説明

摩擦力測定方法および摩擦力測定装置

【課題】 先端に触針を有するカンチレバーを利用した、簡便・高精度な定量測定ができる摩擦力測定方法および摩擦力測定装置を提供する。
【解決手段】摩擦力顕微鏡の原理を利用した触針6bとサンプル5間の摩擦力の測定方法において、単位長さ当たりの撓み変形に伴う光強度変化信号を取得する工程と、捩れ変形に伴う光強度変化信号を取得する工程と、撓み変形に伴う光強度変化信号の増幅倍率と捩れ変形に伴う光強度変化信号の増幅倍率の比率を取得する工程と、光源10からカンチレバー6に照射される光スポット形状のカンチレバー6の長軸方向と長軸に垂直な方向の長さの比率を取得する工程と、カンチレバーの寸法および物理定数を取得する工程を含み、前記各工程において取得した値から摩擦力を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡などに用いられ、カンチレバーの撓み量と捩れ量の検出を行うことにより、カンチレバー先端に設けた触針と触針を接触させるサンプル間の摩擦力を測定する摩擦力の測定方法および摩擦力測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の走査型プローブ顕微鏡による摩擦力測定は、先端部に触針を有するカンチレバーと、前記カンチレバーに光を照射する光源と、カンチレバーに当たって反射した光源からの反射光を検出し電気信号に変換する受光面が4分割された二次元光検出器と、この二次元光検出器による出力信号を前記カンチレバーの撓み変位信号と捩れ変位信号に変換する変換回路とで構成される。このとき、触針をサンプルの表面に近づけていくと、両者間に原子間力が生じ、さらに近づけていくと接触力が生じ、これらの原子間力や接触力によりカンチレバーに撓みが生じてカンチレバーが長軸に対して垂直な方向に変位する。また、サンプル面内でカンチレバーの長軸に対して垂直な方向に水平方向微動機構を用いてカンチレバーとサンプルを相対的に走査するとサンプルと触針との間の摩擦力によって長軸周りの捩れ変位を生じる。カンチレバーに撓み変位と捩れ変位が生じると、カンチレバーに当たって反射し二次元検出器の各受光素子に入射する光ビームの光量が変化する。この各受光素子に入射した光ビームを検出して電気信号に変換し、これを変換回路で演算処理すると、カンチレバーの撓み変位信号と捩れ変位信号が得られ、原子間力や接触力と摩擦力の同時測定が行われる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このとき、撓み変位信号を検出することでサンプルと触針間の距離を認識でき、垂直方向微動機構を用いて距離制御を行うことで原子間力や接触力の制御を行うことができる。これらの原子間力や接触力はサンプルと触針間に働く垂直抗力に相当し、垂直抗力を任意に設定した上で、サンプルと触針間の摩擦力測定を行うことが可能となる。また、撓み変位信号により触針とサンプル間の距離を一定に制御しながら水平方向微動機構によりラスタスキャンを行うことで、一定の垂直抗力下での摩擦力分布像の測定を行うこともできる。さらに、撓み変位信号を基に垂直抗力の大きさを較正し、捩れ変位信号で得られる摩擦力を垂直抗力により除することで摩擦係数も求めることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−259728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の摩擦力顕微鏡では、摩擦力や摩擦係数の定性的な測定は容易に行うことができるが定量的な測定を行うことは困難であった。
【0006】
定量測定を行う場合には、触針とサンプル間に働く摩擦力に対するカンチレバーの捩れ変位量の較正を行う必要がある。このような較正を行うためには、既知の力を触針先端に与えてカンチレバーに長軸周りの捩れ変形を生じさせ、そのときの光検出器の捩れ変位信号により較正を行うか、または既知の捩れ量をカンチレバーに与え、そのときの光検出器の捩れ変位信号により較正を行う方法などが考えられるが、通常、カンチレバーは長さ数百μm程度、測定対象とする摩擦力の大きさも数nN程度と小さいため、これらの較正を行うことは非常に困難であり、較正を行った場合でも精度が低かった。
【0007】
また、カンチレバーは測定する目的に応じてさまざまな材質や形状のものが用いられるため、光源からカンチレバーに照射される光の反射率の違いなどにより光検出器の出力信号にばらつきが生じる。またカンチレバーは通常、消耗品であるため、個々のカンチレバーごとの特性のばらつきや、カンチレバーへの光源からの光照射位置の違いもあるので、カンチレバー交換の都度、較正を行う必要があり簡便な較正手段の開発が望まれていた。
【0008】
したがって、本発明の目的は、先端に触針を有するカンチレバーを利用して摩擦力測定を行う場合に簡便に、精度よく定量的な摩擦力測定ができる摩擦力測定方法および摩擦力測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の手段を提供する。
【0010】
本発明では、先端に触針を有するカンチレバーと、該カンチレバーに光を照射する光源と、前記カンチレバーで反射された光を受光する受光面を有し、前記カンチレバーの長軸に対して垂直かつ触針先端の移動方向のカンチレバーの撓み変形および長軸周りの捩れ変形による光強度変化を前記受光面上の光スポットの移動量により測定する光検出器と、前記光検出器に接続されて光検出器の出力信号を増幅する増幅器から構成される変位検出機構とを使用して、前記触針と前記触針が接触するサンプル間の摩擦力を測定する摩擦力測定方法において、単位長さ当たりの前記撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、前記捩れ変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、前記撓み変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率と前記捩れ変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率との比率を取得する工程と、前記光源から前記カンチレバーに照射される光スポット形状の前記カンチレバーの長軸方向と長軸に垂直な方向の長さの比率を取得する工程と、カンチレバーの形状と材質によって定まる寸法および物理定数を取得する工程とを含み、前記各工程において取得した値から摩擦力を算出するようにした。
【0011】
