説明

摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造とその構築方法

【課題】地下空間を形成するための地下構造として、安価であるとともに、地下水脈からの浮力にも適切に対抗することができる地下構造とその構築方法を提供する。
【解決手段】地下構造を構築するために打設する鋼矢板として、地盤に埋設される個所に摩擦突起板12が溶接された摩擦突起板付鋼矢板10を用いるとともに、摩擦突起板12の周辺の地盤を強固な改良地盤2とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下空間を形成するための地下構造とその構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特に都市部において、土地の有効利用のために、地下空間を形成し、その内部に装置や機器を収納することが行われている。例えば、形成した地下空間の内部に自転車駐車装置を収納して、地下立体駐輪場として利用している。
【0003】
そのような地下空間を形成するに際して、一般的には、まずその周囲を囲むように土止め用の鋼矢板を地中に打ち込むとともにその内部を掘削し、掘削された部分に型枠を建て込んでコンクリートを打設することで、そのコンクリート壁の内部を地下空間とすることが行われている。しかし、この方法では、本設の地下壁(コンクリート壁)の構築とは別に鋼矢板による仮設工事が必要であるため、工期が長くなり、工費が高くなるという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1においては、短工期で安価に地下空間を形成するために、鋼矢板を周状に連続的に打設して構築した連続壁をそのまま本設の地下壁として利用するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記特許文献1に記載の技術により構築された鋼矢板による地下構造には、以下のような問題がある。
【0006】
すなわち、一般的に、地下に構築された構造物は、地下水脈からの浮力を受けるが、前記特許文献1による鋼矢板による地下構造は、地盤と間の摩擦力が小さいため、浮力に対する抵抗力が弱く、特に、下部に止水用の底版が取り付けられている場合、その底版に作用する大きな浮力によって、地下構造全体が浮き上がってしまう危険性がある。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、地下空間を形成するための地下構造として、安価であるとともに、地下水脈からの浮力にも適切に対抗することができる地下構造とその構築方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0009】
[1]地下空間を形成するために、複数の鋼矢板を地盤に周状に連続して打設して構築され、それらの打設された鋼矢板で囲まれる地盤を所定の深さまで掘削して形成された地下空間の底部の位置に底版が取り付けられている地下構造であって、前記複数の鋼矢板の内の一部または全部の鋼矢板について、その下端部の地盤に埋設している個所に、地盤との摩擦力を増加させるための摩擦突起が取り付けられた摩擦突起付鋼矢板が用いられていることを特徴とする摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造。
【0010】
[2]前記摩擦突起の周辺の地盤が改良地盤であることを特徴とする前記[1]に記載の摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造。
【0011】
[3]前記摩擦突起は、縞鋼板またはリブ付き鋼板であることを特徴とする前記[1]または[2]に記載の摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造。
【0012】
[4]地下空間を形成するために、複数の鋼矢板を地盤に周状に連続して打設して地下構造を構築する地下構造の構築方法であって、前記複数の鋼矢板の内の一部または全部の鋼矢板について、その下端部の地盤に埋設される個所に、地盤との摩擦力を増加させるための摩擦突起を取り付けて摩擦突起付鋼矢板とする突起取り付け工程と、それら複数の鋼矢板を地盤に周状に連続して打設する鋼矢板打設工程と、前記打設された鋼矢板で囲まれる地盤を所定の深さまで掘削して地下空間を形成する地盤掘削工程と、形成された地下空間の底部に底版を設置する底版施工工程とを備えていることを特徴とする摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造の構築方法。
【0013】
[5]前記摩擦突起の周辺の地盤を改良する地盤改良工程を備えていることを特徴とする前記[4]に記載の摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造の構築方法。
【0014】
[6]前記摩擦突起は、縞鋼板またはリブ付き鋼板であることを特徴とする前記[4]または[5]に記載の摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造の構築方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、打設される鋼矢板として、その下端部の地盤に埋設している個所に、地盤との摩擦力を増加させるための摩擦突起が取り付けられている摩擦突起付鋼矢板を用いているので、その摩擦突起と地盤との間に発生する摩擦力が、地下水脈から地下構造が受ける浮力(特に、底版が受ける浮力)に対抗し、地下構造の浮き上がりを的確に防止する。これによって、地下空間を形成するための地下構造として、安価であるとともに、地下水脈からの浮力にも適切に対抗することができる地下構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る地下構造の説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る地下構造の部分拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態において用いる摩擦突起板付鋼矢板を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態における地下構造の施工手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態に係る地下構造の縦断面図であり、図2は本発明の一実施形態に係る地下構造の部分拡大横断面図である。そして、図3は本発明の一実施形態において用いる摩擦突起板付鋼矢板を示す図である。
