説明

揮発性成分揮散用装置、揮発性成分揮散用カートリッジおよび電子機器

【課題】揮発性の低い揮発性成分を用いても揮発性成分を速やかかつ十分な濃度で空気中に揮散させることができること。
【解決手段】加熱部40と、加熱部40に対して相対的に接近および離間可能に配置され、かつ、揮発性成分および揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有する揮発性成分含有部10と、外殻部材を機械的に破壊することで揮発性成分含有部10の外部へと揮発性成分を取出す揮発性成分取出手段50と、を少なくとも備え、揮発性成分取出手段50により揮発性成分含有部10の外部へと取出された揮発性成分を、加熱部40により加熱することで、揮発性成分を揮散させる機能を有する揮発性成分揮散用装置、これに用いる揮発性成分揮散用カートリッジおよびこれを用いた電子機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性成分揮散用装置、揮発性成分揮散用カートリッジおよび電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、鎮静効果、入眠効果、覚醒効果、鎮痛効果、抗菌効果、消臭効果などを目的として、様々な芳香製品が提供されている。これらの芳香製品の中でも、いわゆる精油を用いたものとしては、精油(あるいはこれを含む溶液や当該溶液をしみ込ませたシートなど)を加熱して芳香を揮散させる加熱方式と、精油を加熱せずに自然に揮散させる非加熱方式がある。
【0003】
非加熱方式の芳香製品としては、芳香剤を溶解させた溶液を満たしたボトルと、ボトル中の溶液を吸い上げて外部に揮散する揮散部とを有するものが知られている。また、芳香剤を含有させたシート状の芳香製品(以下、「芳香シート」と称す場合がある)も知られている。芳香シートとしては、たとえば、基板に、芳香成分を入れたマイクロカプセルを付着させたものが知られている(特許文献1)。特許文献1に開示される芳香シートでは、圧力を加えることでマイクロカプセルが破壊され、これにより芳香成分が芳香シートの外部へと揮散する。また、芳香シートに類似した機能や構成を有する製品としては、電気式の加温機による加熱によってシートにしみ込ませた揮発性の殺虫成分を揮散させるいわゆる蚊取りマットが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−265353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される芳香シートでは、芳香シートを手で押さえたり、こすったりするなどして圧力を加えるなどの非加熱方式で芳香成分を揮散させる。このため、揮発性の低い芳香成分を用いると、芳香成分を速やかまたは十分な濃度で空気中に揮散させることが困難となる。また、蚊取りマットのように揮発性の殺虫成分をしみ込ませたシートでは、使用する直前までは保管のためにアルミ袋等により密閉して梱包した状態で保管する必要がある。そして、一旦、シートを梱包袋から取り出すことでいつでも使用可能な状態とした後は、たとえ、不使用時であっても、殺虫成分が自然と揮散するために、揮発性能が劣化する。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、揮発性の低い揮発性成分を用いても揮発性成分を速やかかつ十分な濃度で空気中に揮散させることができ、不使用時においても揮発性能が劣化しない揮発性成分揮散用装置、当該揮発性成分揮散用装置に用いる揮発性成分揮散用カートリッジおよび当該揮発性成分揮散用装置を用いた電子機器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は以下の本発明により達成される。すなわち、
第一の本発明の揮発性成分揮散用装置は、加熱部と、加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置され、かつ、揮発性成分および揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有する揮発性成分含有部と、外殻部材を機械的に破壊することで揮発性成分含有部の外部へと揮発性成分を取出す揮発性成分取出手段と、を少なくとも備え、揮発性成分取出手段により揮発性成分含有部の外部へと取出された揮発性成分を、加熱部により加熱することで、揮発性成分を揮散させる機能を有することを特徴とする。
【0008】
第一の本発明の揮発性成分揮散用装置の一実施態様は、揮発性成分取出手段が、軸方向に貫通する貫通孔を有する針状部材を有し、外殻部材の少なくとも一部がゴム部材から構成され、ゴム部材を貫通するように針状部材を突き刺すことにより、揮発性成分が貫通孔を経由して揮発性成分含有部の外部へと取出されることが好ましい。
【0009】
第一の本発明の揮発性成分揮散用装置の他の実施態様は、加熱部が、加熱素子と、当該加熱素子に近接または接触する位置に配置されかつ開口部を有する揮発性成分加熱用容器とを有し、揮発性成分取出手段により揮発性成分含有部の外部へと揮発性成分を取出した際に、揮発性成分含有部の外部へと流出する揮発性成分を揮発性成分加熱用容器内に導入されることが好ましい。
【0010】
第一の本発明の揮発性成分揮散用装置の他の実施態様は、加熱部として少なくともコイルヒータを用い、揮発性成分取出手段により揮発性成分含有部の外部へと揮発性成分を取出した際に、揮発性成分含有部から流出する揮発性成分が略線状となって流出し、当該略線状状態で流出している揮発性成分の流出ラインと、コイルヒータの中心軸と、が略一致するようにコイルヒータが配置されていることが好ましい。
【0011】
第二の本発明の揮発性成分揮散用装置は、加熱部と、加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置され、かつ、揮発性成分および揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有する揮発性成分含有部と、を少なくとも備え、加熱部と揮発性成分含有部とが互いに接近した状態において、加熱部により揮発性成分含有部を加熱することで、外殻部材を加熱破壊すると共に揮発性成分を揮散させる機能を有することを特徴とする。
【0012】
第一および第二の本発明の揮発性成分揮散用装置の他の実施態様は、揮発性成分が、芳香成分、殺虫成分、抗菌成分および消臭成分から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
第一および第二の本発明の揮発性成分揮散用装置の他の実施態様は、揮発性成分含有部を2つ以上有し、一の揮発性成分含有部内に含まれる揮発性成分の組成と、他の揮発性成分含有部内に含まれる揮発性成分の組成とが、異なることが好ましい。
【0014】
第一および第二の本発明の揮発性成分揮散用装置の他の実施態様は、加熱部を1つ有し、揮発性成分含有部を2つ以上有することが好ましい。
【0015】
第一および第二の本発明の揮発性成分揮散用装置の他の実施態様は、加熱部を2つ有し、揮発性成分含有部を3つ以上有することが好ましい。
【0016】
第一および第二の本発明の揮発性成分揮散用装置の他の実施態様は、揮発性成分含有部を2つ以上有すると共に、2つ以上の揮発性成分含有部を保持する板状の揮発性成分含有部保持体を有し、2つ以上の揮発性成分含有部が、揮発性成分含有部保持体の中心軸を基準にして円周方向沿って略等間隔に配置されていることが好ましい。
【0017】
第一および第二の本発明の揮発性成分揮散用装置の他の実施態様は、揮発性成分含有部保持体の少なくとも一方の面側であって、2つ以上の揮発性成分含有部が配置された円周ライン上に略対向する位置に加熱部が配置されていることが好ましい。
【0018】
第一および第二の本発明の揮発性成分揮散用装置の他の実施態様は、揮発性成分含有部保持体の中心軸に対して、揮発性成分含有部保持体または加熱部の少なくとも一方が円周方向に回転可能であることが好ましい。
【0019】
第一および第二の本発明の揮発性成分揮散用装置の他の実施態様は、加熱部を少なくとも備えた装置本体に対して、揮発性成分含有部保持体が脱着可能に設けられていることが好ましい。
【0020】
第一および第二の本発明の揮発性成分揮散用装置の他の実施態様は、揮発性成分含有部保持体が、加熱部による加熱を行う際の加熱情報を有し、装置本体が、揮発性成分含有部保持体が装置本体に取り付けられた状態において、加熱情報を読み取る読取部を備えていることが好ましい。
【0021】
第一の本発明の揮発性成分揮散用カートリッジは、加熱部と、加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置され、かつ、揮発性成分および揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有する揮発性成分含有部と、外殻部材を機械的に破壊することで揮発性成分含有部の外部へと揮発性成分を取出す揮発性成分取出手段と、を少なくとも備え、揮発性成分取出手段により揮発性成分含有部の外部へと取出された揮発性成分を、加熱部により加熱することで、揮発性成分を揮散させる機能を有する揮発性成分揮散用装置が、加熱部を少なくとも備えた装置本体と、装置本体に対して脱着可能なカートリッジと、から構成され、カートリッジが、2つ以上の揮発性成分含有部を少なくとも有することが好ましい。
【0022】
第二の本発明の揮発性成分揮散用カートリッジは、加熱部と、加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置され、かつ、揮発性成分および揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有する揮発性成分含有部と、を少なくとも備え、加熱部と揮発性成分含有部とが互いに接近した状態において、加熱部により揮発性成分含有部を加熱することで、外殻部材を加熱破壊すると共に揮発性成分を揮散させる機能を有する揮発性成分揮散用装置が、加熱部を少なくとも備えた装置本体と、装置本体に対して脱着可能なカートリッジと、から構成され、カートリッジが、2つ以上の揮発性成分含有部を少なくとも有することが好ましい。
【0023】
第一および第二の本発明の揮発性成分揮散用カートリッジの一実施態様は、カートリッジが、加熱部による加熱を行う際の加熱情報を有し、揮発性成分含有部保持体が装置本体に取り付けられた状態において、装置本体が、加熱情報を読み取る読取部を備えていることが好ましい。
【0024】
本発明の電子機器は、第一の本発明の揮発性成分揮散用装置または第二の本発明の揮発性成分揮散用装置を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
以上に説明したように、本発明によれば、揮発性の低い揮発性成分を用いても揮発性成分を速やかかつ十分な濃度で空気中に揮散させることができ、不使用時においても揮発性能が劣化しない揮発性成分揮散用装置、当該揮発性成分揮散用装置に用いる揮発性成分揮散用カートリッジおよび当該揮発性成分揮散用装置を用いた電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられる揮発性成分含有部の一例を示す模式断面図である。
【図2】第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられる揮発性成分含有部の他の例を示す模式断面図である。
【図3】第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられる揮発性成分含有部の他の例を示す模式断面図である。
【図4】第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられる揮発性成分含有部の他の例を示す模式断面図である。