また、本発明では、前記摩擦力測定方法において、単位長さ当たりの前記撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、前記捩れ変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、前記撓み変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率と前記捩れ変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率との比率を取得する工程と、前記光検出器の受光面に投影される光スポットにおいて前記カンチレバーが撓み変形した際の光スポットの移動方向の光スポットの長さと捩れ変形した際の光スポットの移動方向の光スポットの長さの比率を取得する工程と、カンチレバーの形状と材質によって定まる寸法および物理定数を取得する工程とを含み、前記各工程において取得した値から摩擦力を算出するようにした。
【0012】
さらに、本発明では、前記摩擦力測定方法において、単位長さ当たりの前記撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、前記捩れ変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、前記撓み変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率と前記捩れ変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率との比率を取得する工程と、前記光検出器を前記カンチレバーが撓み変形した際の光スポットの移動方向と捩れ変形した際の光スポットの移動方向にそれぞれ単位長さだけ前記光検出器を動かしたときの光検出器の出力信号の比率を取得する工程と、カンチレバーの形状と材質によって定まる寸法および物理定数を取得する工程とを含み、前記各工程において取得した値から摩擦力を算出するようにした。
【0013】
また、本発明では、前記光スポット形状の2軸の長さの比が光源から放射される広がり角の1/2の角度の正接関数の比で与えられるようにした。
【0014】
また、前記摩擦力測定方法において、前記光スポットの光強度分布を取得する工程を含み、該光強度分布を前記摩擦力の算出工程において算出因子として含むようにした。
【0015】
本発明では、前記いずれかの方法により摩擦力測定を行うような摩擦力測定装置を構成した。
【0016】
さらに、本発明の摩擦力測定装置では、前記カンチレバーが撓み変形した際の光スポットの移動方向と捩れ変形した際の光スポットの移動方向に前記光検出器を移動させる2軸の位置決め機構と、該位置決め機構による移動量を測定または規定する変位検出機構を設けた。
【0017】
また、前記位置決め機構を送りネジ方式のステージで構成し、前記変位検出機構として移動量を測定するための目盛りを設けた。
【0018】
また、前記変位検出機構に、任意の方式の変位センサを用いた。
【0019】
さらに、前記変位検出機構をあらかじめ設定した任意の移動量だけ前記位置決め機構を移動させる停止機構により構成した。
【0020】
さらに、本発明では、前記カンチレバーの撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号から触針とサンプル間の垂直抗力を算出する工程と、前記いずれかの摩擦力測定方法により算出したサンプルの摩擦力を前記垂直抗力で除する演算を行う工程により摩擦係数の測定を行うような摩擦係数測定装置を構成した。
【0021】
さらに、本発明の摩擦力測定装置または摩擦係数測定装置では、制御装置を有し、前記位置決め機構の移動と、前記位置決め機構に設けられる変位検出機構の変位量の検出と、前記位置決め機構を移動させたときの単位長さ当たりの光検出器の出力の測定と、単位長さ当たりの前記カンチレバーの撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号の測定と、前記撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号と、前記捩れ変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号の測定の少なくとも1つ以上を前記制御装置からの指令により実施し、前記のいずれかの方法または装置により摩擦力または摩擦係数の測定を行うようにした。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、単位長さ当たりの撓み変形に伴う光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、捩れ変形に伴う光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、撓み変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率と捩れ変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率との比率を取得する工程と、光源からカンチレバーに照射される光スポット形状のカンチレバーの長軸方向と長軸に垂直な方向の長さの比率、または光検出器の受光面に投影される光スポットにおいてカンチレバーが撓み変形した際の光スポットの移動方向の光スポットの長さと捩れ変形した際の光スポットの移動方向の光スポットの長さの比率、または光検出器をカンチレバーが撓み変形した際の光スポットの移動方向と捩れ変形した際の光スポットの移動方向にそれぞれ単位長さだけ光検出器を動かしたときの光検出器の出力信号の比率のいずれかを取得する工程と、カンチレバーの形状と材質によって定まる寸法および物理定数を取得する工程とを含み、前記各工程において取得した値から摩擦力を算出するようにした。
【0023】
さらに、光スポットの光強度分布を取得する工程を含み、光強度分布を摩擦力の算出工程において算出因子として含むようにした。
【0024】
このような方法を用いることで簡便に精度よく定量的な摩擦力や摩擦係数の測定を行うことが可能となった。特に、光スポット形状や強度分布を考慮して摩擦力の測定を行っているため、従来よりも測定精度がより向上した。
【0025】
なお、本発明における摩擦力とは、動摩擦力及び静摩擦力はもとより、粘弾性に基づく粘性摩擦力も含む。また、ミクロ的には物質表面における触針が引掛かり可能な微細な凹凸部の機械的強度としての耐力の要素となる、素材の剛性力や硬さあるいはせん断力等に起因するマクロ的な摩擦力、あるいは、諸要因による吸着力に基づく摩擦力も含む。したがって、本願発明は、係る摩擦力の測定方法並びにその方法を用いた摩擦力測定装置において摩擦力として評価可能な物理事象は全て対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第一実施例に係る走査型プローブ顕微鏡を用いた摩擦力測定装置の概観図。
【図2】本発明の変位検出機構の光路図。
【図3】本発明の変位検出機構に用いられる半導体レーザの出射光のスポット形状の模式図。
【図4】本発明のカンチレバーを上面から見た場合にカンチレバー背面に照射された光スポットの様子を示す模式図。
