説明

接触的ガス排除を利用するイオンクロマトグラフィーシステム

【課題】イオンクロマトグラフィー操作を単純化し、排液の棄却を最小化し、稼動コストを減じる、調製された溶離剤または該電解的な溶離剤の製造において使用した水の、再循環を可能とする装置の提供。
【手段】液体クロマトグラフィーシステムを提供するものであり、このシステムは、接触的ガス排除チャンバーにおいて、クロマトグラフィー溶離剤流中の水素および酸素ガスを、接触的に結合させて、水を生成し、結果として該溶離剤流中のガスの含有率を減じる。また、液体イオンクロマトグラフィーシステムをも提供するものであり、該システムにおいて、検出器からの流出液は、膜抑制装置に再循環され、またこれは次いで該クロマトグラフィーカラムに再循環するための、溶離剤源と混合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンクロマトグラフィーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
イオンクロマトグラフィーは、1975年に導入されて以来、様々なサンプルマトリックス中のアニオン性およびカチオン性被検体を決定するための、広く用いられている分析技術となっている。イオンクロマトグラフィーにおいては、酸、塩基または塩の希薄溶液が、一般的にクロマトグラフィー用溶離剤における電解質として使用される。
【0003】
伝統的に、これらの溶離剤は、試薬等級の化学薬品で希釈することによって、オフラインで製造される。クロマトグラフィー用溶離剤のオフライン製造は、面倒であり、また操作者による誤差を生じ易く、またしばしば不純物の混入を来す。例えば、アニオンのイオンクロマトグラフィー分離における溶離剤中の電解液として広く使用されている、希薄NaOH溶液は、炭酸塩により容易に汚染される。炭酸塩を含まないNaOH-含有溶離剤の製造は、炭酸塩が、該試薬由来の不純物として、または空気中の炭酸ガスの吸着により導入されることから、困難である。NaOH-含有溶離剤における炭酸塩の存在は、しばしばイオンクロマトグラフィー法の性能を低下させ、水酸化物濃度勾配処理中の、望ましからぬクロマトグラフィーベースラインのドリフトを引起し、またターゲット被検体の滞留時間の再現性における低下さえも引起す。従って、イオンクロマトグラフィー分離における、溶離剤として使用するための、高純度の酸、塩基または塩の便利な源に対する、一般的な需要がある。
水の電解およびイオン交換媒体を介するイオンの、電荷-選択的エレクトロマイグレーションを利用した幾つかの方法が、高純度のイオンクロマトグラフィー用溶離剤を生成し、かつ製造するために、多くの研究者等によって検討されている。
【0004】
米国特許第5,045,204号は、不純な酸または塩基を、溶離剤発生装置内で精製し、一方でソースチャンネルと生成物チャンネルとを分離している、選択透過性イオン交換膜に沿って、該ソースチャンネルを介して流動させることを開示している。この膜は、カチオンまたはアニオンの選択的透過を可能とする。電位を、該ソースチャンネルと該生成物チャンネルとの間に印加して、該酸または塩基のアニオンまたはカチオンを、前者から後者に通して、そこに夫々電解的に生成されたヒドロキシドイオンまたはヒドロニウムイオンを持つ、塩基または酸を生成する。このシステムは、出発の源またはリザーバとしての、酸または塩基の水性流を必要とする。
【0005】
米国特許第6,036,921号、同第6,225,129号、同第6,316,271号、同第6,316,270号、同第6,315,954号および同第6,682,701号は、担体として水を使用して、高純度の酸および塩基を生成するのに利用できる、電解デバイスを開示している。これらのデバイスを用いると、高純度の、不純物を含まない酸または塩基溶液が、クロマトグラフィー分離における溶離剤として使用するために、オンラインで自動的に製造される。これらのデバイスは、勾配分離を簡略化し、最近では、従来の機械的勾配ポンプを用いる代わりに、最小の遅れを示す、電流勾配を使用して行うことができる。該電解溶離剤発生装置により生成される、高純度溶離剤の使用は、イオンクロマトグラフィー法の性能の大幅な改善を可能とする。
【0006】
米国特許出願第2004/0048389は、塩溶液を生成するための電解デバイスを記載している。これらのデバイスにおいて、酸または塩基は、以下のような工程によって、水性溶液中に生成する:(a) 第一の酸または塩基発生ゾーンにおける、水性液体近傍に、第一のイオン源を設ける工程、該ゾーンは、液体の流動を実質的に阻止し、かつ該第一のイオンと同一の電荷を持つイオンのみを輸送する、第一のバリア(例えば、アニオン交換膜)によって分離されており;(b) 第二の酸または塩基発生ゾーンにおける、水性液体近傍に、反対電荷を持つ第二のイオン源を設ける工程、該ゾーンは、該第二のイオンと同一の電荷を持つイオンのみを輸送する、第二のバリアによって分離されており;および(c) 該第一および第二ゾーンを介して、電位を印加することにより、該第一のバリアを横切ってイオンを輸送して、該第一または第二ゾーンの一方において、酸-含有水性溶液を、また他方のゾーンにおいて、炭酸カリウム溶液等の塩溶液を生成するために結合できる、塩基-含有水性溶液を生成する工程。イオンクロマトグラフィーにおける溶離剤製造のために、これら電解デバイスを使用する利点が、明らかにされた。
【0007】
イオンクロマトグラフィーシステムのこの連続的な操作は、莫大な量の溶離剤を消費する恐れがある。このような大量の溶離剤の一貫した調製並びに使用済み溶離剤の廃棄は、特に無人の操作または極めて低頻度の有人操作を必要とする場合には、コスト並びに労力の点で、重大な論理学的な課題をもたらす。これは、イオンクロマトグラフィーにおける溶離剤製造の、関連する従来の方法の幾つかの問題を克服するが、オンラインでの電解的な溶離剤製造デバイスの使用は、依然として連続操作のために、外部源からの高純度の水を絶え間なく供給することを必要とし、また排液棄却の問題が残される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
イオンクロマトグラフィー操作を単純化し、排液の棄却を最小化し、かつ稼動コストを減じるためには、調製された溶離剤または該電解的な溶離剤の製造において使用した水の、再循環を可能とする装置を提供することが有利であろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様においては、クロマトグラフィー法を提供し、この方法は、(a) 水性溶離剤流に、サンプルのイオン種を注入する工程;(b) 該溶離剤流中の該サンプルイオン種を、クロマトグラフィー用分離媒体を通して流すことによって、該イオン種をクロマトグラフィー分離する工程;(c) 該クロマトグラフィー用媒体からの該溶離剤流の流出液における該分離されたサンプルイオン種を検出する工程;および(d) 接触的ガス排除チャンバー内で、該溶離剤の流れにおける水素および酸素ガスを、接触的に結合させ、または接触的に過酸化水素を分解させ、あるいはこれら両者を実施して、水を生成させ、かつ該溶離剤流中のガス含有率を減じる工程を含む。
【0010】
もう一つの態様においては、クロマトグラフィー法を提供し、この方法は、(a) クロマトグラフィー用分離媒体を流通する、水性液体溶離剤流中のサンプルイオン種を、クロマトグラフィー分離して、クロマトグラフィー流出液を生成する工程;(b) 該工程(a)からのクロマトグラフィー流出液を、膜抑制装置内の第一イオン交換膜の一方の側において、クロマトグラフィー流出液流動チャンネルに流通させることにより、該クロマトグラフィー流出液を抑制する工程;(c) 該クロマトグラフィー流出液流動チャンネルからの抑制装置流出液を、流通式検出器に流通させて、検出器流出液流を生成する工程;(d) 該工程(c)由来の該検出器流出液を、該クロマトグラフィー流出液流動チャンネルから、該第一の膜の反対側における、該膜抑制装置の検出器流出液流動チャンネルに、再循環させる工程;および(e) 該検出器流出液流動チャンネルからの流出液を、溶離剤源と混合し、かつ該混合物を、該クロマトグラフィー用分離媒体まで流動させる工程を含む。
本発明の別の態様では、上記方法を実施できる装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一態様に従う、装置を模式的に示す図である。
【図2】本発明の別の態様に従う、装置を模式的に示す図である。
【図3】本発明の更に別の態様に従う、装置を模式的に示す図である。
【図4】本発明を利用して得た、実験結果を示すクロマトグラムである。
【図5】本発明を利用して得た、実験結果を示す別のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のシステムは、専らアニオンまたはカチオンとしての、イオン種を測定するのに有用である。適当な液状サンプルは、表面水、他の液体、例えば工業的化学的排液、体液、飲料または飲料水を含む。該用語「イオン種」とは、イオン形状にある分子種および本発明の条件下でイオン化し得る分子を包含する。該用語「溶離剤」とは、検出すべきサンプルを担持する、液体クロマトグラフィーシステム中を流動する溶液を意味する。ここでは、しばしば該用語:溶離剤とは、当該溶液中の電解質をも意味する。該溶離剤は、通常水を主成分とするものであるが、電気化学的に安定である限りにおいて、有機溶媒を含むことも可能である。