【図5】第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置の一例を示す概略模式図である。
【図6】図5に示す第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置の異なる作動状態の一例を示す概略模式図である。
【図7】本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられる揮発性成分含有部保持体の一例を示す模式平面図である。
【図8】図7に示す揮発性成分含有部保持体と加熱部との配置関係の一例を示す斜視図である。
【図9】図7および図8に示す揮発性成分保持体の変形例を示す模式平面図である。
【図10】第二の本実施形態の揮発性成分揮散装置に用いられる揮発性成分含有部の一例を示す模式断面図である。
【図11】第二の本実施形態の揮発性成分揮散装置に用いられる揮発性成分含有部の他の例を示す模式断面図である。
【図12】第二の本実施形態の揮発性成分揮散装置に用いられる揮発性成分含有部の他の例を示す模式断面図である。
【図13】第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置の一例を示す概略模式図である。
【図14】図13に示す第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置の異なる作動状態の一例を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<<第一の実施形態の揮発性成分揮散用装置および揮発性成分揮散用カートリッジ>>
第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置は、加熱部と、加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置され、かつ、揮発性成分および揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有する揮発性成分含有部と、外殻部材を機械的に破壊することで揮発性成分含有部の外部へと揮発性成分を取出す揮発性成分取出手段と、を少なくとも備え、揮発性成分取出手段により揮発性成分含有部の外部へと取出された揮発性成分を、加熱部により加熱することで、揮発性成分を揮散させる機能を有することを特徴とする。
【0028】
第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置では、揮発性成分を加熱することで強制的に揮散させる。このため、揮発性成分の揮発性が低い場合、言いかえれば揮発性の目安となる揮発性成分の常温近傍における蒸気圧や揮発性成分の沸点が低い場合でも、揮発性成分を速やかかつ十分な濃度で空気中に揮散させることができる。また、不使用時においては、揮発性成分は外殻部材に内包された状態であるため、揮発性能が劣化することが無い。
【0029】
これに加えて、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置では、揮発性成分含有部は加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置される。このため、特に揮発性成分揮散用装置が揮発性成分含有部を2つ以上有する場合、1つの加熱部に対して、順次、個々の揮発性成分含有部を相対的に接近させた後に、揮発性成分の取出しと加熱とを行うことで、個々の揮発性成分含有部内の揮発性成分を揮散させることができる。それゆえ、個々の揮発性成分含有部に対応させて加熱部を配置する必要が無い。よって、揮発性成分揮散用装置の構造を簡素化し、装置も小型化できる。この場合、揮発性成分取出手段も、加熱部と一対を成すように加熱部の近傍に配置すれば、個々の揮発性成分含有部に対応させて揮発性成分取出手段を配置する必要が無い。よって、揮発性成分揮散用装置の構造を簡素化し、装置も小型化できる。
【0030】
次に、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置を構成する各部の部材についてより詳細に説明する。
【0031】
<揮発性成分含有部>
第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられる揮発性成分含有部は、揮発性成分および該揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有するものであれば特に限定されないが、通常、揮発性成分とこの揮発性成分を内包する外殻部材とを有する1個のカプセルから構成される。このカプセルの最大長は、少なくとも3mmを超え、揮発性成分の最低内包量は、0.10mlを超えるものであり、0.13ml以上であることが好ましい。なお、最大長は、実用上10mm以上20mm以下の範囲が好ましく、7mm以上 10mm以下の範囲がより好ましい。また、揮発性成分の最低内包量は 0.13ml以上0.21ml以下の範囲、または、0.68ml以上1.37ml以下の範囲がより好ましい。以下、当該カプセルを「ミリカプセル」と称す場合がある。
【0032】
−ミリカプセル−
ミリカプセルの形状は特に限定されず、内部に揮発性成分を実質的に密封するように内包できる形状であれば特に限定されないが、たとえば、球状、フットボールなどのような楕球状、柱状、涙滴状等を挙げることができ、また、これらの単純な形状を複合的に組み合わせた形状でもよい。なお、後者の形状としては、市販の健康食品・医薬用のカプセル剤の代表的な形状である、中央部が円柱状で両端部が半球状または半楕球状からなる形状などが挙げられる。
【0033】
ミリカプセルの外殻部材を構成する主材料としては、揮発性成分や、必要に応じて揮発性成分と共に併用される溶媒により溶解せず、かつ、外殻部材として適度な強度が確保できるのであれば特に限定されない。主材料としては、たとえば、ポリカーボネート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)共重合合成樹脂(ABS樹脂)などのような一般的な硬質プラスチック、あるいは、公知の健康食品・医薬用のカプセル剤に利用されているゼラチン、プルラン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの典型的なカプセル剤用材料を利用することができる。また、内包される揮発性成分の組成が異なる複数種のミリカプセルを用いる場合などにおいて、たとえば、種類ごとの違いを視覚的に把握しやすいように、染料、顔料などの着色剤を併用できる。また、主材料が透明材料である場合、酸化チタンなどの不透明化させる材料なども併用できる。さらに、外殻部材に柔軟性を付与したい場合には、グリセリン等の可塑剤を併用できる。また、ミリカプセルの外殻部分の一部を構成するように、外殻部材として、シリコーンゴムやブチルゴムなどの公知のゴム材料からなるゴム部材を用いてもよい。この場合、ゴム部材部分の機械的な破壊により揮発性成分を取り出すのであれば、ゴム部材部分以外の外殻部材は金属材料から構成されていてもよい。ここで、ゴム部材の形状は特に限定されるものではないが、たとえば、ゴム部材部分以外の外殻部材と同程度の厚みを有する皮膜状であってもよく、円盤状、円柱状あるいはコルク栓状のようなブロック状であってもよい。
【0034】
ミリカプセルの製造方法としては特に限定されないが、(1)公知の健康食品・医薬用のハードタイプのカプセル剤を製造する方法、すなわち、開口部を有するカプセル本体内に揮発性成分を充填した後に、この開口部をキャップにより封止する方法、あるいは、(2)公知の健康食品・医薬用のソフトタイプのカプセル剤を製造する方法、すなわち、揮発性成分を、主材料を含む皮膜で包み、圧着・成形加工する方法が利用できる。なお、上記(1)の方法を利用してミリカプセルを製造する場合、外殻部材を構成する材料としては、上記主材料と共に可塑剤を併用することが好ましい。
【0035】
−揮発性成分−
第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられる揮発性成分とは、揮発性成分揮散用装置の利用が想定される一般的な温度環境(−10℃〜50℃前後)において、揮発性を有する成分であれば、その成分は特に限定されず、公知の物質が利用できる。しかしながら、揮発性成分は、芳香成分、覚醒成分、殺虫成分、抗菌成分および消臭成分から選択される少なくとも1種であることが好ましく、これらを2種類以上組み合わせて用いてもよい。また、これら5種類の揮発性成分の中でも特に芳香成分を用いることが好適である。さらに、使用する揮発性成分が芳香機能と抗菌機能とを兼ね備えるなど、2種類以上の機能を有するものであってもよい。
【0036】
芳香成分としては、公知の芳香成分であれば特に制限なく利用できるが、たとえば、精油、合成香料、動物性香料、これらの有効成分や単体化合物などが好適なものとして挙げられ、精油または精油に含まれる有効成分が好ましい。
【0037】
精油としては、たとえば、イランイラン精油、ゼラニウム精油、ラベンダー精油、ジャスミン精油、カモミール精油、ラベンティン精油、ヒソップ精油、ローズ精油、ネロリ精油、シダーウッド精油、ユーカリ精油、サイプレス精油、ヒノキ精油、サンダルウッド精油、ジュニパー精油、ティートリー精油、パイン精油、パチュリ精油、オレンジ精油、グレープフルーツ精油、ライム精油、レモングラス精油、レモン精油、シトロネラ精油、ベルガモット精油、ペパーミント精油、ローズマリー精油、クラリセージ精油、クローブ精油、タイム精油、フェンネル精油、マジョラム精油、メリッサ精油、ローズウッド精油、バジル精油、バテ精油、シナモン精油等の天然の精油が挙げられる。このなかでも特に、イランイラン精油、ゼラニウム精油、シダーウッド精油、ユーカリ精油、サイプレス精油、オレンジ精油、グレープフルーツ精油、ライム精油、ペパーミント精油、ローズマリー精油が好ましい。また、これらの精油を複数組み合わせて用いてもよい。
【0038】
精油に含まれる有効成分としては、たとえば、リナロール、酢酸リナリル、1‐リモネン、1‐メントール、α‐ピネン、β‐ピネン、シトラール、シネオール、d‐カンファー、チモール、オイゲノール、ケイヒアルデヒド、カマズレン、ツヤノール‐4、ボルネオール、α‐テルピネオール、β‐テルピネオール、テルピネノール‐4、ゲラニオール、ネロール、α‐サンタロールβ‐サンタロール、カロトール、セドロール、ビリジフロロール、スクラレオール、サフロール、アピオール、ミリスチシン、メチルカビコール、アネトール、スクラレオールオキサイド、マノイルオキサイド、シトロネラールなどが挙げられる。また、これらの有効成分を複数組み合わせて用いてもよい。
【0039】
殺虫成分としては、その用途により公知の揮発性を有する殺虫剤を適宜選択することができる。具体例としては、フェルノトリン、フェンプロパトリン等のピレスロイド系殺虫剤や、フェニトロチオン等の有機リン系、ケルセン等のジフェニルカルニノール系、サリチル酸フェニル等、エンペントリン、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メトキシメチルベンジル
3−(1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、2,3,5,6−テトラフルオロ−4−メチルベンジル 3−(1−プロペニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートおよび2,3,5,6−テトラフルオロベンジル
3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート、ピレスロイド類などが挙げられる。
【0040】
抗菌成分としては、その用途により公知の揮発性を有する抗菌剤を適宜選択することができる。具体例としては、ヒノキチオール、キサトン、フィトンなどが挙げられる。
【0041】
