説明

描画装置の描画方法、描画装置の制御方法および描画装置

【課題】画像記録部を確実にオーバーコートすることができる描画装置の描画方法等を提供する。
【解決手段】ワークWに対し、インクジェットヘッド18を相対的に走査しながらインクジェットヘッド18を駆動して、ワークWに描画を行なう描画動作により、記録用インク材が塗着されたワークW上の画像記録部51を覆うように、オーバーコート材を塗着させる描画装置1の描画方法であって、ワークW上の画像記録部51と画像記録部51以外の非画像記録部との境界部分に塗着するオーバーコート材の層厚が、他のオーバーコート材の層厚に比して厚肉となるようにオーバーコート材を塗着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット方式の液滴吐出手段による記録媒体への描画動作により、記録媒体上の記録部を覆うようにオーバーコート材を塗着させる描画装置の描画方法、描画装置の制御方法および描画装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の描画装置の描画方法として、ヘッドに紫外線照射装置を有するインクジェットプリンターにより、記録媒体に形成されたインク層の表面に、オーバーコート層用組成物を吐出して、オーバーコート層を形成するものが知られている(特許文献1参照)。
オーバーコート層用組成物(オーバーコート材)には、エポキシ化合物、オキセタン化合物および光りカチオン重合開始材を含有し、活性エネルギー線(紫外線)により硬化するものが用いられており、インク層の表面を覆うように塗着させた層用組成物に、紫外線照射装置に紫外線を照射することで、オーバーコート層が形成される。これにより、オーバーコートされたインク層(画像記録部)の粒状感が軽減し、加熱により発生する臭気やアウトガスを防止することができ、更にインク層に耐湿性、表面硬度、密着性および耐屈曲性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−292880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の描画方法では、インクジェット法により、インク層(画像記録部)を均一な層厚でオーバーコートするようにしているため、実際には、インク層とオーバーコート材(オーバーコート層用組成物)の相互の濡れ性等(表面エネルギー)により、画像記録部(インク層)と非画像記録部との境界部分(段差部分)で着弾インクが濡れ性の高い方に移動し、画像記録部と非画像記録部との境界部分にオーバーコート材の塗り斑が生ずる問題があった。部分的であっても、オーバーコート材の塗り斑が生ずると、アウトガスの発生防止に支障が生ずるだけでなく、この部分から記録部(インク層)の剥離が進行し、耐湿性、密着性、耐屈曲性等が損なわれてしまうことになる。
【0005】
本発明は、画像記録部を確実にオーバーコートすることができる描画装置の描画方法、描画装置の制御方法および描画装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の描画装置の描画方法は、記録媒体に対し、インクジェット方式の液滴吐出手段を相対的に走査しながら液滴吐出手段を駆動して、記録媒体に描画を行なう描画動作により、記録用インク材が塗着された記録媒体上の画像記録部を覆うように、オーバーコート材を塗着させる描画装置の描画方法であって、記録媒体上の画像記録部と画像記録部以外の非画像記録部との境界部分に塗着するオーバーコート材の層厚が、他のオーバーコート材の層厚に比して厚肉となるようにオーバーコート材を塗着させることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、画像記録部と非画像記録部との境界部分につき、他の部分に比して厚肉となるようにオーバーコート材を塗着させるようにしているため、例えば境界部分に対するオーバーコート材の相互の濡れ性等により、この部分に着弾したオーバーコート材が移動することがあっても、塗り斑とならないように十分なオーバーコート材を塗着させることができる。これにより、画像記録部を確実にオーバーコートすることができ、画像記録部からのアウトガスの発生防止を始め、画像記録部の耐湿性、密着性、耐屈曲性等を向上させることができる。なお、この場合のインクジェット方式の液滴吐出手段は、いわゆるノズル列を意味し、該ノズル列がインクジェットの唯一のノズル列であってもよいし、一部のノズル列であってもよい。
【0008】
