説明

携帯光学機器及び車載用光学機器

【課題】
レンズの白化を抑制した携帯光学機器を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明にかかる携帯光学機器及び車載用光学機器は、内部が乾燥された第1の気体で満たされ、内部と外部が遮断されている鏡筒1と、鏡筒1内部に含まれる1枚もしくは複数枚のガラス製レンズ群30と、を有するものである。このような構成により鏡筒1内部の水、水蒸気、水素を除去すると共に鏡筒1内部への水、水蒸気、水素等の浸入を防ぎ、レンズの白化を抑制した携帯光学機器を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は携帯して屋外で使用される携帯光学機器及び車載用光学機器に関する。
【背景技術】
【0002】
水蒸気が存在すると、温度変化等によって水蒸気が水滴として付着する現象が発生することは良く知られている。
【0003】
上記の様な現象に対して、顕微鏡や内視鏡等のレンズを含む鏡筒内部を不活性ガスや乾燥気体で満たすことにより、鏡筒内部の結露やレンズの劣化等を抑止する技術が提案されている。特許文献1には、内部に複数のレンズを備え不活性ガスが封入された上でシールされている鏡筒を備える蛍光顕微鏡の例が示されている。
【0004】
また、特許文献2には医療に用いる内視鏡において、光学ユニット内部を不活性ガスで置換する例が示されている。これらの例は内視鏡や顕微鏡等、主に屋内での使用を前提としたものであり、本発明とはその性質を異にするものである。
【特許文献1】特開2000−292704号公報
【特許文献2】特開2001−128921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他方、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話等の携帯することを前提とした光学機器においては、小型化は最も重要なテーマの一つである。光学機器の大きさを決定する上では、レンズの大きさや厚さは重要な要素の一つとなり得る。光学機器のレンズには主にプラスチックやガラスが使用される。プラスチックの屈折率が1.50〜1.70であるのに対しガラスの屈折率は1.523〜1.90である。このため、同じ倍率を得る上でガラス製のレンズの方がプラスチック製のレンズよりも薄くできる。よって光学機器の小型化のためにはガラス製のレンズを使用するのが有益である。
【0006】
ここで、ガラスの表面物質は親水性の域にあり水と馴染みやすい。そのため、ガラス表面に水滴が付着するとガラスの成分が溶け出しその部分が白く濁る白化が発生する。また、水素も同様にこのような現象の要因となり得る。更に、携帯用や車載用の屋外でも使用される光学機器に関しては屋外を持ち歩くことが前提であるため、屋内で使用する機器にはない特有の問題として例えば太陽光に含まれる紫外線による問題が生じる。例えば、水蒸気が紫外線を吸収して解離することにより水素が発生するために白化の進行が促進されてしまう。この問題は車載用の光学機器に関しても同様に発生する。
【0007】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、レンズの白化を抑制した携帯光学機器及び車載用光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる携帯光学機器及び車載用光学機器は、内部が不活性ガスで満たされ、内部と外部が遮断されている鏡筒と、前記鏡筒内部に固定された1枚もしくは複数枚のガラス製レンズと、を有するものである。このような構成により鏡筒内部の水、水蒸気、水素を除去すると共に鏡筒内部への水、水蒸気、水素等の浸入を防ぎ、レンズの白化を抑制した携帯光学機器及び車載用光学機器を提供することができる。
【0009】
ここで、前記鏡筒の両端部をそれぞれ封止するプラスチック製の透明部材を更に有してもよい。これにより、外気と接触する面はガラス特有の問題である水分による白化を生じない携帯光学機器及び車載用光学機器を提供することができる。
【0010】
また、前記不活性ガスによって置換された雰囲気内で製造されることが好ましい。これにより、鏡筒内部の雰囲気の置換作業を容易に行なうことができる。
【0011】
