説明

搬送装置及び記録装置

【課題】記録媒体に含まれる水分量が増加しても該記録媒体を波うたせることなく搬送する。
【解決手段】記録媒体Pの第一面を表にして記録装置が備える記録手段に記録媒体Pを搬送した後、記録媒体Pの第二面を表にして記録手段に再度搬送する搬送装置である。導電体を備え、該導電体に電圧が印加されることによって発生する電気力によって記録媒体Pを吸着させて搬送する搬送ベルト31を有する。また、記録媒体Pの第一面を表にして搬送する際に発生する電気力よりも、記録媒体の第二面を表にして搬送する際に発生する電気力が大きくなるように、導電体に印加される電圧を制御する制御部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送体に記録媒体を吸着させて搬送する搬送装置及びその搬送装置により搬送される記録媒体に対して記録を行う記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
搬送手段によって搬送される記録媒体に対して記録を行う記録装置の一例として、インクジェット記録装置が知られている。一般的なインクジェット記録装置は、搬送手段により搬送される記録媒体に対して記録ヘッドからインク(インク滴)を吐出して記録を行う。インクジェット記録装置は、記録ヘッドのコンパクト化が容易であり、高精細な画像を高速で記録することができ、ランニングコストが安い、といった利点を有する。さらに、ノンインパクト方式であるため騒音が少なく、しかも、多色のインクを使用してカラー画像を記録するのが容易であるなどの利点も有している。
【0003】
上記インクジェット記録装置の中でも、記録媒体の幅方向に沿って多数の吐出口が配列されたラインタイプの記録ヘッドを備えたフルライン型の記録装置は、記録の一層の高速化が可能である。
【0004】
ところが、ラインタイプの記録ヘッドが記録媒体の搬送方向に沿って多数配置されている場合、搬送方向最も上流側に位置する記録ヘッドから最も下流側に位置する記録ヘッドまでの距離が長くなる。このため、記録動作中に記録媒体の含水量が増加すると、記録媒体の浮き上がり生じ、記録ヘッドから吐出されたインクが記録媒体の所望の位置に着弾せず、所望の記録品位が得られないことも考えられる。この影響を防止するため、記録媒体が浮き上がらないように、記録媒体を搬送手段へ付勢する必要がある。
【0005】
記録媒体を搬送手段へ付勢する手段として、搬送手段に電極を設け、該電極に電荷を与えて静電気力を発生させ、記録媒体を搬送手段に吸着させる方法が一般的に知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2002−284383号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、最近では、記録媒体の片面に対してのみでなく、両面に対して記録が行われる場合が多くなってきた。記録媒体の両面に記録を行う場合には、一方の面に対して記録を行った後に記録媒体を裏返し、他方の面に対して記録を行う。
【0007】
ここで、近年はより高い記録品位が求められるようになってきており、電子写真方式と違い、インクジェット方式による記録では、記録媒体へのインクの着弾によって記録媒体の含水量が従来にも増して増加する。このため、インクの着弾によって記録媒体が大きく膨潤し、波うち(いわゆるコックリング)が発生することがあり、記録品位に影響を与えることがある。
【0008】
また、記録媒体に含まれる水分量が増加するとインクの定着性も低下する。よって、一方の面に対して記録が行われた記録媒体を裏返して搬送すると(両面印刷を行うと)、搬送手段を構成しているガイド板やローラ等との接触により記録面に擦れ等の支障を来たし、十分な記録品位が得られない。また、記録媒体に含まれる水分の影響により記録媒体の剛性(腰)がなくなり、搬送路上でジャムが発生しやすくなるので、使用できる記録媒体が限定されてしまう。
【0009】
