説明

摩擦材

【課題】効き、振動特性を良好に維持し、かつ異音発生を緩和した摩擦材を提供すること。
【解決手段】少なくとも繊維基材、結合材及び摩擦調整材を含む摩擦材において、該摩擦調整材の一部として酸化鉄一次粒子と樹脂とを複合化してなる複合体粒子を含む摩擦材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材に関するものであり、特に産業機械、鉄道車両、荷物車両、乗用車などに用いられる摩擦材に関するものであり、より具体的には前記の用途に使用されるブレーキパッド、ブレーキライニング等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に今までのブレーキパッド等に使用される摩擦材では、鳴き、異音の発生を抑制するために、メカ対策、ブレーキパッド形状の改善や摩擦材自体の改良が行われている。
特に、摩擦材自体の改良方法としては、成形時の面圧や焼成温度を下げることにより、摩擦材の気孔率を大きくしたり(特許文献1)、低硬度(圧縮歪み量大)の摩擦材にすることが提案されている(特許文献2)。
更に異音発生の抑制については、摩擦摺動面上の摺動膜の膜厚を低減する手法が用いられるが、引用文献3に記載のように強研削材を使用した場合、ロータの肉厚差成長による振動特性の悪化が懸念される。
【特許文献1】特開2004−131634号公報
【特許文献2】特開2004−346214号公報
【特許文献3】国際公開第03/052022号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、効き、振動特性を良好に維持し、かつ異音発生を緩和した摩擦材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下の通りである。
1)少なくとも繊維基材、結合材及び摩擦調整材を含む摩擦材において、該摩擦調整材の一部として酸化鉄一次粒子と樹脂とを複合化してなる複合体粒子を含むことを特徴とする摩擦材。
2)前記複合体粒子は、無処理の粒子及び該無処理の粒子を炭化処理した粒子の少なくとも1種を含むことを特徴とする上記1)記載の摩擦材。
3)前記複合体粒子は、摩擦材全体に対し0.5〜30体積%配合されていることを特徴とする上記1)又は2)に記載の摩擦材。
4)前記複合体粒子は、平均粒径が5〜300μmであることを特徴とする上記1)〜3)のいずれかに記載の摩擦材。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、ブレーキの効き、ロータの振動特性を良好に維持し、かつ異音発生を緩和した摩擦材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、摩擦調整材の一部として酸化鉄一次粒子と樹脂とを複合化してなる複合体粒子を用いる。複合体粒子は、無処理の粒子及び該無処理の粒子を炭化処理した粒子の少なくとも1種を含むことが好ましい。
この複合体粒子は、摩擦材に配合されることにより、ロータと摩擦材間の摺動膜の膜圧を均一に制御することに寄与し、上記効果が奏されるものと考えられる。
以下、この複合体粒子について説明する。
複合体粒子を構成する酸化鉄一次粒子に用いられる酸化鉄としては、マグネタイトが好適に用いられる。酸化鉄一次粒子の平均粒径は、複合体粒子の平均粒径となる範囲が好ましいが、通常、0.1〜1μmであり、0.1〜0.5μmが好ましい。
本願明細書において、平均粒径とは、レーザー回折式粒度分布計により測定される値である。
複合体粒子に用いられる樹脂としては、熱硬化性樹脂が挙げられ、中でもフェノール樹脂が好ましい。
複合体粒子の酸化鉄一次粒子と樹脂との配合比率(質量)は、前者:後者=80:20〜90:10が好ましく、85:15〜90:10が更に好ましい。
複合体粒子は、摩擦材全体に対し0.5〜30体積%配合されていることが好ましく、0.5体積%より小さいと、研削効果はなく効きが安定せず、異音が悪化し、30体積%を超えると空転時のロータ攻撃性が悪化すると共に摩擦調整材以外の材料割合が少なくなり、摩擦材としての基本的な特性を保持することが困難になる。5〜30体積%が更に好ましく、5〜15体積%が特に好ましい。
複合体粒子は、平均粒径が5〜300μmであることが好ましく、5μmより小さいと研削効果はなく効きが安定せず、異音が発生し、300μmを超えると空転時のロータ攻撃性が悪化する。10〜100μmが更に好ましく、10〜50μmが特に好ましい。
上記無処理の複合体粒子は炭化処理されてもよく、この場合の複合体粒子の該樹脂は実質的に全部炭化されることが好ましく、炭化処理前の酸化鉄一次粒子と樹脂の種類、それらの配合比率は上記無処理の複合体粒子と同様である。
【0007】
本発明は、摩擦調整材として上記複合体粒子のみでもよいが、他の摩擦調整材を含むことができ、例えば、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化クロム、二酸化モリブデン等の金属酸化物、合成ゴム、カシュー樹脂等の有機物、銅、アルミニウム、亜鉛等の金属、バーミキュライト、マイカ等の鉱物、炭酸カルシウム等の塩、黒鉛を挙げることができ、単独または2種以上組み合わせて用いることができる。これらは、粉体等で用いられ、粒径等は種々選定される。