【図5】本発明の光検出器の検出面でのスポット形状の模式図。
【図6】本発明のカンチレバーを先端側から見たときの模式図。
【図7】本発明の第二実施例に係る摩擦力測定装置の変位検出機構の概観図。
【図8】本発明の第三実施例の係る摩擦力測定装置の変位検出機構の概観図。
【図9】本願の実施例に係わる摩擦力測定及び摩擦係数測定の工程図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の走査型プローブ顕微鏡を用いた摩擦力測定装置の基本的な構成と測定原理を、図面を参照して説明する。なお、図面は本発明の説明に必要な構成を中心にして記載しており、本発明の実施に無関係な走査型プローブ顕微鏡の構成要素については一部省略している。
【0028】
図1は走査型プローブ顕微鏡を用いた摩擦力測定装置の概観図である。図1の装置では、先端に四角錘形状の触針6bを有するカンチレバー6と、カンチレバー6が交換可能に搭載されるカンチレバーホルダ7と、半導体レーザからなる光源10と光源を駆動するための光源駆動装置21と、シリコン製フォトダイオードよりなる光検出器16と光検出器16からの出力を増幅する増幅器22、23により構成される変位検出機構9と、カンチレバー6の直上からカンチレバー6とサンプル5を観察するための光学顕微鏡26と、触針6bに対向する位置に配置されサンプル5が搭載されるサンプルホルダ1と、サンプルホルダ1を固定しサンプル面内とサンプル面内に垂直な方向にサンプル5と触針6bを相対的に移動させる水平方向微動機構4aと垂直方向微動機構4bが設けられた円筒型圧電素子により構成される3軸微動機構4と3軸微動機構4を駆動する駆動装置25と、3軸微動機構4が搭載されて、サンプル5と触針6bを近接させるために用いられる粗動機構2と、カンチレバーホルダ7と変位検出機構9が搭載されるベース部8とベース部8と粗動機構2と3軸微動機構4が収納される筐体部27により走査型プローブ顕微鏡が構成される。これらの機構は制御装置24に接続されており制御装置24により操作や測定結果の表示が行われる。
【0029】
カンチレバー6の長軸は末端部分がサンプル5と衝突するのを防止し、また変位検出機構9の光源10から入射光させた光を光検出器16側に反射させるため、通常はサンプル面に対して傾けて配置される。ここで、カンチレバー6の長軸をサンプル面に投影した軸をX軸、サンプル面内でX軸に垂直な方向をY軸、XY平面に垂直な方向にZ軸と定義する。
【0030】
前記変位検出機構9により変位検出を行う場合には、前記光源10からの光をカンチレバー6の背面6bに焦点を結ぶように設計されたレンズ11により集光し、ビームスプリッター12で光路を曲げて直上からカンチレバー6の背面6bに入射光13を照射し、カンチレバー6の背面6bで反射された反射光14をミラー15で曲げて光検出器16の受光面に光スポット20を投影する。光検出器16は通常、カンチレバー6の撓み変形に伴い光スポット20が移動する方向と長軸周りの捩れ変形に伴い光スポット20が移動する方向の直交する2軸によって4つの領域I、II、III、IVに受光面が分割されており、受光面上に投影した光スポット20の移動方向に垂直な軸をはさんだ二対の受光面の出力の差分で光強度の変化量を測定し、この光強度の変化量により撓み量または捩れ量を測定する方式である。図1では、撓み量の検出は(I+IV)―(II+III)の出力となり、捩れ量の検出は(I+II)―(IV+III)となる。なお、光検出器16から出力された信号は、撓み変化量を増幅する増幅器22と、捩れ変化量を増幅する増幅器23にそれぞれ接続されて所定の倍率で信号が増幅される。
【0031】
図1の装置で測定を行う場合には、変位検出機構9によりカンチレバーの撓み量を検出しながら、粗動機構2によりサンプル5と触針6bを近接させて、両者が十分近接した後は、垂直方向微動機構4bにより、あらかじめ設定した撓み量になるまで両者を近接、または接触させる。この後、撓み量が一定となるように垂直方向微動機構4bによりフィードバック制御を行いながら、水平方向微動機構4aによりラスタスキャンを行い、水平方向微動機構4aと垂直方向微動機構4bに印加した電圧に変位較正値を乗じた値を画像化することで、サンプル5の表面の形状像の測定が可能となる。
【0032】
また、長軸に対して垂直な方向(Y軸方向)に水平方向微動機構4aで走査を行うと触針6b先端とサンプル5間の摩擦力によりカンチレバー6が長軸周りに捩れ変形を生ずる。この捩れ変形量を変位検出機構9で検出することでサンプル5と触針6b間の摩擦力を測定することが可能となる。
【0033】
摩擦力の測定は1ラインあるいは1ポイントごとに行って摩擦力測定カーブデータとして示してもよいし、あるいはY軸方向に走査した後、X軸方向に測定ラインを移しラスタスキャンをしていくことで面内の摩擦力分布の測定を行うこともできる。
【0034】
また、撓み変形量の検出信号により触針6bとサンプル5間の垂直抗力を求めることができ、捩れ変形量から求めることができる摩擦力を垂直抗力で除することで摩擦係数の測定も行うことができる。
【0035】
次に、上記手段により測定される信号による摩擦力の定量値の測定原理を説明する。
【0036】
図2は本発明の変位検出機構の光路図である。変位検出機構ではレンズや入射光や反射光の光路を変更するためのミラーなどが用いられる場合もあるが、図2ではこれらの光学部品は省略して簡易的に光路を記載している。また、図3は変位検出機構に用いられる半導体レーザからなる光源の出射光のスポット形状の模式図、図4はカンチレバーを上面から見た場合にカンチレバー背面に照射された光スポットの様子を示す模式図。図5は光検出器の検出面での光スポット形状の模式図、図6はカンチレバーを先端側から見たときの模式図である。なお、図1と同一の機能を持つ構成部品には図1と同一の符号を付けている。
【0037】
一般に、半導体レーザ10からの出射光は図3に示したように水平方向の広がり角θ//と垂直方向の広がり角θ⊥が異なり、光スポット形状は楕円形状をしており、図4に示すようにカンチレバー背面6bに照射される光スポットや、図5に示すように光検出器16に投影される光スポット20も楕円形状となる。また光スポットの強度はスポットの中央をピークとして分布を持った値となる。
【0038】
ここで、図5の破線に示すように近似的に、光検出器の検出面16の光スポット形状をカンチレバーが撓み変形したときの光スポット20の移動方向の長さをb、捩れ変形したときの光スポット20の移動方向の長さをaの長方形とし、強度分布も一様であると仮定する。
【0039】
また、捩れ変形に伴う光スポット20の軌跡は厳密には円弧であるが、移動量が微小であるため直線とする。
【0040】
撓み変形に伴う増幅器22により増幅される前の光検出器16の単位長さ当たりの強度変化量をΔPdif、捩れ変形に伴う増幅器23により増幅される前の光検出器16の単位長さ当たりの強度変化量をΔPffmとすると、両者は以下の関係となる。
【0041】
【数1】

