説明

搬送装置および係入離脱防止機構

【課題】 駆動チェーンの上方で走行する走行体のストレージを可能にする搬送装置、および、走行体の走行時にのみ作動し、ストレージ状態であるときには作動しない離脱防止機構を備えた搬送装置を提供し、さらに、上記搬送装置に最適な係入離脱防止機構を提供する。
【解決手段】 駆動部材2は、駆動チェーン1から上方に突出する駆動伝達部21と、内リンクに装着された車輪部15〜18とで構成される。走行体3は、進行方向の前後に分離して配置された前方走行基部31および後方走行基部32と、両走行基部のそれぞれに設けられた走行車輪36,37と、両走行基部に支持されてなる走行台部33と、一方の端部を前方に突出してなる揺動部材6と、この揺動部材の他方の端部に設けられた被伝達部材65と、前方走行基部に設けられ順走防止部材7とで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロア搬送のための搬送装置および当該搬送装置の走行体に係入する駆動力の伝達部材の離脱防止機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加工工場や塗装工場においては、吊り下げ式の搬送装置(いわゆるオーバーヘッドコンベア)が主流であった。この種の搬送装置は、工場内の天井にレールが設置され、そのレールに沿ってトローリが移動することから、工場内のフロアを自由に使用できるというメリットがあった。しかし、搬送軌道の変更や装置のメンテナンスなどを行う際には、工場内の天井において作業しなければならず、工場内の稼動を一時的に中止せざるを得なかった。また、トローリが移動するときに微細な塵などが落下することがあり、塗装工場では、このような塵が塗装面に付着する場合には、塗装状態の不良の原因となっていた。そのため、最近では、工場における工程内容に応じて、オーバーヘッドコンベアに代えて床上搬送装置(いわゆるフロアコンベア)を採用する場合が増加している。
【0003】
そこで、本願出願人は、フロアコンベアをオーバーヘッドコンベアと同様の仕様とすべく、トローリに代わる走行体を開発し、当該走行体の一時停止機構(いわゆるストレージ機構)および順走防止機構を採用している(特許文献1および2参照)。これらの技術は、走行体が走行し得る軌道レールの上方を駆動チェーンが移動し、当該駆動チェーンから下方に突出するペンダントによって走行体の一部を引っ掛けるようにして駆動力を伝達する構造であった。
【特許文献1】実登第3086461号公報(図9、図10)
【特許文献2】実登第3107723号公報(図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の従来技術は、上述のように、走行体の走行軌道よりも上方に駆動チェーンが配置され、この走行体によって移動すべき搬送物が駆動チェーンの上方に位置することとなっていたことから、搬送物は走行体から離れることとなり、走行体を不安定にする原因の一つとなっていた。また、無端縁の駆動チェーンに駆動力を付与するためには、駆動モータやテークアップギアを配置する必要があり、これらの駆動モータとの噛合のために、走行体が走行する軌道から駆動チェーンを逸らす必要があった。そして、このような駆動チェーンの配置には、走行体の走行軌道を遮断しないように考慮しなければならず、これらの設計上の制約が多くならざるを得なかった。そこで、本願出願人は、駆動チェーンを走行軌道の下方に配置することとし、走行体の走行軌道が配置される領域と駆動チェーンが配置される領域を分離することによって、駆動チェーンが走行体の走行軌道に制約を受けないような構成とした。
【0005】
そして、上記構成の搬送装置においては、駆動チェーンから突出する駆動伝達部が走行体の下部に係入することにより、駆動チェーンの駆動力を走行体に伝達する構成としたのである。ここで、駆動チェーンの駆動伝達部による係入を許容するためには、当該駆動伝達部の当接を受ける被伝達部材を設けることにより可能であるが、停止した状態の走行体に対して所定速度で移動する駆動伝達部が突然駆動力を伝達した場合、または、下り傾斜の軌道に沿って走行体が移動する場合には、当該走行体の被伝達部材が駆動伝達部から離脱する(駆動伝達部より前方に移動する)状態となることがあった。
【0006】
