説明

搬送装置、印刷装置、及び搬送方法

【課題】ロール状に収められたシート状物の搬送装置であって、駆動輪に対するブレーキ動作を効率的かつ適確に行って、正確でトラブルの少ない搬送を実現できる搬送装置等を提供する。
【解決手段】ロール状に巻かれたシート状媒体でありロールの中心軸のまわりに回転可能なロール媒体と、当該ロール媒体からシート状媒体を送り出す駆動ローラーを有する搬送装置において、前記ロール媒体の回転に負荷を与える第一及び第二のブレーキ装置が備えられ、前記第一のブレーキ装置は、無通電状態において前記負荷を与えることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロール状に収められたシート状物の搬送装置等に関し、特に、駆動輪に対するブレーキ動作を効率的かつ適確に行って、正確でトラブルの少ない搬送を実現できる搬送装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レシートのプリンターなど、ロール状に保持されたシート状の媒体(用紙など)に対して処理を行う装置には、当該媒体を処理位置まで搬送するための装置が備えられる。当該搬送装置には、通常、ロール状に保持された媒体を搬送路に送り出す上流側ローラーと送り出された媒体を処理位置へ供給する下流側ローラーが設けられ、これらローラーの駆動により媒体が処理位置まで搬送される。また、当該装置では、一般に、ロール状に保持された媒体を回転させて、送り出した媒体を所定位置まで巻き戻す、逆搬送の動作も実行される。
【0003】
このような搬送装置において、搬送動作の終了時(停止時)やロール状媒体の人手によるセット作業時等に、ロール状媒体がそのイナーシャ等の影響で回転し過ぎてしまうことがあり得る。この回転し過ぎの現象は、媒体の不必要な弛みやロール状媒体の巻き緩みを引き起こし、その結果、搬送動作開始時において媒体に急激な負荷を与えてしまったり、正確な搬送を妨げてしまう虞がある。
【0004】
そのため、従来、ロール状媒体の回転に負荷を与えて、回転し過ぎないようにする対策が施されている。
【0005】
また、これに関連して、下記特許文献1には、ロール状シートを回転可能なスプールとシートを搬送駆動するシート搬送手段を備えるロールシート搬送装置において、シート搬送手段を駆動してシートをスプール側から送り出す際に回転負荷をスプールに作用させ、スプールを駆動してシートをスプール側に巻き戻す際に回転負荷がスプールに作用しないようにする、提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−327181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来の負荷付与においては、すなわち、ロール状媒体の回転を止めるブレーキ装置では、通常、一つのブレーキが与えられ、かつ、常に負荷を与えるように設けられたり、又は、電磁ブレーキとして具現化されていた。このように、常に負荷が加えられていると、その分大きな搬送動力が必要となり、消費電力の観点から効率的でなく、また、駆動装置の大型化を招くという課題もある。また、電磁ブレーキを用いる場合には、装置の電源がオフの状態ではブレーキが作用せず、ロール状媒体を手動でセットする際などにおける不要な回転を防ぐことができない。
【0008】
また、上記特許文献1に記載の装置のように、一つのブレーキ装置では、正方向への搬送、逆方向への搬送、また、各搬送動作の中の各速度状況等に合わせたきめ細かい調整ができず、適確なブレーキ動作が困難であるという課題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、ロール状に収められたシート状物の搬送装置であって、駆動輪に対するブレーキ動作を効率的かつ適確に行って、正確でトラブルの少ない搬送を実現できる搬送装置、等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の一つの側面は、ロール状に巻かれたシート状媒体でありロールの中心軸のまわりに回転可能なロール媒体と、当該ロール媒体からシート状媒体を送り出す駆動ローラーを有する搬送装置において、前記ロール媒体の回転に負荷を与える第一及び第二のブレーキ装置が備えられ、前記第一のブレーキ装置は、無通電状態において前記負荷を与えることが可能である、ことである。
【0011】
更に、上記発明において、好ましい態様は、更に、前記ロール媒体を回転させて前記送り出したシート状媒体を巻き戻すロール回転部を有し、前記駆動ローラーの回転に負荷を与える第三のブレーキ装置が備えられる、ことを特徴とする。
