説明

揮発性有機化合物吸着剤の製造方法

【課題】優れたガス吸着能を有し、且つ一度吸着したVOCを加熱することなく脱着可能な揮発性有機化合物吸着剤の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】揮発性有機化合物吸着剤を、ケイ酸イオンを含む溶液及びアルミニウムイオンを含む溶液を混合して反応生成物を得る工程と、前記反応生成物を、脱塩及び固体分離する工程と、前記固体分離されたものを水性媒体中、酸の存在下、ケイ素原子濃度が100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上となる濃度条件で加熱処理する工程と、前記加熱処理して得られたものを、脱塩及び固体分離する工程とを有する製造方法で製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物吸着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、企業の環境負荷低減に対する意識が高まる中で、大気汚染防止法の改正に伴い、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)の排出規制が開始されたため、VOC排出の対策技術に注目が集まっている。例えば、VOC用吸着剤については、従来から活性炭、ゼオライト等が用いられている。活性炭は、大小様々な孔を有するため、VOCのサイズに関係なく、ほぼ全てのVOCを吸着できる(例えば、特許文献1参照)。また、ゼオライトは、耐熱温度が高く、一度吸着したVOCを、熱又は圧力により脱着及び回収して繰り返し使用することができる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−43846号公報
【特許文献2】特許第3818508号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されるものは、材料の主構成元素が炭素であるため、吸着熱の蓄積により酸化して発熱する恐れがあり、このための安全対策に多くのコストが割かれることになる。
【0005】
一方、特許文献2に記載されるものは、一般的な材料の構造が、二酸化ケイ素骨格の一部をアルミニウムに置き換えたものであるため、特許文献1のような安全対策は必要としないが、一度吸着したVOCを脱着及び回収して繰り返し使用する場合に、300℃以上という高温処理又は真空近くまでの減圧処理が必要となり、再生に多くのエネルギーが必要となる問題がある。
【0006】
本発明は、優れたガス吸着能を有し、且つ一度吸着したVOCを加熱することなく脱着可能な揮発性有機化合物吸着剤の効率的な製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の製造方法により、揮発性有機化合物に対する吸着能の高いアルミニウムケイ酸塩を優れた生産性で得ることができるという知見を得た。
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0008】
<1> (a)ケイ酸イオンを含む溶液(以下、「ケイ酸溶液」ともいう)及びアルミニウムイオンを含む溶液(以下、「アルミニウム溶液」ともいう)を混合して反応生成物を得る工程と、(b)前記反応生成物を、脱塩及び固体分離する工程と、(c)前記工程(b)で固体分離されたものを水性媒体中、酸の存在下、ケイ素原子濃度が100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上となる濃度条件で加熱処理する工程と、(d)前記工程(c)で加熱処理して得られたものを、脱塩及び固体分離する工程と、を有する揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【0009】
<2> 前記(b)工程で固体分離されたものは、重量濃度が60g/kgとなるように水に分散させた場合の電気伝導率が4.0S/m以下である、前記<1>に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【0010】
<3> 前記(c)工程は、pHを3以上7未満に調整し、温度80℃〜160℃で、96時間以内の間、加熱処理する工程である、前記<1>又は<2>に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【0011】
<4> 前記(a)工程は、前記ケイ酸イオンを含む溶液のケイ素原子濃度が100mmol/L以上であり、前記アルミニウムイオンを含む溶液のアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上であり、アルミニウム原子に対するケイ素原子の比Si/Alがモル比(以下、「Si/Alモル比」ともいう)で0.3〜1.0となるように、前記ケイ酸イオンを含む溶液及びアルミニウムイオンを含む溶液を混合する工程である、前記<1>〜<3>のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【0012】
<5> 前記(b)工程は、前記反応生成物を水性媒体に分散して分散物を得る工程と、前記分散物のpHを5〜7に調整して反応生成物を析出させる工程と、を含む、前記<1>〜<4>のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【0013】