本発明は、記録媒体に含まれる水分量が増加しても該記録媒体を波うたせることなく搬送する搬送装置及び記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の搬送装置は、記録媒体の第一面を表にして記録装置が備える記録手段に該記録媒体を搬送した後、該記録媒体の第二面を表にして前記記録手段に再び搬送する搬送装置である。本発明の搬送装置は、導電体を備え、該導電体に電圧が印加されることによって発生する電気力によって前記記録媒体を吸着させて搬送する搬送体を有する。また、前記記録媒体の第一面を表にして該記録媒体を搬送する際に発生する前記電気力よりも、前記記録媒体の第二面を表にして該記録媒体を搬送する際に発生する前記電気力が大きくなるように、前記導電体に印加される電圧を制御する制御手段を有する。
【0011】
本発明の記録装置は、記録媒体の表面に記録を行う記録手段と、前記記録媒体の第一面を表にして前記記録手段に前記記録媒体を搬送した後、該記録媒体の第二面を表にして前記記録手段に再び搬送する搬送手段とを有する。また、導電体を備え、該導電体に電圧が印加されることによって発生する電気力によって前記記録媒体を吸着させて搬送する搬送体を有する。さらに、前記記録媒体の第一面を表にして該記録媒体を搬送する際に発生する前記電気力よりも、前記記録媒体の第二面を表にして該記録媒体を搬送する際に発生する前記電気力が大きくなるように、前記導電体に印加される電圧を制御する制御手段を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、記録媒体に含まれる水分量が増加しても該記録媒体を波うたせることなく搬送することができるので、高い印刷品位が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。ここでは、記録媒体に対してインクを吐出して記録を行うインクジェット方式の記録装置を例にとって本発明の実施形態の一例について説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る記録装置の全体構成を示す模式的断面図である。まず、図1を参照しながら本実施形態に係る記録装置の全体構成について概説する。本実施形態に係る記録装置1は、給送部2、搬送ベルト部3、両面搬送/排紙部4、記録部7を少なくとも有する。
【0015】
給送部2は、記録媒体Pが積載される圧板21と、記録媒体Pを給送する給送回転体22と、これらが取り付けられたベース20とを有する。圧板21はベース20に設けられた回転軸aを中心に回転可能であり、圧板バネ24により給送回転体22に対して付勢されている。圧板21の、給送回転体22と対向する部位には、記録媒体Pの重送を防止するために、摩擦係数の大きな材質(人工皮等)からなる分離パッド25が設けられている。さらに、ベース20には、記録媒体Pの一方向の角部を覆い、記録媒体Pを一枚ずつ分離するための分離爪26、圧板21と給送回転体22の当接を解除する不図示のリリースカムが設けられている。
【0016】
待機状態のときには、上記リリースカムによって圧板21が圧板バネ24の付勢に抗して所定位置まで押し下げられる。これにより、圧板21に積載されている記録媒体Pと給送回転体22との当接が解除される。この状態で搬送ローラ32の有する駆動力が不図示のギア等を介して給送回転体22及びリリースカムに伝達されると、リリースカムが圧板21から離れる。すると、圧板21は、圧板バネ24の付勢によって回動し、給送回転体22と記録媒体Pとが当接し、給送回転体22の回転に伴って記録媒体Pがピックアップされ、給送される。その後、記録媒体Pは、分離爪26によって一枚ずつ分離され、順次後述の搬送ベルト部3に送られる。給送回転体22は、記録媒体Pを搬送ベルト部3に送り込むまで回転した後、再び記録媒体Pと給送回転体22との当接が解除された待機状態に戻り、搬送ローラ32から給送回転体22への駆動力の伝達も切られる。
【0017】
図1に示す符号90は、手差し給送用の給送回転体を示している。給送回転体90は、コンピュータの記録命令信号に従って回転し、手差しトレイ91上に載置された記録媒体Pを搬送ローラ32の方向へ搬送する。
【0018】
次に、搬送ベルト部3について説明する。搬送ベルト部3は、記録媒体Pを搬送ベルト(搬送体)31に吸着させて搬送する。
【0019】