【0042】
また、カンチレバー6の先端がΔxだけ撓んだときの撓み角をθdifとすると、両者は以下の関係となる。
【0043】
【数2】

【0044】
L:カンチレバーの長さ
なお、厳密にはΔx、θdif、Lはいずれもカンチレバー6に光スポットが照射される位置が基準となるが、通常ほぼ先端に光スポットを当てるためカンチレバーの最先端に光スポットが照射されているものと考えてよい。ただし、先端から大幅にずれる場合には、実際に光スポットが当たっている位置を基準にする必要がある。
【0045】
図2に示すようにカンチレバー6の反射面6bから光検出器16の受光面までの長さをDとすると、受光面16上での光スポットの移動量Δydifは以下のようになる。
【0046】
【数3】

【0047】
ここで、撓み変形に伴う光検出器16の光強度変化量の増幅器22で増幅された後の出力をPdif、増幅器の増幅率をGdifとすると、Pdifは以下のようになる。
【0048】
【数4】

【0049】
[数4] に [数3] を代入することにより、ΔPdifは以下のようになる。
【0050】
【数5】

【0051】
ここで、Sdifはカンチレバー6が撓んだときの単位長さ当たりの撓み変形に伴う光検出器16の光強度変化信号を増幅器22で増幅した後の値であり、Sdif=Pdif/Δxである。
【0052】
次に、図6において触針先端に摩擦力Fが作用したときの長軸周りの捩れ角θffmは、以下のように表される。なお、この式は弾性論で一般的に知られており、例えば、中原一郎著、材料力学上巻、養賢堂、P228などに記載されている。
【0053】
【数6】

【0054】
【数7】

【0055】
ここで、wはカンチレバーの幅、Tはカンチレバーの厚さ、dは触針の高さ、Gはカンチレバーの材質によって決まる横弾性係数である。なお、 [数7] の近似値1/3は、T<<wのとき成り立ち、走査型プローブ顕微鏡でのカンチレバーの場合には通常、この近似値1/3が用いられる。
【0056】
また、捩れ変形に伴う受光面上での光スポットの移動量Δyffmは以下のようになる。
【0057】
【数8】

【0058】
したがって、捩れ変形に伴う光検出器16の光強度変化量の増幅器23で増幅された後の出力をPffm、増幅器23の増幅率をGffmとすると、Pffmは以下のようになる。
【0059】
【数9】

【0060】
[数9] に [数1] [数5] [数6] [数8] を代入して整理すると、摩擦力Fは以下のように表される。
【0061】
【数10】

【0062】
ここで、捩りばね定数Ctは [数6] を変形することにより以下の[数11] ようになる。捩りばね定数と [数7] の近似式を用いて [数10] を表すと、摩擦力Fは [数12] で表される。
【0063】
【数11】

【0064】
【数12】

【0065】
[数10] または [数12] において、右辺の第2項は撓み変形に伴う光強度変化信号を増幅する増幅器22の倍率と捩れ変形に伴う光強度変化信号を増幅する増幅器22の倍率の比率であり、第3項は光検出器16の受光面に投影される光スポットにおいてカンチレバー6が撓み変形した際の光スポットの移動方向の光スポットの長さと捩れ変形した際の光スポットの移動方向の光スポットの長さの比率であり、第4項はカンチレバーの形状と材質によって定まる値であり、第5項は捩れ変形に伴う光検出器16の光強度変化信号であり、第6項は単位長さ当たりの撓み変形に伴う光検出器16の光強度変化信号である。これらの値を入力することで摩擦力が算出される。また、カンチレバーの形状や材質によって定まる値は寸法や物理定数の代表的なスペック値、または別の装置や手法により実測される値が入力される。なお、第3項は近似的に光源からカンチレバーに照射される光スポット形状のカンチレバーの長軸方向と長軸に垂直な方向の長さの比率としてもよい。
【0066】
なお、 [数10] または [数12] の右辺第1項は触針6bをサンプル5に接触させたときに、カンチレバー6が弾性変形せずに剛体としてカンチレバー6の支持点を中心として回転運動する場合には1となる。
【0067】
また、[数10] または [数12] の第4項および [数11] の(d+T/2)はd>>Tの場合には、近似的にdとしてもよい。
【0068】
本発明では特に光検出器16の検出面におけるスポット形状を考慮して摩擦力の算出を行っているため、従来よりも測定精度が向上する。
【実施例1】
【0069】
[数10] または [数12] を用いて摩擦力の測定を行う場合の本発明の第一実施例を説明する。なお、図9によれば、「S4(1)」を通る工程となる。
【0070】
本発明の第一実施例では、図1の装置を用いて、触針6bとサンプル5を接触させて、カンチレバー6が撓んだときの単位長さ当たりの撓み変形に伴う光検出器の増幅器22で増幅された後の光強度変化信号Sdifと、触針6bとサンプル5を水平方向微動機構4aを用いて長軸と垂直な方向(Y軸方向)に走査してカンチレバー6の捩れ変形に伴う光検出器16の光強度変化量の増幅器23で増幅された後の出力Pffmを測定して摩擦力を求めるようにした。
【0071】
Sdifの値は、触針6bとサンプル5を接触させた状態で、垂直方向微動機構4bを任意の移動量を動かしたときのカンチレバー6の撓み変形に伴う光検出器16の増幅器22で増幅された後の光強度変化信号を検出し、垂直方向微動機構4bの移動量で除することで測定することが可能である。垂直方向微動機構4bの移動量は、圧電素子に印加される電圧に較正値も乗じて求める。また、垂直方向微動機構4bの変位を検出するための変位検出機構を設けて変位検出機構の実測値を用いることもでき、この場合、高精度に垂直方向微動機構4bの変位を測ることができる。なお、Sdifの値は、カンチレバーを交換する都度測定することが好ましいが、装置やカンチレバーの種類ごとにパラメータとして予め入力して用いることもできる。
【0072】
また、Pffmは光検出器16で測定されて増幅器23で増幅されて測定される値を入力する。
【0073】
さらに本実施例では、光検出器16に投影される光スポット20において前記カンチレバー6が撓み変形した際の移動方向の光スポット20の長さと捩れ変形した際の移動方向の光スポット20の長さの比率を近似的に、図3に示すように半導体レーザからなる光源10からカンチレバー6に照射される光スポット形状のカンチレバー6の長軸方向と長軸に垂直な方向の長さの比率を、光源からの半導体レーザに対して水平方向広がり角θ//と垂直方向広がり角θ⊥の1/2の正接の比で与えた。このときカンチレバー6に照射される光スポットは図4のようにカンチレバー6の長軸が楕円形状の光スポットの短軸と一致し、カンチレバー6の長軸に垂直な方向が光スポットの長軸と一致するようにした。
【0074】
本実施例の光源は水平広がり角θ//=8°、垂直拡がり角θ⊥=30°の半導体レーザを使用したので、a/bの値は次のようになる。
【0075】
【数13】