<6> 前記揮発性有機化合物吸着剤は、BET比表面積が250m/g以上であり、全細孔容積が0.1cm/g以上であり、平均細孔直径が1.5nm以上であり、CuKα線による粉末X線回折スペクトルが2θ=26.9°近辺及び40.3°近辺にピークを有するものである、前記<1>〜<5>のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【0014】
<7> 前記<1>〜<6>のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法により製造される、揮発性有機化合物吸着剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、優れたガス吸着能を有し、且つ一度吸着したVOCを加熱することなく脱着可能な揮発性有機化合物吸着剤の効率的な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られた試料Aのメタノール吸脱着等温線の一例を示す図である。
【図2】参考例で得られた試料Bのメタノール吸脱着等温線の一例を示す図である。
【図3】比較例1で得られた試料Cのメタノール吸脱着等温線の一例を示す図である。
【図4】参考例で得られた試料Bの吸着等温線の一例を示す図である。
【図5】比較例1で得られた試料Cの吸着等温線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
さらに本明細書において固体分離されたものの重量濃度は、固体分離されたものを110℃で24時間乾燥して得られる固体の質量を基準とする。
【0018】
<揮発性有機化合物吸着剤の製造方法>
本発明の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法は、(a)ケイ酸イオンを含む溶液及びアルミニウムイオンを含む溶液を混合して反応生成物を得る工程と、(b)前記反応生成物を、脱塩及び固体分離する工程と、(c)前記工程(b)で固体分離されたものを水性媒体中、酸の存在下、ケイ素原子濃度が100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上となる濃度条件で加熱処理する工程と、(d)前記工程(c)で加熱処理して得られたものを、脱塩及び固体分離する工程と、を有し、必要に応じてその他の工程を有して構成される。
【0019】
酸の存在下で加熱処理を、従来よりも遥かに高濃度の条件で実施することにより、揮発性有機化合物(VOC)に対する優れた吸着能を有し、脱着温度が150℃以下という、低エネルギーで再生可能な揮発性有機化合物吸着剤(以下、「VOC吸着剤」ともいう)を優れた生産性で製造することができる。
本発明の製造方法で製造されたVOC吸着剤は優れたVOC吸脱着能を有する。これは例えば以下のように考えることができる。一般に、アルミニウムケイ酸塩の酸の存在下での加熱処理を希薄溶液で実施すると、規則的な構造が連続している管状のアルミニウムケイ酸塩が形成される。しかし、本発明の製造方法のような高濃度条件下では、規則的な部分構造に加えて粘土構造及び非晶質構造を有するアルミニウムケイ酸塩が形成されると考えられる。VOC吸着剤を構成するアルミニウムケイ酸塩がこのような多様な構造を有することで、優れたVOC吸脱着能を発揮することができると考えられる。
【0020】
(a)反応生成物を得る工程
反応生成物を得る工程では、ケイ酸イオンを含む溶液と、アルミニウムイオンを含む溶液とを混合して反応生成物であるアルミニウムケイ酸塩及び共存イオンを含む混合溶液を得る。
【0021】
(ケイ酸イオン及びアルミニウムイオン)
アルミニウムケイ酸塩を合成する際、原料には、ケイ酸イオン及びアルミニウムイオンが必要となる。ケイ酸イオンを含む溶液を構成するケイ酸源としては、溶媒和した際にケイ酸イオンが生じるものであれば特に制限されない。例えば、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、アルミニウムイオンを含む溶液を構成するアルミニウム源は、溶媒和した際にアルミニウムイオンが生じるものであれば特に制限されない。例えば、塩化アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミニウムsec−ブトキシド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
溶媒としては、原料であるケイ酸源及びアルミニウム源と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができる。具体的には、水、エタノール等を使用することができる。加熱処理時における溶液中の共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0023】
(混合比と溶液の濃度)
これらの原料をそれぞれ溶媒に溶解させて原料溶液(ケイ酸溶液及びアルミニウム溶液)を調製した後、原料溶液を互いに混合して混合溶液を得る。混合溶液中のSi/Alモル比は、任意の値となるように調整し得る。中でもVOC吸脱着能の観点から、Si/Alモル比で0.3〜1.0であることが好ましく、0.4〜0.6であることがより好ましく、0.45〜0.55であることが更に好ましい。
Si/Alモル比を0.4〜1.0とすることで、所望の構造を有するアルミニウムケイ酸塩が合成され易くなる。
また、原料溶液の混合の際には、アルミニウム溶液に対してケイ酸溶液を徐々に加えることが好ましい。このようにすることで、所望のアルミニウムケイ酸塩の形成阻害要因となりうる、ケイ酸の重合を抑えることができる。