さらに、上記問題点を解消すべく、順走防止機構を設けることが考えられるが、走行体がストレージ状態(所定位置で一時的に停止した状態)にある場合には、そもそも駆動力を伝達する必要がないため、順走防止機構が作動する必要もないのである。すなわち、順走防止機構は、駆動チェーンによる駆動力の伝達を受けて走行しているときにのみ、駆動力を伝達すべき部材が走行体から離脱することを防止すれば必要かつ十分である。そこで、走行体がストレージ状態である間は作動しない離脱防止装置が必要となった。
【0007】
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、駆動チェーンの上方で走行する走行体のストレージを可能にする搬送装置、および、走行体の走行時にのみ作動し、ストレージ状態であるときには作動しない離脱防止機構を備えた搬送装置を提供し、さらに、上記搬送装置に最適な係入離脱防止機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、搬送装置にかかる本発明は、連続する駆動チェーンと、この駆動チェーンに適宜間隔で設けられた駆動部材と、この駆動部材の係入を許容して駆動力が付与される走行体とを備え、上記走行体に搬送物を設置または載置できるように構成された搬送装置において、上記駆動部材は、上記駆動チェーンを構成する任意の外リンクから上方に突出する駆動伝達部と、この外リンクの前後に連結する内リンクの双方に装着された車輪部とを備え、上記走行体は、進行方向の前後に分離して配置された前方走行基部および後方走行基部と、この二つの走行基部のそれぞれの両側から横方向に突出しつつ設けられた走行車輪と、上記両方の走行基部を連結しつつ該走行基部に支持されてなる走行台部と、上記前方走行基部に設けられ、一方の端部を上記走行台部よりも前方に突出してなる揺動部材と、この揺動部材の他方の端部に設けられ、上記駆動伝達部の当接を許容する被伝達部材と、上記前方走行基部に設けられ、上記被伝達部材から上記駆動伝達部の係入可能な間隔を保持する順走防止部材とを備え、上記駆動チェーンの下方で該駆動チェーンの移動方向に沿って上記車輪部の転動を許容する駆動用レールと、上記走行体の走行車輪が転動できる走行レールとが、それぞれ配置されていることを特徴とする搬送装置を要旨としている。
【0009】
このような構成によれば、前方走行基部に設けられた揺動部材の一方端部が上昇するとき他方端部(被伝達部材)が下降し、また、一方端部が下降するとき他方端部(被伝達部材)が上昇することとなるから、一方端部が上昇して他方端部が下降する状態において、駆動チェーンの駆動伝達部による被伝達部材の当接が許容されることとなる。そして、当該揺動部材の一方端部が下降するとき、被伝達部材が昇降して駆動伝達部の当接を回避することとなり、これにより走行体全体が駆動力の伝達を受けずにストレージ状態となるのである。なお、揺動部材の一方端部が下降するためには、当該端部を下降させるための手段が必要となるが、所定の停止位置において、当該一方端部を下方に案内する案内部材を設けるか、または先行してストレージ状態にある走行体の後端部に案内部材を設けることにより、一方端部を下降させることは可能である。
【0010】
そして、上記発明における順走防止部材は、前記前方走行基部に回動自在に軸支されるとともに、一方向に付勢され、かつ所定の回動位置において回動を規制される構成とすることができる。このような構成であれば、順走防止部材は一方向にのみ自在に回転できる状態となり、ストレージ状態における走行体の下方を駆動伝達部が通過する場合であっても、駆動伝達部は順走防止部材を一旦回転させることとなるが、通過後には再び付勢力によって復元される。したがって、この順走防止部材は、駆動伝達部が被伝達部材に当接するときのみ順走防止機構として作動するが、駆動伝達部が被伝達部材に当接しないときは、特別の機能を発揮することはない。ここで、順走とは、走行体が軌道上を順方向に走行することをいい、順走防止とは、駆動伝達部よりも速く順走するような状況下(下り傾斜走行時など)において、当該駆動伝達部からの離脱防止を意味する。
【0011】
