説明

換気扇又はレンジフード用防汚フィルタ

【課題】油煙等に含まれる油成分の裏抜けが起こりにくいフィルタを提供すること。
【解決手段】本発明のフィルタ1は、換気扇又はレンジフード用防汚フィルタである。フィルタ1は、繊維径が5μm以上35μm未満である繊維を含む繊維シートからる。繊維の表面が撥油性を有している。繊維の表面に撥油性処理がなされているか、又は繊維自体が撥油性を有する材料から構成されている。撥油性処理がされている場合には、繊維の表面にフッ素樹脂のエマルジョンを塗布し、これを乾燥させればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、換気扇やレンジフードに取り付けられて使用される防汚フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
レンジフードの吸入口には、調理時に発生する油煙や埃等(以下、油煙等という。)によって排煙用のファン等が直接汚れないようにするために、これらを捕獲するグリスフィルタと称される金属製のフィルタが取り付けられている。しかし、このグリスフィルタは、掃除が面倒であるため、その手間を軽減するために、その外側に更に不織布等の素材からなる使い捨ての油捕集用フィルタが取り付けられて使用されている。
【0003】
この種の油捕集用フィルタは、調理時の火炎などの高熱に耐えうることが求められており、例えば特許文献1及び2には、難燃性又は耐炎性の素材から形成された油捕集用フィルタ又はフィルタ材が開示されている。
【0004】
また、特許文献3には換気扇フィルタの繊維表面を、フッ素系高分子撥水剤が添加されたバインダにより固着し、繊維表面を撥水性にすることで、水膜に覆われることなく油滴と繊維との接触が有効に行われて、油捕集効率が向上することが開示されている。特許文献4には、排気口用フィルタにフッ素系化合物などの撥油性成分を付着させ、油滴との親和性を異ならせることにより、表示要素として機能させる交換時期表示方法を開示している。
【0005】
特許文献5には、カーボンダストを含む被処理ガスを処理するためのフィルタエレメントが記載されている。このフィルタエレメントは、オイル含浸濾過材と、この濾過材の下流側に形成され、かつオイル含浸濾過材からの少なくともカーボンダストの透過を規制するための透過防止層とで構成されている。透過防止層は、撥油剤を含む繊維層からなる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−316009号公報
【特許文献2】特開2003−236320号公報
【特許文献3】特開平8−86480号公報
【特許文献4】特開2004−53041号公報
【特許文献5】特開2003−299921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の特許文献1及び2に記載されているフィルタをはじめとして、一般に市販されている不織布等からなる油捕集用フィルタは、不織布の構成繊維として親油性の合成樹脂が使用されていることから、油煙等に含まれる油成分とのなじみが良好である。それに起因して、レンジフードのファンによって吸引された油煙等がフィルタを通過するときに、油煙等に含まれる油成分が繊維の表面に膜状に付着しやすい。この状態を図9に模式的に示した。同図中、白抜きの円はフィルタの構成繊維Fの断面を表している。また繊維Fの外縁を太く表しているのは、これが繊維Fに付着した油膜Mであることを意味している。油成分Aは先ずレンジ側に位置する繊維Fに付着して油膜Mとなり、繊維Fの表面を被覆する。そして油成分Aは、毛細管現象によって、比較的短期間でフィルタの厚み方向全体に移行する。つまり比較的短期間で油成分の裏抜けが起こりやすい。裏抜けの発生は、フィルタが汚れているという悪い印象を使用者に与えやすい。また裏抜けが起こることで、まだ十分に使用に耐えうるフィルタであっても、その交換をしなければならないという気持ちを使用者に与えてしまう。裏抜けの発生は、フィルタの裏面に位置するグリスフィルタを汚す原因となるため、掃除の手間が十分に低減されず、グリスフィルタの防汚という本来の目的を十分に達成できない。
【0008】
特許文献3では、繊維表面をフッ素系高分子撥水剤が添加したバインダで固着させることで撥水性にしている。その結果、水が繊維に付きにくくなり、油滴と繊維との接触が有効に行われて油捕集効率が向上すると記載されている。つまり繊維と油滴の親和性が高く、親油性であることが判る。また、界面活性剤等の親油性を有する物質もバインダに含んでもよいとしているため、なおさら繊維表面は親油性となっている。そのため繊維表面が親油性の状態であると毛細管現象によってフィルタの厚み方向に油が移行してしまう。
【0009】
特許文献4ではフィルタにフッ素系化合物などの撥油性成分を付着させ油滴との親和性が異なることにより表示要素とし、表示が文字状、点状、格子状、線状など、油との親和性の異なる部分(撥油性部分と親油性部分)がないと機能しない。フィルタの全面を撥油性にしたり、フィルタの片面(裏側または表側)の全面を撥油性にした場合、表示要素とはならない。
【0010】
特許文献5に記載のフィルタエレメントは、自動車エンジンの吸気系に用いられるエアクリーナ用のためのものである。したがって、同文献においては、同文献に記載のフィルタエレメントを、換気扇やレンジフードに取り付けて使用することは全く考慮されていない。仮に、同文献に記載のフィルタエレメントを、換気扇やレンジフードに取り付けて使用したとすると、使用の当初からフィルタに油が付着している状態なので、フィルタの使用期間が短くなってしまい、経済的でない。また、フィルタを取り付けるときに、該フィルタに付着した油で手が汚れてしまう。更に、表裏を間違えて取り付けたときに、グリスフィルタが汚れてしまう。
【0011】