搬送ベルト31は、駆動ローラ34、搬送ローラ32及びテンションローラ35に巻架されおり、駆動ローラ34によって駆動される。尚、搬送ローラ32及びテンションローラ35は、従動ローラである。また、搬送ローラ32及び駆動ローラ34は、プラテン30に回動可能に取り付けられている。プラテン30は、搬送ベルト31の下方に位置し、搬送ベルト31の下方への変位を規制する役目を果たしている。
【0020】
搬送ベルト31を挟んで搬送ローラ32と対向する位置にはピンチローラ33が設けられている。ピンチローラ33は、搬送ベルト31に当接しており、搬送ベルト31の回動に伴って従動する。また、ピンチローラ33は、不図示のバネによって搬送ベルト31に圧接されており、搬送ベルト31と協働して記録媒体Pを記録部7へと導く。さらに、ピンチローラ33は、本体フレーム(不図示)と電気的に導通することで、搬送ベルト31の表面層36d(図2)に蓄積されている電荷を除去する。
【0021】
記録媒体Pが搬送されてくる搬送ベルト部3の入口には、記録媒体Pをガイドする上ガイド27及び下ガイド28が配設されている。また、上ガイド27には、記録媒体Pの先端及び後端の検出をPEセンサ(不図示)に伝達するPEセンサレバー23が設けられている。
【0022】
搬送ベルト部3に送り込まれた記録媒体Pは、上ガイド27及び下ガイド28に案内されて、搬送ローラ32とピンチローラ33とからなるローラ対に送られる。このとき、搬送されてきた記録媒体Pの先端がPEセンサレバー23によって検知され、記録媒体Pの記録位置が求められる。搬送ローラ32の記録媒体搬送方向における下流側には、画像情報に基づいて記録媒体P上に画像を形成する記録部7が設けられており、上記のようにして求められた記録位置情報に基づいて記録(画像形成)が行われる。
【0023】
ここで、搬送ベルト31についてさらに詳しく説明する。記録媒体Pを吸着しつつ移動する搬送ベルト31は、約0.1mm〜0.2mmの厚みのポリエチレン、ポリカーボネートなどの合成樹脂からできており、つなぎ目のない無端ベルト形状を成している。つなぎ目があると印加電圧が該つなぎ目において変化するということも考えられるが、本例の搬送ベルト31は無端形状であり、つなぎ目がないため、均一に電圧が印加される。但し、つなぎ目のあるベルトの使用を排除する趣旨ではない。もっとも、つなぎ目のあるベルトを使用する場合には、つなぎ目における電圧変化を抑制する処理を施すことが望ましい。
【0024】
図2に搬送ベルト31の断面構造を示す。搬送ベルト31は、接着剤や熱溶着等の手段により接合されたベース層36cと表面層36dとを有する。ベース層36cと表面層36dとの間には、異極性の電極による吸着力発生手段が埋設されている。より具体的には、図3に示すように、ベース層36cと表面層36dとの間に、その幅方向(搬送方向と直交する方向)に沿って細長く形成された導電体(電極板36aとアース板36b)が、搬送方向に沿って交互に配置されている。また、各電極板36aは、搬送ベルト31の幅方向一端側に設けられた共通の導体パターンと導通しており、全体として櫛歯状の電極を形成している。一方、各アース36bは、搬送ベルト31の幅方向他端側に設けられた共通の導体パターンと導通しており、全体として櫛歯状の電極を形成している。さらに、各電極板36aと導通する上記導体パターンは、一定間隔で搬送ベルト31の表面に露出しており、各アース板36bと導通する上記導体パターンも、一定間隔で搬送ベルト31の表面に露出している。そして、電極板36aと導通している上記導体パターンの露出部36a’に給電ブラシ52(図1)が接触することによって、電極板36aに正または負の電圧が印加される。具体的には、不図示の高圧電源によって給電ブラシ52に約0.5kV〜10kVの電圧が印加される。一方、アース板36bは上記導体パターンの露出部36b’を介してアースに落とされている。すなわち、電極板36aと導通している上記導体パターンの各露出部36a’は、電極板36aに電圧を印加するための端子(給電端子)としての役割を果たす。一方、アース板36bと導通している上記導体パターンの各露出部36b’は、アース板36bをアースに落とすための端子としての役割を果たす。
【0025】