この場合、画像記録部を構成する記録層の層厚に応じて、境界部分に塗着するオーバーコート材の層厚を可変させることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、記録層の層厚が厚い場合には、境界部分に塗着させるオーバーコート材を多くして、形成する層厚を厚くし、他方、薄い場合には、境界部分に形成する層厚を薄くする。このようにすることで、記録層の厚みに応じた適切なコート層(オーバーコート材による層)を形成することができ、より確実に画像記録部をオーバーコートすることができる。
【0010】
また、前記画像記録部の縁端から外側に所定の寸法に亘ってオーバーコート材を塗着させることが好ましい。
【0011】
この場合、所定の寸法が、画像記録部を構成する記録層の層厚より大きいことが好ましい。
【0012】
これらの構成によれば、画像記録部の平面的な大きさとの関係でバランスのよいコート層を形成することができる。これにより、濡れ性等におけるオーバーコート材の移動した場合や、記録層の層厚が厚い場合でも、画像記録部をオーバーコート材で確実に覆うことができる。
【0013】
さらに、記録媒体には、画像記録部の下地となる下地材が塗着されていることが好ましい。
【0014】
この場合、オーバーコート材と下地材とが、同一の材料であることが好ましい。
【0015】
これらの構成によれば、濡れ性等におけるオーバーコート材の移動を抑制することができ、画像記録部をオーバーコート材で確実に覆うことができる。
【0016】
一方、画像記録部は、画像データに基づく描画動作により、記録媒体上に記録用インク材を塗着させたものであり、オーバーコート材は、画像データに基づく描画動作により、記録媒体上に塗着されることが好ましい。
【0017】
この構成によれば、オーバーコート材の塗着を、画像記録部の平面形状に倣って実施することができ、画像記録部を確実且つ効率良くオーバーコートすることができる。
【0018】
本発明の描画装置の制御方法は、記録用インク材およびオーバーコート材を導入したインクジェット方式の液滴吐出手段を用い、記録媒体に対し、液滴吐出手段を相対的に走査しながら液滴吐出手段を吐出駆動して、記録媒体に描画動作を行なう描画装置の制御方法であって、画像データに基づいて、記録用インク材を吐出させる描画動作により、記録媒体上に画像の記録を行う画像記録工程と、画像データに基づいて、オーバーコート材を吐出させる描画動作により、記録媒体上の画像が記録された画像記録部の周囲に接するようにオーバーコート材を塗着させる縁部コート材塗着工程と、画像データに基づいて、オーバーコート材を吐出させる描画動作により、記録媒体上の画像記録部および塗着したオーバーコート材に重ねてオーバーコート材を塗着させる全域コート材塗着工程と、画像データに基づいて、オーバーコート材を吐出させる描画動作により、記録媒体上の画像記録部と画像記録部以外の非画像記録部との境界部分に、全域コート材工程により塗着させたオーバーコート材に重ねてオーバーコート材を塗着させる補強コート材塗着工程と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、縁部コート材塗着工程により、画像記録部の外側に接し、所定の寸法に亘ってオーバーコート材を塗着させることができる。また、全域コート材塗着工程により、画像記録部と非画像記録部との境界部分とを併せた全域に均一なオーバーコート材の塗着を実施することができる。さらに、補強コート材塗着工程により、画像記録部と非画像記録部との境界部分に対し、厚くオーバーコート材を塗着させることができる。このように、オーバーコート材の塗着工程を実施することにより、塗り斑のないオーバーコートが可能となり、画像記録部をオーバーコート材で確実に覆うことができ、画像記録部からのアウトガスの発生防止を始め、画像記録部の耐湿性、密着性、耐屈曲性等を向上させることができる。
【0020】
この場合、画像記録工程は、記録用インク材が積層されるように複数回に亘って実施され、縁部コート材塗着工程は、画像記録工程に対応し複数回に亘って実施されることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、画像記録部を構成する記録層の層厚が厚い場合でも、画像記録部をオーバーコート材で確実に覆うことができる。
【0022】
本発明の描画装置は、記録用インク材およびオーバーコート材を導入可能に構成されたインクジェット方式の液滴吐出手段と、記録媒体に対し、液滴吐出手段を相対的に走査する走査手段と、走査手段により液滴吐出手段を相対的に走査しながら液滴吐出手段を吐出駆動して、記録媒体に画像の描画動作を実施する制御手段と、を備え、制御手段は、記録用インク材を吐出させる描画動作により、記録媒体上に画像の記録を行う画像記録動作と、オーバーコート材を吐出させる描画動作により、記録媒体上の画像が記録された画像記録部を覆うように、且つ記録媒体上の画像記録部と画像記録部以外の非画像記録部との境界部分に塗着するオーバーコート材の層厚が、他のオーバーコート材の層厚に比して厚肉となるようにオーバーコート材を塗着させるコート材塗着動作と、を実施することを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、画像記録部と非画像記録部との境界部分につき、他の部分に比して厚肉となるようにオーバーコート材を塗着させるようにしているため、例えば濡れ性等により、この部分に着弾したオーバーコート材が移動することがあっても、塗り斑とならないように十分なオーバーコート材を塗着させることができる。これにより、画像記録部を確実にオーバーコートすることができ、画像記録部からのアウトガスの発生防止を始め、耐湿性、密着性、耐屈曲性等を向上させることができる。
【0024】
この場合、制御手段は、画像データに基づく描画動作により、画像記録動作を実施し、画像データに基づく描画動作により、コート材塗着動作を実施することが好ましい。
【0025】
この構成によれば、オーバーコート材の塗着を、画像記録部の平面形状に倣って実施することができ、画像記録部を確実且つ効率良くオーバーコートすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第1実施形態に係る描画装置の(a)は平面図であり、(b)は側面図である。
【図2】第1実施形態に係る描画装置のキャリッジユニットを模式的に示した底面図である。
【図3】第1実施形態に係る描画装置の制御装置のブロック図である。
【図4】第1実施形態に係る描画装置の制御方法のフローチャートである。
【図5】第1実施形態に係る描画装置の制御方法における描画動作で形成される各層を模式的に示した図であって、(A)ないし(D)は、平面図であり、(a)ないし(e)は、(A)ないし(D)におけるA−A断面図である。
【図6】第1実施形態に係る描画装置の制御方法の説明図であって、ワーク、ワークステージおよびキャリッジユニットを模式的に示した説明図(前半)である。
【図7】第1実施形態に係る描画装置の制御方法を説明図であって、ワーク、ワークステージおよびキャリッジユニットを模式的に示した説明図(後半)である。
【図8】第2実施形態に係る描画装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付した図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る描画装置について説明する。この描画装置は、いわゆるリール・ツー・リール形式で除給材される薄いフィルム状のワークに対して、例えば、紫外線硬化インク(UVインク)をインクジェットヘッドにより吐出することで、所望の画像等を印刷するものである。なお、以下の説明では、ワークの送り方向をX軸方向と、X軸方向に直交する方向をY軸方向と、X軸方向およびY軸方向に直交する方向をZ軸方向と規定する。
【0028】
図1に示すように、描画装置1は、機台2と、ロール状に巻回された長尺のワークWを繰り出す繰出装置3と、印刷済みのワークWを巻き取る巻取装置4と、機台2上に配設され、給材されたワークWを吸着セットするワークステージ5と、X軸方向に延在し、ワークステージ5を介してワークWをX軸方向に間欠送りするX軸テーブル7と、X軸テーブル7を跨ぐようにY軸方向に架け渡されたY軸テーブル8と、インクを吐出してワークWに描画を行うインクジェットヘッド18を有し、Y軸テーブル8に移動自在に搭載されたキャリッジユニット9と、を備えている。
【0029】
また、描画装置1は、インクジェットヘッド18にインクを供給するためのインク供給装置(図示省略)と、インクジェットヘッド18の機能の保守および回復を図るための保守装置(図示省略)と、描画装置1を統括制御する制御装置10と、を備えている。
【0030】
この描画装置1では、繰出装置3により繰出されたワークWをワークステージ5で吸着した後、X軸テーブル7によりワークステージ5を介してワークWをX軸方向に間欠送り(副走査)すると共に、吸着保持されたワークWの描画可能領域に対し、キャリッジユニット9を往復動(主走査)させながらインクジェットヘッド18からインクを吐出して描画を行う。なお、印刷処理に供されるワークWは、連続的に供給可能なロール状のものに限定されるものではなく、枚葉のワークWを用いてもよい。
【0031】
