説明

摩擦試験装置及び摩擦試験方法

【課題】アイスバーンとなった一般道やテストコースの氷結表面に近似した氷結表面を形成でき、摩擦試験精度の向上を図る上で有利な摩擦試験装置及び摩擦試験方法を提供する。
【解決手段】試験タイヤ22を第1荷重付与機構16により氷結層24の表面に予め定めた荷重で押し付ける。エラストマーからなる整形体18を第2荷重付与機構26により氷結層24の表面に予め定めた荷重で押し付ける。回転ドラム12を所要の速度で回転させ、試験タイヤ22を所要の回転速度で回転駆動する。整形体18が第2荷重付与機構26によって氷結層24の表面に押し付けられているため、試験タイヤ22の接地面で削られた凹凸形状は、整形体18との摩擦熱により溶融され、なだらかな凹凸形状の氷結面に整形され、試験タイヤ22の接地面形状の如何に拘わらず、アイスバーンとなった一般道やテストコースの氷結表面に近い形状に整形される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体の踏面に形成された氷の層または圧縮された雪の層(以下、氷結層という)にタイヤなどの試料を接触させ、試料と氷結面との間に相対的摩擦を生じさせて試料の摩擦試験を行う摩擦試験装置及び摩擦試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、摩擦試験装置として、恒温槽内に設けられた円筒状の回転ドラムの内壁面に氷結層を形成し、この氷結層に粘弾性材料からなる試料を所定の圧力で接触させ、試料と氷結面との間に相対的摩擦を生じさせて試料の摩擦試験を行う室内型の摩擦試験装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
また、この種の摩擦試験装置は、回転ドラムの内壁面に形成された氷結層の表面を均一な平滑面に切削加工する氷面切削ユニットを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−166339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に室内型の摩擦試験装置を用いてタイヤの氷上特性を試験する場合、タイヤ毎あるいはタイヤの試験条件毎に氷結層の表面を平滑面に切削加工した後に試験を実施するようになっている。
しかしながら、アイスバーンとなった一般道、またはテストコースでの氷上試験における氷結表面は、室内型の摩擦試験装置のように切削加工された氷結表面ではなく、様々な種類のタイヤにより形成されたなだらかな凹凸形状となった氷結表面となっている。
一方、室内型の摩擦試験装置による摩擦試験に際し、回転ドラムを回転させた状態で、氷結層の表面に押し付ける試験タイヤの接触圧を予め定めた荷重になるように調節する必要がある。そして、この調節の最中でも試験タイヤが氷結層の表面と摩擦しながら複数回転されてしまい、氷結層の周長に限りがあることから、試験前に既に、氷結層の表面は、試験タイヤの接地面に対応した形状となる。
さらに、試験中には、氷結層の表面は、回転ドラムの回転に追従して試験タイヤの接地面に対応した形状に近い形状に変形していく。
したがって、室内型の摩擦試験装置では、それら試験タイヤの接地面に対応した形状の氷結層の表面で試験タイヤの摩擦試験が行われることになり、換言すると、試験タイヤ毎に異なった形状の氷結層の表面で試験タイヤの摩擦試験が行われることになる。
その結果、摩擦試験の精度が低下するという不具合がある。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、アイスバーンとなった一般道やテストコースの氷結表面に近似した氷結表面を形成することによって摩擦試験精度の向上を図る上で有利な摩擦試験装置及び摩擦試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明は摩擦試験装置であって、回転可能に支持され被試験用の試料が押圧される氷結層が形成された回転体と、前記回転体を回転させ当該回転体と一体に前記氷結層を移動させる回転駆動機構と、前記試料を前記氷結層の表面に予め定めた荷重で押し付ける第1荷重付与機構と、前記氷結層を整形する整形体と、前記整形体を前記氷結層の表面に予め定めた荷重で押し付ける第2荷重付与機構とを備え、前記整形体は、前記氷結層の表面に接触し該表面との摩擦熱で前記氷結層の表面を溶融して前記氷結層の表面を整形するエラストマーで構成されていることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、試料を氷の層または圧縮された雪の層からなる氷結層の表面に押し付けて摩擦試験を行う方法であって、前記氷結層を移動させ、前記氷結層の表面に前記試料を予め定められた荷重で押し付け、前記氷結層の表面にエラストマーからなる整形体を予め定められた荷重で押し付け、前記氷結層の表面に前記整形体を押し付けた時に生じる摩擦熱で前記氷結層の表面を溶融して整形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる摩擦試験装置及び摩擦試験方法によれば、アイスバーンとなった一般道やテストコースの氷結表面に近似した氷結表面を形成することができるため摩擦試験精度を向上する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施の形態における摩擦試験装置100の概略構成図である。
【図2】図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】(A)、(B),(C)は整形体18の構成を示す斜視図である。
【図4】第2の実施の形態における摩擦試験装置100の概略構成図である。
【図5】図4のB−B線に沿う断面図である。
【図6】(A)、(B),(C)は第3の実施の形態における整形体18の構成を示す斜視図である。
【図7】第4の実施の形態における整形体18の構成を示す説明図である。
【図8】第5の実施の形態における整形体18の構成を示す斜視図である。
【図9】第6の実施の形態における摩擦試験装置100の概略構成図である。
【図10】(A)は本発明をアウトサイドドラム式摩擦試験装置300に適用した例を示す説明図、(B)は本発明をターンテーブル式摩擦試験装置400に適用した例を示す説明図である。
【図11】本発明方法と従来方法とによる氷結層24の表面性状の実験例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施の形態)
本発明にかかる摩擦試験装置の第1の実施の形態について、図1及び図2を参照して説明する。
インサイドドラム式の摩擦試験装置100は、図1及び図2に示すように、回転体12、回転体駆動機構14、第1荷重付与機構16、整形体18、第2荷重付与機構26等を含んで構成される。
【0011】
摩擦試験に使用される回転体12は、一端面が開口され他端面が閉塞された円筒形状のドラムからなる(以下、回転ドラムという)。
回転ドラム12の閉塞端面壁1202の中心には、回転ドラム12の軸心Lと一致する支持軸1204が閉塞端面壁1202から外方へ突出して設けられている。
また、回転ドラム12の内周壁面12aには、被試験用の試料である、例えば試験タイヤ22が押圧される氷結層24が形成されている。この氷結層24は水を凍らせた一定の厚さ(約10mm程度)の氷の層または圧縮された雪の層(約10mm程度の厚さ)からなる。氷結層24の形成には従来公知の様々な方法が採用可能である。
また、回転ドラム12は、従来公知の温度調整可能な恒温槽(図示省略)内に収容されている。
【0012】
回転体駆動機構14は、回転ドラム12の支持軸1204を、回転ドラム12の軸心Lと一致する水平軸の周りに回転可能に支持する支持基台1402を備える。
さらに、回転体駆動機構14は、支持軸1204を所要の速度で回転させる、すなわち、回転ドラム12を所要の速度で回転させるモータや減速機などからなる従来公知の回転駆動手段1404を備えている。
【0013】
第1荷重付与機構16は、被試験用の試料である試験タイヤ22を氷結層24の表面に所要の荷重で押し付けるものである。本実施の形態では、試験タイヤ22を氷結層24の表面に所要の荷重で押し付けると共に、回転ドラム12の軸心Lと平行する軸心回りに試験タイヤ22を回転可能および回転駆動可能に支持するものである。
この第1荷重付与機構16には、従来公知の様々な構成が採用可能であり、第1荷重付与機構16は、試験タイヤ22を制動する従来公知のブレーキ手段、氷結層24に対する試験タイヤ22の接触傾斜角(キャンバー角)およびスリップ角を調整する従来公知の調整手段など、試験タイヤ22の氷上での摩擦試験に必要な従来公知の各種手段を含んで構成されている。
【0014】
整形体18は、氷結層24の表面に押し付けられ、該表面との摩擦熱で氷結層24の表面を溶融し、氷結層24の表面をアイスバーンとなった一般道やテストコースの氷結表面に近い形状に整形するためのものである。