上記のようにして電極板36aに電圧が印加されると、電気力が電極板36aからアース板36bの方向に発生し、電気力線が形成される。すると、電極板36aとアース板36bとの間の電位差により搬送ベルト31に吸着力が発生し、記録媒体P上には、電極板36aに与えられた電圧と同極性の電荷(表面電位)が発生する。このようにして、画像記録領域において搬送ベルト31に吸着力が発生し、搬送ベルト31上の記録媒体Pが搬送ベルト31に吸着される。尚、画像記録領域とは、記録部7により記録媒体Pに記録が行われる領域であり、本例では、記録部7の下方の領域を意味する。より厳密には、記録部7と対向する搬送ローラ32と駆動ローラ34との間の領域が本例における画像記録領域である。また、記録媒体Pを吸着させる力は、電極板36aとアース板36bとの間の導電体がない部分において最も低くなる。
【0026】
再び図1を参照する。図1中の符号38はクリーニングローラ対を示している。クリーニングローラ対38は、搬送ベルト31に挟圧して設けられ、搬送ベルト31に付着したインク等の汚れを除去する。従って、クリーニングローラ対38は、インクを吸収することが可能で、かつ、耐久において劣化を防止するために気孔径の小さい(10μm〜30μmが好ましい)連胞のスポンジで形成されている。搬送ベルト31は、クリーニングローラ対38によって清掃された後、除電手段である除電ブラシ37によって除電される。
【0027】
次に、両面搬送/排紙部4について説明する。両面搬送/排紙部4は、排出ローラ42、揺動可能な搬送路切替爪43、すくい上げ排紙トレイ46を有する。第一面にのみ記録が行われる場合には、搬送ベルト31により第一面を表に向けて搬送されてきた記録媒体Pの先端が排出ローラ42のニップ部に到達すると、搬送路切替爪43の先端部が下方に移動して記録媒体Pをすくい上げ排紙トレイ46上に排出する。
【0028】
第一面及び第一面と反対側の第二面に記録が行われる場合には、搬送ベルト31により第一面を表にして搬送されてきた記録媒体Pを裏返して第二面を表にした上で、非画像記録領域において搬送ベルト31上に再び送出す。尚、非画像記録領域とは、上記画像記録領域以外の領域を意味し、本例では、テンションローラ35と搬送ローラ32との間の領域が非画像記録領域である。具体的には、次のようにして記録媒体Pを裏返し、搬送ベルト31上に再び送出す。
【0029】
まず、第一面への記録が完了した記録媒体Pを排出側に搬送する。記録媒体Pの先端が排出ローラ42のニップ部に到達すると、搬送路切替爪43の先端部が上方に移動し、記録媒体Pは排出ローラ42の下流側に位置する反転ローラ44に導かれる。次いで、記録媒体Pの後端が反転ローラ44のニップ部に到達すると、反転ローラ44が逆転し、記録媒体Pは逆搬送される。すると、記録媒体Pは、搬送ベルト部3の下方に配置された両面搬送路45に導き入れられ、テンションローラ35の直下B付近から搬送ベルト31上に送出される。その後、非画像記録領域47を搬送されて搬送ローラ32とピンチローラ31のニップ部まで搬送され、記録部7に搬送され、第二面への記録が行われる。第二面に記録が行われた記録媒体Pの先端が排出ローラ42のニップ部に到達すると、搬送路切替爪43の先端部が下方に移動し、記録媒体Pはすくい上げ排紙トレイ46上に排出される。以上によって記録媒体Pの両面(第一面及び第二面)に記録が行われる。
【0030】
ここで、テンションローラ35と搬送ローラ32との間の非画像記録領域には、画像記録領域内に設けられている給電ブラシ52と同様の給電ブラシ(不図示)が配置されている。この給電ブラシを電極板36aに電圧が印加され、第二面を表にした記録媒体Pを再度吸着するための吸着力が搬送ベルト31に付与される。
【0031】
記録手段としての記録部7は、記録媒体Pの搬送方向と直交する方向に沿って複数のノズルが配列されたラインタイプのインクジェット記録ヘッドを複数有する。記録ヘッドは、記録媒体Pの搬送方向上流側から7K(黒)、7C(シアン)、7M(マゼンタ)、7Y(イエロー)の順に所定間隔で配置され、各記録ヘッド7K、7C、7M、7Yはヘッドホルダ7aに取り付けられている。各記録ヘッドは、ヒータ等によりインクに熱を与えることが可能となっている。そして、この熱によりインクは膜沸騰し、膜沸騰による気泡の成長又は収縮によって生じる圧力変化によって各記録ヘッドのノズルからインクが吐出されて記録媒体P上に画像が形成される。
【0032】
ヘッドホルダ7aは、一端が軸71によって回動可能に固定され、他端に形成された突出部7Bとレール72とが係合し、各記録ヘッドのノズル面と記録媒体Pとの距離(紙間)が規定されるようになっている。
