説明

推進機付船舶のパワーステアリング装置

【課題】推進機付船舶のパワーステアリング装置において、推進機が備えるスクリュウの回転反力に起因するジャイロ効果を簡易に抑制すること。
【解決手段】推進機付船舶のパワーステアリング装置3において、アシスト駆動部50の出力側の操舵力伝達経路に、アシスト駆動部50の側に設けられるウォームと、推進機の側に設けられるウォームホイールとを噛合いさせてなるウォーム減速機60を介装し、ウォーム減速機60により、アシスト駆動部50のアシストトルクは推進機20の側に伝え、推進機20が備えるスクリュウ22の回転反力に起因して推進機20の側から操舵力伝達経路に作用する逆入力トルクはアシスト駆動部50に対して遮断する逆入力遮断装置60Aを構成するもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は船外機、船内外機等の推進機付船舶のパワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船外機付船舶のパワーステアリング装置として、特許文献1に記載の如く、操舵ハンドルの操舵方向及び操舵力に応じて駆動される電動アシストモータ(又は油圧パワーステアリング装置の電動アシストポンプ)のアシストトルクを、船外機への操舵力伝達経路に加えるものがある。操船者が操舵ハンドルに加える手動操舵力を、電動アシストモータのアシストトルクによりアシストするものである。
【特許文献1】特開2004-231108
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
船外機付船舶では、船外機が備えるスクリュウの回転反力が、ジャイロ効果により、その推進ユニットを例えば右方向へ転舵させようとする。このような船舶では、操船者が船体を走行させながら、漁等のために操舵ハンドルから手を離すと、推進ユニットは上記の右方向へ転舵してしまい、船体は手を離す前の進み方向を維持できず、例えば直進性を保つことができない。
【0004】
他方、船体の進み方向を維持しようとし、操船者が操舵ハンドルを保持し続けるときには、操舵ハンドルに操舵力が付与されるものになる。この場合には、電動アシストモータが操舵ハンドルに加えられた操舵力に応じて駆動され続けるものになり、アシストモータの電力消費が多大になり、アシストモータの発熱も多大になる。
【0005】
また、船外機付船舶では、電動アシストモータやそのコントロールユニットの故障時に、推進ユニットを容易に手動操舵できることも必要とされる。
【0006】
本発明の課題は、推進機付船舶のパワーステアリング装置において、推進機が備えるスクリュウの回転反力に起因するジャイロ効果を簡易に抑制することにある。
【0007】
本発明の他の課題は、アシスト駆動部の故障時に、推進ユニットを容易に手動操作可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、操舵ハンドルの操舵方向及び操舵力に応じて駆動されるアシスト駆動部のアシストトルクを、推進機への操舵力伝達経路に加える推進機付船舶のパワーステアリング装置において、アシスト駆動部の出力側の操舵力伝達経路に、アシスト駆動部の側に設けられるウォームと、推進機の側に設けられるウォームホイールとを噛合いさせてなるウォーム減速機を介装し、ウォーム減速機により、アシスト駆動部のアシストトルクは推進機の側に伝え、推進機が備えるスクリュウの回転反力に起因して推進機の側から操舵力伝達経路に作用する逆入力トルクはアシスト駆動部に対して遮断する逆入力遮断装置を構成するようにしたものである。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において更に、前記ウォーム減速機と推進機の間の操舵力伝達経路の中間部に、トルク伝達切り離し手段を設けるようにしたものである。
【0010】
請求項3の発明は、操舵ハンドルの操舵方向及び操舵力に応じて駆動されるアシスト駆動部のアシストトルクを、推進機への操舵力伝達経路に加える推進機付船舶のパワーステアリング装置において、アシスト駆動部と推進機の間の操舵力伝達経路の中間部に、トルク伝達切り離し手段を設けるようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