繰出装置3および巻取装置4は、機台2やワークステージ5を挟むようにしてX軸方向上流側および下流側にそれぞれ配設されている。ワークWは、軽いテンションを付与された状態で繰出装置3から繰り出され、巻取装置4に巻き取られる。
【0032】
ワークステージ5は、その表面に複数形成された孔(図示省略)を介して、繰出装置3から送られてきたワークWを吸着する。ワークステージ5の搬送(X軸)方向上流端部および下流端部には、送込ローラー11と送出ローラー12とが、それぞれ添設されている。なお、詳細な説明は省略するが、ワークステージ5に形成された複数の孔は、図外の真空吸引設備および圧縮エアー供給設備にそれぞれ連通している。
【0033】
送込ローラー11および送出ローラー12は、それぞれ昇降可能に設けられた自由回転するニップローラーであり、X軸方向に並んで配設され、ワークWを挟み込んで、ワークステージ5上面にワークWを臨ませる。そして、ワークステージ5は、ワークWを吸着した状態で、X軸テーブル7によりX軸方向(上流側から下流側)に間欠送りされる。
【0034】
X軸テーブル7は、機台2上に配設され、X軸方向に延在する一対のX軸ガイドレール13と、ワークステージ5をX軸ガイドレール13に沿ってスライド自在に移動させるX軸移動機構14と、を有している。X軸テーブル7は、キャリッジユニット9の往動(または復動)時には停止し、次の復動(または往動)までに、描画幅分、ワークWをX軸方向の下流側に送る(改行送り)。
【0035】
Y軸テーブル8は、機台2をY軸方向に跨ぐように架け渡されたY軸ガイドレール15と、キャリッジユニット9をY軸ガイドレール15に沿ってスライド自在に移動させるY軸移動機構16と、を有している。Y軸テーブル8は、キャリッジユニット9を介して描画時にインクジェットヘッド18をY軸方向に往復動させる。
【0036】
図1および図2に示すように、キャリッジユニット9は、Y軸ガイドレール15上にスライド自在に支持されたキャリッジ本体17と、キャリッジ本体17に搭載されたインクジェットヘッド18と、インクジェットヘッド18のY軸方向両端部に配設された一対の紫外線照射装置19と、を備えている。
【0037】
キャリッジ本体17は、インクジェットヘッド18および一対の紫外線照射装置19を搭載し、X軸方向上流側においてY軸ガイドレール15にスライド自在に係合している。
【0038】
インクジェットヘッド18は、複数の吐出ノズル21が開口したノズル面22を有し、ノズル面22には、複数の吐出ノズル21が等間隔で並んで構成された複数本のノズル列NLが、相互に平行に列設されている(図2参照)。このインクジェットヘッド18では、各ノズル列NLごとに、異なる種類(色)のインクおよびオーバーコート材を、それぞれ吐出するようになっている。
【0039】
本実施形態では、いわゆる紫外線硬化型のインクを用いており、図2において上のノズル列NLから、オーバーコート材、クリアー(CL)、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)、クリアー(CL)の順に配設されている。なお、インクの色、色数および各色の配列は、その用途により任意に設定してよい。また、インクは、紫外線硬化型のものに限られず、赤外線硬化型や可視光硬化型等のインクでもよい。
【0040】
オーバーコート材は、紫外線硬化型の透明な液体材料であり、ワークW上に塗着したインク滴により表された画像(以降「画像記録部51」という。)を覆うオーバーコート処理に用いられる。画像記録部51を覆うようにして、オーバーコート材からなるコート層53を形成することで、画像記録部51からのアウトガスの発生防止を始め、画像記録部51の耐湿性、密着性、耐屈曲性等を向上させることができる。
【0041】
また、本実施形態におけるオーバーコート材は、画像記録部51を構成する記録層52およびコート層53を形成する前のワークWに対し、下地層50を形成する下地材としても用いられる。つまり、このオーバーコート材は、各インクの下地材としての機能も有している。このオーバーコート材により形成された下地層50は、各インクおよびオーバーコート材に対して、所定の濡れ性を有している。これにより、下地層50上に着弾した各インクやオーバーコート材が、濡れ性等により必要以上に移動してしまうことを抑制することができ、画像記録部51(記録層52)をオーバーコート材で確実に覆うことができる。なお、オーバーコート材を省略して、クリアーのインクをオーバーコート材の代わりに用いてもよい。
【0042】