【0033】
以上が本実施形態に係る記録装置の基本構成である。次に、図2及び図4を参照しながら、搬送ベルト部3の構成についてさらに詳しく説明する。図4は搬送ベルト部3の全体構成を示す斜視図である。
【0034】
まず、プラテン30について説明する。プラテン30には、図1に示す各記録ヘッド7K、7C、7M、7Yと対向する位置にそれぞれ凸部30aが設けられている。各凸部30aは、ノズル列方向(搬送方向と直交する方向)に沿って細長く、その上面30bはノズル面(フェース面)と平行である。
【0035】
さらに、搬送ベルト31の裏面と対向する各凸部30aの上面30bは、予め定められた(ベルト搬送方向の)幅を有する平面であり、互いに同一平面上に位置している。充分な吸引力を得るために、凸部30aは導電性を有する材料からなる。また、搬送ベルト31と摺動する上面30bには、テフロン(登録商標)フィルム又は高分子量ポリエチレンフィルムなどの低摩擦層30c(厚さ:100μm、摩擦係数0.2)が全面に形成されている。これによって、搬送時、搬送ベルト31との摩擦が低減されるとともに、回転時の回転負荷が安定し、搬送精度が向上する。
【0036】
次に、実際の動作状況における、吸引力により搬送ベルト31の吸引力残留癖形状と搬送による搬送ベルト31のバタツキを押さえる原理について説明する。
【0037】
まず残留癖形状について説明する。上述のように、搬送ベルト31は、吸着力発生手段(電極板36a、アース板36b)とベース層36cと表面層36dとを有し、互いの層は接着剤もしくは熱溶着等の手段により接合されている。しかし、材質固有の曲性の違いにより、搬送ベルト部3を記録装置1に装着した状態で長期間放置した場合、搬送ローラ32、駆動ローラ34、テンションローラ35に当接していた曲率の小さな部分には癖が発生する(クリープ)。
【0038】
この結果、記録部7と対向する画像記録領域では、搬送ベルト31はテンションローラ35によって加えられた張力によって搬送方向に引っ張られているものの、癖の付いた部分には癖形状が残留しており、0.5mm〜1.0mm程度の波打ちが発生してしまう。
【0039】
そこで本例では、搬送ベルト31に設けられた櫛歯状電極に高電圧(0.5kV〜10kV)を印加することで電気力を発生させ、ベルト上面で記録媒体Pを吸着して記録媒体Pのコックリングを防止している。さらに、プラテン30の凸部30aにベルト下面を吸引させて搬送ベルト31の波うちを抑制している。このようにして、安定した記録媒体への記録や、搬送ベルト31の搬送を実現している。
【0040】
さらに、両面に記録が行われる記録媒体Pを搬送ベルト31に吸着させる場合、記録媒体Pの第一面に記録する場合と、該第一面への記録が終わった後に第二面を表にして搬送する場合とでは、印加電圧を変える必要があることを発明者は発見した。記録媒体Pにインクが着弾すると、記録媒体Pの水分量(含水量)が変化する。含水量が増加し、記録媒体Pの表面に微少の水分膜が形成されると、電界が水分膜を流れてしまい吸着力が低下(記録媒体Pと水分膜とは一体でないため記録媒体Pに対して吸着力が発生しない、すなわち記録媒体Pに対する電荷注入が生じづらい)するためである。また、条件により環境が変化したとき、特に高湿時にも記録媒体Pの表面に微少の水分膜が形成(結露現象)される。従って、片面のみ記録を行う際にも吸着され難い(電荷注入が生じづらい)ことがある。
【0041】
図5に示すように、記録媒体Pへの記録量が多くなり、記録媒体Pに着弾するインクの量が増加すると、それに比例して、インク内の水分により記録媒体Pの含水量が増加する。このように、記録媒体Pの含水量が増加すると、記録媒体Pが搬送ベルト31に吸着され難くなる。
【0042】
そこで、両面印刷時に搬送ベルト31に印加する電圧を片面印刷時に印加する電圧よりも増加させることで、記録媒体Pを安定して搬送することができるようにした。即ち、第一面を表して記録媒体Pを搬送するときの搬送ベルト31と記録媒体Pとの間の電位差よりも、第二面を表して記録媒体Pを搬送するときの搬送ベルト31と記録媒体Pとの間の電位差が大きくなるように、搬送ベルト31への印加電圧を変化させる。
【0043】