【0018】
図1、図2に示すように、この実施形態に係る地下構造は、地盤1に複数の鋼矢板を円形状に連続して打設して構築された円筒状(円形状断面)の地下構造であり、それらの鋼矢板によって囲まれる地盤を所定の深さまで掘削して地下空間20を形成し、その地下空間20の底部に止水用の底版コンクリート版19が設置されている。
【0019】
その上で、この実施形態においては、打設される鋼矢板が、図1〜図3に示すように、通常の鋼矢板(ここでは、U型鋼矢板)11の長手方向端部で地盤に埋設される個所に、地盤との摩擦力を増加させるための摩擦突起板(縞鋼板またはリブ付き鋼板)12が溶接された摩擦突起板付鋼矢板10となっている。
【0020】
それとともに、この実施形態においては、摩擦突起板12の周辺の地盤を改良して強固な改良地盤2としている。
【0021】
そして、上記のようなこの実施形態に係る地下構造を構築する方法(施工手順)を図4に基づいて説明する。
【0022】
(S0)突起板取り付け工程
まず、通常の鋼矢板(ここでは、U型鋼矢板)11の長手方向端部で地盤に埋設される個所に、摩擦突起板(縞鋼板またはリブ付き鋼板)12を溶接で取り付ける。これによって、図3に示した摩擦突起板付鋼矢板10を得る。
【0023】
(S1)摩擦突起板付鋼矢板施工工程
次に、図4(a)に示すように、摩擦突起板12が取り付けられた側を先端にして摩擦突起板付鋼矢板10を地盤1に順次周状に打設する。
【0024】
(S2)地盤改良工程
次に、図4(b)に示すように、摩擦突起板12の周辺の地盤を改良する。
【0025】
なお、その際の地盤改良の方法としては、例えば特許文献2に記載されているような高圧噴射工法(JFG工法等)を用いることができる。すなわち、摩擦突起板付鋼矢板10の周辺を地盤改良深さ位置(摩擦突起板12の位置)までボーリングし、そこから地盤改良材(セメント等)を地盤中に噴射注入し、固化させることで、地盤改良を行う。
【0026】
(S3)地盤掘削工程
次に、図4(c)に示すように、打設した摩擦突起板付鋼矢板10で囲まれる地盤を所定の深さまで掘削して地下空間20を形成する。
【0027】
(S4)底版コンクリート版施工工程
最後に、図4(d)に示すように、形成された地下空間20の底部に底版コンクリート版19を設置する。
【0028】
上記のようにして、この実施形態においては、打設する鋼矢板として、地盤に埋設される個所に、地盤との摩擦力を増加させるための摩擦突起板12が溶接された摩擦突起板付鋼矢板10を用いているとともに、摩擦突起板12の周辺の地盤を強固な改良地盤2としているので、摩擦突起板12と改良地盤2との間に発生する大きな摩擦力が、地下水脈から地下構造が受ける浮力(特に、底版19が受ける浮力)に対抗し、地下構造の浮き上がりを的確に防止することができる。これによって、地下空間を形成するための地下構造として、安価であるとともに、地下水脈からの浮力にも適切に対抗することができる地下構造を得ることができる。
【0029】
なお、この実施形態においては、打設する鋼矢板の全てを摩擦突起板付鋼矢板10としているが、場合によっては、打設する鋼矢板の一部を摩擦突起板付鋼矢板10としてもよい。
【0030】
また、摩擦突起板12の周辺の地盤がもともと良好であれば、地盤改良を省略することもできる。
【0031】
また、この実施形態に係る地下構造は、円筒状(円形状断面)の地下構造であったが、多角形状断面の地下構造や楕円形状断面の地下構造であってもよい。
【0032】
また、打設する鋼矢板は、U型鋼矢板に限らず、Z型鋼矢板、ハット型鋼矢板、直線型鋼矢板等であってもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 地盤
2 改良地盤
10 摩擦突起板付鋼矢板
11 鋼矢板(U型鋼矢板)
12 摩擦突起板(縞鋼板またはリブ付き鋼板)
19 底版コンクリート版
20 地下空間
【先行技術文献】
【特許文献】
【0034】
【特許文献1】特開2006−037617号公報
【特許文献2】特開平10−054024号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下空間を形成するために、複数の鋼矢板を地盤に周状に連続して打設して構築され、それらの打設された鋼矢板で囲まれる地盤を所定の深さまで掘削して形成された地下空間の底部の位置に底版が取り付けられている地下構造であって、前記複数の鋼矢板の内の一部または全部の鋼矢板について、その下端部の地盤に埋設している個所に、地盤との摩擦力を増加させるための摩擦突起が取り付けられた摩擦突起付鋼矢板が用いられていることを特徴とする摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造。
【請求項2】
前記摩擦突起の周辺の地盤が改良地盤であることを特徴とする請求項1に記載の摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造。
【請求項3】
前記摩擦突起は、縞鋼板またはリブ付き鋼板であることを特徴とする請求項1または2に記載の摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造。
【請求項4】
地下空間を形成するために、複数の鋼矢板を地盤に周状に連続して打設して地下構造を構築する地下構造の構築方法であって、前記複数の鋼矢板の内の一部または全部の鋼矢板について、その下端部の地盤に埋設される個所に、地盤との摩擦力を増加させるための摩擦突起を取り付けて摩擦突起付鋼矢板とする突起取り付け工程と、それら複数の鋼矢板を地盤に周状に連続して打設する鋼矢板打設工程と、前記打設された鋼矢板で囲まれる地盤を所定の深さまで掘削して地下空間を形成する地盤掘削工程と、形成された地下空間の底部に底版を設置する底版施工工程とを備えていることを特徴とする摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造の構築方法。
【請求項5】
前記摩擦突起の周辺の地盤を改良する地盤改良工程を備えていることを特徴とする請求項4に記載の摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造の構築方法。
【請求項6】
前記摩擦突起は、縞鋼板またはリブ付き鋼板であることを特徴とする請求項4または5に記載の摩擦突起付鋼矢板を用いた地下構造の構築方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate