説明

携帯用イオン導入器及び薬剤投与方法

課題 従来技術のイオン導入は、単一電化極性の薬物を特定の皮膚部位に比較的低濃度で配送する事にほぼ限られていた。また、比較的大きい分子サイズの薬物、高濃度の条件下においては有効であることが証明されていなかった。また、適用皮膚部位におけるpHの制御は困難であり、十分に高い薬物浸透速度を得ることが困難な場合がある。また、常時携帯には不向きであり、応急性・用時適用を要する薬剤の使用には不向きであった。解決手段 本発明に係る携帯用イオン導入器は、ポケット型に形成した携帯用イオン導入器本体を体部からベルトで吊るす等の取付手段にて携帯型に形成し、該携帯用イオン導入器本体は断続平流のEllipticR波形で、周波数が1500から1530Hzで、かつ断続平流の投入手段を備えるとともに、導入側電極端子と対側端子を備え、該2つの電極端子を標的体部と対側体部にそれぞれ装着可能に形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は薬剤を皮下または血管内にイオン導入する携帯用イオン導入器に関し、被験者での予防・治療・診断を含めた医療法・美容法として薬物・美肌成分のイオン導入配送を行う携帯用イオン導入器及び該携帯用イオン導入器を利用する薬剤投与方法に関する。
【背景技術】
本発明は、広義に、被験者での予防、治療、診断を含めた医療法・美容法として、薬物・美肌成分のイオン導入配送(iontophoretic delivery)を行うための携帯用イオン導入装置及び薬剤投与方法に関するものであるが、人体の特定の部位にイオン導入法を局所的かつ持続的に適用することによって薬物を皮下さらに体内深部に浸透させるための新しい改良システムに関する。
イオン導入法とは、微弱な電流を皮膚に通電して、イオン化した物質を皮膚深部へ浸透させる方法であり、皮下注射に代わり、注射による痛みや感染症の危険を伴わない有効な方法として、現在に至るまで様々な方法が考案されてきた。また、イオン導入方を人体に適応するため多数の電極方が開示され、ガルヴァーニ電流(直流)療法は、イオン化分子に対する極性効果に有効であって、その方法とは、イオン化分子を皮膚角質層を通して、通常皮膚表面に駆動させるというものであった。
元素それ自体のイオン導入例として、各種の皮膚感染症の治療に使用できる亜鉛及び銅の若干のイオン、あるいは表面瘢痕の緩和のための塩素イオンが使用されてきた。医薬のイオン導入例として、リウマチおよび抹消脈管疾患に使用できる血管拡張薬、あるいは患部や施術体部を麻酔する局所麻酔薬も挙げられる。薬物の傾向摂取による胃腸副作用、及び患部以外の全身に分布した薬剤による副作用や毒性は薬物のイオン導入投与では回避できる。
イオン導入法は、有効例が多数見出されている反面、望ましくない副作用、例えば、治療される体部でのイオン導入熱傷及び刺激性皮膚損傷、並びに皮膚小胞および水疱の形成を伴うことがある。これら問題点を解決するために、超低周波で周期的に逆にして、組織損傷を軽減し、より高い濃度でいかなる極性の単一および多数の薬物の長期投薬も可能にしたイオン導入治療システムが開発されている(特許文献1)。同様に、上記問題点を解決するためにイオン導入電極と超音波振動部とを同時に作動させることで、使用時間を短くしても十分なイオン導入効果が得られ、皮膚の強い人は勿論、皮膚の弱い人が長期連用しても皮膚にトラブルを発生しない安全な美肌器が開発されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平成6年−178815
【特許文献2】特開2001−259045
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来技術のイオン導入は、単一電化極性の薬物を特定の皮膚部位に比較的低濃度で配送する事にほぼ限られていた。また、比較的単純な設計で経済的であり、且つ一旦患者に適用した操作状態に置いたならば長期間にわたっての安全かつ持続的な薬物配送が出来る満足なイオン導入器が未開発だった。これらの消費者需要を満たそうとする従来の試みは、実用性と満足度が証明されなかった。
また、比較的大きい分子サイズの薬物、高濃度の条件下においては有効であることが証明されていなかった。また、薬物を溶解する溶媒としてpH制御用緩衝剤を必要とする場合もあるが、適用皮膚部位におけるpHの制御は困難である。また、導入部位における比較的高い電気抵抗や透過性不良のため、十分に高い薬物浸透速度を得ることが困難な場合がある。
従来のイオン導入器による薬物の全身循環および特定の臓器・器官・組織への配送は上記に示す各種の弊害や問題点のため、解決されていなかった。
また、上記従来技術におけるイオン導入器はいずれも電極部を改良したものであり、常時携帯には不向きであり、避妊薬、歯科麻酔・鎮痛薬、痔治療薬、救急創傷治療薬、消炎鎮痛薬、心臓発作抑制薬、喘息発作抑制薬等、応急性・用時適用を要する薬剤の使用には不向きであった。
上記の問題点を解決するために、本発明では波形及び周波数を特定モードに限定するとともに断続平流を採用することを必須要件とし、必要とする機能、部品を最小限に留め、またイオン導入器の電源部、操作部を小型化することで、イオン導入装置の軽量小型化を図り、携帯を可能とするイオン導入器を提供するものである。該装置の特定モードは最も効率良く薬剤を皮下または血管内部に浸透させることが可能であり、かつ、患者に不快感や副作用をもたらさないモードとする。また、比較的単純な設計で操作を簡略化し、使用状況を選ばず、誰にでも手軽に使用可能なイオン導入器を提供する。
【課題を解決するための手段】
本発明は上記の点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ポケット型に形成した携帯用イオン導入器本体を肩・腰・背中・太股の群から選ばれる一つまたはそれ以上の体部からベルトで吊るす等の取付手段にて携帯型に形成し、該携帯用イオン導入器本体はElliptic R波形で、周波数が1500から1530Hzで、かつ断続平流の投入手段を備えるものであって、導入側電極端子と対側端子を備え、該2つの電極端子を標的体部と対側体部にそれぞれ装着可能に形成したことを特徴とする携帯用イオン導入器を提供することにある。
また、上記ポケット型に形成したイオン導入器の前記電極表面は金属材・不織布・可塑性電導材の群から選ばれる一つまたはそれ以上の材料からなることを特徴とする携帯用イオン導入器を提供することにある。
また、上記ポケット型に形成したイオン導入器を用いた皮膚及び、または粘膜の表面から少量ずつ長時間持続的に血管内に浸透させて全身に分布させ臨床薬理効果が発現増強される薬剤を含浸させた薬剤含浸パッドと、該薬剤含浸パッドを介在させて血管が位置している体部の皮膚及び、または粘膜に宛がうイオンの導入側電極端子とを備えたポケット型に形成したイオン導入器にて薬剤を血管内に持続注入することを特徴とする薬剤投与方法を提供することにある。
また、上記ポケット型に形成したイオン導入器を用いて薬剤をイオン導入で浸透させる血管として、肘窩、前手根部、頚動脈、頸部及び前頸部、脇、心臓、臍、肛門、鼠頸部、大腿内側部、膝窩、足根部、内果後部及び外果後部の群れから選ばれる一つもしくはそれ以上の血管を対象とする請求項3記載の薬剤投与法を提供することにある。
また、上記ポケット型に形成したイオン導入器を用いてイオン導入させる薬剤として、単回注射による薬剤投与方法よりも、少量ずつ長時間持続的に血管内に注入する方がより好適な臨床薬理効果を発現増強する薬剤であることを特徴とする請求項3又は4記載の薬剤投与法を提供することにある。