【0012】
更にまた、上記発明において、好ましい態様は、前記シート状媒体を送り出す際には前記第三のブレーキ装置は前記負荷を与えず、前記シート状媒体を巻き戻す際には前記第一及び第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度の加速中は、前記第一及び第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度が加速状態から定速状態へ移行する前後においては、前記第一のブレーキ装置は前記負荷を与え、前記第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度の減速中は、少なくとも前記第二のブレーキ装置は前記負荷を与える、ことを特徴とする。
【0013】
更に、上記発明において、好ましい態様は、前記第二のブレーキ装置が与える前記負荷は、前記第一のブレーキ装置が与える前記負荷よりも大きい、ことを特徴とする。
【0014】
更に、上記発明において、好ましい態様は、前記第三のブレーキ装置は、前記シート状媒体を巻き戻す際の回転方向に対してのみ前記負荷を与える構造である、ことを特徴とする。
【0015】
更にまた、上記発明において、好ましい態様は、前記第一のブレーキ装置は、無通電状態で前記負荷を与えるように制御される、ことを特徴とする。
【0016】
上記の目的を達成するために、本発明の別の側面は、上記いずれかに記載の搬送装置を備え、前記送り出されたシート状媒体に対して印刷を実行する印刷装置、とすることである。
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明の更に別の側面は、ロール状に巻かれたシート状媒体でありロールの中心軸のまわりに回転可能なロール媒体と、当該ロール媒体からシート状媒体を送り出す駆動ローラーと、前記ロール媒体を回転させて前記送り出したシート状媒体を巻き戻すロール回転部と、を有する搬送装置における搬送方法において、前記ロール媒体の回転に負荷を与える第一及び第二のブレーキ装置と、前記駆動ローラーの回転に負荷を与える第三のブレーキ装置が備えられ、前記シート状媒体を送り出す際には前記第三のブレーキ装置は前記負荷を与えず、前記シート状媒体を巻き戻す際には前記第一及び第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度の加速中は、前記第一及び第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度が加速状態から定速状態へ移行する前後においては、前記第一のブレーキ装置は前記負荷を与え、前記第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度の減速中は、少なくとも前記第二のブレーキ装置は前記負荷を与える、ことである。
【0018】
本発明の更なる目的及び、特徴は、以下に説明する発明の実施の形態から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明を適用した搬送装置を備える印刷装置の実施の形態例に係る概略構成図である。
【図2】ブレーキ(1)37及びブレーキ(2)38の配置を説明するための図である。
【図3】正方向搬送時における搬送制御部22の制御内容を例示したフローチャートである。
【図4】速度制御の各フェーズと各ブレーキの状態を例示する図である。
【図5】逆搬送時の搬送制御部22による制御内容を例示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態例を説明する。しかしながら、かかる実施の形態例が、本発明の技術的範囲を限定するものではない。なお、図において、同一又は類似のものには同一の参照番号又は参照記号を付して説明する。
【0021】
図1は、本発明を適用した搬送装置を備える印刷装置の実施の形態例に係る概略構成図である。図1に示すプリンター2が本実施の形態例に係る印刷装置であり、当該印刷装置には、ロール状に保持された用紙26を給紙ローラー29(上流側ローラー、駆動ローラー)及び搬送ローラー30(下流側ローラー)で印刷位置に搬送し、搬送した用紙26を巻き戻す際には、ロール回転部36の駆動により用紙26を逆搬送する、搬送装置が備えられる。そして、当該搬送装置には、3種類のブレーキ(摺動負荷装置)、ブレーキ(1)37、ブレーキ(2)38、及びブレーキ(3)39が、給紙ローラー29及びロール回転部36の駆動輪列に設けられる。これらブレーキを適宜作用させることにより、本印刷装置では、必要なタイミングで適切なブレーキを作用させることができ、効率的で正確な用紙26の搬送が実現される。
