説明

揮発物測定装置

【課題】本発明は、換気流量等の試験槽の環境が変化しても、高い精度で試験槽の湿度を制御することができる揮発物測定装置を提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題を解決するため、本発明は、試験用導入口60および排出口70を有する試験槽80と、試験用導入口60から試験槽80に導入される気体の流量を変更する流量調節器20aと、試験槽80に導入される気体を加湿する加湿器24と、試験槽80内の湿度を検出する湿度センサT1と、フィードバック制御により加湿器24を制御して湿度センサT1の検出湿度を設定湿度に移行させる制御部3と、を備え、排出口70から排出される気体に含まれる揮発物を測定する揮発物測定装置1であって、制御部3は、湿度の制御に必要な加湿量に応じてフィードバック制御の制御定数を変更することを特徴とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性の有機化合物等の揮発物を測定するための装置である揮発物測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、シックハウス症候群と呼ばれる化学物質による過敏症が問題となっている。これは、建築材料にホルムアルデヒド、トルエンなどの揮発性有機化合物(VOC)が使用されており、この揮発性有機化合物が住宅内に放出されていることが一因とされている。
【0003】
このため建材などに、揮発性有機化合物がどのくらい含まれているかを調査しておくことが行われている。また、建材以外にも自動車の内装品や家具などに用いられる素材でも揮発性有機化合物の調査が行われている。
【0004】
このような揮発性有機化合物を測定することができる揮発物測定装置は、温度や湿度等を一定の環境条件に制御可能な試験槽内に試料を入れ、この試験槽に空気を所定の流量だけ流入・排出させ、この排出した空気中に含まれる揮発性有機化合物を測定することができる。
例えば特許文献1には、このような揮発物測定装置が開示されている。特許文献1の揮発物測定装置は、加湿器を用いて試験槽の湿度が制御されている。従来の揮発物測定装置の湿度制御には、例えばPID制御等のフィードバック制御が用いられている。フィードバック制御は、試験槽の環境に応じた適切な制御定数を決定して行なわれる。従来の揮発物測定装置では、単一の制御定数が決定されてフィードバック制御が行なわれていた。
【特許文献1】特開2005−257588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上記のように揮発物測定装置は、試験槽を換気しながら揮発性有機化合物の測定を行う構成であるため、試験槽の環境が一定ではない。特に試験槽の換気流量が変化する場合、湿度の制御に必要な加湿量が大きく変化してしまうため、単一の制御定数で試験槽の湿度を制御するのは困難であった。
【0006】
そこで本発明は、試験槽の環境が変化した場合であっても、複数の制御定数の中から環境の変化に応じた適切な制御定数を選択し、高い精度で試験槽の湿度を制御することができる揮発物測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため提供される請求項1の発明は、気体導入口および気体排出口を有する試験槽と、前記気体導入口から前記試験槽に導入される気体の流量を変更する流量調節手段と、前記試験槽に導入される気体を加湿する加湿器と、前記試験槽内の湿度を検出する湿度検出手段と、フィードバック制御により前記加湿器を制御して前記湿度検出手段の検出湿度を設定湿度に移行させる制御手段と、を備え、前記試験槽内の気体に含まれる揮発物を測定する揮発物測定装置であって、前記制御手段は、湿度の制御に必要な加湿量に応じてフィードバック制御の制御定数を変更することを特徴とする揮発物測定装置である。
【0008】
これにより請求項1の揮発物測定装置は、試験槽の湿度を制御するのに必要な加湿量が大きく変化する場合であっても、加湿量の変更に対応した適切な制御定数に変更されるため、精度の高い湿度制御を行うことができる。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記制御手段が、前記試験槽の換気流量の変更に応じてフィードバック制御の制御定数を変更することを特徴とした。
【0010】
これにより請求項2の揮発物測定装置は、試験槽の換気流量が変更されて、試験槽の湿度を制御するのに必要な加湿量が大きく変化する場合であっても、制御定数が、換気流量の変更に対応した適切なものに変更されるため、精度の高い湿度制御を行うことができる。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、前記制御手段が、前記試験槽の設定温度と設定湿度との組み合わせに応じてフィードバック制御の制御定数を変更することを特徴とした。