また、上記ポケット型に形成したイオン導入器を用いて臓器・器官・組織の内部に浸透させ臨床薬理効果が発現増強される薬剤を含浸させた薬剤含浸パッドを介在させて皮厚の薄い皮膚及び粘膜に宛がう上記ポケット型に形成したイオン導入器の導入側電極端子と、当該臓器・器官・組織を挟んで導入側電極端子の反対側に宛がう対側電極端子とを備えた携帯型イオン導入器にて皮膚及び、または粘膜の表面から必要希望時間だけ限定的に当該薬剤を当該臓器・器官・組織に注入することを特徴とする薬剤投与法を提供することにある。
また、上記ポケット型に形成したイオン導入器を用いてイオン導入する臓器・器官・組織は、外耳、歯肉、口腔、心臓、肺・気管・鼻腔、膣・子宮・睾丸・肛門、創傷、炎症・病変部位であることを特徴とする請求項6記載の薬剤投与法を提供することにある。
また、上記ポケット型に形成したイオン導入器を用いたイオン導入に使用する薬剤は避妊薬、歯科麻酔・鎮痛薬、痔治療薬、救急創傷治療薬、消炎鎮痛薬、心臓発作抑制薬、喘息発作抑制薬等の応急性・用時適用を要する薬剤であることを特徴とする請求項6又は7記載の薬剤投与方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の一例を示す斜視図である。
図2は本発明の一例を示す背面からの斜視図である。
図3は本発明の一例にサスベンダーを具備した状態を示す斜視図である。
図4は本発明の一例において定電流回路として有効抵抗値の試験を行った結果のグラフである。
図5は本発明の一例において定電流回路として有効抵抗値の試験を行った際の条件である。
図6は本発明の一例の仕様である。
図7は本発明の一例の実施例におけるイオン導入の波形である。
1は電源、操作部である。2はスイッチである。3は極性調整ボタンである。4は出力調整ボタンである。5は出力調整ダイヤルである。6は極性調整ダイヤルである。7はサスベンダーである。
【発明の効果】
本発明は、波形及び周波数を特定モードに限定するとともに断続平流を採用することにより、被験者において注射による痛みや行動制約、感染症の危険を回避し、薬剤の分布が血液中及び特定臓器・器官・組織に限局して薬剤を配送させる効果が得られる。
また、電源部と操作部を一体とし、特定モード、すなわち周波数1500から1550Hzの範囲より好ましくは1530Hzで、波形はElliptic R波、電流は断続平流に限ることで患部に薬剤を効率良く配送させることができ、かつ軽量小型化を可能にし、随時携帯が可能となり、単回注射による薬剤投与よりも少量ずつ長時間持続的に血管内に注入する方がより好適な臨床薬理効果を発現増強する薬剤、及び応急性・用時適用を要する薬剤においても時間・場所を選ばす手軽にイオン導入が可能となり、頻繁な通院の必要もなく、また皮下注射の苦痛や手間、感染症の危険を回避することが可能となる。
また、イオン導入を最も効率的に行うことが可能なモード、すなわち周波数1500から1550Hzの範囲より好ましくは1530Hz、波形はElliptic R波、電流は断続平流の条件でイオン導入を行うことにより、従来技術に比べ、高濃度で薬物を特定の皮膚部位に配送する事が可能であるため、濃度の制約により効果的なイオン導入治療を行うことが出来なかったケースでもイオン導入による効果的な治療が可能となる。
例えばプロビタミンC投与による薬効としてメラノサイトへのプロビタミンCによるメラニン産生抑制、真皮の繊維芽細胞におけるコラーゲン剛性促進とコラーゲン分解酵素MMP−2&−9の産生抑制、紫外線による各DNA2本鎖切断や8−OHdGなどの塩基損害や細胞死に対する防御効果、細胞分裂に伴うテロメアDNA短縮に対するプロビタミンCAsc2Pによるslow−down効果及び細胞寿命の延長効果、皮脂中スクワレンやセラミドなどが変質した過酸化脂質による細胞破綻や細胞死に対する防御、炎症や腫瘍の生じた皮膚で見られる活性酸素の増産、転写因子NF−κBの核酸への転移、コラーゲン分解酵素のMMP−2,9の活性化、転移抑制遺伝子nm23の低下などに対する抑制効果が挙げられる。これらのプロビタミンCの薬効を本発明の携帯型イオン導入器による高率イオン導入によって効果を高めることが可能となる。
