説明

揮発性易吸着成分及び難吸着成分を含有する溶液から吸着剤を利用して揮発性易吸着成分と難吸着成分とを分離する方法

【課題】吸着剤を利用した多成分溶液からの着目した揮発成分の吸着除去、回収方法を提供する。
【解決手段】手段揮発性成分を含有する溶液を高温で、当該成分選択型吸着剤床4aに導入して吸着剤と接触させて当該成分を吸着剤に吸着させて他の成分と分離した後に、溶液の吸着剤床への供給を停止し、当該成分を吸着した当該成分選択型吸着剤床4bに吸着工程と同一又はそれ以上の温度で不活性ガスをパージガスとして向流に流過して、吸着剤床から当該成分を離脱することによる、当該成分の除去、回収方法。当該成分が水分、その他の成分が揮発性有機物の場合の水分選択型吸着剤は、SiO2/Al2O3比が5以下の低シリカ吸着剤および同左シリカコート剤である。当該成分が揮発性有機物、その他の成分が水の場合の揮発性有機物選択型吸着剤は、SiO2/Al2O3比が5以上の高シリカ吸着剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性易吸着成分及び難吸着成分を含有する溶液から吸着剤を利用して揮発性易吸着成分と難吸着成分とを分離する方法に関する。一層詳細には、本発明は、水分を含有する揮発性有機物(以下VOC)溶液から水分を吸着分離し、除去する方法または、VOCを吸着分離して、回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水分を含有するVOCから水分を除去する方法として最も頻繁に採用されている方法は、水分含有VOCを蒸留装置に供給して低沸点成分であるVOCと、高沸点成分である水分を蒸留して分離する方法である。この方法では、VOC濃度の上昇に伴いある温度および組成のところで、溶液の組成と蒸気の組成とが一致し(共沸濃度)、定沸点の混合液体が得られ、蒸留によっては共沸濃度よりも高い濃度のVOCを調製することができない課題がある。
【0003】
VOC濃度のより高い無水VOCを合成する場合には、シクロヘキサン等の水分と会合する化合物を脱湿剤として加えて脱水する方法が採用されている。この方法では、脱水剤の添加、脱水剤のVOCからの分離及び回収に付加的な設備が必用であり、装置構成及び分離操作が煩雑となる。
【0004】
また、今後普及が予想されるものとしては、膜分離法が挙げられる。この方法では、水分含有VOC蒸気を水蒸気/VOC分離係数の高い膜に供給することで水分のみを選択的に膜を経由して除去して、高い濃度のVOCを得る方法が実用化段階に達している。膜分離法は蒸留法のような高度な循環操作を行わないことから、分離エネルギーの低減、簡易な装置構成による設備費の低減が期待できる。しかし、一方では、膜の水蒸気/VOC分離係数を反映して、その最高濃度(共沸濃度)はエタノールにおいて99.5質量%に留まり、また、モジュールのピンホールによるリークの懸念が潜在的に存在する。
【0005】
VOC濃度が共沸濃度を越える高純度のVOCを合成するその他の方法としては、水分含有VOCを気化してゼオライト等の脱湿剤を充填した吸着塔に相対的に高い圧力で供給して、脱湿剤によって水分を除去して高純度のVOCを塔後方から回収し、水分で飽和した吸着塔を相対的に低い圧力に導いて水分を離脱して再生し、再び水分除去による高純度のVOC回収に移行する圧力スイング法(以下「PSA」と呼ぶ)が提案されている。この方法では、モレキュラーシーブ効果により吸着剤窓径より小さな水蒸気は吸着するが、より大きな分子のVOC蒸気は吸着しないゼオライト系モレキュラーシーブであるK−A、Na−Aが使用できるため99.9質量%以上の無水VOCを調製することが可能である。しかし、この方法の欠点は、処理する水分含有VOCを全量気化する必用があり、このための気化エネルギーが無視できないことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、例えば上述した液相でのVOC水分2成分系において、VOC濃度が共沸濃度を越える高純度のVOCの合成を、従来ゼオライト系の水分吸着剤を脱湿剤としての使い捨ての使用により達成していたことの欠点を改善し、連続的な水分吸着剤の使用により達成する方法を提供するものである。
【0007】