また、搬送装置にかかる本発明は、連続する駆動チェーンと、この駆動チェーンに適宜間隔で設けられた駆動部材と、この駆動部材の係入を許容して駆動力が付与される走行体とを備え、上記走行体に搬送物を設置または載置できるように構成された搬送装置において、上記駆動部材は、上記駆動チェーンを構成する任意の外リンクから上方に突出する駆動伝達部と、この外リンクの前後に連結する内リンクの双方に装着された車輪部とを備え、上記走行体は、進行方向の前後に分離して配置された前方走行基部および後方走行基部と、この二つの走行基部のそれぞれの両側から横方向に突出しつつ設けられた走行車輪と、上記両方の走行基部を連結しつつ該走行基部に支持されてなる走行台部と、上記前方走行基部に設けられ、該前方走行基部の下方斜め前方および下方斜め後にそれぞれ突出する二股状の被係入基部と、この被係入基部の前方突出端に支持され、一方の端部を上記走行台部よりも前方に突出してなる揺動部材と、この揺動部材の他方の端部に設けられ、上記駆動伝達部の当接を許容する被伝達部材と、上記被係入基部の後方突出端に回動自在に軸支され、先端が下方に突出する方向に付勢されるとともに、該先端が上記駆動伝達部の後方に位置するときに上記回動が停止する偏心の順走防止部材とを備え、上記駆動チェーンの下方で該駆動チェーンの移動方向に沿って上記車輪部の転動を許容する駆動用レールと、上記走行体の車輪が転動できる走行レールとが、それぞれ配置されていることを特徴とする搬送装置をも要旨としている。
【0012】
上記構成によれば、前方走行基部から前後方向に分岐する二股状の被係入基部において、揺動部材の被伝達部材と、順走防止部材の先端とが、上記被係入基部の二股の両端から対向する方向に接近して配置されることとなり、駆動チェーンの駆動伝達部が、両者(被伝達部材と順走防止部材先端)の中間に係入することによって後退を防止されつつ駆動力を伝達できることとなる。そして、走行体をストレージするときには、揺動部材の一方端部を下降することにより、被伝達部材を上昇させることによって、駆動伝達部の係入が解除されるのである。また、順走防止部材は偏心された回動部材であるから、その回動状態によって、駆動伝達部の後方において当該駆動伝達部に当接できるか否かが決定することとなるのである。
【0013】
そして、上記発明の順走防止部材は、その先端を前記被伝達部材に対向する方向から下方向に向かって回動が付勢され、かつ、該先端付近から前記揺動部材に向かって延出するレバーアームが設けられ、このレバーアームが上記被伝達部材の上部に当接可能に配置された構成とすることができる。このような構成であれば、走行体が走行状態である場合、順走防止部材の先端および被伝達部材が下降し、両者の中間に駆動伝達部が係入した状態となるが、ストレージ状態である場合には、被伝達部材が上昇するとともに、順走防止部材の先端も上昇することとなり、駆動チェーンにより移動する駆動伝達部は、順走防止部材および揺動部材に当接することなく通過することとなる。
【0014】
一方、係入離脱防止機構にかかる本発明は、連続する駆動チェーンと、この駆動チェーンに適宜間隔で設けられた駆動部材と、この駆動部材の係入を許容して駆動力が付与される走行体とを備え、上記駆動部材は、上記駆動チェーンを構成する任意の外リンクから上方に突出する駆動伝達部と、この外リンクの前後に連結する内リンクの双方に装着された車輪部とで構成され、上記走行体は、進行方向の前後に分離して配置された前方走行基部および後方走行基部と、この二つの走行基部のそれぞれの両側から横方向に突出しつつ設けられた走行車輪と、上記両方の走行基部を連結しつつ該走行基部に支持されてなる走行台部とで構成され、上記駆動チェーンの下方で該駆動チェーンの移動方向に沿って上記車輪部の転動を許容する駆動用レールと、上記走行体の車輪が転動できる走行レールとが、それぞれ配置されている搬送装置において、上記前方走行基部に設けられ、該前方走行基部の下方斜め前方および下方斜め後にそれぞれ突出する二股状の被係入基部と、この被係入基部の前方突出端に支持され、一方の端部を上記走行台部よりも前方に突出してなる揺動部材と、この揺動部材の他方の端部に設けられ、上記駆動伝達部の当接を許容する被伝達部材と、上記被係入基部の後方突出端に回動自在に軸支され、先端が下方に突出する方向に付勢されるとともに、該先端が上記駆動伝達部の後方に位置するときに上記回動が停止する偏心の順走防止部材とで構成された係入離脱防止機構であって、上記順走防止部材は、その先端付近から前記揺動部材に向かって延出するレバーアームが設けられ、このレバーアームが上記被伝達部材の上部に当接可能に配置された順走防止部材であることを特徴とする係入離脱防止機構を要旨としている。
【0015】
