接着剤26(図7)を充填する工程であり、レール加熱器によってレール12、12を所定の温度まで加熱することで、絶縁性の接着シート24から接着剤26を溶出させる。そして、貫通孔12a、16a、24aの内周部とチューブ18の外周部との間の隙間に接着剤26が充填される。その後、所定の硬化温度に維持して均一に加熱し、所定の硬化時間で接着剤26を硬化させる。
最後の締結工程S160は、締結ボルト20とナット22とを所定のトルクで締結する工程であり、接着剤26の冷却後に、一度ナット22を緩めて、密着工程S140にて取付けた接続ボルト28、一組のワッシャ30、32、コイルスプリング34を締結ボルト20から外し、締結ボルト20とナット22とを所定のトルクで本締めする。そして、接着剤26の露出部分とこの周辺にウレタン塗料などの仕上げ塗料が塗布されて、一連の製造工程が完了する(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
【非特許文献1】接着絶縁レールJIS E 1125−1995 日本規格協会
【特許文献1】特開2006−348631号公報(〔0023〕〜〔0029〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の接着絶縁レールの製造手順によると、接着工程S150において、絶縁性の接着シート24から接着剤26を溶出させる際に、貫通孔12a、16a、24aの内周部とチューブ18の外周部との間の空気が完全に抜け、この隙間に接着剤26が確実に充填されていることを、目視で簡単に確認することが不可能である。又、貫通孔12a、16a、24aの内周部とチューブ18の外周部との間の隙間に接着剤26が充填される際に、チューブ18と締結ボルト20との間にも接着剤26が流入し、締結ボルト20も含めて接着されてしまい、締結ボルト20の交換作業が困難となるといった問題も指摘されている。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、接着絶縁レールの製造時に、接着剤が必要な部分に確実に充填されていることを、目視で簡単に確認することを可能とし、品質の安定化を促進することにある。又、接着絶縁レールの製造時に、接着剤が不要な部分に充填されることを防ぎ、ボルトの交換作業を容易に行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。又、各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。よって、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0009】
(1)突き合わされたレール間に絶縁材を挿入し、かつ、前記レールの側面と継目板との間に絶縁性の接着シートを挟み込み、前記レールの貫通孔と、前記継目板の貫通孔と、前記絶縁性の接着シートの貫通孔とを一致させて、これら貫通孔にチューブ及び締結ボルトを挿通し、該締結ボルトにナットを締付け、前記レールの側面に前記絶縁性の接着シートを介して前記継目板を密着させ、加熱により前記絶縁性の接着シートから溶出する接着剤で、前記貫通孔と前記チューブの隙間を埋めるようにして、前記レールと継目板とを接着してなる接着絶縁レールの、製造用ボルトであって、軸部の径が前記締結ボルトと同一、かつ、頭部に前記継目板と密着するためのフランジが一体に形成され、該フランジの前記継目板との密着面に、該フランジ外周面から前記軸部の根元部又はその近傍へと延びる溝が形成されている製造用ボルト(請求項1)。
【0010】
本項に記載の接着絶縁レールの製造用ボルトは、接着絶縁レールの製造工程中、レールの側面に絶縁性の接着シートを介して継目板を密着させる密着工程において、レールの貫通孔と、継目板の貫通孔と、絶縁性の接着シートの貫通孔とを一致させて、チューブを挿通し、これら貫通孔にチューブに製造用ボルトを挿通する。更に、製造用ボルトに接続ボルトをねじ込んで製造用ボルトの軸長を延長し、接続ボルトにコイルスプリングを挿通し、接続ボルトにナットをねじ込んでコイルスプリングを圧縮し、コイルスプリングの弾性力によって、レールの側面に絶縁性の接着シートを介して継目板を密着させる。
