説明

揚重機械の逸走防止装置

【課題】不測の事態で制動機能が働かずクレーンが傾斜に沿って逸走する事態となっても、速やかにその走行を停止させて危険を防止できるように構成する。
【解決手段】緩傾斜角度で設置される軌道上を移動できる走行ベース4を備えた揚重機械において、その走行ベース4には異常時の走行速度検出手段21と、前記軌道(走行レール2)の走行面に直接当接して制動する制動シュー25と、その制動シュー25を待機状態に維持する制動シュー保持手段30および制御手段を備え、その制御手段により前記走行速度検出手段21が設定異常速度および駆動車輪ロック状態での走行速度を検知すると制動シュー保持手段30を作動させて制動シュー25を軌道(走行レール2)の走行面に当接させ制動するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として勾配のある場所に設置されて荷役作業が行われる走行装置を備えた揚重機械が、不測の事態で逸走するのを防止できる機能を備えた揚重機械の逸走防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば地中に大型導水管やガス管,電力線ケーブルなどを敷設するのに、最近では共同溝として大口径の坑道(トンネル)を掘削して、このトンネル内にそれぞれを敷設するような方式が採用されつつある。このようなトンネル内において機材を揚重するのに、例えば橋形クレーンが設置されて、外部から搬入される機材などの受入れ作業に用いられている。
【0003】
一方、地中に構築されるトンネルでは、常に水平状態で構築されることがなく、勾配が付されている場合が多い。そのために所要の範囲で移動して揚重作業を行うような仮設機械では、その走行路も必然的に勾配が付された状態で設置されることになる。したがって、橋形クレーンのように軌道上を走行移動できる揚重機械では走行駆動装置を備え、荷の揚降時には停止状態を維持できるように駆動部に制動機構が設けられている。また、地上部での揚重作業においても、その作業現場の地形などから、勾配のある地面に沿って軌道を設置して、この軌道に沿ってクレーンを移動させるというような設置条件が要求される場合がある。
【0004】
ところで、制動する手段としては、車輪に制動力を付加する方式が主に採用されているが、非常時に軌道に対して直接制動力を加える方式として特許文献1に記載のものが知られている。この技術は鋼索鉄道(ケーブルカー)の制動装置としてワイヤロープで牽引される車輛に対するそのワイヤロープが切断したとき、あるいはワイヤロープに急激な弛みが発生した場合など、非常時において直接レールの頭部側面にブレーキシューを両側から押し当てて挟みつけるようにする制動装置に関するものである。
【0005】
【特許文献1】特開2002−104186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記傾斜路盤に設置される軌道上を移動させて使用する橋形クレーンなどの揚重機械では走行停止時における制動機能を必要とするが、その制動機能だけで停止して作業を行わせる、あるいは留置くだけでは、不測の事態で逸走した場合停止させることができず危険である。さりとて、クレーンに軌道を挟み付けるなどして固定する固定装置を設けて、その固定装置で固定して走行を停止させると、その場でクレーンの逸走を予防できるが、作業中に移動の都度固定装置を使用することは移動を伴う作業である場合、その作業能率を阻害することになり好ましくない。
【0007】
一方、特許文献1によって開示されているような制動装置は、前記傾斜路盤に設置される軌道上を移動させて使用する橋形クレーンなど、緩傾斜軌道上に設置して使用される揚重機械にそのまま採用するには、構造上複雑であって不適当である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、不測の事態で制動機能が働かずクレーンが傾斜に沿って逸走する事態となっても、速やかにその走行を停止させて危険を防止できる構成とされた揚重機械の逸走防止装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような目的を達成するために、本発明による揚重機械の逸走防止装置は、
緩傾斜角度で設置される軌道上を移動できる走行ベースを備えた揚重機械において、その走行ベースには異常時の走行速度検出手段と、前記軌道の走行面に直接当接して制動する制動シューと、その制動シューを待機状態に維持する制動シュー保持手段および制御手段を備え、その制御手段により前記走行速度検出手段が設定異常速度および駆動車輪ロック状態での走行速度を検知すると制動シュー保持手段を作動させて制動シューを軌道走行面に当接させ制動するように構成されていることを特徴とする。
【0010】
前記発明において、前記走行速度検出手段は、軌道上を転動する回転体によって変化量を検知するエンコーダであるのがよい(第2発明)。また、前記制動シュー保持手段は、軌道走行面に制動面を対向して配置される制動シューの基板背後に取付く支持棒を、ベースビームに付設のブラケットに保持部材にて待機状態に保持されるようにして、その保持部材に係合させた係止部材を操作するアクチュエータに前記走行速度検出手段からの異常速度検知信号が与えられると前記保持部材との係合が断たれるようにされ、前記支持棒の係止保持を開放して制動シューを軌道走行面に当接するように構成されるのがよい(第3発明)。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、走行ベースに異常時の走行速度検出手段を備えて、停止状態であるにもかかわらず走行ベースが走り出したことを検知すると、制動シュー保持手段にその制動シューの保持を解除する指令を与えるようにして、速やかに待機状態にある制動シューを軌道走行面に当接させることにより、直ちに制動して走行ベースの逸走を防止することができる。したがって、正常状態での走行車輪の制動機能が不能になっても、逸走を自動的に検出して制動シューを作動させることになって安全確保を図ることができる。
【0012】
また、本発明による構成を採用すれば、橋形クレーンのように特定範囲でクレーン本体を移動させて揚重作業を行う装置や天井クレーンのサドルに組込むことにより、不測の事態で軌道上を逸走することになっても、速やかにその走行を停止させ、事故発生を未然に防止することができる。しかも、その構成が簡単であって、軌道側に特別な機構を付加することもなく、設備コストを高めることもなく経済的であるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明による揚重機械の逸走防止装置を橋形クレーンに適用した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1には本発明による逸走防止装置を備えた橋形クレーンの一実施形態を表わす正面図が示されている。図2には図1の右側面図が、図3には走行ベース部を示す一部切欠き正面図が、図4には制動シュー保持手段の一実施形態を表わす概要図が、図5には走行駆動部を表す図が、それぞれ示されている。
【0015】
この実施形態の橋形クレーン1は、緩傾斜面を有する路盤上に所要の軌間で敷設される走行レール2,2に沿って移動可能に設置されている。クレーン本体3は、左右の走行レール2,2上に配される走行ベース4,4と、その走行ベース4,4上にそれぞれ立設される一対の支持脚フレーム5,5と、この左右支持脚フレーム5,5頂部間に架設される走行ガーダ6およびその走行ガーダ6上に支持されて横行自在なホイスト7とで構成されている。
【0016】
前記走行ベース4,4は、所要長さのビーム10,10を二本平行に配されて所定のホイルベースで長手両端部に走行車輪11,11(本発明の駆動車輪に対応する)が設けられ、その走行車輪11,11によって敷設されている走行レール2に案内される構成である。そして、前後両端部の内側側面にはそれぞれ走行用駆動装置13がブラケット14により支持配設され、歯車伝導機構15により前記走行車輪11を各々駆動するようにされている。また前後両端にはバッファ16,16が取付けられており、中間外側部の適所には固定手段17が付設されている。なお、前記走行用駆動装置13としては、例えば電動機直結型のウオーム減速機13aを使用し、このウオーム減速機13aの出力軸13b上に付設の出力歯車15aから走行車輪の車軸11a上に固着の歯車15bに動力が伝達されるように構成される。このような駆動構成にすると、駆動が停止したならばウオーム減速機13aにおいて走行車輪11側からの逆回転が自動的にロックされて、停止時の走行が生じない状態とされる。
【0017】
前記支持脚フレーム5,5は、所定の吊り込み高さが確保できる高さ寸法で前記走行ベース4,4上に、それぞれ二本の角形中空部材にてなる支持脚5a,5aを、上端部が相互に寄り合うようにして立設され、中間部で複数のステー5b,5bによって連結補強されている。そして、走行ガーダ6は、二本の桁材が所定の間隔で平行に両端内側で繋ぎ部材によって連結されて構成され、前記左右の支持脚フレーム5,5の頂端に取着支持されて架設されている。さらに、この走行ガーダ6の両桁材の上面には所要の軌間で横行用レール8,8が設けられている。この走行ガーダ6上には、横行用レール8,8上を走行自在にホイスト7が搭載されている。また、一方の前記支持脚フレーム5から走行ガーダ6の一方の側面部に沿って点検用の作業足場9と昇降タラップ9a,9bが取付けられている。図中符号18は電源ケーブルリール、19は制御盤、8aは横行部のストッパである。
【0018】
前記両走行ベース4,4には、その中間部において逸走防止装置20が付設されている。この逸走防止装置20は、異常時の走行速度検出手段21と、前記走行レール2,2(軌道)の走行面に当接して制動する制動シュー25と、正常時にはその制動シュー25を待機状態に保持する制動シュー保持手段30および異常事態において前記制動シュー保持手段30を開放作動させて制動シュー25を走行レール2の走行面に当接制動させる制御手段とで構成されている。
【0019】
前記異常時の走行速度検出手段21としては、走行ベース4の適所に上下摺動可能なスライド取付座を備えたブラケット22に、上下移動調整機構22aを介して速度検出ホイール23とこの速度検出ホイール23からの回転を受けて回転するロータリエンコーダ(図示せず)とからなる速度検出ユニットが設けられている。
【0020】
また、前記制動シュー25は、所要制動面積を有する縦長の基板25aとその基板表面に制動材にてなる制動板25bを貼着されてなり、基板25aの背面には、走行ベース4上面に所要の間隔で制動付勢ロッド26,26と、その制動付勢ロッド26,26間に配置されて支持ロッド27がそれぞれ制動面に直交する向きで起立固定されている。なお、前記制動付勢ロッド26には圧縮バネ28が被嵌され、常態でその圧縮バネ28,28に蓄勢力が付されるように、制動シュー25の制動面が走行面から適宜寸法離れるように持上げられている。
【0021】
前記制動シュー保持手段30は、前記支持ロッド27(本発明の支持棒に対応する)に付設のロックピン29を凹所32にて受止めて保持する保持部材31と、この保持部材31に設けられる係止部32'に契合して係止する係止爪33a付きの梃子リンク33と、この梃子リンク33を操作するパワーシリンダ34(本発明におけるアクチュエータに相当)とで構成されている。前記保持部材31は、周面に回転中心から放射状に凹所32と係止部32'が形成されており、走行ベース4の上面に立設された一対のブラケット36に水平支持される支持軸35上で回転可能に設けられている。また、前記梃子リンク33は、前記ブラケット36に中間部を軸で枢支され、上端に前記保持部材31の係止部32'と係合する係止爪33aが設けられ、下端部でパワーシリンダ34のロッド34a先端付設のヨークとピン連結されている。前記パワーシリンダ34は、トラニオンマウントもしくはクレビスマウントのものが好ましい。
【0022】
前記制動シュー保持手段30と前記異常時の走行速度検出手段21とは、図6に示される逸走防止フローチャートによって示されるように制御される制御手段(走行ベース4上に載置されている制御盤19内に設けられている)によって電気的に関連されている。つまり、走行速度検出手段21によるロータリエンコーダは常時走行中の速度検知信号を発進する状態にあるが、正常時にはその検知信号回路が遮断されており、クレーンが停止状態において前記走行速度検出手段21と制動シュー保持手段30のパワーシリンダ34とが接続されて作動可能な状態にされている。
【0023】
制御手段による逸走防止装置の制御は、次の制御フローに従って行われる。なお、符号Sはステップを示している。
S1〜S3:クレーンを移動させるために走行用駆動装置13の電動機を起動させる(S1)。すると、電動機直結型のウオーム減速機13aが作動して走行車輪11が回転し、走行ベース4,4がレールに沿って走行されクレーン本体が移動する(S2)。走行ベース4,4には走行速度検出手段21として走行時走行レール2に接して回転する速度検出ホイール23からの回転を受けて回転速度を検知するロータリエンコーダが走行を検知する(S3)。
【0024】
S4:制御部では前記ロータリエンコーダによる信号を受けて、正常運転であるか否かを判断し、正常運転であると判断するとステップS5に移行し、正常運転でないと判断されるとステップS6に移行する。
【0025】
S5:ステップS4において、正常運転であると判断されると、制御部において予め設定されている制御手順によって、ロータリエンコーダの発信する走行速度信号をオフにし、ステップS3に戻る。一方、正常運転ではないと判断されると、次のステップS6に移行する。
【0026】
S6:ステップS4において正常運転ではないと判断されると、走行用の電動機が駆動中か停止しているかを判断する。駆動中であればステップS5に戻り、停止していると判断されると、次のステップS7に移行する。
【0027】
S7〜S9:ステップS6において走行用の電動機が停止していると判断されると、ロータリエンコーダによる速度検出信号が制動操作回路側に接続される(S7)。このロータリエンコーダによる速度検出信号でパワーシリンダ34が起動される(S8)。すると、パワーシリンダ34のロッド34aが伸長されて連結される梃子リンク33が枢支ピンを支点にして回動され、梃子リンク33先端部の係止爪33aが保持部材31の係止部32'との係合を解かれると、支持ロッド27に付設のロックピン29と保持部材31の凹所32との係合が圧縮バネ28の復元力で、その保持部材31が自動的に回動されて除かれ、制動シュー25のロックが解除される(S9)。