例えてVOC水分2成分系に関して、上述した課題は、VOC水分2成分系に限らずに、揮発性易吸着性成分及び難吸着性成分を含有する溶液から揮発性易吸着性成分と難吸着性成分の分離に適用できる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上述した課題を達成するために、鋭意研究した結果、特定の水分吸着剤を使用してVOCからの水分除去を行うと、VOC中の水分を吸着し、VOC中の水分濃度を共沸濃度よりも低い濃度に低減し得ることを見出した。これは上記吸着剤がVOC水分2成分系において高い水分/VOC分離係数を有することから水分を選択的に吸着するためと判断される。本方法を採用することにより、蒸留法に単独の最高濃度であるVOC水共沸濃度を越える高純度のVOCを調製することが可能であることを見出して本発明をなすに至った。
【0009】
また同じく、特定のVOC吸着剤を使用してVOC含有水溶液からのVOC吸着を行うと、水溶液中のVOCを吸着し、水溶液中のVOC濃度を低減し得ることも見出した。これは上記吸着剤がVOC水分2成分系において高いVOC/水分分離係数を有することからVOCを選択的に吸着するためと判断される。本方法を採用することにより、蒸留法を使用することなくVOCと水分を分離することが可能であることを見出して本発明をなすに至った。
【0010】
かくして、本発明によれば、下記を提供する:
1.揮発性易吸着成分及び難吸着成分を含有する溶液を易吸着成分吸着剤と接触させて該吸着剤に易吸着成分を吸着させて難吸着成分を流出させる吸着工程を終了した後に、溶液の接触を停止し、該易吸着成分を吸着した吸着剤に不活性ガスを向流にパージして該易吸着成分を吸着剤から離脱させる脱着工程を実施する、揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
2.請求項1において、脱着したパージ不活性ガスを冷却して揮発性易吸着成分を液化回収し、残留する不活性ガスをパージガスとして還流再使用することを特長とする揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
3.請求項1,2において揮発性易吸着成分として揮発性有機物、難吸着成分として水分を用い、易吸着成分吸着剤としてSiO/Al比が5以上の高シリカ吸着剤を用いる揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
4.請求項3の高シリカゼオライトとして、シリカライト、ベータ、モルデナイト、Y型ゼオライト、メソポーラスシリカMCM−41を用いる揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
5.請求項1,2において揮発性易吸着成分として水分、難吸着成分として揮発性有機物を用い、易吸着成分吸着剤としてSiO/Al比が5以下の低シリカ吸着剤およびシリカゲルを用いる揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
6.請求項5の低シリカゼオライトとして、K−A型ゼオライト(以下K−A)、Na−A型ゼオライト(以下Na−A)、Ca−A型ゼオライト(以下Ca−A)、Na−K−A型ゼオライト(以下Na−K−A)、Na−Zn−A型ゼオライト(以下Na−Zn−A)、K−Zn−A型ゼオライト(以下K−Zn−A)および同左シリカコート剤(末尾にコートと記す。)を用いる揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
7.吸着工程を終了した後に、溶液の接触を停止し、吸着剤を充填した充填塔に残留する保有液を、パージガスで置換して、原料に循環させる請求項1から6記載の揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
8.脱着工程を終了した後に、パージガスの接触を停止し、吸着剤を充填した充填塔に残留するパージガスを、難吸着成分で置換して、吸着工程を開始する請求項1から7記載の揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
9.請求項1から8において、吸着工程の温度を臨界温度、圧力以下の高温で揮発性易吸着成分を吸着し、吸着工程と同一又はより高温の不活性ガスを向流にパージして脱着することを特長とする揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明においては、揮発性易吸着成分と難吸着成分との分離が液相で行われるため蒸留法、PSAのような相変化を伴わず、相変化を行うのは脱着再生時の揮発性易吸着成分(揮発性易吸着成分蒸気)のみのため、原料の相変化に伴う蒸発エネルギーがほとんど無く、原料及び製品取り出しライン、吸着塔は液相輸送のため小口径であり、低設備、低ランニングコストの分離方法が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において、揮発性易吸着成分及び難吸着成分とは、それぞれ吸着剤に対する相対的に異なる吸着性能を有するものを言い、例えば揮発可能でありかつ吸着剤に対する吸着性能が相対的に高い成分を揮発性易吸着成分と称し、吸着剤に対する吸着性能が相対的に低い成分を難吸着成分と称する。
【0013】
例えば、VOC水分2成分系に関して言えば、親水性吸着剤を使用すれば、水分はVOCに比べて親水性吸着剤に吸着し易いことから、揮発性易吸着成分になり、VOCは水に比べて親水性吸着剤に吸着し難いことから、難吸着成分になる。
【0014】
同じく、VOC水分2成分系に関して言えば、疎水性吸着剤を使用すれば、VOCは水分に比べて疎水性吸着剤に吸着し易いことから、揮発性易吸着成分になり、水分はVOCに比べて疎水性吸着剤に吸着し難いことから、難吸着成分になる。
【0015】
このような親水性吸着剤の例として、SiO/Al比が5以下の、K−A型ゼオライト、Na−A型ゼオライト、Ca−A型ゼオライト、Na−K−A型ゼオライト、Na−Zn−A型ゼオライト、K−Zn−A型ゼオライトおよび同左シリカコート剤およびシリカゲルがある。本発明においては、上述した親水性吸着剤を一種以上用いてよい。
【0016】
A型ゼオライトのシリカコートとしては、下記の調製法を採用した。すなはち、A型ゼオライトを無水メタノールに加えて、15質量%のスラリーを調製し、これにテトラエチルオルソシリケート(TEOS)を1質量%加え、これに攪拌しながら脱イオン水を微量滴下して、30分で5質量%のスラリーになるように加えると、TEOSは加水分解してA型ゼオライトの表面にケイ酸が析出する。このゼオライトをろ過、水洗した後、昇温速度50℃/時間、焼成保持時間1時間で380〜720℃で熱処理をすると、吸着剤結晶の上に0.1μm程度のシリカのネットワークが生成し、A型ゼオライトコート品を得ることができる。
【0017】
また、本発明の方法は、高濃度VOCからの水分の親水性吸着剤による除去に限らず、水溶液中から水溶性揮発性有機物質(C1〜C4VOC、DMF、酢酸エチル等)を除去するのにも用いることができる。この場合には、水を難吸着成分として、水溶性揮発性有機物質を揮発性易吸着成分として、疎水性吸着剤を用いて水溶性揮発性有機物質を吸着剤に吸着させて水と分離するのが有利である。
【0018】
このような疎水性吸着剤の例として、シリカライト、ベータ、モルデナイト、Y型ゼオライト、メソポーラスシリカMCM−41を挙げることができる。
【0019】
本発明において用いる親水性吸着剤及び疎水性吸着剤は、市販されているものを用いてよい。
【0020】
本発明に従えば、揮発性易吸着成分及び難吸着成分を含有する溶液を吸着剤と接触させて該吸着剤に易吸着成分を吸着させて難吸着成分を流出させる。吸着剤を充填した充填塔出口から揮発性易吸着成分がブレークスルー直前に吸着工程を終了する。揮発性易吸着成分のブレークスルーは、充填塔出口の易吸着成分を検出器によってモニターすることによって知ることができる。
【0021】
吸着工程を終了した後に、溶液の接触を停止し、該易吸着成分を吸着した吸着剤から該易吸着成分を離脱させる脱着工程を実施する。
【0022】
脱着工程は、先ず初めに、吸着剤を充填した充填塔に、不活性ガス、例えば窒素ガスを、原料溶液の供給方向と並流方向又は向流方向に通して充填塔内に残留する難吸着成分を充填塔から排出させて、排出した難吸着成分を原料溶液の供給ラインに還流する。充填塔の不活性ガスによる置換が終了したら、充填塔への不活性ガスの供給を停止し、循環ブロワーを用いて、吸着工程と同一温度またはより高温で吸着塔後方から、吸着工程と反対方向にパージガスを流過して該易吸着成分を吸着剤から離脱させる。吸着工程における当該吸着剤の液相吸着量は、温度が上昇しても大きく減少しないが、離脱においては温度が高いほど吸着剤表面蒸気圧は大きく、また気相吸着量は大きく減少することから、吸着工程の温度はVOCが変質しない範囲でより高温で、パージガスも吸着工程と同一又はより高温で実施するほうが、該易吸着成分の吸着剤からの離脱速度が速く、かつ離脱度も高くなることから望ましい。吸着温度は、水分の場合、50ないし150℃で実施するのが普通である。これは、脱着工程の温度も50ないし150℃で実施することを意味する。
【0023】
また、脱着工程では、不活性ガスの流量が大きい程、該易吸着成分の吸着剤からの離脱速度が速く、かつ離脱度も高くなることから望ましい。不活性ガスの流量は、水分含有濃度5w%のVOC100kg/hあたり 3〜80 mN/hであるのが普通である。