続く接着工程において、レール加熱器によって前記レールを所定の温度まで加熱することで、絶縁性の接着シートから接着剤を溶出させ、貫通孔の内周部とチューブの外周部との間の隙間に接着剤を充填する際に、製造用ボルトのフランジ外周面から軸部の根元部又はその近傍へと延びる溝から、貫通孔の内周部とチューブの外周部との間の空気を抜き、この隙間に、接着剤を確実に充填するものである。更に、この溝からフランジ外周面へと接着剤が染み出すことで、貫通孔の内周部とチューブの外周部との隙間に、接着剤が充填されたことを、目視で簡単に確認することが可能である。
【0011】
(2)前記軸部の根元部には、前記継目板の貫通孔よりも小径かつ前記チューブの端面の全周に密着可能な、環状の突起部が形成されている製造用ボルト(請求項2)。
本項に記載の接着絶縁レールの製造用ボルトは、軸部の根元部に形成された環状の突起部が、チューブの端面の全周に密着することで、チューブの内部が密閉される。よって、接着工程において、チューブと製造用ボルトとの間に接着剤が流入し、製造用ボルトも含めて接着されてしまうことを防ぐものである。又、製造用ボルトは、最終的に締結ボルトに交換されるが、この際の、製造用ボルトの取外しを容易に行うことが可能となる。
【0012】
(3)前記環状の突起部は、前記軸部の先端へ向けて直径が減少し、前記チューブの端面と接する部分の直径が前記チューブの外径よりも小径となるように構成されている製造用ボルト(請求項3)。
本項に記載の接着絶縁レールの製造用ボルトは、環状の突起部が、前記軸部の先端へ向けて直径が減少し、前記チューブの端面と接する部分の直径が前記チューブの外径よりも小径となるように構成されることで、接着工程において、チューブと製造用ボルトとの間に接着剤が流入する際に、貫通孔の内周部と、チューブの端面と、環状の突起部の外周面との間に接着剤が充填される。そして、凝固した接着剤は、チューブの抜け止めとして機能する、アンダーカット形状を呈することとなる。
【0013】
(4)上記(1)から(3)項において、少なくともねじ部を除いた部分に、離型を促進する表面処理がされている製造用ボルト(請求項4)。
本項に記載の接着絶縁レールの製造用ボルトは、離型(ボルト表面からの接着剤の剥離)を促進する表面処理がされていることで、絶縁性の接着シートから接着剤を溶出させ、貫通孔の内周部とチューブの外周部との間の隙間に接着剤を充填する際に、接着剤が製造用ボルトに付着してしまったとしても、製造用ボルトが最終的に締結ボルトに交換される際の、製造用ボルトの取外しを容易に行うことが可能となる。製造用ボルトを再利用する際にも、接着剤の剥離を簡単かつ確実に行うことが可能となり、清掃作業が不要となる。又、離型を促進する表面処理を施す部位から少なくともねじ部を除くことにより、密着工程で製造用ボルトのねじ部にねじ込まれる接続ボルト(後述する)との螺合が、離型を促進する処理がなされた層によって阻害されることを防いでいる。
なお、離型を促進する処理の具体例としては、製造用ボルトの表面にフッ素樹脂をコーティングし、又は、窒化処理を施す(セラミックコーティング)こと等が挙げられる。又、密着工程で用いられる接続ボルトのねじ部を除いた部分の表面や、接続ボルトと共に用いられるコイルスプリング、ワッシャの表面にも同様の離型促進処理(各部品の表面からの接着剤の剥離を促進する処理)がされることで、製造用ボルトが、最終的に締結ボルトに交換される際の、接続ボルト、コイルスプリング及びワッシャの取外しを容易に行うことが可能となる。
【0014】
(5)上記(1)から(3)項において、セラミック材料により構成されている製造用ボルト(請求項5)。
本項に記載の接着絶縁レールの製造用ボルトは、セラミック材料により構成されていることで、絶縁性の接着シートから接着剤を溶出させ、貫通孔の内周部とチューブの外周部との間の隙間に接着剤を充填する際に、接着剤が製造用ボルトに付着してしまったとしても、製造用ボルトが最終的に締結ボルトに交換される際の、製造用ボルトの取外しを容易に行うことが可能となる。
又、密着工程で用いられる接続ボルトや、接続ボルトと共に用いられるワッシャの表面についても同様にセラミック材料により構成されることで、製造用ボルトが、最終的に締結ボルトに交換される際の、接続ボルト、コイルスプリング及びワッシャの取外しを容易に行うことが可能となる。
【0015】