もしくは、前記鏡筒は当該鏡筒の内部の雰囲気を置換するための置換孔を更に有し、鏡筒に組み立て後内部の雰囲気を前記第1の気体で置換することによって製造してもよい。これにより、組み立てを空気中で行なう事ができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、レンズの白化を抑制した携帯光学機器及び車載用光学機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を適用可能な実施の形態が説明される。以下の説明は、本発明の実施形態を説明するものであり、本発明が以下の実施形態に限定されるものではない。また、説明の明確化のため、以下の記載は、適宜、省略及び簡略化がなされている。又、当業者であれば、以下の実施形態の各要素を、本発明の範囲において容易に変更、追加、変換することが可能である。
【0014】
実施の形態1
図1は本実施形態にかかる携帯光学機器の鏡筒1の例を模式的に表した模式図である。図1によると、本実施形態にかかる鏡筒1は、外装2と、外装2に固定されたレンズ31、レンズ32、レンズ33、レンズ34、レンズ35(以下レンズ群30とする)からなる。ここで、例としてレンズは5枚としたがこれに限定されるものではなく、4枚以下でも6枚以上でもよい。また鏡筒1内部の空間Pは窒素、ヘリウム、アルゴン等及びそれらの混合気体の不活性ガスによって満たされている。
【0015】
外装2は円筒状の形状を有し、内部に水が浸入しない水密構造を有している。レンズ群30はガラス製のレンズである。外装2とレンズ31及びレンズ35との接点はシールされており、鏡筒1の内部と外部は遮断されている。従って鏡筒1内部は不活性ガスの雰囲気が保たれる。こうすることにより鏡筒1内部の水、水蒸気、水素が可能な限り除去されるので結露や白化が防止される。また、携帯して屋外にて使用することがあり得るので、レンズ31又はレンズ35から鏡筒内部へ紫外線が入射することも考えられる。鏡筒1内部の水又は水蒸気は紫外線によって水素に解離され結果的に白化を促進することとなる。これを防止するためにも鏡筒1内部を不活性ガスで満たすことは有益である。
【0016】
ここで、鏡筒1内部の水、水蒸気、水素を除去するだけであれば真空にするだけでもよい。しかし鏡筒1内部を真空状態とすると、鏡筒1内部と外部で気圧に差が出てしまうために、鏡筒1内部へ外気を引き込む力が働く。ガラスに悪影響を与えない不活性ガスで鏡筒1内部を満たすことによってこのような力は働かなくなる。また、鏡筒1のシールを完全にすれば外気が鏡筒1内部へ浸入することは無いが、鏡筒1内部を不活性ガスで満たすことと鏡筒1をしっかりシールすることを併せて行なうことにより、より信頼性を高めることができる。
【0017】
次に図2を用いて本実施形態にかかる携帯光学機器の製造方法の例について説明する。図2は本実施形態にかかる携帯光学機器の鏡筒1を製造するための製造装置10の例を表す模式図である。図2に示すように製造装置10は鏡筒1の組み立てを行なう作業室4と、作業室に組み立て部品を入れるための置換室5と、作業室4及び置換室5に置換気体を供給するためのボンベ6と、置換室5内の気体を置換するためのポンプ7と、作業室4及び置換室5の不活性ガスの内圧を調節する圧力弁8とからなる。
【0018】
作業室4は鏡筒1の組み立てを行なうための作業室であり、不活性ガスによって置換された雰囲気が保たれている。置換室5は作業室4に部品を入れる際に雰囲気の置換をする場所である。ボンベ6は作業室4及び置換室5に不活性ガスを供給するためのボンベである。作業室4及び置換室5とボンベ6との通路には圧力弁8が設けられており、作業室4及び置換室5の内圧を圧力弁8で調節する。ポンプ7は置換室5を真空引きするためのポンプである。
【0019】
作業室4と置換室5並びに置換室5と外部との間にはそれぞれ扉91、扉92が設けられており、当該扉を閉めると完全にシールされるようになっている。外部から置換室5に鏡筒1を組み立てるための部品を入れるとき及び置換室5から作業室4へ部品を入れるときはそれぞれ扉91、扉92を開いて双方の間を行き来させる。
【0020】
次に製造装置10の動作について図3のフローチャートを用いて説明する。ます、鏡筒1を組み立てるための部品を扉92から置換室5に入れる(S101)。この時、鏡筒1を組み立てるための各部品はそれぞれ材質に好適な洗浄方法によって洗浄され、清浄な状態であることが好ましい。次にポンプ7によって置換室5内部を真空引きする(S102)。置換室5が真空に引かれたら、ボンベ6から置換室5へ不活性ガスを導入する(S103)。この時の置換室5の不活性ガスの内圧は作業室4の内圧と同等であるのが好ましく、更には外気と同等の圧力であることが好ましい。
【0021】
置換室5内部の雰囲気が不活性ガスによって満たされたら、扉91を開いて置換室5内部の部品を作業室4へ移動させる(S104)。置換室5内部の雰囲気は不活性ガスになっているので、この状態で扉91を開いても作業室4の不活性ガスの雰囲気が悪化することは無い。作業室4の中で鏡筒1を組み立てる(S105)ことにより、鏡筒1内部の雰囲気も作業室4と同様の不活性ガスの雰囲気となる。