【0012】
これにより請求項3の揮発物測定装置は、設定温度や設定湿度が変更されて、試験槽の湿度を制御するのに必要な加湿量が変化する場合であっても、制御定数を設定温度や設定湿度の変化に対応した適切なものに変更することにより、精度の高い湿度制御を行うことができる。
【0013】
ここで従来の揮発物測定装置では、測定の途中で試験槽の扉が開けられて試験槽の湿度が一時的に急低下する場合、加湿器による加湿が急増してしまうため、試験槽の湿度が設定湿度をオーバーシュートしてしまうという問題があった。
かかる知見に基づき提供される請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記加湿器が、加熱により水を蒸発させるヒータを備え、前記制御手段は、フィードバック制御の制御定数を変更するとともに、前記ヒータの出力に上限を設定することを特徴とした。
【0014】
これにより請求項4の揮発物測定装置は、試験槽の湿度が一時的に急低下した場合であっても、加湿器のヒータの出力に上限があるため、ヒータの急加熱により加湿器の加湿量が急増するのを防止することができる。その結果、試験槽の湿度が設定湿度をオーバーシュートするのを防止することができる。
【0015】
ここで従来の揮発物測定装置は、試験槽の湿度が設定湿度に達すると、加湿器のヒータを停止させるので、次の加湿の要求があるまでの間に加湿器の水の温度が低下してしまっていた。そのため次の加湿の要求があっても低温の水を蒸発させる必要があるので、迅速に加湿を行うことができないという問題があった。
かかる知見に基づき提供される請求項5の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記加湿器は、加熱により水を蒸発させるヒータを備え、前記制御手段が、フィードバック制御の制御定数を変更するとともに、前記ヒータの出力に下限を設定することを特徴とした。
【0016】
これにより請求項5の揮発物測定装置は、試験槽の湿度が設定湿度に達した後も、加湿器のヒータを停止させず最低限の出力を維持したまま作動させることができる。そのため請求項5の揮発物測定装置は、ヒータによって加湿器の水が高温の状態に保たれているので、加湿の要求があった場合に迅速に加湿を行うことができる。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記加湿器は、加熱により水を蒸発させるヒータを備え、前記ヒータは、消費電力の容量の切替が可能であり、前記制御手段は、フィードバック制御の制御定数を変更するとともに、ヒータの消費電力の容量を切り替えることを特徴とした。
【0018】
これにより請求項6の揮発物測定装置は、試験槽の湿度の制御に必要な加湿量に応じて、適切なヒータの容量を選択し、精度の高い湿度制御を実現することができる。例えば、試験槽に導入される気体への加湿量が少量でよい場合には、加湿ヒータの容量を低く抑えて、加湿ヒータの出力の変動幅を小さくし、微妙な湿度の変動にも対応することができる。また試験槽に導入される気体への加湿量が大きい場合には、大量の水蒸気を試験槽に供給できるように、加湿ヒータの容量を高めて試験槽内の湿度を迅速に設定湿度にまで高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の揮発物測定装置は、試験槽の設定湿度や換気流量が変化しても、高い精度で試験槽内の湿度を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、さらに本発明の具体的実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態における揮発物測定装置の斜視図である。図2は、本発明の実施形態における揮発物測定装置の配管及び構成部材を示した模式図である。
揮発物測定装置1は、インナーチャンバー10とアウターチャンバー11を備えている。インナーチャンバー10及びアウターチャンバー11は、直方体状であって内部に空間10e、11eが設けられている。インナーチャンバー10及びアウターチャンバー11には、内部空間10e,11eにつながる開口10f,11fを有する本体部10c,11cと、開口10f,11fを封鎖できる開閉扉10a,11aが設けられている。
【0021】
インナーチャンバー10は、アウターチャンバー11よりも小さく、アウターチャンバー11の内部空間11eにインナーチャンバー10が収容されている。インナーチャンバー10の内部空間10eは、試料が収容される試験槽80となり、アウターチャンバー11の内部空間11eであってインナーチャンバー10の外側の空間は、温度調整空間81となる。