また、10kΩまで有効である定電流回路の採用したことにより、患者の体質を選ばす、一定の電流で安全にイオン導入を行うことができる。また、タイマーを内臓したことにより、使用時間の超過により起こり得る熱傷等の副作用の防止が可能である。同様に、電流の値を可変とし、電流として断続並流を用いイオン導入を行うことにより、熱傷及び刺激性皮膚損傷、並びに皮膚小胞及び水疱の形成等の望ましくない副作用及びイオン導入時の通電による不快感を伴うことなく治療を行うことが可能であり、患者の負担を軽減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施例を図に基づいて説明する。図1は本発明の一例を示す斜視図である。図2は本発明の一例を示す背面からの斜視図である。
図1において、1はポケットサイズの携帯用イオン導入器本体、2はスイッチである。3は出力調整ボタンであり、出力調整は4段階で行う。電流は可変で、最大3.0mAとする。周波数と波形の出力調整は図2におけるダイヤル7にて4段階で行う。周波数は1530Hz、波形はElliptic R波、電流は断続平流とする。極性は+・−、ボタン4で切り替えを行う。該イオン導入器内には内臓タイマーを有し、設定時間の確認を行うことを可能とする。電源は全世界対応で、充電形式とする。5は体の各部位、もしくは組織に貼付使用するパッドである。コードは装着し易くためにホック式とする。該携帯用イオン導入器は定電流回路を採用し、抵抗値に関係なく、一定の断続平流の電流を流せるようにする。抵抗値は条件によるが、10kΩまで有効である。本装置のサイズは例えば縦19mm×横33mm×高さ145mmに形成した場合であるが、このサイズに限定されるものではなくよりコンパクト化或いは携帯可能な形状とする。図4、図5は該イオン導入器について定電流回路として有効抵抗値の試験を行った結果のグラフと有効抵抗値の試験を行った際の条件である。本発明で言う断続平流の電流とは、例えば図7に示すように極性がマイナスの波形を7つ与えた後、極性がプラスの波形を1つ与え、以後これを繰返すような場合をいう。断続平流とすることとしたのは、皮膚に帯電するのを防止し、効率良く患部に薬剤を配送できるようにするためである(図7参照)。
使用方法としては、臓器・器官・組織の内部に浸透させ臨床薬理効果が発現増強される薬剤を含浸させた薬剤含浸パッドを創傷・炎症・病変部位の皮厚の薄い皮膚及び粘膜、例えば外耳、歯肉、口腔、心臓、肺・気管・鼻腔、膣・子宮・睾丸・肛門等に宛がい、その上部に上記イオン導入器の電極端子の一方を導入側電極端子として宛がう。次いで上記イオン導入器の他方の電極端子を対側電極端子として該臓器・器官・組織を挟んで導入側電極端子の反対側に宛がい、両端子を粘着テープ等で固定する。
もしくは使用方法として、上記該携帯型イオン導入器によりイオン導入させる血管として、肘窩、前手根部、頚動脈、頸部及び前頸部、脇、心臓、臍、肛門、鼠頸部、大腿内側部、膝窩、足根部、内果後部及び外果後部の群れから選ばれる一つもしくはそれ以上の血管とし、その近辺の皮厚の薄い皮膚に上記と同様の方法で薬剤含浸パッド及び電極端子を宛がう。
該イオン導入器を携帯しやすくするために、図3におけるホールダー7を設ける。このサスベンダー7を肩等に掛けて体部に吊るし、その他の取付手段により取付を行って携帯することが可能である。ホールダーの形状や該イオン導入器本体取付位置や材質はこの図例に限らず、体部に該イオン導入器本体を吊るす機能その他の取付機能のあるものを全て包含する。