【0022】
以上説明したように、本発明の実施の形態1では、鏡筒内部の水、水蒸気、水素を除去すると共に鏡筒内部への水、水蒸気、水素等の浸入を防ぎ、レンズのヤケを防止し、レンズが白く濁ることを抑制した携帯光学機器を提供することができる。
【0023】
実施の形態2
本実施の形態では、実施の形態1に示した携帯光学機器に一部プラスチックのレンズを用いた形態について説明する。プラスチックのレンズは屈折率でガラスに劣るものの、水、水蒸気、水素との反応による白化を起こさないという利点がある。
【0024】
図4は本実施形態にかかる携帯光学機器の鏡筒101の例を模式的に表した模式図である。実施の形態1と同様の記号を付した部分については実施の形態1と同様の機能とし、説明を省略する。鏡筒101は、外装2と外装2に固定されたレンズ32、レンズ33、レンズ34(以下レンズ群30とする)と、透明板131、透明板135からなる。ここで、例としてレンズは3枚としたがこれに限定されるものではなく、2枚以下でも4枚以上でもよい。また鏡筒1内部の空間Pはヘリウム、アルゴン等の不活性ガスによって置換されている。
【0025】
透明板131、透明板135は例えばプラスチック等のガラス以外の材質でできている。外装2と透明板131及び透明板135との接点はシールされており、鏡筒1の内部と外部は遮断されている。これにより鏡筒101内部の雰囲気が不活性ガスに保たれること及びそのことによる効果は実施の形態1と同様である。
【0026】
透明板131及び透明板135は実施の形態1におけるレンズ31及びレンズ35に代わるものである。これらの部品は鏡筒内部と外部とを遮断する役割をも有するため、自身が外気と接触することは免れない。先述の通りガラスは水分によってヤケを生じる虞があるため、外部と接触する部分に関してのみプラスチックを用いるのが本実施の形態の趣旨である。透明板131及び透明板135はただの透明な板でもよいし、レンズであってもよい。
【0027】
外気と接触する部分に関しては外部からの洗浄も容易に行なうことができる部分であるので、ガラスであってもよい場合もある。特に透明板131及び透明板135にもレンズとしての機能が必要である場合には小型化の面で実施の形態1のようにガラスの方が好ましい場合もある。本実施の形態のように透明板131及び透明板135を用いることが好ましい場合としては、例えば水中用カメラや多湿地帯での使用が頻繁である場合等の水分のことを通常よりも更に考慮しなければならない場合等であり、使用の用途や形態に応じて適宜選択されるべきである。
【0028】
以上説明したように、本発明の実施の形態2では、外気と接触する面はガラス特有の問題である水分によるヤケを生じない携帯光学機器を提供することができる。
【0029】
実施の形態3
本実施の形態では、実施の形態1及び実施の形態2について、図3のフローチャートとは別の製造方法によって製造する方法を説明する。
【0030】
図5は本実施形態にかかる携帯光学機器の鏡筒201及び鏡筒201内部の雰囲気を不活性ガスに置換する置換装置210の例を模式的に表す模式図である。実施の形態1と同様の記号を付した部分については実施の形態1と同様の機能とし、説明を省略する。鏡筒201は、外装2と外装2に固定されたレンズ32、レンズ33、レンズ34(以下レンズ群30とする)と、透明板231、透明板235からなる。ここで、例としてレンズは3枚としたがこれに限定されるものではなく、2枚以下でも4枚以上でもよい。また鏡筒1内部の空間Pはヘリウム、アルゴン等の不活性ガスによって置換されている。
【0031】
透明板231、透明板235と外装2との接点はシールされており、鏡筒201と外部とは遮断されているので、鏡筒201内部の雰囲気は不活性ガスで保たれる。透明板231、透明板235はレンズでもただの透明な板でもよく、更にその材質はガラスでもプラスチックでもよい。これらは携帯光学機器の用途や使用の形態に応じて適宜選択される。外装2は鏡筒201内部と置換装置210とを接続するための置換孔202を有する。置換孔202に置換装置210が接続されていない場合、置換孔202はシールされており、外部と遮断されている。
【0032】
置換孔202は内部弁203を有し、置換装置210を取り外す際に鏡筒201内部が外気と遮断された状態で取り外せるようになっている。透明板231、透明板235と外装2との接点はシールされており、鏡筒201と外部とは遮断されているので、鏡筒201内部の雰囲気は不活性ガスで保たれる。置換装置210は少なくともボンベ6と、ポンプ7と、ガス供給弁208と、ポンプ弁209と、それらを接続する管とからなる。これらはシールされ、外気と遮断された状態で接続されるが、唯一、鏡筒201に設けられている置換孔202との接続部のみ外部と通じている。