次に、上記のような電圧調整を行うための具体的構成について図6を参照して説明する。記録装置1内の制御部(制御手段)100には、記録媒体Pに供給されるインクの量を算出するドットカウント部(カウント手段)103が設けられている。
【0044】
本例の記録装置は、記録媒体Pに対してインク滴を吐出して記録を行うインクジェット方式の記録装置である。そこで、ドットカウント部103は、プリントデータに基づいて、記録媒体Pに対して吐出されるインク滴の数を求め、これを記録媒体Pに供給されるインクの量を示す情報として制御部100に出力する。制御部100は、第一面に記録を行ったときにドットカウント部103から出力される上記情報に基づき、非画像記録領域において搬送ベルト31に印加する電圧を変化させる。この結果、第一面への記録後に第二面を表にして搬送するときにも、第一面を表にして搬送したときと同様に、安定して記録媒体Pを搬送ベルト31に吸着させることができる。
【0045】
ここで、記録装置1の制御部100は、画像情報を処理する画像処理部102と、画像処理部102の処理結果に基づいて記録部7の駆動制御等を行うヘッド制御部101とを有する。また、画像処理部102には、ヘッド制御部101に伝送した記録量をカウントするドットカウント部103と、記録媒体Pの第一面に関する画像情報を記憶することのできるページメモリ(記憶手段)104を有する。
【0046】
次に、搬送ベルト31への印加電圧を変化させるフローについて説明する。まず、第一面に記録を行うとき、記録媒体Pに対するインク滴の打ち込み量、即ち記録媒体Pに対する記録量を、ドットカウント部103にて算出する。次に、制御部100は、ドットカウント部103によって算出された数値に基づいて記録媒体Pの含水量を判断し、含水量に応じて搬送ベルト31に対する印加電圧の増加量を決定し、増加させた電圧が印加されるように不図示の高圧電源の出力を制御する。より具体的には、インク滴の打ち込み量(記録デ−タ量)と搬送ベルト31に印加する電圧の値(または基準電圧に対する差分)との相関を示すテーブルを備えており、該テーブルを参照して印加電圧の増加量を決定する。また、印加電圧の増加量とは、第一面に記録を行った際に搬送ベルト31に印加した電圧に対する増加量である。
【0047】
以上のように、記録媒体Pの含水量に応じて搬送ベルト31に印加する電圧を変化させることによって、記録媒体Pを確実に搬送ベルト31に吸着させることができる。この結果、片面印刷においても両面印刷においても高品位の記録を維持することができる。
【0048】
これまでは、説明の便宜上、記録媒体Pが一枚である場合を前提として説明を行った。しかし、一般的には複数枚の記録媒体に対して連続して記録が行われる。
【0049】
具体的には、両面搬送/排紙部4内に第一面の記録が終了した最初の記録媒体P1を搬送すると同時に、後続の記録媒体P2の第一面の記録を行う。そして、後続の記録媒体P2を両面搬送/排紙部4内に搬送する動作に伴って、両面搬送/排紙部4内から最初の記録媒体P1を記録部7と対向する位置に搬送し、第二面の記録を行う。
【0050】
このように、最初の記録媒体P1の第一面の記録をした後両面搬送/排紙部4内に搬送すると同時に、後続の記録媒体P2の第一面に対して記録を行う。次に後続の記録媒体P2を両面搬送/排紙部4に搬送すると同時に、最初の記録媒体P1の第二面の記録を行う。以上のように、後続の記録媒体P2の第一面の記録と、最初の記録媒体P1の第二面の記録とを交互に行うことにより、記録速度の高速化を実現することができる。
【0051】
尚、ここでは最初と後続との2枚の記録媒体を例示して説明したが、これに限るものではない。即ち、両面搬送/排紙部4には記録媒体Pを3枚以上保持することができる構成にしてもよい。ここで、前述のようにドットカウント部103には複数枚の記録媒体Pの各々の記録量を記憶するページメモリ104が付帯されている。そこで、ページメモリ104に、両面搬送/排紙部4内に搬送された複数枚の記録媒体Pそれぞれの第一面の記録量を記憶させる。制御部100は、それぞれの第二面の記録時にページメモリ104から当該記録媒体Pの第一面の記録量を読み出し、これに応じて搬送ベルト31に印加する電圧を変化させる。これによって、より連続的に、第一面と第二面との記録を交互に行うことができる。
