説明

搬送装置

【課題】ローラに付着した洗浄油のワークへの転移を防止して、プレス成形品への油歪みを防止する搬送装置を提供する。
【解決手段】各ローラ15は、シート材10の搬送方向に対して左右いずれか一方側に鉛直方向に対して所定角度θで傾斜して配置され、シート材10の表面と接触するローラ15の頂点が通る軸方向一端側の外周縁20と、ローラ15の最下点が通る軸方向他端側の外周縁21とが同一円周上にないので、各ローラ15に付着した洗浄油55のシート材10への転移を防止でき、プレス成形品への油歪みを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークを複数のローラにより搬送する搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のアウターパネルのプレス成形ラインでは、図1に示すように、ワークとしてのシート材がディスタック装置2、洗浄装置3、搬送装置50を経由してプレス機4まで搬送される。まず、図1(a)に示すように、ディスタック装置2では、台車6上に山積みされた複数のシート材10を一枚ずつ吸着リフタ(図示略)にて吸着して洗浄装置3に搬送する。次に、図1(b)に示すように、洗浄装置3では、シート材10は、該シート材10に付着しているゴミ等を洗浄油にて洗浄して、成形に必要な適宜量の油だけが残存するようにオイルカットローラ11、11を通過して搬送装置50上に搬送される。次に、図1(c)及び(d)に示すように、搬送装置50上のシート材10は位置決め装置により所定位置に一旦クランプされる。搬送装置50上に位置決めされたシート材10はロボット5により吸着把持されてプレス機4に搬送される。
【0003】
そこで、図3に示すように、従来の搬送装置50に備えた複数のローラ51は算盤の珠形状に形成される。なお、洗浄装置3から搬出されたシート材10には適宜量の洗浄油が残存しているため、シート材10が間隔を置くことなく搬送装置50に搬送された場合には各ローラ51の全周に常時略均等の洗浄油が付着した状態となる。
【0004】
ところが、搬送装置50への次のシート材10の搬入まで5分以上経過する場合等は、シート材10が搬送されない間に、図3及び図4(a)に示すように、各ローラ51の全周に付着した洗浄油が最も下端に塊55として滞留した状態となる。このため、図4(b)〜(d)に示すように、次のシート材10がこの各ローラ51上を搬送されると、各ローラ51の最下端に滞留した洗浄油の塊55がシート材10に転移して付着した状態で搬送されるようになる。その結果、洗浄油の塊55が複数付着したシート材10がプレス成形された場合、型による加圧時に洗浄油が逃げ場を失うことで製品が変形される、いわゆる油歪みが生じる虞がある。特に、自動車の外観を形成するアウターパネルでは、プレス成形後の手直しは困難であるため油歪みが生じた製品は廃棄されており、製造コストを増大させる大きな問題点が生じていた。
【0005】
この問題を解決すべく提案された従来技術として特許文献1には、流体噴射手段により各ローラの側面に向けて流体を噴射して各ローラを所定方向へ回転させることにより、各ローラに付着したオイルに遠心力を作用させて各ローラからオイルを剥離させるシート材搬送装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−35162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の発明に係るシート材搬送装置では、流体噴射手段により吹き飛ばされた洗浄油が周辺設備に付着するために、確実にプレス成形品の油歪みを防止することができなかった。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、ローラに付着した洗浄油のワークへの転移を防止して、プレス成形品への油歪みを防止する搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の搬送装置に備えた複数のローラは、ワークと接触する前記ローラの頂点が通る円周と、前記ローラの最下点が通る円周とが相違するように構成されることを特徴としている。
これにより、ローラに付着した洗浄油のワークへの転移を防止して、プレス成形品への油歪みを防止することができる。
なお、本発明の搬送装置の各種態様およびそれらの作用については、以下の発明の態様の項において詳しく説明する。
【0010】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。なお、各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付して、必要に応じて他の項を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載、実施の形態等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要件を付加した態様も、また、各項の態様から構成要件を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)乃至(4)の各々が、請求項1乃至4の各々に相当する。
【0011】
(1)ワークを複数のローラにより搬送する搬送装置であって、前記ローラは、前記ワークと接触する前記ローラの頂点が通る円周と、前記ローラの最下点が通る円周とが相違するように構成されることを特徴とする搬送装置。
(1)項の搬送装置では、ローラに付着した洗浄油は、ワークと接触するローラの頂点が通る円周とは相違する、ローラの最下点が通る円周上に滞留されるので、その洗浄油のワークの表面への転移が防止される。
【0012】
(2)前記ローラは円柱状に形成され、該ローラをワークの搬送方向に対して左右いずれか一方側に傾斜させることを特徴とする(1)項に記載の搬送装置。
(2)項の搬送装置では、ワークはローラの軸方向一端側の頂点が通る円周に接触しながら搬送されるが、ワークからの洗浄油はローラの軸方向他端側の最下点が通る円周上に滞留されるので、洗浄油のワークの表面への転移が防止される。
【0013】
(3)前記ローラは円錐形状に形成され、該ローラをワークの搬送方向に対して左右いずれか一方側に傾斜させることを特徴とする(1)項に記載の搬送装置。
(3)項の搬送装置では、ワークはローラの軸方向一端側の頂点が通る円周に接触しながら搬送されるが、ワークからの洗浄油はローラの軸方向他端側の最下点に滞留されるので、洗浄油のワークの表面への転移が防止される。
【0014】
(4)前記搬送装置は、洗浄装置から搬出されたワークを搬送するものであり、前記洗浄装置で使用される洗浄油の粘度に基づいて前記ローラの傾斜角度が設定されることを特徴とする(2)項または(3)項に記載の搬送装置。