幾つかの態様において、本発明は、抑制装置を包含する。この抑制装置の目的は、該被検体の導電性を高めつつ、該被検体流背景の導電率およびノイズを減じ(即ち、シグナル/ノイズ比を高め)、かつクロマトグラフィー効率を維持することにある。
【0013】
図1を参照すると、本発明を実施するための単純化された装置が、図示されている。このシステムは、抑制装置を含み、これは検出器から抑制装置への、該溶離剤の再循環を伴う。このシステムの該当部分は、米国特許第5,248,426号に示されている一般的なシステムと類似している。該特許とは異なる、図1のシステムの重要な差異の一つは、該抑制装置由来の流出液が、好ましくは流出液リザーバ内の溶離剤と混合した後に、分離のために使用された該溶離剤電解液の一部として、分離カラムに再循環されることである。好ましい一態様においては、1またはそれ以上の溶離剤精製カラム、例えばイオントラップカラムが、該システムにおいて使用され、該分離カラムにおける溶離剤として使用される前に、該再循環された流れにおける、典型的にはイオン形状にある、不純物が除去され。
【0014】
特に図1を参照すると、該システムは、クロマトグラフィーカラム10内に、典型的にはクロマトグラフィー分離媒体としての、クロマトグラフィー分離媒体を含む。(ここで使用する用語「カラム」とは、意図した機能を果たす、任意の形状を持つ内部チャンバーを備えた、流通式ハウジングと呼ばれる)。任意の公知のクロマトグラフィー分離媒体を使用することができ、イオン交換樹脂、永続的にイオン交換サイトに結合した、多孔質疎水性クロマトグラフィー樹脂、および移動相イオンクロマトグラフィー(MPIC)に使用される媒体を包含する。
【0015】
カラム10と直列式に整列された、抑制装置12は、カラム10からの該溶離剤の電解液の導電率を低下するように機能するが、分離されたイオンの導電率を低下することはない。抑制装置12由来の流出液は、カラム10内で溶解された、イオン種を検出するための検出器、好ましくは検出器の流通式導電率測定セル14に導かれる。イオン種を含む適当なサンプルは、サンプル注入バルブまたは注入装置16を介して供給され、これはポンプ20によって汲み上げられる、溶離剤源またはリザーバ18からの溶離剤溶液として、該装置を流通し、次いでバルブ16を流通する。カラム10を離れる該クロマトグラフィー流出液溶液は、抑制装置12を介して導かれ、該装置において、該電解液は、低導電率のものに変換される。抑制装置12からの該クロマトグラフィー流出液は、導電率測定セルとして模式的に示された検出器14を流通し、そこでイオン種の存在は、イオン性物質の量に比例する電気シグナルを発生する。このようなシグナルは、典型的には検出器14から導電率測定器(図示せず)に導かれる。クロマトグラフィーシステム中のイオン種を検出するのに有用な、任意の他の公知の検出器を使用することができ、これらは吸光度および電気化学的検出器を包含する。
【0016】
一態様において、検出器流出液と呼ばれる、導電率検出器14からの流出液は、再循環用導管22内を、抑制装置12における、少なくとも一つの流通式検出器流出液用の流動チャンネル24に導かれる。イオン交換膜26は、検出器流出液用の流動チャンネル24と、クロマトグラフィー分離流出液用の流動チャンネル28とを分離し、後者は、クロマトグラフィーカラム10からの流出液を受取る。図示された、単純化された変形においては、唯一つの検出器流出液用の流動チャンネル24が使用されている。本発明のこのシステムは、また他の膜型抑制装置、例えば米国特許第5,248,426号に示されているサンドイッチ式抑制装置型の装置にも応用できる。サンドイッチ式抑制装置において、該クロマトグラフィー分離流出液は、イオン交換膜によって分離された、2つの検出器流出液用の流動チャンネルが両側に配置された、中央流動チャンネルを流通する。この態様において、該検出器流出液用の流動チャンネルには、スプリッタバルブの使用により、導電率測定式検出器14からの該検出器流出液を供給する。このようなサンドイッチ式抑制装置の細部および該導電率測定セルからの再循環の利用については、米国特許第5,248,426号に示されている如き、該検出器流出液用の流動チャンネルによって与えられる。説明されているように、アニオン分析に関して、該検出器流出液用の流動チャンネルは、正に帯電しており、また膜26の透過に関して、ヒドロニウムイオンは、以下の式に従って生成される:
【0017】
6H2O → 4H3O + O2 + 4e- (1)
該クロマトグラフィー流出液用の流動チャンネルにおいて、該電解質のカチオン、例えばナトリウムイオンは、膜26を透過して、電解抑制装置用のカソードの流出液中に入る。
ヒドロキシドは、以下の式に従って、水に変換される:
OH- + H3O+ → 2H2O (2)
好ましい一態様において、該抑制装置は、米国特許第5,352,360号の図3および4に示されているような、電解式のものである。
アニオンイオンクロマトグラフィー用の適当な溶離剤溶液は、アルカリ水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、炭酸および重炭酸アルカリ、例えば炭酸ナトリウム、アルカリボレート、例えばホウ酸ナトリウム、これらの組合せ、および上記特許の溶離剤系を包含する。
【0018】
本発明の再循環システムは、またカチオン(例えば、リチウム、ナトリウム、アンモニウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウム)の分析にも応用できる。この例において、該溶離剤の電解質は、典型的には該膜に損傷を与えない酸である。メタンスルホン酸は、電解条件下で、該膜に対して不活性であることが分かっている。他の酸、例えば硝酸および塩酸は、該膜に損傷を与える恐れのある、電気化学的な副産物を生成し、従って該典型的な膜に対しては、一般的には好ましくない。
【0019】
米国特許第5,248,426号の流出液再循環システムにおいて、該検出器流出液用の流動チャンネルからの流出液は、廃棄物として廃棄される。これとは対照的に、図1のシステムにおいては、該流出液は、好ましくは該溶離剤リザーバ18を流通することによって、再度該分離カラム10に導かれる。
特に図1を参照すると、該検出器流出液用チャンネルからの流出液は、ライン30内を、随意の接触的ガス排除カラム31および随意の溶離剤精製カラム32を流動し、またそこから溶離剤リザーバ18の、容器38の密栓36を介して、チューブ突出部(tubing projecting)を流通する。随意のガスベント40を、リザーバ容器38内に設けて、このシステム内で電解により発生した水素および酸素ガスを抜取る。リザーバ18からの溶離剤溶液は、ライン42内を、分離用の溶離剤源として、分離カラム10に導かれる。例証した如く、ライン42内の溶離剤は、ポンプ20を流通し、また分離カラム10に入る前に、随意の溶離剤精製カラム44を流れる。
【0020】
同様に図1に示したように、随意のイオントラップカラム23を、ライン22内の、導電率測定セル14と抑制装置12との間に配置することができる。好ましくは、このイオントラップカラム23には、炭酸塩溶離剤を用いて、アニオン分析用の炭酸塩形状にあるアニオン交換樹脂、あるいは水酸化物溶離剤を用いて、アニオン分析用の水酸化物形状にあるアニオンイオン交換樹脂を充填する。典型的には、これは、正または負の、一方の電荷を持つイオンのみを除去する。酸型の溶離剤を使用して、カチオン分析を行うために、該イオントラップカラムには、ヒドロニウム型のカチオン交換樹脂を充填することができる。このイオントラップカラムは、該抑制された溶離剤中に、被検体イオンを保持する機能を果たす。
【0021】
溶離剤を、該検出器から該分離カラムに再循環するシステムに対しては、注入バルブ16を介して注入されるサンプルの、不純物を除去することが好ましく、また他の痕跡量の汚染物が、該イオンクロマトグラフィーシステムの操作に起因して発生する恐れがある。これは、精製カラム32または44の一方または両者を使用して実施することができる。溶離剤精製カラムの一形態は、好ましくは図示してない入口部分と出口部分とを含み、これらは、強酸性カチオン交換物質で満たされ、例えば該入口部分においては、好ましくは使用する溶離剤のカチオン形状にある、樹脂を含む。例えば、好ましくは該樹脂は、炭酸ナトリウム溶離剤については、ナトリウム型であり、また硫酸溶離剤については、ヒドロニウム型である。該出口部分は、強塩基性カチオン交換物質、例えば該流動する溶離剤のアニオン形状の樹脂で満たすことができる。例えば、その形状は、炭酸ナトリウム溶離剤については、炭酸塩であり、また該硫酸溶離剤については、硫酸塩である。精製カラムで使用される該カチオン交換樹脂および該アニオン交換樹脂両者に対して、高度に架橋され、かつ巨大有孔性の、高い表面積を持つものを使用することが好ましい。少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%の架橋率を持ち、しかも少なくとも10 m2/g、好ましくは少なくとも20 m2/gなる表面積を持つ樹脂を使用することが好ましい。このような樹脂は、該注入されたサンプルの成分および該システムにおいて発生する他の痕跡量の汚染物を除去する上で効果的である。このような樹脂の例は、バイオラド(Bio-Rad)社(CA、ハーキュルス)から入手できる、AG MP-50強酸性カチオン交換樹脂およびAG MP-1M強塩基性アニオン交換樹脂を含む。他の形状の、随意の溶離剤精製装置を使用することも可能である。