【0052】
上記説明では、搬送部材として、つなぎ目のない無端状の搬送ベルトを例示したが、これに限るものではない。例えば、ドラム形状のものとしてもよい。
【0053】
本明細書では、異なる色のインクで記録する複数個の記録ヘッドを用いたカラー記録用のインクジェット両面記録装置の場合を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本発明は、1個の記録ヘッドを用いるインクジェット記録装置にも同様に適用ができ、同様の作用効果を達成し得るものである。また、同一色彩で濃度の異なるインクで記録する複数の記録ヘッドを用いる階調記録用のインクジェット記録装置などにも同様に適用ができ、同様の作用効果を達成し得るものである。要するに、記録ヘッドの数や種類に関係なく同様に適用ができ、同様の作用効果を達成し得るものである。
【0054】
さらに、記録手段(記録ヘッド)としては、記録ヘッドとインクタンクを一体化したカートリッジタイプのものにも同様に適用することができ、同様の効果を達成し得る。また、記録ヘッドとインクタンクを別体とし、これらをインク供給チューブで接続した構成のものなどにも同様に適用することができ、同様の効果を達成し得る。要するに、記録手段及びインクタンクの構成がどのようなものであっても、同様に適用することができ、同様の効果を達成し得るものである。
【0055】
尚、本発明は、ピエゾ素子等の電気機械変換体等を用いてインクを吐出させる記録手段を備えたインクジェット記録装置にも適用できる。もっとも、熱エネルギーを利用してインクを吐出させる記録手段を備えたインクジェット記録装置において特に優れた効果をもたらす。
【0056】
さらに、記録ヘッドを記録媒体の搬送方向と直交する方向に移動させつつ記録を行う所謂シリアルタイプの記録装置に対しても、本発明は有効に適用できる。或いは、記録ヘッドが記録可能な記録媒体の最大幅に対応した長さを有するフルラインタイプの記録装置に対しても、本発明は有効に適用できる。この場合、記録ヘッドは、複数記録ヘッドの組合せによって、必要な長さを満たしたものでも、一体的に形成された1個の記録ヘッドとしての構成されているものでも良い。
【0057】
前述したシリアルタイプのものでも、装置本体に固定された記録ヘッド、或いは装置本体に装着されることで装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。また、記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いた場合にも本発明は有効である。
【0058】
前述したインクジェット記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末装置として用いられるものの他、キャリッジに記録ヘッド以外のスキャナ等を装着することが可能なインクジェット入出力装置の形態をとるものであっても良い。また、リーダ等と組み合わせた複写装置、更には送受信機能を有するファクシミリ装置の形態をとるもの等であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】記録装置の模式的断面図である。
【図2】搬送ベルトの模式的断面図である。
【図3】搬送ベルトの模式的平面図である。
【図4】搬送ベルトの模式的斜視図である。
【図5】記録媒体の含水量とドットカウントの値との関係を示す図である。
【図6】制御手段の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0060】
P 記録媒体
1 記録装置
31 搬送ベルト
36a 電極板
36b アース板
52 給電ブラシ
100 制御部
103 ドットカウント部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の第一面を表にして記録装置が備える記録手段に該記録媒体を搬送した後、該記録媒体の第二面を表にして前記記録手段に再び搬送する搬送装置において、
導電体を備え、該導電体に電圧が印加されることによって発生する電気力によって前記記録媒体を吸着させて搬送する搬送体と、