【0022】
本プリンター2は、図1に示すように、コンピューターなどのホスト装置1からの指示を受けて印刷処理を実行する装置であり、ここでは、一例として、ロール紙25(ロール媒体)を用紙26(シート状媒体)として使用し、用紙26を搬送しながら連続的に印刷を実行する印刷装置である。
【0023】
図1ではプリンター2の概略構成を模式的に示しているが、プリンター2は、印刷内容を制御し用紙26に印刷処理を実行する印刷系と用紙26の搬送を担う搬送系が備えられる。
【0024】
印刷系には、印刷制御部21が設けられ、当該印刷制御部21は、ホスト装置1からの印刷指示を受信し、当該指示に従ってヘッド部23に印刷命令を出すと共に搬送系の搬送制御部22に対して用紙26の搬送要求を出す。ヘッド部23では、当該印刷命令に従ってヘッド部23とプラテン24との間を所定速度で移動する用紙26に対して印刷処理を実行する。
【0025】
搬送系では、図1に示されるように、印刷媒体の格納(保持)場所にロール紙25として保持される用紙26を、搬送路33に沿って正方向(下流方向)に連続搬送し、印刷済みの部分をカッター34で切断して排紙ローラー32を介してプリンター2から排出する動作を実行する。また、当該搬送動作の後などに、用紙26の先端がヘッド部23よりも上流側の所定位置(頭出し位置)に来るように逆方向(上流方向)への逆搬送動作も実行する。
【0026】
当該搬送系には、それぞれ対応するモーター(27A及び27B)で駆動される給紙ローラー29(上流側ローラー)及び搬送ローラー30(下流側ローラー)が備えられる。当該両ローラーには、それぞれ、用紙26を挟んで対向する位置に従動ローラー(28A及び28B)が配置される。各従動ローラーは、用紙26の面に垂直方向に移動可能であり、上下二つの位置を取ることができる。用紙26と接する下の位置では、用紙26の面に垂直下向きの力が付勢され、各ローラー(29、30)と共に用紙26を挟んで、用紙26の面と垂直な方向の力で用紙26を押さえている。この状態を、ここではニップ状態と呼ぶこととする。また、用紙26から離間した上の位置では、この用紙26を押さえる力は作用せず、この状態をレリース状態と呼ぶこととする。
【0027】
給紙ローラー29は、ロール紙25として保持される用紙26を搬送路33に供給する機能を有し、減速機(駆動輪列)を介して伝えられるモーター27Aのトルクによって回転し、従動ローラー28Aと共に押圧する用紙26との間の摩擦力によって用紙26を移動させる。また、当該ローラーは用紙26を逆搬送する際にも用いられる。
【0028】
搬送ローラー30は、給紙ローラー29によって供給された用紙26を印刷位置へ、すなわち、ヘッド部23の位置へ搬送する機能を有し、減速機を介して伝えられるモーター27Bのトルクによって回転し、従動ローラー28Bと共に押圧する用紙26との間の摩擦力によって用紙26を移動させる。
【0029】
また、給紙ローラー29及び搬送ローラー30には、それぞれ、エンコーダー31A及び31Bが設けられ、それらによって検知される両ローラーの回転が搬送制御部22へ通知される。
【0030】
次に、搬送系には、ロール回転部36が備えられる。ロール回転部36は、ロール紙25として保持される用紙26を回転させ、送り出した用紙26を巻き取る動作を実行する。当該ロール回転部36は、モーター27Cによって駆動され、モーター27Cのトルクを伝達する減速機(駆動輪列362)、減速機を介して伝えられる前記トルクによって回転する、ロール紙25の芯内を貫通するロール軸361などで構成される。
【0031】
また、ロール回転部36にもエンコーダー31Cが設けられ、それらによって検知されるロール紙25の回転が搬送制御部22へ通知される。
【0032】
次に、搬送系には、前述のとおり3種類のブレーキ、ブレーキ(1)37、ブレーキ(2)38、及びブレーキ(3)39が備えられる。そのうち、ブレーキ(1)37及びブレーキ(2)38は、ロール回転部36の駆動輪列に設けられる。
【0033】
図2は、ブレーキ(1)37及びブレーキ(2)38の配置を説明するための図である。図2には、モーター27Cを含めたロール回転部36の構成を模式的に示しており、図に示されるように、モーター軸271Cとロール軸361は、複数の駆動輪からなる駆動輪列362で接続され、モーター軸271Cの回転が所定の回転数に減速されてロール軸361に伝達される。
【0034】