【0022】
場合により、該溶離剤精製カラム32または44も、中和された多孔質樹脂、好ましくは高い表面積を持つ樹脂の、付随的な部分を含み、該再循環される溶離剤中の帯電してない不純物を除去することができる。例示した態様において、より大きな溶離剤精製カラム32は、ポンプ20の出口において配置された該随意のより小さな精製カラム44に比して、抑制装置12の上流側に配置され、分離カラム10に入る前に、該溶離剤を更に精製する。該第二の精製カラム44を使用する場合、これは、好ましくは該精製カラム32の容量の約50%以下の容量を持つことが好ましい。適当には、カラム32は、少なくとも0.5ミリ当量なるイオン交換容量を持つ。
【0023】
一般に、該溶離剤精製カラムおよび該イオントラップカラムは、該注入されたサンプルからのイオン、および該システムに起因する幾つかの痕跡量の成分を除去する。該精製された溶離剤が、溶離剤リザーバ18に再循環のために戻された場合、該溶液は、典型的に電解により発生した水素ガスと酸素ガスとの混合物を含む。これらガスの幾分かは、ガス抜き孔36を備えた該溶離剤リザーバ18から除去される。
好ましい一態様においては、内部流通式チャンバーを含む、接触的ガス排除カラム31が、溶出クロマトグラフィーシステム中の、水素および酸素ガスを除去するのに使用され、該システムは、再利用のために検出器からの溶離剤を再循環する。一態様において、該カラム31が、ライン30または34内に、カラム32の前またはその後方に与えられる。
【0024】
典型的に、ここではカラムと呼ぶ、流通式ハウジング内に含まれる、接触的ガス排除チャンバーの動作原理を論じることは、有益である。水素と酸素とを結合して水を生成することは、発熱過程であるものの、水素および酸素は、一緒に混合した際に、自発的に反応することはない。その理由は、この反応を開始するに要する活性化エネルギーが比較的高いからである。このメカニズムは、幾分複雑である。これは、以下のような、初期段階の一つを含む、遊離基メカニズムである:
H2 (g) → 2H・ (g) (3)
【0025】
2個の水素原子間の結合を破壊するためには、432 kJ/モルなるエネルギーを必要とする。このエネルギーは、先ず火花および火炎によって与えることができる。この反応の開始後に、生成されたエネルギーが、該水素分子を破壊し続けるのに要するエネルギーを与える。触媒は、より低い活性化エネルギーを持つ、別のメカニズムを与え、これが、火炎または火花等のエネルギーを初期に投入する必要なしに、該反応の進行を可能とする。
【0026】
白金が、この水素と酸素との反応を触媒することは公知である(Nature, 1997, 390:495-497; J. Chem. Phys., 1997, 107:6443-6447; Surface Science, 1995, 324:185-201)。水素および酸素で満たされた容器に白金を配置した場合、加熱されるにつれて、白金は白光を放ち、水滴が該容器内で凝縮する。該白金を冷却して、該混合物の着火を阻止すると、水素と酸素とが、円滑に水に転化される。この反応は、白金が該反応に対する新たな経路を与えることから起る。この新たな経路において、水素分子は、白金の表面において白金原子と反応する。この反応は、H-H結合を破壊し、かつ2つのPt-H結合を生成する。この過程に関する活性化エネルギーは、小さい。酸素が、これらのPt-H基と反応して、再度、極めて小さな活性化エネルギーを持つ水を形成する。該反応に関する、この低エネルギー経路を介して、白金は、水素および酸素ガスの再結合を触媒する。該用語「触媒」とは、この機能を果たす任意の触媒を包含する。白金は、このような触媒の一具体例として列挙した。
【0027】
水素および酸素ガスの反応を接触的に誘起して水を生成するための、白金等の触媒の公知の特性を利用する、上記原理は、液体クロマトグラフィーにおいて使用する、本発明の接触的ガス排除チャンバーに関する基礎を与える。これが、図1に示した如きシステムにおける、溶離剤中の、電解抑制装置により発生する上記ガス状電解副産物の除去を可能とする。このようなシステムにおいて、該電解抑制装置再生チャンバー24の出口から出てくる流出液は、該接触的ガス排除カラム31を流通し、該カラムにて、該流出液中の水素および酸素が、触媒を介して反応して水を生成する。該カラム31には、金属状態、メッシュ形状または箔形状にある純粋なPt等の適当な触媒を充填することができる。あるいは、該カラムには、またPtで被覆された他の不活性な物質を充填することも可能である。本発明においては、随意の接触的ガス排除カラム31は、幾つかの重要な機能を果たす。先ず、該発生した水素および酸素ガスを、有利に排除するための、正確かつすっきりした手段を与え、また結果として連続的な溶離剤の再循環作業を簡略化する。第二に、水素および酸素の水-生成反応が、該カラム内で化学量論的に起ることが予想され、また生成する水の量は、原理的に、該抑制装置の電解操作中に、水素および酸素ガス製造に消費された量と同一の量であると予想される。原理的に、この特徴は、該抑制装置の電解操作中の、水の消費による、溶離剤の濃度における増加を防止する。第三に、該Pt接触的ガス排除カラムは、また該抑制装置の電解操作中に生成される可能性のある、痕跡量の過酸化水素を、接触的に分解する機能をも果たす。該再循環される溶離剤中の過酸化水素の存在は、該システム内の該分離カラムおよび該溶離剤精製カラムにおける、イオン交換性官能基を攻撃して、該カラムの性能を劣化させるので、有害となる可能性がある。過酸化水素の分解を触媒するためのPtの使用は、周知である(Bull. Korean Chem. Soc., 1999, 20(6):696; 米国特許第6,228,333号)。
【0028】
該接触的ガス排除チャンバーは、様々な物理的形状を持つことができる。その一態様は、該カラム内に収容された、金属粒子、メッシュ形状または箔形状にある純粋なPtを保持するのに使用される、フリット化流通式端部部品を備えた、クロマトグラフィーカラムハウジングを使用する。このカラムには、またPtで被覆された他の不活性な物質を充填することもできる。好ましい一態様において、該カラムの内径は、1mm以上であり、また該カラムの長さは、0.5cm以上である。該触媒の効率を高めるために、高い表面積を与える様々な形状を持つ、Pt充填物質を使用することが好ましい。また、該接触的ガス排除チャンバーを、0.1μL/分〜50mL/分なる範囲の流量にて稼動することが好ましいが、これ以外の流量を使用することも可能である。
【0029】
多数のシステムが、クロマトグラフィーシステムおよびイオンクロマトグラフィーシステムにおける、溶離剤の再循環のために知られている。米国特許第6,027,643号は、水性溶液中に酸または塩基を電解的に生成し、および同時にイオンクロマトグラフィーシステムにおける、クロマトグラフィー分離後に、イオン交換床中の溶離剤の導電率を抑制するための方法並びに装置を開示している。米国特許第6,562,628号は、電解抑制装置と別の溶離剤生成装置との組合せ並びにイオンクロマトグラフィーシステムにおけるこのようなデバイスの使用法を教示している。米国特許第6,093,327号および同第6,558,551号は、電解デバイスの幾つかの異なる態様およびイオンクロマトグラフィーにおけるその使用を開示している。開示されたイオンクロマトグラフィーシステムの幾つかの態様における、好ましい担体流として脱イオン水が使用されているので、上記の特許は、イオン交換水精製カラム(polisher column)に通した後に、使用済みの水を、再循環できることを記載している。しかし、これらの特許は、再循環すべき水の使用済みの流れにおける、水素および酸素ガスの存在に係る潜在的な問題を扱っていない。
特に図2を参照すると、水の再循環を利用した、イオン還流式クロマトグラフィーシステムが図示されており、幾つかの差はあるが、米国特許第6,562,628号の図1と同様なシステムおよび原理を利用している。接触的ガス排除カラム、溶離剤リザーバ、および溶離剤精製カラムが、付加されている。該リザーバから溶離剤を汲上げるためのポンプが図示されている。更に、随意の脱ガス装置56も図示されている。該システムでは、該'628特許における図1と本発明の図2の共通の要素について、先ず簡単に説明し、その後該付加された要素に関して説明する。
【0030】
図2のシステムは、好ましくは水精製カラムとの組合せにて、接触的ガス排除カラムを使用することによる、イオンクロマトグラフィーシステムにおける、改良された水の再循環法を例示する。これは、水精製カラムの使用と該接触的ガス排除カラムとを組合わせて、アニオン分析のために、水酸化カリウム溶離剤を生成し、かつこれを再循環する、イオン還流に基くイオンクロマトグラフィーシステムに、水を再循環することを例示するものである。該電解的溶離剤生成および再循環モジュールおよび電解抑制装置の詳しい機能は、該'628特許に記載されている。このイオンクロマトグラフィーシステムにおいては、脱イオン水が、水酸化カリウム溶離剤の該電解的生成ならびに再循環における、好ましい担体流として使用される。該溶離剤生成並びに再循環モジュールの出口から出てくる流出液は、水、水素ガス、酸素ガス、および該イオン還流式イオンクロマトグラフィーシステム全体の稼動に由来する、可能な幾つかの痕跡量の成分の混合物である。この水を再循環するために、該溶離剤生成並びに再循環モジュールからの流出液を、先ず該接触的ガス排除カラムに通して、水素および酸素ガスを除去する。水素および酸素ガスが、該電解溶離剤生成並びに再循環モジュールおよび該電解抑制装置内で起る、電気化学的な過程において化学量論的な量で生成されるので、水素および酸素が結合して、初めに消費された量と同一の量で、水が生成されるものと予想される。次いで、該接触的ガス排除カラムからの流出液を、水精製カラムに通して、残留する痕跡のイオンおよび非イオン性の汚染物質を除去する。該精製された水は、該水用のリザーバに戻される。