【0076】
撓み変形に伴う光強度変化信号を増幅する増幅器22の倍率Gdifと捩れ変形に伴う光強度変化信号を増幅する増幅器23の倍率Gffmはそれぞれの増幅器の回路で決まる値をとなる。この値は増幅器を通ったあとの出力値から求めることも可能であるが、通常は装置ごとのパラメータとして予め入力して用いられる。本実施例ではGdif=3、Gffm=6の増幅器を使用したので、Gdif/Gffm=0.5となる。
【0077】
また、使用するカンチレバー6はシリコン製のものを使用した。このカンチレバーは短冊形の形状であり代表的な寸法は長さL=450μm、幅w=50μm、厚さT=2μm、触針の高さd=12.5μmである。また、横弾性係数Gは縦弾性係数Eとポアソン比νにより以下の[数14]より求めることができる。カンチレバーの材料であるシリコンの物理定数はE=188GPa、ν=0.177であり、これらの物理定数を以下に示す [数14] に代入することで横弾性係数G=79.9GPaが求まり、これらの値を [数10] の右辺第3項に入力した。
【0078】
【数14】

【0079】
なお、カンチレバー6の形状や横弾性係数Gあるいは縦弾性係数E、捩りばね定数Ct、カンチレバーの寸法などはさまざまな手法や装置により実測した値をパラメータとして入力してもよい。
【0080】
本実施例では、制御装置24にあらかじめ、[数10] の右辺の第1〜第4項までの値をパラメータとして入力しておき、制御装置24により、右辺第5、第6のPffmとSdifの値を実測して、自動的に摩擦力Fを計算して表示するようにした。
【0081】
さらに、摩擦力を測定したときの撓み変位に伴う増幅器22で増幅された後の出力信号PdifをSdifで除して、カンチレバー6の変位量を求め、カンチレバー6の撓み方向のばね定数を掛けて、垂直抗力を求めて、摩擦力を垂直抗力で除することにより摩擦係数の値を計算するようにした。このときカンチレバーのばね定数は形状と材質により決まる値による計算値か、さまざまな手法や装置により実測した値がパラメータとして用いられる。
【実施例2】
【0082】
第一実施例では、光検出器16に投影される光スポット20においてカンチレバー6が撓み変形した際の移動方向の光スポットの長さと捩れ変形した際の移動方向の光スポットの長さの比率を、光源10の広がり角により近似的に求めたが、一般に走査型プローブ顕微鏡のカンチレバーは幅が狭く、カンチレバー6に照射される光スポット径はカンチレバーよりも大きくなり、図4に示すように一部はカンチレバー6からはみ出して、光検出器16の方向に反射されない場合が多い。また実施形態での計算は、図5の破線で示すように近似的に光スポットを長方形として計算を行ったが実際には図5の実線で示すような楕円となる。さらに強度も一定としたが光スポットの中心をピークとして強度分布がある。さらに光源10の広がり角は光源ごとにばらつきがある。
【0083】
第二実施例では、これらの誤差要因を低減し高精度で摩擦力測定を行う方法を実施した。なお、図9によれば、「S4(2)」を通る工程となる。図7に本発明の第二実施例に係る摩擦力測定装置の変位検出機構の概観図を示す。なお、第一実施例と同じ構成要素には同一の番号を附し詳細な説明は省略する。また、3軸微動機構など変位検出機構以外の部分は図面を省略している。
【0084】
図7の第二実施例の変位検出機構39では、半導体レーザ10の光をレンズ11により集光し、ビームスプリッター12でカンチレバー6の直上からカンチレバー6に照射する。カンチレバー背面の反射面6bで光スポット径が最小となるように光学系が構成される。カンチレバー6に照射される光スポットは楕円形状であり、カンチレバー6の長軸方向と光スポットの短軸を一致させ、長軸と垂直な方向に光スポットの長軸を一致させる。このときカンチレバー6の幅に比べて、光スポットの長軸が長くなるため、光スポットの一部はカンチレバー6からはみ出して光検出器16の方向には反射されない。
【0085】
カンチレバー6で反射された光は、反射ミラー15を経由してシリコン製で受光面が4分割された光検出器16の受光面上に入射する。光検出器16の各受光面は大きさが1辺1mmの正方形形状であり、カンチレバー6の撓み変形に伴い光スポット20が移動する方向と長軸周りの捩れ変形に伴い光スポット20が移動する方向の直交する2軸によって4つの領域I,II,III,IVに受光面が分割されており、受光面上に投影した光スポットの移動方向に垂直な軸をはさんだ受光面の出力の差分により光強度の変化量を測定し、この光強度の変化量により撓み量または捩れ量を測定する。また、光検出器16から出力された信号は、撓み変化量を増幅する増幅器22と、捩れ変化量を増幅する増幅器23にそれぞれ接続されている。
【0086】
本実施例では、光源10と光検出器16の双方に位置決め機構として、送りねじ方式の2軸ステージ17,18を設けた。光源側のステージ17は、カンチレバー6の背面に光スポットを位置決めするために用いられ、カンチレバー6の長軸方向に光スポットが移動可能なようにZ軸方向(紙面の上下方向)に移動させるための送りネジ32と、カンチレバー6の長軸に対して垂直な方向に光スポットが移動可能なようにY軸方向(紙面に対して垂直な方向)に光源を移動させるような送りねじ33が設けられている。この光源側位置決め機構17を用いてビームスプリッター12上方に配置された光学顕微鏡26の像を見ながらカンチレバーの背面6bに光スポットを位置合わせする。
【0087】
一方、光検出器16にも2軸の位置決め機構18が設けられる。この位置決め機構18はガイドにより案内されたステージを、目盛り付の送りねじ30,31の先端で押し、送りねじ先端30b、31bと対向する側がコイルバネで与圧が掛けられた構造である。目盛り付送りねじは、一般にマイクロメータヘッドと呼ばれている機器であり、移動量は±2mmで、シンブルとスリーブに目盛り30a、31aが設けられている。該目盛りの最小読み取り分解能は0.01mmでありこの位置決め機構の分解能と一致する。この目盛り30a、31aが位置決め機構30、31の変位検出機構に相当する。
【0088】
このように構成された光検出器16側の2軸位置決め機構を、撓み変形に伴うスポットの移動方向(Z軸方向、紙面の上下方向)と捩れ変形に伴うスポットの移動方向(Y軸方向、紙面に対して垂直方向)に移動可能なように配置する。
【0089】
本実施例では、測定に際して、カンチレバー6で反射した光を、撓み変形と捩れ変形に伴う光検出器の出力がおおむね0になるように、光検出器側の位置決め機構18で位置合わせして、光スポット20を光検出器16の中心付近に位置合わせする。
【0090】
この後、各軸のマイクロメータ30、31の目盛り30a、31aを見ながら、任意の量だけ、位置決め機構18を移動させる。
【0091】
このとき、撓み変形と捩れ変形方向に位置決め機構18を、それぞれΔedif、Δeffmだけ動かしたときの、光検出器16の増幅器22,23で増幅される前の単位長さ当たりの光強度変化量ΔPdif、ΔPffm、増幅器22,23で増幅された後の出力をPdif、Pffm、増幅器22,23の増幅率をGdif、Gffmとすると、以下の関係が成り立つ。
【0092】
【数15】