(請求項1)
(a)アシスト駆動部の出力側の操舵力伝達経路に、アシスト駆動部の側に設けられるウォームと、推進機の側に設けられるウォームホイールとを噛合いさせてなるウォーム減速機を介装した。そして、推進機が備えるスクリュウの回転反力に起因するジャイロ効果により、推進機の側から操舵力伝達経路に作用する逆入力トルクをアシスト駆動部に対して遮断する逆入力遮断装置をウォーム減速機のセルフロック機構により構成した。従って、操船者が船体を走行させながら、漁等のために操舵ハンドルから手を離したとき、スクリュウの回転反力に起因するジャイロ効果によって推進ユニットを操舵させようとする逆入力トルクが、ウォーム減速機の逆入力遮断装置の存在によりアシスト駆動部に対して遮断され、推進ユニットは転舵不能とされる。これにより、船体は操船者が操舵ハンドルから手を離す前の進み方向を維持し、例えば直進性を保つことができる。
【0012】
(b)ウォーム減速機の逆入力遮断装置は上述の逆入力トルクをアシスト駆動部に対して機械的に遮断するものであり、電動アシストモータの駆動力により上述の逆入力トルクに対抗するものでないから、電力消費や発熱を伴なうことがなく、簡易である。
【0013】
(請求項2)
(c)ウォーム減速機と推進機の間の操舵力伝達経路の中間部に、トルク伝達切り離し手段を設けた。従って、アシスト駆動部やそのコントロールユニットの故障時に、ウォーム減速機と推進機の間の操舵力伝達経路を切り離すことにより、ウォーム減速機の存在が推進ユニットに加える操船者の緊急転舵力に抗するものに全くならず、推進ユニットを自由に転舵できる。
【0014】
(請求項3)
(d)アシスト駆動部と推進機の間の操舵力伝達経路の中間部に、トルク伝達切り離し手段を設けた。従って、アシスト駆動部はそのコントロールユニットの故障時に、アシスト駆動部と推進機の間の操舵力伝達経路を切り離すことにより、アシスト駆動部の存在が推進ユニットに加える操船者の緊急転舵力に抗するものにならず、推進ユニットを自由に転舵できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は実施例1の推進機付船舶のパワーステアリング装置を示す模式図、図2は図1の操舵アシスト装置を示す模式図、図3は実施例2の推進機付船舶のパワーステアリング装置を示す模式図、図4は図3の操舵アシスト装置を示す模式図、図5は実施例3の推進機付船舶のパワーステアリング装置を示す模式図である。
【実施例】
【0016】
(実施例1)(図1、図2)
図1に示す船舶1は、船体2の船首側に設けられる操舵ハンドル10と、船体2の船尾側に設けられる推進機としての船外機20と、操舵ハンドル10に加えられる操舵力を船外機20に伝える操舵力伝達経路としても操舵ケーブル30とを有する。操舵ケーブル30は、船体2の内部の船首側から船尾側に設置されるアウタチューブ31内に延在される。
【0017】
操舵ハンドル10は、船体2の船首側の操縦席に設置される。操舵ハンドル10のハンドル軸11に固定されるピニオン12がラック13に噛合い、ラック13が操舵ケーブル30の一端に連結される。操舵ハンドル10が操舵力(操舵トルク)を加えられて左又は右に回転することにより、ピニオン12とラック13の噛合いを介して、操舵ケーブル30が押し引きされる。
【0018】
船外機20は、推進ユニット21にスクリュウ22を備え、この推進ユニット21の上に搭載されたエンジン(不図示)と、スイベルブラケット23及びクランプブラケット24を有して構成される。推進ユニット21は、スイベルブラケット23に転舵軸(不図示)を介して水平方向に揺動して転舵可能に軸支され、このスイベルブラケット23は、クランプブラケット24にチルト軸(不図示)を介して鉛直方向にチルトアップ/ダウン可能に軸支される。船外機20は、クランプブラケット24により船体2の船尾板に取付けられ、エンジンの出力をスクリュウ22に伝え、船体2を前後進可能にする。船外機20は、推進ユニット21に固着された転舵アーム21Aに、リンク25A、25Bを介して操舵ケーブル30の他端を連結している。
【0019】