各紫外線照射装置19は、インクジェットヘッド18のY軸方向両側にそれぞれ配設されており、インクジェットヘッド18から吐出され、ワークW上に着弾したオーバーコート材および各インクの液滴に対し、紫外線(活性エネルギー線)を照射する。これにより、オーバーコート材および各インクが光硬化し、ワークW上に光硬化した下地層50、コート層53および画像記録部51が形成される。各紫外線照射装置19から照射する紫外線は、使用するオーバーコート材および各インクに応じて、その中心波長を変更することが好ましい。
【0043】
各紫外線照射装置19は、複数の発光ダイオード(LED33)がX軸方向に等間隔に並んで構成されている。各紫外線照射装置19は、ノズル列NLよりも僅かに長い範囲に紫外線を照射可能に形成されており、ワークW上に着弾したオーバーコート材の液滴およびインク滴のすべてに対し確実に紫外線が照射できるようになっている。光源としてLED33を用いることで、構造の単純化を図ることができると共に、各紫外線照射装置19からの熱的影響を抑制することができる。また、電気的なスイッチ操作で素早くON−OFF制御することもできる。なお、図2に示すように、本実施形態の各紫外線照射装置19は、それぞれ、各LED33が1列で構成されているが、必要に応じて2列以上で構成してもよい。
【0044】
図3に示すように、制御装置10は、制御用のプログラムやデータ等が記憶されたメモリー部41と、所定の描画データが記憶された画像メモリー部42と、メモリー部41および画像メモリー部42を制御するコントローラー部43と、コントローラー部43からの指令により描画装置1を構成する各装置を駆動するドライバー部44と、を有している。
【0045】
次に、図4ないし図7を参照して、制御装置10による描画装置1の制御方法について説明する。この描画装置1の制御方法は、キャリッジユニット9をY軸方向に移動(走査)させながら、画像データに基づいて、インクジェットヘッド18の複数の吐出ノズル21から選択的にインクおよびオーバーコート材を吐出して行うものである。
【0046】
図4に示すように、描画装置1の制御方法は、インクジェットヘッド18からオーバーコート材を吐出させ、ワークW上に下地層50を形成する下地塗布工程S1と、インクジェットヘッド18からインクを吐出させる描画動作により、下地層50上に画像の記録を行う画像記録工程S2と、画像記録工程S2により記録された画像記録部51の周囲に接するようにオーバーコート材を塗着させ、縁部コート層53aを形成する縁部コート材塗着工程S3と、画像記録部51および縁部コート層53aに重ねてオーバーコート材を塗着させ、全域コート層53bを形成する全域コート材塗着工程S4と、画像記録部51と画像記録部51以外の非画像記録部(縁部コート層53a)との境界部分に、全域コート層53bに重ねてオーバーコート材を塗着させ、補強コート層53cを形成する補強コート材塗着工程S5と、を備えている。なお、各工程S1,S2,S3,S4,S5には、ワークW上に塗着したインク滴およびオーバーコート材の液滴を、紫外線照射装置19による紫外線の照射により光硬化させる工程が含まれている。また、画像記録工程S2と縁部コート材塗着工程S3とは、1の走査で実施される。
【0047】
先ず、図6(a)に示すように、制御装置10は、X軸テーブル7を駆動し、ワークステージ5を移動させ、ワークWを描画可能位置に移動させる。そして、下地塗布工程S1では、Y軸テーブル8を駆動し、キャリッジユニット9をY軸方向に往動(1パス目)させながら、インクジェットヘッド18を駆動し、複数の吐出ノズル21からオーバーコート材を吐出して、ワークW上に下地層50を形成する。その後、移動方向下流側に位置する紫外線照射装置19を駆動して、下地層50を構成するオーバーコート材の液滴を光硬化させる。
【0048】
次に、図5(A),(a)および図6(b)に示すように、制御装置10は、キャリッジユニット9をY軸方向に復動(2パス目)させながら、同一走査で画像記録工程S2と縁部コート材塗着工程S3とを実施する。画像記録工程S2では、画像データに基づいてインクジェットヘッド18の複数の吐出ノズル21を選択的に駆動してインクを吐出し、画像記録部51(記録層52)を形成する。他方、縁部コート材塗着工程S3では、画像データに基づいて画像記録部51の外縁に接するように、インクジェットヘッド18の複数の吐出ノズル21を選択的に駆動してオーバーコート材を吐出し、縁部コート層53aを形成する。その後、移動方向下流側に位置する紫外線照射装置19を駆動して、記録層52および縁部コート層53aを構成するインク滴およびオーバーコート材の液滴を光硬化させる。
【0049】
