説明

摩擦接合方法及び接合構造体

【課題】一対の金属部品W,Tの強度又は剛性が十分に高くなくても、一対の金属部品W,Tを接合すること。
【解決手段】加熱工程の処理により第1接合工程の開始時における一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taの温度は、金属部品W,Tの材料の融点の20%以上、好ましく40%以上になっており、加熱工程の処理により第1接合工程の開始時における一対の金属部品W,Tの加熱深さhは、1.0mm以上になっていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対の金属部品(エンジン部品を含む)の各接合面に発生した摩擦熱を利用して、一対の金属部品の各接合面を接合する摩擦接合方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガスタービンエンジンにおける圧縮機又はタービンのロータであって、ディスクと動翼を一体型構造にした一体型翼車(ブリスク)を製造する場合には、削り出し加工に比べて、材料コストの削減化及び加工時間の短縮化を図ることができる摩擦接合を用いることがある。そして、一般的な摩擦接合について簡単に説明すると、次のようになる。
【0003】
一体型翼車等の接合構造体を構成するための一対の金属部品の各接合面を対向させた状態で、一方の金属部品を他方の金属部品側へ相対的に移動させることにより、一対の金属部品の各接合面を接触させる。そして、一対の金属部品の各接合面を対向接触させた状態で、一方の金属部品を対向方向に直交する方向へ他方の金属部品に対して相対的に往復移動させつつ、一対の金属部品の寄り量(変位量)が目標の寄り量(変位量)になるまで、一方の金属部品を他方の金属部品側へ相対的に押圧する。これにより、一対の金属部品の各接合面から酸化物又は汚れ等をバリとして排出しつつ、摩擦熱によって一対の金属部品の各接合面を軟化させて接合することができる。
【0004】
なお、本発明に関連する先行技術として特許文献1から特許文献3に示すものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−297788号公報
【特許文献2】特開2005−199355号公報
【特許文献3】特許第3072239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一対の金属部品の接合強度を十分に確保するには、一方の金属部品を他方の金属部品側へ相対的に押圧する接合荷重(押圧荷重)を大きくして、バリの排出性を高めて、一対の金属部品の各接合面を活性化させた状態で接合する必要がある。そのため、一対の金属部品の強度又は剛性が十分に高くないと、接合荷重を大きくすることができず、一対の金属部品を接合することは非常に困難である。また、一方の金属部品を他方の金属部品側へ相対的に押圧するアクチュエータ(押圧機構の一例)等が大型化して、接合するための装置(摩擦接合装置)全体が大掛かりなものになるという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、前述の問題を解決することができる、新規な構成の摩擦接合方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の発明者は、前述の問題を解決するために試行錯誤を繰り返して、2つの新規な知見を見出し、これらの新規な知見に基づいて本発明を完成するに至った。本発明の特徴を説明する前に、これらの新規な知見を見出すまでの経緯について説明する。
【0009】
図6(a)(b)に示すように、接合品の接合面と対称面(相手側の接合品の接合面)を対向接触させて、単位体積当たりの摩擦入力熱量を接合品の接合面に付与することにより、接合品の接合面と対称面を接合することを想定した場合に、接合開始時における接合品の接合面の温度(加熱温度)と接合品の寄り開始時間及び寄り速度との関係について有限要素法による非定常熱弾塑性解析(1つ目の非定常熱弾塑性解析)を行い、この非定常熱弾塑性解析結果をまとめると、図7(a)(b)に示すようになる。また、1つ目の非定常熱弾塑性解析においては、接合開始時における接合品の加熱深さを2.0mmに設定した。ここで、単位体積当たりの摩擦入力熱量とは、接合荷重と接合品の往復振幅と接合品の往復周波数との積によって規定される熱量のことをいい、寄り開始時間とは、接合品の接合面に単位体積当たりの摩擦入力熱量を付与してから接合品の対向方向(押圧方向)の変位を開始するまでの時間のことをいい、寄り速度とは、接合品の対向方向の変位を開始してから目標の寄り量(目標の変位量)になるまでの接合品の対向方向の変位速度のことをいい、加熱深さ(加熱長さ)とは、温度が接合面の温度の90〜100%になる対向方向の長さのことをいう。
【0010】