船舶1にあっては、操船者が操舵ハンドル10に加える操舵力をアシストするパワーステアリング装置3を構成するための操舵アシスト装置40を、船体2の内部の船尾側で、操舵ケーブル30の他端と推進ユニット21の転舵アーム21A(本実施例ではリンク25B)の間に介装している。
【0020】
操舵アシスト装置40は、図2に示す如く、船体2に固定されるギヤケース41内に配置される。操舵アシスト装置40は、入力軸42と出力軸43をトーションバー(不図示)を介して同軸上に連結し、これらの入力軸42と出力軸43をギヤケース41に枢支する。入力軸42に固定したピニオン44に操舵ケーブル30の他端に連結したラック45を噛合いさせるとともに、ラック45をギヤケース41にスライド可能に支持する。出力軸43に固定したピニオン46にラック47を噛合いさせるとともに、ラック47をギヤケース41にスライド可能に支持する。ラック47の一端には推進ユニット21に転舵アーム21A、リンク25Aを介して連結されているリンク25Bが連結される。これにより、操舵ハンドル10が操舵力を加えられて左又は右に回転すると、ケーブル30が押し引きされてラック45が直線動し、ラック45とピニオン44の噛合いにより入力軸42、出力軸43が回転し、出力軸43のピニオン46とラック47の噛合いによりラック47が押し引きされ、結果としてラック47とリンク25B、25A、転舵アーム21Aを介して連結されている推進ユニット21が左又は右に転舵されるものになる。
【0021】
このとき、操舵アシスト装置40は、ギヤケース41内の入力軸42と出力軸43の間にトルクセンサ48が介装される。トルクセンサ48は、操船者が操舵ハンドル10に加えた操舵方向及び操舵トルクを検出する。
【0022】
また、操舵アシスト装置40は、ギヤケース41内に電動アシストモータ50を配置している。そして、操舵アシスト装置40は、アシストモータ50の出力側の操舵力伝達経路に、アシストモータ50の出力軸に設けられるウォーム61と、船外機20の側たる出力軸43に設けられるウォームホイール62とを噛合いさせてなるウォーム減速機60を介装する。
【0023】
また、操舵アシスト装置40は、ギヤケース41内に、アシストモータ50を制御するコントロールユニット70を配置してある。コントロールユニット70は、トルクセンサ48の検出信号と、船外機20の推進ユニット21に内蔵してある船速センサ(不図示)の検出信号を取り込み、所定のアシストマップから、アシストモータ50の駆動方向及び駆動電流を決定し、船速と操舵方向と操舵トルクに応じた適切な操舵アシスト力となるアシストモータ50のモータトルクをウォーム51及びウォームホイール52経由で出力軸43に付与する。
【0024】
操舵アシスト装置40は、ウォーム減速機60(ウォーム61、ウォームホイール62)により、逆入力遮断装置60Aを構成する。ウォーム減速機60の逆入力遮断装置60Aは、船外機20のスクリュウ22の回転反力に起因して推進ユニット21の側から転舵アーム21を介して出力軸43に作用する逆入力に抗する。即ち、ウォーム減速機60は、ウォーム61の進み角γ(ウォームホイール62のねじれ角)を、ウォーム61とウォームホイール62の歯面の摩擦係数ηに起因する摩擦角θ(θ=tan-1η)と、ウォーム61の軸受まわり及びアシストモータ50の摩擦係数ηに起因する摩擦角θ1の加算値(θ+θ1)よりも小さく(γ≦θ+θ1)設定することにより、ウォームホイール62からウォーム61を回すことができなくなるセルフロックを生じ、推進ユニット21の側から出力軸43に上述の逆入力が作用するときに、該出力軸43を回転ロックする。従って、ウォーム減速機60の逆入力遮断装置60Aは、上述の逆入力に対しては出力軸43の回転を制止し、操舵ケーブル30に加えられる手動操舵トルク、又はアシストモータ50のモータトルクによる出力軸43の回転を許容する。
【0025】
また、操舵アシスト装置40には、ウォーム減速機60と船外機20の間の操舵力伝達経路、例えば出力軸43の中間部にトルク伝達切り離し手段80を設ける。トルク伝達切り離し手段80は、例えば手動クラッチにて構成され、アシストモータ50やそのコントロールユニット70が故障したパワーステアリング装置3のシステムダウン時に、ピニオン46を含む推進ユニット21側の操舵力伝達経路をウォームホイール60に対して切り離す。これにより、操船者が推進ユニット21の転舵アーム21Aに緊急操舵力を加えたとき、ピニオン46とラック47はウォーム減速機60(逆入力遮断装置60A)の存在に関係なく移動でき、推進ユニット21を軽く転舵できる。
【0026】
本実施例によれば、以下の作用効果を奏する。
(a)アシストモータ50の出力側の操舵力伝達経路に、アシストモータ50の側に設けられるウォーム61と、船外機20の側に設けられるウォームホイール62とを噛合いさせてなるウォーム減速機60を介装した。そして、船外機20が備えるスクリュウ22の回転反力に起因するジャイロ効果により、船外機20の側から操舵力伝達経路に作用する逆入力トルクをアシストモータ50に対して遮断する逆入力遮断装置60Aをウォーム減速機60のセルフロック機構により構成した。従って、操船者が船体2を走行させながら、漁等のために操舵ハンドル10から手を離したとき、スクリュウ22の回転反力に起因するジャイロ効果によって推進ユニット21を操舵させようとする逆入力トルクが、ウォーム減速機60の逆入力遮断装置60Aの存在によりアシストモータ50に対して遮断され、推進ユニット21は転舵不能とされる。これにより、船体2は操船者が操舵ハンドル10から手を離す前の進み方向を維持し、例えば直進性を保つことができる。
【0027】
(b)ウォーム減速機60の逆入力遮断装置60Aは上述の逆入力トルクをアシストモータ50に対して機械的に遮断するものであり、電動アシストモータ50の駆動力により上述の逆入力トルクに対抗するものでないから、電力消費や発熱を伴なうことがなく、簡易である。
【0028】
(c)ウォーム減速機60と船外機20の間の操舵力伝達経路の中間部に、トルク伝達切り離し手段80を設けた。従って、アシストモータ50やそのコントロールユニット70の故障時に、ウォーム減速機60と船外機20の間の操舵力伝達経路を切り離すことにより、ウォーム減速機60の存在が推進ユニット21に加える操船者の緊急転舵力に抗するものに全くならず、推進ユニット21を自由に転舵できる。
【0029】
(実施例2)(図3、図4)
図3、図4に示した実施例2の船舶1のパワーステアリング装置3は、実施例1におけると異なる点は、操舵アシスト装置40のギヤケース41内に配置してあったトルクセンサ48、コントロールユニット70を移設したことにある。
【0030】
トルクセンサ48は、操舵ハンドル10のハンドル軸11上に設けられる。即ち、ハンドル軸11は、操舵ハンドル10が直結される入力軸11Aと、ピニオン12が直結される出力軸11Bをトーションバー(不図示)を介して同軸上に連結し、これらの入力軸11Aと出力軸11Bの間にトルクセンサ48を介するものである。これにより、トルクセンサ48は、操船者が操舵ハンドル10に加えた操舵方向及び操舵トルクを検出するものになる。
【0031】
コントロールユニット70は、操舵ハンドル10の側傍に配置される。
また、この実施例2にあっては、トルクセンサ48をハンドル軸11の中間部に設けることにより、操舵ケーブル30の他端を、連結バー32を介して、ラック47に直に連結してある。連結バー32はラック47の軸方向に沿ってスライド自在となるようにガイドされている。アシストモータ50の出力軸が接続されるウォーム減速機60(逆入力遮断装置60A)のウォームホイール62が出力軸43に設けられ、出力軸43のピニオン46のラック47に噛合うことは実施例1におけると同じであり、出力軸43の中間部に所望によりトルク伝達切り離し手段80が設けられる。トルク伝達切り離し手段80は、例えば手動クラッチにて構成され、アシストモータ50やそのコントロールユニット70が故障したパワーステアリング装置3のシステムダウン時に、ピニオン46を含む推進ユニット21側の操舵力伝達経路をウォームホイール62に対して切り離す。これにより、操船者が操舵ハンドル10に操舵力を加えたとき、ピニオン46とラック47はウォーム減速機60(逆入力遮断装置60A)の存在に関係なく移動でき、推進ユニット21を軽く転舵できる。
【0032】
本実施例にあっても、実施例1の前述(a)、(b)の作用効果を奏する。
【0033】