【0024】
ケイ酸溶液のケイ素原子濃度は、特に制限されるものではないが、100mmol/L〜1000mmol/Lであることが好ましい。
ケイ酸溶液のケイ素原子濃度が100mmol/L以上であると、生産性が向上し、効率よくアルミニウムケイ酸塩を製造することができる。またケイ素原子濃度が1000mmol/L以下であると、ケイ素原子濃度に応じて生産性がより向上する。
【0025】
アルミニウム溶液のアルミニウム原子濃度は、特に制限されるものではないが、100mmol/L〜1000mmol/Lであることが好ましい。
アルミニウム溶液のアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上であると、生産性が向上し、効率よくアルミニウムケイ酸塩を製造することができる。またアルミニウム原子濃度が1000mmol/L以下であると、アルミニウム原子濃度に応じて生産性がより向上する。
【0026】
(b)第一洗浄工程(脱塩及び固体分離)
ケイ酸イオンを含む溶液とアルミニウムイオンを含む溶液とを混合して反応生成物である共存イオンを含むアルミニウムケイ酸塩を生成させた後、生成した共存イオンを含むアルミニウムケイ酸塩を脱塩及び固体分離する第一洗浄工程を行う。第一洗浄工程では、混合溶液中から共存イオンの少なくとも一部を除去して混合溶液中の共存イオン濃度を低下させる。第一洗浄工程を行うことで、合成工程において所望のアルミニウムケイ酸塩を形成し易くなる。
【0027】
第一洗浄工程で、脱塩及び固体分離する方法は、ケイ酸源及びアルミニウム源に由来するケイ酸イオン以外のアニオン(例えば塩化物イオン、硝酸イオン)及びアルミニウムイオン以外のカチオン(例えばナトリウムイオン)の少なくとも一部を除去(脱塩)して固体分離できればよく、特に制限されるものではない。第一洗浄工程としては例えば、遠心分離を用いる方法、透析膜を用いる方法、イオン交換樹脂を用いる方法等が挙げられる。
【0028】
第一洗浄工程は、共存イオンの濃度が所定の濃度以下になるように行うことが好ましい。具体的には例えば第一洗浄工程で得られる固体分離されたものを、重量濃度が60g/kgとなるように純水に分散させた場合に、その分散液の電気伝導率が4.0S/m以下となるように行なうことが好ましく、1.0mS/m以上3.0S/m以下となるように行なうことがより好ましく、1.0mS/m以上2.0S/m以下となるように行なうことが更に好ましい。
分散液の電気伝導率が4.0S/m以下であると、合成工程において所望のアルミニウムケイ酸塩がより形成しやすくなる傾向がある。
尚、電気伝導率は、HORIBA社製:F−55及び同社の一般的な電気伝導率セル:9382−10Dを用いて、常温(25℃)で測定される。
【0029】
第一洗浄工程は、前記反応生成物を水性媒体に分散して分散物を得る工程と、前記分散物のpHを5〜7に調整して反応生成物を析出させる工程とを含むことが好ましい。
例えば第一洗浄工程を、遠心分離を用いて行なう場合、以下のようにして行うことができる。混合溶液にアルカリ等を加えてpHを5〜7に調整する。pHを調整した溶液を遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として固体分離する。固体分離されたものを溶媒に再分散させる。その際、遠心分離前の容積に戻すことが好ましい。再分散させた分散液を同様にして遠心分離して脱塩及び固体分離する操作を繰り返すことで、共存イオンの濃度を所定の濃度以下にすることができる。
第一洗浄工程においてはpHを例えば5〜7に調整するが、5.5〜6.8であることが好ましく、5.8〜6.5であることがより好ましい。
pH調整に用いるアルカリは特に制限されない。例えば水酸化ナトリウム、アンモニア等が好ましい。
また遠心分離の条件は製造規模や使用する容器等に応じて適宜選択される。例えば、室温下、1200G以上で1〜30分間とすることができる。具体的には例えば、遠心分離装置としてTOMY社製:Suprema23、及び同社のスタンダードロータNA−16を用いる場合、室温下、3000rpm(1450G)以上で5〜10分間とすることができる。
【0030】
第一洗浄工程における溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができる。尚、繰り返し複数回の洗浄を行う際は、pH調整を省略することが好ましい。
【0031】
第一洗浄工程における脱塩及び固体分離の処理回数は、共存イオンの残存量に応じて適宜設定すればよい。例えば1〜6回とすることができる。3回程度の洗浄を繰り返すと、共存イオンの残存量が所望のアルミニウムケイ酸塩の合成に影響しない程度に少なくなる。
【0032】
pH調整する際のpH測定は、一般的なガラス電極を用いたpHメータによって測定できる。具体的には、例えば、株式会社堀場製作所製の商品名:MODEL(F−51)を使用することができる。
【0033】
(c)合成工程
合成工程では、第一洗浄工程で固体分離されたものを水性媒体中、酸の存在下、ケイ素原子濃度が100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上となる濃度条件で加熱処理を行う。
従来の製造方法においては、加熱処理を希薄溶液で行うことでアルミニウムケイ酸塩を管状に成長させる。このような従来の製造方法では、希薄溶液で加熱処理を行うため生産性の向上に限界がある。しかしながら、本発明の製造方法のようにケイ素原子及びアルミニウム原子の濃度を特定の濃度以上の条件下で加熱処理を行うことで、VOC吸脱着能に優れ、管状とは異なる構造を有するアルミニムケイ酸塩を、生産性よく製造することができる。