(6)突き合わされたレール間に絶縁材を挿入し、かつ、前記レールの側面と継目板との間に絶縁性の接着シートを挟み込み、前記レールの貫通孔と、前記継目板の貫通孔と、前記絶縁性の接着シートの貫通孔とを一致させて、これら貫通孔にチューブ及び締結ボルトを挿通し、該締結ボルトにナットを締付け、前記レールの側面に前記絶縁性の接着シートを介して前記継目板を密着させ、加熱により前記絶縁性の接着シートから溶出する接着剤で、前記貫通孔と前記チューブの隙間を埋めるようにして、前記レールと継目板とを接着してなる接着絶縁レールの製造方法であって、少なくとも、前記レールと前記継目板との密着工程及び接着工程の後に、前記継目板の締結工程を含み、前記密着工程において、前記レールの貫通孔と、前記継目板の貫通孔とを一致させて、チューブを挿通し、該チューブに上記(1)から(5)のいずれか1項記載の製造用ボルトを挿通し、該製造用ボルトにその軸長を延長するための接続ボルトをねじ込み、該接続ボルトにコイルスプリングを挿通し、前記接続ボルトにナットをねじ込んで前記コイルスプリングを圧縮し、該コイルスプリングの弾性力によって、前記レールの側面に絶縁性の接着シートを介して前記継目板を密着させ、前記接着工程において、レール加熱器によって前記レールを所定の温度まで加熱することで、前記絶縁性の接着シートから接着剤を溶出させ、前記貫通孔の内周部とチューブの外周部との間の隙間に前記接着剤を充填し、前記接着剤を硬化させ、前記継目板の締結工程において、前記ナットを緩めて、前記製造用ボルト、前記接続ボルト及び前記コイルスプリングを外し、前記チューブに前記締結ボルトを挿通して、該締結ボルトに前記ナットを所定のトルクで本締めする製造方法(請求項6)。
【0016】
本項に記載の接着絶縁レールの製造方法は、上記(1)項記載の製造用ボルトを用いるものである。そして、接着絶縁レールの製造工程中、接着工程において、レール加熱器によって前記レールを所定の温度まで加熱することで、絶縁性の接着シートから接着剤を溶出させ、貫通孔の内周部とチューブの外周部との間の隙間に接着剤を充填する際に、フランジ外周面から軸部の根元部又はその近傍へと延びる溝から、貫通孔の内周部とチューブの外周部との間の空気を抜き、この隙間に接着剤を確実に充填することができる。更に、この溝からフランジ外周面へと接着剤が染み出すことで、貫通孔の内周部とチューブの外周部との隙間に、接着剤が充填されたことを、目視で簡単に確認することが可能である。
【0017】
更に、上記(2)項記載の製造用ボルトを用いることとすれば、接着工程において、フランジの、軸部の根元部に形成された環状の突起部が、チューブの端面の全周に密着することで、チューブの内部を密閉するものである。よって、チューブと製造用ボルトとの間に接着剤が流入し、製造用ボルトも含めて接着されてしまうことを防ぐことができる。製造用ボルトは、前述のごとく継目板の締結工程において締結ボルトに交換されるが、この際の、製造用ボルトの取外しを容易に行うことが可能となる。又、接着工程では締結ボルトは装着されていないので、締結ボルトに接着剤が付着することもありえず、締結ボルトの交換も容易となる。又、環状の突起部がチューブの端面の全周に密着することで、チューブの位置決めを正確に行うことが可能となる。なお、接続ボルトについてもチューブの端面と接することにより、製造用ボルトの環状の突起部の場合と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0018】
又、上記(3)項記載の製造用ボルトを用いることとすれば、前記環状の突起部は、前記軸部の先端へ向けて直径が減少し、前記チューブの端面と接する部分の直径が前記チューブの外径よりも小径となるように構成されている。従って、接着工程において、チューブと製造用ボルトとの間に接着剤が流入する際に、貫通孔の内周部と、チューブの端面と、環状の突起部の外周面との間に接着剤が充填される。そして、凝固した接着剤がチューブの抜け止めとして機能する、アンダーカット形状を呈することとなる。従って、継目板の締結工程において、製造用ボルトを外す際に、チューブの抜け止めを確実に行うことが可能となる。なお、接続ボルトについても、チューブの端面と接する一端部近傍の外周面がテーパー面で構成され、直径が絞り込まれることにより、製造用ボルトの環状の突起部の場合と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0019】
