説明

搬送用カートにおけるトレー押さえ構造

【課題】 構成部品についての加工工程を必要とせず、組み立ても簡単で製造コストを軽減することができ、カートが振動したり緊急搬送時の移動慣性や遠心力がかかっても、トレーのガタつきや飛び出しを確実に防止することができる搬送用カートにおけるトレー押さえ構造を提供すること。
【解決手段】 可撓性材料から成る細長バネ板状の押さえ板3を弓形に屈撓変形せしめた状態で、両端部31・31をガイドレール2の上側ガイド部材22に設けられた各掛止溝22a・22aにそれぞれ固定して掛架することによって中間に膨出部32を形成して、かつ、この膨出部32を下側ガイド部材21に付勢状態に接触せしめる一方、
フランジ部11の両端部における上面にはそれぞれ抜止め突起11aを形成し、この抜止め突起11aが押さえ板3の膨出部32の下面を通過するとき、当該押さえ板3が抜止め突起11aによる押し上げ作用に反発しつゝ撓曲変形するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療現場などに用いる搬送用カートの改良、更に詳しくは、構成部品についての加工工程を必要とせず、組み立ても簡単で製造コストを軽減することができ、カートが振動したり緊急搬送時の移動慣性や遠心力がかかっても、トレーのガタつきや飛び出しを確実に防止することができる搬送用カートにおけるトレー押さえ構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のとおり、病院などの医療現場では、薬剤などを搬送するために、複数のトレーが配設された搬送用カートが用いられており、緊急搬送時の移動慣性や方向変換の際に作用する遠心力や振動によって、トレーがガタついて騒音を出したり、あるいは抜け出してしまうおそれがあった。
【0003】
そこで、従来、トレーの収容されるレール部分に、屈曲成形した板バネを配設して、トレーに対し付勢することによりスライドを規制し、振動による騒音や抜け出しを防止する構造が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、かかる構造にあっては、反発力を付与するために、板バネが屈曲成形されているため、プレス成形や圧延などの工程を経て付勢部品をカール状に成形しなければならず、加工コストがかかってしまうという問題があった。
【0005】
また、かかる板バネ部材の弾性部材としては、金属材料が用いられていることが多く、剛性が大きいために、部材同士の摺動箇所が摩耗してしまうという問題もあった。
【特許文献1】特開平8−214966号公報(第3−5頁、図7−9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の搬送用カートの構造に上記のような問題があったことに鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、構成部品についての加工工程を必要とせず、組み立ても簡単で製造コストを軽減することができ、カートが振動したり緊急搬送時の移動慣性や遠心力がかかっても、トレーのガタつきや飛び出しを確実に防止することができる搬送用カートにおけるトレー押さえ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0008】
即ち、本発明は、物品を収容可能なトレー1が出し入れ自在に配置される搬送用カートにおいて、
前記トレー1の開口部周縁にはフランジ部11を成形して、かつ、このフランジ部11をカート本体の側面部にそれぞれ配設された左右一対のガイドレール2の下側ガイド部材21上に摺動自在に支持する一方、
この下側ガイド部材21の両端部には、前記フランジ部11の各端部が衝止可能なストッパー突起21aをそれぞれ形成するとともに、
可撓性材料から成る細長バネ板状の押さえ板3を弓形に屈撓変形せしめた状態で、両端部31・31を前記ガイドレール2の上側ガイド部材22に設けられた各掛止溝22a・22aにそれぞれ固定して掛架することによって中間に膨出部32を形成して、かつ、この膨出部32を下側ガイド部材21に付勢状態に接触せしめる一方、
前記フランジ部11の両端部における上面にはそれぞれ抜止め突起11aを形成し、この抜止め突起11aが押さえ板3の膨出部32の下面を通過するとき、当該押さえ板3が抜止め突起11aによる押し上げ作用に反発しつゝ撓曲変形するとともに、
トレー1がガイドレール2内に格納されたときは、押さえ板3の膨出部32によってフランジ部11の上面を付勢することによって搬送時のガタつきを抑えて、かつ、前記フランジ部11の各端部がストッパー突起21a・21aの内側に収容されるようにするという技術的手段を採用したことによって、搬送用カートにおけるトレー押さえ構造を完成させた。
【0009】
また、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、押さえ板3の端部31にアンカー凸部31aを形成する一方、このアンカー凸部31aを、ガイドレール2の掛止溝22aに嵌着可能にするという技術的手段を採用した。
【0010】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、トレー1のフランジ部11の抜止め突起11aを、ガイドレール2の上側ガイド部材の端部に形成された掛止突起22bに掛止することによって、トレー1の飛び出しを防止するという技術的手段を採用した。
【0011】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、ガイドレール2の上側ガイド部材22において、押さえ板3の逆反り防止のための凸部22cを形成するという技術的手段を採用した。
【0012】