【0024】
本発明において、好適な実施態様として、不活性ガスをパージガスとして充填塔に供給して該易吸着成分を吸着剤から離脱させる場合に、PSA−ドライヤーを用いて、充填塔から流出する易吸着成分を高い濃度でかつ難吸着成分を低い濃度で含有する不活性ガスをPSA−ドライヤーに通して易吸着成分及び難吸着成分の一部をPSA−ドライヤー中の吸着剤に吸着させてPSA−ドライヤーから超乾燥不活性ガスを得て、これを循環させて用いることもできる。
【0025】
PSA−ドライヤーに充填する吸着剤としては、ハニカム成型したシリカゲルを挙げることができる。
【0026】
以下に、高濃度VOCから水分を親水性吸着剤を用いて除去する実施態様について説明することにする。かかる実施態様は、例えば蒸留法に単独の最高濃度であるVOC水共沸濃度を越える高純度のVOCを調製する場合に適用できる。
【0027】
かかる実施態様を図面を参照しながら説明する。
本発明の第一の実施態様を図1に、シーケンスを表1に、操作条件を表2に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
〔A塔−吸着工程、B塔−液気置換工程〕
図1において、温度60℃、水分6質量%を含有するエチルアルコール100kg/hを流路1から液体輸送ポンプ2、バルブ3aを通じて親水性吸着剤充填塔4aに供給する。充填塔4aは直径60cm、高さ120cmの大きさでありここに200リットルの親水性吸着剤ハニカム5が充填されている(空塔速度は0.1〜1cm/sec、SV値は5〜20 1/hである)。充填塔4a後方から水分が流過する直前に含水VOCの供給を停止する。充填塔4bは塔後方まで水分吸着帯が移動した状態であり、流路17から供給される50mN/hの乾燥窒素を減圧弁18、バルブ8bを通じて供給された窒素ガスによりVOCと置換される。VOCは10bを通じて原料供給ラインに還流する。
【0031】
〔A塔−吸着工程、B塔−パージ工程開始〕
充填塔4bの窒素置換が終了すると、バルブ9b、不活性ガス循環ブロワー11を通じてパージガスが温度60℃で吸着塔後方から前方に向流に流過して、吸着水分の離脱が開始される。
【0032】
〔A塔−吸着工程、B塔−向流パージ工程〕
充填塔4bのパージ工程が開始すると、手動弁18、バルブ8bを開いて乾燥窒素を塔後方から向流にパージして水分を置換脱着して、水分吸着帯を塔前方に移動させる。
【0033】
〔A塔−吸着工程、B塔−液気置換工程〕
充填塔4bの減圧交流パージ工程が終了すると水分除去が完了するので、バルブ6bを開いて流路7から製品の低水分含有エチルアルコールを充填塔4bに導いて塔内を製品エチルアルコールで充満させ吸着工程への移行を円滑に進める。
【0034】
以上がA塔−吸着工程、B塔−液気置換、向流パージ、液気置換工程から構成されるエチルアルコールの脱水であり、この工程が終了すると同一の操作をB塔−吸着工程、A塔−液気置換、減圧工程、減圧向流パージ工程で塔を切り替えて実施する。
【0035】
〔PSA−ドライヤー〕
ここで真空ポンプ11から抽気された高濃度水分と低濃度エチルアルコールを含有する窒素ガスはブロワー12、バルブ13aを通じて親水性吸着剤充填塔14aに供給する。充填塔14aは直径10cm、高さ80cmの大きさでありここに5リットルの親水性吸着剤ハニカム15が充填されている。(空塔速度は0.4m/sec、吸着負荷(1m3の吸着剤によるD.P.−40℃の乾燥窒素の製造量)は650mN/h/mで有る。)水分及びVOCの一部を吸着された窒素はバルブ16a、流路17からD.P−40℃程度の超乾燥窒素として流過する。水分吸着帯が塔14a後方から流過する直前に吸着を停止して、再生工程に移る。充填塔14bは水分吸着帯が塔後方に到達した状態にあり、バルブ21aを開いて真空ポンプ22により塔14bを5kPa程度に減圧する。塔14bの圧力が5kPaに達すると、減圧弁19,バルブ20aを開いて流路17から乾燥窒素を向流パージガスとして減圧条件下供給すると、塔内の水蒸気分圧が急速に減少するため吸着剤15からの水分脱着が進行し吸着剤は再生される。真空ポンプ22から抽気された高濃度水分と低濃度VOCを含有する窒素は凝縮器23に於いて冷却器24で5℃程度に冷却されて水分の90%以上が凝縮する。凝縮水には20質量%程度のVOCを含有しているため原料製造ラインに還流する。(通常はVOC/水分粗分離用蒸留塔に戻すが、本発明に直接関係しないので省略した。)不凝結ガスは流路25からヒーター27で吸着工程温度60℃以上に昇温されて減圧弁18に還流されて窒素、VOCとも回収される。