【0093】
【数16】

【0094】
[数15]、 [数16] を [数1] に代入すると以下にようになる。
【0095】
【数17】

【0096】
[数17] において、右辺の値は、増幅後の実測値と、光検出器16をマイクロメータ30,31で移動させたときのマイクロメータの目盛り30a,30bの読み取り値で測定できるので、これらの実測値を代入することで、[数10] または [数12] の右辺、第2項および第3項の正確な値を求めることができる。そして、第一実施例と同様に [数10] または [数12] の右辺第2項、第3項以外の値を実測または既知の値をパラメータとして入力することで摩擦力を計算することが可能となる。この方法によればカンチレバー6をはみ出した光スポットの影響や、スポットの実際の形状、などの誤差要因を低減させることが可能となる。また、[数17]の右辺にて実測される値は、光検出器の受光面上での光スポットの強度分布の影響も含んだ値となるため、摩擦力算出の際に光強度分布が算出因子として含まれ、より高精度の定量測定が可能となる。
【0097】
ΔedifとΔeffmの値は、光スポットが受光面16をはみ出さない範囲内で任意の値にて移動させればよいが、計算を簡単にするため、通常は同じ送り量が与えられる。本実施例の場合には0.5mmとした。
【0098】
なお、増幅器22、23の倍率の比率は、 [数10] または [数11] で計算する場合には、それぞれの値を代入してもよいが、[数17] によれば、増幅器22、23の倍率の比率と光スポット20の縦横比を含んだ形で与えることもできる。もちろん、[数17] でGdif/Gffmの値を右辺に移項して、a/bを求めてGdif/Gffmは既知の値を入力して摩擦力を計算してもよい。
【0099】
また、カンチレバー6が撓んだときの単位長さ当たりの撓み変形に伴う光検出器の増幅器22で増幅された後の光強度変化信号Sdifの値は、第一実施例のように触針6bとサンプル5を接触させた状態で、垂直方向微動機構を任意の移動量を動かしたときの撓み変形に伴う光検出器の増幅器22で増幅された後の光強度変化信号を検出し、垂直方向微動機構の移動量で除することで求める方法や、装置やカンチレバーの種類ごとにパラメータとして予め入力して用いる方法のほか、以下の方法でも求めることができる。
【0100】
すなわち、カンチレバーの反射面6bから光検出器16の受光面までの距離Dとカンチレバー6の形状で決まる長さLを既知の数値として与えておき、撓み変形方向に位置決め機構18を Δedifだけ動かしたときの、光検出器の増幅器22で増幅された後の出力をPdifとすると、以下の式でもSdifの値を求めることができる。
【0101】
【数18】

