説明

携帯電話保護カバー用シートの製造方法

【課題】
生産効率を向上させることができるとともに、ニュートンリングの発生を防止する凹凸マットを精度よく形成することのできる携帯電話保護カバー用シートの製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の携帯電話保護カバー用シートの製造方法は、透明樹脂シートの片面または両面に、糸密度が縦横それぞれ150〜380本/インチのメッシュを用いたスクリーン印刷により凹凸状の表面樹脂層を形成する作業と、スクリーン印刷によりマスキングを形成する作業とを、同じ印刷工程内で行うことによってなされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、表面に微細な凹凸状マットを形成し、ニュートンリングの発生を防止するようにした携帯電話保護カバー用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話に装着される液晶パネルの保護カバー用シートの製造方法としては、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート等の透明樹脂シート、またはその透明樹脂シートの表面にハードコート層を設けた表面硬化型透明樹脂シートに、スクリーン印刷などによりマスキングを形成することによって行う方法が知られている。その保護カバー用シートは、裁断などの加工を経て、携帯電話に装着される。
【0003】
ところで、近年、携帯電話の薄型化に伴い、液晶パネルの保護カバー用シートと液晶パネルとの距離が接近し、保護カバー用シートの厚さ、樹脂特性などの理由により剛性が不十分な場合、外部から荷重がかかると、撓みにより液晶パネルの保護カバー用シートと液晶パネルが密着し、ニュートンリングが発生するという問題がある。
【0004】
そこで、これら保護カバー用シートの表面に微細な凹凸状のマット加工を施すことによって、密着を防ぎ、ニュートンリングの発生を防止する対策が採られている。
【0005】
表面に凹凸状マットを施す携帯電話保護カバー用シートの製造方法としては、透明樹脂シートの液晶パネル側となる表面に、有機フィラーや無機フィラーを添加したコート剤を二次加工によりコーティングして、その後にその表面にスクリーン印刷などによりマスキングを形成して行う方法が知られている。(特許文献1〜3)
【0006】
また、透明樹脂シートを押出法などのシート成形法によって成形し、その製造過程で凹凸状の彫刻を施したロール間に圧着状に通して表面に物理的なマットを施し、それからその表面にスクリーン印刷などによりマスキングを形成して行う方法が知られている。
【特許文献1】特開2006−190512
【特許文献2】特開2003−279711
【特許文献3】特開2002−373056
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、二次加工によってコーティングする方法を採用した場合には、コーティング作業と、スクリーン印刷によるマスキング形成作業とは別工程となり、工程数の増加を招き、ひいては生産効率が低下し、得られた保護カバー用シートは経済性に劣るといった問題があった。
【0008】
一方、シート成形時にマットを物理的に付与する方法を採用した場合には、工程数の増加は招かないものの、マットを形成する際に、ロールの圧力ムラが発生し、シートには凹凸のばらつきが生じ、また凹凸状態の再現性にも乏しくなり、部分的に透明性が損なわれるなど得られた保護カバー用シートは実用性に低いなどの問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑み、生産効率を向上させることができるとともに、ニュートンリングの発生を防止する凹凸マットを精度よく形成することのできる携帯電話保護カバー用シートを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、透明樹脂シートの表面に形成するニュートンリングの発生を防止するための凹凸状のマットを、マスキング形成と同じスクリーン印刷によって形成することに着目し、鋭意研究することにより、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、請求項1に係る発明は、透明樹脂シートの片面または両面に、糸密度が縦横それぞれ150〜380本/インチのメッシュを用いたスクリーン印刷により凹凸状の表面樹脂層を形成する作業と、スクリーン印刷によりマスキングを形成する作業とを、同じ印刷工程内で行うことを特徴とする携帯電話保護カバー用シートの製造方法を要旨とする。
【0012】