【0031】
該'628特許の図1と比較した、本発明の図2の追加の部品は、本発明の図1に示した態様における対応する部品と、構造並びに機能において類似する。従って、類似する部品は、同様な参照番号で示されており、またそのような部品の説明が当てはまる。
特に図2を参照すると、ライン165内の、該溶離剤生成装置から出てくる溶液は、接触的ガス排除カラム31、溶離剤精製カラム32(該'628特許の図1における精製カラム67に相当)およびライン34を介して、溶離剤リザーバ18用の容器38に流入する。ライン34内の該再循環された溶液は、溶離剤リザーバ18内で混合され、またライン42内を、ポンプ20を介して、第二の溶離剤精製カラム44に導かれる。(リザーバ18の抜取りパイプは、水素および酸素ガスが、カラム31において排除できるので、図示されていない)。これ以外は、該システムは上記の通りである。
【0032】
同様に、接触的ガス排除カラムは、任意の他のクロマトグラフィーシステム、例えば上に述べたシステムにおいて有利に使用でき、そこで該検出用流出液は、溶離剤液体の源として再循環される。
再度図2を参照すると、イオンクロマトグラフィーシステムが図示されており、これは、連続電解再生式、充填床型の抑制装置形(CERPBS)式の装置および一態様に係る溶離剤生成装置を利用している。このシステムは、チューブ112によってサンプル注入バルブ114に接続された、分析ポンプ20を含み、該バルブは、順次チューブ116により、典型的にはクロマトグラフィー樹脂粒子を充填したクロマトグラフィーカラム形状の、流通式クロマトグラフィー分離装置118に接続されている。該クロマトグラフィーカラム118からの流出液は、チューブ120から、充填されたイオン交換樹脂床の流通式抑制装置122まで流れる。典型的に、該抑制装置122は、イオンクロマトグラフィー抑制のために使用される型の、イオン交換樹脂床126が充填された、カラム124で作られている。電極が、該抑制装置内で、隔置状態にて設けられており、該電極の少なくとも一つは、以下に説明するようなバリアによって、該樹脂から分離されている。これらの電極は、図示されていない、直流電源に接続されている。その構成は、該抑制装置に水性流を流し、かつ出力を適用することによって、該水性流中の水が、電解の作用を受けて、ヒドロニウムイオンまたはヒドロキシドイオンを生成し、この分析中、該イオン交換樹脂床を継続的に再生する。
【0033】
該抑制装置流出液は、チューブ130を介して、適当な検出器132に導かれ、次いで最終的に排液となる。好ましい検出器は、流通式導電率測定セルを備えた、導電率式検出器である。該クロマトグラフィー流出液は、このセルを介して流動する。
抑制装置122は、アノードにおいてヒドロニウムイオン(および酸素ガス)を、またカソードにおいて水酸イオン(および水素ガス)を生成する。即ち、電解質を含む含水溶離剤は、該ポンプからチューブ112を通して導かれる。サンプルは、サンプル注入バルブ114から注入され、チューブ116によってクロマトグラフィーカラム118に導かれて、該サンプルの分離されたイオン種を含む、第一のクロマトグラフィー流出液を形成する。説明の簡略化のために、特に述べない限り、このシステムは、電解質として水酸化ナトリウムを含む、溶離液を用いた、アニオンの分析に関連して記載されるであろう。
【0034】
適当なサンプルは、サンプル注入バルブ114から供給され、ポンプ20によって供給される溶離液中に搬入される。アノード136が、樹脂床126の出口端部に、該床内の樹脂と密に接触した状態で、配置される。該樹脂床126からの流出液は、検出器に導かれ、該検出器は、適当には、該流出液中に溶解したアニオンを検出するための、導電率測定装置と接続された、該導電率測定式検出器(図示せず)の流通式導電率測定セル132の形状にある。
【0035】
図1に関連して論じた、該検出器において、アニオンの存在は、イオン性物質の量に比例する電気的なシグナルを生成する。
このシステムは、また検出に先立って、該抑制装置122からの流出液を加圧するための随意の部材をも含み、以下において説明するような、該システム中で発生するガス(水素または酸素)による悪影響を最小化する。図1に示したように、このような加圧手段は、該導電率測定セル132の下流側の圧力レストリクタ138を含んでいて、該イオンクロマトグラフィーシステムを加圧下に維持する。
【0036】
カラム124は、典型的にイオン交換カラムにおいて従来から使用されているプラスチック製である。これは、適当なサイズ、例えば60mmなる長さおよび4mmなる径を持つ、円筒状の空洞を含む。これには、高い交換容量を持つカチオン交換樹脂、例えばスルホン化ポリスチレン型の樹脂が充填される。カラムの出口を与えるように機能する、多孔質フリットによって、この樹脂を、該カラム内に収容することが適当である。例示した態様においては、該多孔質フリットは、多孔質の電極であって、この電極は、該樹脂収容機能と、電極としての機能との、二重の機能を果たす。
バリア140は、中空ハウジング内部において、床126を電極142から分離しており、結果として電極チャンバー144内のイオン受容性流動チャンネルを画成し、あらゆる顕著な液体流動を阻止するが、該樹脂床126上の交換可能なイオンの電荷と同一の電荷を持つイオンのみの輸送を可能とする。アニオン分析のために、バリア140は、カチオン交換膜の状態、または電極チャンバー144を、該カチオン交換樹脂から分離するプラグ形状にあることが適当である。
【0037】
該水性液体流を、電極チャンバー144の入口150まで導くために、導管148が設けられている。導管152は、該流出液を、該チャンバー144から該溶離剤生成装置まで導く。これは、同時に液漏れに対する封止をも容易にする、該電極との電気的接触を行わせるための手段をも与える。
ラインX-Xが、該樹脂床126を横切るように示されている。以下に説明するような理由のために、該点線の上流側の樹脂は、主としてまたは完全に、分離の際に電解質として使用された、塩基のカチオン型の対イオンの形状にあり得る。該ラインX-Xの下流側の該樹脂は、主としてまたは完全に、そのヒドロニウム型のものであり得る。該ラインX-Xは、界面を表す。
【0038】
アニオン分析のためには、分極DC電位を、カソード142とアノード136との間に印加して、以下の反応を生起させる。
以下の反応に従って、水を電解し、またヒドロニウムイオンを、アノード136にて発生させる:
H2O - 2e- → 2H+ + 1/2 O2↑ (4)
これは、該カチオン交換樹脂床126においてカチオンを生成して、該カチオンをバリア140まで移動させる。これは、順次、ヒドロニウムイオンを該床126を介して上方に移動させ、その前方において、カチオンの同様な移動を引起す。これらのカチオンは、バリア140に向かって電気的に移動し、カソードチャンバー144内を、バリア140からカソード142へと輸送され、一方水は、カソード142にて電気分解され、以下の式に従って水酸化イオンを生成する:
【0039】
2H2O + 2e- → 2OH- + H2↑ (5)
該バリアを横切って輸送されたカチオンは、生成したヒドロキシドイオンと結合して、カソードチャンバー144内で、カチオンヒドロキシドを形成する。分離装置からの流出液は、床部分126内のヒドロニウム型樹脂に到達するまで、入口床部分126内のカチオン型樹脂を介して濾過されて、そこで中和され、一方で該カチオンは、該樹脂に保持される。この点において、該アニオンの塩は、その各酸に転化され、該カチオンヒドロキシドは、僅かにイオン化された形状の水に転化される。
【0040】
該分離されたアニオンを含有する、該抑制された流出液は、導管130を介して床126を離れ、また導電率測定セル132まで流通し、そこで該分離されたアニオンの導電率が検出される。
以上、図2の抑制装置を、アニオン分析用のシステムに関連して説明してきた。しかし、このシステムは、またカチオンの分析にも応用できる。この例において、電極136は、カソードであり、また電極142はアノードである。樹脂のイオン交換型は、逆にすることができる。即ち、分離床118内の樹脂は、カチオン交換樹脂であり、また抑制装置床126内の樹脂は、アニオン交換樹脂である。該プラグまたは膜140は、アニオン交換材料製である。
【0041】
簡単に説明すると、該抑制装置は、カチオン分析に対しては、以下の如く作用する。検出すべきカチオンを含有する水性液体流および酸電解質の水性溶離剤は、カチオン交換樹脂を含む分離床118に導かれる。分離床118からの流出液は、交換可能なヒドロキシドイオンを持つ、アニオン交換樹脂を含有する抑制装置の床126を流通する。該溶離剤中の酸は、僅かにイオン化された型に転化される。該交換性のヒドロキシドの幾分かは、該酸由来のアニオンによって置換される。