従って本発明では窒素、VOCとも高度に回収されるため本発明のエチルアルコールの水分除去工程での窒素、VOCの損失は殆ど無い。
【実施例】
【0036】
実施例1
ここで発明者は本発明の有効性を確認するため充填塔4aの親水性吸着剤ハニカム5として、K−A、Na−A、Ca−A、Na−K−A、Na−Zn−A、K−Zn−A、Na−K−A、シリカゲル、Na−Xの比較評価を行った。結果を表3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
いずれもエチルアルコール水の共沸組成COH 95質量%、HO 5質量%を越えており本発明の有効性が示される。特にK−A、Na−A、Ca−A、Na−K−A、Na−Zn−A、K−Zn−A、Na−K−Aコート品は、エチルアルコールに対し分子篩効果を示すA型ゼオライトである高い水分吸着性能を示した。最も高い水分除去性能を示したのはNa−K−Aであった。これは比較的大きな水分吸着速度とエチルアルコールに対する分子篩効果を有する程度の窓径(結晶のガスの通り道)で有るためと思われる。Na−K−Aコート品も高い水分吸着性能を示すが、シリカコートにより耐酸性が向上しており、有機酸等が共存する原料でも劣化が少ない。
【0039】
次に吸着剤として最も性能の高いNa−K−Aをハニカムとして、サイクルタイム60分における原料供給量とエチルアルコール中水分濃度の関係を調べた。結果を表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
原料流量の増大に伴いエチルアルコール中の水分濃度は増大するが150kg/hにおいても1質量%程度を維持している。又流量を80kg/h程度に減少すると水分濃度は0.01質量%まで低減できる。
【0042】
次に吸着剤として最も性能の高いNa−K−Aをハニカムとして、サイクルタイムとVOC中水分濃度の関係を調べた。結果を表5に示す。
【0043】
【表5】

【0044】
サイクルタイムの増大に伴いエチルアルコール中の水分濃度は増大するが120分においても1.2質量%程度を維持している。又サイクルタイムを15分程度に減少すると水分濃度は0.03質量%まで低減できる。従ってサイクルタイムの短縮で吸着剤の使用量を削減できることが判る。
【0045】
次に吸着剤として最も性能の高いNa−K−Aをハニカムとして、窒素パージガス量とVOC中水分濃度の関係を調べた。結果を表6に示す。
【0046】
【表6】

【0047】
窒素パージ量の増大に伴いエチルVOC中の水分濃度は低下し84m3N/hでは0.01質量%に達する。又パージガス量を29m3N/hに減少すると水分濃度は0.2質量%まで上昇する。従って窒素パージ量の増大で水分濃度の大幅な減少を計ることが出来る。
【0048】
実施例2
実施例1においては脱着工程で流過した水分を含有したパージ用窒素ガスをPSA−ドライヤーに通して、露点−40℃以下に除湿して循環したが、低度の水分除去であれば、チラーユニットによる除湿後循環使用することも可能である。図2において流路17に凝縮器23、冷却器24を設置してパージガスを5℃程度に冷却して除湿し、その後ヒータ27にてパージガスを60℃以上に昇温して、手動弁18、バルブ8bを開いて乾燥窒素を塔後方から還流することもできる。
【0049】
本発明の有効性を確認するためパージ用窒素ガス中の水分濃度と、エチルアルコール中水分濃度の関係を示す。
【0050】
【表7】

【0051】
窒素パージガス中の水分濃度量の増大に伴いエチルアルコール中水分濃度は上昇し、1vol%では1.2質量%に上昇する。しかし簡易な低温凝縮器の付設のみでも0.15質量%低度の脱湿は可能である。
【0052】
実施例3
実施例1及び2においては、本発明を使用したエチルアルコール中水分除去の有効性を示したが、水溶液中の低濃度揮発性有機物の除去への適用も可能である。ディメチルフォルムアミド(以下DMF)15質量%を含有する水溶液からの疎水性吸着剤を用いた除去を行った。使用する装置は実施例1と同様のもののため図1を使用して説明する。
【0053】
〔A塔−吸着工程、B塔−液気置換工程〕