消臭成分としては、揮発性を有し、かつ、消臭効果を有する物質であれば公知の物質が利用でき、たとえば、生物的消臭機能、感覚的消臭機能、または、化学的消臭機能を有する揮発性の物質が利用できる。生ゴミなどのバクテリアの繁殖に起因する悪臭を消臭する生物的消臭機能を有する物質としては、上述した抗菌成分を消臭成分として利用できる。また、芳香成分を強くして悪臭をごまかすマスキング方式の感覚的消臭機能を有する物質としては、上述した芳香成分が利用できる。悪臭の元となる成分と化学反応し、無臭の成分に変化させてしまう化学的消臭機能を有する物質としては、たとえば、植物の葉、葉柄、実、茎、根、樹皮等の各部位から抽出された植物性消臭成分や、乳酸、グルコン酸、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クエン酸、安息香酸、サリチル酸等の有機酸、各種アミノ酸およびこれら塩、グリオキサール、酸化剤、フラボノイド類、カテキン類、ポリフェノール類などを用いることができる。なお、植物性消臭成分を得るための植物の種類としては、特に限定されないが、たとえば、カタバミ、ドクダミ、ツガ、イチョウ、クロマツ、カラマツ、アカマツ、キリ、ヒイラギモクセイ、ライラック、キンモクセイ、フキ、ツワブキ、茶またはレンギョウ等が好ましい。また、これらの他も、植物性消臭成分を得るための植物として、モクセイ科、マツ科植物、ツバキ科植物、または、これらの植物から誘導培養された植物細胞培養系等も使用することができる。
【0042】
なお、揮発性成分揮散用装置が2つ以上の揮発性成分含有部を有する場合、一の揮発性成分含有部内に含まれる揮発性成分の組成と、他の揮発性成分含有部内に含まれる揮発性成分の組成とは、同一であってもよく、異なっていてもよい。一の揮発性成分含有部内に含まれる揮発性成分の組成と、他の揮発性成分含有部内に含まれる揮発性成分の組成とが同一の場合、2回以上に分けて、所望のタイミングで揮発性成分を揮散させることができる。また、一の揮発性成分含有部内に含まれる揮発性成分の組成と、他の揮発性成分含有部内に含まれる揮発性成分の組成とが異なる場合、様々な組成の揮発性成分を所望のタイミングで揮散させることができる。
【0043】
−ミリカプセルの具体例−
図1〜図4は、本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられる揮発性成分含有部の一例を示す模式断面図であり、具体的には、揮発性成分含有部を構成するミリカプセルの断面図について示したものである。なお、図1〜図4中、実質同一の機能・構造を有する部材には同じ符号が付してある。図1に示すミリカプセル10A(10)は、揮発性成分20と、この揮発性成分20をその内部に密封して内包する楕球状の外殻部材30A(30)とから構成される。ミリカプセル10Aは、たとえば、上述したソフトタイプのカプセル剤を製造する方法を利用して作製することができる。この場合、外殻部材30Aは、添加成分として可塑剤が含まれ、柔軟性を有している。
【0044】
図2に示すミリカプセル10B(10)は、揮発性成分20と、この揮発性成分20をその内部に密封して内包する外殻部材30B(30)とから構成される。なお、この外殻部材30Bは、中央部が円柱状で両端部が半球状からなる形状を有している。外殻部材30Bは、円筒体状で一端が半球状の底部を成し他の端が開口部を有するカプセル本体32Bと、円筒体状で一端が半球状の底部を成し他の端が開口部を有するキャップ34Bとから構成される。ミリカプセル10Bは、たとえば、上述したハードタイプのカプセル剤を製造する方法を利用して作製することができる。なお、カプセル本体32Bとキャップ34Bとは、接着剤(図2中、不図示)を用いて内部を密封するように固定してもよく、カプセル本体32Bの円筒体部分の外周面の周方向に凹部(図2中、不図示)を設け、キャップ34Bの円筒体部分の内周面の周方向に上記凹部に嵌合する凸部(図2中、不図示)を設けることで、内部を密封するように固定してもよい。
【0045】
図3に示すミリカプセル10C(10)は、揮発性成分20と、この揮発性成分20をその内部に密封して内包する外殻部材30C(30)とから構成される。なお、この外殻部材30Cは、中央部が円柱状で両端部が半球状からなる形状を有している。外殻部材30Cは、円筒体状で一端が半球状の底部を成し他の端が開口部を有するカプセル本体32Cと、円筒体状で一端が半球状の底部を成し他の端が開口部を有するキャップ34Cから構成される。以上に説明した点においては、図3に示すミリカプセル10Cは、図2に示すミリカプセル10Bと同様であるが、図3に示すミリカプセル10Cでは、カプセル本体32Cの半球状をなす端部の一部がゴム部材であるゴム皮膜36Cから構成されている点に特徴がある。
【0046】
図4に示すミリカプセル10D(10)は、揮発性成分20と、この揮発性成分20をその内部に密封して内包する外殻部材30D(30)とから構成される。なお、この外殻部材30Dは、半楕球状で一端に開口部を有するカプセル本体32Dと、このカプセル本体32Dの開口部を封止するように配置された略円盤または略円柱状のブロック状ゴム部材36Dとから構成される。ここで、カプセル本体32Dは、ミリカプセル10Dの組み立てやハンドリング時の強度を確保する観点から、ABS樹脂などの硬質プラスチックや金属から構成されることが好ましい。さらに、揮発性成分20の残量の確認を容易とする観点からは、カプセル本体32Dは、透明または半透明な硬質プラスチックから構成されることがより好ましい。また、ゴム部材36Dは、直径方向の厚みが全て同一であってもよいが、図4に例示するように、針状部材が貫通しやすいように、その中心軸側部分が外周側部分よりも薄肉化されていたり、中心軸方向に貫通する切り込みC(図4中、点線Cで示される部分)が設けられていてもよい。なお、ブロック状ゴム部材36Dは、ゴム皮膜36Cよりも肉厚であるため、切り込みを設けても、ゴムの弾性変形によって、切り込み部分の通路は完全に閉じた状態となるため、不使用時に揮発性成分20が外部へと流出するのを防ぐことが極めて容易である。ゴム部材36Dの肉厚(中心軸方向の厚み)としては、特に限定されないが、たとえば、0.05mm〜0.25mm程度の範囲内とすることができる。
【0047】
なお、図1および図4に示すように、ミリカプセル10の内部空間は揮発性成分20で完全に満たされていることが好ましい。しかしながら、ミリカプセル10の製造上の事情などにより、図2および図3に示すように、ミリカプセル10の内部空間は揮発性成分20で完全に満たされていなくてもよい。また、ミリカプセル10内には、揮発性成分20の粘度や濃度等の調整を目的として、有機溶媒などのその他の溶媒が、揮発性成分20と混合された状態で内包されていてもよい。また、外殻部材30には、揮発性成分20の粘性や表面張力等を考慮して、揮発性成分20が外部に流れ出ない程度の微小な貫通孔や、ミリカプセル10の外部から内部へと一方向にしか空気が流入できない弁を設けてもよい。これにより、揮発性成分取出手段によってミリカプセル10の内部の揮発性成分20を、外部へとスムーズに流出させることがより容易になる。
【0048】
<揮発性成分取出手段>
第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられる揮発性成分取出手段は、外殻部材30を機械的に破壊することでミリカプセル10から構成される揮発性成分含有部の外部へと揮発性成分20を取出す機能を有するものであれば、その構成は特に限定されない。しかしながら、この揮発性成分取出手段としては、たとえば、刃状部材や、中実構造を有する針状部材(中実型針状部材)を利用することができる。これらの部材では、外殻部材30に裂傷や貫通孔を設けることで、揮発性成分20をミリカプセル10の外部へと取り出すことができる。また、この他にも、揮発性成分取出手段として、軸方向に貫通する貫通孔を有する針状部材(パイプ型針状部材)を利用することもできる。パイプ型針状部材では、パイプ型針状部材を外殻部材30に突き刺した状態で、貫通孔を介してミリカプセル10の内部から外部へと揮発性成分20を外部へと取り出すことができる。
【0049】
なお、揮発性成分取出手段は、ミリカプセル10を構成する外殻部材30の任意の位置に押し当てたり、あるいは、突き刺したり等することで、外殻部材30を機械的に破壊することができる。しかしながら、揮発性成分取出手段としてパイプ型針状部材を用いる場合には、図3および図4に例示したように、外殻部材30の少なくとも一部はゴム皮膜36Cやブロック状ゴム部材36Dから構成されていることが好ましい。この場合、ゴム皮膜36Cやブロック状ゴム部材36Dを貫通するようにパイプ型針状部材を突き刺すことにより、揮発性成分20をパイプ型針状部材の貫通孔を経由してミリカプセル10の外部へと取出すことができる。パイプ型針状部材の先端形状や外径は、一般的な注射針と同様とすることができる。なお、ブロック状ゴム部材36Dを貫通するようにパイプ型針状部材を突き刺す場合、より強い貫通力が必要となる。それゆえ、パイプ型針状部材が変形したり折れたりするのを防止するために、パイプ型針状部材の外径は、0.30mm〜1.00mm程度の範囲の太い径としてもよい。また、ブロック状ゴム部材36Dに切り込みCが設けられている場合、パイプ型針状部材の先端形状は、必ずしも尖った形状である必要はなく、たとえば、丸味を帯びた形状など、パイプ型針状部材を切り込みCに対して突き刺し易い形状であれば特に限定されない。
【0050】
針状部材は、通常は、金属から構成されるが、必要に応じて、樹脂から構成されていてもよい。たとえば、ブロック状ゴム部材36Dに突き刺すために、上述した太い径のパイプ型針状部材を用いるのであれば、シリコーン樹脂などの樹脂製のパイプ型針状部材を用いることができる。
【0051】
なお、外殻部材30は、ミリカプセル10の形状を維持するため、ある程度の剛直性を有している必要がある。このため、図1や図2に示すゴム皮膜36Cを有さないミリカプセル10A、10Bの外殻部材30A、30Bを揮発性成分取出手段により機械的に破壊した場合、外殻部材30A、30Bに生じた破壊痕が必要以上に大きくなりすぎたり、あるいは、必要以上に小さくなりすぎたりし易くなる。この場合、揮発性成分20がミリカプセル10A、10Bの外部へと短時間のうちに多量に流出したり、あるいは、揮発性成分20がミリカプセル10A、10Bの外部へと殆ど流出しなくなる。このため、加熱部による加熱により、揮発性成分20を安定して揮散させることが困難となる場合がある。
【0052】
しかしながら、パイプ型針状部材をゴム皮膜36Cに突き刺す場合は、ゴム皮膜36Cの弾性や柔軟性により、ゴム皮膜36Cに生じる破壊痕は常に一定に保たれる。このため上述したような問題の発生をより確実に抑制できる。また、ゴム皮膜36Cの厚み・弾性、パイプ型針状部材の外径などを適宜選択することで、ゴム皮膜36Cに突き刺したパイプ型針状部材を、ゴム皮膜36Cから引き抜いた後は、ゴム皮膜36Cの弾性変形により、ゴム皮膜36Cに生じた破壊痕を自発的に塞ぐことができる。この場合、ミリカプセル10C内の揮発性成分20を、必要な時に必要な量だけ、ミリカプセル10Cの外部へと取り出し加熱することができる。このため、1つのミリカプセル10Cを用いて、複数回にわたって、揮発性成分20を外部に揮散させることが容易である。
【0053】
揮発性成分揮散用装置内における揮発性成分取出手段の配置位置は特に限定されないが、ミリカプセル10近傍、または、加熱部近傍に固定配置されることが好ましい。この場合、加熱部とミリカプセル10とが接近するように相対的に移動する際に、揮発性成分取出手段により外殻部材30Cを機械的に破壊することができる。
【0054】
<加熱部>