電位を、該カソード136と該アノード142との間に印加する。水を電極136において電解して、ヒドロキシドを生成し、該アニオン交換樹脂床上のアニオンを、バリア140に向けて電気的に移動させ、かつ電極チャンバー144内のイオン受容式流動チャンネル内で、正に帯電したアノード142に向けて、該バリアを横切って輸送し、一方でチャンバー144内の水を電気分解して、ヒドロニウムイオンを生成し、該イオンは該輸送されたアニオンと結合して、該電極チャンバー144内で酸を生成する。該抑制装置の床126からの流出液は、検出器132を介して流れ、そこで分離されたカチオンが検出され、かつ電極チャンバー144に再循環される。
【0042】
再度図2を参照すると、アニオン分析用の第一のシステムを説明する、溶離剤発生装置の一態様が図示されており、そこでは電極チャンバー144内で生成された塩基が、該溶離剤発生装置に導かれる。この態様は、電気化学的動作の点において、抑制装置124と類似している。該溶離剤発生装置に関するこの態様において、適当なハウジング154は、イオン交換樹脂156の充填床として、電解質イオンリザーバを含む。該樹脂床156は、帯電した発生装置バリア160によって、第一の発生装置電極チャンバー158から分離され、該バリアは、顕著な液体流動を阻止するが、電解質イオンの輸送を可能とし、従って抑制装置140に関連して説明した型のものであり得る。発生装置電極162が、該発生装置電極チャンバー158内に配置され、かつ包囲されており、該電極チャンバー144と同様な構造を持つものであり得る。該バリア160の、該電極162と反対側において、機能および構造において、該抑制装置電極136と類似する、流通式発生装置電極164がある。
【0043】
該抑制装置との関連で上に説明した電気化学的反応は、該溶離剤発生装置内で起り、従ってこれを参考としてここに組入れる。即ち、アニオンの分析のためには、該ラインX-Xは、該樹脂床156の入口部分156aと、出口部分156bとを分離している。ライン152内の供給物の流れは、カチオン型の該入口部分156aに流入し、一方で該出口部分は、ヒドロニウムイオン型である。しかし、一つの違いは、導管152内の供給物流が、既に塩基を含んでいることにある。該供給物流は、バリア160近傍の充填樹脂床156を出、床156を横切って流動し、また電極164介して出口から流出し、あるいは上記のような電極のある別の型を介して流出する。同様に、該充填床は、バリア160近傍のその入口端部において、電解質イオン型(例えば、カリウムまたはナトリウム)であり、かつ電極164に隣接するその出口端部付近では、水素イオン型である樹脂を含む。
【0044】
同一の型の充填床樹脂および他の型のマトリックスを、該抑制装置におけるように、溶離剤発生装置において使用できる。図示したように、発生装置電極チャンバー158を流動する水性液体源は、該樹脂床チャンバー154の出口から再循環される液体である。具体的には、このような液体は、導管165を流れ、混合(カチオンおよびアニオン交換)床の水精製カラムまたは溶離剤精製カラム32に流入する。このカラムは、典型的に長さ2〜40cmおよび内径0.5〜10cmなる範囲にある。そこから、該流れは、導管を介して流動し、また溶離剤リザーバ58まで流動する。アニオン分析の場合には、該カチオンヒドロキシドは、抑制装置に関連して上述したように、該カソードと隣接する、チャンバー58内で製造される。該水精製装置を通過した後、該水源は脱イオン処理され、従って該分析を妨害することはない。随意の溶離剤精製カラム44を、ポンプ20の背後に配置して、該脱イオン処理水の流れをさらに精製することができる。
【0045】
クロマトグラフィーシステムは、該接触的ガス排除カラム内で、完全な接触的転化のために、非-化学量論的な量のH2またはO2を製造することができる。図3に示したような、本発明のもう一つの態様において、ガス発生デバイス、好ましくは電解によるデバイスは、これらのガスを化学量論的な量に調節すべく、ライン上に配置して、該接触的ガス排除カラムを利用して、該溶離剤中の該水素および酸素ガスの殆ど全て、好ましくは実質上全てを排除することができる。
図3に示したシステムは、メタンスルホン酸(MSA)溶離剤発生装置を用いて例示されている。これは、該MSA溶離剤を発生する工程中に、酸素ガスを生成する。該溶離剤発生装置を離れた、該MSA溶離剤流内の酸素ガスは、該流れを、ジオネックス(Dionex) EG50溶離剤発生装置脱ガスモジュール(米国、CA州、サニーベールの、ジオネックス社(Dionex Corporation)において使用されている型の、透過性チューブ片を流通させることによって除去することができる。図3に示したシステムにおいて、酸素ガスを含有する該MSA溶液の流れは、電解的ガス発生装置に通され、該発生装置は、該MSA溶離剤流中の酸素ガスの量に対して、水素ガスを、化学量論的な量で発生するのに使用される。次いで、電解的ガス発生装置を出た該流れは、該接触的ガス排除カラムに通され、そこで化学量論的な量の水素および酸素ガスが、接触的に反応して、水を生成する。従って、該接触的ガス排除カラムを出た該MSA溶離剤流は、実質的にガスを含まず、また図3に示されているような、該イオンクロマトグラフィーシステムにおける溶離剤として使用することができる。
【0046】
特に図3を参照すると、図1および2に示されたものと類似の部品は、同様な参照番号が付されている。該容器38内の、該溶離剤リザーバ18からの担体溶液(例えば、脱イオン水)は、ライン42内のポンプ20、溶離剤精製カラム44を介して、該電解MSA溶離剤発生装置50の該溶離剤発生チャンバー52に導かれる。
該電解MSA溶離剤発生装置の構成は、米国特許第6,225,129号の図1に示された型のものと類似するものであり得る。この装置は、MSAイオン源リザーバ50aを含み、該リザーバは、MSA電解質溶液で満たすことができる。該MSA溶離剤発生チャンバー52は、適当には以下に記載する、帯電した選択透過性の膜の形状にある、バリア56によって、該MSAイオン源リザーバ50aから分離されている。該バリア56は、実質的に液体の流動を阻止し、一方で該イオン源リザーバ50aから該MSA発生チャンバー52までの、MSAイオンに対するイオン輸送ブリッジを与える。ここで使用する用語「バリア」とは、該リザーバ50aとチャンバー52とを分離する帯電した物質(例えば、膜)を意味し、これはイオンの流動を可能とするが、単独でまたは適当な流通式ハウジングとの組合せとして、実質的な液体の流動を遮断し、ここで該バリアは、全流路を横切って、流れを横断するように設けられる。該帯電したバリア56は、該チャンバー52における圧力に耐え得るように、十分な厚みを持つべきである。例えば、該チャンバー52が、クロマトグラフィーシステムと直結されている場合には、このような圧力は、6.890MPa〜20.67MPa(1,000〜3,000psi)程度であり得る。
【0047】
カソード58は、該MSAイオン源リザーバ50aと電気的な接触状態となるように設けられ、好ましくはその内部に設けられ、またアノード54は、塩基発生チャンバー52と電気的な接触状態となるように設けられ、好ましくはその内部に設けられる。適当なDC電源(図示せず)が、該アノードとカソードとを接続している。また、アノード54からバリア56を介して、カソード58までの、連続した電気的な通路がある。
純粋な酸(例えば、MSA)を製造するために、該溶離剤精製カラム44からの高純度の脱イオン水が、該発生チャンバー52に導かれる。水の分配は、両電極において起る。リザーバ50aにおけるカソード反応は、以下の通りである:
2H2O + 2e- → 2OH- + H2↑ (6)
【0048】
この反応中、水酸イオンは、該リザーバ50a内のカソードによって生成される。該リザーバ50aの一形態において、そのイオン源は、MSA-含有溶液、適当にはメタンスルホン酸溶液である。このように、ヒドロキシドイオンはヒドロニウムイオンと反応して、水を生成し、メタンスルホン酸アニオンは、該バリア56を通過する主なイオンであって、結果的にヒドロキシドイオンの流れを最小にする。該リザーバにおける、該ヒドロキシドイオンとヒドロニウムイオンとの反応は、該リザーバ内の溶液に電気的中性性を与える。というのは、該MSAイオンが、印加された電場の作用下で、該バリア56を横切って該発生チャンバー52に導かれ、該発生チャンバーで、ヒドロニウムイオンが、以下のアノード反応によって生成されるからである:
H2O - 2e- → 2H+ + 1/2O2↑ (7)
【0049】
MSAイオンとヒドロニウムイオンとのこの組合せは、流動する水性流中での酸(MSA)の生成に導く。形成されるMSAの濃度は、印加された電流に直接比例し、かつ流量に逆比例する。
該溶離剤生成チャンバーからの該流動する水性溶液は、MSAおよび酸素ガスを含有する。次いで、この混合物を、ライン46を介して該電解ガス発生装置50に導く。該電解ガス発生装置50は、カチオン性イオン交換樹脂床60aで満たされたカラム60から形成することができる。以下に説明するような形状の電極は、該電解ガス発生装置内で隔置されており、一方の電極は、以下に記載するようなバリアによって、該樹脂と分離されている。該電極は、直流電源(図示せず)に接続されている。その構成は、該電解ガス発生装置を介して水性流を流し、かつ電力の適用によって、該水性流中の水が電気分解されて、水素ガス源を、および該カソードにおいて、ヒドロキシドイオンを、また該アノードにおいて酸素ガスおよびヒドロニウムイオンを生成する。
【0050】
