説明

接触子、電気端子、電気回路

【課題】外部応力を受けることによって発生するウィスカに起因する不具合を抑える。
【解決手段】電気接点に接触して電気的に導通する接触子であって、電気接点と接触する接触部は、所定方向に向かう接触圧力が他方向の接触圧力より高くなる形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気接点に接触して電気的に導通する接触子、接触子を備えた電気端子、および電気端子を備えた電気回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の鉛フリー化の促進にともない、無鉛の錫めっきが用いられている。この無鉛錫めっきは、外部応力を受けるとウィスカが発生し、接触部品間のショートを引き起こす可能性があるという課題が指摘されている。
【0003】
このような接圧ウィスカの評価に関し、『錫又は錫合金皮膜に外部荷重が加えられることにより発生する接圧ウィスカの発生状態を評価する方法で、錫又は錫合金皮膜が形成された試料に対し、この試料面積より小さい面積にて荷重を加えた状態で所定期間放置した後、ウィスカの発生の有無及び発生の程度を観察する。』というものが提案されている(特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−154837号公報(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の技術では、ウィスカの発生の有無および発生の程度を評価することはできるが、ウィスカの発生自体やそれに起因する部品間のショート等の不具合を抑えることはできない。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、外部応力を受けることによって発生するウィスカに起因する不具合を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る接触子は、電気接点に接触して電気的に導通する接触子であって、前記電気接点と接触する接触部は、所定方向に向かう接触圧力が他方向の接触圧力より高くなる形状を有するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る接触子によれば、当該接触子が電気接点に接触してウィスカが発生したとしても、接触圧力の向きが高い方向に向かってウィスカが成長するため、当該接触子の配置を適切に調整することにより、部品間のショートを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る接触子10の構成図である。
図1(a)は正面をやや斜め上から見た正面斜視図、図1(b)は側面をやや斜め上から見た側面斜視図、図1(c)は接触子10を電極などの電気接点の錫めっき20に接触させる様子を示す斜視図である。
【0010】
接触子10は、全体として、底面が八角形の角錐台形状を有する。接触子10の上面は四角形で、底面よりも小さく形成されているため、接触子10全体としては先細り形状となっている。
接触子10の側面には、アーチ状の曲面部が形成されている。上面の右辺と底面の右辺は、このアーチ状の曲面部で接続されている。同様に、上面の左辺と底面の左辺も、アーチ状の曲面部で接続されている、アーチ曲面部に沿った方向を、接触子10の長手方向とする。
【0011】
接触子10は、錫めっき20に対して先細りのアーチ状に突出した形状を有している。
したがって、接触子10の上面側を錫めっき20に対して垂直に圧接すると、錫めっき20を押し出す圧力が、接触子10のアーチ曲面部に沿った方向(長手方向)により強く発生する。
即ち、図1(c)に示す矢印の「長手方向」に示す方向に、より強い押し出し圧力が発生することになる。以下、この強い押し出し圧力の作用について説明する。
【0012】
図2は、四面体形状の接触子30を錫めっき20に圧接させる様子を示す図である。ここでは、説明のため図1とは異なる形状を有する接触子30を例として用い、接触子30の底面を錫めっき20に接触させる例を示した。
図2(a)は接触子30と錫めっき20の斜視図、図2(b)は同上面図である。
【0013】
四面体形状の接触子30の底面を錫めっき20に接触させて上方から圧力を加えると、底面が錫めっき20を押圧して凹ませる力が作用する。特に、図2(b)の矢印で示す方向へ、強い押し出し圧力が発生する。
【0014】
図3は、接触子30を錫めっき20に圧接した状態を所定時間継続した後の様子を示す上面図である。
接触子30の底面が錫めっき20を押圧すると、錫めっき20の表面が僅かに凹み、接触子30の周辺に凹部21が形成される。特に、上述のように図2(b)の矢印で示す向きに強い押し出し圧力が発生するため、凹部21は、底面の各辺から弓形に張り出した形状で形成される。
【0015】
また、時間経過にともなって、錫ウィスカ40が発生する。錫ウィスカ40は、接触子30の底面と錫めっき20の接触面周辺から発生し、時間経過にともなって成長する。
一方、上述のように、図2(b)の矢印で示す向きに強い押し出し圧力が発生しているため、錫ウィスカ40を構成する原子も、同方向に向かって押し出される。したがって、錫ウィスカ40の成長方向も、同矢印と略一致する。
【0016】
錫ウィスカ40の上記のような特性を利用し、錫ウィスカ40の発生位置と成長方向を制御することができる。
即ち、接触子と電気接点が接触した際の押し出し圧力の向きが、隣接する電気接点に向かわないように構成する。これにより、錫ウィスカが発生したとしても、成長方向が隣接電気接点に向かっていないため、錫ウィスカが隣接する電気接点に到達する可能性が低くなり、ショート等の不具合を抑えることができるのである。
【0017】
図4は、本実施の形態1に係る接触子10の配置を説明する図である。
図2〜図3で説明したように、本実施の形態1に係る接触子10は、ウィスカの発生位置および成長方向を制御することができる。