このように、画像記録工程S2および縁部コート材塗着工程S3は、画像データに基づく描画動作により行われるため、オーバーコート材の塗着を、画像記録部51の平面形状に倣って実施することができ、画像記録部51を確実、且つ効率良くオーバーコートすることができる。
【0050】
画像記録工程S2と縁部コート材塗着工程S3とは、所定の回数に亘り繰り返し(本実施形態では2回)実施される。すなわち、本実施形態では、キャリッジユニット9の復動(2パス目)および往動(3パス目)で実施され、記録層52および縁部コート層53aが2段に積層されることとなる(図5(B),(b)および図6(c)参照)。これにより、層厚が厚い記録層52を形成することができ、記録層52の層厚が厚い場合でも、記録層52(画像記録部51)をオーバーコート材で確実に覆うことができる。
【0051】
続いて、図5(C),(c)および図7(d)に示すように、全域コート材塗着工程S4では、キャリッジユニット9をY軸方向に復動(4パス目)させながら、記録層52および縁部コート層53aの上面を覆うように、インクジェットヘッド18の複数の吐出ノズル21を選択的に駆動してオーバーコート材を吐出し、全域コート層53bを形成する。その後、移動方向下流側に位置する紫外線照射装置19を駆動して、全域コート層53bを構成するオーバーコート材の液滴を光硬化させる。これより、画像記録部51とそれ以外の部分(非画像記録部)との境界部分とを併せた全域に均一なオーバーコート材の塗着を実施することができる。
【0052】
そして、図5(D),(d)および図7(e)に示すように、補強コート材塗着工程S5では、キャリッジユニット9をY軸方向に往動(5パス目)させながら、全域コート層53b上において画像記録部51(記録層52)と非画像記録部(縁部コート層53a)との境界部分上に該当する部分(以降、「境界部分上」という。)に、インクジェットヘッド18の複数の吐出ノズル21を選択的に駆動してオーバーコート材を吐出し、補強コート層53cを形成する。その後、移動方向下流側に位置する紫外線照射装置19を駆動して、補強コート層53cを構成するオーバーコート材の液滴を光硬化させる。図5(e)に示すように、記録層52と縁部コート層53aとの境界部分上に対し、厚くオーバーコート材を塗着させることにより、例えば、オーバーコート材の相互の濡れ性等により、境界部分に着弾したオーバーコート材が移動することがあっても、塗り斑とならないように十分なオーバーコート材を塗着させることができる。
【0053】
なお、本実施形態の補強コート材塗着工程S5では、記録層52の層厚に応じて、当該境界部分上に塗着するオーバーコート材の層厚を可変させている。すなわち、記録層52の層厚が厚い場合には、当該境界部分上に塗着させるオーバーコート材を多くして、補強コート層53cを厚く形成し、他方、薄い場合には、境界部分に形成する補強コート層53cを薄く形成する。これにより、記録層52の厚みに応じた適切なコート層53(縁部コート層53aおよび全域コート層53b)を形成することができ、より確実に画像記録部51をオーバーコートすることができる。
【0054】
5パス目の終了後、制御装置10は、X軸テーブル7を駆動してワークステージ5(ワークW)を描画幅分だけ下流へと移動(改行送り)させる。そして、制御装置10は、再び各工程S1,S2,S3,S4,S5を実施させる。以降、ワークステージ5の下流への改行送りと、キャリッジユニット9の往復移動と、を繰り返し、ワークステージ5上に吸着保持されたワークWの描画可能領域(ワークステージ5上に吸着された範囲)に画像データに基づく描画を行う。
【0055】
なお、縁部コート材塗着工程S3、全域コート材塗着工程S4および補強コート材塗着工程S5では、画像記録部51の縁端から外側に所定の寸法に亘ってオーバーコート材を塗着させることが好ましい。ここで、所定の寸法とは、記録層52の層厚より大きいことが好ましい。このように、画像記録部51よりもコート層を広く、ワークW(正確には下地層50)上に形成することにより、画像記録部51の平面的な大きさとの関係でバランスのよいコート層53を形成することができる。これにより、濡れ性等におけるオーバーコート材の移動した場合や、記録層52の層厚が厚い場合でも、画像記録部51をオーバーコート材で確実に覆うことができる。
【0056】
なお、各工程S1,S2,S3,S4,S5における紫外線の照射は、移動方向下流側だけでなく、一対(上流・下流)の紫外線照射装置19を常時点灯させておいてもよい。また、本実施形態では、各紫外線照射装置19は、複数のLED33により構成されているが、所定の中心波長を有する水銀ランプやメタルハライドランプ等を用いてもよい。
【0057】