したがって本発明の目的は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得るフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、繊維径が5μm以上35μm未満である繊維を含む繊維シートからなり、該繊維の表面が撥油性を有している換気扇又はレンジフード用防汚フィルタを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、油煙等に含まれる油成分の裏抜けが起こりにくくなる。その結果、フィルタで捕集した油成分がグリスフィルタを汚すことを防ぎ、掃除の手間を省くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本実施形態の換気扇又はレンジフード用防汚フィルタ(以下、単にフィルタともいう)は、調理時に発生する微細な油滴を含む空気(油煙)から油を捕集するために好適に用いられるものである。したがって、本発明において「換気扇」及び「レンジフード」とは、調理時に発生する煙(油煙及び湯気を含む)の吸引及び排出に用いられる装置全般を広く包含する。フィルタをレンジフードに取り付ける場合には、該レンジフードに一般的に備えられている油捕集用のグリスフィルタを支持体として用い、該グリスフィルタに本発明のフィルタを取り付けてもよく、あるいはグリスフィルタを用いることなく、本発明のフィルタを単独でレンジフードに取り付けてもよい。フィルタは繊維シートからなる。繊維シートとしては、繊維材料からなり、シート形態を有しているものであれば、その種類に特に制限はない。本実施形態のフィルタが使い捨てのものであることや、嵩高で油捕集能が高いことが必要であることを考慮すると、繊維シートとして不織布を用いることが好ましい。
【0015】
繊維シートとして用いられる不織布としては、従来知られている種々のタイプのものを特に制限なく用いることができる。例えばメルトブローン不織布、スパンボンド不織布、繊維間を熱接着させるヒートボンド不織布のエアスルー不織布、エアレイド不織布、繊維を交絡させるスパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、樹脂等の塗工により繊維を接着するケミカルボンド不織布などが挙げられる。本実施形態のフィルタには耐熱性が必要とされることから、不織布を構成する繊維はその融点が高いことが望ましい。したがって熱融着によらずシート化が可能な不織布を用いることが有利である。この観点から、不織布としてスパンレース不織布やケミカルボンド不織布を用いることが好ましい。また、構成繊維として熱融着性を有する難燃性繊維を用いた場合は、厚みがあり通気による圧力損失を低減することが可能な不織布であるエアスルー不織布も好適に用いることができる。なお、ここで言う難燃性繊維とはLOI値が26以上の繊維を示す。
【0016】
本実施形態のフィルタとして用いられる繊維シートは、その構成繊維の繊維径に特徴の一つを有する。詳細には、繊維シートの構成繊維は、その繊維径が5μm以上35μm未満に設定されている。この繊維径は、従来の油捕集用フィルタを構成する繊維シートの構成繊維の繊維径よりも小さい範囲である。つまり本実施形態においては、従来よりも小径の繊維を用いてフィルタを構成している。小径の繊維を用いることで、繊維間の空隙を小さくすることができる。その結果、油煙等の捕集効果を高めることが可能となる。繊維径が35μm以上の繊維を用いてフィルタ全体を構成すると、繊維間の空隙が大きくなり過ぎて、油煙等が繊維間をすり抜けてしまい、油煙等を確実に捕集するできなくなってしまう。油煙等の捕集効果を高める観点からは、繊維径は小さいほど好ましい。しかし繊維径を余りに小さくしてしまい、繊維間の空隙が小さくなり過ぎると、圧力損失が大きくなってファンによる油煙等の吸引効率が低下してしまう。したがってフィルタの構成繊維の繊維径の下限値は5μmとする。ファンによる油煙等の吸引効率を低下させることなく、油煙等の捕集効果を一層高める観点から、フィルタの構成繊維の好ましい繊維径は7μm以上25μm未満である。一方、繊維シートを構成する全ての繊維が25μm以上35μm未満の繊維径を有している場合、捕集効果が低下しグリスフィルタに汚れがつく事があり、防汚性は十分とはいえない。しかし、7μm以上25μm未満の繊維径を有する繊維を組み合わせて用いることにより、高い防汚性を発現する事ができる。例えば、繊維の一部に25μm以上35μm未満の比較的太い繊維径の繊維が含まれていても、それ以外が5μm以上25μm未満の繊維径の細い繊維で構成されていれば、十分な捕集効果を発現できる。25μm以上35μm未満の太い繊維径の繊維が含まれる許容範囲は、繊維シート全体の坪量によって異なるが、重量基準でおよそ5%以上70%未満である。この範囲内であれば満足すべき防汚性を発現できる。また、25μm以上35μm未満の比較的太い繊維径の繊維と、5μm以上25μm未満の細い繊維径の繊維とを組み合わせる方法は、太い繊維と細い繊維どうしを混合した状態でシート化することで組み合わせても良く、あるいは細い繊維径の繊維から構成されるシートと太い繊維径の繊維から構成されるシートを積層することで組み合わせても良い。なお、繊維シートを構成する繊維は、そのすべてが前記の範囲の繊維径を有していることが望ましいが、本発明の効果を損なわない範囲において、前記の範囲外の繊維径を有する繊維が含まれていても良い。
【0017】
上述のとおり、油煙等の捕集効果の観点からは、フィルタの構成繊維の繊維径が重要な要因であるところ、フィルタの坪量や厚みは油煙等の捕集効果に関しては臨界的な要因でないことが本発明者らの検討の結果判明した。フィルタの坪量や厚みは専らフィルタの強度やグリスフィルタへの取り付け性と関係している。フィルタの坪量が低すぎると、グリスフィルタへの装着時に伸びが生じてたるみができやすく、隙間なくフィルタを取り付けるのが困難な場合がある。また長期間の使用によって、捕集した油によりフィルタの自重が増加して、伸びが生じる場合がある。このような伸びやたるみの発生は、フィルタとグリスフィルタとの間に隙間を生じる原因になる。この隙間は油煙等の進入経路となり、それに起因してグリスフィルタやレンジフード内部、例えばファン等が汚れることがある。