また、請求項2に係る発明は、透明樹脂シートの片面または両面にハードコート層を設けた表面硬化型透明シートの片面または両面に、糸密度が縦横それぞれ150〜380本/インチのメッシュを用いたスクリーン印刷により凹凸状の表面樹脂層を形成する作業と、スクリーン印刷によりマスキングを形成する作業とを、同じ印刷工程内で行うことを特徴とする携帯電話保護カバー用シートの製造方法を要旨とする。
【0013】
また、請求項3に係る発明は、表面樹脂層の膜厚を3〜15μmにすることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の携帯電話保護カバー用シートの製造方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、透明樹脂シートまたは表面硬化型透明樹脂シートの片面または両面に、凹凸状の表面樹脂層を形成する作業と、マスキングを形成する作業とを、スクリーン印刷による同じ印刷工程内で行うため、工程数を増やすことなく、ニュートンリングの発生を防止する携帯電話保護カバー用シートを効率よく製造することができる。
【0015】
また、スクリーン印刷の際に使用するメッシュの糸密度を縦横それぞれ150〜380本/インチとするため、微細な凹凸状の表面樹脂層を形成することができ、ニュートンリングの発生を効率よく防止できるといった効果がある。
【0016】
また、請求項2の発明では、とくに透明樹脂シートの片面または両面にハードコート処理を施したものとするため、表面に傷が付きにくく、持続的な透明性に優れた携帯電話保護カバー用シートを得ることができる。
【0017】
また、請求項3の発明では、表面樹脂層の膜厚を3〜15μmにするため、ヘーズが低く、視認性に優れた携帯電話保護カバー用シートを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の携帯電話保護カバー用シートの具体的な態様を図1ないし図3にしたがって説明する。
【0019】
図1は、透明樹脂シート2の片面に対し、スクリーン印刷によって凹凸状の表面樹脂層3を形成し、さらに同じ印刷工程内で、その表面の一部にスクリーン印刷によるマスキング4を形成して得られた携帯電話保護カバー用シート5の断面図を示している。
【0020】
図2は、透明樹脂シート2の片面に対し、その一部にスクリーン印刷によるマスキング4を形成し、同じ印刷工程内で、その上から全面に、スクリーン印刷によって凹凸状の表面樹脂層3を形成して得られた携帯電話保護カバー用シート5の断面図を示している。
【0021】
図3は、透明樹脂シート2の両面にハードコート層1を設けた表面硬化型透明シート6の片面にスクリーン印刷によって凹凸状の表面樹脂層3を形成し、さらにその表面の一部にスクリーン印刷によるマスキング4を形成して得られた携帯電話保護カバー用シート5の断面図を示している。
【0022】
このように図1ないし図3で示した携帯電話保護カバー用シート5においては、凹凸状の表面樹脂層3を形成する作業と、マスキング4を形成する作業を、同じ印刷工程内で行うため、従来のコーティングによる方法に比べ工程数を増やすことなく、効率よく製造することができる。
【0023】
またとくに、図3においては、図1に対して、透明樹脂シート2の両面にハードコート層1を形成した表面硬化型透明樹脂シート6が用いられるために、上記生産効率に優れるといった効果に加え、携帯電話保護カバー用シート5の表面には傷が付きにくく、持続的な透明性に優れたものとなる。
【0024】
つぎに本発明で使用する材料および方法について説明する。
【0025】
本発明で採用される透明樹脂シート2は透明樹脂からなるシートであり、その透明樹脂としては、例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、透明ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、シクロオレフィン樹脂が好適なものとしてあげられる。なかでも、ポリカーボネート樹脂がとくに好ましい。その成形法としては、押出法、カレンダー成形法、カレンダー・プレス成形法など常套の方法が採用される。ただしこれら製法に制限されることはない。
【0026】
なお、本発明でいうシートとは0.1mm以上の厚さのものをいい、一般にいわれるフィルム状のものも含まれる。ここで、本発明で好適なシート厚さは、0.1〜2.0mmである。すなわち、0.1mm未満では、強度面で十分に確保ができず、携帯電話保護カバー用シートとしての機能を得ることができない。一方、2mmを超過すれば、剛性が高く、ニュートンリング防止対策を講じる必要がなくなる場合がある。
【0027】
本発明においては、上述のように透明樹脂シート2またはスクリーン印刷によるマスキング4の上から、スクリーン印刷により表面樹脂層3が形成されるが、その印刷方法は、糸密度が縦横それぞれ150〜380本/インチのメッシュを用いてなされる。すなわち、こうすることで、表面に微細な凹凸状の表面樹脂層3を形成することができ、ニュートンリングの発生を効果的に防止できる。