加熱部では、揮発性成分取出手段によりミリカプセル10の外部へと取り出された揮発性成分20を加熱することで、揮発性成分20を揮散させる。この加熱部は、少なくとも加熱素子を含むものである。この加熱素子としては、公知の加熱素子が利用できるが、たとえば、電気式の加熱素子としては、セラミックス製の発熱体を用いた発熱チップや、ニクロム線等の発熱線をコイル状に巻回させたコイルヒータを利用することができる。また、この他に、化学反応式の加熱素子として、プラチナの触媒作用を利用してベンジンなどの炭化水素系燃料をゆっくりと酸化発熱させる加熱素子なども利用できる。
【0055】
なお、加熱素子として用いられる発熱チップとしては、低純度の半導体材料など、通電により発熱する材料を用いたものが利用できる。このような発熱チップの電気的特性としては、抵抗加熱に利用可能なものであれば特に限定されるものではないが、加熱対象となる揮発性成分含有部のサイズなどを考慮すると、電圧3.3V〜5.0Vにおいて抵抗が15Ω〜33Ωであることが好ましい。発熱チップの形状としては特に限定されないが、通常は、円板状、角板状などの平板状のものが好ましく、表面実装性に加えて市販品の入手容易性等の観点からは角板状であることが好ましい。また、発熱チップのサイズとしては、加熱部の大きさに応じて選択されるが、たとえば、角板状の発熱チップであれば、縦0.4mm×横0.2mm〜縦3.2mm×横1.6mm程度のものを利用することが好ましい。また、発熱チップとしては、新たに作製したものも利用できるが、市販のチップ抵抗を利用してもよい。
【0056】
加熱素子として用いられるコイルヒータを構成する発熱線としては、電流を流すことにより発熱するものであれば公知の発熱線が利用でき、たとえば、ニクロム線などを用いることができる。発熱線の直径は特に限定されるものではないが、12μm〜200μmの範囲内が好ましく、20μm〜100μmの範囲内がより好ましい。直径が12μm未満では、十分な発熱量が得られなかつたり、断線を起こしやすくなる場合があり、直径が200μmを超えると、発熱制御が難しくなる場合がある。なお、発熱線の発熱量は、発熱線の電気抵抗、電流量、発熱線の直径などを適宜選択することにより調整できる。
【0057】
揮発性成分20の加熱を効率的に行うためには、たとえば、加熱部が、加熱素子と、当該加熱素子に近接または接触する位置に配置されかつ開口部を有する揮発性成分加熱用容器とを有していることが好ましい。この場合、揮発性成分取出手段によりミリカプセル10(揮発性成分含有部)の外部へと揮発性成分20を取出した際に、ミリカプセル10(揮発性成分含有部)の外部へと流出する揮発性成分20を揮発性成分加熱用容器内に導入する。これにより、揮発性成分加熱用容器内に集められた揮発性成分20が効率的に加熱される。なお、ミリカプセル10から取り出された揮発性成分20は、開口部から揮発性成分加熱用容器内へと導入される。その後、加熱された揮発性成分20は、開口部から外部へと揮散する。また、伝熱効率を高めるために、揮発性成分加熱用容器はアルミニウムやステンレスなどの金属材料から構成されることが好ましい。
【0058】
また、揮発性成分取出手段によりミリカプセル10から構成される揮発性成分含有部の外部へと揮発性成分20を取出した際に、揮発性成分含有部から流出する揮発性成分20が略線状となって流出する場合には、当該略線状状態で流出している揮発性成分20の流出ラインと、コイルヒータの中心軸と、が略一致するようにコイルヒータを配置することが好ましい。この場合は、コイルヒータの中心軸に沿って線状となって流出する揮発性成分20が通過するため、揮発性成分20を効率的に加熱できる。なお、「揮発性成分20が略線状となって流出する」とは、たとえば、ミリカプセル10の外殻部材30に形成された機械的破壊痕から、単純に、(1)鉛直方向下方へと糸状に揮発性成分20が流出する場合以外にも、たとえば、(2)中実型針状部材の表面を伝って揮発性成分20が流出する場合や、(3)パイプ型針状部材の貫通孔内を介して揮発性成分が流出する場合なども含まれる。なお、上記(2)および上記(3)の場合は、コイルヒータの中心軸と、針状部材の中心軸とが略一致するように針状部材が配置される。上述したようなコイルヒータの中心軸に沿って流出する揮発性成分20の加熱は、揮発性成分20を揮発させやすくするための予備加熱処理であってもよく、あるいは、揮発性成分20の揮発を目的とした加熱処理であってもよい。また、コイルヒータによる加熱が予備加熱処理を目的としたものである場合、コイルヒータを通過することで予熱された揮発性成分20を、揮発性成分加熱用容器内へと導入し、揮発性成分加熱用容器内でさらなる加熱処理を行うことで揮発性成分20を揮発させることもできる。
【0059】
なお、加熱部は、揮発性成分取出手段によりミリカプセル10の外部へと取り出された揮発性成分20を加熱する以外にも、さらにミリカプセル10を直接的または間接的に加熱するものであってもよい。加熱部によりミリカプセル10を直接的に加熱する場合、加熱部は、少なくとも加熱を行う際にミリカプセル10の近傍に配置されていればよい。また、加熱部によりミリカプセル10を間接的に加熱する場合、加熱部に近接または接触して配置される揮発性成分取出手段を介してミリカプセル10を加熱することができる。たとえば、揮発性成分取出手段が金属製の針状部材であれば、針状部材の一方の端がミリカプセル10に突き刺さった際に、他方の端側および/または針状部材の中央部を加熱素子により加熱することで、針状部材を介して、ミリカプセル10を間接的に加熱できる。この場合、ミリカプセル10が加熱されることで、ミリカプセル10内の内圧が上昇、および/または、ミリカプセル10内の揮発性成分20の粘性が低下するため、ミリカプセル10内の揮発性成分20を外部へと流出させることがより容易となる。なお、同様の効果を得るために、ミリカプセル10の加熱のみを目的とした第2の加熱部を設けてもよい。
【0060】
なお、加熱素子を発熱させるためのエネルギー(電気、化学燃料等)は、揮発性成分揮散用装置内に内蔵されたエネルギー源(電池、燃料タンク等)を利用してもよく、装置の外部から供給されるものであってもよい。
【0061】
<揮発性成分揮散用装置の全体構成>
次に、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置の全体構成を、主に、加熱部、揮発性成分含有部および揮発性成分取出手段の数や配置関係の面から説明する。
【0062】
第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置が有する加熱部およびミリカプセル10から構成される揮発性成分含有部の数は特に限定されず、各々少なくとも1つ以上であればよい。しかしながら、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置では、揮発性成分含有部は加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置されるため、加熱処理の対象としたい揮発性成分含有部を加熱部の近傍の位置へと相対的に移動させ、加熱処理を終えた揮発性成分含有部は加熱部から離間した位置へと相対的に移動させることができる。この点を考慮すれば、加熱部の数は基本的に1つのみであることが特に好ましい。以下、加熱部の数が1つのみの場合を「シングル加熱方式」と称す場合がある。この場合、揮発性成分含有部の数は2つ以上とすることが特に好ましく、3つ以上とすることがより好ましく、5つ以上とすることがさらに好ましい。このような構成を採用した場合、1つの加熱部で、各々の揮発性成分含有部から順次、揮発性成分を取出して加熱することができる。このため、少なくとも第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置が有する揮発性成分含有部の数に応じた回数に分けて、揮発性成分を必要な時に揮散させることができる。これに加えて、各々の揮発性成分含有部内の揮発性成分の組成を互いに異なるものとすることで、様々な組成の揮発性成分を必要な時に揮散させることができる。なお、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置が有する揮発性成分含有部の数の上限は特に限定されないが、実用上は10つ以下である。
【0063】
なお、加熱部の数は2つとしてもよい。以下、加熱部の数が2つのみの場合を「ダブル加熱方式」と称す場合がある。この場合、揮発性成分含有部の数は3つ以上とすることが特に好ましく、4つ以上とすることがより好ましく、5つ以上とすることがさらに好ましい。このような構成を採用した場合、2つの加熱部のうち、1つの加熱部のみを利用して揮発性成分を揮散させる場合は、シングル加熱方式と同様の効果を得ることができる。また、2つの加熱部を利用する場合、これら2つの加熱部により加熱可能な状態にある2つの揮発性成分含有部を同時に加熱する第1の加熱モードと、2つの揮発性成分含有部のうちの一方のみを加熱する場合する第2の加熱モードとを使い分けることができる。
【0064】
ここで、2つの加熱部により加熱可能な状態にある2つの揮発性成分含有部内の揮発性成分の組成が互いに異なるものである場合には、これら2種類の組成の揮発性成分を混合した状態で揮発させることができる。さらに、加熱部による加熱条件が1条件のみに固定されている場合でも、第1の加熱モードと第2の加熱モードとを組み合わせることで、一方の揮発性成分含有部の揮発性成分、他方の揮発性成分含有部の揮発性成分、および、双方の揮発性成分含有部の揮発性成分が混合した揮発性成分、以上の3種類の揮発性成分を揮散させることができる。また、2つの加熱部により加熱可能な状態にある2つの揮発性成分含有部内の揮発性成分の組成が同一である場合において、加熱部による加熱条件が1条件のみに固定されていたときでも、第1の加熱モードと第2の加熱モードとを組み合わせることで、2段階の濃度で揮発性成分を揮散させることができる。
【0065】
なお、上述したダブル加熱方式とほぼ同様の多様な態様での揮発性成分の揮散は、個々の揮発性成分含有部に対応した数だけ加熱部を設けることでも実現できる。しかしながら、この場合、加熱部の数が多くなり、揮発性成分揮散用装置の構造が複雑化すると共に、装置も大型化してしまう。しかしながら、加熱部の数が2つであれば、上述したような問題を抑制できる。
【0066】
揮発性成分含有部は加熱部に対して相対的に接近および離間することができる。このような接近移動および離間移動は、(1)揮発性成分含有部が所定の位置に固定して配置され、加熱部が移動することにより行う第一の移動態様、(2)加熱部が所定の位置に固定して配置され、揮発性成分含有部が移動することにより行う第二の移動態様、および、(3)揮発性成分含有部および加熱部の双方が移動することにより行う第三の移動態様、から選択されるいずれの移動態様で実施される。しかしながら、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置の構造の簡素化や、装置の大型化抑制等の観点からは、上述した3種類の移動態様のうち、第二の移動態様を採用することがより好ましい。また、接近移動および離間移動は、モータなどの駆動装置を用いて自動的に行ってもよく、手動で行ってもよい。なお、以下の説明においては、特に言及しない限り、第二の移動態様を前提として説明するが、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置はこれに限定されるものではない。
【0067】
第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置が、揮発性成分含有部を2つ以上有する場合、これら揮発性成分含有部は、加熱部に対して接近移動および離間移動可能に配置されるのであれば、その配置パターンは特に限定されない。たとえば、2以上の揮発性成分含有部を、1直線上に略等間隔に配置したり、4つ以上の揮発性成分含有部を格子状に配置すすることができる。これらの構成は、揮発性成分含有部を多数備えた大型の揮発性成分揮散用装置を製造するのに適しており、また、加熱部として、電気式の加熱素子を使用する場合において、コンセント等の外部電源を利用する場合に好適である。ここで、たとえば、個々の揮発性成分含有部にインデックス番号を割り当てておいて、インデックス番号を選択することで、多数の揮発性成分含有部から、1の揮発性成分含有部を選択して、加熱部へと自動的に移動させる、および、加熱部から元の位置へと自動的に移動させるようにしてもよい。