【0033】
次に図5の構成によって鏡筒201を製造する製造方法の例について、図6のフローチャートを用いて説明する。まず、鏡筒201を組み立てる(S201)。この時、鏡筒201を組み立てるための各部品はそれぞれ材質に好適な洗浄方法によって洗浄され、清浄な状態であることが好ましい。次に置換孔202と置換装置210とを接続する(S202)。置換孔202と置換装置210との接続部はシールされた状態となる。内部弁203とポンプ弁209とを開き(S203)、ポンプ7によって鏡筒201内部を真空引きする(S204)。
【0034】
鏡筒201が真空に引かれたらポンプ弁209を閉じ、ガス供給弁208を開く(S205)。そして鏡筒201内部へ不活性ガスを供給する(S206)。この時の鏡筒201内部の内圧は外気と同等の圧力であることが好ましい。鏡筒201内部が不活性ガスによって置換されたら、内部弁203及びガス供給弁208を閉じ(S207)、置換装置210を取り外す(S208)。
【0035】
このような手順により内部が不活性ガスによって置換された鏡筒201を製造する事ができる。以上説明したように本発明の実施の形態3にかかる形態光学機器は、組立作業を空気中で行なう事ができる。
【0036】
その他の実施の形態
実施の形態1及び2について、本発明を携帯光学機器に適用した例について説明したが、本発明は車載用の光学機器にも適用できる。光学機器を車載用として屋外で使用する事により生じる課題は携帯用として屋外で使用する事による課題を解決する方法で解決できる。例えば車のバック時の後部確認用のカメラモジュールは後部バンパーの下部に取り付けられる。当然に太陽光による紫外線の影響は受けるので、当該発明を適用し内部を不活性ガスで満たしておく事は有効な手段となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる携帯光学機器の鏡筒を表す模式図である
【図2】本発明の実施の形態1にかかる携帯光学機器の鏡筒の製造装置を表す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる携帯光学機器の鏡筒の製造方法を現すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態2にかかる携帯光学機器の鏡筒を表す模式図である。
【図5】本発明の実施の形態3にかかる携帯光学機器の鏡筒及び当該鏡筒の製造時の構成を表す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態3にかかる携帯光学機器の鏡筒の製造方法を現すフローチャートである。
【符号の説明】
【0038】
1 鏡筒、2 外装、30 レンズ群、31、32、33、34、35 レンズ
4 作業室、5 置換室、6 ボンベ、7 ポンプ、8 圧力弁、
91、92 扉、10 製造装置、101 鏡筒、131 透明板、
135 透明板、201 鏡筒、202 置換孔、203 内部弁、
208 ガス供給弁、209 ポンプ弁、210 置換装置、
231 透明板、235 透明板、P 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部が不活性ガスで満たされ、内部と外部が遮断されている鏡筒と、
前記鏡筒内部に固定された1枚もしくは複数枚のガラス製レンズと、
を有する携帯又は車載用の光学機器。
【請求項2】
前記鏡筒の両端部をそれぞれ封止するプラスチック製の透明部材を更に有する請求項1に記載の携帯又は車載用の光学機器。
【請求項3】
前記不活性ガスによって置換された雰囲気内で製造されたことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の携帯又は車載用の光学機器。
【請求項4】
前記鏡筒は当該鏡筒の内部の雰囲気を置換するための置換孔を更に有し、鏡筒に組み立て後内部の雰囲気を前記第1の気体で置換することによって製造されたことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の携帯又は車載用の光学機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−23421(P2006−23421A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200069(P2004−200069)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】