【0018】
以上の観点から、フィルタの坪量は20〜150g/m2、特に20〜100g/m2であることが好ましい。またフィルタの厚みは0.5〜10mm、特に1〜8mmであることが好ましい。
【0019】
本実施形態のフィルタを構成する繊維シートの構成繊維は、その表面が撥油性を有している。繊維の表面が撥油性を有するようにするためには、(イ)撥油剤を有していない繊維を用いて不織布を作製し、その後に撥油剤又は撥油剤を添加した樹脂を塗工する等、繊維の表面を撥油性処理する方法、(ロ)撥油性の繊維を用いて不織布を作製する方法がある。(イ)の場合、例えば繊維の表面にフッ素系撥油剤をコーティング処理して撥油性を付与すればよい。
【0020】
繊維の表面をフッ素系撥油剤でコーティング処理するためには、例えば繊維の表面にフッ素樹脂のエマルジョンを付与し、これを乾燥させればよい。これによって繊維の表面にフッ素樹脂を膜状に付着させることができる。乾燥後に熱処理を施すことで、繊維の表面に付着したフッ素樹脂の密着性を高めることができる。フッ素樹脂のエマルジョンを繊維の表面に付与するには、例えば該エマルジョンをディッピング(含浸)させたり、該エマルジョンをスプレー噴霧したり、該エマルジョンを泡立て処理したりすればよい。その他の方法として、希釈フッ素ガス、低温プラズマによるもの、グロー放電によるスパッタリングによって、繊維の表面をフッ素化し撥油性を付与することができる。
【0021】
フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン・パーフルオロプロピルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン樹脂、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン樹脂、フッ化ビニル樹脂、ヘキサフルオロプロピレン・フッ化ビニリデン共重合体、及びポリイミド系変性フッ素樹脂、PPS系変性フッ素樹脂、エポキシ系変性フッ素樹脂、PES系変性フッ素樹脂、フェノール系変性フッ素樹脂、パーフルオロアルキルエチレン基を有するアクリレート重合体やメタクリレート共重合体等が挙げられる。また、フッ素樹脂のエマルジョンを用いることもできる。そのようなエマルジョンとしては、例えば旭硝子製のフッ素樹脂であるアサヒガード(登録商標)AG−7000を用いることができる。
【0022】
フッ素樹脂を付着させる量は、フッ素樹脂を付着させる前の繊維の重量に対して0.1〜10重量%、特に0.5〜2重量%とすることが好ましい。付着量を0.5重量%以上とすることで、繊維の表面に十分な撥油性を付与することができる。また付着量を10重量%以下とすることで、過剰付着に起因するフィルタの通気性の低下が防止される。
【0023】
繊維自体を、撥油性を有する材料から構成する場合、該材料としては、上述した各種のフッ素樹脂を用いることができる。
【0024】
撥油性処理に使用する撥油剤として、フッ素系撥油剤以外に、一部の界面活性剤を用いることもできる。そのような界面活性剤は、これを不織布に塗工し乾燥させることによって、撥油性を発現させることができる。例えば、非イオン性界面活性剤であるアルキルグルコシド、両性界面活性剤であるラウラミドプロピルベタインを不織布に塗工し乾燥させることによって、繊維に撥油性を付与できる。また、フッ素を配合した油剤を表面に塗布した繊維のなかには、加熱することにより繊維表面が撥油性を示すものがあり、そのような繊維を本発明で使用することもできる。そのような繊維の例としては、宇部日東製の超撥油不織布用原綿、UCファイバー HR−PLEが挙げられる。
【0025】
撥油性の繊維を用いて不織布を作製する場合に用いられる該繊維としては、フッ素が練り込まれた繊維、フッ素樹脂からなる繊維が挙げられる。そのような繊維の例としては、東レ製のフッ素繊維であるトヨフロン(登録商標)や、デュポン製のテフロン(登録商標)等が挙げられる。
【0026】
図1には、本実施形態のフィルタ1における油成分の裏抜け防止の様子が模式的に示されている。同図中、白抜きの円はフィルタ1の構成繊維Fの断面を表している。また繊維Fの外縁の二重丸は、繊維Fが撥油性であることを意味している。同図に示すように、油成分Aは先ずレンジ側に位置する繊維Fに付着する。このとき、繊維Fの表面は撥油性を有しているので、油成分Aは繊維Fの表面ではじかれる。換言すれば膜状に付着しない。その結果、油成分Aは繊維Fの表面で油滴の状態で存在する。油成分Aが油滴の状態で存在することによって、油成分Aには毛細管力が作用しづらくなり、その移動が起こりづらくなる。つまり、油成分Aはフィルタ1のファン側に移動しづらくなる。このような理由によって油成分Aの裏抜けが防止される。
【0027】
油成分の裏抜けを一層効果的に防止する観点から、繊維の表面の撥油性の程度は以下に述べる方法で測定された接触角の値が35度以上、特に40度以上、とりわけ60度以上であることが好ましい。接触角の値をこのようにするためには、適切なフッ素樹脂や撥油剤を用いて繊維の表面が撥油性を有するようにすればよい。
【0028】
〔接触角の測定方法〕
本発明のフィルタに、シリンジを用いて食用油(日清オイリオグループ株式会社製 日清キャノーラ油)を滴下する。温度は25℃とする。接触角計(協和界面科学製接触角計CA−A)を用いて、滴下した油の接触角をスコープでのぞいて読み取る。
【0029】