【0068】
しかしながら、2以上の揮発性成分含有部を、1直線上に略等間隔に配置した構成では、揮発性成分含有部の数が増えると揮発性成分揮散用装置が縦長または横長となりやすく、装置設計やデザインの自由度が非常に小さくなる。また、4つ以上の揮発性成分含有部を格子状に配置した構成では、第一の移動態様を採用した場合において、揮発性成分含有部に対する加熱部の移動が縦方向および横方向の2方向となるため、装置の構造が複雑化しやすい。それゆえ、これらの構成では、揮発性成分揮散用装置の小型化、簡素化、低コスト化という点では不利となる場合がある。この点を考慮すれば、2以上の揮発性成分含有部を円周方向に沿って等間隔に配置することが好ましい。この場合、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置は、2つ以上の揮発性成分含有部を保持する板状の揮発性成分含有部保持体を有し、2つ以上の揮発性成分含有部が、揮発性成分含有部保持体の中心軸を基準にして円周方向沿って略等間隔に配置されていることが特に好ましい。
【0069】
このような構成を採用した場合、揮発性成分含有部保持体の少なくとも一方の面側であって、2つ以上の揮発性成分含有部が配置された円周ライン上に略対向する位置に加熱部を配置することができる。あるいは、揮発性成分含有部保持体が円盤状であって、揮発性成分含有部保持体が円盤状の揮発性成分含有部保持体の最外周側に配置されている場合には、加熱部は揮発性成分含有部保持体の外周端面と対向する位置に沿って配置されていてもよい。このような構成において、揮発性成分含有部保持体の中心軸に対して、揮発性成分含有部保持体が円周方向に回転可能であれば、第二の移動態様を実現でき、揮発性成分含有部保持体の中心軸に対して、加熱部が円周方向に回転可能であれば、第一の移動態様が実現できる。
【0070】
なお、揮発性成分含有部保持体が有する2つ以上の揮発性成分含有部の配置パターンは、上述したような円周方向に沿って配置される配置パターン以外のその他の配置パターンも必要に応じて採用してもよい。また、揮発性成分含有部保持体は、揮発性成分揮散用装置に対して一体的に設けられていてもよいが、加熱部を少なくとも備えた装置本体に対して、脱着可能に設けられたカートリッジ(揮発性成分揮散用カートリッジ)であってもよい。後者の場合、揮発性成分を消費したカートリッジを新しいカートリッジに交換することで、装置本体を何度も再利用できる。なお、揮発性成分取出手段は、カートリッジ側に揮発性成分含有部と対を成すように設けられてもよいが、通常は、装置本体側に加熱部と対を成すように設けられることが好ましい。
【0071】
以上に説明したように、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置は、カートリッジ方式を採用した場合には、カートリッジを交換して利用することができる。このため、様々な揮発性成分を用いたカートリッジを利用することが可能である。しかしながら、カートリッジを構成する部材のうち、使用により消耗する消耗部材の種類;すなわち、カートリッジに用いる揮発性成分の種類等が異なると、これら材料の種類に応じて加熱条件を調整する必要がある。
【0072】
この理由は、たとえば、低温で揮発する1種類の揮発性成分のみを用いたカートリッジから、高温で揮発する1種類の揮発性成分のみを用いたカートリッジに交換した場合に、加熱条件が同じであれば、前者の揮発性成分の揮発が過剰となったり、あるいは、後者の揮発性成分の揮発が不十分となる可能性があるためである(第一の問題)。また、カートリッジに搭載された個々の揮発性成分含有部の揮発性成分の揮発性が異なる場合は、一の揮発性成分含有部から取り出した揮発性成分を加熱する場合は、揮発性成分の揮発が過剰となり、他の揮発性成分含有部から取り出した揮発性成分を加熱する場合は、揮発性成分の揮発が不十分となる可能性もある(第二の問題)。ここで、第一の問題に対応するためには、カートリッジを交換する度に、カートリッジに用いている消耗部材に応じて、加熱条件を手動で設定し直すことも可能である。また、第二の問題に対応するためには、加熱部による揮発性成分の加熱処理が可能な位置に揮発性成分含有部を接近させるように移動させる度に、加熱条件を手動で設定し直すことも可能である。しかしながら、このような対応は、手間を要する上に、加熱条件の設定を間違えた場合には、揮発性成分が過剰に揮散したり、あるいは、揮発性成分が殆ど揮発しないという問題を招く場合もある。
【0073】
上述した問題を解決するためには、カートリッジが、加熱部により加熱処理を実施する際の加熱情報を有し、カートリッジが装置本体に取り付けられた状態において、装置本体が、加熱情報を読取る読取部を備えていることが好ましい。
【0074】
ここで、「加熱情報」とは、揮発性成分の揮散量を所望の最適範囲とするための加熱温度や加熱時間などの加熱処理条件、または、これらに相当する情報を意味する。なお、「相当する情報」とは、たとえば、i)加熱素子に通電する電流量などを示す情報や、ii)読取部で読み取られた1次情報であって、当該1次情報を変換・解読することで、具体的な加熱温度や加熱時間などからなる加熱処理条件(2次情報)が得られる場合を意味する。なお、加熱情報として1次情報を用いる場合、たとえば、ジャスミンなら1番、ローズなら2番という具合に揮発性成分毎に割り当てられた番号を1次情報として用いることができる。この場合、読取部を介して読み取られた1次情報は、制御手段において、各々の揮発性成分を示す番号に応じて予め割り当てられた加熱素子を具体的に制御するための2次情報(電流量、通電時間など)に変換される。
【0075】
カートリッジは、加熱情報を無形情報および/または有形情報として保有することができる。ここで加熱情報が無形情報である場合、カートリッジは、電気的記録媒体、磁気的記録媒体および光学的記録媒体から選択される少なくともいずれか1種の記録媒体;たとえば半導体メモリなどを備える。そして、加熱情報は、この記録媒体に、電気的信号、磁気的信号および光学的信号から選択される少なくともいずれか1種の信号として保存される。この場合、装置本体には、カートリッジが装置本体に取り付けられた場合に、記録媒体に記録された加熱情報を電気的に読み取る読取部、磁気的に読み取る読取部および光学的に読み取る読取部から選択される少なくともいずれか1種の読み取り部が設けられる。
【0076】
一方、加熱情報が有形情報である場合、カートリッジは加熱情報を表す形状、構造またはこれらの組み合わせからなる有形部分を有する。ここで、加熱情報を表す有形部分としては、たとえば、ピンの数、形状またはこれらの組み合わせなどが挙げられる。この場合、装置本体には、この有形情報の読み取りが可能なように、ピンと嵌合する嵌合部を備え、ピンと嵌合部との嵌合の有無を電気的信号に変換する読取部が少なくとも設けられる。なお、有形情報が横方向に一列に配置される0〜10本のピンの数で表され、読取部がこれらのピンと嵌合した際に、嵌合の有無を電気的信号に変換する機能を備えている場合、交換するカートリッジが1種類の揮発性成分のみを用いたタイプに限定されるのであれば、たとえば、左から1番目〜5番目までのピンの数に加熱温度を割り振り、左から6番目〜10番目までのピンの数に加熱時間を割り振ることができる。
【0077】
<揮発性成分揮散用装置の具体例>
次に、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置の具体例を図面を用いてより詳細に説明する。図5および図6は、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置の一例を示す概略模式図であり、具体的には装置内における、(1)ミリカプセル10から構成される揮発性成分含有部の加熱部への接近移動、(2)揮発性成分取出手段による揮発性成分含有部からの揮発性成分の取出し、(3)取り出された揮発性成分の加熱による揮散、および、(4)揮発性成分の揮散を終了した後の揮発性成分含有部の加熱部からの離間移動、の一例を説明する模式図である。なお、図5および図6中、ミリカプセル10の具体的な断面構造については記載を省略してある。また、図5および図6中、矢印X1、X2で示されるX方向は水平方向を意味し、Y1、Y2で示されるY方向は鉛直方向を意味し、図中、Y2方向が上方側、Y1方向が下方側を意味する。
【0078】
まず、図5に示すように、不図示の揮発性成分含有部保持体により保持されたミリカプセル10から構成される揮発性成分含有部が矢印X1方向に移動することにより、加熱部40および揮発性成分取出手段である針状部材50の真上に到達する。ここで、揮発性成分揮散用装置内に固定配置された加熱部40は、板状の発熱チップからなる第一の加熱素子42と、この加熱素子42の上面側に接して配置された揮発性成分加熱用容器44と、揮発性成分加熱用容器44上方に、円形コイル部の中心軸方向が鉛直方向と一致するように配置されたコイルヒータからなる第二の加熱素子46と、から構成される。なお、第一の加熱素子42および第二の加熱素子46は不図示の電源および加熱素子制御回路に接続されている。また、第二の加熱素子46の内周側には、互いの軸方向が一致するように針状部材からなる針状部材50が配置されている。なお、この針状部材50は不図示の部材により固定配置されており、上端は、鋭く尖った形状を有している。
【0079】
次に、加熱部40へとさらに接近するように、ミリカプセル10が矢印Y1方向に移動することによりミリカプセル10の下端側に針状部材50の先端部が突き刺さる(図6)。この際、針状部材50が、中実型針状部材からなる場合は、中実型針状部材の表面を伝ってミリカプセル10内の揮発性成分20が流出する。また、針状部材50が、パイプ型針状部材からなる場合は、パイプ型針状部材の貫通孔内を介してミリカプセル10内の揮発性成分20が流出する。ここで、針状部材50として、パイプ型針状部材を用いる場合には、ミリカプセル10として、図3に例示したような外殻部材30Cの一部がゴム皮膜36Cから構成されるミリカプセル10Cが用いられる。そして、パイプ型針状部材がゴム皮膜36Cを貫通するように突き刺さる。
【0080】
続いて、第二の加熱素子46により、ミリカプセル10の外部へと流出した揮発性成分20の加熱を行う。この際の加熱は、揮発性成分20を直接揮発させるものであってもよく、揮発が殆ど生じない単なる予熱であってもよい。なお、揮発性成分20を直接揮発させる場合には、少なくとも第一の加熱素子42は省略することができる。この場合、揮発性成分加熱用容器44は、省略するか、あるいは、第二の加熱素子46による加熱によっても揮発されずに針状部材50の下端側から滴下した揮発性成分20が、装置内に飛散するのを防止するための回収容器として用いることができる。
【0081】
ミリカプセル10から流出した揮発性成分20が第二の加熱素子46により予熱される場合、揮発性成分20は予熱された後に針状部材50の下端側から滴下して、揮発性成分加熱用容器44へと導入される。そして、揮発性成分加熱用容器44内に導入された揮発性成分20は、第一の加熱素子42により加熱されることで、揮散する。なお、第一の加熱素子42を用いて、揮発性成分20を加熱して揮散させる場合、第二の加熱素子46を省略してもよい。
【0082】