又、上記(4)、(5)項記載の製造用ボルトを用いることとすれば、接着工程において、レール加熱器によって前記レールを所定の温度まで加熱することで、前記絶縁性の接着シートから接着剤を溶出させ、前記貫通孔の内周部とチューブの外周部との間の隙間に前記接着剤を充填する際に、接着剤が製造用ボルトに付着してしまったとしても、製造用ボルトが最終的に締結ボルトに交換される際の、製造用ボルトの取外しを容易に行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明はこのように構成したので、接着絶縁レールの製造時に、接着剤が必要な部分に確実に充填されていることを、目視で簡単に確認することが可能となり、品質の安定化を促進することができる。又、接着絶縁レールの製造時に、接着剤が不要な部分に充填されることを防ぎ、ボルトの交換作業を容易に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、同一符号で示し、詳しい説明を省略する。
本発明の実施の形態に係る接着絶縁レールの製造用ボルト36(以下、「製造用ボルト」という。)は、図2、図3に示されるように、軸部36aの径が締結ボルト20(図7)と同一、かつ、頭部36bに継目板と密着するためのフランジ36cが一体に形成され、フランジ36cの継目板との密着面36dに、フランジ36c外周面から軸部36aの根元部又はその近傍へと延びる溝36eが形成されている。
【0022】
更に、軸部36aの根元部には、継目板16の貫通孔16aよりも小径かつチューブ18の端面18a(図1)の全周に密着可能な、環状の突起部36fが形成されている。環状の突起部36fは、軸部36aの先端へ向けて直径が減少するように、外周面がテーパー面で構成されている。そして、チューブ18の端面18aと接する部分の直径がチューブの外径よりも小径となっている。
なお、図示の例では、フランジ36cと軸方向に重なるように大径フランジ36gが形成され、大径フランジ36gには、継目板16との干渉を防ぐための二面幅36hが形成されている。又、軸部36aの長さについては、図示の例では締結ボルト20と同じであるが、後述のように、接続ボルト28をねじ込み、コイルスプリング34を一組のワッシャ30、32で挟み込んだ状態で、接続ボルト28に挿通し、接続ボルト28にナット22をねじ込んで、コイルスプリング34を圧縮することが可能な長さであれば、必ずしも、締結ボルト20と同じ軸長である必要は無い。
【0023】
又、図2、図3に示されるねじ部36jを除いた部分に、離型を促進する表面処理を施すこととしても良い。なお、離型を促進する処理の具体例としては、製造用ボルト36の表面にフッ素樹脂をコーティングし、又は、窒化処理を施す(セラミックコーティング)こと等が挙げられる。この場合には、後述の密着工程(S140)で用いられる接続ボルト28(図5)のねじ部28c、28dを除いた部分の表面や、接続ボルト28と共に用いられるコイルスプリング34(図1)、ワッシャ30(図1、図4)の表面にも、同様の離型促進処理を施すことが望ましい。なお、フッ素樹脂層の厚みは、強度と、チューブ18に対する製造用ボルト36の挿通、ワッシャ30やコイルスプリング34に対する接続ボルト28の挿通に必要なクリアランスとを考慮して、適宜決定されるものである。
又、製造用ボルト36を、セラミック材料により構成することとしても良く、接続ボルト28やワッシャ30についても、セラミック材料により構成することとしても良い。
【0024】
さて、製造用ボルト36を使用した接着絶縁レール10(図6)の製造手順は、図8に示される従来の製造手順と概略的には同一であり、詳しい説明を省略するが、密着工程S140及び締結工程S160において、以下の作業内容となる。
まず、密着工程S140において、図1に示されるように、レール12、12の貫通孔12aと、継目板16の貫通孔16aと、絶縁性の接着シート24の貫通孔24aとを一致させて、これら貫通孔にチューブ18を挿通し、チューブ18に製造用ボルト36を挿通する。続いて、製造用ボルト36に接続ボルト28をねじ込んで、製造用ボルト36の軸長を延長する。そして、コイルスプリング34を一組のワッシャ30、32で挟み込んだ状態で、接続ボルト28に挿通し、接続ボルト28にナット22をねじ込んで、コイルスプリング34を圧縮する。そして、コイルスプリング34の弾性力によって、レール12、12の側面に、絶縁性の接着シート24を介して継目板16を密着させる。