入手の容易性および既知特性のために、イオン交換樹脂床60aの好ましい形態は、樹脂粒子の充填イオン交換床である。該樹脂粒子は、該床に密に充填されており、電極62と66との間に、イオン流動用の、連続したイオンブリッジまたは通路を形成することが望ましい。また、該水性流が、不当な圧力降下を示すことなしに、該床を流動するのに十分な間隙を設けるべきである。
該樹脂は、適当には、該カラムに対する出口を与えるように機能する、多孔質フリットによって、該カラム内に収容される。例示した態様において、この多孔質フリットは、多孔質電極62であって、これは、樹脂を収容する機能と、電極としての機能との、二重の機能を果たす。該樹脂床60aの出口端部に設けられた該カソード62は、好ましくは該床内の樹脂と、密な接触状態にある。
【0051】
バリア64は、中空ハウジング内部において、該樹脂床62と該電極66(アノード)とを分離し、電極チャンバー68を画成し、如何なる顕著な流体流動をも阻止し、一方で該樹脂床26における交換可能なイオンの電荷と同一の電荷を持つイオンのみを輸送することができる。該カソード62において水素ガスを発生させるために、バリア64は、適当には、該電極チャンバー68と該カチオン交換樹脂とを分離する、カチオン交換膜またはプラグ形状を持つものである。
該電極チャンバー68における電極66も、適当には、バリア64との密な接触状態にある、不活性金属(例えば、白金)多孔質電極の形状を持つものである。電極は、水を電極チャンバー68に通じた場合に、該電極/膜界面の、良好な流通を可能とするように製造される。
この電極は、適当には、ある長さを持つ微細な白金ワイヤを、ほぼディスク型の物体を製造するように、潰し、かつ成型することによって作られ、該ディスク型物体は、その構造全体を通しておよび該電極/膜界面において容易に流体を流動させることができる。該ディスク電極66とバリア64との間の良好な接触は、単にその一方を他方に対して押圧することによって維持される。該電極は、該電極チャンバー68を介する、水性液体流路の全てまたはその一部を横切って伸びて、該流動する水性流との密な接触をもたらすことができる。導管70は、該流動する水性液体流を、該電極チャンバー68の入口に導くために設けられている。導管72は、該流出液を、該チャンバー68から排液部まで搬送する。
【0052】
DC電流を、該電解ガス発生装置60のアノード66とカソード62との間に通すことによって、該デバイスのカソード62において、水素ガスを制御された量で生成し得る。発生する水素ガスの量は、印加された電流の量に直接比例する。MSA溶離剤の流入する流れにおける酸素ガスの量に依存して、実質的に化学量論的量の水素ガスを、該電解ガス発生装置に印加する電流を調節することによって、発生させることができる。このようにして、該電解ガス発生装置60から流出するMSA溶液の該水性流は、実質的に化学量論的な量の水素および酸素ガスを含む。この流れは、該接触的ガス排除カラム31に導かれ、そこで水素および酸素ガスは、接触的に反応して、水を生成する。該接触的ガス排除カラムから出てくる該MSA溶離剤流は、従って実質的にガスを含まず、また他の下流側の部材を含む、イオンクロマトグラフィー工程における溶離剤として使用される。
サンプル注入装置16および分離カラム10と直列に配列されているのは、抑制装置12であり、これは該カラム10からの溶離剤の電解液の導電率を抑制するが、該分離されたイオンの導電率を抑制することはない。該カラム10からの流出液を、該カラム10内に溶解しているイオン種を検出するための、検出器に導かれるが、該検出器は、好ましくは検出器の流通式導電率測定セル14の形状にある。
【0053】
一態様において、検出器流出液と呼ばれる、該導電率検出器14からの流出液は、再循環用導管22において、該抑制装置12の少なくとも一つの流通式検出器流出液の流動チャンネル24に導かれる。イオン交換膜26は、検出器流出液の流動チャンネル24と、該クロマトグラフィーカラム10からの流出液を受取る、クロマトグラフィー分離流出液の流動チャンネル28とを分離している。図示した、単純化された変形においては、単一の検出器流出液の流動チャンネル24のみを使用している。本発明のシステムは、また他の膜抑制装置、例えば米国特許第5,248,426号に示されている、サンドイッチ式の抑制装置に適用することも可能である。サンドイッチ式の抑制装置において、該クロマトグラフィー分離流出液は、側面に、イオン交換膜によって分離された、2つの検出器流出液流動チャンネルを備えた、中央流動チャンネルを流通する。この態様において、該検出器流出液流動チャンネルには、分配バルブの使用によって、導電率測定式検出器14からの検出器流出液を供給することができる。このようなサンドイッチ式抑制装置の細部および該導電率測定セルからの再循環の利用については、米国特許第5,248,426号に示されているような、検出器流出液の流動チャンネルによって与えられる。
【0054】
図3に示したように、該抑制装置流出液の流動チャンネル24からの流出液は、ライン30を介して、カチオントラップカラム32に導かれ、該カラムにはヒドロニウム型のカチオン交換樹脂が充填される。該カチオントラップカラム32は、注入バルブ16を介して注入されたサンプルの不純物を除去するために使用され、また他の痕跡量の汚染物質は、該イオンクロマトグラフィーシステムの稼動の結果発生する可能性がある。
図3に示したシステムは、またアニオン分析のための試薬並びに帯電成分とは、適宜逆転した極性を持つ、塩基性溶離剤を生成するために応用することも可能である。
【0055】
本発明の上記態様において、水素および酸素ガスの接触的結合によって生成された水は、該生成した水を該溶離剤流に流すことによって、該溶離剤流用の水の源として機能させ得る。これらのガスは、該クロマトグラフィーシステム内で電解的に発生させることができ、あるいは水素および酸素ガスの独立した源、例えば加圧容器から供給することができる。
【実施例】
【0056】
以下の実施例は、システムに関する本発明を立証するものであり、該システムにおいて、該溶離剤は、オフライン式で調製し、再循環し、また水が、イオンクロマトグラフィーにおける、該電解的溶離剤調製に際して使用される。
実施例1:電解抑制装置および炭酸ナトリウム/重炭酸ナトリウム溶離剤の再循環を利用した、共通アニオンのイオンクロマトグラフィー分離
本実施例は、図1に示した、溶離剤-再循環式イオンクロマトグラフィーシステムの、塩素、硝酸塩、および硫酸塩イオンを含む、共通アニオンの測定のための使用について説明する。定組成二重ピストン式高圧ポンプ、6-ポート注入器、カラムオーブン、および導電率検出器からなる、ジオネックス(DionexTM) ICS-1500イオンクロマトグラフィーシステムを使用した。ジオネックス4-mmAS4A SCカラムを、分離カラムとして使用し、3mMの炭酸ナトリウム溶液を、溶離剤として使用し、また分離を1.5mL/分にて行った。ジオネックスアニオンアトラス(AtlasTM)電解抑制装置を、これらの実験において使用した。該接触的ガス排除カラムを、1/8 OD×1/16 ID×40cmのプラスチックカラムに、多孔質Pt箔製の小さなストリップを充填することによって、調製した。該溶離剤精製カラムに、前に説明したように、イオン交換樹脂を充填した。一連の実験において、塩素、硝酸塩、および硫酸塩イオンを含むサンプル溶液を、毎日注入した。各被検体の滞留時間およびクロマトグラフィー効率を、500時間の期間に渡って追跡し、その間に、3mM炭酸ナトリウム溶液2Lを、図1に示した構成のシステムにおいて、連続的に再循環させた。
【0057】
再現性のデータを、500時間に及ぶ連続的な稼動期間に渡り、塩素に関して得られた滞留時間に対してプロットした。塩素について測定した、平均滞留時間は、1.202分であり、また塩素の滞留時間に関するRSD(相対的標準偏差)(%)は、0.5%未満であった。同一の期間に渡り、平均滞留時間は、硝酸塩について1.822分であり、また硫酸塩について3.44分であり、硝酸塩および硫酸塩に関する滞留時間の%RDSは、夫々0.6%および2.7%であった。
これらの結果は、図1に示したイオンクロマトグラフィーシステムが、長期間に渡って、再循環された炭酸ナトリウム溶離剤を使用して、対照とする被検体イオンの再現性ある分離を実施するのに、利用できることを示している。このような形式のイオンクロマトグラフィーシステムの稼動は、このシステムの動作を単純化し、廃棄すべき排液の量を最小化し、また稼動コストを減じる。
【0058】
実施例2:電解抑制装置および硫酸溶離剤の再循環を利用した、共通カチオンのイオンクロマトグラフィー分離
本実施例は、図1に示した、溶離剤-再循環式イオンクロマトグラフィーシステムの、リチウム、ナトリウム、アンモニウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウムイオンを含む、共通カチオンの測定のための使用について説明する。二重ピストン式高圧ポンプ、6-ポート注入器、カラムオーブン、および導電率検出器からなる、ジオネックス(Dionex) DX500イオンクロマトグラフィーシステムを使用した。ジオネックス4-mmCS12Aカラムを、分離カラムとして使用し、22mNの硫酸溶液を、該溶離剤として使用し、また分離を1.0mL/分にて行った。ジオネックスカチオンアトラス(AtlasTM)電解抑制装置を、これらの実験において使用した。本実施例においては、該接触的ガス排除カラムおよび該溶離剤精製カラムは、使用しなかった。ジオネックスTMC-1痕跡金属濃縮カラムを、カチオントラップカラムとして使用し、該導電性セルの出口と該抑制装置再生チャンバーの入口との間に、配置した。一連の実験において、リチウム、ナトリウム、アンモニウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウムを含むサンプル溶液を毎日注入し、各被検体の滞留時間およびクロマトグラフィー効率を、14日間の期間に渡り、安定に測定し、その間、22mN硫酸溶液1400mLを、連続的に再循環させた。この14日間の期間中、各被検体の滞留時間に関する相対的標準偏差は、1.1%未満であり、また各被検体のクロマトグラフィー効率に関する相対的標準偏差は、2.3%未満であった。