上記構成によれば、駆動チェーンから上方に突出する駆動伝達部が被係入基部の被伝達部材に当接しないとき、すなわち、走行体に係入しないときには、被伝達部材が上昇した状態であり、この被伝達部材が上昇することにあわせて順走防止部材のレバーアームが持ち上げられることとなる。そして、このレバーアームが持ち上げられることによって、順走防止部材の先端は偏心の軸心を中心に回動して先端を上昇させることとなる。このように、被伝達部材および順走防止部材先端が同時に上昇することにより、駆動チェーンの駆動伝達部は、走行体のいずれの部分にも接触することがなく、ストレージ状態の走行体の下方を駆動伝達部が通過する場合であっても、衝突音などを発生させることがない。
【発明の効果】
【0016】
搬送装置にかかる本発明によれば、駆動チェーンの上方において走行体を走行させる構造の搬送装置を実現することができる。そして、その搬送装置の走行体は、順走防止機構によって後退を防止されつつ走行できるとともに、また、順走防止機構を備えつつストレージ状態を実現させることができる。
【0017】
また、順走防止部材について、所定の回動方向に付勢される構成とする場合には、この付勢に抗して当該順走防止部材を回動させる状態で駆動伝達部が接触することにより、当該駆動伝達部は順走防止部材の制限を受けることなく走行体の下方を通過でき、その通過後には付勢力によって復元できることとなる。したがって、駆動伝達部が駆動チェーンと同方向に駆動力を作用させるときは、順走防止部材をその付勢に抗して回転させ、その結果として、順走防止機能は作用しないこととなり、また、逆向きに外力が作用するとき(走行体が後退するとき)においては、順走防止部材は回転せずに所定状態を維持し、本来的な機能である順走防止機能を発揮させることができるのである。
【0018】
さらに、揺動部材に設けられた被伝達部材の上部に順走防止部材から延出するレバーアームを当接させた構成であれば、走行体がストレージ状態であるとき、被伝達部材のみならず順走防止部材先端も駆動伝達部に当接することがないので、通過する駆動伝達部との衝突音を発生させないこととなり、騒音の防止に資することとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。搬送装置にかかる第一の実施形態は、図1に示すように、連続する駆動チェーン1と、この駆動チェーン1に適宜間隔で設けられた駆動部材2と、この駆動部材2の係入を許容して駆動力が付与される走行体3とを備えており、上記走行体3に搬送物(図示せず)を設置または載置できるように構成されたものである。
【0020】
駆動チェーン1は、外リンク11と内リンク12とで構成されるが、駆動部材2が設けられる部分の外リンク11には、その上部リンクパネル13が駆動伝達部21を有するリンクパネル22に代替されている。この駆動伝達部21は、駆動チェーン1の進行方向に所定面積を有する板状部材で構成されており、後述の被伝達部材との当接を確保している。また、このような外リンク11の前後に連続する内リンク12,14には、駆動チェーン1の幅方向両側に車輪部15,16,17,18が設けられており、この車輪部15〜18が駆動用レール4の内部に配置されて、当該駆動用レール4の所定軌道に沿って駆動伝達部21が移動できるように構成されている。
【0021】
走行体3は、その進行すべき方向の前後に分離した走行基部31,32(進行方向前側を前方走行基部31、後側を後方走行基部32と称する)が配置されており、この両走行基部31,32を上部で連結するように走行台部33が設けられている。前方走行基部31および後方走行基部32の双方には、それぞれの左右両側において横方向に突出する車軸34,35が設けられ、その両端には走行車輪36,37が装着されている。そして、この走行車輪36,37が走行レール5の内側底面部51,52を転動することによって、当該走行レール5の内部を走行できるようになっている。
【0022】
なお、上記走行レール5は、断面コ字形の二つの部材を各端縁53,54,55,56が所定の間隙57,58を有しつつ対向するように配置して構成されており、上記走行車輪36,37を当該走行レール5の内側底面部51,52の表面に載置するとき、走行台部33は走行レール5の上部間隙57を通過して、レール5の上方に位置するようになっている。また、レール5の下部間隙58が構成されていることにより、走行基部31,32の一部が当該間隙58を通過して下方に露出することとなり、駆動チェーン1に設けられた駆動伝達部21の係入を可能にしている。さらに、上記走行基部31,32には、走行車輪36,37の上部に、軸心を垂直方向にする4つの車輪が配置された横向き車輪群38,39が設けられ、この車輪群38,39が前記走行レール5の上部間隙57と同じ高さに配置されることによって、走行体3が横転しないようにその姿勢が維持されている。