【0034】
第一洗浄工程後、固体分離されたものに含まれるケイ酸成分中のケイ素原子及びアルミニウム成分中のアルミニウム原子がそれぞれ所定の濃度となるように調整する。
本発明においてはケイ素原子濃度が100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上である。好ましくはケイ素原子濃度が120mmol/L以上2000mmol/L以下且つアルミニウム原子濃度が120mmol/L以上2000mmol/L以下であり、より好ましくはケイ素原子濃度が150mmol/L以上1500mmol/L以下且つアルミニウム原子濃度が150mmol/L以上1500mmol/L以下である。
ケイ素原子濃度が100mmol/L未満又はアルミニウム原子濃度が100mmol/L未満の場合には、所望のアルミニウムケイ酸塩が得られにくくなる場合がある。またアルミニウムケイ酸塩の生産性が低下する傾向にある
【0035】
尚、上記ケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度は、後述する酸性化合物を加えてpHを所定の範囲に調整した後のケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度である。
また、ケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度は、ICP発光分光装置(例えば、日立製作所社製ICP発光分光装置:P−4010)を用いて、常法により測定される。
【0036】
ケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度が所定の濃度となるように調整する際には、溶媒を加えてもよい。溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、加熱処理時における溶液中の共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0037】
合成工程においては、加熱処理の前に酸性化合物の少なくとも1種を加える。酸性化合物を加えた後のpHは特に制限されない。所望のアルミニウムケイ酸塩を効率よく得る観点から、pH3以上7未満であることが好ましく、pH3以上5以下であることがより好ましい。
【0038】
合成工程において加える酸性化合物は特に制限されるものではなく、有機酸であっても無機酸であってもよい。中でも無機酸を用いることが好ましい。無機酸として具体的には、塩酸、過塩素酸及び硝酸等を挙げることができる。加熱処理時における溶液中の共存イオン種の低減を考慮すれば、使用したアルミニウム源に含まれるアニオンと同様のアニオンを生成する酸性化合物を用いることが好ましい。
【0039】
酸性化合物を加えた後、加熱処理を行うことで、所望の構造を有するアルミニウムケイ酸塩を得ることができる。
加熱温度は特に制限されない。所望のアルミニウムケイ酸塩を効率よく得る観点から、80℃〜160℃であることが好ましい。
加熱温度が160℃以下であると、ベーマイト(水酸化アルミニウム)が析出することを抑制することができる傾向がある。また加熱温度が80℃以上であると、所望のアルミニウムケイ酸塩の合成速度が向上し、より効率よく所望のアルミニウムケイ酸塩を製造できる傾向がある。
【0040】
加熱時間は特に制限されるものではない。所望の構造を有するアルミニウムケイ酸塩をより効率的に得る観点から、96時間(4日)以内であることが好ましい。
加熱時間が96時間以下であると、より効率的に所望のアルミニウムケイ酸塩を製造することができる。
【0041】
(d)第二洗浄工程(脱塩及び固体分離)
合成工程において加熱処理して得られたものは、第二洗浄工程において脱塩及び固体分離される。これにより優れたVOC吸着能を有する揮発性有機化合物吸着剤を得ることができる。これは例えば以下のように考えることができる。すなわち合成工程において加熱処理して得られたものは、アルミニウムケイ酸塩の吸着サイトが共存イオンで塞がれている場合があり、期待する程のVOC吸着能は得られない場合がある。そのため、合成工程で得られたアルミニウムケイ酸塩から共存イオンの少なくとも一部を除去する第二洗浄工程によって、脱塩及び固体分離することで優れたVOC吸着能を有する揮発性有機化合物吸着剤を得ることができると考えることができる。
【0042】
第二洗浄工程は、ケイ酸イオン以外のアニオン及びアルミニウムイオン以外のカチオンの少なくとも一部を除去できればよく、合成工程前の第一洗浄工程と同様の操作であっても、異なる操作であってもよい。
第二洗浄工程は、共存イオンの濃度が所定の濃度以下になるように行うことが好ましい。具体的には例えば第二洗浄工程で得られる固体分離されたものを、重量濃度が60g/kgとなるように純水に分散させた場合に、その分散液の電気伝導率が4.0S/m以下となるように行なうことが好ましく、1.0mS/m以上3.0S/m以下となるように行なうことがより好ましく、1.0mS/m以上2.0S/m以下となるように行なうことが更に好ましい。
分散液の電気伝導率が4.0S/m以下であると、より優れたVOC吸着能を有する揮発性有機化合物吸着剤を得られやすくなる傾向がある。
【0043】