【0028】
メッシュの糸密度が150本/インチ未満の場合は、表面樹脂層3にメッシュのマット目が転写してしまい、所望する微細な凹凸を施すことができない。また、メッシュの糸密度が380本/インチを超える場合は、凹凸が粗くなりすぎ、表面樹脂層3に肌荒れが発生し、やはり所望する微細な凹凸を施すことができない。
【0029】
スクリーン印刷に用いられるインクとしては、アクリル樹脂系、ポリエステル系、ポリウレタン系、エポキシ系などの常温硬化型塗料、またアクリル系活性エネルギー線硬化型インク、アクリル系熱硬化型インク、エポキシ系活性エネルギー線硬化型インク、エポキシ系熱硬化型インク、ウレタン系活性エネルギー線硬化型インク、ウレタン系熱硬化型インク等の活性エネルギー線硬化型、熱硬化型の透明インクなどがあげられるが、これに限定されるものではなく、透明性を阻害せず、かつ携帯電話保護カバーの生産工程を阻害しないものが適宜選択され使用される。
【0030】
本発明における表面樹脂層3の膜厚はとくに制限されるものではないが、3〜15μmあるのが好ましい。3μm未満ではスクリーン印刷において透明樹脂シート2上に保持されるインク量が少なくなりすぎとなり、所望する微細な凹凸を得ることができない。膜厚が15μmを超える場合、表面に微細な凹凸状の印刷ムラが発生し、透明性に劣るものとなる。また表面樹脂層におけるヘーズ値は3%以下、好ましくは2%以下であるのが望ましい。
【0031】
さらに、本発明においては、表面樹脂層3に有機または無機フィラーを分散させることが好ましい。こうすることで、表面樹脂層の凹凸状態が均質化し、より確実に、ニュートンリングの発生を防止できるといった効果がある。有機または無機フィラーとしては、アクリル系架橋ビーズ、シリカ系架橋ビーズ、アクリル系パウダー、シリコーン系パウダー、アルミナ系パウダー、炭素系チョップ、シリカ系チョップ等が挙げられるが、透明性を阻害しない範囲であれば、これに限られるものではない。
【0032】
本発明におけるスクリーン印刷によるマスキング4の形成については、従来使用されているのと同様のインク、またその方法が採用できる。もちろん、上記表面樹脂層3形成の際に使用されるインクと同じものを使用してもよい。なお、このマスキング4を形成するにおいては、使用するメッシュの糸密度に制限はない。
【0033】
本発明でいう印刷工程とは、設備、場所などが共通し、印刷の作業を一連して行うことのできる工程を指しており、時間などの制限はない。
【0034】
図3では透明樹脂シート2の両面にハードコート層1を設けた表面硬化型透明シート6を示しているが、ハードコート層1は片面だけになされてもよい。そのハードコート層1を施す方法としては、透明樹脂シート2にハードコート層1形成のための塗料を塗布して、自然あるいは強制により乾燥させる方法があげられる。ハードコート層1形成のための塗料としては、アクリル系活性エネルギー光線硬化型インク、アクリル系熱硬化型インク、エポキシ系活性エネルギー硬化型インク、エポキシ系熱硬化型インク、ウレタン系活性エネルギー硬化型インク、ウレタン系熱硬化型インク等があげられるが、これに限定されるものではなく、透明性を阻害しないものが適宜使用される。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0036】
<実施例1>
厚さ0.1mmの透明なポリカーボネートシート(ポリカエース、EC100C:筒中プラスチック工業株式会社)の片面にポリウレタン樹脂系透明インクと希釈溶剤とをポリウレタン樹脂系透明インク:希釈溶剤=1:4の体積割合で混合したものを糸密度が縦横それぞれ380本/インチのメッシュを用いたスクリーン印刷により印刷した後に加熱乾燥することにより、表面が微細な凹凸形状である表面樹脂層を形成した。その表面の一部に、スクリーン印刷によりマスキングを形成し、携帯電話保護カバー用シートを製造した。
【0037】
<実施例2>
スクリーン印刷に用いるメッシュを糸密度が縦横それぞれ150本/インチのメッシュに変更した以外は、実施例1と同様にして、携帯電話保護カバー用シートを製造した。
【0038】
<実施例3>
ポリカーボネートシートの厚さを0.1mmから1.0mmに変更した以外は、実施例1と同様にして、携帯電話保護カバー用シートを製造した。
【0039】
<実施例4>
ポリカーボネートシートを両面にハードコート処理をした表面硬化型ポリカーボネートシートに変更した以外は、実施例3と同様にして、携帯電話保護カバー用シートを製造した。
【0040】
<比較例1>
スクリーン印刷に用いるメッシュを糸密度が縦横それぞれ420本/インチのメッシュに変更した以外は、実施例1と同様にして、携帯電話保護カバー用シートを製造した。