【0022】
図1に示すように、開閉扉10a、11aは、同じ側に設けられており、アウターチャンバー11の開閉扉11aを開けることにより、インナーチャンバー10の開閉扉10aの開閉が可能になる。
インナーチャンバー10の開閉扉10aが閉じられた状態で、開閉扉10aと本体部10cとで挟まれた位置には、図示しないシール部材が設けられている。シール部材は、開閉扉10aまたは本体部10cのいずれかに保持されている。インナーチャンバー10は、本体部10cと開閉扉10aとをシール部材で密着させ、試験槽80をほぼ密閉状態にすることができる。
【0023】
インナーチャンバー10は、ステンレス製であり、前後左右上下の六面が試験槽80と熱伝導空間84との間での熱伝導を行うことができる。また、アウターチャンバー11は、図示しない断熱層を有しており、外部との熱伝導を小さくするような構造となっている。
【0024】
図2に示すように、温度調整空間81は、熱伝導空間84と加温冷却空間85とに大別される。熱伝導空間84と加温冷却空間85との間には仕切板86が配置され、仕切板86には、熱伝導空間84と加温冷却空間85とをつなぐ導入口86aおよび排出口86bが設けられている。
【0025】
加温冷却空間85には、送風ファン87と加熱器88と冷却器89とを備えた空調システム90が設けられている。送風ファン87は、加温冷却空間85から排出口86b、熱伝導空間84、導入口86aを経由して加温冷却空間85に戻る一連の循環流路で空気を循環させる送風機である。温度調整空間81を循環する空気は、加熱器88および冷却器89によって所定の温度に加熱・冷却される。これにより熱伝導空間84が所定の温度に調整される。
【0026】
図2に示すように、インナーチャンバー10には、外部から試験槽80に空気を導入する試験用導入口60と、試験槽80から外部へ空気を排出する排出口70とが設けられている。またアウターチャンバー11には、導入配管連結口61が設けられており、導入配管連結口61において、熱交配管18と導入配管15とが連結される。
【0027】
熱交配管18は、アウターチャンバー11の導入配管連結口61とインナーチャンバー10の試験用導入口60とを繋ぐ熱伝導性に優れた配管である。本実施形態の熱交配管18はステンレス製である。熱交配管18は、屈曲して形成された所定長さの配管がインナーチャンバー10の壁面に沿って配置されている。そのため後述の導入配管15から熱交配管18に導入された空気は、試験槽80に供給される前に、熱交配管18を介して熱伝導空間84の空気と熱交換を行う。したがって熱交配管18の空気は、温度が熱伝導空間84の温度にある程度なじんだ状態で試験槽80に供給される。即ち、熱交配管18は、内部を流れる空気と、熱伝導空間84の空気との間で熱交換を行う熱交換器として機能する配管である。
なお熱交配管18には、試験用導入口60近傍に分岐62が設けられており、この分岐62に後述の加湿配管17が接続されている。
【0028】
導入配管15は、圧縮空気取込口R1とアウターチャンバー11に設けられた導入配管連結口61とをつなぐ配管であり、圧縮空気取込口R1から順に、電磁弁G1、除湿器23、レギュレータ22、清浄機21および流量調節器20aが配置されている。即ち、圧縮空気取込口R1から取り込まれた空気は、電磁弁G1を通って、除湿器23で除湿され、レギュレータ22により所定の圧力に減圧され、さらに、清浄機21により不純物が取り除かれる。そして、流量調節器20aを通って導入配管連結口61に通じている。したがって、試験槽80に導入される空気は、圧縮空気取込口R1から取り込まれて、導入配管15、導入配管連結口61、熱交配管18を順に通って試験用導入口60に供給される。
【0029】
流量調節器20aは、試験槽80に導入される空気の流量(換気流量)を手動または自動で調節するのに用いられる。流量調節器20aは、1時間に0.2回〜5.0回の範囲で換気流量を変更することができる。
【0030】
図2に示すように、加湿配管17は、アウターチャンバー11を貫通し、熱交配管18の分岐62と加湿器24とをつなぐ配管である。したがって加湿器24で発生した水蒸気は、加湿配管17を通って分岐62から熱交配管18に導入され、熱交配管18の空気を加湿することができる。
【0031】
加湿器24は、貯水槽30と、貯水槽30に貯留された水を加熱する電熱ヒータ31とを備えており、アウターチャンバー11の外側の空間に配置される。加湿器24は、電熱ヒータ31の加熱によって貯水槽30の水を蒸発させて水蒸気を発生する。上述のように加湿器24で発生した水蒸気は、熱交配管18の分岐62で試験槽80に供給される空気と混合される。
【0032】