【0025】
なお、ここで用いられる一組のワッシャ30、32のうち、継目板16と直接的に当接するワッシャ30については、図4に示されるように、継目板16と当接するボス30aが形成され、ボス30aには、継目板16との干渉を防ぐための二面幅30bが形成されている。又、接続ボルト28は、軸部の径が締結ボルト20(図7)と同一であるが、図5に示されるように、チューブ18の端面18aと接する一端部28a近傍の外周面がテーパー面で構成され、直径が絞り込まれることにより、チューブ18の端面18aと接する部分の直径が継目板16の貫通孔16aよりも小径、かつ、チューブ18の外径よりも小径となっている。又、中間部には、着脱時に工具をかみ合わせるための二面幅28bが形成されている。
【0026】
又、継目板の締結工程S160において、ナット22を緩めて、密着工程S140にて取付けられた製造用ボルト36、接続ボルト28、一組のワッシャ30、32及びコイルスプリング34を外す。そして、チューブ18に締結ボルト20(図7)を挿通して、締結ボルト20にナット22を所定のトルクで本締めする。そして、接着剤26の露出部分とこの周辺にウレタン塗料などの仕上げ塗料が塗布されて、一連の製造工程が完了する。
【0027】
上記構成をなす、本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能となる。まず、接着絶縁レールの製造工程中(図8)、チューブ18に製造用ボルト36を挿通し、製造用ボルト36に接続ボルト28をねじ込んで、製造用ボルト36の軸長を延長する。そして、接続ボルト28にコイルスプリング34を挿通し、ナット22をねじ込んでコイルスプリング34を圧縮し、コイルスプリング34の弾性力によって、レール12、12の側面に、絶縁性の接着シート24を介して継目板16を密着させるものである。
【0028】
又、続く接着工程S150(図8)において、レール加熱器によってレール12、12を所定の温度まで加熱することで、絶縁性の接着シート24から接着剤26を溶出させ、貫通孔12a、16a、24aの内周部とチューブ18の外周部との間の隙間に接着剤を充填する際に、製造用ボルト36のフランジ36cの溝36eから、貫通孔の内周部貫通孔12a、16a、24aとチューブ18の外周部との間の空気を抜き、この隙間に接着剤26を確実に充填するものである。更に、この溝36eからフランジ36cの外周面へと接着剤26が染み出すことで、貫通孔12a、16a、24aの内周部とチューブ18の外周部との隙間に、接着剤26が充填されたことを、目視で簡単に確認することが可能となる。
なお、接続ボルト28の一端部28aの径が絞り込まれ、継目板16の貫通孔16aよりも小径となっていることから、継目板の締結工程S160にて、接続ボルト28が取り外されて、継目板16の貫通孔16aが露出することにより、貫通孔16aの周囲への接着剤26の染み出しを目視により確認し、接着剤26が十分に充填されたことを把握することができる。
【0029】
又、製造用ボルト36の軸部36aの根元部に形成された環状の突起部36fが、チューブ18の端面18aの全周に密着することで、チューブ18の内部が密閉される。よって、接着工程S150において、チューブ18と製造用ボルト36との間に接着剤が流入し、製造用ボルト36も含めて接着されてしまうことを防ぐことができる。
よって、製造用ボルト36は、継目板の締結工程S160(図8)において、締結ボルトに交換されるが、この際の、製造用ボルト36の取外しを容易に行うことが可能となる。又、接着工程S150(図8)では、締結ボルト20は装着されていないので、締結ボルト20に接着剤26が付着することもありえず、締結ボルト20の交換も容易となる。
又、環状の突起部36fがチューブ18の端面18aの全周に密着することで、チューブ18の位置決めを正確に行うことが可能となる。なお、接続ボルトについてもチューブの端面と接することにより、製造用ボルト36の環状の突起部36fの場合と同様の作用効果を得ることが可能である。特に、チューブ18が両端部から、環状の突起部36f及び端面18aにより挟み込まれることで、チューブ18の位置決め効果を、より確実に得ることが可能となる。
【0030】
又、製造用ボルト36に、離型を促進する表面処理がされている場合には、接着工程S150において、接着剤26が製造用ボルト36に付着してしまったとしても、製造用ボルト36が最終的に締結ボルト20に交換される締結工程S160の際の、製造用ボルト36の取外しを容易に行うことが可能となる。製造用ボルト36を再利用する際にも、接着剤26の剥離を簡単かつ確実に行うことが可能となり、清掃作業が不要となる。又、離型を促進する表面処理を施す部位から少なくともねじ部36jを除くことにより、密着工程S140で製造用ボルト36のねじ部36jにねじ込まれる接続ボルト28との螺合が阻害されることを防いでいる。又、接続ボルト28のねじ部28c、28dを除いた部分の表面や、接続ボルト28と共に用いられるコイルスプリング34、ワッシャ30の表面にも同様の離型促進処理がされることで、製造用ボルト36が、最終的に締結ボルト20に交換される際の、接続ボルト28、コイルスプリング34及びワッシャ30の取外しを容易に行うことが可能となる。
なお、接着工程S150では、接着剤26の品質確保のために、一時的に雰囲気温度を230℃程度まで上昇させるが、フッ素樹脂の耐熱温度は260℃程度であることから、フッ素樹脂層を形成した場合に、この層が接着工程S150において熱劣化することはない。
【0031】
又、製造用ボルト36が、セラミック材料により構成されていることで、同様の作用効果を得ることが可能である。この場合、接続ボルト28及びワッシャ30についても、セラミック材料により構成されることで、製造用ボルト36が、最終的に締結ボルト20に交換される際の、接続ボルト28、及びワッシャ30の取外しを容易に行うことが可能となる。
【0032】
更に、製造用ボルト36の環状の突起部36fが、軸部36aの先端へ向けて直径が減少するように、外周面がテーパー面で構成されることで、チューブ18の端面18aと接する部分の直径がチューブ18の外径よりも小径となる。従って、接着工程S150(図8)において、チューブ18と製造用ボルト36との間に接着剤26が流入する際に、貫通孔12a、16a、24aの内周部と、チューブ18の端面18aと、環状の突起部36fの外周面との間に接着剤26が充填されて凝固し、凝固した接着剤26がチューブ18の抜け止めとして機能する、アンダーカット形状を呈することとなる。その結果、継目板の締結工程S160(図8)において、製造用ボルト36を外す際に、チューブ18の抜け止めを確実に行うことが可能となる。なお、同様の作用効果を得るために、環状の突起部36fの外周面を、軸部36aの先端へ向けて直径が減少する曲面で構成することとしても良い。
又、接続ボルト28についても、チューブ18の端面18aと接する一端部28a近傍の外周面がテーパー面で構成され、直径が絞り込まれることにより、製造用ボルト36の環状の突起部36fと同様の作用効果を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態に係る、接着絶縁レールの製造用ボルトを用いた製造方法における、接着工程の状態を示す、レールの要部断面図である。
【図2】図1に示される接着絶縁レールの製造用ボルトの斜視図である。
【図3】図1に示される接着絶縁レールの製造用ボルトの単体図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図である。
【図4】図1に示される接着絶縁レールの製造用ボルトと共に用いられるワッシャの単体図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図である。
【図5】図1に示される接着絶縁レールの製造用ボルトと共に用いられる接続ボルトの単体図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図である。
【図6】接着絶縁レールの要部正面図である。
【図7】図6のA−A断面図である。
【図8】接触絶縁レールの製造手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0034】