該携帯用イオン導入器によるイオン導入に用いる薬剤としては単回注射による薬剤投与よりも少量ずつ長時間持続的に血管内に注入する方がより好適な臨床薬理効果を発現増強する薬剤、例えばビタミンC、プロビタミンC、ビタミンE、プロビタミンE、抗がん剤、がん転移抑制剤、発がん防止剤、免疫増強剤、インスリン・ハイドロコルチゾン、プロゲステロン、エストラジオール、テストステロン等とする。
もしくは、該携帯型イオン導入器によるイオン導入に用いる薬剤として応急性・用時適用を要する薬剤、例えば避妊薬、歯科麻酔・鎮痛薬、痔治療薬、救急創傷治療薬、消炎鎮痛薬、心臓発作抑制薬、喘息発作抑制薬等を用いる。
本発明の上記イオン導入器の開発において、最良のモードを特定するためにイオン導入器の設定モードとして従来多く見られた直流電流、断続平流のElliptic R他に、squarish RとRectangular波も比較し、各波形で周波数を従来多く見られた500Hzから1550Hzまで調べた。イオン導入の薬品としてプロビタミンCのAsc2P・Naを用い、イオン導入の対象としてヒト摘出皮膚小片を培養したものを用い試験を行った。イオン導入器としてはHigh Vitaliot(インディバジャパン社製造)を用いた。該製品は周波数を500Hz〜1530Hzで3段階(モード1・モード2・モード3)に変更が可能であり、波形も断続平流の「矩形波・積分波」を主に、角R(squarish−R)波、矩形R(rectangular−R),Elliptic R波の3種(モード1・モード2・モード3)で変更が可能である。皮膚小片の角質層にAsc2P・Naの溶液を含浸させた二重ガーゼの上からイオン導入器のマイナス電極端子を当て、皮下側にプラス電極端子を当て、実測電流値はマルチメーターで計測した。Asc2P・Naの4%水溶液をイオン導入し、4時間後に皮膚片を表皮と真皮に分離して各部分のプロビタミンC、総ビタミンC(還元型と酸化型ビタミンCの総和)、酸化型のビタミンC(デヒドロアスコルビン酸)の定量を行った。リファレンスとして、表皮に外用塗布を行い、イオン導入を行わなかったものについても、イオン導入を行ったものと同じ条件で同様の定量を行った。この結果、外用塗布だけでは真皮にビタミンCが検出できず、表皮でも1.4nmol/g組織、すなわちほぼ1.2μMであり、健常ヒト血中ビタミンC濃度(VC−blood)の3%未満と不足していた。その結果、数種のモードの内、Elliptic R波、1530Hz(モード3−3)の条件で顕著に良好なビタミンC導入効果を示し、表皮で外用塗布の19.7倍、真皮でも2.2nmol/g組織、すなわち1.9μMという真皮では高い総ビタミンC濃度を達成した。High Vitaliont(インディバジャパン社製造)におけるモード3−3の電気特性を図6、波形を図4に示す。
また、プロビタミンCのAsc2P・Naを飽和濃度近くまで溶解させてイオン導入することは従来のイオン導入器の技術では不可能であった。しかし、上記High Vitaliont(インディバジャパン社製造)を利用し実験を行ったところ、周波数1530Hz、波形Elliptic波(モード3−3)にて真皮への総ビタミンCは大幅に増大した。最適濃度は30%Asc2P・Naであり、ビタミンC到達が困難であった真皮においても27nmol/g組織、すなわち27μMという高濃度の総ビタミンCの達成が認められた。
実験の結果、最も良好なプロビタミンC導入をもたらすモードは、電流値をいろいろ振っても総合すると、周波数1530Hz、波形Elliptic波(モード3−3)である。表皮/真皮ともに良好なイオン導入効果は、周波数1530Hz、波形Elliptic R波(モード3−3)で設定値1.0mAで実測値0.99mAであった。また、この設定値が被験者の不快感のない最大の電流値であった。