【0028】
S10〜S13:制動シュー25はロックを解除されると、その制動シュー25の背面にてそれまで蓄勢されていた圧縮バネ28,28の蓄勢力で、急速に制動シュー25を押し下げて、走行レール2の走行面に制動面が押し付けられて制動される(S10,S12)。これと同時にクレーンの電源がオフされる(S11)。その結果、走行ベース4(クレーン本体1)の逸走が阻止されることになる(S13)。
【0029】
本実施形態によれば、制動シュー25による制動作用によってクレーン本体が逸走するのを防止されるので、クレーン本体が傾斜路盤に設置された場合であっても、支障を来すことはない。
【0030】
なお、制動によって走行レール2に当接した制動シュー25を正常位置に復元させるには、例えば、保持部材31を支持する軸35の一端にレバーが取付けられるようにして、復元時にのみレバーを軸端に装着して手動により逆回転させ、また、パワーシリンダ34を逆作動させて梃子リンク33を復帰させて係止爪33aが保持部材31の係止部32'に係合するようにしておけば、保持部材31を逆転させることにより、その凹所32に係合しているロックピン29が保持部材31の逆転に応じて持上げられるので、支持ロッド27によって制動シュー25が圧縮バネ28,28のバネ力に抗して待機位置まで引き上げられる。すると、保持部材31の係止部32'に梃子リンク33付設の係止爪33aが係合して支持ロッド27を固定保持し、正常状態に復元することができる。
【0031】
以上は橋形クレーンにおける走行ベースの逸走防止について記載したが、本発明の趣旨に則すれば、同様の構成で天井クレーンにおけるサドルにそのまま採用することが可能である。こうすれば、天井クレーンにおいても前記実施形態のものと同様に逸走するのを防止することができる。
【0032】
また、前記実施形態においては、逸走防止手段におけるロック解除のアクチュエータとしてパワーシリンダを使用した場合について記載しているが、これに変えて電磁ソレノイドを用いるようにすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による逸走防止装置を備えた橋形クレーンの一実施形態を表わす正面図
【図2】図1の右側面図
【図3】走行ベース部を示す一部切欠き正面図
【図4】制動シュー保持手段の一実施形態を表わす概要図
【図5】走行駆動部を表す図
【図6】逸走防止の制御フローチャート
【符号の説明】
【0034】
1 橋形クレーン
2 走行レール
3 クレーン本体
4 走行ベース
10 ビーム
11 走行車輪
13 走行用駆動装置
20 逸走防止装置
21 走行速度検出手段
23 速度検出ホイール
25 制動シュー
26 制動付勢ロッド
27 支持ロッド
28 圧縮バネ
29 ロックピン
30 制動シュー保持手段
31 保持部材
33 係止爪付き梃子リンク
34 パワーシリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緩傾斜角度で設置される軌道上を移動できる走行ベースを備えた揚重機械において、その走行ベースには異常時の走行速度検出手段と、前記軌道の走行面に直接当接して制動する制動シューと、その制動シューを待機状態に維持する制動シュー保持手段および制御手段を備え、その制御手段により前記走行速度検出手段が設定異常速度および駆動車輪ロック状態での走行速度を検知すると制動シュー保持手段を作動させて制動シューを軌道走行面に当接させ制動するように構成されていることを特徴とする揚重機械の逸走防止装置。
【請求項2】
前記走行速度検出手段は、軌道上を転動する回転体によって変化量を検知するエンコーダである請求項1に記載の揚重機械の逸走防止装置。
【請求項3】
前記制動シュー保持手段は、軌道走行面に制動面を対向して配置される制動シューの基板背後に取付く支持棒を、ベースビームに付設のブラケットに保持部材にて待機状態に保持されるようにして、その保持部材に係合させた係止部材を操作するアクチュエータに前記走行速度検出手段からの異常速度検知信号が与えられると前記保持部材との係合が断たれるようにされ、前記支持棒の係止保持を開放して制動シューを軌道走行面に当接するように構成される請求項1に記載の揚重機械の逸走防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−160456(P2006−160456A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−355048(P2004−355048)
【出願日】平成16年12月8日(2004.12.8)
【出願人】(390022611)株式会社コシハラ (15)
【Fターム(参考)】