更にまた、本発明は、上記課題を解決するために、必要に応じて上記手段に加え、押さえ板3を合成樹脂材料で作製するという技術的手段を採用した。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、物品を収容可能なトレーが出し入れ自在に配置される搬送用カートにおいて、前記トレーの開口部周縁にはフランジ部を成形して、かつ、このフランジ部をカート本体の側面部にそれぞれ配設された左右一対のガイドレールの下側ガイド部材上に摺動自在に支持する一方、この下側ガイド部材の両端部には、前記フランジ部の各端部が衝止可能なストッパー突起をそれぞれ形成するとともに、可撓性材料から成る細長バネ板状の押さえ板を弓形に屈撓変形せしめた状態で、両端部を前記ガイドレールの上側ガイド部材に設けられた各掛止溝にそれぞれ固定して掛架することによって中間に膨出部を形成して、かつ、この膨出部を下側ガイド部材に付勢状態に接触せしめる一方、前記フランジ部の両端部における上面にはそれぞれ抜止め突起を形成したことによって、
この抜止め突起が押さえ板の膨出部の下面を通過するとき、当該押さえ板が抜止め突起の押し上げ作用に反発しつゝ撓曲変形するとともに、トレーがガイドレール内に格納されたときは、押さえ板の膨出部によってフランジ部の上面を付勢することによって搬送時のガタつきを抑えて、かつ、前記フランジ部の各端部がストッパー突起の内側に収容することができる。
【0014】
したがって、本発明の搬送用カートにおけるトレー押さえ構造を使用することにより、平板状の可撓性部材をそのまま使用して、この材料の座屈現象を巧みに利用して復元による付勢力を得ることができる。
【0015】
そして、構成部品についての加工工程を必要とせず、組み立ても簡単で製造コストを軽減することができ、カートが振動したり緊急搬送時の移動慣性や遠心力がかかっても、トレーのガタつきや飛び出しを確実に防止することができることから、実用的利用価値は頗る高いものがあると云える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するための最良の形態を具体的に図示した図面に基づいて更に詳細に説明すると、次のとおりである。
【0017】
本発明の実施形態を図1から図9に基づいて説明する。図中、符号1で指示するものはトレーであり、このトレー1はプラスチック材料で作製されており、薬品や医療器具などの物品を収容可能な容器であり、開口部周縁にはフランジ部11が成形されている。
【0018】
また、符号2で指示するものはガイドレールであり、このガイドレール2は下側ガイド部材21および上側ガイド部材22を水平方向に平行に並列配置した部材であって、本実施形態では、これら下側ガイド部材21および上側ガイド部材22をプレート材から突設させてプラスチック材料により一体に成形する。
【0019】
更にまた、符号3で指示するものは押さえ板であり、この押さえ板3は可撓性材料から成る細長で平らなバネ板状の部材である。本実施形態では、この可撓性材料として合成樹脂材料で作製することができ、例えば、オレフィン系、スチレン系、塩化ビニル系、ウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系などのエラストマー材料を採用することが好ましい。
【0020】
しかして、本発明におけるトレー押さえ構造は、トレー1が出し入れ自在に配置される搬送用カートにおいて、このトレー1の移動時などのガタつきや遠心力による飛び出しを防止するための構造であって、以下のように構成する。
【0021】
まず、前記トレー1の開口部周縁にはフランジ部11を成形して、かつ、このフランジ部11をカート本体の側面部にそれぞれ配設された左右一対のガイドレール2の下側ガイド部材21上において摺動自在に支持する。
【0022】
本実施形態では、カート本体の側面部が枠体になっており、これらの支柱の間にガイドレール2を掛架しているが、側面部に板を貼り付けて、その板にガイドレール2を固定しても良い。
【0023】
また、この下側ガイド部材21の両端部には、前記フランジ部11の各端部が衝止可能なストッパー突起21aがそれぞれ形成されている。
【0024】
そして、可撓性材料から成る細長バネ板状の押さえ板3を弓形に屈撓変形せしめ、その状態を維持しながら、両端部31・31を前記ガイドレール2の上側ガイド部材22に設けられた各掛止溝22a・22aにそれぞれ固定して掛架する(図1参照)。
【0025】
こうして撓曲変形した押さえ板3の中間に膨出部32を形成し、この膨出部32を下側ガイド部材21に付勢状態に接触せしめる(図2参照)。
【0026】
また、前記フランジ部11の両端部における上面にはそれぞれ抜止め突起11aが形成されている。この抜止め突起11aは、機能的には、ガイドレール2の上側ガイド部材の端部に形成された掛止突起22bに掛止することによって、トレー1の飛び出しを防止するために設けられている。
【0027】
そして、この抜止め突起11aが押さえ板3の膨出部32の下面を通過するとき、当該押さえ板3が抜止め突起11aによる押し上げ作用に反発しつゝ、トレー1の挿入するに従い、図3から図6に示すように、撓曲変形していく。
【0028】
本実施形態では、押さえ板3の座屈(Buckling)現象を巧みに利用しており、弾性領域内で繰り返し変形させるものであるので、どの位置であってもトレー1を確実に付勢することができるとともに、トレー1に対する付勢圧力を部材全体に適度に分散させることができて大きくなり過ぎることがないので、部材の不要な摩耗を防止することができる。
【0029】
そして、トレー1がガイドレール2内に格納されたときは、図7に示すように、押さえ板3の膨出部32によってフランジ部11の上面を付勢する。
【0030】