その後、加熱部40から離間するように、ミリカプセル10は、矢印Y2方向へと移動する。これにより、ミリカプセル10の下端側に突き刺さっていた針状部材50が、ミリカプセル10の下端側から取り除かれる(図5)。その後、加熱部40および揮発性成分取出手段である針状部材50の真上に位置するミリカプセル10は、加熱部40からさらに離間するように矢印X2方向に移動する。なお、この移動に連動させて、新たなミリカプセル10を矢印X1方向に移動させれば、次の揮発処理の実施に備えることができる。なお、図5および図6に示す針状部材50としては、針状部材の上端部を刃状とした刃状部材を用いることもできる。
【0083】
図7は、本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられる揮発性成分含有部保持体の一例を示す模式平面図であり、具体的には4つのミリカプセル10を、円周方向に、90度毎に配置した揮発性成分含有部保持体を示したものである。図7に示す揮発性成分含有部保持体60A(60)は、4つのミリカプセル10を4つ保持する円盤状の部材である。ここで、4つのミリカプセル10は、揮発性成分含有部保持体60Aの中心軸(回転軸)62から半径方向に等距離の位置であって、かつ、時計回り方向Rに沿って0度の位置P1、90度の位置P2、180度の位置P3、および、270度の位置P4に各々配置されている。ここで、揮発性成分含有部保持体60Aは、時計回り方向Rに対して、90度毎に回転可能であり、位置P1に位置するミリカプセル10は、位置P2、位置P3、および、位置P4へと順次移動することができる。ここで、加熱部40および針状部材50(図7中、不図示)は、位置P1〜位置P4から選択されるいずれか1つまたは2つの位置であって、かつ、ミリカプセル10に対向するように図7の紙面の上方側または下方側に配置することができる。なお、位置P1〜位置P4から選択されるいずれか2つの位置に、加熱部40および針状部材50を各々配置する場合、たとえば、中心軸に対して点対称を成す位置、すなわち、位置P1および位置P3の組み合わせ、または、位置P2および位置P4の組み合わせを選択できる。
【0084】
図8は、図7に示す揮発性成分含有部保持体と加熱部との配置関係の一例を示す斜視図である。図8中、加熱部40の具体的な構成および揮発性成分取出手段50については記載を省略してある。図8に示すように加熱部40は、揮発性成分取出手段50の一方の面側に、揮発性成分含有部を構成するミリカプセル10が配置された円周ラインに対応するライン(図8中の輪状の点線ライン64)上に配置されている。そして、図8に示す例では、位置P4に対向する位置に1つの加熱部40が配置された状態が示されている。図9は、図7および図8に示す揮発性成分保持体の変形例を示す模式平面図である。ここで、図9中、図7および図8に示すものと同様のものについては同じ符号が付してある。また、図9中、加熱部40の具体的な構成および揮発性成分取出手段50については記載を省略してある。図9に示す揮発性成分保持体60B(60)は、ミリカプセル10が揮発性成分保持体60Bの最外周側に保持されている点を除けば、図7および図8に示す揮発性成分保持体60Aと同様の構成を有するものである。ここで、加熱部40は、揮発性成分保持体60Bの外周部端面に対向する位置するに配置でき、図9に示す例では、位置P4に配置されたミリカプセル10と対向する位置に加熱部40が配置された状態が示されている。
【0085】
<<第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置および揮発性成分揮散用カートリッジ>>
次に、第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置について説明する。第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置は、加熱部と、加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置され、かつ、揮発性成分および揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有する揮発性成分含有部と、を少なくとも備え、加熱部と揮発性成分含有部とが互いに接近した状態において、加熱部により揮発性成分含有部を加熱することで、外殻部材を加熱破壊すると共に揮発性成分を揮散させる機能を有することを特徴とする。
【0086】
第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置では、揮発性成分を加熱することで強制的に揮散させる。このため、揮発性成分の揮発性が低い場合、言いかえれば揮発性の目安となる揮発性成分の常温近傍における蒸気圧や揮発性成分の沸点が低い場合でも、揮発性成分を速やかかつ十分な濃度で空気中に揮散させることができる。また、不使用時においては、揮発性成分は外殻部材に内包された状態であるため、揮発性能が劣化することが無い。
【0087】
これに加えて、第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置では、揮発性成分含有部は加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置される。このため、特に揮発性成分揮散用装置が揮発性成分含有部を2つ以上有する場合、1つの加熱部に対して、順次、個々の揮発性成分含有部を相対的に接近させた後に、外殻部材の加熱破壊および揮発性成分の加熱を行うことで、個々の揮発性成分含有部内の揮発性成分を揮散させることができる。それゆえ、個々の揮発性成分含有部に対応させて加熱部を配置する必要が無く、揮発性成分揮散用装置の構造を簡素化し、装置も小型化できる。
【0088】
なお、第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置は、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に対して、主として、揮発性成分取出手段ではなく加熱部により外殻部材を破壊する点、および、揮発性成分含有部を構成する部材として後述するマイクロカプセルなども利用できる点で異なるものである。なお、その他については、第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置は、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置と同様とすることができる。この点については、第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いる揮発性成分揮散用カートリッジについても同様である。次に、第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置を構成する各部の部材についてより詳細に説明する。
【0089】
<揮発性成分含有部>
第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられる揮発性成分含有部は、揮発性成分および揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有するものであれば特に限定されないが、1つのミリカプセル10、揮発性成分20を内部に満たした1つの金属製容器、または、1つ以上のマイクロカプセル、を有する。ここで、揮発性成分含有部として、ミリカプセル10を用いる場合、外殻部材30を構成される主材料としては、加熱部による加熱によって加熱破壊される材料が用いられる。このような材料としては、後述するマイクロカプセルを構成する外殻部材と同様の材料、または、この材料と類似の加熱破壊特性を有するその他の材料を用いることが特に好ましい。なお、この点を除けば、第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられるミリカプセル10は、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられるミリカプセル10と同様である。また、金属製容器を用いる場合、サイズ的にはミリカプセル10とほぼ同様のものが利用できる。なお、金属製容器には開口部が設けられると共に、この開口部を封止する封止膜が設けられる。ここで、この封止膜としては、加熱により熱分解または溶解するものが利用でき、具体的には後述するマイクロカプセルの外殻部材と同様ものが利用できる。なお、揮発性成分含有部を保持する板状の揮発性成分含有部保持体を用いる場合、上記の金属製容器に相当する機能を有するものとして、この揮発性成分含有部保持体に、揮発性成分を収納する凹部を設けることが好ましい。この場合、凹部の開口部に封止膜が設けられ、加熱部の熱を揮発性成分や封止膜に効率的に伝熱するために凹部の内壁面の一部または全面が金属製の部材から構成される。
【0090】
一方、揮発性成分含有部として、マイクロカプセルを用いる場合、揮発性成分含有部は少なくとも1つのマイクロカプセルから構成されていればよい。しかしながら、揮発性成分含有部が1つのマイクロカプセルから構成される場合、揮発性成分含有部に含まれる揮発性成分の含有量を増大させるために、大きいマイクロカプセルを使用しなければならない場合が多くなる。しかし、この場合、マイクロカプセルの製造が困難となったり、あるいは、マイクロカプセルの機械的強度の確保が困難となる場合がある。それゆえ、揮発性成分含有部は、通常は、2つ以上のマイクロカプセルから構成されていることが好ましく、5つ以上のマイクロカプセルから構成されることがより好ましい。なお、揮発性成分含有部を構成するマイクロカプセルの数の上限は特に限定されないが、実用上は50個以下である。ここで、揮発性成分含有部を構成するマイクロカプセルの数が2つ以上である場合、揮発性成分含有部は、少なくとも、2つ以上のマイクロカプセル、および、これら2つ以上のマイクロカプセルがばらけることで揮発性成分含有部がバラバラに分解するのを防止する分解防止部材、から構成されることが好ましい。この分解防止部材としては、特に限定されないが、たとえば、マイクロカプセル同士を結着する結着材や、マイクロカプセルを収納する容器などを挙げることができる。ここで、結着材としては、マイクロカプセルを構成する外殻部材用の材料を用いることができるが、粘着性を示す材料であれば公知の材料が利用できる。なお、結着材を用いずに、マイクロカプセルの外殻部材同士を結着させてもよい。一方、マイクロカプセルを収納する収納容器としては、加熱部からの熱をマイクロカプセルに効率的に伝達するために、金属製の収納容器を用いることが好ましい。なお、揮発性成分含有部を保持する板状の揮発性成分含有部保持体を用いる場合、この揮発性成分含有部保持体に、マイクロカプセルを飛散しないように収納する凹部を設けることも好ましい。この場合は、結着材や、収納容器を用いなくてもよい。
【0091】
−マイクロカプセル−
ここで、第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置に用いられるマイクロカプセルとは、その平均粒径が3000μm以下であり、揮発性成分の最大内容量は0.10ml以下のものを意味する。なお、平均粒径は、10μm以上3000μm以下の範囲が好ましく、150μm〜2000μmの範囲内がより好ましく、250μm〜550μmの範囲内がさらに好ましい。平均粒径が10μm未満の場合、マイクロカプセルの全質量に占める揮発性成分の含有割合が小さくなり過ぎるために、十分な濃度で揮発性成分を揮散させることが困難となる場合がある。また、平均粒径が3000μmを超える場合、マイクロカプセルの機械的強度が低下するため、マイクロカプセルに予期しない衝撃や圧力が加わった際に、マイクロカプセルが容易に破壊され、意図しないタイミングで揮発性成分が外部に揮散され易くなる。
【0092】