第二洗浄工程を、遠心分離を用いて行なう場合、例えば以下のようにして行うことができる。混合溶液にアルカリ等を加えてpHを5〜10に調整する。pHを調整した溶液を遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として固体分離する。固体分離されたものを溶媒に再分散させる。その際、遠心分離前の容積に戻すことが好ましい。再分散させた分散液を同様にして遠心分離して脱塩及び固体分離する操作を繰り返すことで、共存イオンの濃度を所定の濃度以下にすることができる。
第二洗浄工程においてはpHを例えば5〜10に調整するが、8〜10であることが好ましい。
pH調整に用いるアルカリは特に制限されない。例えば水酸化ナトリウム、アンモニア等が好ましい。
また遠心分離の条件は製造規模や使用する容器等に応じて適宜選択される。例えば、室温下、1200G以上で1〜30分間とすることができる。具体的には例えば、遠心分離装置としてTOMY社製:Suprema23、及び同社のスタンダードロータNA−16を用いる場合、室温下、3000rpm(1450G)以上で5〜10分間とすることができる。
【0044】
第二洗浄工程における溶媒としては、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、共存イオンの低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましく、純水を用いることより好ましい。尚、繰り返し複数回の洗浄を行う際は、pH調整を省略することが好ましい。
【0045】
第二洗浄工程の脱塩及び固体分離の処理回数は、共存イオンの残存量によって設定すればよいが、1〜6回が好ましく、3回程度の洗浄を繰り返すと、揮発性有機化合物吸着剤における共存イオンの残存量が充分に低減される。
【0046】
第二洗浄工程後の分散液については、残存する共存イオンの中でも、特に揮発性有機化合物吸着剤の吸着能に影響を与える塩化物イオン及びナトリウムイオンの濃度が低減されていることが好ましい。すなわち、第二洗浄工程における洗浄後の揮発性有機化合物吸着剤は、当該揮発性有機化合物吸着剤を水に分散させて濃度400mg/Lの水分散液を調製したとき、当該水分散液において塩化物イオン濃度100mg/L以下及びナトリウムイオン濃度100mg/L以下を与えることが好ましい。塩化物イオン濃度100mg/L以下且つナトリウムイオン濃度100mg/L以下であると、吸着能を更に向上させることができる。塩化物イオン濃度は、50mg/L以下がより好ましく、10mg/L以下が更に好ましい。ナトリウムイオン濃度は、50mg/L以下がより好ましく、10mg/L以下が更に好ましい。塩化物イオン濃度及びナトリウムイオン濃度は、洗浄工程の処理回数やpH調整に使用するアルカリの種類により調整することができる。
尚、塩化物イオン濃度及びナトリウムイオン濃度は、イオンクロマトグラフィー(例えば、ダイオネクス社製DX−320及びDX−100)により通常の条件で測定される。
また、揮発性有機化合物吸着剤の分散物の濃度は、固体分離されたものを110℃、24時間乾燥して得られる固体の質量を基準とする。
【0047】
尚、ここで述べる「第二洗浄工程後の分散液」とは、第二洗浄工程を終了した後に、第二洗浄工程を行う前の容積に、溶媒を用いて容積を戻した分散液を意味する。用いる溶媒は、原料と溶媒和し易いものを適宜選択して使用することができ、具体的には、水、エタノール等を使用することができるが、揮発性有機化合物吸着剤における共存イオンの残存量の低減、及び、取扱の容易さから、水を用いることが好ましい。
【0048】
本発明の製造方法によって製造される揮発性有機化合物吸着剤は、VOC吸着能が向上する観点から、Si/Alモル比で0.3〜1.0であることが好ましく、0.4〜0.6であることがより好ましく、0.45〜0.55であることが更に好ましい。
Si/Alモル比は、原料溶液の混合比率を適宜選択することで調整することができる。
またSi/Alモル比は、ICP発光分光装置(例えば、日立製作所社製ICP発光分光装置:P−4010)を用いて、常法により測定できる。
【0049】
本発明の製造方法によって製造される揮発性有機化合物吸着剤のBET比表面積は特に制限されない。VOCの吸着能が向上する観点から、BET比表面積が200m/g以上であることが好ましく、250m/g以上であることがより好ましく、280m/g以上であることが更に好ましい。
【0050】
揮発性有機化合物吸着剤のBET比表面積は、JIS Z 8830に準じて窒素吸着能から測定する。評価装置としては、例えば、QUANTACHROME社製:AUTOSORB−1(商品名)などを用いることができる。BET比表面積の測定を行う際には、試料表面及び構造中に吸着している水分が、ガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、まず、加熱による水分除去の前処理を行う。
前記前処理では、0.05gの測定試料を投入した測定用セルを、真空ポンプで10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却する。この前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満として測定する。
【0051】
BET比表面積は、第二洗浄工程の処理方法(例えば、合成溶液にアルカリを加えてpHを5〜10に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残ったアルミニウムケイ酸塩を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻す処理を一度もしくは複数回繰り返す方法)により調整することができる。