(実施例3)(図5)
図5に示した実施例3の船舶1のパワーステアリング装置3が、実施例1におけると異なる点は、操舵アシスト装置40に代わる操舵アシスト装置90を船体2の内部の船首側の操舵ハンドル10まわりに配置したことにある。
【0034】
操舵アシスト装置90は、船体2に固定されるギヤケース91内に配置される。操舵アシスト装置90は、操舵ハンドル10のハンドル軸11を、操舵ハンドル10が直結される入力軸11Aと、ピニオン12が直結される出力軸11Bに2分し、それらの入力軸11Aと出力軸11Bをトーションバー(不図示)を介して同軸上に連結し、入力軸11Aと出力軸11Bの間にトルクセンサ92が介装される。トルクセンサ92は、操船者が操舵ハンドル10に加えた操舵方向及び操舵トルクを検出する。
【0035】
また、操舵アシスト装置90は、ギヤケース91内に、電動アシストモータ93を配置し、アシストモータ93の出力軸に設けられるウォーム101で、操舵ハンドル10のハンドル軸11の出力軸11Bに設けられるウォームホール102に噛合いさせてある。ウォーム101とウォームホイール102は、実施例1のウォーム減速機60に代わるウォーム減速機100を構成する。
【0036】
また、操舵アシスト装置90は、ギヤケース91内に、アシストモータ93を制御するコントロールユニット110を配置してある。コントロールユニット110は、トルクセンサ92の検出信号と、船外機20の推進ユニット21に内蔵してある船速センサ(不図示)の検出信号を取り込み、所定のアシストマップから、アシストモータ93の駆動方向及び駆動電流を決定し、船速と操舵方向と操舵トルクに応じた適切な操舵アシスト力となるアシストモータ93のアシストトルクをウォーム101及びウォームホール102経由で操舵ハンドル10のハンドル軸11の出力軸11Bに付与する。アシストモータ93のアシストトルクによる出力軸11Bの回転力は、操舵ハンドル10の操舵力による出力軸11Bの回転をアシストするものになる。
【0037】
操舵アシスト装置90は、ウォーム減速機100(ウォーム101、ウォームホイール102)により、逆入力遮断装置100Aを構成する。逆入力遮断装置100Aは、船外機20の備えるスクリュウ22の回転の反力に起因して推進ユニット21の側から操舵ケーブル30に作用する逆入力に対してはハンドル軸11の回転を制止し、操舵ハンドル10に加えられる手動操舵トルク、又はアシストモータ93のモータトルクによるハンドル軸11の回転を許容する。
【0038】
また、操舵アシスト装置90には、ウォーム減速機100と船外機20の間の操舵力伝達経路、例えばハンドル軸11の出力軸11Bの中間部にトルク伝達切り離し手段120を設けることもできる。トルク伝達切り離し手段120は、例えば手動クラッチにて構成され、アシストモータ93やそのコントロールユニット110が故障したパワーステアリング装置3のシステムダウン時に、ピニオン12を含む推進ユニット21側の操舵力伝達経路をウォームホイール102に対して切り離す。これにより、操船者が推進ユニット21の転舵アーム21Aに緊急操舵力を加えたとき、ピニオン12とラック13はウォーム減速機100(逆入力遮断装置100A)の存在に関係なく移動でき、推進ユニット21を軽く転舵できる。
【0039】
尚、本実施例において、船外機20は、推進ユニット21に固着された転舵アーム21Aにリンク25Aを介して連結されているリンク25Bに、操舵ケーブル30を直結している。即ち、転舵アーム21Aにはリンク25Aを介してリンク25Bの一端が連結され、リンク25Bの他端はスライドガイド26に直線動可能にガイドされ、このリンク25Bの他端に操舵ケーブル30の他端が連結される。
【0040】
本実施例によれば、以下の作用効果を奏する。