【0041】
<比較例2>
スクリーン印刷に用いるメッシュを糸密度が縦横それぞれ100本/インチのメッシュに変更した以外は、実施例1と同様にして、携帯電話保護カバー用シートを製造した。
【0042】
<比較例3>
スクリーン印刷に用いるメッシュを糸密度が縦横それぞれ100本/インチのメッシュに変更し、ポリウレタン樹脂系透明インクに希釈溶剤を混合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、携帯電話保護カバー用シートを製造した。
【0043】
<比較例4>
スクリーン印刷に用いるメッシュを糸密度が縦横それぞれ420本/インチのメッシュに変更し、ポリウレタン樹脂系透明インクと希釈溶剤とをポリウレタン樹脂系透明インク:希釈溶剤=1:9の体積割合で混合したこと以外は、実施例1と同様にして、携帯電話保護カバー用シートを製造した。
【0044】
<ヘーズ値、全光線透過率>
得られた実施例、および比較例の携帯電話保護カバー用シートの膜厚およびヘイズ値および全光線透過率を測定した。膜厚はエリクセン社の518型ペイントボアラーを使用して測定し、ヘイズ値はJIS K7105に準拠し全光線透過率計(日本電色工業株式会社製、NDH2000)を使用して測定した。評価結果を表1に示す。
【0045】
<ニュートンリング発生の有無、視認性>
得られた実施例、および比較例の携帯電話保護カバー用シートを、導光板型のバックライトユニットを使った携帯電話用液晶パネルモジュールに液晶パネルとの隙間が0.5mmとなるように設置し、 ニュートンリング発生の有無、および視認性について、以下の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
ニュートンリング発生の有無:バックライトを点灯した状態で、表面が微細な凹凸形状である表面樹脂層を設けた携帯電話保護カバー用シートの中央部を指で押し液晶パネルと接触させた状態でニュートンリング発生の有無を目視で確認した。ニュートンリングの発生が殆ど見られなかったものを○、発生したものを×とした。
視認性:バックライトを点灯した状態で、液晶パネルユニット正面から目視により視認性を確認した。視認性の良かったものを○、悪かったものを×とした。
【0046】
【表1】

【0047】
表1および表2から明らかなように、本発明に係る実施例1〜4においては、ニュートンリングの発生がほとんどなく、視認性にも優れていた。これに対し本発明の技術範囲を逸脱する比較例1〜4においては、ニュートンリングが発生するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の携帯電話保護カバー用シートの実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の携帯電話保護カバー用シートの別の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の携帯電話保護カバー用シートの別の実施形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 ハードコート層
2 透明樹脂シート
3 表面樹脂層
4 マスキング
5 携帯電話保護カバー用シート
6 表面硬化型透明樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂シートの片面または両面に、糸密度が縦横それぞれ150〜380本/インチのメッシュを用いたスクリーン印刷により凹凸状の表面樹脂層を形成する作業と、スクリーン印刷によりマスキングを形成する作業とを、同じ印刷工程内で行うことを特徴とする携帯電話保護カバー用シートの製造方法。
【請求項2】
透明樹脂シートの片面または両面にハードコート層を設けた表面硬化型透明シートの片面または両面に、糸密度が縦横それぞれ150〜380本/インチのメッシュを用いたスクリーン印刷により凹凸状の表面樹脂層を形成する作業と、スクリーン印刷によりマスキングを形成する作業とを、同じ印刷工程内で行うことを特徴とする携帯電話保護カバー用シートの製造方法。
【請求項3】
表面樹脂層の膜厚を3〜15μmにすることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の携帯電話保護カバー用シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−32987(P2008−32987A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205949(P2006−205949)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】