皮膚中のビタミンC濃度は表皮では2240−3890μMであり、血中ビタミンCの56〜97倍の高濃度であった。真皮でも127−281μMを達成した。外用塗布では真皮の中にビタミンCをほとんど検出できないので、イオン導入によるプロビタミンCの浸透性は大幅に増大したことになる。
さらに、従来のイオン導入器ではビタミンCの還元率が30−60%と不良であったが、High Vitaliont(インディバジャパン社製造)の周波数1530Hz、波形Elliptic R波(モード3−3)では97−100%ときわめて良好であった。ビタミンC還元率とは、プロビタミンCから変換されたビタミンCが、薬理効果の安全な還元型ビタミンCの形にいかに保持されているかを示す指標である。
また、ビタミンCの持続時間において、ビタミンCの最高値に到達すると推定される導入後4時間及び6時間で調べたところ、従来のイオン導入器よりも長い6時間の持続性が認められた。
上記実験結果に基づき、本発明の携帯型イオン導入器は、最も効率の良いイオン導入を行うことが可能となる周波数及び波形を特定モードに限定するとともに断続平流を採用し、更に設計の単純化及び小型軽量化を図ったものである。本発明の一例の携帯型イオン導入器の仕様は表3の通りである。以下、本発明の一例の携帯型イオン導入器を用いた実施例を示す。
【実施例1】
プロビタミンCのAsc2P・Na(アスコルビン酸−2−O−リン酸エステルのナトリウム塩、昭和電工株式会社製造)を20%の濃度に純水(蒸留水またはMilliQ超純水)1mLに溶解させて30x30x5mmのサイズの吸水パッドに含浸させ、21歳、男性の右腕肘内側の静脈に宛がう。このパッドに図1に示す本発明の携帯型イオン導入器のマイナス電極端子を宛がい、プラス電極端子は右腕から肩寄りに10cmの位置に宛がい、両端子を粘着テープで固定した。イオン導入器本体は肩にストリングでかけて体側に吊るした。イオン導入モードはElliptic R波の波形で1530Hzの周波数、0.3mAの電流値、デューティー比50%、1:8Reversalの電気極性リセットで実施した(表3)。この結果、施行前の血液中ビタミンCは13.4±0.2umol/Lだったが、施行後1時間で18.5±0.3umol/L、2時間で30.1±1.9umol/L、以下、3、4、5、6、8、10、24時間でそれぞれ34.2±3.8、57.0±4.9、83.3±7.6、68.9±4.1、88.9±6.5、71.0±6.4、73.1±4.7umol/Lとなり、理想的な血中ビタミンC濃度が維持できた。これはビタミンCの単回摂取では得られない安定したビタミンC維持効果に相当する。と同時に24時間の長時間イオン導入に関わらず持続したビタミンC導入効果が保持されたことを意味する。血液中ビタミンCの分離と検出はODSカラムのHPLC(高性能液体クロマトグラフィー)とグラファイト・クーロメトリックEDC(電気化学検出器)で実施した。2日目は反対側の左腕における同じ部位である肘内側の静脈で同じ様に実施し、プロビタミンCは新たに調整して使用した。イオン導入実施後1時間で65.2±3.6umol/L、2時間で70.3±4.8umol/L、以下4、6、8、10、24時間でそれぞれ74.6±2.0umol/L、73.3±5.9umol/L、68.6±1.7umol/L、87.1±4.5umol/L、71.5±3.8umol/Lとなり、連日のイオン導入によって継続して血中ビタミンCが安定した濃度を維持することが判明した。
【実施例2】