【0008】
本発明に用いられる繊維基材としては、有機系でも無機系でもよく、例えば、有機系としては、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、ポリアクリル系繊維等が挙げられ、無機系としては、銅、スチール等の金属繊維、チタン酸カリウム繊維、Al−SiO系セラミック繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、ロックウール等が挙げられ、各々単独、または2種以上組み合わせて用いられる。繊維基材は、摩擦材全体に対して、通常、2〜40体積%、好ましくは5〜20体積%用いられる。
【0009】
本発明に用いられる結合材としては、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂、ゴム等による各種変性フェノール樹脂を含む)、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。結合材は、摩擦材全体に対して、通常、10〜30体積%、好ましくは14〜20体積%用いられる。
【0010】
本発明の摩擦材を製造するには、上記各成分を配合し、その配合物を通常の製法に従って予備成形し、熱成形、加熱、研磨等の処理を施すことにより製造することができる。
ブレーキパッドは、板金プレスにより所定の形状に成形され、脱脂処理及びプライマー処理が施され、そして接着剤が塗布されたプレッシャプレートと、上記摩擦材の予備成形体とを、熱成形工程において所定の温度及び圧力で熱成形して両部材を一体に固着し、アフタキュアを行い、最終的に仕上げ処理を施す工程により製造することができる。
【実施例】
【0011】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0012】
実施例1〜6及び比較例1
表1に示す組成(体積%)の摩擦材の配合材料をミキサーにて均一に混合し、摩擦材混合品を得た。続いて摩擦材混合品を室温、圧力6MPaで予備成形した後、温度150℃、圧力9MPaで6.5分間加熱加圧成形し、次いで温度250℃、締め付け3920Nで3.5時間熱処理し、摩擦材を得た。
得られた摩擦材の性能を以下により評価した.
(気孔率)
水銀圧入気孔率により求めた。
(空転ロータ攻撃性)
テストピースを所定の面圧でロータに押し付け、速度60km/hで実施、40時間後のロータ摩耗量を測定した。
(JASO性能)
JASO 6914−PAに準拠し、第二効力の平均摩擦係数を下記判定基準に基づき評価した。
◎:0.40より大きい
○:0.35より大きく0.40以下
×:0.35以下
(実車 鳴き)
初速度30km/h、50km/h、減速度0.49〜1.96m/s、温度50〜200℃、繰り返し200回の条件で実車による鳴き試験を行い、全制動回数に対する鳴きの発生割合を求め、下記基準により評価を行った。
◎:鳴き発生率1%以下
○:鳴き発生率1%より大きく30%未満
×:鳴き発生率30%以上
(実車 異音)
初速度40km/h、減速度1.96〜5.88m/s、温度60〜200℃の条件で実車による異音試験を行い、75dB以上の異音の発生率を求め、下記基準により評価を行った。
◎:異音発生率1%以下
○:異音発生率1%より大きく30%未満
×:異音発生率30%以上
得られた結果を表1に示した。
【0013】
【表1】

【0014】
実施例1〜6は複合体粒子を用いたもので、比較例1は、複合体粒子に変えて酸化鉄を用いたものであるが、実施例1〜6は比較例1に比べて空転ロータ攻撃性以外のJASO性能、鳴き、及び異音の各性能に優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも繊維基材、結合材及び摩擦調整材を含む摩擦材において、該摩擦調整材の一部として酸化鉄一次粒子と樹脂とを複合化してなる複合体粒子を含むことを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
前記複合体粒子は、無処理の粒子及び該無処理の粒子を炭化処理した粒子の少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記複合体粒子は、摩擦材全体に対し0.5〜30体積%配合されていることを特徴とする請求項1または2に記載の摩擦材。
【請求項4】
前記複合体粒子は、平均粒径が5〜300μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の摩擦材。

【公開番号】特開2009−298847(P2009−298847A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152176(P2008−152176)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】