図6に示すように、電熱ヒータ31は、単相交流電源または三相交流電源を選択することにより容量を切り替えることができる。具体的には、電熱ヒータ31の電源が単相交流電源から三相交流電源に切り替えられると、電熱ヒータ31の容量は2倍に増加する。逆に電熱ヒータ31の電源が三相交流電源から単相交流電源に切り替えられると、電熱ヒータ31の容量は半分に減少する。
【0033】
図2に示すように、インナーチャンバー10の排出口70は、排出配管16を通じて排出部H3につながっている。また排出配管16は、排出口70と排出部H3との間の位置で分岐しており、分岐先に捕集管を備えたサンプリングポンプ26が取り付けられている。サンプリングポンプ26を作動させることで、排出口70から排出される気体の一部を捕集管に捕集することができる。
【0034】
上記のように試験槽80は、インナーチャンバー10の開閉扉10aを閉じるとほぼ密閉される。また試験槽80は、インナーチャンバー10を閉じた状態で、試験用導入口60から清浄な空気を導入し、排出口70から気体を排出することにより、試験槽80を換気することができる。
【0035】
シール部材(図示せず)など、インナーチャンバー10を構成する部材は、所定の試験条件で揮発有機化合物を発生するおそれが極めて少ない材質で形成されている。具体的には、ステンレス、ガラス、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴムなどの材質が用いられている。
【0036】
図2に示すように、試験槽80には、棒状の湿度センサT1が設けられている。湿度センサT1は、先端部T1aで湿度を検知して所定の信号を制御部3に出力することができる。湿度センサT1の先端部T1aは、インナーチャンバー10の内側である試験槽80側に配置されている。
【0037】
制御部3は、加湿器24や空調システム90の動作を司っており、図示しない操作部から入力された設定温度、設定湿度、設定換気流量に基づいて、試験槽80を所望の環境に調整することができる。
【0038】
次に、揮発物測定装置1の揮発物測定時の動作について、試験槽80の湿度制御を中心に説明する。
揮発物測定装置1は、手動または自動で試験槽80の温度、湿度、および換気流量を設定することができる。揮発物測定装置1は、温度の制御と湿度の制御とがそれぞれ別の手段で行なわれている。
【0039】
試験槽80の湿度制御は、所定の水蒸気を含む空気で試験槽80を換気することにより行われる。具体的には、図2に示す電磁弁G1を開き、所定量の水蒸気を含む清浄な空気を試験用導入口60から所定の流量だけ試験槽80に導入する。そして試験槽80の空気が、新たに導入された空気に押し出されて、排出口70から排出される。このように揮発物測定装置1は、試験槽80内の空気を所定量の水蒸気を含む空気に置き換えることによって、試験槽80内が所定の湿度となるように制御する。
【0040】
試験槽80内に導入される空気は、圧縮空気取込口R1から取り込まれるものであり、湿度の調整は、取り込まれた空気を除湿器23によって乾燥させて、加湿器24によって水蒸気を流入させることにより行われる。即ち、揮発物測定装置1は、流量調節器20aによって調整される空気の流量と、加湿器24で発生させる水蒸気の量により、試験槽80内に導入される空気中の水蒸気の量を制御することができる。
【0041】
また揮発物測定装置1における湿度制御は、フィードバック制御の一種であるPID制御を用いて行われる。具体的には、試験槽80の設定環境に対応した適切な制御定数(比例ゲイン、積分ゲイン、微分ゲイン)が決定され、湿度センサT1の検出湿度と試験槽80の設定湿度との偏差、その積分、および微分の3つの要素から加湿器24の電熱ヒータ31の出力が決定され、加湿器24を作動させる。PID制御に用いる制御定数、加湿器24の電熱ヒータ31の出力の上下限、および加湿器24の電熱ヒータ31の容量は、図7のフローチャートに示す手順に従って決定される。
【0042】
図7のステップ1で制御部3は、図示しない操作部を通じて入力された設定温度および設定湿度に関する情報に基づいて、試験槽80の湿度を制御するのに必要な加湿量(水蒸気量)の高低レベルを判断し、制御フローをステップ2に移行させる。
加湿量の高低レベルの判断は、例えば図3に示したグラフに基づき行われる。図3のグラフは、X軸を設定温度、Y軸を設定湿度とするグラフである。設定温度が0℃で設定湿度が70%の点と、設定温度が40℃で設定湿度が30%の点とを結んだ直線が、加湿量の高低レベルを判別する判別直線として用いられる。
【0043】