さらに、ワークWの描画可能領域全域に対し、往復移動(各パス)で下地塗布工程S1を先に実施し、描画可能領域全域の下地層50の形成が終了したワークWに対し、画像記録工程S2および画像記録工程S2、縁部コート材塗着工程S3、全域コート材塗着工程S4および補強コート材塗着工程S5を実施してもよい。
【0058】
以上の構成によれば、画像記録部51を確実にオーバーコートすることができ、画像記録部51からのアウトガスの発生防止を始め、画像記録部51の耐湿性、密着性、耐屈曲性等を向上させることができる。
【0059】
(第2実施形態)
続いて、図8を参照して、第2実施形態に係る描画装置1について説明する。なお、以降の説明では、第1実施形態に係る描画装置1と異なる点のみを示す。第2実施形態に係る描画装置1は、ワークステージ5、X軸テーブル7、Y軸テーブル8およびキャリッジユニット9をそれぞれ2台ずつ備えている。2台のワークステージ5は、X軸方向に並んで配設されており、各ワークステージ5は、各X軸テーブル7により個別に移動可能に構成されている。また、2台のワークステージ5の間には、繰り出されたワークWのバッファとなるアキュムレーター部61が設けられている。さらに、この描画装置1は、各ワークステージ5を跨ぐようにY軸方向にそれぞれ設けられた2台のY軸テーブル8と、各Y軸テーブル8に沿って移動可能な2台のキャリッジユニット9と、を備えている。
【0060】
この描画装置1では、X軸方向上流側に配設されたワークステージ5等およびキャリッジユニット9(以降「下地形成部62」と呼ぶ。)により、下地塗布工程S1(下地塗布処理)が実施され、他方、X軸方向下流側に配設されたワークステージ5等およびキャリッジユニット9(以降「画像描画部63」と呼ぶ。)により、画像記録工程S2、縁部コート材塗着工程S3、全域コート材塗着工程S4および補強コート材塗着工程S5が実施される。
【0061】
下地形成部62におけるキャリッジユニット9には、オーバーコート材を吐出するインクジェットヘッド18と、一対の紫外線照射装置19と、が搭載されている。画像描画部63におけるキャリッジユニット9には、各種描画用のインクを吐出するインクジェットヘッド18と、一対の紫外線照射装置19と、が搭載されている。
【0062】
第2実施形態に係る描画装置1の制御方法について簡単に説明する。まず、制御装置10は、下地形成部62のワークステージ5を移動させ、ワークWを処理可能位置に移動させ、下地塗布工程S1を実施する。すなわち、下地形成部62のキャリッジユニット9の往復移動と、ワークステージ5の下流への改行送りと、を繰り返し、ワークステージ5上に吸着保持されたワークWの描画可能領域に下地層50を形成する。なお、画像描画部63および下地形成部62のワークステージ5のうち、一方を固定したまま、他方のワークステージ5を移動させても、アキュムレーター部61がワークWの弛みを吸収するため、ワークWに対し無理な張力がかからないようになっている。
【0063】
制御装置10は、巻取装置4を駆動してワークWを巻き取り、下地層50が形成されたワークWを、画像描画部63のワークステージ5上に搬送し吸着固定させる。そして、制御装置10は、ワークステージ5を移動させ、ワークWを描画可能位置に移動させ、画像記録工程S2、縁部コート材塗着工程S3、全域コート材塗着工程S4および補強コート材塗着工程S5を実施する。すなわち、画像描画部63のキャリッジユニット9の往復移動と、ワークステージ5の下流への改行送りと、を繰り返し、ワークステージ5上に吸着保持されたワークWの描画可能領域に、所定の描画動作により、記録層52、コート層53(縁部コート層53a、全域コート層53bおよび補強コート層53c)を形成する。
【0064】
以上の構成によれば、下地層50の形成と描画処理とを同時並行して実施することができる。このため、所定の描画全体にかかるタクトタイムを短縮することができる。
【符号の説明】
【0065】
1:描画装置、7:X軸テーブル、8:Y軸テーブル、9:キャリッジユニット、10:制御装置、18:インクジェットヘッド、19:紫外線照射装置、21:吐出ノズル、W:ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に対し、インクジェット方式の液滴吐出手段を相対的に走査しながら前記液滴吐出手段を駆動して、前記記録媒体に描画を行なう描画動作により、
記録用インク材が塗着された前記記録媒体上の画像記録部を覆うように、オーバーコート材を塗着させる描画装置の描画方法であって、