プロビタミンEのαTocP(α−トコフェロールリン酸、シグマアルドリッチ社製造)を8%の濃度に純水(蒸留水またはMilliQ超純水)1mLに溶解させて30x30x5mmのサイズの吸水パッドに含浸させ、31歳、女性の右足膝屈側の静脈に宛がう。このパッドに図1に示す本発明の携帯型イオン導入器のマイナス電極端子を宛がい、プラス電極端子は右脚膝から足先寄りに外側10cmの位置に宛がい、両端子を粘着テープで固定した。イオン導入器本体は腰にストリングでかけて吊るした。イオン導入モードはElliptic R波の波形で1530Hzの周波数、0.5mAの電流値、デューティー比50%、1:8Reversalの電気極性リセットで実施した(表3)。この結果、施行前の血液中ビタミンEは17.5±0.6umol/Lだったが、施行後1時間で19.5±0.4umol/L、2時間で20.4±3.0umol/L、以下、3、4、5、6、8、10、24時間でそれぞれ23.0±7.1、26.1±1.4、24.2±5.8、26.9±5.0、29.1±4.3、24.8±5.5、23.0±5.5umol/Lとなり、理想的な血中ビタミンE濃度が維持できた。血液中ビタミンEの分離と検出はODSカラムのHPLC(高性能液体クロマトグラフィー)と蛍光フロー検出器で実施した。
【実施例3】
ヒトインスリン(分子量5807、Novo社製造)を通常の注射液よりも濃厚な100U/mLの濃度に純水(蒸留水またはMilliQ超純水)1mLに懸濁させて50x50x1mmのサイズのゲルコーティング不織布の内側の30x30x0.5mmの吸水パッドに含浸させ、6時間絶食、39歳、女性の剃毛した右脇奥の静脈に宛がう。このパッドに図1に示す本発明の携帯型イオン導入器のマイナス電極端子を宛がい、プラス電極端子は右肩から肘寄りに外側5cmの位置に宛がい、両端子を粘着テープで固定した。イオン導入器本体は肩にストリングでかけて右体側に吊るした。イオン導入モードはElliptic R波の波形で1530Hzの周波数、0.7mAの電流値、デューティー比50%、1:7Reversalの電気極性リセットで実施した(表3)。この結果、施行前の血液中インスリンは11.5±0.6μU/mLだったが、施行後1時間で13.5±0.4umol/L、2時間で20.4±3 0umol/L、以下、3、4、5、6、8、10、24時間でそれぞれ23.0±7.1、36.1±1.0、27.2±4.6、32.9±5.9、30.8±5.4、33.7±6.4、28.0±3.4umol/Lとなり、理想的な血中インスリン濃度が維持できた。血液中インスリンの測定はラジオイムノアッセイで行った。この測定値はODSカラムのHPLC(高性能液体クロマトグラフィー)とUVフロー検出器での結果と相応していた。
【実施例4】
局所麻酔薬のLidocaine Hydrochlorideを藤沢薬品工業製造のXylocaine静脈注射用薬(100mg Lidocaine/5mL)よりも濃厚な50mg/mLの濃度に純水(蒸留水またはMilliQ超純水)1mLに溶解させて、そのうちの0.4mLを10x10x2mmのサイズの吸水パッドに含浸させた。次いで8週齢Wisterラットから摘出した下顎の歯と歯肉を歯根側をDMEM培地に漬けて器官培養し、前歯の頬側歯肉にパッドを宛がった。このパッドに図1に示す本発明の携帯型イオン導入器のプラス電極端子を宛がい、マイナス電極端子は前歯の咽頭側歯肉に宛がい両端氏を連結クリップで歯と一緒に仮固定した。イオン導入器本体は器官培養の外側に設置したが、実際の医療現場では患者の肩や首にベルトで吊るすことができる。イオン導入モードはElliptic R波の波形で1530Hzの周波数、0.5mAの電流値、デューティー比50%、1:7Reversalの電気極性リセットで実施した(表3)。30分のイオン導入の後、当該歯肉を頬側部分5x5mmに摘出し、クライオスタットで4μmの厚さの切片にスライスした。切片を約100枚ずつ歯肉表面から順に回収して概ね400μmずつの深度ごとに5画分に分別して秤量し、液体窒素での凍結融解とVortexMixerで歯肉組織を破砕した。各画分の破砕液からエタノール抽出でLidocaineを回収し、ODSカラムのHPLCで分離してUVフロー検出器で測定した。