【0023】
上記構成の走行基部31,32のうち、前方走行基部31には、揺動部材6と順走防止部材7が装着されている。図2において詳細に示すように、揺動部材6は、長手方向を走行体3の進行方向に略平行となるように設けられ、一方端部(前方端部)61は走行台部33および前方走行基部31よりも前方に突出して設けられている。この揺動部材6の揺動軸62は、前方端部61と他方端部(後方端部)63との中央よりも少し前方側に位置して設けられ、重量のバランスは後方側が重くなっている。したがって、揺動部材6に外力が作用しない状態では、後方端部63が下降するように構成されている。そして、この後方端部63が下降した状態においては、当該後方端部63に横架される被伝達部材65に対して駆動伝達部21(図1)が当接できるようになっているのである。
【0024】
なお、上記揺動部材6は、揺動部材6を装着するための部分を前方斜め下向きに突出させ、順走防止部材7を装着するための部分を後方斜め下向きに突出させて、前後方向に分岐する二股状を形成させている(この二股状部分を被係入基部と称する)。このような被係入基部の構成により、揺動部材6の前方端部61を十分に突出させることができるとともに、順走防止部材7との間で必要な間隙を構成させることができるようになっている。また、上記の揺動部材6は同種二枚の板状部材で構成され、前方走行基部31を両側から挟んだ状態で当該前方走行基部31に装着されており、この前方走行基部31には、揺動部材6の後方端部63が下降する際の揺動を規制するストッパS1が設けられ、揺動部材6の二枚の板状部材の中間に架け渡された横架材64が当該ストッパS1に当接する状態で、その揺動が停止されるようになっている。
【0025】
順走防止部材7は、前方走行基部31に回動(正逆方向に回転することをいう)自在に軸支されており、このときの回動の中心71は順走防止部材7の全体として偏心となっている。そして、この回動中心71から最も離れた部分が最も大きい円弧を描く先端72である。このような偏心の回動軸により軸支された順走防止部材7は、回動軸73から先端72の側が重くなるため、この順走防止部材7に外力が作用しない状態では、先端72が回動中心71よりも下方に移動するように付勢されることとなる。また、回動中心71に近い位置には、ストッパS2が設けられ、前方走行基部31に当接することによって、先端72の下向きの回動が制限されることとなる。この回動制限時における順走防止部材7の姿勢は、先端72が回動中心71から前方斜め下向きとなるように調整されている。そして、このストッパS2によって停止された状態における順走防止部材7が、駆動伝達部21の後方に当接して走行体3の後退を防止するのである。なお、順走防止部材7に対する付勢は、重量バランスによることなくバネ材を使用してもよく、また、本実施形態における順走防止部材7は、先端72を上向きに回動させることを自在にしている。
【0026】
上記のように構成された揺動部材6と順走防止部材7は、所定の間隙を有するように配置されている。すなわち、揺動部材6の後方端部63と順走防止部材7の先端72とは、相互に対向する位置関係にあり、その両者の間にはちょうど駆動伝達部材21が係入できる程度の間隙を有しているのである。詳しく説明すると、揺動部材6がストッパS1によって、その揺動が停止されるまで後方端部63を下降し、かつ、順走防止部材7がストッパS2によって、その回動が停止するまで先端72を下向きとしたとき、両者のそれぞれの端縁の間隔が駆動伝達部21の厚みよりも僅かに大きくなるように調整されているのである。
【0027】
本実施形態は、上記のような構成であるから、図3に示すように、駆動チェーン1を駆動用レール4に沿って、走行体3を走行レール5に沿って、それぞれ配置することにより、駆動チェーン1は、走行レール5の下方に位置するとともに、駆動伝達部21は、走行体3の前方走行基部31の直下を移動することとなる。ここで、走行体3は、何ら駆動源を備えていないことから、駆動チェーン1からの駆動力の伝達を受けなければ走行することができず、駆動チェーン1は、常に駆動されて、駆動伝達部21を移動させているのである。そして、その移動方向は、走行体3の後方から進行方向に向かった方向(図中左向き)である。