前記記録媒体上の前記画像記録部と前記画像記録部以外の非画像記録部との境界部分に塗着するオーバーコート材の層厚が、他のオーバーコート材の層厚に比して厚肉となるように前記オーバーコート材を塗着させることを特徴とする描画装置の描画方法。
【請求項2】
前記画像記録部を構成する記録層の層厚に応じて、前記境界部分に塗着するオーバーコート材の層厚を可変させることを特徴とする請求項1に記載の描画装置の描画方法。
【請求項3】
前記画像記録部の縁端から外側に所定の寸法に亘って前記オーバーコート材を塗着させることを特徴とする請求項1または2に記載の描画装置の描画方法。
【請求項4】
前記所定の寸法が、前記画像記録部を構成する記録層の層厚より大きいことを特徴とする請求項3に記載の描画装置の描画方法。
【請求項5】
前記記録媒体には、前記画像記録部の下地となる下地材が塗着されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の描画装置の描画方法。
【請求項6】
前記オーバーコート材と前記下地材とが、同一の材料であることを特徴とする請求項5に記載の描画装置の描画方法。
【請求項7】
前記画像記録部は、画像データに基づく前記描画動作により、前記記録媒体上に前記記録用インク材を塗着させたものであり、
前記オーバーコート材は、前記画像データに基づく前記描画動作により、前記記録媒体上に塗着されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の描画装置の描画方法。
【請求項8】
記録用インク材およびオーバーコート材を導入したインクジェット方式の液滴吐出手段を用い、
記録媒体に対し、前記液滴吐出手段を相対的に走査しながら前記液滴吐出手段を吐出駆動して、前記記録媒体に描画動作を行なう描画装置の制御方法であって、
画像データに基づいて、前記記録用インク材を吐出させる前記描画動作により、前記記録媒体上に画像の記録を行う画像記録工程と、
前記画像データに基づいて、前記オーバーコート材を吐出させる前記描画動作により、前記記録媒体上の前記画像が記録された画像記録部の周囲に接するようにオーバーコート材を塗着させる縁部コート材塗着工程と、
前記画像データに基づいて、前記オーバーコート材を吐出させる前記描画動作により、前記記録媒体上の前記画像記録部および塗着した前記オーバーコート材に重ねてオーバーコート材を塗着させる全域コート材塗着工程と、
前記画像データに基づいて、前記オーバーコート材を吐出させる前記描画動作により、前記記録媒体上の前記画像記録部と前記画像記録部以外の非画像記録部との境界部分に、前記全域コート材工程により塗着させた前記オーバーコート材に重ねて前記オーバーコート材を塗着させる補強コート材塗着工程と、を備えたことを特徴とする描画装置の制御方法。
【請求項9】
前記画像記録工程は、前記記録用インク材が積層されるように複数回に亘って実施され、
前記縁部コート材塗着工程は、前記画像記録工程に対応し複数回に亘って実施されることを特徴とする請求項8に記載の描画装置の制御方法。
【請求項10】
記録用インク材およびオーバーコート材を導入可能に構成されたインクジェット方式の液滴吐出手段と、
記録媒体に対し、前記液滴吐出手段を相対的に走査する走査手段と、
前記走査手段により前記液滴吐出手段を相対的に走査しながら前記液滴吐出手段を吐出駆動して、前記記録媒体に画像の描画動作を実施する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記記録用インク材を吐出させる前記描画動作により、前記記録媒体上に画像の記録を行う画像記録動作と、
前記オーバーコート材を吐出させる前記描画動作により、前記記録媒体上の前記画像が記録された画像記録部を覆うように、且つ前記記録媒体上の前記画像記録部と前記画像記録部以外の非画像記録部との境界部分に塗着するオーバーコート材の層厚が、他のオーバーコート材の層厚に比して厚肉となるように前記オーバーコート材を塗着させるコート材塗着動作と、を実施することを特徴とする描画装置。
【請求項11】
前記制御手段は、
画像データに基づく前記描画動作により、前記画像記録動作を実施し、
前記画像データに基づく前記描画動作により、前記コート材塗着動作を実施することを特徴とする請求項10に記載の描画装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−106393(P2012−106393A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256547(P2010−256547)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】