【0052】
また本発明の製造方法によって製造される揮発性有機化合物吸着剤の全細孔容積は特に制限されない。VOC吸着能の観点から、0.1cm/g以上であることが好ましく、0.12cm/g以上であることがより好ましく、0.15cm/g以上であることが更に好ましい。
揮発性有機化合物吸着剤の全細孔容積は、前記BET比表面積に基づき、相対圧が0.95以上1未満の範囲で得られたデータの中、相対圧1に最も近いガス吸着量を液体に換算して求める。
【0053】
全細孔容積は、第二洗浄工程の処理方法(例えば、合成溶液にアルカリを加えてpHを5〜10に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残ったアルミニウムケイ酸塩を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻す処理を一度もしくは複数回繰り返す方法)により調整することができる。
【0054】
また本発明の製造方法によって製造される揮発性有機化合物吸着剤の平均細孔直径は特に制限されない。VOC吸着能の観点から、平均細孔直径が1.5nm以上であることが好ましく、1.7nm以上であることがより好ましく、2.0nm以上であることが更に好ましい。
揮発性有機化合物吸着剤の平均細孔直径は、前記BET比表面積及び全細孔容積に基づき、全細孔を1つの円筒形細孔で構成されていると仮定して求める。
【0055】
平均細孔直径は、第二洗浄工程の処理方法(例えば、合成溶液にアルカリを加えてpHを5〜10に調整し、遠心分離した後、上澄み溶液を排出してゲル状沈殿物として残ったアルミニウムケイ酸塩を溶媒に再分散させ、遠心分離前の容積に戻す処理を一度もしくは複数回繰り返す方法)により調整することができる。
【0056】
さらに揮発性有機化合物吸着剤は、CuKα線による粉末X線回折スペクトルにおいて2θ=26.9°近辺及び40.3°近辺にピークを有することが好ましい。これらのピークはアルミニウムケイ酸塩の非晶質成分に対応するピークと推定され、ブロードなピークとして観測される。
またさらに揮発性有機化合物吸着剤は、粉末X線回折スペクトルにおいて2θ=18.8°近辺、20.3°近辺、27.8°近辺、40.6°近辺及び53.3°近辺にピークをそれぞれ有することが好ましい。これらのピークは水酸化アルミニウム(バイヤライト)に対応する推定され、シャープなピークとして観測される。
尚、粉末X線回折スペクトルは、例えば粉末X線回折装置として、リガク社製:Geigerflex RAD−2X(商品名)を用い、CuKα線をX線源として測定される。
【0057】
揮発性有機化合物吸着剤は、上記製造方法によって製造されるものであり、揮発性有機化合物に対する吸着剤として有用である。より具体的には、通気性を有するハニカム形状基材又は多孔質基材に揮発性有機化合物吸着剤をコーティングしてフィルタとして使用すること、粒状又は球状基材の表面に揮発性有機化合物吸着剤をコーティングしてこの基材を容器中に充填して使用すること、揮発性有機化合物吸着剤そのものを成形して使用すること等によって用いることができる。尚、前述した基材は、特に限定されるものではなく、金属、セラミック、合成樹脂硬化物、木材等の天然素材等を用いることができる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
(a)反応生成物を得る工程
濃度:700mmol/Lの塩化アルミニウム水溶液(500mL)に、濃度:350mmol/Lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液(500mL)を加え、30分間攪拌した。この溶液に、濃度:1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を330mL加え、pH=6.1に調整した。
【0060】
(b)第一洗浄工程
pH調整した溶液を30分間攪拌後、遠心分離装置としてTOMY社製:Suprema23及びスタンダードロータNA−16を用い、回転速度:3,000回転/分で、5分間の遠心分離を行った。遠心分離後、上澄み溶液を排出し、ゲル状沈殿物を純水に再分散させ、遠心分離前の容積に戻した。このような遠心分離による脱塩処理を3回行った。
【0061】
3回目の脱塩処理後のゲル状沈殿物を、重量濃度が60g/kgとなるように純水に分散し、HORIBA社製:F−55及び電気伝導率セル:9382−10Dを用いて、常温(25℃)で電気伝導率を測定したところ、1.3S/mであった。
【0062】
(c)合成工程
脱塩処理3回目の上澄み排出後に得たゲル状沈殿物に、濃度:1mol/Lの塩酸を135mL加えてpH=3.5に調整し、30分間攪拌した。
このときの溶液中のケイ素原子濃度及びアルミニウム原子濃度を、ICP発光分光装置:P−4010(日立製作所社製)を用いて、常法により測定したところ、ケイ素原子濃度は213mmol/Lであり、アルミニウム原子濃度は426mmol/Lであった。
次に、この溶液を乾燥器に入れ、98℃で48時間(2日間)加熱した。
【0063】
(d)第二洗浄工程
加熱後溶液(アルミニウムケイ酸塩濃度47g/L)に、濃度:1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を188mL添加し、pH=9.1に調整した。pH調整により溶液中のアルミニウムケイ酸塩を凝集させ、第一洗浄工程と同様の遠心分離でこの凝集体を沈殿させることで、上澄み液を排出した。これに純水を添加して遠心分離前の容積に戻すという脱塩処理を3回行った。