(5)前記洗浄油の40℃における粘度3mm/sに対して前記ローラの鉛直方向に対する傾斜角度を20°に設定することを特徴とする(4)項に記載の搬送装置。
(4)項及び(5)項の搬送装置では、洗浄油の粘度に対する最適な傾斜角度が設定されるので、さらに洗浄油のワークの表面への転移が防止される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ローラに付着した洗浄油のワークへの転移を防止して、プレス成形品への油歪みを防止する搬送装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る搬送装置の使用形態を示す図である。
【図2】図2は、本搬送装置に採用されるローラを示す正面図である。
【図3】図3は、従来の搬送装置に採用されるローラを示し、(a)は側面図であり、(b)は正面図である。
【図4】図4は、従来の搬送装置において、ローラに滞留した洗浄油の塊がシート材に転移する状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態を図1及び図2に基づいて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る搬送装置1は、図1に示すように、プレス成形ラインで使用されるものであって、洗浄装置3とプレス成形機4との間に配置され、洗浄装置3により洗浄されたワークとしてのシート材10をプレス成形機4へ向けて搬送するものである。
該本発明の実施の形態に係る搬送装置1は、複数のローラ15を所定間隔で複数個配設して設けたローラ列を複数列設けて構成される。
【0018】
各ローラ15は、図2に示すように、シート材10の表面と接触するローラ15の頂点が通る円周と、ローラ15の最下点が通る円周とが同一円周上に存在しないように相違して構成される。
具体的には、各ローラ15は、軸15bと、該軸15bに回転自在に支持される円柱体15aとを備えている。軸15bは図示しない支持部材に支持される。ローラ15はシート材10の搬送方向に対して左右いずれか一方側に鉛直方向に対して所定角度θで傾斜して配置される。その結果、各ローラ15の円柱体15aの軸方向一端側の外周縁(各ローラ15の円柱体15aの頂点が通る円周)20がシート材10の表面と接触するようになり、一方、円柱体15aの軸方向他端側の外周縁(各ローラ15の円柱体15aの最下点が通る円周)21が円柱体15aの回転軌跡の最下点を通るようになる。
尚、円柱体15aは、中実体であっても、中空体であっても良い。
【0019】
ローラ15の傾斜角度θは、洗浄装置3で使用される洗浄油の粘度に基づいて最適な角度に設定される。本実施の形態では、洗浄油の40℃における粘度3mm/s(油密度は15℃で0.83g/cm)に対して、ローラ15の傾斜角度θを20°に設定している。なお、本実施の形態では、円柱体15aの幅は7mm〜11mmの範囲内の所定値、好ましくは9mmに設定される。
【0020】
次に、本発明の実施の形態に係る搬送装置1の作用を説明する。
洗浄装置3から搬出されたシート材10は本搬送装置1の各ローラ15上を搬送されるが、シート材10は各ローラ15の円柱体15aの軸方向一端側の外周縁20と接触しながら搬送される。
そこで、シート材10の搬送が一旦停止されると、各ローラ15の円柱体15aの軸方向一端側の外周縁20に付着した洗浄油は、円柱体15aの軸方向他端側の外周縁21の最下点に塊55として滞留した状態となる。
【0021】
そして、間隔を置いて次のシート材10が洗浄装置3から本搬送装置1に搬入されると、次のシート材10は、各ローラの円柱体15aの軸方向一端側の外周縁20と接触しながら搬送される。しかしながら、この時、各ローラ15の円柱体15aの軸方向他端側外周縁21の最下点に塊55として滞留した洗浄油は、円柱体15aの軸方向他端側の外周縁21に沿って移動するために、洗浄油55がシート材10に転移することはない。その後、洗浄油55は各ローラ15から自然に落下するようになる。
【0022】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る搬送装置1では、各ローラ15は、シート材10の搬送方向に対して左右いずれか一方側に鉛直方向に対して所定角度θで傾斜して配置され、シート材10の表面と接触するローラ15の頂点が通る軸方向一端側の外周縁20と、ローラ15の最下点が通る軸方向他端側の外周縁21とが同一円周上に存在せず相違されるので、各ローラ15の軸方向他端側の外周縁21に沿って滞留した洗浄油55がシート材10へ転移することはない。
これにより、シート材10がプレス成形された際に油歪みが生じることを防止することができる。
【0023】
尚、本発明の実施の形態において、ローラ15を円柱状としたが、ローラ15を円錐形状として、シート材10の搬送方向に対して左右いずれか一方側に鉛直方向に対して所定角度θで傾斜して配置することとしても良い。
【符号の説明】
【0024】
1 搬送装置,10 シート材(ワーク),15 ローラ,15a 円柱体,20 軸方向一端側の外周縁(ローラの円柱体の頂点が通る円周),21 軸方向他端側の外周縁(ローラの円柱体の最下点が通る円周)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを複数のローラにより搬送する搬送装置であって、
前記ローラは、前記ワークと接触する前記ローラの頂点が通る円周と、前記ローラの最下点が通る円周とが相違するように構成されることを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記ローラは円柱状に形成され、該ローラをワークの搬送方向に対して左右いずれか一方側に傾斜させることを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記ローラは円錐形状に形成され、該ローラをワークの搬送方向に対して左右いずれか一方側に傾斜させることを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記搬送装置は、洗浄装置から搬出されたワークを搬送するものであり、前記洗浄装置で使用される洗浄油の粘度に基づいて前記ローラの傾斜角度が設定されることを特徴とする請求項2または3に記載の搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−201448(P2012−201448A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66043(P2011−66043)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】