【0028】
揺動部材6の後方端部63が上昇しているときは、駆動チェーン1の駆動伝達部21は、揺動部材6に接触することはなく、単に素通りするだけである。他方、順走防止部材7は、先端72を下向きにしていることから、駆動伝達部21が先端72の後方から当接すると、そのときだけ回動自在な方向(先端72を上昇させる方向)に回動し、駆動伝達部21が通過した後には再び下降することとなるものである。
【0029】
上記とは異なり、揺動部材6の後方端部63が所定位置まで下降するときには、当該後方端部63に設けられている被伝達部材65が駆動伝達部21の当接を許容できるようになり、この当接により、駆動チェーン1の駆動力が駆動伝達部21および揺動部材6を介して前方走行基部31に伝達されるのである。上記のような駆動力の伝達により、前方走行基部31が走行台部33を介して後方走行基部32を牽引するようになり、走行体3の全体が走行できるのである。また、順走防止部材7は、上述のように、駆動伝達部21が通過するときのみ回動するが、駆動伝達部21が通過した後には再び先端72を下降させるため、揺動部材6の後端に位置する被伝達部材65に当接する駆動伝達部21よりも、さらに後方に配置させることとなるのである。このように、駆動伝達部21が揺動部材6の後方端部63と順走防止部材7の先端72との中間に位置する状態をもって係入が完了するのである。
【0030】
そして、上記係入は、揺動部材6の揺動によって、すなわち、揺動部材6の後方端部63が上昇することによって解除されるのである。この揺動方法としては、図3において示すように、例えば、搬送に供される走行体3の全てについて、その後方走行基部32の後部を先細り形状とし、その下面が走行体3の進行方向に向かって徐々に下降する斜状に形成することが可能である。すなわち、このような形状の後方走行基部32を備えることにより、先行する走行体3Aがストレージ状態(一時的に停止した状態)である場合には、その後方走行基部32Aの斜状下面に沿って揺動部材6の前方端部61が下降することとなり、これに伴い、後方端部63は上昇することとなるのである。このようなストレージ状態であれば、先行する走行体3Aが走行を開始したとき、揺動部材6は、その後方端部63を再び下降し、次に到達する駆動伝達部21の係入によって走行が再開されるのである。
【0031】
次に、搬送装置にかかる本発明の第二の実施形態について説明する。本実施形態は、基本的な形態を第一の実施形態と同様にするが、順走防止部材7について相違するものである。すなわち、図4および図5に示すように、本実施形態の順走防止部材107には、レバーアーム174が設けられている。このレバーアーム174は、順走防止部材107が回動を停止された状態において、長手方向を進行方向に略平行とするものであり、その先端は揺動部材106の後方端部163に到達するものである。また、揺動部材106の後方端部163は、このレバーアーム174の先端部分175の当接を許容する被伝達部材165が設けられている。この被伝達部材165は揺動部材106の後方端部163から横向きに突出する軸部材である。
【0032】
本実施形態が上記のような構成であるから、揺動部材106が揺動して、その後方端部163が上昇するとき、レバーアーム174の先端部分175をも同時に上昇させることとなる。そして、この先端部分175の上昇に伴って、順走防止部材107が回動することとなるのである。このような回動により、揺動部材106の後方端部163が上昇している状態のとき、すなわち、駆動伝達部21による駆動力が伝達されないとき、順走防止部材107の先端172も上昇する状態となるのである。これにより、駆動伝達部21が前方走行基部31の直下を素通りするときには、揺動部材106のみならず、順走防止部材107も接触することがないのである。これにより、ストレージ状態の走行体3と駆動チェーン1との間で接触音が発生しないこととなり、騒音防止を可能にするものである。
【0033】