図1において、温度95℃、DMF15質量%を含有する水分100kg/hを流路1から液体輸送ポンプ2、バルブ3aを通じて疎水性吸着剤充填塔4aに供給する。充填塔4aは直径60cm、高さ30cmの大きさでありここに50リットルの疎水性吸着剤ハニカム5が充填されている。(空塔速度は0.1〜1cm/sec、SV値は5〜20 1/hで有る。)充填塔4a後方からの低DMF濃度の溶液が流過する。充填塔4a後方からDMFが流過する直前にDMF含有水の供給を停止する。充填塔4bは塔後方までDMF吸着帯が移動した状態であり、流路17から供給される5mN/hの乾燥窒素を手動弁18、バルブ8bを通じて供給された窒素ガスによりDMF含有水と置換される。DMF含有水は10bを通じて原料供給ラインに還流する。
【0054】
〔A塔−吸着工程、B塔−向流パージ工程開始〕
充填塔4bの窒素置換が終了すると、バルブ9b、循環ポンプ11を通じて窒素パージガスが吸着工程と同一又はそれ以上の温度で向流に流過して、吸着されたDMFの脱着が開始される。
【0055】
〔A塔−吸着工程、B塔−向流パージ工程〕
充填塔4bの向流パージが開始すると、手動弁18、バルブ8bを開いて乾燥窒素を塔後方から向流にパージしてDMFを減圧脱着して、DMF吸着帯を塔前方に移動させる。
〔A塔−吸着工程、B塔−気液置換工程〕
充填塔4bの向流パージ工程が終了するとDMF除去が完了するので、バルブ6bを開いて流路7からDMF除去水を充填塔4bに導いて塔内をDMF除去水で充満させ吸着工程への移行を円滑に進める。
【0056】
以上がA塔−吸着工程、B塔−液気置換、向流パージ、気液置換工程から構成されるDMF含有水からのDMF回収であり、この工程が終了すると同一の操作をB塔−吸着工程、A塔−液気置換、向流パージ、気液工程で塔を切り替えて実施する。
【0057】
〔PSA−DMF除去〕
ここで真空ポンプ11から抽気された高濃度DMFと低濃度水分を含有する窒素ガスはブロワー13、バルブ13aを通じて疎水性吸着剤充填塔14aに供給する。充填塔14aは直径10cm、高さ40cmの大きさでありここに2.5リットルの疎水性吸着剤ハニカム15が充填されている。(空塔速度は0.4m/sec、吸着負荷(1mの吸着剤によるDMF10ppm(v/v)の窒素の製造量)は1300mN/h/mで有る。)DMF及び水分の一部を吸着された窒素はバルブ16a、流路17からDMF濃度10ppm、露点−15℃程度の乾燥窒素として流過する。DMF吸着帯が塔14a後方から流過する直前に吸着を停止して、再生工程に移る。充填塔14bはDMF吸着帯が塔後方に到達した状態にあり、バルブ21bを開いて真空ポンプ22により塔14bを5kPa程度に減圧する。塔14bの圧力が5kPaに達すると、減圧弁19、バルブ20aを開いて流路7から乾燥窒素を向流パージガスとして減圧条件下供給すると、塔内のDMF分圧が急速に減少するため吸着剤15からのDMF脱着が進行し吸着剤は再生される。真空ポンプ22から抽気された高濃度DMFと低濃度水分を含有する窒素は凝縮器23に於いて冷却器24で5℃程度に冷却されてDMFの90%以上が凝縮する。凝縮水は20質量%程度のDMFを含有しているため回収再使用する。(通常はDMF/水分粗分離用蒸留塔に戻すが、本発明に直接関係しないので省略した。)不凝結ガスは流路25からブロワー12入口に還流されて窒素、DMFとも回収される。
従って本発明では窒素、DMFとも高度に回収されるため本発明のDMF除去工程での窒素、DMFの損失は殆ど無い。
【0058】
ここで発明者は本発明の有効性を確認するため充填塔4aの疎水性吸着剤ハニカム5として、シリカライト(SiO2/Al2O3比100)、ベータ(SiO2/Al2O3比70)、モルデナイト(SiO2/Al2O3比70)、Y型ゼオライト(SiO2/Al2O3比70)、MCM−41(SiO2/Al2O3比∞)、参照の親水性吸着剤ハニカムとしてシリカゲル、Na−X(SiO2/Al2O3比2.5)の比較評価を行った。結果を表8に示す。
【0059】
【表8】

【0060】
以上本発明では、有機物質中の水分除去においては液相において親水性吸着剤を使用して水分を除去し、吸着した水分を減圧又は昇温により気相処理で除去して再生し、水分中の有機物質除去においては、液相に於いて疎水性吸着剤を使用して有機物質を除去し、吸着した有機物質を減圧又は昇温により気相処理で除去して再生することによる分離法であり、2塔以上の操作により連続的な分離が可能である。従来の蒸留法、全量蒸発による圧力スイング法、膜法に比べて高効率、省エネルギーの分離が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の液相吸着気相脱着法は、高濃度成分の相変化を伴わずに液相着目成分を分離、除去又は回収ができるので、省エネルギー型、簡易、操作が容易、コンパクトな方法、操作を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の第一の実施態様を示す。