【0102】
この方法によれば、Sdifを求める場合に触針6bとサンプル5を強い力で接触させることなく、非接触で測定できるため、触針6bやサンプル5が破損することが防止される。
【0103】
以上に求めた摩擦力を、第一実施例と同様に、垂直抗力で除することにより、摩擦係数も求めることができる。
【実施例3】
【0104】
本発明の第三実施例の摩擦力測定装置の39の概観図を図8に示す。なお、図9によれば、本実施例は、「S4(2)」を通る工程の自動化を行ったものである。本実施例でも、重複する部分は同一の番号を付し詳細な説明は省略し、3軸微動機構など変位検出機構以外の部分は図面を省略している。
【0105】
本発明の第三実施例では、第二実施例の光検出器16側のマイクロメータ方式の2軸位置決め機構の代わりにエンコーダ40b、41bを内蔵した直流モータ40a、41aで送りネジ40、41を動かして、ステージ18を駆動するようにした。すなわちエンコーダ40b、41bが変位検出機構として作用する。
【0106】
また、光源側の2軸位置決め機構17にも直流モータで駆動される送りネジ42,43が設けられている。
【0107】
光検出器16側の位置決めステージ18と直流モータ40a、41aと、エンコーダ40b、41b、及び光源側の位置決めステージ17と直流モータ42、43、走査型プローブ顕微鏡の3軸微動機構などの構成部品はすべて制御装置24に接続されて、制御装置からの指令により動作され、測定結果が表示される。
【0108】
まず、光源側の直流モータ42,43を駆動して位置決めステージ17を動かし、光スポットをカンチレバー6背面に位置合わせする。このときは、光検出器の4つの領域の合計出力を検知し、さらに光学顕微鏡26によるカンチレバー6の観察像を併用しながら、光スポットをカンチレバーの背面6bに位置合わせする。この後、光検出器16側の直流モータ40a、41aにより2軸位置決めステージ18を動かして、撓み検出方向の出力と捩れ検出方向の出力がほぼゼロとなる位置に位置合わせが行われる。このようにすることで、自動的に光検出器16の中心にスポットが位置合わせされる。
【0109】
この後、直流モータ40a、41aを駆動し、エンコーダ40b、41bの出力を認識して、中心位置から撓み量検出方向と捩れ量検出方向にそれぞれ一定量だけ光検出器16を駆動し、そのときの出力を検知することで、第二実施例の [数17] 式から [数10] または [数12] の右辺、第2項および第3項の正確な値が測定される。
【0110】
また、Sdifの値も自動で認識させる。触針6bとサンプル5を接触させて垂直方向微動機構をZ軸方向に動かしたときの光検出器16の撓み量検出方向の出力を検知させるか、あるいは、撓み方向に光検出器をエンコーダ40bの出力を認識して位置決めステージ16を一定量だけ動かして、[数18] により求めるか、いずれかの動作が自動で実施される。
【0111】
このあと、走査型プローブ顕微鏡の測定データを基に、カンチレバー6の捩れ方向の光検出器の出力から摩擦力の定量値が自動較正されて、2次元画像データまたは、グラフのデータにより求められる。また撓み方向の光検出器の出力から垂直抗力が自動で求められ、摩擦係数の定量値が自動的に較正されて表示される。
【0112】
以上、本発明の実施例を説明したが、これらの実施例以外にも種々の方法が適用可能である。
【0113】
例えば、光検出器の位置決め機構に設けられる変位検出機構はマイクロメータの目盛りやエンコーダを紹介したが、他にも静電容量式、光学式、電磁気方式など任意の方式の変位センサを用いることができる。また、前記位置決め機構の中心位置から任意の位置で停止できるようなストッパーを設け、このストッパーを変位検出機構として用いてもよい。
【0114】
また、前記光源から前記カンチレバーに照射される光スポット形状の前記カンチレバーの長軸方向と長軸に垂直な方向の長さの比率を求めることや、光スポットの光強度分布を摩擦力を算出する際の因子として導入するために、ビームプロファイラーであらかじめ光源から出射される光スポットの形状や強度分布を計測してこの値を用いてもよい。光強度分布を考慮する場合には、 [数1] においてΔPdifとΔPffmが強度の関数として与えられ、その結果 [数10] または [数12] の第3項のa/bの係数の中に光強度分布の因子が含まれる。
【0115】
また、光検出器は4分割のシリコン製の検出器のほかにも、光スポットが照射されて受光面上のスポット位置を認識する2次元の検出器であれば任意のものが使用できる。また光源も半導体レーザに限定されず、発光ダイオードや低コヒーレントレーザ、任意の方式の照明光など任意の光源が使用できる。
【0116】
また、光源からの出射光がコリメートレンズで真円に近い形に成形されている場合でも、本発明の手法を用いることで、強度分布やカンチレバーからの光スポットのはみ出し分、真円からの誤差分を考慮した計測を行うことができる。
【0117】
また、カンチレバーも短冊型以外にも上面視三角形形状や、上面視L字型形状など任意のものが適用可能である。
【0118】
さらに、摩擦力や摩擦係数の測定を行う場合のカンチレバーの形状や材質に関わる係数は実測値や代表スペックの他、シミュレーションにより求められる値をパラメータとして用いてもよい。
【0119】
また、本発明における摩擦力の測定は、前述のように摩擦力の要因を問わないため、カンチレバーの捩れ変形を生じさせる力が作用するものであれば、摩擦力として測定可能である。
【0120】
さらに、サンプルやカンチレバーを任意の方向に振動させながら捩れ方向変位の定量値を測定する手法が提案されているが本発明はこれらの方法にも適用可能である。
【符号の説明】
【0121】
1 サンプルステージ
4 3軸微動機構
4a 水平方向微動機構
4b 垂直方向微動機構
5 サンプル
6 カンチレバー
9 変位検出機構
10 光源
13 入射光
14 反射光
16 光検出器
17 光源側位置決め機構
18 光検出器側位置決め機構
20 光スポット
22、23 増幅器
24 制御装置
30、31 マイクロメータ
30a、31a 目盛り(変位検出機構)
30b、31b 送りねじ
32、33 送りねじ
39 変位検出機構
40、41、42、43 送りねじ
40a、41a 直流モータ
40b、41b エンコーダ(変位検出機構)
49 変位検出機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に触針を有するカンチレバーと、該カンチレバーに光を照射する光源と、前記カンチレバーで反射された光を受光する受光面を有し、前記カンチレバーの長軸に対して垂直かつ触針先端の移動方向のカンチレバーの撓み変形および長軸周りの捩れ変形による光強度変化を前記受光面上の光スポットの移動量により測定する光検出器と、前記光検出器に接続されて光検出器の出力信号を増幅する増幅器から構成される変位検出機構とを使用して、前記触針と前記触針が接触するサンプル間の摩擦力を測定する摩擦力測定方法において、
単位長さ当たりの前記撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、
前記捩れ変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、
前記撓み変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率と前記捩れ変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率との比率を取得する工程と、