1つ目の非定常熱弾塑性解析結果によれば、図7(a)に示すように、接合開始時における接合品の接合面の温度がその接合品の材料の融点の20%以上であれば、接合品の寄り開始時間を短くして、換言すれば、接合品の接合面の軟化を速めて、接合品の接合面から生じるバリの排出性(排出速度)を高めることができることが判明した。特に、図7(b)に示すように、接合開始時における接合品の接合面の温度がその接合品の材料の融点の40%以上であれば、接合品の寄り速度を高めて、換言すれば、接合品の接合面の軟化を速めて、バリの排出性を更に高めることができることが判明した。これにより、本願の発明者は、接合開始時における接合品の接合面の温度がその接合品の材料の融点の20%以上、好ましくは40%以上になるように予め接合品の接合面を加熱しておくことにより、接合品を対称面側へ押圧する接合荷重(押圧荷重)を大きくしなくても、接合品の接合面の軟化を速めて、バリの排出性を高めることができるという、第1の新規な知見を得ることができた。
【0011】
図6(a)(b)に示すように、接合品の接合面と対称面を対向接触させて、単位体積当たりの摩擦入力熱量を接合品の接合面に付与することにより、接合品の接合面と対称面を接合することを想定した場合に、接合開始時における接合品の加熱深さと接合品の寄り開始時間及び寄り速度との関係について有限要素法による2つ目の非定常熱弾塑性解析を行い、この非定常熱弾塑性解析結果をまとめると、図8(a)(b)に示すようになる。また、2つ目の非定常熱弾塑性解析において、接合開始時における接合品の接合面の温度は接合品の材料の融点の44%に設定した。
【0012】
2つ目の非定常熱弾塑性解析結果によれば、図8に示すように、接合開始時における接合品の加熱深さが1.0mm以上であれば、接合品の寄り開始時間を短くして、バリの排出性を高めることができることが判明した。特に、図8(b)に示すように、接合開始時における接合品の加熱深さが2.0mm以上であれば、接合品の寄り速度を高めて、換言すれば、接合品の接合面の軟化を速めて、バリの排出性を更に高めることができることが判明した。これにより、本願の発明者は、接合開始時における接合品の加熱深さが1.0mm以上、好ましくは2.0mm以上になるように予め接合品の接合面を加熱しておくことにより、接合品を対称面側へ押圧する接合荷重を大きくしなくても、接合品の接合面の軟化を速めて、バリの排出性をより高めることができるという、第2の新規な知見を得ることができた。
【0013】
続いて、本発明の特徴について説明する。
【0014】
本発明の第1の特徴は、一対の金属部品の各接合面に発生した摩擦熱を利用して、一対の前記金属部品の各接合面を接合する摩擦接合方法において、一対の前記金属部品のうち少なくともいずれかの前記金属部品の接合面を加熱する加熱工程と、前記加熱工程の終了後に、一対の前記金属部品の各接合面を対向させた状態で、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に移動させることにより、一対の前記金属部品の各接合面を接触させる接触工程と、前記接触工程の終了後に、一対の前記金属部品の各接合面を対向接触させた状態で、一方の前記金属部品を対向方向に直交する方向へ他方の前記金属部品に対して相対的に往復移動させつつ、一対の前記金属部品の寄り量(変位量)が目標の寄り量になるまで、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に押圧することにより、摩擦熱によって一対の前記金属部品の各接合面を軟化させて接合する接合工程と、を具備し、前記加熱工程の処理により前記接合工程の開始時におけるいずれかの前記金属部品の接合面の温度がその前記金属部品の材料の融点の20%以上になっていることを要旨とする。
【0015】
ここで、本願の明細書及び特許請求の範囲において、「金属部品」には、ガスタービンエンジン等のエンジンに用いられるエンジン部品の他に、種々の金属製の機械部品を含む意である。また、「対向方向」とは、一対の金属部品の各接合面が対向する方向のことをいう。なお、融点は、摂氏を単位にしている。
【0016】
第1の特徴によると、摩擦接合方法は前記加熱工程を前記接触工程の前工程(前記接合工程の前工程)として備えており、前記加熱工程の処理により前記接合工程の開始時におけるいずれかの前記金属部品の接合面の温度がその前記金属部品の材料の融点の20%以上になっているため、前述の第1の新規な知見を適用すると、前記接合工程中に、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に押圧する接合荷重(押圧荷重)を大きくしなくても、一対の前記金属部品の各接合面の軟化を速めて、一対の前記金属部品の各接合面から生じるバリの排出性を高めることができる。
【0017】