本実施形態においては、図1に示すように、フィルタ1を構成する繊維のすべてが撥油性を有しているが、これに代えて一部の繊維のみが撥油性を有していてもよい。その例を図2に示す。図2に示すフィルタ1においては、それを構成する繊維シートの厚み方向における片側の略半面の領域に存する繊維F1の表面が撥油性を有しており、残りの略半面の領域に存する繊維F2の表面は撥油性を有していない。繊維F2を含む層は、非撥油性であり、かつ好ましくは油非含浸の繊維層である。この場合、繊維F1が存する側をレンジ側に位置させてフィルタ1を使用してもよく、あるいは繊維F2が存する側をレンジ側に位置させてフィルタ1を使用してもよい。また、繊維F1と繊維F2の構成樹脂は同種のものでもよく、あるいは異種のものでもよい。前記の「油非含浸」とは、繊維層が油を全く含まないことを意味するものではなく、例えば上述の特許文献5に代表される、内燃機関に用いられるエアクリーナ用フィルタに含浸される油の量の範囲(例えば繊維に対して10重量%以上)よりも少量の油であれば、油が含浸されることを許容する趣旨である。したがって、フィルタ1を構成する繊維シートの製造過程において一般に施される少量の合成繊維用紡糸油剤の使用(例えば繊維に対して0.3〜0.5重量%程度)は、「油非含浸」に該当し、本発明において許容される。合成繊維用紡糸油剤は一般に潤滑剤と界面活性剤との混合物からなる。潤滑剤としては、鉱物油、高級アルコール、高級脂肪酸からなる脂肪酸エステル類、二塩基酸及び高級アルコールからなる二塩基酸エステル、フタル酸ジエステル等が用いられる。界面活性剤としては、アルキルフォスフェートカリウム塩、リン酸エステルカリウム塩等が用いられる。
【0030】
図3には、図2に示すフィルタ1を、繊維F2が存する側をレンジ側に位置させて使用した場合の裏抜け防止の様子が模式的に示されている。同図に示すように、油成分Aは先ずレンジ側に位置する繊維F2に付着する。繊維F2は撥油性を有していないので、繊維F2に付着した油成分Aは、繊維F2の表面に濡れ広がり油膜Mを形成する。油膜Mを構成する油成分Aは毛細管現象によって、ファン側に向かってフィルタ1の厚み方向に移行する。ファン側に向かって移行する油成分Aは、繊維F1が存する領域まで到達すると、該繊維F1の有する撥油性によって油膜Mの形成が妨げられ、また毛細管現象による移行も妨げられる。その結果、油成分Aは繊維F1の表面において油滴の状態で存在するようになり、毛細管力が作用しづらくなる。その結果、油成分Aはフィルタ1のファン側に移動しづらくなる。このような理由によって油成分Aの裏抜けが防止される。このように本実施形態においては、空気流入側に好ましくは非撥油性である油非含浸繊維層を位置させ、該繊維層を主に油の捕集、保持のために用いている。かつ、該繊維層に隣接して空気流出側に位置する、表面が撥油性を有している繊維を含む繊維層を、捕集した油成分の空気流出側への浸透を防止するために用いている。
【0031】
図2に示すフィルタ1を図3に示す形態とは逆の形態で使用した場合、つまり繊維F1が存する側をレンジ側に位置させて使用した場合には、図1に示す機構とほぼ同様の機構によって油成分の裏抜けが防止される。
【0032】
以上のとおり、図2に示す実施形態のフィルタ1を用いると、図1に示す実施形態の場合よりも撥油性を有する繊維の使用量を低減させつつ、図1に示す実施形態と同様の裏抜け防止効果が奏されるので、経済的に有利である。また、撥油性を有しない繊維部分に油滴が浸透していくため、全面を撥油加工した図1に示す実施形態の場合よりも使用期間が長くなり有利である。
【0033】
また、繊維F2が大半の油成分を捕集するため、繊維F1は油成分の移動を抑制する効果のみ発現すればよい。したがって図4に示すように、繊維F1は、繊維F2と比較して、繊維径が太いものを使用しても良い。換言すれば、表面が撥油性を有している繊維を含む繊維層が、非撥油性である繊維層よりも、疎な構造を有していてもよい。特に、表面が撥油性を有している繊維を含む繊維層が、非撥油性である繊維を含む油非含浸繊維層よりも、疎な構造を有することが好ましい。このようにした場合、全体に細い繊維を使用した場合と比較して、繊維F1を含む側の片面の繊維間の空隙が大きくなる。これに起因して、捕集効果を維持しつつ圧力損失が小さくなり、ファンによる吸引効率の低下を抑えることができる。また、毛管力も働きにくくなることから、油成分の裏抜けが更に起こりにくくなる。この場合、繊維F1を含む側の面がファン側(空気流出側)に位置するように使用する必要がある。
【0034】
図2及び図4に示す実施形態のフィルタ1は、撥油性を有する繊維ウエブと撥油性を有していない繊維ウエブとを積層し、両者を水流交絡させることで得ることができる。あるいは、撥油性を有する繊維ウエブと撥油性を有していない繊維ウエブとを積層し、両者を熱風により熱融着させるか、撥油性を有する繊維シートと撥油性を有していない繊維シートとを積層し、熱により部分的に融着させることで得ることができる。このような融着には、例えばエンボス加工が用いられる。
【0035】
図5には、フィルタ1を構成する繊維シートの一部の繊維のみが撥油性を有している別の実施形態が示されている。図5に示すフィルタ1においては、繊維シートの厚み方向における中央部分に存する繊維層の構成繊維F1の表面が撥油性を有しており、残りの領域の繊維層の構成繊維F2は撥油性を有していない。この場合、繊維シート表裏のどちらの面をレンジ側に位置させて利用しても、図3に示す機構とほぼ同様の機構によって油の裏抜けが防止される。つまり、本実施形態においては、空気流入側に位置する繊維層の構成繊維F2及び空気流出側に位置する繊維層の構成繊維F2は撥油性を有していない。特にこれらの繊維層は、非撥油性であり、かつ油非含浸繊維層であることが好ましい。図5に示す実施形態においては、表面が撥油性を有している繊維F1の繊維径と、非撥油性の繊維F2との繊維径は同一でもよく、あるいは繊維F1の方が繊維F2よりも大きくてもよい。また、空気流入側に位置する繊維層に含まれる繊維F2と、空気流出側に位置する繊維層に含まれる繊維F2の繊維径は同一でもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0036】