そこで、ウィスカの成長方向を、隣接する錫めっき20に向かわないように調整し、仮に錫ウィスカ40が発生しても、錫ウィスカ40が隣接する錫めっき20に接触しないようにする。
【0018】
具体的には、接触子10のアーチ曲面に沿った方向(接触子10の長手方向)、即ち錫ウィスカの成長方向が、隣接する錫めっき20に向かわないように接触子10の配置を調整する。
これにより、錫ウィスカ40が発生しても、少なくとも隣接する錫めっき20に直接向かう方向に錫ウィスカが成長することはないので、錫めっき20間がショートする可能性を抑えることができる。
【0019】
以上のように、本実施の形態1に係る接触子は、電気接点と接触した際に、所定方向に向かう接触圧力が他方向の接触圧力よりも高くなる形状を有しているので、ウィスカが発生する位置や成長方向を所望範囲内に制御することができる。
【0020】
また、本実施の形態1に係る接触子を電気端子に採用することにより、ウィスカの発生に起因して電気接点間がショートする可能性を低減することができるので、電気端子の安全性を高めることができる。
【0021】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2に係る接触子10の構成図である。
図5(a)は正面をやや斜め上から見た正面斜視図、図5(b)は上面図、図5(c)は側面図、図5(d)は接触子10を電極の錫めっき20に接触させる様子を示す斜視図である。
【0022】
本実施の形態2に係る接触子10は、全体としてアーチ形状を有する。
接触子10の正面および背面のうち頂部に近い部分は、頂部に向かって先細り形状となるように傾斜をつけて切断されている。
接触子10のアーチ曲面に沿った方向を、接触子10の長手方向とする。
【0023】
本実施の形態2に係る接触子10も、実施の形態1に係る接触子10と同様に、錫めっき20に対して先細りのアーチ形状を有する。
そのため、接触子10の頂部を錫めっき20に対して垂直に圧接すると、錫めっき20を押し出す圧力が、接触子10のアーチ曲面に沿った方向(長手方向)により強く発生する。これにより、実施の形態1と同様の効果を発揮する。
【0024】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3に係る電気端子100の構成を示す斜視図である。
電気端子100は、カード型の第2電気端子200を差し込むスロット120を備えている。電気端子100に第2電気端子200を差し込むと、5本の電気配線からなる電気回路が形成される。
【0025】
スロット120内には、第2電気端子200が差し込まれた際に、第2電気端子200が備える5つの電気接点210と接触して電気的に導通する5つの電気接触子110が配置されている。
電気接触子110のうち少なくとも1つは、実施の形態1〜2のいずれかで説明した接触子と同様の構成を備えている。また、電気接触子110には、電気配線が接続されており(図示せず)、第2電気端子200との間で電気信号を送受信する。
なお、図6では、電気接触子110を模式的に球体で表したことを付言しておく。
【0026】
第2電気端子200は、カード型の平板形状を有し、表面には5つの電気接点210が配置されている。
各電気接点210は、第2電気端子200がスロット120に差し込まれた際に、対応する各電気接触子110と接触して電気的に導通する。
各電気接点210には、電気配線が接続されており、電気端子100との間で電気信号を送受信する。また、各電気接点210は、無鉛錫めっきなどの金属皮膜で表面が覆われている。
【0027】
図7は、スロット120に第2電気端子200を差し込んだ状態の正面図である。
図6および図7に示すように、電気接触子110間は遮断されていない。同様に、電気接点210間も、遮断されていない。
なお、ここでいう「遮断されていない」とは、電気接触子110と電気接点210との接点近傍でウィスカが発生した際に、このウィスカが成長して隣接する電気接触子110や電気接点210に到達する経路が存在していることをいう。
【0028】
そのため、電気接触子110と電気接点210の接触面近傍でウィスカ40が発生すると、ウィスカ40が成長して隣接する電気接触子110や電気接点210に到達し、ショートが発生する可能性がある。
そこで、実施の形態1で説明した接触子の構成を採用し、電気接触子110と電気接点210の接触面でウィスカ40が発生しても、成長方向が隣接する電気接触子110等に向かわないようにする。
これにより、ウィスカ40が発生しても、電気接触子110や電気接点210がショートする可能性を抑えることができる。
【0029】
図8は、電気接触子110間が遮断されている場合の正面図である。
この場合は、図6〜図7で説明した構成と異なり、各電気接触子110や電気接点210から隣接する電気接触子110等に至る経路が存在しない。そのため、仮にウィスカ40が発生しても、ショートが発生するおそれはない。
【0030】
図6〜図8に示したように、実施の形態1〜2で説明した接触子の構成は、電気端子100の電気接触子110間、および第2電気端子200の電気接点210間が遮断されていない構成の下で、特に有効である。
【0031】
以上のように、本実施の形態3で説明した電気端子100および第2電気端子200を採用した電気回路は、ウィスカ40の発生に起因するショートの可能性が少ないので、電気的な安全性が高いといえる。
【0032】
また、本実施の形態3で説明した電気端子100および第2電気端子200を採用した電気回路によれば、電気端子100の電気接触子110間、および第2電気端子200の電気接点210間を遮断することなくウィスカの影響を抑えることができる。
そのため、接触子間等を遮断するための部材や加工などのコストを押さえ、安価に安全な電気回路を構成することができる。
【0033】
実施の形態4.