本発明の第2の特徴は、第1の特徴に加えて、前記加熱工程の処理により前記接合工程の開始時におけるいずれかの前記金属部品の加熱深さ(温度が接合面の温度の90〜100%になる対向方向の長さ)が1.0mm以上になっていることを要旨とする。
【0018】
第2の特徴によると、前記加熱工程の処理により前記接合工程の開始時におけるいずれかの前記金属部品の接合面からの加熱深さが1.0mm以上になっているため、前述の第2の新規な知見を適用すると、前記接合工程中に、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に押圧する接合荷重を大きくしなくても、一対の前記金属部品の各接合面の軟化を速めて、バリの排出性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、前記接合工程中に、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に押圧する接合荷重を大きくしなくても、一対の前記金属部品の各接合面の軟化を速めて、バリの排出性を高めることができるため、一対の前記金属部品の強度又は剛性が十分に高くなくても、一対の前記金属部品を接合することができると共に、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に押圧する押圧機構等の大型化を抑えて、接合するための装置(摩擦接合装置)全体のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1(a)(b)(c)は、本発明の実施形態に係る摩擦接合方法における加熱工程を説明する模式図である。
【図2】図2(a)は、本発明の実施形態に係る摩擦接合方法における接触工程を説明する模式図、図2(b)(c)は、本発明の実施形態に係る摩擦接合方法における第1接合工程を説明する模式図である。
【図3】図3(a)は、本発明の実施形態に係る摩擦接合方法における第2接合工程を説明する模式図、図3(b)は、本発明の実施形態に係る摩擦接合方法によって接合された接合構造体を示す模式図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態に係る摩擦接合装置を説明する模式図である。
【図5】図5は、時間と接合荷重及び一対の金属部品の寄り量との関係を示す図である。
【図6】図6(a)は、単位体積当たりの摩擦入力熱量を接合品の接合面に付与した状態を示す模式図、図6(b)は、接合品の接合面と対称面を摩擦接合させた状態を示す模式図である。
【図7】図7(a)は、接合開始時における接合品の接合面の温度と接合品の寄り開始時間との関係を示す図、図7(b)は、接合開始時における接合品の接合面の温度と接合品の寄り速度との関係を示す図である。
【図8】図8(a)は、接合開始時における接合品の加熱深さと接合品の寄り開始時間との関係を示す図、図8(b)は、接合開始時における接合品の加熱深さと接合品の寄り速度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態について図1から図5を参照して説明する。なお、説明中、「設けられ」とは、直接的に設けられたことの他に、間接的に設けられたことを含む意であって、図面中、「FF」は、前方向を、「FR」は、後方向をそれぞれ指してある。
【0022】
本発明の実施形態に係る摩擦接合方法について説明する前に、図4を参照して、本発明の実施形態に係る摩擦接合方法の実施に用いられる摩擦接合装置1について簡単に説明する。
【0023】
本発明の実施形態に係る摩擦接合装置1は、矩形板状の一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを接合するための装置であって、前後方向へ延びたベッド3と、このベッド3の後部に立設されたコラム5とをベースとして備えている。
【0024】
ベッド3の前部には、一方の金属部品Wを保持する第1保持ヘッド(第1保持具)7が第1ガイド部材9を介して前後方向へ移動可能に設けられている。また、ベッド3の適宜位置5aには、第1保持ヘッド7を前後方向へ移動させる油圧シリンダ等の第1アクチュエータ11が設けられている。ここで、一方の金属部品Wを第1保持ヘッド7に取付けた状態(保持させた状態)で、第1アクチュエータ11を駆動させると、一方の金属部品Wを前後方向へ第1保持ヘッド7と一体的に移動させるようになっている。
【0025】
コラム5の前側には、他方の金属部品Tを保持する第2保持ヘッド(第2保持具)13が第2ガイド部材15を介して上下方向へ移動可能に設けられており、この第2保持ヘッド13は、その基準の高さ位置に位置したときに、第1保持ヘッド7と同心状に位置するようになっている。また、コラム5の適宜位置には、第2保持ヘッド13を基準の高さ位置を中心として上下方向へ往復移動させる電動モータ等の第2アクチュエータ17が設けられている。ここで、他方の金属部品Tを第2保持ヘッド13に取付けた状態(保持させた状態)で、第2アクチュエータ17を駆動させると、他方の金属部品Tを基準の高さ位置を中心として上下方向へ第2保持ヘッド13と一体的に往復移動させるようになっている。