ここに示す例では、駆動輪Aにブレーキ(1)37及びブレーキ(2)38が備えられており、それぞれ、ブレーキ力(摺動負荷)を作用させている際には、駆動輪Aの回転を止める力を付与する。すなわち、ロール軸361の外周に取り付けられているロール紙25の回転を停止させる力を与える。
【0035】
ブレーキ(1)37には、ブレーキ力を作用させるか否かの制御(オン/オフの制御)は電気的に行われ、ブレーキ力の付与自体は機械的に行われる装置を採用する。具体的な構造としては従前に用いられているいくつかの構成を用いることができるが、例えば、駆動輪Aにその軸方向から接触して、互いに回転不可に固定され、駆動輪Aと同軸の回りに回転を抑えるコイルばねが設けられる輪を、上記軸方向に移動させ駆動輪Aとの接触/非接触により上記オン/オフの制御を行う装置とすることができる。従って、後述する搬送制御部22の制御によってオン状態とされていれば、その後、通電状態でなくてもブレーキ力を付与することができる。なお、ブレーキ(1)37は、回転の方向に関わらずブレーキ力を付与できるものとする。
【0036】
また、ブレーキ(2)38は、ブレーキ(1)37よりも大きなブレーキ力を付与できる装置であり、搬送制御部22の制御によってオン/オフの制御が可能である。具体的な構造としては、電磁ブレーキ、電磁クラッチなど従前のものを用いることができる。また、ブレーキ(2)38は、少なくとも、用紙26を正方向(下流方向)に搬送する際の回転方向に対してブレーキ力を付与できるものとする。
【0037】
また、ブレーキ(3)39は、前述した給紙ローラー29の回転にブレーキ力を付与するものであり、モーター27Aと給紙ローラー29をつなぐ駆動輪列に設けられる。ブレーキ(3)39の配置については図示していないが、図2に示したブレーキ(1)37、ブレーキ(2)38と同様に、駆動輪列内のいずれかの駆動輪に対して摺動負荷を加えるように設けられる。また、当該ブレーキ(3)39は、用紙26を逆方向(上流方向)に搬送する際の回転方向に対してのみブレーキ力を付与できる装置を採用する。具体的な構造は、いわゆるワンウェイクラッチなど従前のものを使用することができ、常にブレーキ力を作用させる状態(オン状態)としても良いし、搬送制御部22の制御によって、オン/オフ制御を行っても良い。
【0038】
次に、図1に示す搬送制御部22は、搬送系を制御する部分であり、印刷制御部21からの指示に基づいて用紙26の上記搬送動作を制御する。特に、給紙ローラー29、搬送ローラー30及びロール回転部36の駆動・停止を制御して正方向及び逆方向への用紙26の良好な搬送を実行させる。また、上述のとおり、各ブレーキ37−39のオン/オフ制御も行い、この制動制御に本プリンター2の特徴があり、その具体的内容については後述する。
【0039】
搬送制御部22は、図示していないが、CPU、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性メモリ)等で構成されており、搬送制御部22が実行する上記処理は、主にROMに格納されるプログラムに従ってCPUが動作することによって実行される。
【0040】
上記RAMには、処理に必要な各データが一時的に保持され、給紙ローラー29、搬送ローラー30及びロール回転部36等の駆動・停止制御に必要な上記各エンコーダー31の検出値等が記憶される。
【0041】
なお、給紙ローラー29、搬送ローラー30、ロール回転部36、各ブレーキ37−39及び搬送制御部22を含む当該搬送系が本発明の搬送装置に相当する。
【0042】
以上説明したような構成を有する本プリンター2では、各ブレーキ37−39を用いた制動制御に特徴があり、以下、その具体的な内容について説明する。
【0043】
本プリンター2では、前述のとおり、印刷時などに用紙26を正方向に搬送する動作、印刷終了後などに用紙26を逆方向に巻き取る動作がなされるが、それら各動作において制動の仕方が異なる。まず、正方向への搬送時における制動内容を説明する。
【0044】
図3は、正方向搬送時における搬送制御部22の制御内容を例示したフローチャートである。まず、搬送制御部22は、印刷制御部21から正転搬送(正方向搬送)の指示を受信すると(ステップS1)、各ブレーキ37−39を適切なオン/オフ状態に設定する制御を行う(ステップS2)。この時点では、搬送速度がゼロであり、これから加速状態に入るので、ブレーキ37−39の全てをオフの状態、すなわち、ブレーキ力が作用しない状態に設定する。すでにオフの状態になっている場合にはそのままの状態とする。なお、ブレーキ(3)39については、正方向への搬送においてはブレーキ力が作用しないので、この方向の搬送に関しては常にオフの状態であるとみなすことができる。