マイクロカプセルは、公知のマイクロカプセル製造方法を利用して作製することができる。マイクロカプセル製造方法としては、大別すると化学的方法、物理化学的方法、および機械的方法が挙げられる。そして、(1)化学的方法としては、たとえば、懸濁重合法、ミニエマルション重合法、エマルション(乳化)重合法、析出重合法、分散重合法、界面重合法、液中硬化法が挙げられ、(2)物理化学的方法としては、たとえば、液中乾燥法、転相乳化法、コアセルベーション法が挙げられ、(3)機械的方法としては、たとえば、スプレードライ法、ヘテロ凝集法が挙げられる(たとえば、「ナノ・マイクロカプセル調整のキーポイント」、田中眞人、株式会社テクノシステム参照)。
【0093】
これらのマイクロカプセル化の方法の中でも、通常の場合、界面重合法や、コアセルベーション法等が好ましい。マイクロカプセルの製造は、界面重合法を利用した場合、たとえば、以下のように実施することができる。まず、マイクロカプセルの芯材を構成する原料として揮発性成分を、疎水性の有機溶媒に溶解または分散させて調製した油相を準備する。次に、この油相を水溶性高分子を溶解した水相中に投入し、ホモジナイザー等の攪拌手段により乳化分散する。そして得られた乳化液を、加温することによりその油滴界面で高分子形成反応を起こさせる。これにより、揮発性成分を含む芯材が外殻部材で被覆されたマイクロカプセルを得ることができる。
【0094】
なお、マイクロカプセルを構成する外殻部材としては、加熱によって溶解および/または熱分解により加熱破壊される材料が利用される。このような材料としては、融点が85℃〜135℃前後ぐらいの有機材料を利用することが好ましい。なお、融点は、85℃〜105℃の範囲がより好ましい。融点を85℃以上とすることにより、第二の揮発性成分揮散用装置や、この装置に対して必要に応じて脱着可能に設けられた揮発性成分含有部保持体を有するカートリッジが高温環境下に放置された場合でも、マイクロカプセルの外殻部材が自発的に溶解し、揮発性成分が外部へと揮散してしまうのをより確実に抑制できる。また、融点を135℃以下とすることにより、加熱部で加熱した場合に、マイクロカプセルの外殻部材を確実に溶解させることで、揮発性成分を外部へと確実に揮散させることができる。
【0095】
外殻部材の具体例としては、たとえば、ゼラチン、ロジン、アラビアゴム、シェラック、アルギン酸ソーダ、ポリビニルアルコール、エポキシ、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ポリアミド、ウレア等が挙げられる。また、マイクロカプセルは、外殻部材により包含される芯材として、ミリカプセル10に用いるものと同様の揮発性成分20が用いられるが、揮発性成分20と共に疎水性の有機溶媒を併用できる。この有機溶媒としては、沸点300℃以下の有機溶媒が好ましく、たとえば、エステル類の他、ジメチルナフタレン、ジエチルナフタレン、ジイソプロピルナフタレン、ジメチルビフェニル、ジイソプロピルビフェニル、ジイソブチルビフェニル、1−メチル−1−ジメチルフェニル−2−フェニルメタン、1−エチル−1−ジメチルフェニル−1−フェニルメタン、1−プロピル−1−ジメチルフェニル−1−フェニルメタン、トリアリルメタン(たとえば、トリトルイルメタン、トルイルジフェニルメタン)、ターフェニル化合物(たとえば、ターフェニル)、アルキル化合物、アルキル化ジフェニルエーテル(たとえば、プロピルジフェニルエーテル)、水添ターフェニル(たとえば、ヘキサヒドロターフェニル)、ジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0096】
次に、図10〜図12に第二の本実施形態の揮発性成分揮散装置に用いられる揮発性成分含有部の具体例を図面を用いて説明する。なお、図10〜図12中、図1〜図7に示すものと同様のものについては同じ符号が付してある。図10は、第二の本実施形態の揮発性成分揮散装置に用いられる揮発性成分含有部の一例を示す模式断面図であり、具体的には、マイクロカプセルの断面図について示したものである。図10に示すようにマイクロカプセル70は、揮発性成分20と、これを密封内包する外殻部材80とから構成される。なお、このマイクロカプセル70は、これ単体で、1つの揮発性成分含有部を構成してもよいが、通常は、2つ以上のマイクロカプセル70により1つの揮発性成分含有部を構成することが好ましい。
【0097】
図11は、第二の本実施形態の揮発性成分揮散装置に用いられる揮発性成分含有部の他の例を示す模式断面図である。図11に示す揮発性成分含有部90A(90)は、開口部を有する金属製容器100と、この金属製容器100内に充填された複数のマイクロカプセル70と、から構成される。なお、図11に示す例では、金属製容器100は、加熱部の熱をマイクロカプセル70の外殻部材80に効率的に伝熱すると共に、個々のマイクロカプセル70がばらけて飛散するのを防ぐ機能を有する。
【0098】
図12は、第二の本実施形態の揮発性成分揮散装置に用いられる揮発性成分含有部の他の例を示す模式断面図である。図12に示す揮発性成分含有部90B(90)は、金属製容器102と、金属製容器の開口部102Aを封止する封止膜104と、この金属製容器102内に充填された揮発性成分20と、から構成される。なお、図12に示す例では、金属製容器102および封止膜104が、揮発性成分20の外殻部材として機能する。また、加熱部の熱は、金属製容器102を介して揮発性成分20に伝熱されると共に封止膜104にも伝熱される。このため、金属製容器102が加熱された際には、封止膜104が加熱破壊されると共に、加熱された揮発性成分20が、開口部102Aを経て、外部へと揮散される。
【0099】
<加熱部>
加熱部は、揮発性成分含有部を加熱することで、ミリカプセル10の外殻部材30、マイクロカプセル70の外殻部材80、あるいは、金属製容器102の開口部102Aを封止する封止膜104を加熱破壊すると共に、これらのミリカプセル10、マイクロカプセル70(以下、両者をまとめて「カプセル」と称することがある)の内部あるいは金属製容器102内の揮発性成分20を揮散させる。この加熱部は、少なくとも加熱素子を含むものである。加熱素子としては、第一の本実施形態の揮発性成分揮散用装置の加熱部として用いるものと同様のものが利用できる。また、外殻部材30、80あるいは封止膜104の加熱破壊により、カプセル10、70あるいは金属製容器102から流出させた揮発性成分20を効率的に加熱するために、揮発性成分加熱用容器44を用いることもできる。また、加熱部は、(1)外殻部材30、80あるいは封止膜104を加熱破壊する機能、および、カプセル10、70内または金属製容器102内の揮発性成分20を揮散させる機能の双方を有する1つの加熱素子のみを有していてもよく、(2)外殻部材30、80の加熱破壊のみを目的として加熱を行う加熱素子、および、カプセル10、70内または金属製容器102内の揮発性成分20を揮散させることのみを目的として加熱を行う加熱素子、を有していてもよい。また、加熱部が1つの加熱素子のみを有する場合、加熱素子で発熱した熱を、外殻部材30、80あるいは封止膜104へと伝熱することで外殻部材30、80あるいは封止膜104を加熱破壊する金属製の伝熱部材を用いてもよい。
【0100】
<揮発性成分揮散用装置の具体例>
次に、第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置の具体例を図面を用いてより詳細に説明する。図13および図14は、第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置の一例を示す概略模式図であり、具体的には装置内における、(1)揮発性成分含有部の加熱部への接近移動、(2)加熱部の加熱による外殻部材30、80または封止膜104の加熱破壊および揮発性成分20の揮散、および、(3)揮発性成分20の揮散を終了した後の揮発性成分含有部の加熱部からの離間移動、の一例を説明する模式図である。なお、図13および図14中、揮発性成分含有部の具体的な断面構造については記載を省略してある。また、図1〜図12中に示すものと同様のものについては同じ符号が付してある。
【0101】
まず、図13に示すように、不図示の揮発性成分含有部保持体により保持された揮発性成分含有部90が、矢印X1方向に移動することにより、加熱部40の真上に到達する。ここで、揮発性成分揮散用装置内に固定配置された加熱部40は、板状の発熱チップからなる加熱素子42から構成される。なお、加熱素子42は不図示の電源および加熱素子制御回路に接続されている。
【0102】
次に、加熱部40へとさらに接近するように、揮発性成分含有部90が矢印Y1方向に移動することにより揮発性成分含有部90の底面と加熱素子42とが接触する(図14)。ここで加熱素子42により、揮発性成分含有部90が加熱される。この際、図14に示す揮発性成分含有部90が、図11に示す揮発性成分含有部90Aであれば、マイクロカプセル70の外殻部材80が加熱破壊されると共に揮発性成分20が加熱されて、揮発性成分20が外部へと揮散する。また、図14に示す揮発性成分含有部90が、図12に示す揮発性成分含有部90Bであれば、開口部102Aを封止している封止膜104が加熱破壊されると共に揮発性成分20が加熱されて、揮発性成分20が外部へと揮散する。
【0103】
その後、加熱部40から離間するように、揮発性成分含有部90は、矢印Y2方向へと移動する(図13)。その後、加熱部40の真上に位置する揮発性成分含有部90は、加熱部40からさらに離間するように矢印X2方向に移動する。なお、この移動に連動させて、新たな揮発性成分含有部90を矢印X1方向に移動させれば、次の揮発処理の実施に備えることができる。
【0104】
なお、図13および図14に示す例においては、板状の発熱チップからなる加熱素子42の代わりに、内径が、揮発性成分含有部90の外径よりも大きいコイルヒータからなる加熱素子を用いてもよい。また、揮発性成分含有部90として、図1等に例示したようなミリカプセル10を用いることもできる。但し、この場合、ミリカプセル10の外殻部材30は、少なくとも加熱部40によって加熱される部分が加熱破壊可能な材料から構成される。また、(1)外殻部材30、70や外殻部材として機能する部材(封止膜104等)の加熱破壊によって、揮発性成分20が揮発性成分含有部90の外部へと流出・飛散して装置内を汚染する可能性がある場合、あるいは、(2)加熱破壊と揮発性成分20の加熱による揮散処理とを別個に行う場合、揮発性成分含有部90から流出する揮発性成分20を回収して一か所に保持する容器を設けてもよい。たとえば、上記(2)に示す場合であれば、図5および図6に例示した揮発性成分加熱用容器44を、加熱素子42上に配置してもよい。
【0105】
また、図5および図6に示す例において、符号50で示される針状部材の代わりに、加熱素子の熱を伝えて外殻部材30を加熱破壊することを目的とした金属製の棒状部材(伝熱部材)を用いてもよい。この場合、当該棒状部材は、たとえば、図5および図6に示されるようなコイルヒータからなる加熱素子46内に配置されるか、あるいは、外殻部材30と接触する側の端と反対側の端が、発熱チップからなる加熱素子42と接触するように配置されることが好ましい。なお、針状部材50を伝熱部材としても用いる場合、外殻部材30の加熱破壊および機械的破壊の双方を略同時に実施できる。
【0106】
<<揮発性成分揮散用装置の利用態様>>
第一および第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置は、所望の揮発性成分を、所望のタイミングで、所望の空間に揮散させる用途であれば、いかなる用途でも利用することができる。また、第一および第二の本実施形態の揮発性成分揮散用装置は、この装置単体で利用してもよいが、電子機器と一体化して設けることができる。電子機器としては、公知の電子機器であれば特に限定されないが、たとえば、i)冷蔵庫、洗濯機などのいわゆる白物家電、ii)テレビ、オーディオなどのAV機器、iii)エアコンや調湿機、マイナスイオン発生装置などの空調機器、iv)パーソナルコンピューターなどのOA機器、v)携帯電話、ノートタイプのパーソナルコンピューター、ヘッドホン、PDA(personal digital assistant)、携帯型音楽再生機器などの携帯型電子機器などを挙げることができる。たとえば、電子機器の筐体内に揮発性成分揮散用装置を配置し、この電子機器の所定の動作や操作に連動させて、揮発性成分を揮散させるようにしてもよい。