【0064】
3回目の脱塩処理後のゲル状沈殿物を、重量濃度が60g/kgとなるように純水に分散し、HORIBA社製:F−55及び電気伝導率セル:9382−10Dを用いて、常温(25℃)で電気伝導率を測定したところ、0.6S/mであった。
【0065】
脱塩処理3回目の上澄み排出後に得たゲル状沈殿物を、60℃で16時間乾燥して30gの粉末を得た。得られた粉末を試料Aとした。
【0066】
<評価>
(構造評価)
試料Aの構造評価は、BET比表面積、全細孔容積、平均細孔直径、粉末X線回折によって行った。
【0067】
BET比表面積、全細孔容積、そして平均細孔直径は、窒素吸着等温線の測定から解析した。評価装置には、QUANTACHROME社製:AUTOSORB−1(商品名)を用いた。BET比表面積を測定する際には、後述する試料の前処理を行った後、評価温度を77Kとし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満としている。
また粉末X線回折は、リガク社製:Geigerflex RAD−2X(商品名)を用い、X線源としてCuKα線を用いて行なった。
【0068】
ここで、BET比表面積、全細孔容積、そして平均細孔直径の評価に当たり、試料表面及び構造中に吸着している水分が、ガス吸着能に影響を及ぼすと考えられることから、加熱による水分除去の前処理を行った。
本実施例では、0.05gの試料Aを投入した測定用セルに、真空ポンプで脱気及び加熱を自動制御で行い、試料Aを前処理した。この処理の詳細条件は、10Pa以下に減圧した後、110℃で加熱し、3時間以上保持した後、減圧した状態を保ったまま常温(25℃)まで自然冷却するという設定とした。
【0069】
評価の結果、試料AのBET比表面積は363m/g、全細孔容積は0.22cm/g、そして平均細孔直径は2.4nmとなった。
試料Aの粉末X線回折スペクトルにおいて、2θ=26.9°、そして40.3°にブロードなピークが観測された。さらに2θ=18.8°、20.3°、27.8°、40.6°、そして53.3°にシャープなピークが観測された。
【0070】
(VOC吸脱着能評価)
VOC吸脱着能評価には、日本ベル株式会社製:BELSORP−18(商品名)を用いた。VOC吸脱着能評価をする際は、後述する試料の前処理を行った後、評価温度を20℃とし、評価圧力範囲を相対圧(飽和蒸気圧に対する平衡圧力)にて1未満としている。
尚、VOC吸脱着能の評価に当たり、試料表面及び構造中に吸着している水分が、VOC吸脱着能に影響を及ぼすと考えられることから、加熱による水分除去の前処理を上記と同様にして行った。
【0071】
試料AのVOC吸脱着能評価に当たりVOCとしてメタノールを使用した、メタノール吸脱着等温線の結果を図1に示す。図1について、横軸は、飽和蒸気圧pに対する平衡圧力pの比である相対圧[p/p]を示し、縦軸は、試料質量当たりのガス吸着量を標準状態(0℃、1気圧)の体積に換算して求めた吸着量[cm(STP)/g]を示す。
吸脱着等温線の測定は自動制御で5回連続測定した(図1参照)。尚、連続測定では、同一試料を用いているが、吸着脱着の1サイクル測定が終了する毎に、20℃、10Paにて1時間脱気し、それから次の測定を行うようにした。
【0072】
吸脱着の連続測定について、吸脱着1サイクル目測定と2〜5サイクル目の吸脱着測定を比較すると、相対圧0.8における吸着量変化率は−33%であった。
これは、圧力変化のみではメタノールを脱着できない(110℃を超えるように更に加熱しなければ脱着しない)吸着サイトが33%存在するということを示している。
【0073】
<参考例>
−従来合成法−
濃度:180mmol/Lの塩化アルミニウム水溶液(500mL)に、濃度:74mmol/Lのオルトケイ酸ナトリウム水溶液(500mL)を加え、30分間攪拌した。この溶液に、濃度:1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下速度2mL/分で93mL加え、pH=7.0に調整した。
【0074】
pH調整した溶液を30分間攪拌後、遠心分離装置としてTOMY社製:Suprema23及びスタンダードロータNA−16を用い、回転速度:3,000回転/分で、5分間の遠心分離を行った。遠心分離後、上澄み溶液を排出し、ゲル状沈殿物を純水に再分散させ、遠心分離前の容積に戻した。このような遠心分離による脱塩処理を3回行った。
【0075】
脱塩処理3回目の上澄み排出後に得たゲル状沈殿物に純水を加え、容積を12Lとした。その溶液に濃度:1mol/Lの塩酸を60mL加えてpH=4.0に調整し、30分間攪拌した。なお、このときの溶液中のSiの濃度は2mmol/L、Alの濃度は4mmol/Lであった。
次に、この溶液を乾燥器に入れ、98℃で96時間(4日間)加熱した。
【0076】
加熱後溶液(アルミニウムケイ酸塩濃度0.4g/L)に、濃度:1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を60mL添加し、pH=9.0に調整した。pH調整により溶液を凝集させ、上記と同様の遠心分離でこの凝集体を沈殿させることで、上澄み液を排出した。これに純水を添加して遠心分離前の容積に戻すという脱塩処理を3回行った。
【0077】
脱塩処理後に得たゲル状沈殿物を、60℃で72時間(3日間)乾燥して4.8gの粉末を得た。得られた粉末を試料Bとした。
【0078】
<評価>
(構造評価)