この整形体18は、エラストマーから形成されている。
このようなエラストマーとして従来公知の様々な天然ゴムや合成ゴムが採用可能である。
整形体18は、摩擦熱で氷結層24の表面を溶融する観点から、その硬度はHs60以上が好ましい。また、氷結層24の形状が進行方向に対して曲率を持つ場合、その硬度は更にHs80以下が好ましい。
硬度がHs60未満の場合には、氷結層24の表面形状に整形体18の接触面が同じ表面形状に追従してしまい望み通りの氷結層表面に整形できない不具合が生じる。氷結層24が進行方向に対して曲率を持ち、硬度がHs80を超過する場合は、整形体18の形状が氷結層24の形状に対して追従できず、例えば、整形体18を支持するロッド2610と回転ドラム12の軸心Lとの平行度が低い場合には、整形体18の一部分のみが氷結層24の表面に接触し、進行方向に垂直な方向への圧力分布が不均一になる不具合が生じる。
【0015】
整形体18の形状や配設構造は、図3(A)、(B),(C)に示すように、種々考えられる。
なお、図3(A)、(B),(C)において矢印Aは整形体18を氷結層24の表面に所要の荷重で押し付ける方向を示しており、矢印Bは氷結層24の移動方向を示している。
図3(A)、(B),(C)では、整形体18は保持部材19で保持されている。
図3(A)に示す整形体18は、長方形状の単一の板状部1802として構成されている。整形体18は、金属その他の硬質な部材からなる剛性を有する長方形状の保持部材1902の下面に取着されている。
図3(B)に示す整形体18は、氷結層24の移動方向Bに間隔をおき氷結層24の移動方向Bと直交する方向に延在する複数の凸条部1804として構成されている。整形体18は、金属その他の硬質な部材からなる剛性を有する長方形状の保持部材1904の下面に取着されている。
このように構成することで、氷結層24の表面に対する整形体18の接触面積を小さくすることにより、小さい荷重で、氷結層24に対しより高い圧力を与えることができ、第2荷重付与機構26の構成の簡素化を図る上で有利となる。
【0016】
図3(C)に示す整形体18は、氷結層24の移動方向Bと直交する方向に間隔をおき氷結層24の移動方向Bに延在する複数の凸条部1806として構成されている。整形体18は、金属その他の硬質な部材からなる剛性を有する長方形状の保持部材1906の下面に取着されている。
このように構成することで、図3(B)と同様に、氷結層24の表面に対する整形体18の接触面積を小さくすることにより、小さい荷重で氷結層24に対しより高い圧力を与えることができる。さらに、試験タイヤ22の接地面で形成される凹凸形状を崩し、氷結層24の表面に、複数の凸条部1806に対応した凹凸部を形成することが可能となる。
【0017】
第2荷重付与機構26は、整形体18を氷結層24の表面に予め定めた荷重で押し付けるものである。
第2荷重付与機構26は、図1、図2に示すように、基台2602、載置台2604、スクリューねじ2606、駆動モータ2608及びロッド2610等を備えている。
基台2602は、回転体12の開口端側に位置して床面上に設置されている。
基台2602上には、載置台2604が複数のガイドロッド2620により、回転ドラム12の軸心と直交する鉛直方向に移動可能に支持されている。
スクリューねじ2606は載置台2604を鉛直方向に移動させるためのもので、スクリューねじ2606の下部は基台2602に回転可能に軸支され、その上部は載置台2604に設けたナット2612に螺合されている。
また、スクリューねじ2606の下端には、正逆回転可能な駆動モータ2608の回転軸が連結されている。
【0018】
ロッド2610は載置台2604から回転ドラム12に向け、その軸心Lと平行に延在して設けられている。
このロッド2610の一端は、載置台2604上に設けられた取付部材2622に固定され、他端には、整形体18を保持する保持部材19が連結されている。
なお、第2荷重付与機構26は、整形体18の氷結層24表面への荷重を測定するロードセル等の荷重センサー(図示せず)を備えている。この荷重センサーは、例えば、取付部材2622とロッド2610との接触箇所に設けられる。
したがって、駆動モータ2608の正逆回転によりスクリューねじ2606、ガイドロッド2620、載置台2604、取り付け部材2622、ロッド2610、保持部材19を介して整形体18が氷結層24の表面から離間接近する方向に移動される。