【0059】
実施例3:電解抑制装置およびメタンスルホン酸および2-ブタノン(MEK:メチルエチルケトン)を含有する溶離剤の再循環を利用した、共通カチオンのイオンクロマトグラフィー分離
本実施例は、図1に示した、溶離剤-再循環式イオンクロマトグラフィーシステムの、リチウム、ナトリウム、アンモニウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウムイオンを含む共通カチオンの測定のための使用について説明する。本実施例では、二重ピストン式高圧ポンプ、6-ポート注入器、カラムオーブン、および導電率検出器からなる、ジオネックス(Dionex) DX500イオンクロマトグラフィーシステムを使用した。ジオネックス4-mmCS15カラムを、分離カラムとして使用し、12mMのメタンスルホン酸(MSA)および5%(v/v) HPLC等級のブタノンを含む溶液を、該溶離剤として使用し、また分離を1.0mL/分にて行った。ジオネックスカチオンアトラス(AtlasTM)電解抑制装置を、これらの実験において使用した。溶離剤精製または接触的ガス排除カラムは、使用しなかった。ジオネックスTMC-1痕跡金属濃縮カラムを、カチオントラップカラムとして使用し、これを該導電性セルの出口と該抑制装置再生チャンバーの入口との間に配置した。この一連の実験において、塩素、硝酸塩、および硫酸塩イオンを含むサンプル溶液を毎日注入し、各被検体の滞留時間およびピーク面積応答を、25日間の期間に渡り、安定に測定し、その間に、12mMのメタンスルホン酸(MSA)および5%(v/v) HPLC等級のブタノンを含む溶液1400mLを、連続的に再循環させた。この24日間の期間中、各被検体の滞留時間に関する相対的標準偏差は、0.6%未満であり、また各被検体のクロマトグラフィー効率に関する相対的標準偏差は、2.0%未満であった。
【0060】
図1に示したイオンクロマトグラフィーシステムは、長期間に渡り再循環される、有機溶媒を含有するイオンクロマトグラフィー用溶離剤を用いた、対象とするカチオンを再現性良く分離するのに使用することができる。このような形式のイオンクロマトグラフィーシステムの稼動は、このシステムの動作を単純化し、廃棄すべき排液の量を最小化し、また稼動コストを減じる。
【0061】
実施例4:水担体流を用いた、イオン還流式イオンクロマトグラフィーシステムを利用した、共通アニオンのイオンクロマトグラフィー分離
本例において使用する主システム部材を図2に示す。GP40ポンプおよびAS15分離カラム(4-mm ID×250-長さ)空なるDX500イオンクロマトグラフィーシステム(CA州、サニーベールのジオネックス社(Dionex Corporation))を使用した。ジオネックスASRSアニオン抑制装置(P/N 53946)を、該抑制装置として使用した。ジオネックスED40検出器における組込み式電源を、該抑制装置に300mAのDC電流を供給するのに使用した。流通式の導電率測定セルを備えた、ジオネックスED40導電率検出器を使用して、該抑制装置からの流出液を追跡した。該溶離剤生成および再循環モジュールは、米国特許第6,562,628号に記載されたような、我々の以前の研究において説明したものと類似するものであった。ジオネックスEG50溶離剤発生器モジュール(Eluent Generator Module)を使用して、該溶離剤発生器および再循環モジュールのアノードおよびカソードに、DC電流を供給した。ジオネックスピークネット(Dionex PeakNet) 5.0コンピュータワークネットを、計器の制御、データの収集、およびプロセッシングのために使用した。
【0062】
一連の実験において、4Lの脱イオン水の源を、担体流として使用し、該溶離剤発生装置および再循環モジュールを、1.0mL/分にて、1〜100mN KOHなるヒドロキシド勾配を生成するのに使用し、該AS15カラム上の7種の共通のアニオンを、44日間の期間に渡り連続的に追跡し、該溶離剤発生装置および再循環モジュールのアノードチャンバーから出てくる水を再循環させた。図4は、(1)44日間に渡り連続的に使用した該脱イオン水および(2)脱イオン水の新たな源を使用して、該AS15カラム上のフッ素、塩素、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、およびリン酸塩について得られたクロマトグラムを、比較したものである。これら2つのクロマトグラムは、被検体の滞留時間に関して、完全に重なり合う。該再循環水を使用して得たクロマトグラムの背景電導度は、極めて低水準に維持された (新鮮な脱イオン水を使用して得た値よりも、極僅かに高い)。該再循環水の電導度も、同様に44日間の期間に渡り連続的に追跡した(意味不明でしたので、whichを省略して訳しました)。これらの結果は、最初の24時間に渡る再循環の際の、空気中の二酸化炭素の吸収に起因する、2μSなる初期の増加後、該再循環水の電導度が、本質的に一定に維持されたことを示している。
【0063】
これらの結果は、図2に示した、該イオンクロマトグラフィーシステムが、長期間に渡り再循環される水を用いた、対象とするカチオンの再現性のある分離を実施するために、利用可能であることを示している。このような形式のイオンクロマトグラフィーシステムの稼動は、このシステムの動作を単純化し、廃棄すべき排液の量を最小化し、また稼動コストを減じる。
【0064】
実施例5:電解ガス発生デバイスおよび接触的ガス排除カラムを備えた、イオンクロマトグラフィーシステムを利用した、共通化チオンのイオンクロマトグラフィー分離
本例は、図3に示した、イオンクロマトグラフィーシステムの、リチウム、ナトリウム、アンモニウム、カリウム、マグネシウム、およびカルシウムを含む、共通カチオン測定のための使用について説明する。定組成二重ピストン式高圧ポンプ、6-ポート注入器、カラムオーブン、および導電率検出器からなる、ジオネックス(Dionex) ICS-2000イオンクロマトグラフィーシステムを使用した。ヒドロニウム型に転化されたジオネックス電解pH調節器を、該電解ガス発生装置として使用した。該接触的ガス排除カラムを、4-mm ID×50-mmPEEKカラムに、Pt箔製の小さなストリップを充填することによって、調製した。ジオネックス4-mmCS12Aカラムを、分離カラムとして使用した。ジオネックスCSRSウルトラ(Ultra) II抑制装置を、これらの実験において使用した。図5は、図3に従って組立てた、イオンクロマトグラフィーシステムを用いて得た、6種の共通カチオンの分離を示す。該CS12Aカラム上の、6種のカチオンの分離は、1.0mL/分にて、ジオネックスEGG MSAカートリッジを用いて生成した、20mM MSAの溶離剤を使用して達成した。
【0065】
メタンスルホン酸(MSA)溶離剤発生装置を用いるイオンクロマトグラフィーシステムにおいて、酸素ガスは、該MSA溶離剤の製造工程中に生成される。該溶離剤発生装置から出てくる該MSA溶離剤流中の酸素ガスは、典型的に該流れを、ジオネックスEG50溶離剤発生装置脱ガスモジュール(米国、CA州、サニーベールのジオネックス社(Dionex Corporation))において使用されている型の、透過性チューブ片に通すことによって、除去される。本例において、酸素ガスを含む、20-mM MSAの流れは、該電解ガス発生装置に通された。32mAのDC電流を、該電解ガス発生装置に供給して、該MSA溶離剤流中の酸素量に対して、化学量論的な量の水素ガスを生成した。次いで、該電解ガス発生装置を出た流れを、該接触的ガス排除カラムに通し、そこで化学量論量の水素および酸素ガスを接触的に反応させて、水を生成した。従って、該接触的ガス排除カラムから出てくる、該MSA溶離剤流は、ガスを含まず、また他の下流側部材を含む該イオンクロマトグラフィー工程における溶離剤として使用された。図5に示した結果は、図3に示されたイオンクロマトグラフィーシステムが、ターゲット被検体イオンのイオンクロマトグラフィー分離を行うのに使用できることを示している。
本発明のいくつかの態様を以下に示す。
[1]
クロマトグラフィー法であって、以下の諸工程:
(a) 水性溶離剤の流れに、サンプルのイオン種を注入する工程;
(b) 該溶離剤の流れ中の該サンプルのイオン種を、クロマトグラフィー用分離媒体を通して流すことによって、該イオン種をクロマトグラフィー分離する工程;
(c) 該クロマトグラフィー用媒体からの該溶離剤流の流出液中の該分離されたサンプルイオン種を検出する工程;および
(d) 接触的ガス排除チャンバー内で、該溶離剤の流れ内の水素および酸素ガスを、接触的に結合させ、または接触的に過酸化水素を分解させ、あるいはこれら両者を実施して、水を生成させ、かつ該溶離剤流中のガス含有率を減じる工程、
を含むことを特徴とする、上記クロマトグラフィー法。
[2]
更に、(e) 該溶離剤流中で、該水素および酸素ガスを、電解的に生成する工程をも含む、[1]記載の方法。