(a)アシストモータ93の出力側の操舵力伝達経路に、アシストモータ93の側に設けられるウォーム101と、船外機20の側に設けられるウォームホイール102とを噛合いさせてなるウォーム減速機100を介装した。そして、船外機20が備えるスクリュウ22の回転反力に起因するジャイロ効果により、船外機20の側から操舵力伝達経路に作用する逆入力トルクをアシストモータ93に対して遮断する逆入力遮断装置100Aをウォーム減速機100のセルフロック機構により構成した。従って、操船者が船体2を走行させながら、漁等のために操舵ハンドル10から手を離したとき、スクリュウ22の回転反力に起因するジャイロ効果によって推進ユニットを操舵させようとする逆入力トルクが、ウォーム減速機100の逆入力遮断装置100Aの存在によりアシストモータ93に対して遮断され、推進ユニットは転舵不能とされる。これにより、船体2は操船者が操舵ハンドル10から手を離す前の進み方向を維持し、例えば直進性を保つことができる。
【0041】
(b)ウォーム減速機100の逆入力遮断装置100Aは上述の逆入力トルクをアシストモータ93に対して機械的に遮断するものであり、電動アシストモータの駆動力により上述の逆入力トルクに対抗するものでないから、電力消費や発熱を伴なうことがなく、簡易である。
【0042】
以上、本発明の実施例を図面により詳述したが、本発明の具体的な構成はこの実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、本発明は、操舵ハンドルの操舵方向及び操舵力に応じて駆動されるアシスト駆動部のアシストトルクを、推進機への操舵力伝達経路に加える推進機付船舶のパワーステアリング装置において、アシスト駆動部と推進機の間の操舵力伝達経路の中間部に、トルク伝達切り離し手段を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】図1は実施例1の推進機付船舶のパワーステアリング装置を示す模式図である。
【図2】図2は図1の操舵アシスト装置を示す模式図である。
【図3】図3は実施例2の推進機付船舶のパワーステアリング装置を示す模式図である。
【図4】図4は図3の操舵アシスト装置を示す模式図である。
【図5】図5は実施例3の推進機付船舶のパワーステアリング装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0044】
1 船舶
2 船体
3 パワーステアリング装置
10 操舵ハンドル
20 船外機(推進機)
21 推進ユニット
22 スクリュウ
50、93 アシストモータ(アシスト駆動部)
60、100 ウォーム減速機
60A、100A 逆入力遮断装置
61、91 ウォーム
62、102 ウォームホイール
80、120 トルク伝達切り離し手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵ハンドルの操舵方向及び操舵力に応じて駆動されるアシスト駆動部のアシストトルクを、推進機への操舵力伝達経路に加える推進機付船舶のパワーステアリング装置において、
アシスト駆動部の出力側の操舵力伝達経路に、アシスト駆動部の側に設けられるウォームと、推進機の側に設けられるウォームホイールとを噛合いさせてなるウォーム減速機を介装し、
ウォーム減速機により、アシスト駆動部のアシストトルクは推進機の側に伝え、推進機が備えるスクリュウの回転反力に起因して推進機の側から操舵力伝達経路に作用する逆入力トルクはアシスト駆動部に対して遮断する逆入力遮断装置を構成することを特徴とする推進機付船舶のパワーステアリング装置。
【請求項2】
前記ウォーム減速機と推進機の間の操舵力伝達経路の中間部に、トルク伝達切り離し手段を設ける請求項1に記載の推進機付船舶のパワーステアリング装置。
【請求項3】
操舵ハンドルの操舵方向及び操舵力に応じて駆動されるアシスト駆動部のアシストトルクを、推進機への操舵力伝達経路に加える推進機付船舶のパワーステアリング装置において、
アシスト駆動部と推進機の間の操舵力伝達経路の中間部に、トルク伝達切り離し手段を設けることを特徴とする推進機付船舶のパワーステアリング装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−105456(P2010−105456A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277554(P2008−277554)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【出願人】(000146010)株式会社ショーワ (715)