したがって、第2荷重付与機構26は、整形体18を氷結層24の表面に離間接近する方向に移動させる第1移動機構を含んで構成されている。そして、整形体18の移動量を制御することで整形体18が氷結層24の表面に押し付けられる荷重が調節される。
なお、第2荷重付与機構26の構成は、実施の形態に限定されず、従来公知の様々な構造が採用可能である。
【0019】
次に、本実施の形態に示す摩擦試験装置の動作について説明する。
まず、試験タイヤ22を第1荷重付与機構16で保持して回転ドラム12内に位置させ、第2荷重付与機構26で保持された整形体18を回転ドラム12内に位置させる。
次いで、試験タイヤ22を第1荷重付与機構16により氷結層24の表面に予め定めた荷重で押し付ける。
さらに、載置台2604を下降させ、整形体18を第2荷重付与機構26により氷結層24の表面に予め定めた荷重で押し付ける。
この場合、氷結層24の表面に整形体18を押し付ける接地圧力(荷重)は、試験タイヤ22により氷結層24の表面に形成された凹凸をなだらかな凹凸にするため、氷結層24の表面に試験タイヤ22を押し付ける最大接地圧力(荷重)と等しいかそれよりも大きいことが好ましい。例えば、試験タイヤ22を氷結層24の表面に押し付ける最大接地圧力の1倍〜1.5倍程度が好ましい。
整形体18を氷結層24の表面に押し付ける接地圧力が、試験タイヤ22を氷結層24の表面に押し付ける最大接地圧力よりも小さい場合には、整形体18により氷結層24の表面をなだらかな凹凸形状に整形し難い。また、整形体18を氷結層24の表面に押し付ける接地圧力が、試験タイヤ22を氷結層24の表面に押し付ける最大接地圧力の1.5倍を超えると、整形体18による氷結層24の表面の摩耗量(熱により溶かされて消失される量)が多くなるためである。
かかる状態で、回転ドラム12を回転駆動機構14により所要の速度で回転させ、試験タイヤ22を第1荷重付与機構16により所要の回転速度で回転駆動する。
【0020】
試験タイヤ22の摩擦試験に際しては、例えば、回転ドラム12及び試験タイヤ22を同一の速度で回転させ、回転ドラム12を一定の速度で回転させながら、試験タイヤ22を制動し、その回転速度を次第に減速する。あるいは、回転ドラム12及び試験タイヤ22を同一の速度で回転させ、回転ドラム12を一定の速度で回転させた状態で、試験タイヤ22を駆動しその回転速度を次第に加速していく。
この場合、試験タイヤ22がスリップ状態で押し付けられているため、整形体18がない場合は、氷結層24の表面が試験タイヤ接地面の凹凸部(トレッドパターン)によって削られ、その凹凸形状に応じた溝が形成されてしまう。したがって、試験タイヤ22毎に異なった形状の氷結層24の表面で試験タイヤ22の摩擦試験が行われることになり、摩擦試験の精度が低下する。
これに対し、第1の実施の形態では、整形体18が第2荷重付与機構26によって氷結層24の表面に予め定めた荷重で押し付けられているため、試験タイヤ22の接地面で削られた凹凸形状は、整形体18との摩擦熱により溶融され、なだらかな凹凸形状の氷結面に整形される。
したがって、氷結層24の表面は、アイスバーンとなった一般道やテストコースの氷結表面に近い形状に整形される。
したがって、試験タイヤ22が異なってもほぼ均一形状の氷結層24の表面で試験タイヤ22の摩擦試験が行なわれることになり、試験タイヤ22毎に異なった形状の氷結層24の表面で摩擦試験が行われることがなくなり、摩擦試験の精度が向上する。
【0021】
また、第1の実施の形態では、第2荷重付与機構26により、整形体18を氷結層24の表面に対し離接可能に移動させることができる。そのため、整形体18による氷結層24表面の整形が不要な時、例えば、試験タイヤ22の摩擦試験終了直後に整形体18を氷結層24の表面から離間させることが可能になり、氷結層24の摩耗を低減する上で有利となる。
【0022】
(第2の実施の形態)
本発明にかかる摩擦試験装置の第2の実施の形態について、図4及び図5を参照して説明する。
なお、以下の実施の形態においては、第1の実施の形態と同一または対応する部分には同一の符号を付してその説明を省略しあるいは簡単に行い、第1の実施の形態と異なる点を詳細に説明する。
第2の実施の形態に示すインサイドドラム式の摩擦試験装置200は、第1の実施の形態と同様に、回転体12、回転体駆動機構14、第1荷重付与機構16、整形体18、第2荷重付与機構26等を含んで構成される。
【0023】
第2の実施の形態では、第2荷重付与機構26の構成が第1の実施の形態と異なっている。