電気接点を形成する金属皮膜は、近年の鉛フリー化の促進を背景に、無鉛錫めっきで形成されている場合があると考えられるが、これ以外の材質で電気皮膜が形成されている場合でも、実施の形態1〜2で説明した接触子の構成は、一定の効果を発揮することを付言しておく。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】実施の形態1に係る接触子10の構成図である。
【図2】四面体形状の接触子30を錫めっき20に圧接させる様子を示す図である。
【図3】接触子30を錫めっき20に圧接した状態を所定時間継続した後の様子を示す上面図である。
【図4】実施の形態1に係る接触子10の配置を説明する図である。
【図5】実施の形態2に係る接触子10の構成図である。
【図6】実施の形態3に係る電気端子100の構成を示す斜視図である。
【図7】スロット120に第2電気端子200を差し込んだ状態の正面図である。
【図8】電気接触子110間が遮断されている場合の正面図である。
【符号の説明】
【0035】
10 接触子、20 錫めっき、30 接触子、40 錫ウィスカ、100 電気端子、110 電気接触子、120 スロット、200 第2電気端子、210 電気接点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気接点に接触して電気的に導通する接触子であって、
前記電気接点と接触する接触部は、
所定方向に向かう接触圧力が他方向の接触圧力より高くなる形状を有する
ことを特徴とする接触子。
【請求項2】
前記接触部は、長手方向が前記所定方向と略一致する先細り形状を有する
ことを特徴とする請求項1記載の接触子。
【請求項3】
前記接触部は、
側面がアーチ状に形成され上面が底面より小さい角錐台形状を有する
ことを特徴とする請求項2記載の接触子。
【請求項4】
前記接触部は、
正面および背面が頂部に向かって先細り状に形成されたアーチ形状を有する
ことを特徴とする請求項2記載の接触子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の接触子を備えた
ことを特徴とする電気端子。
【請求項6】
前記電気接点の長手方向と前記所定方向が略一致するように前記接触子を配置した
ことを特徴とする請求項5記載の電気端子。
【請求項7】
他の電気端子と接続して電気的に導通する電気端子であって、
前記他の電気端子が備える電気接点と接触する複数の電気接触子を備え、
前記電気接触子のうち少なくとも1つは、
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の接触子を用いて構成されており、
前記接触子と、前記接触子に隣接する前記電気接触子との間は、遮断されていない
ことを特徴とする電気端子。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の電気端子と、
前記電気端子と接続する第2電気端子と、
を備えたことを特徴とする電気回路。
【請求項9】
前記第2電気端子は、前記電気接触子と接触する複数の電気接点を備え、
前記第2電気端子が備える電気接点間は遮断されていない
ことを特徴とする請求項8記載の電気回路。
【請求項10】
前記第2電気端子が備える電気接点は、
金属皮膜を略均一の厚さで塗膜して形成されている
ことを特徴とする請求項8または請求項9記載の電気回路。
【請求項11】
前記金属皮膜は錫を用いためっきで形成されている
ことを特徴とする請求項10記載の電気回路。
【請求項12】
前記金属皮膜は無鉛錫めっきで形成されている
ことを特徴とする請求項11記載の電気回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−135172(P2010−135172A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309661(P2008−309661)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)