[3]
更に、(e) 該溶離剤流中で、電解質を電解的に生成する工程をも含み、該水素ガス、酸素ガス、またはこれら両者が、該電解的生成工程の副産物として形成される、[1]記載の方法。
[4]
更に、(e) 該クロマトグラフィー分離工程後であって、かつ該検出工程前に、該電解質の導電率を、電解的に抑制する工程をも含む、[1]記載の方法。
[5]
該溶離剤流中の、該水素ガス、酸素ガス、またはこれら両者が、該抑制工程中の副産物として生成される、[4]記載の方法。
[6]
該電解質の生成を、イオン交換用媒体中で行い、該方法が更に、
(f) 該イオン交換用媒体を横切る、隔置された第一および第二の電極間に、電位を印加する工程をも含み、該溶離剤中の該水素または酸素ガスが、該第一電極の近傍にて発生する、[3]記載の方法。
[7]
一方の電荷を持つイオンのみを通過させ、かつバルク液体流を遮断することを可能とする、イオン交換バリアを、該第一の電極と該イオン交換用媒体との間に設ける、[6]記載の方法。
[8]
該電解的生成工程を、(f) 一方の電荷を持つイオンのみを通過させ、かつバルク液体流を遮断することを可能とする、イオン交換バリアを横切って、隔置された第一および第二の電極間に、電位を印加する工程によって実施する、[3]記載の方法。
[9]
上記工程(c)の終了後に、該溶離剤流を、該クロマトグラフィー用媒体へと導く、[1]記載の方法。
[10]
該副産物ガスが、水素ガスまたは酸素ガスであるが、これら両者ではなく、該方法が、更に(f) 該溶離剤流と、流体接続関係にある、ガス発生チャンバー中で、酸素ガス副産物に対する水素ガスを発生し、あるいは水素ガス副産物に対する酸素ガスを生成する工程をも含む、[3]記載の方法。
[11]
上記工程(d)において生成する水が、該溶離剤に対する水源として、該溶離剤流中に流入する、[1]記載の方法。
[12]
該水素および酸素ガスが、独立した源から、該溶離剤流に供給される、[1]記載の方法。
[13]
(a) クロマトグラフィー用分離媒体を流通する、水性液体溶離剤流中のサンプルイオン種を、クロマトグラフィー分離して、クロマトグラフィー流出液を生成する工程;
(b) 該工程(a)からのクロマトグラフィー流出液を、膜抑制装置内の第一イオン交換膜の一方の側において、クロマトグラフィー流出液流動チャンネルに流通させることにより、該クロマトグラフィー流出液を抑制する工程;
(c) 該クロマトグラフィー流出液流動チャンネルからの抑制装置流出液を、流通式検出器を流通させて、検出器流出液流を生成する工程;
(d) 該工程(c)由来の該検出器流出液を、該クロマトグラフィー流出液流動チャンネルから、該第一の膜の反対側における、該膜抑制装置の検出器流出液流動チャンネルに、再循環させる工程;および
(e) 該検出器流出液流動チャンネルからの流出液を、溶離剤源と混合し、かつ該混合物を、該クロマトグラフィー用分離媒体まで流動させる工程、
を含むことを特徴とする、クロマトグラフィー法。
[14]
更に、(f) 該溶離剤源と混合する前に、該検出器流出液流中のイオン性の成分を少なくとも部分的に除去する工程をも含む、[13]記載の方法。
[15]
更に、(f) 接触的ガス排除チャンバー内で、該検出器流出液の流れにおける水素および酸素ガスを、接触的に結合させ、または接触的に過酸化水素を分解させ、あるいはこれら両者を実施して、水を生成し、結果として該検出器流出液流中のガス含有率を減じる工程をも含む、[13]記載の方法。
[16]
更に、該分離媒体を流通させる前に、該検出器流出液流と溶離剤源とを混合する工程をも含む、[13]記載の方法。
[17]
(a) クロマトグラフィー用分離媒体;
(b) 検出器;
(c) 該クロマトグラフィー用分離媒体と、該検出器との間に流体接続を与える、水性液体溶離剤流用の導管;および
(d) 該導管と流体接続関係にあり、また該溶離剤流中の、水素および酸素ガスを結合するための触媒、または接触的に過酸化水素を分解するための触媒、またはこれら両触媒を含み、水を生成し、かつ該溶離剤流中のガス含有率を減じる、接触的ガス排除チャンバー、
を含むことを特徴とする、クロマトグラフィー装置。
[18]
更に、(e) 該溶離剤流を介して電位を印加して、該溶離剤流中に、水素ガス、酸素ガスまたはこれら両者を生成するための、隔置された第一および第二の電極をも含む、[17]記載の装置。
[19]
更に、(e) 該導管と流体接続状態にある、電解質および副産物の水素ガス、酸素ガスまたはこれら両ガスを発生するための、電解的電解質発生装置をも含む、[17]記載の装置。
[20]
該電解質発生装置が、イオン交換媒体および該イオン交換媒体を介して電位を通じるように設けられた、隔置された第一および第二電極を含む、[19]記載の装置。
[21]
該電解的発生装置が、更に一方の電荷を持つイオンのみを通過させ、かつバルク液体流を遮断することを可能とし、該第一の電極と該イオン交換用媒体との間に設けられたイオン-交換バリアを含む、[20]記載の装置。
[22]
該電解的発生装置が、更に該バリアの他方の側における、隔置された第一および第二の電極および一方の電荷を持つイオンのみを通過させ、かつバルク液体流を遮断することを可能とする、イオン-交換バリアを含む、[19]記載の装置。
[23]
更に、(e) 流出液を、該検出器からクロマトグラフィー用分離媒体に導くための再循環ラインをも含む、[17]記載の装置。
[24]
更に、該液体溶離剤流用の導管と流体接続関係にある、加圧された、水素および酸素ガス源をも含む、[17]記載の装置。
[25]
(a) クロマトグラフィー用分離媒体;
(b) 検出器;
(c) クロマトグラフィー流出液流動チャンネル、検出器流出液流動チャンネルおよびこれら2つの流動チャンネルを分離する、イオン交換膜を含む、膜抑制装置;
(d) 該分離装置媒体と該膜抑制装置との間に流体接続関係を与える、第一の導管;
(e) 該膜抑制装置と該検出器との間に流体接続関係を与える、第二の導管;
(f) 該検出器と該検出器流出液流動チャンネルとの間に流体接続関係を与える、第三の導管;および
(g) 該検出器流出液流動チャンネルと該分離媒体との間に流体接続関係を与える、第四の導管、
を含むことを特徴とする、クロマトグラフィー装置。
[26]
更に、(h) 該第一、第二または第三の導管の少なくとも一つと流体接続関係にあり、また該導管の少なくとも一つにおいて、水素および酸素ガスを結合するための触媒を含む、接触的ガス排除チャンバーをも含む、[25]記載の装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a) クロマトグラフィー用分離媒体を流通する、水性液体溶離剤流中のサンプルイオン種を、クロマトグラフィー分離して、クロマトグラフィー流出液を生成する工程;
(b) クロマトグラフィー流出液を、膜抑制装置内のイオン交換膜の一方の側において、クロマトグラフィー流出液流動チャンネルに流通させることにより、該クロマトグラフィー流出液を抑制する工程;
(c) 該クロマトグラフィー流出液流動チャンネルからの抑制装置流出液を、流通式検出器を流通させて、検出器流出液を生成する工程;
(d) 該検出器流出液を、該クロマトグラフィー流出液流動チャンネルから、該イオン交換膜の反対側における、該膜抑制装置の検出器流出液流動チャンネルに、再循環させる工程;および
(e) 該検出器流出液流動チャンネルからの検出器流出液を、溶離剤源と混合して混合物を形成し、かつ該混合物を、該クロマトグラフィー用分離媒体まで流動させる工程、
を含むことを特徴とする、クロマトグラフィー法。
【請求項2】
更に、(f) 該溶離剤と混合する前に、該検出器流出液中のイオン性の成分を少なくとも部分的に除去する工程をも含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
更に、該分離媒体を流通させる前に、該検出器流出流と溶離剤源からの溶離剤とを混合する工程をも含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
(a) クロマトグラフィー用分離媒体;
(b) 検出器;
(c) クロマトグラフィー流出液流動チャンネル、検出器流出液流動チャンネルおよびこれら2つの流動チャンネルを分離する、イオン交換膜を含む、膜抑制装置;
(d) 該分離装置媒体と該膜抑制装置との間に流体接続関係を与える、第一の導管;
(e) 該膜抑制装置と該検出器との間に流体接続関係を与える、第二の導管;
(f) 該検出器と該検出器流出液流動チャンネルとの間に流体接続関係を与える、第三の導管;および
(g) 該検出器流出液流動チャンネルと該分離媒体との間に流体接続関係を与える、第四の導管、
を含むことを特徴とする、クロマトグラフィー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−2826(P2012−2826A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219459(P2011−219459)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【分割の表示】特願2007−556218(P2007−556218)の分割
【原出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(591025358)ダイオネックス コーポレイション (38)