すなわち、第2の実施の形態の第2荷重付与機構26は、載置台2604の上に、回転ドラム12の軸心Lと直交する水平方向に移動可能に配置された第1の移動台2630を備えている。
取り付け部材2622は、第1の移動台2630上に回転ドラム12の軸心Lと平行する方向に移動可能に配置されている。
載置台2604は、ガイドロッド2620、スクリューねじ2606、駆動モータ2608などにより昇降される。
【0024】
第1の移動台2630は、不図示のガイドおよび駆動モータ2632により回転ドラム12の軸心Lと直交する水平方向に移動される。
したがって、第2の実施の形態でも、第2荷重付与機構26は、整形体18を氷結層24の表面に離間接近する方向に移動させる第1移動機構を含んで構成されている。そして、整形体18の移動量を制御することで整形体18が氷結層24の表面に押し付けられる荷重が調節される。
取り付け部材2622は、スクリューねじ2634、駆動モータ2636、第1の移動台2630のガイド溝2630Aにより、回転ドラム12の軸心Lと平行する水平方向に移動され、これに追従して整形体18も回転ドラム12の軸心Lと平行する水平方向に移動される。
したがって、第2荷重付与機構26は、整形体18を氷結層24の移動方向と交差する方向(この実施の形態では直交する方向)に往復移動する第2移動機構を含んで構成されている。この第2移動機構により、整形体18を氷結層24の表面に押し付けた状態で整形体18を氷結層24の移動方向と交差する方向に往復移動させ、回転ドラム12の軸心Lに沿った幅方向の全域において氷結層24の表面を整形体18で整形できる。
すなわち、第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果に加え、回転ドラム12の軸心Lと平行な氷結層24の幅方向の長さより短い整形体18を用いても、氷結層24の表面全域を整形できるという効果が奏される。
【0025】
(第3の実施の形態)
次に第3の実施の形態について図6を参照して説明する。
第1、第2の実施の形態では、氷結層24の表面に接触させる整形体18の荷重を検出する荷重センサーが取付部材2622とロッド2610との接触箇所に設けられていたが、第3の実施の形態では、この荷重センサー30を整形体18に設けたものである。
荷重センサー30として、例えば、ロードセンサーなど従来公知の様々なセンサーが採用可能であり、図6(A)、(B),(C)は、この荷重センサー30を図3(A)、(B),(C)に示す整形体18に設けた例を示している。
荷重センサー30は、保持部材19と整形体18との間で、整形体18が配置される箇所の全域に位置するように配置されている。
荷重センサー30を整形体18に設けることにより、氷結層24の表面に対する整形体18の荷重を正確に検知することができる。
したがって、第2荷重付与機構26が荷重センサー30の検知結果に基づいて整形体18に与える荷重制御を確実に行うことができるので、試験タイヤ22の摩擦試験精度の向上を図る上で有利となる。
【0026】
(第4の実施の形態)
次に第4の実施の形態について図7を参照して説明する。
第4の実施の形態は、本発明の摩擦試験装置に使用される整形体の構成と配置が第1の実施の形態と異なる。
第4の実施の形態は、氷結層24の表面の移動方向Bに沿って複数の整形体1810、1812、1814、1816を配置したものである。
各整形体1810、1812、1814、1816は、氷結層24の表面と接触する表面粗さが互いに異なっており、その表面粗さは、図7に示すように、氷結層24の表面の移動方向Bに沿って次第に小さくなるように配置されている。
【0027】
第4の実施の形態によれば、氷結層24は、各整形体1810、1812、1814、1816により、最初は大まかに整形され、次第に細かく整形されていく。
したがって、氷結層24の表面性状を安定させる上で有利となり、試験タイヤの摩擦試験精度の向上を図る上で有利となる。
この場合に、氷結層24の表面性状をより安定化させるため、各整形体1810、1812、1814、1816の表面粗さを同一とし、各整形体1810、1812、1814、1816の氷結層24の表面への圧力を異ならせ、あるいは、形状、大きさを異ならせるなど任意である。