試料BのBET比表面積は323m/g、全細孔容積は0.22cm/g、そして平均細孔直径は2.7nmとなった。
試料Bの粉末X線回折スペクトルにおいては、2θ=4.8°、9.7°、14.0°、18.3、27.3°、そして40.8°にブロードなピークが観測された。
【0079】
(VOC吸脱着能評価)
VOCとしてメタノールを使用して、実施例1と同様にして、吸脱着等温線の連続測定を行なった。結果を図2に示す。
次にVOCとして、メタノール、エタノール、アセトン及びメチルエチルケトンを使用して、それぞれのVOCに対する真空乾燥直後の吸着等温線を測定した。結果を図4に示す。
【0080】
吸脱着の連続測定について、吸脱着1サイクル目測定と2〜5サイクル目の吸脱着測定を比較すると、相対圧0.8における吸着量変化率は−23%であった。
これは、圧力変化のみではメタノールを脱着できない(110℃を超えるように更に加熱しなければ脱着しない)吸着サイトが23%存在するということを示している。
【0081】
<比較例1>
市販品のゼオライト(和光純薬工業株式会社製、商品名:モレキュラーシーブス13X)を試料Cとした。試料Cを用いて実施例1と同様にして、VOC吸脱着能を評価した。結果を図3に示す。
またVOCとして、メタノール、エタノール、アセトン及びメチルエチルケトンを使用して、それぞれのVOCに対する真空乾燥直後の吸着等温線を測定した。結果を図5に示す。
【0082】
吸脱着の連続測定について、吸脱着1サイクル目測定と2〜5サイクル目の吸脱着測定を比較すると、相対圧0.8における吸着量変化率は−63%であった。
これは、圧力変化のみではメタノールを脱着できない(110℃を超えるように更に加熱しなければ脱着しない)吸着サイトが63%存在するということを示している。
【0083】
以上から、本発明の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法によって、従来法で製造されたアルミニウムケイ酸塩と同様の優れたVOC吸脱着能を有する揮発性有機化合物吸着剤を、優れた生産性で製造できることが分かる。
また、本発明の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法によって製造されたアルミニウムケイ酸塩は、従来法で製造されたアルミニウムケイ酸塩と同様に、種々のVOCに対して優れた吸着能を示すことが予想される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ケイ酸イオンを含む溶液及びアルミニウムイオンを含む溶液を混合して反応生成物を得る工程と、
(b)前記反応生成物を、脱塩及び固体分離する工程と、
(c)前記工程(b)で固体分離されたものを水性媒体中、酸の存在下、ケイ素原子濃度が100mmol/L以上且つアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上となる濃度条件で加熱処理する工程と、
(d)前記工程(c)で加熱処理して得られたものを、脱塩及び固体分離する工程と、を有する揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【請求項2】
前記(b)工程で固体分離されたものは、重量濃度が60g/kgとなるように水に分散させた場合の電気伝導率が4.0S/m以下である、請求項1に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【請求項3】
前記(c)工程は、pHを3以上7未満に調整し、温度80℃〜160℃で、96時間以内の間、加熱処理する工程である、請求項1又は請求項2に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【請求項4】
前記(a)工程は、前記ケイ酸イオンを含む溶液のケイ素原子濃度が100mmol/L以上であり、前記アルミニウムイオンを含む溶液のアルミニウム原子濃度が100mmol/L以上であり、アルミニウム原子に対するケイ素原子の比Si/Alがモル比で0.3〜1.0となるように、前記ケイ酸イオンを含む溶液及びアルミニウムイオンを含む溶液を混合する工程である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【請求項5】
前記(b)工程は、前記反応生成物を水性媒体に分散して分散物を得る工程と、前記分散物のpHを5〜7に調整して反応生成物を析出させる工程と、を含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【請求項6】
前記揮発性有機化合物吸着剤は、BET比表面積が250m/g以上であり、全細孔容積が0.1cm/g以上であり、平均細孔直径が1.5nm以上であり、CuKα線による粉末X線回折スペクトルが2θ=26.9°近辺及び40.3°近辺にピークを有するものである、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の揮発性有機化合物吸着剤の製造方法により製造される、揮発性有機化合物吸着剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−210560(P2012−210560A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76651(P2011−76651)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】