図6(a)には、本発明のフィルタ1の更に別の実施形態が示されている。本実施形態のフィルタ1は、支持体2の両面に繊維集合体3A,3Bを有しており、該繊維集合体3A,3Bを構成する繊維は、該繊維間で絡合しているとともに、該支持体2を骨格とした一体的な絡合状態を形成している。フィルタ1においては、支持体2が、フィルタ1の厚み方向の内部に存在しており、支持体2の上下面が、繊維集合体3A,3Bでそれぞれ覆われている。つまりフィルタ1は、支持体2と繊維集合体3A,3Bとからなる繊維シートである。
【0037】
支持体2は、有孔フィルム等の網状素材(網目を有する素材)からなるネットである。本実施形態では、支持体2は図6(b)に示すように二軸の格子状である。しかし支持体2としては、これに限られず、図6(c)に示す三軸のものや、ネットではないもの、例えば不織布であっても良い。つまり、一定の孔を有し、繊維集合体を形成する繊維ウエブが絡合状態で一体化する担体であれば支持体の種類に特に限定はない。例えば、ガーゼ状の織布のように織り目空間の比較的大きな目の粗い織布、繊維径の太い繊維で構成されたスパンボンド不織布、あるいは片面又は両面に繊維集合体3A,3Bを重ね合わせてそれらを絡合状態、繊維どうしの熱融着、又は熱、圧力若しくは超音波によるシートどうしの部分的な接着で一体化し得る繊維空隙を有する不織布等も支持体2として用いられる。
【0038】
支持体2の厚みは、繊維集合体3A,3Bを構成する繊維径の好ましくは5〜1000倍、更に好ましくは10〜300倍、一層好ましくは15〜50倍である。この範囲の厚みにすることで、フィルタ1にたるみ等が生じない程度の強度が付与される。支持体2の線径は20〜1000μmが好ましく、更に好ましくは100〜300μmである。支持体2の線径は部分的に異なっていても良く、その場合は太い部分の線径が前記の値に相当する。この線径が支持体2の厚みに相当する。支持体2の線間距離は5〜20mmが好ましく、更に好ましくは8〜15mmである。支持体2の坪量は、0.1〜100g/m2、特に1〜30g/m2であることが好ましい。
【0039】
一方、繊維集合体3A,3Bの坪量は、20〜150g/m2であることが、フィルタ1の油煙等の捕集率及び形態保持性を確保する上で好ましい。この場合、各繊維集合体3A,3Bの坪量は同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。繊維集合体3A,3Bの構成繊維は、それらの全体が撥油性を有していてもよい。この場合には、支持体2の有無を除き、図1に示す実施形態と同様の構成となる。繊維集合体3A,3Bは、それらの一方のみの構成繊維が撥油性を有していてもよい。この場合には、支持体2の有無を除き、図2又は図4に示す実施形態と同様の構成となる。
【0040】
本実施形態のフィルタ1によれば、支持体2の作用によって保形安定性が高くなり、長期間の使用が可能となる。
【0041】
本実施形態のフィルタ1は、支持体2の各面に、繊維集合体3A,3Bの元となる繊維ウエブを積層させ、この状態で該繊維ウエブに向けて高圧水流を噴射して、支持体2の片面側にある繊維ウエブの繊維と他面側にある繊維ウエブの繊維、及び繊維ウエブの繊維とネット2を絡合一体化させるのと同時に、各繊維ウエブを絡合により不織布状の繊維集合体として支持体2に固定することで製造される。即ち、本実施形態のフィルタ1は広義にはスパンレース不織布である。あるいは本実施形態のフィルタ1は、支持体2の各面に、繊維集合体3A,3Bの元となる繊維ウエブを積層させ、この状態で該繊維ウエブに熱風を吹き付けて、支持体2の片面側に位置する繊維ウエブの繊維と、他面側に位置する繊維ウエブの繊維とを融着一体化させるとともに、繊維ウエブの繊維とネット2とを融着一体化させるのと同時に、各繊維ウエブの融着によって生じた不織布状の繊維集合体を支持体2に固定することで製造される。更にフィルタ1は、支持体2の各面に、あらかじめシート化した繊維集合体3A,3Bの繊維シートを積層させ、この状態で該繊維シートを熱により部分的融着させ、繊維シートとネット2を融着一体化させ固定することによっても製造される。
【0042】
本発明のフィルタが上述の各実施形態のいずれの場合であっても、その構成繊維は防炎性であることが好ましい。例えば、ガラス繊維、炭素繊維などの不燃性繊維、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクラール、難燃ポリエステル、難燃アクリル、難燃レーヨン、難燃ポリプロピレン、難燃ポリエチレンなどの難燃性繊維を用いることが好ましい。あるいは、不燃物繊維及び/又は難燃性繊維を混綿することが好ましい。難燃性繊維とはLOI値が26以上の繊維のことである。
【0043】
フィルタの構成繊維が不燃性繊維や難燃性繊維でない場合、又は不燃性繊維や難燃性繊維であっても防炎性が不十分である場合には、後加工工程でハロゲン系又はリン系の難燃剤を繊維に施したり、ポリホウ酸の難燃剤を繊維に施したりしてもよい。あるいは難燃剤を含んだ樹脂をバインダとして繊維表面に施して、その被膜を形成してもよい。
【0044】
フィルタの構成繊維が不燃性繊維や難燃性繊維でない場合には、該構成繊維として公知の繊維形成用合成樹脂からなる合成繊維、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン系材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系材料、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系材料、ポリアクリルニトリル系材料、レーヨン、各種ゴム等からなる繊維を用いることができる。また、ポリ塩化ビニル等のビニル系材料や、ポリ塩化ビニリデン等のビニリデン系等からなる繊維を用いることもできる。更に、これらの材料の変成物、アロイ又は混合物等からなる繊維を用いることもできる。