【図2】本発明の第二の実施態様を示す。
【符号の説明】
【0063】
1、7、17、25 流路
2 液体輸送ポンプ
3a、3b、4a、4b、6a、6b、8a、8b、9a、9b、10a,10b、13a、13b、16a、16b、20a、20b、21a、21b バルブ
4a、4b、14a、14b 吸着剤充填塔
5、15 吸着剤ハニカム
18 減圧弁
11 不活性ガス循環ブロワー
18 手動弁
12 ブロワー
22 真空ポンプ
19 減圧弁
23 凝縮器
24 冷却器
27 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性易吸着成分及び難吸着成分を含有する溶液を易吸着成分吸着剤と接触させて該吸着剤に易吸着成分を吸着させて難吸着成分を流出させる吸着工程を終了した後に、溶液の接触を停止し、該易吸着成分を吸着した吸着剤に不活性ガスを向流にパージして該易吸着成分を吸着剤から離脱させる脱着工程を実施する、揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
【請求項2】
請求項1において、脱着したパージ不活性ガスを冷却して揮発性易吸着成分を液化回収し、残留する不活性ガスをパージガスとして還流再使用することを特長とする揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
【請求項3】
請求項1,2において揮発性易吸着成分として揮発性有機物、難吸着成分として水分を用い、易吸着成分吸着剤としてSiO/Al比が5以上の高シリカ吸着剤を用いる揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
【請求項4】
請求項3の高シリカゼオライトとして、シリカライト、ベータ、モルデナイト、Y型ゼオライト、メソポーラスシリカMCM−41を用いる揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
【請求項5】
請求項1,2において揮発性易吸着成分として水分、難吸着成分として揮発性有機物を用い、易吸着成分吸着剤としてSiO/Al比が5以下の低シリカ吸着剤およびシリカゲルを用いる揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
【請求項6】
請求項5の低シリカゼオライトとして、K−A型ゼオライト、Na−A型ゼオライト、Ca−A型ゼオライト、Na−K−A型ゼオライト、Na−Zn−A型ゼオライト、K−Zn−A型ゼオライトおよび同左シリカコート剤を用いる揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
【請求項7】
吸着工程を終了した後に、溶液の接触を停止し、吸着剤を充填した充填塔に残留する保有液を、パージガスで置換して、原料に循環させる請求項1から6記載の揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
【請求項8】
脱着工程を終了した後に、パージガスの接触を停止し、吸着剤を充填した充填塔に残留するパージガスを、難吸着成分で置換して、吸着工程を開始する請求項1から7記載の揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
【請求項9】
請求項1から8において、吸着工程の温度を臨界温度、圧力以下の高温で揮発性易吸着成分で吸着し、吸着工程と同一又はより高温の不活性ガスを向流にパージして脱着することを特長とする揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離方法。
【請求項10】
請求項1から9を具体化した、揮発性易吸着成分及び難吸着成分の分離装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−104904(P2010−104904A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279025(P2008−279025)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(506233117)吸着技術工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】