【0026】
ベッド3の上部には、支持フレーム19が設けられており、この支持フレーム19には、スライダ21が第3ガイド部材23を介して上下方向へ移動可能に設けられている。また、支持フレーム19の適宜位置19aには、スライダ21を上下方向へ移動させる電動モータ等の第3アクチュエータ25が設けられている。更に、スライダ21には、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを高周波によって加熱する加熱コイル27が支持棒29を介して設けられており、この加熱コイル27は、高周波電流を供給可能な高周波電源(図示省略)に接続されている。ここで、加熱コイル27は、第3アクチュエータ25の駆動によりスライダ21を上下方向へ移動させることによって、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taの間の領域に進退可能になっている。
【0027】
続いて、本発明の実施形態に係る摩擦接合方法について説明する。
【0028】
本発明の実施形態に係る摩擦接合方法は、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taに発生した摩擦熱を利用して、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを接合する方法であって、加熱工程、接触工程、第1接合工程、第2接合工程、及びバリ除去工程を具備している。そして、各工程の具体的な内容は、次のようになる。なお、本発明の実施形態にあっては、一対の金属部品W,Tは、同種類の材料により構成されているが、異種材料により構成されても構わない。
【0029】
(i)加熱工程
図1(a)に示すように、一方の金属部品Wを第1保持ヘッド7に、他方の金属部品Tを第2保持ヘッド13にそれぞれ取付けて、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを対向させる。次に、第3アクチュエータ25の駆動によりスライダ21を下方向へ移動させることにより、図1(b)に示すように、加熱コイル27を一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taの間の領域に進入させる。そして、高周波電源から加熱コイル27に高周波電流を供給することにより、図1(c)に示すように、加熱コイル27によって一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを加熱する(図5参照)。ここで、一対の金属部品W,Tの劣化を防止するために、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taの温度が金属部品W,Tの材料の結晶成長温度又は変態温度等を超えないようにしておく。
【0030】
なお、図中に、一対の金属部品W,Tにハッチングを施した部位は、高温になっている部位である。
【0031】
(ii)接触工程
加熱工程の終了後に、第3アクチュエータ25の駆動によりスライダ21を上方向へ移動させることにより、図2(a)に示すように、加熱コイル27を一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taの間の領域から退避させる。そして、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを対向させた状態で、第1アクチュエータ11の駆動により一方の金属部品Wを他方の金属部品T側(後方向)へ第1保持ヘッド7と一体的に移動させることにより、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを接触させる(図4参照)。
【0032】
(iii)第1接合工程
接触工程の終了後に、図2(b)に示すように、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを対向接触させた状態で、第2アクチュエータ17の駆動により他方の金属部品Tを前記基準の高さ位置を中心として上下方向(対向方向に直交する方向)へ第2保持ヘッド13と一体的に往復移動(往復振幅α)、換言すれば、一方の金属部品Wを上下方向へ他方の金属部品Tに対して相対的に往復移動させつつ、第1アクチュエータ11の駆動により一方の金属部品Wを他方の金属部品T側へ押圧する。これにより、図2(c)に示すように、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taから酸化物又は汚れ等をバリBとして排出しつつ、摩擦熱によって一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを軟化させることができる。そして、一対の金属部品W,Tの寄り量(変位量)mが目標の寄り量t1(図5参照)よりも小さく設定した目標前の寄り量t2(図5参照)になると、第2アクチュエータ17の駆動を停止して他方の金属部品Tの往復移動を停止する(図5参照)。