【0045】
また前記のいずれの実施形態の場合であっても、フィルタ1の通気度は、20〜150m/(kPa・s)、特に30〜130m/(kPa・s)であることが、油の捕集性及び油煙等の十分な吸引の観点から好ましい。フィルタ1の通気度は、カトーテック(株)のKES−F8−AP1(通気性試験機)にて測定される。フィルタ1の通気度は、その構成繊維の繊維径並びにフィルタ1の坪量及び厚み等を調整することでコントロールできる。
【0046】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記の各実施形態においては、フィルタ1の平面視においてその全域にわたって撥油性を有する繊維が存在していたが、これに代えて、フィルタ1の平面視において、撥油性を有する繊維が部分的に偏在するようにフィルタを構成してもよい。フィルタ1の平面視においてその全域にわたって撥油性を有する繊維が存在している場合、図2、図4及び図6に示す実施形態のほか、図7(a)及び(b)に示すような態様で撥油性を有する繊維F1を存在させてもよい。
【0047】
また図6(a)に示す実施形態のフィルタ1においては、繊維集合体を支持体2の片面にのみ配してもよい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲はかかる実施例に制限されない。特に断らない限り「%」は「重量%」を意味する。
【0049】
〔実施例1〕
図6(a)に示すフィルタを製造した。ポリエチレンテレフタレート繊維(繊維径12μm、繊維長50mm)を原料とし、常法のカード法を用い坪量50g/m2の繊維ウエブを得た。支持体としてポリプロピレン製の格子状ネット(繊維間距離8〜10mm、線径200〜300μm、坪量5g/m2)を用い、その上下に該繊維ウエブを重合した後、水圧1〜5MPaの条件で複数のノズルから噴出した高圧ジェット水流で絡合一体化させ、スパンレース不織布を得た。
【0050】
旭硝子製のフッ素樹脂エマルジョンであるアサヒガード(登録商標)AG−7000(固形分20%)を水で100倍に希釈し、固形分0.05%の液とした。前記で得られた不織布の重量に対し、この液を約500%塗布した。その後、電気乾燥機で乾燥させてフッ素処理を完了させた。このようにして、フッ素樹脂として0.25%(対繊維重量)付着させた。得られたフィルタの厚みは1.3mmであった。またフィルタの通気度は30m/(kPa・s)であった。
【0051】
〔実施例2ないし4及び比較例1ないし5〕
繊維ウエブの構成繊維の繊維径、繊維ウエブの坪量及びフッ素樹脂の付着量を表1に示す値とする以外は実施例1と同様にしてフィルタを得た。得られたフィルタの厚み及び通気度は表1に示すとおりであった。
【0052】
〔実施例5及び6〕
実施例1で作製したスパンレース不織布を用い、アルキルグルコシドである花王マイドール124(登録商標)の5%水溶液、及びラウラミドプロピルベタインである花王アンヒトール20AB(登録商標)の1%水溶液に該不織布をそれぞれ含浸させて乾燥させフィルタを得た。得られたフィルタの厚み及び通気度は表1に示すとおりであった。
【0053】
〔実施例7〕
図1に示すフィルタを製造した。宇部日東製の超撥油不織布用原綿、UCファイバー HR−PLE(繊維径16μm、繊維長51mm)を原料とし、常法のカード法を用い坪量42g/m2の繊維ウエブを得た。ウエブを140℃の熱風で処理し繊維同士を熱融着によりシート化させ、エアスルー不織布を得た。得られたフィルタの厚み及び通気度は表1に示すとおりであった。
【0054】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られたフィルタについて、油の捕集性、グリスフィルタの防汚性及びフィルタ裏側の外観を以下の方法で評価した。その結果を表1に示す。
【0055】
〔油の捕集性〕
財団法人ベターリビングが公表している優良住宅部品性能試験方法書における換気ユニット(台所ファン)フィルタの油捕集効率試験(BLT VU−08)を参考にして、試験順序を以下のように行った。図8にこの試験状態を示す。
1.コンロの上にのせたフライパンに食用油12.5g入れて1分間熱する。
2.上方より、水滴を200g/25分で滴下し油煙を発生させる。
3.発生した油煙を換気扇で排気する。
4.排気する際にフィルタで油分を捕集する。
5.1回の試験時間は、30分とし、3回行って平均値を用いる。
6.フィルタの油捕集率は、以下の式(1)から算出し、3回の測定の平均値を用いる。
なお、レンジフードに到達した油量は、フライパンに入れた油量から試験後フライパンに残った油量、レンジ周りに飛び散った油量を差し引いて計算した。
【0056】
【数1】

【0057】
〔グリスフィルタの防汚性〕
前記の油の捕集性試験後のレンジフードにおいて、フィルタを取り除きグリスフィルタの汚れ具合を目視して、下記の3段階で評価した。
○ グリスフィルタに油が付着していない。
△ グリスフィルタに油が若干付着している。
× グリスフィルタに油が多量に付着している。
【0058】
〔フィルタ裏側の外観〕
以下の基準で評価した。
◎ 変化なし。
○ 僅かに着色した。
△ 少し着色した。
× かなり着色した。
【0059】
【表1】

【0060】
〔実施例8及び9〕
実施例1において2つの繊維ウエブのうちの一方の繊維ウエブの構成繊維をフッ素処理した。フッ素樹脂の付着量は表2に示す値とした。これら以外は実施例1と同様にして図6(a)に示すフィルタを得た。得られたフィルタの厚み及び通気度は表2に示すとおりであった。また得られたフィルタについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。なお実施例8においては、フッ素処理した繊維の側をレンジ側に配して評価を行った。実施例9においては、フッ素処理した繊維の側をファン側に配して評価を行った。