このようにして、搬送時のガタつきを抑えて、かつ、前記フランジ部11の各端部をストッパー突起21a・21aの内側に収容することができる(図8参照)。
【0031】
なお、本実施形態では、押さえ板3の端部31には外側方向(板体の長手軸方向)への力がかかっているので、掛止溝22から抜け難い構造になっているが、図9に示すように、端部31にアンカー凸部31aを形成する一方、このアンカー凸部31aを、ガイドレール2の掛止溝22aに嵌着することにより、押さえ板3をより確実に固定することができる。
【0032】
また、本実施形態では、トレー1が挿入される際に、抜止め突起11aが押さえ板3を押圧して変形させることによって膨出部32が上に凸になったままの状態になること(逆反り)を防止するために、ガイドレール2の上側ガイド部材22に凸部22cを形成することができる。この凸部22cの形状は、左右対称に2箇所の波形に成形することによって、効果的に逆反りを防止することができ、また、図9に示すように、略中央付近に形成することもできる。
【0033】
本発明は概ね上記のように構成されるが、図示の実施形態に限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、押さえ板3は可撓性材料であれば、エラストマー系の材料に限らず、その他のプラスチック材料や、金属材料などを使用することもでき、本発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施形態の押さえ構造を表わす部分分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態の押さえ構造の使用状態を表わす説明正面図である。
【図3】本発明の実施形態の押さえ構造の使用状態を表わす説明正面図である。
【図4】本発明の実施形態の押さえ構造の使用状態を表わす説明正面図である。
【図5】本発明の実施形態の押さえ構造の使用状態を表わす説明正面図である。
【図6】本発明の実施形態の押さえ構造の使用状態を表わす説明正面図である。
【図7】本発明の実施形態の押さえ構造の使用状態を表わす説明正面図である。
【図8】本発明の実施形態のカートを表わす全体斜視図である。
【図9】本発明の実施形態の押さえ構造の変形例を表わす説明正面図である。
【符号の説明】
【0035】
1 トレー
11 フランジ部
11a 抜止め突起
2 ガイドレール
21 下側ガイド部材
21a ストッパー突起
22 上側ガイド部材
22a 掛止溝
22b 掛止突起
22c 凸部
3 押さえ板
31 端部
31a アンカー凸部
32 膨出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を収容可能なトレー1が出し入れ自在に配置される搬送用カートにおいて、
前記トレー1の開口部周縁にはフランジ部11が成形され、かつ、このフランジ部11がカート本体の側面部にそれぞれ配設された左右一対のガイドレール2の下側ガイド部材21上に摺動自在に支持されている一方、
この下側ガイド部材21の両端部には、前記フランジ部11の各端部が衝止可能なストッパー突起21aがそれぞれ形成されているとともに、
可撓性材料から成る細長バネ板状の押さえ板3を弓形に屈撓変形せしめた状態で、両端部31・31を前記ガイドレール2の上側ガイド部材22に設けられた各掛止溝22a・22aにそれぞれ固定して掛架することによって中間に膨出部32を形成して、かつ、この膨出部32を下側ガイド部材21に付勢状態に接触せしめる一方、
前記フランジ部11の両端部における上面にはそれぞれ抜止め突起11aが形成されており、この抜止め突起11aが押さえ板3の膨出部32の下面を通過するとき、当該押さえ板3が抜止め突起11aによる押し上げ作用に反発しつゝ撓曲変形するとともに、
トレー1がガイドレール2内に格納されたときは、押さえ板3の膨出部32によってフランジ部11の上面を付勢することによって搬送時のガタつきを抑えて、かつ、前記フランジ部11の各端部がストッパー突起21a・21aの内側に収容されることを特徴とする搬送用カートにおけるトレー押さえ構造。
【請求項2】
押さえ板3の端部31にアンカー凸部31aが形成されている一方、このアンカー凸部31aが、ガイドレール2の掛止溝22aに嵌着可能であることを特徴とする請求項1記載の搬送用カートにおけるトレー押さえ構造。
【請求項3】
トレー1のフランジ部11の抜止め突起11aが、ガイドレール2の上側ガイド部材の端部に形成された抜止め突起22bに掛止することによって、トレー1の飛び出しが防止されることを特徴とする請求項1または2記載の搬送用カートにおけるトレー押さえ構造。
【請求項4】
ガイドレール2の上側ガイド部材22において、押さえ板3の逆反り防止のための凸部22cが形成されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の搬送用カートにおけるトレー押さえ構造。
【請求項5】
押さえ板3が合成樹脂材料で作製されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の搬送用カートにおけるトレー押さえ構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2009−195417(P2009−195417A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39309(P2008−39309)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000105936)サカセ化学工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】