なお、上記揺動部材106および順走防止部材107によって構成される機構が、係入離脱防止機構にかかる本発明の実施形態である。すなわち、係入離脱防止機構の実施形態は、順走防止部材107に設けられたレバーアーム174の先端部分175が、揺動部材106の被伝達部材165の上部に当接して設けられた構成であり、上述のとおり、揺動部材106が揺動して被伝達部材165が下降した状態においては、レバーアーム174も下降することとなり、駆動チェーン1の駆動伝達部21の係入を許容するものであるが、このとき、順走防止部材107は、駆動伝達部21が進行する方向への回動は可能となっているため、当該順走防止部材107の後方から接近する駆動伝達部21は、順走防止部材107の先端172を押し上げるように当該順走防止部材107を回動させ、この順走防止部材107を通過したのち、被伝達部材165に到達することができる。そして、これと同時に、順走防止部材107は、先端172を下降させることとなるため、駆動伝達部21は、順走防止部材107よりも後方には移動できなくなるのである。これをもって、駆動伝達部21が走行体3に係入した状態と称するのであるが、この係入状態となった駆動伝達部21は、被伝達部材165と順走防止部材107の先端172との中間から離脱できない状態となるのである。
【0034】
そして、上記係入状態が離脱される場合は、揺動部材106が揺動して被伝達部材165が上昇する場合である。このとき、駆動伝達部21は、その進行方向に当接すべき部材が存在しないこととなるため、走行体3に駆動力を伝達しない代わりに係入を解除することとなるのである。さらに、この状態において順走防止部材107の先端172も同時に上昇するため、後続の駆動伝達部21が当該順走防止部材107に衝突することはなく、順走防止部材107が作動しないことはもとより、衝突による騒音の発生をも回避できるのである。
【0035】
本発明の実施形態は上記のとおりであるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様をとることができる。例えば、上記実施形態では、揺動部材6,106の揺動について、揺動の中心62の位置を前方寄りにすることで後方端部63,163が下降するように構成しているが、揺動部材6,106にバネ部材を使用して、後方端部63,163を下方へ付勢する構成とすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第一の実施形態を示す斜視図である。
【図2】前方走行基部の詳細を示す分解斜視図である。
【図3】第一の実施形態の作動態様を示す説明図である。
【図4】第二の実施形態における順走防止部材を示す説明図である。
【図5】第二の実施形態の作動態様を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1 駆動チェーン
2 駆動部材
3 走行体
4 駆動用レール
5 走行レール
6,106 揺動部材
7,107 順走防止部材
11,14 外リンク
12 内リンク
13 外リンクパネル
15,16,17,18 車輪部
21 駆動伝達部
22 リンクパネル
31 前方走行基部
32 後方走行基部
33 走行台部
34,35 車軸
36,37 走行車輪
38,39 車輪群
51,52 内側底面
53,54,55,56 端縁
57,58 レール間隙
61 前方端部
62 揺動中心
63,163 後方端部
64 横架部材
65,165 被伝達部材
71 回動中心
72,172 先端
73 回動軸
174 レバーアーム
175 レバーアーム先端
S1,S2 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する駆動チェーンと、この駆動チェーンに適宜間隔で設けられた駆動部材と、この駆動部材の係入を許容して駆動力が付与される走行体とを備え、上記走行体に搬送物を設置または載置できるように構成された搬送装置において、
上記駆動部材は、上記駆動チェーンを構成する任意の外リンクから上方に突出する駆動伝達部と、この外リンクの前後に連結する内リンクの双方に装着された車輪部とを備え、
上記走行体は、進行方向の前後に分離して配置された前方走行基部および後方走行基部と、この二つの走行基部のそれぞれの両側から横方向に突出しつつ設けられた走行車輪と、上記両方の走行基部を連結しつつ該走行基部に支持されてなる走行台部と、上記前方走行基部に設けられ、一方の端部を上記走行台部よりも前方に突出してなる揺動部材と、この揺動部材の他方の端部に設けられ、上記駆動伝達部の当接を許容する被伝達部材と、上記前方走行基部に設けられ、上記被伝達部材から上記駆動伝達部の係入可能な間隔を保持する順走防止部材とを備え、