【0061】
〔実施例10〕
図2に示す、厚み方向の片面側のみ撥油繊維を配したフィルタを製造した。ダイワボウ製PP/低融点PP難燃芯鞘型複合繊維(繊維径16μm、繊維長51mm)を原料とし、常法のカード法を用い坪量30g/m2の繊維ウエブを得た。これとは別に、宇部日東製の超撥油不織布用原綿、UCファイバー HR−PLE(繊維径16μm、繊維長51mm)を原料とし、常法のカード法を用い坪量20g/m2の繊維ウエブを得た。これらのウエブを重合した後、140℃の熱風で処理し熱融着により複合しシート化させ、エアスルー不織布を得た。この不織布をフィルタとして用いた。得られたフィルタの厚み及び通気度は表2に示すとおりであった。また得られたフィルタについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。なお実施例10においては、撥油繊維の側をレンジ側に配して評価を行った。
【0062】
〔実施例11〕
図5に示すフィルタを製造した。2つの外層として、ポリエチレンテレフタレート繊維(繊維径12μm、繊維長50mm)を原料とし、常法のカード法を用いて得られた坪量15g/m2の繊維ウエブを用いた。中間層として、フッ素処理したポリエチレンテレフタレート繊維(繊維径12μm、繊維長50mm)を原料とし、常法のカード法を用いて得られた坪量20g/m2の繊維ウエブを用いた。中間層のフッ素処理量は表2に示した。これらの繊維ウエブを重合した後、水圧1〜5MPaの条件で複数のノズルから噴出した高圧ジェット水流で絡合一体化させ、スパンレース不織布を得た。この不織布をフィルタとして用いた。得られたフィルタの厚み及び通気度は表2に示すとおりであった。また得られたフィルタについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
〔実施例12及び13〕
図4に示すフィルタを製造した。片方の繊維ウエブとして、ポリエチレンテレフタレート繊維(繊維径16μm、繊維長50mm)を原料とし、常法のカード法を用いて得られた坪量30g/m2の繊維ウエブを用いた。もう片方の繊維ウエブとして、宇部日東製の超撥油不織布用原綿、UCファイバー HR−PLE(繊維径32μm、繊維長51mm)を原料とし、常法のカード法を用いて得られた坪量15g/m2又は25g/m2の繊維ウエブを用いた。支持体としてポリプロピレン系の格子状ネット(繊維間距離8〜10mm、線径200〜300μm、坪量5g/m2)を用いた。この支持体の上下に、前記の各繊維ウエブを重合した後、水圧1〜5MPaの条件で複数のノズルから噴出した高圧ジェット水流で絡合一体化させ、その後120℃で60分間乾燥させ、スパンレース不織布を得た。この不織布をフィルタとして用いた。得られたフィルタの厚み及び通気度は表3に示すとおりであった。また得られたフィルタについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表3に示す。なお実施例12及び13においては、撥油繊維の側をレンジ側に配して評価を行った。
【0065】
〔実施例14〕
図4に示すフィルタを製造した。片方の繊維ウエブとして、ダイワボウ製PP/低融点PP難燃芯鞘型複合繊維を原料とし、常法のカード法を用いて得られた坪量30g/m2の繊維ウエブを用いた。もう片方の繊維ウエブとして、フッ素処理をしたPPスパンボンド不織布(繊維径32μm)を用いた。前記ウエブとフッ素処理PPスパンボンド不織布とを重合した後、140℃の熱風で処理し熱融着により複合しシート化させ不織布を得た。この不織布をフィルタとして用いた。得られた不織布の厚み及び通気度は表3に示すとおりであった。また得られたフィルタについて、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表3に示す。なお実施例14においては、撥油繊維の側をレンジ側に配して評価を行った。
【0066】
【表3】

【0067】
〔実施例15〕
図4に示すフィルタを製造した。片方の繊維ウエブとして、フッ素処理したポリエチレンテレフタレート繊維(繊維径16μm、繊維長50mm)を原料とし、常法のカード法を用いて得られた坪量20g/m2の繊維ウエブを用いた。もう片方の繊維ウエブとして、ポリエチレンテレフタレート繊維(繊維径16μm、繊維長50mm、フッ素処理なし)を原料とし、常法のカード法を用いて得られた坪量20g/m2の繊維ウエブを用いた。支持体としてポリプロピレン系の格子状ネット(繊維間距離8〜10mm、線径200〜300μm、坪量5g/m2)を用いた。この支持体の上下に、前記の各繊維ウエブを重合した後、水圧1〜5MPaの条件で複数のノズルから噴出した高圧ジェット水流で絡合一体化させ、その後120℃で60分間乾燥させ、スパンレース不織布を得た。この不織布をフィルタとして用いた。得られたフィルタの厚み及び通気度は表4に示すとおりであった。また得られたフィルタについて、実施例1と同様の評価を行った。更に、以下の方法で油保持量を測定した。それらの結果を表4に示す。なお本実施例においては、撥油繊維の側をファン側に配して評価を行った。
【0068】
〔油保持量の測定〕
油の捕集性を評価した後のフィルタを、縦10cm、横10cmに切り試料を作製する。この試料を、サラダ油(日清キャノーラ油)を入れたバット内に静かに入れて30秒間放置する。この操作をフィルタの表裏面について行う。次いで、フィルタをバットから取り出し、垂直状態で吊し8時間保持して油を切る。その後、フィルタの重量を測定し、その重量と初期の重量との差を算出して、その値を油保持量とする。
【0069】
〔実施例16〕