【0033】
ここで、加熱工程の処理により第1接合工程の開始時(接合開始時)における一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taの温度は、金属部品W,Tの材料の融点の20%以上になっている。具体的には、一対の金属部品W,Tがチタン合金により構成される場合に、第1接合工程の開始時における一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taの温度(摂氏温度)は、320〜400℃になっている。第1接合工程の開始時における一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taの温度を金属部品W,Tの材料の融点の20%以上としたのは、前述の1つ目の新規な知見を適用するためである。
【0034】
また、加熱工程の処理により第1接合工程の開始時における一対の金属部品W,Tの加熱深さhは、1.0mm以上、好ましくは2.0mm以上になっている。具体的には、一対の金属部品W,Tの加熱深さhは、1.0mm以上になるようにするため、加熱工程において加熱コイル27に供給する高周波電流又は供給時間を制御したり、加熱工程の終了後から第1接合工程の開始までの時間を制御したりしている。第1接合工程の開始時における一対の金属部品W,Tの加熱深さhを1.0mm以上としたのは、前述の2つ目の新規な知見を適用するためである。
【0035】
(iv)第2接合工程
第1接合工程の終了後に、図3(a)に示すように、一対の金属部品W,Tの寄り量mが目標の寄り量t1になるまで、第1アクチュエータ11の駆動による一方の金属部品Wの押圧動作を継続して、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを据え込む(図5参照)。これにより、図3(b)に示すように、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,TaからバリBとして排出しつつ、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを接合することができる。換言すれば、一対の金属部品W,Tからなる接合構造体JSを製造することができる。
【0036】
以上により、本発明の実施形態に係る摩擦接合方法の実施が終了する。
【0037】
続いて、本発明の実施形態の作用及び効果について説明する。
【0038】
本発明の実施形態に係る摩擦接合方法は加熱工程を接触工程の前工程(第1接合工程の前工程)として備えており、加熱工程の処理により第1接合工程の開始時における一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taの温度が金属部品W,Tの材料の融点の20%以上になっているため、前述の第1の新規な知見を適用すると、第1接合工程及び第2接合工程中に、一方の金属部品Wを他方の金属部品T側へ押圧する接合荷重(押圧荷重)を大きくしなくても、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taから生じるバリBの排出性を高めることができる。特に、加熱工程の処理により第1接合工程の開始時における一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taからの加熱深さmが1.0mm以上になっているため、前述の第2の新規な知見を適用すると、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taの軟化を速めて、バリの排出性をより高めることができる。
【0039】
なお、一対の金属部品W,Tの摩擦接合試験を行った結果、本発明の実施形態に係る摩擦接合方法による場合、加熱工程を具備してない場合(非加熱の場合)に比べて、接合荷重を大幅に低減できることが確認された(図5参照)。
【0040】
従って、本発明の実施形態によれば、一対の金属部品W,Tの強度又は剛性が十分に高くなくても、一対の金属部品W,Tを接合することができると共に、一方の金属部品Wを他方の金属部品T側へ押圧する第1アクチュエータ11(押圧機構の一例)等の大型化を抑えて、接合するための摩擦接合装置1全体のコンパクト化を図ることができる。
【0041】
なお、本発明は、前述の実施形態の説明に限られるものではなく、次のように適宜の変更を行うことにより、種々の態様で実施可能である。