すなわち、本発明では、氷結層24の表面性状をより安定化させるため、氷結層24の表面の移動方向Bに沿って複数の整形体1810、1812、1814、1816を配置し、各整形体1810、1812、1814、1816の表面粗さ、各整形体1810、1812、1814、1816の氷結層24の表面への圧力、各整形体1810、1812、1814、1816の形状、大きさの少なくとも1つを異ならせるなど任意である。
【0028】
(第5の実施の形態)
次に第5の実施の形態について説明する。
第5の実施の形態は、本発明の摩擦試験装置に使用される整形体の温度制御に関するものである。
試験タイヤ22の接地後の氷結層24の表面の温度は、試験タイヤ22の性状によって試験タイヤ22毎に差異が生じる場合があり、このような場合、試験タイヤ22毎に温度が異なる氷結層24の表面で摩擦試験が行なわれることになり試験精度が低下する。
そこで第5の実施の形態では、図8に示すように、整形体18に、該整形体18の温度を調整する温度調整手段32を設けた。
このように温度調整手段32によって整形体18の温度を調節することで氷結層24の表面の温度を調節することができ、これにより均一の温度の氷結層24の表面で摩擦試験を行なえるようになり、試験タイヤ22の摩擦試験精度の向上を図る上で有利となる。
このような温度調整手段32としては、電流が供給されることにより発熱するヒータなど従来公知の様々な加温、冷却を含む温度調整器を使用することができ、それら温度調整器は、例えば、整形体18の内部に埋め込んで配設することができる。
【0029】
(第6の実施の形態)
次に第6の実施の形態について説明する。
図9は、図1、図2に示される摩擦試験装置100に吸水機構34を設けたものである。
吸水機構34は、氷結層24の表面と整形体18との摩擦熱で氷結層24の表面が溶融されて生じた水分、あるいは、氷結層24の表面と試験タイヤ22との摩擦熱で氷結層24の表面が溶融されて生じた水分を吸収するものである。
このような吸水機構34としては、非接触のバキューム式のもの、または氷結層24の表面と接触するフェルトあるいは布を用いたものなど従来公知の様々な構造のものが使用可能である。
【0030】
吸水機構34を配置する箇所は、気温および氷温の高低に応じて異ならせることが好ましい。
すなわち、気温および氷温が0度、−1度程度の比較的高い温度である場合は、氷結層24の表面と試験タイヤ22との摩擦によって多くの水分が発生する。
この場合は、回転ドラム12の回転方向において試験タイヤ22の後方かつ整形体18の前方の箇所に吸水機構34を配置する。
これにより、試験タイヤ22の摩擦で発生した多くの水分を確実に吸水し、整形体18に至る水分を抑制することで、整形体18による氷結層24の表面の整形の安定化を図る。
一方、気温および氷温が−5度、−6度程度の比較的低い温度である場合は、氷結層24の表面と整形体18との摩擦によって水分が発生する。
この場合は、図9に示すように、回転ドラム12の回転方向において整形体18の後方かつ試験タイヤ22の前方の箇所に吸水機構34を配置する。
これにより、整形体18の摩擦で発生した水分を確実に吸水して試験タイヤ22に至る水分を抑制し、試験タイヤ22の摩擦試験の精度を高める。
【0031】
なお、本発明において整形体18として、トレッド面に溝のないタイヤを用いることが可能である。
この場合の第2荷重付与機構26は、試験タイヤ22の荷重付与機構である第1荷重付与機構14と同一の構成のものが採用可能である。
また、本発明の整形体18は、図10(A)に示すように、水平な軸心Lと中心とした回転ドラム12の外周面に氷結層24が形成されたアウトサイドドラム式摩擦試験装置300や、図100(B)に示すように、鉛直な軸心L1を中心として回転するターンテーブル40の上に氷結層24が形成されたターンテーブル式摩擦試験装置400などその他の従来公知の様々な摩擦試験装置に適用される。
また、実施の形態では、摩擦試験に使用される試料がタイヤの場合について説明したが、本発明では、試料はタイヤに限らず、タイヤトレッドコンパウンドや粘弾性材料からなるゴム片などのその他の様々な試験片に適用可能である。
【0032】
(実験例)
次に、本発明方法と従来方法による氷結層24の表面性状の実験例について、図11を参照して説明する。
この実験例に使用される摩擦実験装置は、インサイドドラム式のタイヤ摩擦試験機であり、その回転ドラムの内壁面に氷結層24を形成して、本発明の整形体18を使用した場合と、本発明の整形体18を使用しない場合の従来方法とを比較した。
気温および氷結層24の表面温度は、−5℃である。