実施例15において、2つの繊維ウエブとして、フッ素処理したポリエチレンテレフタレート繊維を原料とするものを用いた。それ以外は実施例15と同様にしてフィルタを得た。得られたフィルタの厚み及び通気度は表4に示すとおりであった。また得られたフィルタについて、実施例15と同様の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0070】
〔比較例6〕
実施例15において、2つの繊維ウエブとして、フッ素処理していないポリエチレンテレフタレート繊維を原料とするものを用いた。それ以外は実施例15と同様にしてフィルタを得た。得られたフィルタの厚み及び通気度は表4に示すとおりであった。また得られたフィルタについて、実施例15と同様の評価を行った。その結果を表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
表1及び表2に示す結果から明らかなように、各実施例のフィルタは、油の捕集性が高く、グリスフィルタの防汚性が高いことが判る。これに対して、撥油性の繊維を使用していない比較例1ないし3のフィルタや、撥油性の繊維を使用していても、太い繊維を用いている比較例4及び5のフィルタでは、油の捕集性や、グリスフィルタの防汚性に劣るものであった。また、実施例8ないし14の結果から明らかなように、全面を撥油処理しなくても、片面又は中間の領域のみを撥油処理することで、グリスフィルタの防汚性を発現させられることが判る。更に、表3に示す結果から明らかなように、片面側に配される撥油繊維として32μm程度の比較的太い繊維を使用しても、該撥油繊維を含む繊維層の坪量が15g/m2以上であれば、油成分の濡れ拡がりを防ぐ効果があり、グリスフィルタ防汚性が発現することが判る。その効果は、スパンボンド不織布などの長繊維で構成された不織布を繊維層として用いた場合も同様である。また、表4に示す結果ら明らかなとおり、空気流入側に撥油性の繊維が含まれていないフィルタ(実施例15)は、油捕集後においても、更に油が浸透してこれを保持することができることが判る。これに対して、構成繊維全体が撥油性の繊維からなるフィルタ(実施例16)では、油捕集後においては、もはや油がフィルタの内部に浸透しないので、油保持量が少なくなってしまう。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、本発明の一実施形態のフィルタによる油の捕集の様子を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の他の実施形態のフィルタを示す模式図である。
【図3】図3は図2に示すフィルタによる油の捕集の様子を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の別の実施形態のフィルタを示す模式図(図2相当図)である。
【図5】図5は、本発明の更に別の実施形態のフィルタを示す模式図(図2相当図)である。
【図6】図6(a)は、本発明の更に他の実施形態の油捕集用フィルタを示す断面図であり、図6(b)は、図6(a)に示す油捕集用フィルタを構成する支持体(ネット)の平面図である。図6(c)は、支持体(ネット)の他の例を示す平面図である。
【図7】図7(a)及び図7(b)はそれぞれ、本発明のまた更に別の実施形態のフィルタを示す模式図である。
【図8】図8は、油の捕集性の試験状態を示す模式図である。
【図9】図9は、従来の油捕集用フィルタによる油の捕集の様子を示す模式図である。
【符号の説明】
【0074】
1 油捕集用フィルタ
1a 第1の面
1b 第2の面
2 支持体
3A,3B 繊維集合体
F1 表面が撥油性を有している繊維
F2 表面が非撥油性である繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が5μm以上35μm未満である繊維を含む繊維シートからなり、該繊維の表面が撥油性を有している換気扇又はレンジフード用防汚フィルタ。
【請求項2】
前記繊維の表面に撥油性処理がなされているか、又は前記繊維自体が撥油性を有する材料から構成されている請求項1記載の防汚フィルタ。
【請求項3】
前記繊維シートの厚み方向における片側の略半面に存する繊維の表面が撥油性を有している請求項1又は2記載の防汚フィルタ。
【請求項4】
前記繊維シートの厚み方向における中央部分に存する繊維の表面が撥油性を有している請求項1又は2記載の防汚フィルタ。
【請求項5】
前記繊維シートを平面視した場合に、表面が撥油性を有している前記繊維が、該繊維シートの全域に存在している請求項1ないし4のいずれかに記載の防汚フィルタ。
【請求項6】
空気流入側の面に、非撥油性である油非含浸繊維層が存在する請求項1ないし5のいずれかに記載の防汚フィルタ。
【請求項7】
空気流入側に位置する非撥油性である油非含浸繊維層が、主に油を捕集、保持し、
該繊維層に隣接して空気流出側に位置する、表面が撥油性を有している繊維を含む繊維層が、捕集した油成分の空気流出側への浸透を防止するものである請求項6記載の防汚フィルタ。
【請求項8】
表面が撥油性を有している繊維を含む繊維層が、非撥油性である油非含浸繊維層よりも、疎な構造を有する請求項6又は7記載の防汚フィルタ。
【請求項9】
難燃性を有する請求項1ないし8のいずれかに記載の防汚フィルタ。
【請求項10】
構成繊維が合成繊維である請求項1ないし9のいずれかに記載の防汚フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−156569(P2009−156569A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137216(P2008−137216)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】