この結果、歯肉中Lidocaine濃度は表面より400μmまでの画分が76.2±8.2nmol/g tissue、400−800μm画分43.0±11.2nmol/g tissue、800−1200μm画分39.4±7.0nmol/g tissue、1200−1600μm画分24.5±8.9nmol/g tissue、1600−12000μm画分11.3±0.8nmol/g tissue、という深度分布を示し、神経の分布する組織領域に充分量の局所麻酔が短時間で無痛無出血で行渡ることが示された。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポケット型に形成した携帯用イオン導入器本体を肩・腰・背中・太股の群から選ばれる一つまたはそれ以上の体部からベルトで吊るす等の取付手段(サスペンダー付)にて携帯型に形成し、該携帯用イオン導入器本体はElliptic R波形で、周波数が1500から1530Hzで、かつ断続平流の投入手段を備えるとともに、導入側電極端子と対側端子を備え、該2つの電極端子を標的体部と対側体部にそれぞれ装着可能に形成したことを特徴とする携帯用イオン導入器。
【請求項2】
前記電極表面は金属材・不織布・可塑性電導材の群から選ばれる一つまたはそれ以上の材料からなることを特徴とする請求項1記載の携帯用イオン導入器。
【請求項3】
皮膚及び、または粘膜の表面から少量ずつ長時間持続的に血管内に浸透させて全身に分布させ臨床薬理効果が発現増強される薬剤を含浸させた薬剤含浸パッドと、該薬剤含浸パッドを介在させて血管が位置している体部の皮膚及び、または粘膜に宛がうイオンの導入側電極端子とを備えたポケット型に形成した携帯用イオン導入器にて薬剤を血管内に持続注入することを特徴とする薬剤投与方法。
【請求項4】
薬剤をイオン導入で浸透させる血管として、肘窩、前手根部、頚動脈、頸部及び前頸部、脇、心臓、臍、肛門、鼠頸部、大腿内側部、膝窩、足根部、内果後部及び外果後部の群れから選ばれる一つもしくはそれ以上の血管を対象とする請求項3記載の薬剤投与法。
【請求項5】
イオン導入させる薬剤として、単回注射による薬剤投与方法よりも、少量ずつ長時間持続的に血管内に注入する方がより好適な臨床薬理効果を発現増強する薬剤であることを特徴とする請求項3又は4記載の薬剤投与法。
【請求項6】
臓器・器官・組織の内部に浸透させ臨床薬理効果が発現増強される薬剤を含浸させた薬剤含浸パッドを介在させて皮厚の薄い皮膚及び粘膜に宛がうポケット型に形成した携帯用イオン導入器の導入側電極端子と、当該臓器・器官・組織を挟んで導入側電極端子の反対側に宛がう対側電極端子とを備えたポケット型携帯用イオン導入器にて皮膚及び、または粘膜の表面から必要希望時間だけ限定的に当該薬剤を当該臓器・器官・組織に注入することを特徴とする薬剤投与法。
【請求項7】
イオン導入する臓器・器官・組織は、外耳、歯肉、口腔、心臓、肺・気管・鼻腔、膣・子宮・睾丸・肛門、創傷、炎症・病変部位であることを特徴とする請求項6記載の薬剤投与法。
【請求項8】
オン導入する薬剤は避妊薬、歯科麻酔・鎮痛薬、痔治療薬、救急創傷治療薬、消炎鎮痛薬、心臓発作抑制薬、喘息発作抑制薬等の応急性・用時適用を要する薬剤であることを特徴とする請求項6又は7記載の薬剤投与

【国際公開番号】WO2005/035051
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【発行日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−509470(P2005−509470)
【国際出願番号】PCT/JP2003/013079
【国際出願日】平成15年10月10日(2003.10.10)
【出願人】(503321703)株式会社インディバ・ジャパン (3)
【出願人】(598157753)
【Fターム(参考)】