【0045】
その後、搬送制御部22は、給紙ローラー29及び搬送ローラー30をニップ状態で起動し、用紙26の搬送を開始する(ステップS3)。本プリンター2においては、予め定めた一定の速度(目標速度Vt)で用紙26を搬送するので、その後、搬送制御部22は、その速度に達するまで、加速制御を行う(ステップ4)。なお、本プリンター2における搬送速度の制御は、予め定めた速度曲線に沿うように前述した各エンコーダー31の検出値に基づいたPID制御を行う、ことによって実行される。
【0046】
図4は、速度制御の各フェーズと各ブレーキの状態を例示する図である。図4の(A)は、正方向搬送時における搬送速度の経時変化を例示したグラフであり、上記加速制御は、当該グラフのT(a)のフェーズに相当する。すなわち、目標速度Vtまで加速されている期間に相当する。
【0047】
図4の(C)は、速度制御等の各フェーズにおける各ブレーキ37−39の状態を示した図である。上述のとおり、加速制御では、その前に全てのブレーキ37−39がオフ状態にされているので、加速中は全てのブレーキ37−39がブレーキ力を作用させない状態であり、動力のロスが無く、効率的に搬送速度を上昇させることができる。
【0048】
その後、搬送制御部22は、搬送速度が上記目標速度Vtに達する前後の所定のタイミングで、ブレーキ(1)37をオン状態に設定する(ステップS5)。このとき、他のブレーキ(2)38、(3)39についてはオフ状態のままとする。上記所定のタイミングは、目標速度Vtに近い所定の速度に達したタイミング、目標速度Vtに達したタイミング、搬送開始後所定の搬送量に達したタイミングなどとすることができ、予め定められている。
【0049】
その後、搬送速度が目標速度Vtに達すると、搬送制御部22は、定速制御を行う(ステップS6)。この状態は、図4では、フェーズT(b)に相当し、図4の(C)に示すブレーキの状態で加速状態から定速状態へ移行する。すなわち、ブレーキ(1)37のみが作用している状態で加速度が減少してゼロになる。
【0050】
この加速度が減少するフェーズでは、ロール紙25が惰性で用紙26の速度以上に回転してしまい用紙26の弛み等が発生する虞があるが、ブレーキ(1)37の制動力によってそれが抑えられる。
【0051】
その後、定速状態が終了する場合、すなわち、印刷処理などが終了し正方向への搬送を停止し始めようとする際には、搬送制御部22は、搬送速度が上記目標速度Vtから減少し始める前後の所定のタイミングで、ブレーキ(2)38をオン状態に設定する(ステップS7)。このとき、ブレーキ(3)39はオフ状態のままであり、ブレーキ(1)37もオフ状態とするが、ブレーキ(1)37及びブレーキ(2)38のブレーキ力によっては、ブレーキ(1)37をオン状態とする制御としてもよい。なお、上記所定のタイミングは、速度が目標速度Vtから下がり始めたタイミング、搬送開始後所定の搬送量に達したタイミングなどとすることができ、予め定められている。
【0052】
そして、搬送制御部22は、搬送を停止すべく減速制御を行う(ステップS8)。この減速は、図4においてT(c)のフェーズに相当し、図4の(C)に示すように、ブレーキ(2)38、又は、ブレーキ(1)37及び(2)38のブレーキ力がロール回転部36に作用するので、減速から停止にかけてロール紙25のイナーシャによりロール紙25が回転し過ぎてしまうことが適切に抑えられる。なお、上述した加速から定速に至る際よりも、この減速、停止時におけるロール紙25の惰性力が大きいので、より大きなブレーキ力が作用するように制御されている。
【0053】
その後、搬送制御部22は、給紙ローラー29及び搬送ローラー30の駆動を停止し(ステップS9)、今回指示のあった搬送動作を終了する。その後、ブレーキ(2)38をオフ状態に設定する(ステップS10)。なお、ブレーキ(1)37については、次に搬送動作を行うことがわかっていればオフ状態とし、そうでなければオン状態とする。
【0054】
次に、逆方向へ搬送する際の制御について説明する。図5は、逆搬送時の搬送制御部22による制御内容を例示したフローチャートである。まず、搬送制御部22は、印刷制御部21から逆転搬送(逆方向搬送)の指示を受信すると(ステップS11)、各ブレーキ37−39を適切なオン/オフ状態に設定する制御を行う(ステップS12)。具体的には、ブレーキ(1)37及びブレーキ(2)38についてはオフ状態とし、ブレーキ(3)39についてはオン状態とする。
【0055】