本実施形態の揮発物測定装置1は、制御部3に入力された設定温度および設定湿度に関する情報を、それぞれX座標およびY座標として座標点を決定する。そして決定された座標点が上記判別直線に対してどのような位置関係にあるかで、試験槽80の湿度制御に必要な加湿量の高低レベルが判断される。例えば、決定された座標点の位置が、上記判別直線よりも上方の領域であれば、試験槽80の湿度制御には大量の加湿が必要であり、高加湿レベルであると判断される。逆に決定された座標点が、上記判別直線以下の領域であれば、少量の加湿で試験槽80の湿度を制御することができるので、低加湿レベルであると判断される。また制御部3は、操作部(図示せず)から入力された設定換気流量を用いて、図4の区分判断を行う。
【0044】
図7のステップ2では、制御部3が、ステップ1で決定された加湿量の高低レベルと、試験槽80の換気流量との組み合わせに応じて所属するクラス(本実施形態では、図5に示すA〜Dのいずれか)を選択し、制御フローをステップ3に移行させる。クラスは、試験槽80の湿度を制御するのに必要な加湿量の高低レベルと、試験槽80の換気流量との組み合わせに対応して予め割り当てられている。
【0045】
図6に示すように、ステップ2で決定されたクラスA〜Dに対応する、PID制御の制御定数、加湿器24の電熱ヒータ31の出力の上限、下限、および容量が予め決められており、これらの情報が制御部3に格納されている。制御部3は、ステップ2で決定されたクラスに従って、PID制御の制御定数、加湿器24の電熱ヒータ31の出力の上限、下限、および容量を決定し(ステップ3)、制御フローをステップ4に移行させる。具体的な制御定数、電熱ヒータ31の上限および下限は、実験等により決定される。
【0046】
制御部3は、ステップ3で決定された制御定数、電熱ヒータ31の出力の上限、下限、および容量に基づき、PID制御によって試験槽80の湿度を制御し(図7のステップ4)、制御フローをステップ1に戻す。
【0047】
図5に示すように、本実施形態の揮発物測定装置1は、制御対象である試験槽80の環境を複数のクラス(本実施形態ではA〜Dの四つ)に分類し、設定温度・設定湿度に関する情報および換気流量に関する情報に基づいて揮発物測定中の試験槽80がどのクラスに属するのかを判断する。そして換気流量の変更や、設定温度または設定湿度の変更があると、その度、所属するクラスの見直しが行われる。
図6に示すように各クラスには、それぞれに応じた適切な制御定数(KA〜KD)、電熱ヒータ31の出力の上限(a〜d),下限(e〜h)および容量(50%または100%)が割り振られている。したがって本実施形態の揮発物測定装置1は、試験槽80の換気流量、設定湿度、あるいは設定温度が変更された場合など、試験槽80の湿度制御に必要な加湿量が大きく変更された場合であっても、常に適切な制御定数を選択することができ、精度の高い湿度制御を実現することができる。
【0048】
また本実施形態の揮発物測定装置1は、加湿器24の電熱ヒータ31の出力に上限が設けられている。そのため、揮発物の測定中にインナーチャンバー10の開閉扉10aが開けられて試験槽80の湿度が一時的に急低下した場合であっても、熱源ヒータ31が急加熱で高温にならないので、試験槽80の湿度が設定湿度をオーバーシュートするのを防止することができる。
【0049】
また本実施形態の揮発物測定装置1は、加湿器24の電熱ヒータ31の出力に下限が設けられている。そのため、加湿器24の貯水槽30の水は、常に電熱ヒータ31により加熱されており高温の状態が保たれている。その結果、加湿器24は、制御部3から加湿の要求があると、貯水槽30の水を迅速に蒸発させ、直ちに試験槽80の加湿を行うことができる。
【0050】
さらに本実施形態の揮発物測定装置1は、ステップ2で決定されたクラスに応じて、適切な電熱ヒータ31の容量を選択することができる。これにより揮発物測定装置1は、試験槽80に導入される空気への加湿量が少量でよい場合には、加湿ヒータの容量を低く抑えて、加湿ヒータの出力の変動幅を小さくし、微妙な湿度の変動にも対応することができる。また試験槽80に導入される空気への加湿量が大きい場合には、大量の水蒸気を試験槽80に供給できるように、加湿ヒータの容量を高めて試験槽80内の湿度を迅速に設定湿度にまで高めることができる。
【0051】
上記のように試験槽80には、温度制御および湿度制御のための機器が配置されない。そのため本実施形態の揮発物測定装置1は、これらの機器が発生する不純物をサンプリングポンプ26の捕集管によって検出せず、またこれらの機器に揮発物が付着するおそれもないため、測定精度を向上させることができる。
【0052】
上記実施形態の揮発物測定装置1では、温度制御および湿度制御にPID制御を用いたが、制御手法が特にPID制御に限定されるわけではなく、本発明には、様々なフィードバック制御手法を適用することができる。例えば、P制御またはPI制御などの制御手法により温度および湿度を制御させてもよい。
【0053】