【0107】
また、揮発性成分揮散用装置を、壁や床などに配置し、赤外線センサーと連動させて、芳香成分を揮散させるようにしてもよい。この場合、人間が赤外線センサーにより感知された場合に、芳香成分を揮散させることができる。これにより、揮発性成分揮散用装置が配置された部屋に入ってきた人間が、快適な香りを楽しむことができる。また、部屋に誰もいない場合は、芳香成分が揮散されないので、芳香成分の無駄な消費を防ぐこともできる。同様に、聴音センサーと連動させて、殺虫成分を揮散させるようにしてもよい。この場合、たとえば、殺虫対象となる飛行能力を有する虫(蚊やハエ、蛾など)の羽ばたき音に特有の周波数に応じて、揮散させる殺虫成分を選択し自動的に揮散させるようにしてもよい。
【0108】
また、揮発性成分揮散用装置を自動車やトラック、バスなど車両の運転席の近傍に配置してもよい。この場合、車両の運転状態、あるいは、運転席に座っている運転者の生理状態に連動させて、覚醒成分および/または芳香成分を自動的に揮散させてもよい。たとえば、車両の運転状態に対応させて、覚醒成分および/または芳香成分を揮散をさせる条件としては、たとえば、高速道路などにおいて所定範囲内での速度での走行が一定時間以上続いた場合などが挙げられる。また、運転席に座っている運転者の生理状態に連動させて、覚醒成分および/または芳香成分を揮散させる条件としては、たとえば、カメラによりモニターされた運転者の単位時間内における瞬きの回数、まぶたの開き具合、あるいは、あくびの回数などを画像解析により定量化し、この値が一定の閾値を超えた場合などが挙げられる。
【符号の説明】
【0109】
10、10A、10B、10C、10D ミリカプセル(揮発性成分含有部)
20 揮発性成分
30 30A、30B、30C、30D 外殻部材
32B、32C、32D カプセル本体(外殻部材の一部)
34B、34C キャップ(外殻部材の一部)
36C ゴム皮膜(外殻部材の一部を成すゴム部材)
36D ブロック状ゴム部材(外殻部材の一部を成すゴム部材)
40 加熱部
42 (第一の)加熱素子
44 揮発性成分揮発加熱用容器
46 (第二の)加熱素子
50 針状部材(揮発性成分取出手段)
60、60A、60B 揮発性成分含有部保持体
62 中心軸(回転軸)
64 輪状の点線ライン
70 マイクロカプセル(揮発性成分含有部またはその一部)
80 外殻部材
90、90A、90B 揮発性成分含有部
100 金属製容器
102 金属製容器(外殻部材の一部)
102A 開口部
104 封止膜(外殻部材の一部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱部と、
該加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置され、かつ、揮発性成分および該揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有する揮発性成分含有部と、
上記外殻部材を機械的に破壊することで上記揮発性成分含有部の外部へと上記揮発性成分を取出す揮発性成分取出手段と、を少なくとも備え、
上記揮発性成分取出手段により上記揮発性成分含有部の外部へと取出された上記揮発性成分を、上記加熱部により加熱することで、上記揮発性成分を揮散させる機能を有することを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項2】
請求項1に記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記揮発性成分取出手段が、軸方向に貫通する貫通孔を有する針状部材を有し、
前記外殻部材の少なくとも一部がゴム部材から構成され、
上記ゴム部材を貫通するように上記針状部材を突き刺すことにより、上記揮発性成分が上記貫通孔を経由して上記揮発性成分含有部の外部へと取出されることを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記加熱部が、加熱素子と、当該加熱素子に近接または接触する位置に配置されかつ開口部を有する揮発性成分加熱用容器とを有し、
前記揮発性成分取出手段により前記揮発性成分含有部の外部へと前記揮発性成分を取出した際に、上記揮発性成分含有部の外部へと流出する前記揮発性成分を上記揮発性成分加熱用容器内に導入されることを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記加熱部として少なくともコイルヒータを用い、
前記揮発性成分取出手段により前記揮発性成分含有部の外部へと前記揮発性成分を取出した際に、前記揮発性成分含有部から流出する前記揮発性成分が略線状となって流出し、当該略線状状態で流出している揮発性成分の流出ラインと、
上記コイルヒータの中心軸と、
が略一致するように上記コイルヒータが配置されていることを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項5】
加熱部と、
該加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置され、かつ、揮発性成分および該揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有する揮発性成分含有部と、
を少なくとも備え、
上記加熱部と上記揮発性成分含有部とが互いに接近した状態において、上記加熱部により上記揮発性成分含有部を加熱することで、上記外殻部材を加熱破壊すると共に上記揮発性成分を揮散させる機能を有することを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1つに記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記揮発性成分が、芳香成分、殺虫成分、抗菌成分および消臭成分から選択される少なくとも1種であることを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つに記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記揮発性成分含有部を2つ以上有し、
一の揮発性成分含有部内に含まれる揮発性成分の組成と、他の揮発性成分含有部内に含まれる揮発性成分の組成とが、異なることを特徴する揮発性成分揮散用装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記加熱部を1つ有し、前記揮発性成分含有部を2つ以上有することを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1つに記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記加熱部を2つ有し、前記揮発性成分含有部を3つ以上有することを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記揮発性成分含有部を2つ以上有すると共に、
上記2つ以上の揮発性成分含有部を保持する板状の揮発性成分含有部保持体を有し、
上記2つ以上の揮発性成分含有部が、上記揮発性成分含有部保持体の中心軸を基準にして円周方向沿って略等間隔に配置されていることを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項11】
請求項10に記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記揮発性成分含有部保持体の少なくとも一方の面側であって、前記2つ以上の揮発性成分含有部が配置された円周ライン上に略対向する位置に前記加熱部が配置されていることを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項12】
請求項11に記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記揮発性成分含有部保持体の中心軸に対して、前記揮発性成分含有部保持体または前記加熱部の少なくとも一方が上記円周方向に回転可能であることを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか1つに記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記加熱部を少なくとも備えた装置本体に対して、前記揮発性成分含有部保持体が脱着可能に設けられていることを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項14】
請求項13に記載の揮発性成分揮散用装置において、
前記揮発性成分含有部保持体が、前記加熱部による加熱を行う際の加熱情報を有し、
前記装置本体が、前記揮発性成分含有部保持体が前記装置本体に取り付けられた状態において、上記加熱情報を読み取る読取部を備えていることを特徴とする揮発性成分揮散用装置。
【請求項15】
加熱部と、
該加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置され、かつ、揮発性成分および該揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有する揮発性成分含有部と、
上記外殻部材を機械的に破壊することで上記揮発性成分含有部の外部へと上記揮発性成分を取出す揮発性成分取出手段と、
を少なくとも備え、
上記揮発性成分取出手段により上記揮発性成分含有部の外部へと取出された上記揮発性成分を、上記加熱部により加熱することで、上記揮発性成分を揮散させる機能を有する揮発性成分揮散用装置が、
上記加熱部を少なくとも備えた装置本体と、該装置本体に対して脱着可能なカートリッジと、から構成され、
上記カートリッジが、2つ以上の上記揮発性成分含有部を少なくとも有することを特徴とする揮発性成分揮散用カートリッジ。
【請求項16】
加熱部と、
該加熱部に対して相対的に接近および離間可能に配置され、かつ、揮発性成分および該揮発性成分を内包する外殻部材を少なくとも有する揮発性成分含有部と、
を少なくとも備え、
上記加熱部と上記揮発性成分含有部とが互いに接近した状態において、上記加熱部により上記揮発性成分含有部を加熱することで、上記外殻部材を加熱破壊すると共に上記揮発性成分を揮散させる機能を有する揮発性成分揮散用装置が、
上記加熱部を少なくとも備えた装置本体と、該装置本体に対して脱着可能なカートリッジと、から構成され、
上記カートリッジが、2つ以上の上記揮発性成分含有部を少なくとも有することを特徴とする揮発性成分揮散用カートリッジ
【請求項17】
請求項15または16に記載の揮発性成分揮散用カートリッジにおいて、
前記カートリッジが、前記加熱部による加熱を行う際の加熱情報を有し、
前記揮発性成分含有部保持体が前記装置本体に取り付けられた状態において、前記装置本体が、上記加熱情報を読み取る読取部を備えていることを特徴とする揮発性成分揮散用カートリッジ。
【請求項18】
請求項1〜14のいずれか1つに記載の揮発性成分揮散用装置を備えたことを特徴とする電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2011−224071(P2011−224071A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94874(P2010−94874)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(595128455)大栄工業株式会社 (6)
【Fターム(参考)】