その後、搬送制御部22は、給紙ローラー29をニップ状態でロール回転部36を起動し(ステップS13)、所定の速度で搬送制御を実行し(ステップS14)、目標の搬送量に達するとロール回転部36の駆動を停止する(ステップS15)。なお、制御方法は、正方向の搬送の場合と同様にPID制御によって行う。
【0056】
図4の(B)は、逆搬送時における搬送速度の経時変化を例示したグラフであり、上記搬送制御では、目標速度(Vrt)への加速制御、目標速度での定速制御、及び停止までの減速制御が行われる。当該搬送制御中は、すなわち、フェーズT(d)では、図4の(C)に示すように、ブレーキ(3)39のブレーキ力が給紙ローラー29に作用しているので、ロール紙25の回転が減速、停止する際に、給紙ローラー29が惰性によって回転し過ぎてしまうことを抑えることができ、用紙26の弛み発生を防止することができる。
【0057】
このようにして、指示を受けた逆搬送の動作を終了すると、搬送制御部22は、ブレーキ(1)37をオンの状態に設定する(ステップS16)。なお、次に、搬送操作を行うことがわかっている場合にはオフの状態とする。
【0058】
また、搬送制御部22は、プリンター2の電源がオフにされ得る状態では、常に、ブレーキ(1)37をオン状態に設定する。すなわち、ロール紙25のセットを人手で行う際などのプリンター2が無通電時においてブレーキ(1)37のブレーキ力が作用する状態としておく。これにより、ロール紙25が必要以上に廻り過ぎて用紙26の弛みやロール紙25の巻き緩みが発生してしまうことを抑えることができる。なお、ブレーキ(2)38及びブレーキ(3)39については、この状態では、図4の(C)に示されるように、オフ状態としておく。
【0059】
以上説明したように、本実施の形態例に係るプリンター2では、ロール回転部36に2つのブレーキが設けられ、それぞれ独立してオン/オフ状態にすることができるので、ブレーキ力を作用させるか否か、ブレーキ力の大小を制御することができ、状況に応じた適切な制動を実行することが可能である。具体的には、上述のとおり、加速から定速に移行する際、減速から停止する際に、適切な制動を行うことができる。これにより、不必要な用紙26の弛み発生を防止することができる。
【0060】
また、加速時には、ブレーキ力を作用させないように制御できるので、電力消費の観点からも効率的であり、無駄なモーターの大型化を必要としない。
【0061】
また、プリンター2の電源がオフにされている際にも一定の制動がなされるので、ロール紙25のセット時やプリンター2の移動時に不必要にロール紙25が回転してしまい、用紙26の弛みやロール紙25の巻き緩みが発生してしまうことを防止することができる。
【0062】
また、給紙ローラー29にもブレーキが備えられ、巻き戻し時に必要以上に用紙26が巻き戻されてしまうことを防止することができる。これは、不必要な用紙26の弛み発生を防止すると共に、搬送後の用紙位置を正確に保つことができる。
【0063】
また、そのブレーキ(3)39のブレーキ力を片方向のみに作用するように構成することによって、常に、オン状態とすることができ、制御を容易にすることができる。
【0064】
以上のように、本プリンター2では、正方向及び逆方向の搬送時、また、無通電時において、各状況に相応しい適確な制動を実行することができる。
【0065】
なお、本実施の形態例では、印刷媒体が紙であったがシート状の媒体であればこれに限定されることはない。
【0066】
また、本実施の形態例では、搬送装置がプリンターに設けられたが、本発明を適用した搬送装置は、シート状物に機械加工、レーザー加工、液体噴射加工などの各種処理を施す装置に設けて利用することができる。
【0067】
本発明の保護範囲は、上記の実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【符号の説明】
【0068】
1 ホスト装置、 2 プリンター、 21 印刷制御部、 22 搬送制御部、 23 ヘッド部、 24 プラテン、 25 ロール紙、 26 用紙、 27A、B、C モーター、 28A、B 従動ローラー、 29 給紙ローラー、 30 搬送ローラー、 31A、B、C エンコーダー、 32 排紙ローラー、 33 搬送路、 34 カッター、 36 ロール回転部、 37 ブレーキ(1)、 38 ブレーキ(2)、 39 ブレーキ(3)、 271C モーター軸、 361 ロール軸、 362 駆動輪列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロール状に巻かれたシート状媒体でありロールの中心軸のまわりに回転可能なロール媒体と、当該ロール媒体からシート状媒体を送り出す駆動ローラーを有する搬送装置であって、