前記記録媒体の第一面を表にして該記録媒体を搬送する際に発生する前記電気力よりも、前記記録媒体の第二面を表にして該記録媒体を搬送する際に発生する前記電気力が大きくなるように、前記導電体に印加される電圧を制御する制御手段と、を有することを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記記録媒体の前記第一面に対する前記記録手段による記録量に応じて、前記第二面を表にして前記記録媒体を搬送する際に前記導電体に印加される電圧を変化させることを特徴とする請求項1記載の搬送装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記記録手段によって前記記録媒体の前記第一面に対して供給されたインクの量に応じて、前記第二面を表にして前記記録媒体を搬送する際に前記導電体に印加される電圧を変化させることを特徴とする請求項2記載の搬送装置。
【請求項4】
前記導電体と導通した端子と、該端子に接触する給電ブラシとを有し、該給電ブラシを介して前記導電体に電圧を印加することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の搬送装置。
【請求項5】
前記導電体は前記搬送体に埋設され、前記端子のみが前記搬送体の表面に露出していることを特徴とする請求項5記載の搬送装置。
【請求項6】
前記搬送体がつなぎ目のない無端形状のベルトであることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の搬送装置。
【請求項7】
記録媒体の表面に記録を行う記録手段と、前記記録媒体の第一面を表にして前記記録手段に前記記録媒体を搬送した後、該記録媒体の第二面を表にして前記記録手段に再び搬送する搬送手段とを有する記録装置において、
導電体を備え、該導電体に電圧が印加されることによって発生する電気力によって前記記録媒体を吸着させて搬送する搬送体と、
前記記録媒体の第一面を表にして該記録媒体を搬送する際に発生する前記電気力よりも、前記記録媒体の第二面を表にして該記録媒体を搬送する際に発生する前記電気力が大きくなるように、前記導電体に印加される電圧を制御する制御手段と、を有することを特徴とする記録装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記記録媒体の前記第一面に対する前記記録手段による記録量に応じて、前記第二面を表にして前記記録媒体を搬送する際に前記導電体に印加される電圧を変化させることを特徴とする請求項7記載の記録装置。
【請求項9】
前記制御手段は、前記記録手段によって前記記録媒体の前記第一面に対して供給されたインクの量に応じて、前記第二面を表にして前記記録媒体を搬送する際に前記導電体に印加される電圧を変化させることを特徴とする請求項8記載の記録装置。
【請求項10】
前記記録手段が前記記録媒体に対してインク滴を吐出して記録を行うインクジェット方式の記録手段であって、
前記記録媒体の前記第一面に対して吐出されるインク滴の数を求めるカウント手段を有し、
前記制御手段は、前記カウント手段によって求められたインク滴の数に応じて、前記第二面を表にして前記記録媒体を搬送する際に前記導電体に印加される電圧を変化させることを特徴とする請求項9記載の記録装置。
【請求項11】
前記導電体と導通した端子と、該端子に接触する給電ブラシとを有し、該給電ブラシを介して前記導電体に電圧を印加することを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれかに記載の記録装置。
【請求項12】
前記導電体は前記搬送体に埋設され、前記端子のみが前記搬送体の表面に露出していることを特徴とする請求項11記載の記録装置。
【請求項13】
前記搬送体がつなぎ目のない無端形状のベルトであることを特徴とする請求項7乃至請求項12のいずれかに記載の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−23287(P2009−23287A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190703(P2007−190703)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】