前記光源から前記カンチレバーに照射される光スポット形状の前記カンチレバーの長軸方向と長軸に垂直な方向の長さの比率を取得する工程と、
カンチレバーの形状と材質によって定まる寸法および物理定数を取得する工程と、
前記各工程において取得した値から摩擦力を算出する工程と、
を含むことを特徴とする摩擦力測定方法。
【請求項2】
先端に触針を有するカンチレバーと、該カンチレバーに光を照射する光源と、前記カンチレバーで反射された光を受光する受光面を有し、前記カンチレバーの長軸に対して垂直かつ触針先端の移動方向のカンチレバーの撓み変形および長軸周りの捩れ変形による光強度変化を前記受光面上の光スポットの移動量により測定する光検出器と、前記光検出器に接続されて光検出器の出力信号を増幅する増幅器から構成される変位検出機構とを使用して、前記触針と前記触針が接触するサンプル間の摩擦力を測定する摩擦力測定方法において、
単位長さ当たりの前記撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、
前記捩れ変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、
前記撓み変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率と前記捩れ変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率との比率を取得する工程と、
前記光検出器の受光面に投影される光スポットにおいて前記カンチレバーが撓み変形した際の光スポットの移動方向の光スポットの長さと捩れ変形した際の光スポットの移動方向の光スポットの長さの比率を取得する工程と、
カンチレバーの形状と材質によって定まる寸法および物理定数を取得する工程と、
前記各工程において取得した値から摩擦力を算出する工程と、
を含むことを特徴とする摩擦力測定方法。
【請求項3】
先端に触針を有するカンチレバーと、該カンチレバーに光を照射する光源と、前記カンチレバーで反射された光を受光する受光面を有し、前記カンチレバーの長軸に対して垂直かつ触針先端の移動方向のカンチレバーの撓み変形および長軸周りの捩れ変形による光強度変化を前記受光面上の光スポットの移動量により測定する光検出器と、前記光検出器に接続されて光検出器の出力信号を増幅する増幅器から構成される変位検出機構とを使用して、前記触針と前記触針が接触するサンプル間の摩擦力を測定する摩擦力測定方法において、
単位長さ当たりの前記撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、
前記捩れ変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号を取得する工程と、
前記撓み変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率と前記捩れ変形に伴う光強度変化信号を増幅する倍率との比率を取得する工程と、
前記光検出器を前記カンチレバーが撓み変形した際の光スポットの移動方向と捩れ変形した際の光スポットの移動方向にそれぞれ単位長さだけ前記光検出器を動かしたときの光検出器の出力信号の比率を取得する工程と、
カンチレバーの形状と材質によって定まる寸法および物理定数を取得する工程と、
前記各工程において取得した値から摩擦力を算出する工程と、
を含むことを特徴とする摩擦力測定方法。
【請求項4】
前記光スポット形状の2軸の長さの比が光源から放射される広がり角の1/2の角度の正接関数の比で与えられる請求項1又は請求項2に記載の摩擦力測定方法。
【請求項5】
前記光スポットの光強度分布を取得する工程を含み、該光強度分布を前記摩擦力の算出工程において算出因子として含む請求項1乃至4のいずれかに記載の摩擦力測定方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかの方法による摩擦力測定を行うことを特徴とする摩擦力測定装置。
【請求項7】
請求項3に記載の摩擦力測定を行う請求項6に記載の摩擦力測定装置において、前記カンチレバーが撓み変形した際の光スポットの移動方向と捩れ変形した際の光スポットの移動方向に前記光検出器を移動させる2軸の位置決め機構と、該位置決め機構による移動量を測定または規定する変位検出機構を設けたことを特徴とする摩擦力測定装置。
【請求項8】
前記位置決め機構が送りネジ方式のステージであり、前記変位検出機構が移動量を測定するための目盛りであることを特徴とする請求項7に記載の摩擦力測定装置。
【請求項9】
前記変位検出機構が、任意の方式の変位センサである請求項7に記載の摩擦力測定装置。
【請求項10】
前記変位検出機構があらかじめ設定した任意の移動量だけ前記位置決め機構を移動させるように構成される停止機構であることを特徴とする請求項7に記載の摩擦力測定装置。
【請求項11】
制御装置を有し、前記位置決め機構の移動と、前記位置決め機構に設けられる変位検出機構の変位量の検出と、前記位置決め機構を移動させたときの単位長さ当たりの光検出器の出力の測定と、単位長さ当たりの前記カンチレバーの撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号の測定と、前記捩れ変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号の測定の少なくとも1つ以上を前記制御装置からの指令により実施する請求項6乃至10のいずれかに記載の摩擦力測定装置。
【請求項12】
請求項1乃至5のいずれかに記載の摩擦力測定方法における工程に、
更に、前記カンチレバーの撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号から触針とサンプル間の垂直抗力を算出する工程と、
前記算出したサンプルの摩擦力を該垂直抗力で除する演算を行いサンプルの摩擦係数を算出する工程と、
を含むことを特徴とする摩擦係数測定方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法による摩擦係数測定を行うことを特徴とする摩擦係数測定装置。
【請求項14】
制御装置を有し、前記位置決め機構の移動と、前記位置決め機構に設けられる変位検出機構の変位量の検出と、前記位置決め機構を移動させたときの単位長さ当たりの光検出器の出力の測定と、単位長さ当たりの前記カンチレバーの撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号の測定と、前記撓み変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号と、前記捩れ変形に伴う前記光検出器の光強度変化信号の測定の少なくとも1つ以上を前記制御装置からの指令により実施する請求項13に記載の摩擦係数測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−38851(P2011−38851A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185081(P2009−185081)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】