前記ロール媒体の回転に負荷を与える第一及び第二のブレーキ装置が備えられ、
前記第一のブレーキ装置は、無通電状態において前記負荷を与えることが可能である
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
請求項1において、
更に、前記ロール媒体を回転させて前記送り出したシート状媒体を巻き戻すロール回転部を有し、
前記駆動ローラーの回転に負荷を与える第三のブレーキ装置が備えられる
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記シート状媒体を送り出す際には前記第三のブレーキ装置は前記負荷を与えず、前記シート状媒体を巻き戻す際には前記第一及び第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、
前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度の加速中は、前記第一及び第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、
前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度が加速状態から定速状態へ移行する前後においては、前記第一のブレーキ装置は前記負荷を与え、前記第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、
前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度の減速中は、少なくとも前記第二のブレーキ装置は前記負荷を与える
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記第二のブレーキ装置が与える前記負荷は、前記第一のブレーキ装置が与える前記負荷よりも大きい
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項において、
前記第三のブレーキ装置は、前記シート状媒体を巻き戻す際の回転方向に対してのみ前記負荷を与える構造である
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項において、
前記第一のブレーキ装置は、無通電状態で前記負荷を与えるように制御される
ことを特徴とする搬送装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の搬送装置を備え、前記送り出されたシート状媒体に対して印刷を実行する印刷装置。
【請求項8】
ロール状に巻かれたシート状媒体でありロールの中心軸のまわりに回転可能なロール媒体と、当該ロール媒体からシート状媒体を送り出す駆動ローラーと、前記ロール媒体を回転させて前記送り出したシート状媒体を巻き戻すロール回転部と、を有する搬送装置における搬送方法であって、
前記ロール媒体の回転に負荷を与える第一及び第二のブレーキ装置と、前記駆動ローラーの回転に負荷を与える第三のブレーキ装置が備えられ、
前記シート状媒体を送り出す際には前記第三のブレーキ装置は前記負荷を与えず、前記シート状媒体を巻き戻す際には前記第一及び第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、
前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度の加速中は、前記第一及び第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、
前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度が加速状態から定速状態へ移行する前後においては、前記第一のブレーキ装置は前記負荷を与え、前記第二のブレーキ装置は前記負荷を与えず、
前記シート状媒体を送り出す際の搬送速度の減速中は、少なくとも前記第二のブレーキ装置は前記負荷を与える
ことを特徴とする搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−28431(P2013−28431A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165236(P2011−165236)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】