【0042】
即ち、加熱工程において、一対の金属部品W,Tの各接合面Wa,Taを均一に加熱する代わりに、一対の金属部品W,Tのうちのいずれかの金属部品W(又はT)の接合面Wa(又はTa)を均一に加熱するようにしたり、加熱コイル27により高周波によって加熱する代わりに、レーザの照射等によって加熱したりしても構わない。また、本発明の実施形態に係る摩擦接合方法は、一般的な金属部品W,Tを接合対象にしているが、一般的な金属部品W,Tの代わりに、ガスタービンエンジンに用いられるエンジン部品(金属部品の一例)を接合対象にしても構わない。
【0043】
本発明の実施形態に摩擦接合方法は、接合構造体JSを製造する製造方法として捉えることもできる。また、本発明に包含される権利範囲は、前述の実施形態に限定されないものである。
【符号の説明】
【0044】
B バリ
JS 接合構造体
W 一方の金属部品
Wa 一方の金属部品の接合面
T 他方の金属部品
Ta 他方の金属部品の接合面
1 摩擦接合装置
3 ベッド
5 コラム
7 第1保持ヘッド
11 第1アクチュエータ
13 第2保持ヘッド
17 第2アクチュエータ
19 支持フレーム
21 スライダ
25 第3アクチュエータ
27 加熱コイル
29 支持棒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の金属部品の各接合面に発生した摩擦熱を利用して、一対の前記金属部品の各接合面を接合する摩擦接合方法において、
一対の前記金属部品のうち少なくともいずれかの前記金属部品の接合面を加熱する加熱工程と、
前記加熱工程の終了後に、一対の前記金属部品の各接合面を対向させた状態で、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に移動させることにより、一対の前記金属部品の各接合面を接触させる接触工程と、
前記接触工程の終了後に、一対の前記金属部品の各接合面を対向接触させた状態で、一方の前記金属部品を対向方向に直交する方向へ他方の前記金属部品に対して相対的に往復移動させつつ、一対の前記金属部品の寄り量が目標の寄り量になるまで、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に押圧することにより、摩擦熱によって一対の前記金属部品の各接合面を軟化させて接合する接合工程と、を具備し、
前記加熱工程の処理により前記接合工程の開始時におけるいずれかの前記金属部品の接合面の温度がその前記金属部品の材料の融点の20%以上になっていることを特徴とする摩擦接合方法。
【請求項2】
前記加熱工程の処理により前記接合工程の開始時におけるいずれかの前記金属部品の加熱深さが1.0mm以上になっていることを特徴とする請求項1に記載の摩擦接合方法。
【請求項3】
前記加熱工程中に、一対の前記金属部品の各接合面を加熱することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摩擦接合方法。
【請求項4】
前記接合工程は、
前記接触工程の終了後に、一対の前記金属部品の各接合面を対向接触させた状態で、一方の前記金属部品を前記直交する方向へ他方の前記金属部品に対して相対的に往復移動させつつ、一方の前記金属部品を他方の前記金属部品側へ相対的に押圧することにより、摩擦熱によって一対の前記金属部品の各接合面を軟化させて、一対の前記金属部品の寄り量が前記目標の寄り量よりも小さく設定した目標前の寄り量になると、一方の前記金属部品の相対的な往復移動を停止する第1接合工程と、
前記第1接合工程の終了後に、一対の前記金属部品の寄り量が目標の寄り量になるまで、一方の前記金属部品の相対的な押圧動作を継続して、一対の前記金属部品の各接合面を据え込むことにより、一対の前記金属部品の各接合面を接合する第2接合工程と、を備えていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載の摩擦接合方法。
【請求項5】
前記金属部品は、ガスタービンエンジンに用いられるエンジン部品であることを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれかの請求項に記載の摩擦接合方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5に記載の摩擦接合方法によって接合されたことを特徴とする接合構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−228703(P2012−228703A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97456(P2011−97456)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】