上記実施形態において、試験槽80の湿度の制御に必要な加湿量の高低レベルを判別するのに、設定温度が0℃で設定湿度が70%の点と、設定温度が40℃で設定湿度が30%の点とを結ぶ判別直線が用いられたが、試験槽80の湿度制御に必要な加湿量の高低レベルの判別は、このような直線に限定されるわけではなく実験等により最適なものを選択することができる。
【0054】
また上記実施形態では、試験槽80の湿度制御に必要な加湿量の高低レベル、および換気流量の変化がそれぞれ二つに区分されたが、本発明はこのような構成に限定されるわけではない。これらの区分数は、制御部3の演算能力や揮発物測定装置1に要求される制御能力に応じて任意に設定することができる。区分数を増加させることにより、より状況の変化に応じた制御定数の選択が可能になり、より精度の高い温度制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態における揮発物測定装置の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態における揮発物測定装置の配管及び部材を示した模式図である。
【図3】試験槽の湿度制御に必要な加湿量の高低レベルを判別する判別直線を示すグラフである。
【図4】換気流量と加湿量との関係を示す相関図である。
【図5】試験槽の換気流量と、湿度制御に必要な加湿量の高低レベルとの組み合わせに対応したクラスの分類を示す表である。
【図6】クラスA〜Dに対応する、PID制御の制御定数、電熱ヒータの出力の上下限および容量を示す表である。
【図7】試験槽の湿度制御における揮発物測定装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0056】
1 揮発物測定装置
3 制御部(制御手段)
20a 流量調節器(流量調整手段)
24 加湿器
31 電熱ヒータ(ヒータ)
60 気体導入口(試験用導入口)
70 気体排出口(排出口)
80 試験槽
T1 湿度センサ(湿度検知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体導入口および気体排出口を有する試験槽と、
前記気体導入口から前記試験槽に導入される気体の流量を変更する流量調節手段と、
前記試験槽に導入される気体を加湿する加湿器と、
前記試験槽内の湿度を検出する湿度検出手段と、
フィードバック制御により前記加湿器を制御して前記湿度検出手段の検出湿度を設定湿度に移行させる制御手段と、を備え、前記試験槽内の気体に含まれる揮発物を測定する揮発物測定装置であって、
前記制御手段は、湿度の制御に必要な加湿量に応じてフィードバック制御の制御定数を変更することを特徴とする揮発物測定装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記試験槽の換気流量の変更に応じてフィードバック制御の制御定数を変更することを特徴とする請求項1に記載の揮発物測定装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記試験槽の設定温度と設定湿度との組み合わせに応じてフィードバック制御の制御定数を変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の揮発物測定装置。
【請求項4】
前記加湿器は、加熱により水を蒸発させるヒータを備え、
前記制御手段は、フィードバック制御の制御定数を変更するとともに、前記ヒータの出力に上限を設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の揮発物測定装置。
【請求項5】
前記加湿器は、加熱により水を蒸発させるヒータを備え、
前記制御手段は、フィードバック制御の制御定数を変更するとともに、前記ヒータの出力に下限を設定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の揮発物測定装置。
【請求項6】
前記加湿器は、加熱により水を蒸発させるヒータを備え、
前記ヒータは、消費電力の容量の切替が可能であり、
前記制御手段は、フィードバック制御の制御定数を変更するとともに、ヒータの消費電力の容量を切り替えることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の揮発物測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−229198(P2009−229198A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74008(P2008−74008)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】