上記駆動チェーンの下方で該駆動チェーンの移動方向に沿って上記車輪部の転動を許容する駆動用レールと、上記走行体の走行車輪が転動できる走行レールとが、それぞれ配置されていることを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記順走防止部材は、前記前方走行基部に回動自在に軸支されるとともに、一方向に付勢され、かつ所定の回動位置において回動を規制される順走防止部材である請求項1記載の搬送装置。
【請求項3】
連続する駆動チェーンと、この駆動チェーンに適宜間隔で設けられた駆動部材と、この駆動部材の係入を許容して駆動力が付与される走行体とを備え、上記走行体に搬送物を設置または載置できるように構成された搬送装置において、
上記駆動部材は、上記駆動チェーンを構成する任意の外リンクから上方に突出する駆動伝達部と、この外リンクの前後に連結する内リンクの双方に装着された車輪部とを備え、
上記走行体は、進行方向の前後に分離して配置された前方走行基部および後方走行基部と、この二つの走行基部のそれぞれの両側から横方向に突出しつつ設けられた走行車輪と、上記両方の走行基部を連結しつつ該走行基部に支持されてなる走行台部と、上記前方走行基部に設けられ、該前方走行基部の下方斜め前方および下方斜め後にそれぞれ突出する二股状の被係入基部と、この被係入基部の前方突出端に支持され、一方の端部を上記走行台部よりも前方に突出してなる揺動部材と、この揺動部材の他方の端部に設けられ、上記駆動伝達部の当接を許容する被伝達部材と、上記被係入基部の後方突出端に回動自在に軸支され、先端が下方に突出する方向に付勢されるとともに、該先端が上記駆動伝達部の後方に位置するときに上記回動が停止する偏心の順走防止部材とを備え、
上記駆動チェーンの下方で該駆動チェーンの移動方向に沿って上記車輪部の転動を許容する駆動用レールと、上記走行体の車輪が転動できる走行レールとが、それぞれ配置されていることを特徴とする搬送装置。
【請求項4】
前記順走防止部材は、その先端を前記被伝達部材に対向する方向から下方向に向かって回動が付勢され、かつ、該先端付近から前記揺動部材に向かって延出するレバーアームが設けられ、このレバーアームが上記被伝達部材の上部に当接可能に配置された順走防止部材である請求項2または3記載の搬送装置。
【請求項5】
連続する駆動チェーンと、この駆動チェーンに適宜間隔で設けられた駆動部材と、この駆動部材の係入を許容して駆動力が付与される走行体とを備え、上記駆動部材は、上記駆動チェーンを構成する任意の外リンクから上方に突出する駆動伝達部と、この外リンクの前後に連結する内リンクの双方に装着された車輪部とで構成され、上記走行体は、進行方向の前後に分離して配置された前方走行基部および後方走行基部と、この二つの走行基部のそれぞれの両側から横方向に突出しつつ設けられた走行車輪と、上記両方の走行基部を連結しつつ該走行基部に支持されてなる走行台部とで構成され、上記駆動チェーンの下方で該駆動チェーンの移動方向に沿って上記車輪部の転動を許容する駆動用レールと、上記走行体の車輪が転動できる走行レールとが、それぞれ配置されている搬送装置において、
上記前方走行基部に設けられ、該前方走行基部の下方斜め前方および下方斜め後にそれぞれ突出する二股状の被係入基部と、この被係入基部の前方突出端に支持され、一方の端部を上記走行台部よりも前方に突出してなる揺動部材と、この揺動部材の他方の端部に設けられ、上記駆動伝達部の当接を許容する被伝達部材と、上記被係入基部の後方突出端に回動自在に軸支され、先端が下方に突出する方向に付勢されるとともに、該先端が上記駆動伝達部の後方に位置するときに上記回動が停止する偏心の順走防止部材とで構成された係入離脱防止機構であって、
上記順走防止部材は、その先端付近から前記揺動部材に向かって延出するレバーアームが設けられ、このレバーアームが上記被伝達部材の上部に当接可能に配置された順走防止部材であることを特徴とする係入離脱防止機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−239271(P2008−239271A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79428(P2007−79428)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(598096452)イズテック株式会社 (13)