10:接着絶縁レール、12:レール、 12a、16a、24a:貫通孔、14:絶縁材、16:継目板、18:チューブ、20:締結ボルト、22:ナット、24:絶縁性の接着シート、26:接着剤、28:接続ボルト、 28c、28d:ねじ部、34:コイルスプリング、36:接着絶縁レールの製造用ボルト、36a:軸部、36b:頭部、36c:フランジ、36d:フランジの継目板との密着面、36e:溝、36f:環状の突起部、36j:ねじ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
突き合わされたレール間に絶縁材を挿入し、かつ、前記レールの側面と継目板との間に絶縁性の接着シートを挟み込み、前記レールの貫通孔と、前記継目板の貫通孔と、前記絶縁性の接着シートの貫通孔とを一致させて、これら貫通孔にチューブ及び締結ボルトを挿通し、該締結ボルトにナットを締付け、前記レールの側面に前記絶縁性の接着シートを介して前記継目板を密着させ、加熱により前記絶縁性の接着シートから溶出する接着剤で、前記貫通孔と前記チューブの隙間を埋めるようにして、前記レールと継目板とを接着してなる接着絶縁レールの、製造用ボルトであって、
軸部の径が前記締結ボルトと同一、かつ、頭部に前記継目板と密着するためのフランジが一体に形成され、該フランジの前記継目板との密着面に、該フランジ外周面から前記軸部の根元部又はその近傍へと延びる溝が形成されていることを特徴とする製造用ボルト。
【請求項2】
前記軸部の根元部には、前記継目板の貫通孔よりも小径かつ前記チューブの端面の全周に密着可能な、環状の突起部が形成されていることを特徴とする請求項1記載の製造用ボルト。
【請求項3】
前記環状の突起部は、前記軸部の先端へ向けて直径が減少し、前記チューブの端面と接する部分の直径が前記チューブの外径よりも小径となるように構成されていることを特徴とする請求項2記載の製造用ボルト。
【請求項4】
少なくともねじ部を除いた部分に、離型を促進する表面処理がされていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の製造用ボルト。
【請求項5】
セラミック材料により構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の製造用ボルト。
【請求項6】
突き合わされたレール間に絶縁材を挿入し、かつ、前記レールの側面と継目板との間に絶縁性の接着シートを挟み込み、前記レールの貫通孔と、前記継目板の貫通孔と、前記絶縁性の接着シートの貫通孔とを一致させて、これら貫通孔にチューブ及び締結ボルトを挿通し、該締結ボルトにナットを締付け、前記レールの側面に前記絶縁性の接着シートを介して前記継目板を密着させ、加熱により前記絶縁性の接着シートから溶出する接着剤で、前記貫通孔と前記チューブの隙間を埋めるようにして、前記レールと継目板とを接着してなる接着絶縁レールの製造方法であって、
少なくとも、前記レールと前記継目板との密着工程及び接着工程の後に、前記継目板の締結工程を含み、
前記密着工程において、前記レールの貫通孔と、前記継目板の貫通孔とを一致させて、チューブを挿通し、該チューブに請求項1から5のいずれか1項記載の製造用ボルトを挿通し、該製造用ボルトにその軸長を延長するための接続ボルトをねじ込み、該接続ボルトにコイルスプリングを挿通し、前記接続ボルトにナットをねじ込んで前記コイルスプリングを圧縮し、該コイルスプリングの弾性力によって、前記レールの側面に絶縁性の接着シートを介して前記継目板を密着させ、
前記接着工程において、レール加熱器によって前記レールを所定の温度まで加熱することで、前記絶縁性の接着シートから接着剤を溶出させ、前記貫通孔の内周部とチューブの外周部との間の隙間に前記接着剤を充填し、前記接着剤を硬化させ、
前記継目板の締結工程において、前記ナットを緩めて、前記製造用ボルト、前記接続ボルト及び前記コイルスプリングを外し、前記チューブに前記締結ボルトを挿通して、該締結ボルトに前記ナットを所定のトルクで本締めすることを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−41360(P2009−41360A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53340(P2008−53340)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)