また、摩擦試験に使用されるタイヤ22には、195/65R15,リム幅:61/2,空気圧:200kPaのものが使用される。
実験手順は、以下に示す(1)〜(6)の順序で行われる。
(1)氷結層24の表面をカッターにより切削して、凹凸のない滑らかな円筒状の氷結表面とする。この時の円筒状の氷結層24の表面の軸心と平行な方向の氷表面性状を測定する。
(2)回転ドラムを回転させて、氷結層24の表面の速度を37km/hにする。
(3)速度が37km/hの氷結層24の表面にタイヤを接触させ、タイヤへの負荷荷重を3.0kNに設定して、タイヤを自由転動状態で5分間走行させる。
(4)タイヤの速度を35km/h(スリップ率は、約5.4%)にして2分間走行させた後、タイヤを氷結層24の表面から離間する。
(5)回転ドラムの回転を停止して、タイヤがスリップ状態で接触した後の円筒状氷結表面の性状を測定する。
(6)(1)で測定した氷表面性状と(5)で測定した氷表面性状との差を求める。
なお、図11において、符号S0で示す破線は、手順(1)で形成された氷結層24の表面の基準位置すなわち0mmを示しており、この基準位置からそれぞれ1mm、2mm窪んだ位置をそれぞれ破線1、破線2で示している。
【0033】
上記の手順で実験した結果を図11に基づいて説明する。
本発明の整形体18を使用しないで、上記(1)〜(6)の手順で実験を行った場合、氷結層24の表面には、図11(A)に示すように、タイヤ22の接地面の凹凸22a(トレッドパターン)に対応した凹凸形状50が形成されていた。すなわち、試験タイヤ22毎に異なった形状の氷結層24の表面で試験タイヤ22の摩擦試験が行われることになる。
これに対して、厚さが10mm、硬度がHs70のゴム板からなる整形体18を用い、氷結層24の表面に対する整形体98の荷重を、タイヤの荷重の1.2倍に設定して上記(1)〜(6)の手順で実験を行った場合、氷結層24の表面は、図11(B)に示すように、なだらかな凹凸形状の氷結表面に整形されていた。
すなわち、試験タイヤ22が異なってもほぼ均一形状の氷結層24の表面で試験タイヤ22の摩擦試験が行なわれることになり、アイスバーンとなった一般道やテストコースの氷結表面に近い形状の氷結層24の表面上で摩擦試験が行なわれることになる。
【符号の説明】
【0034】
12……回転体、14……回転体駆動機構、16……第1荷重付与機構、18……整形体、22……試験タイヤ、24……氷結層、26……第2荷重付与機構、32……温度調整手段、34……吸水機構、40……ターンテーブル、100,200……インサイドドラム式摩擦試験装置、300……アウトサイドドラム式摩擦試験装置、400……ターンテーブル式摩擦試験装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に支持され被試験用の試料が押圧される氷結層が形成された回転体と、
前記回転体を回転させ当該回転体と一体に前記氷結層を移動させる回転駆動機構と、
前記試料を前記氷結層の表面に予め定めた荷重で押し付ける第1荷重付与機構と、
前記氷結層を整形する整形体と、
前記整形体を前記氷結層の表面に予め定めた荷重で押し付ける第2荷重付与機構とを備え、
前記整形体は、前記氷結層の表面に接触し該表面との摩擦熱で前記氷結層の表面を溶融して前記氷結層の表面を整形するエラストマーで構成されている、
ことを特徴とする摩擦試験装置。
【請求項2】
第2荷重付与機構は、前記第1荷重付与機構が前記試料を前記氷結層の表面に押し付ける荷重と等しい荷重であるいはそれよりも大きな荷重で前記整形体を前記氷結層の表面に押し付ける、
ことを特徴とする請求項1記載の摩擦試験装置。
【請求項3】
前記大きな荷重は、前記第1荷重付与機構が前記試料を前記氷結層の表面に押し付ける荷重の1倍を超えかつ1.5倍以下である、
ことを特徴とする請求項2記載の摩擦試験装置。
【請求項4】
前記エラストマーの硬度は、Hs60〜Hs80である、
ことを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の摩擦試験装置。
【請求項5】
前記整形体は、互いに間隔をおいた複数の凸条部として形成されていることを特徴とする請求項1乃至4に何れか1項記載の摩擦試験装置。
【請求項6】
前記凸条部は、前記氷結層の移動方向に延在し、前記氷結層の移動方向と直交する方向に並べられていることを特徴とする請求項5記載の摩擦試験装置。
【請求項7】
前記凸条部は、前記氷結層の移動方向と直交する方向に延在し、前記氷結層の移動方向に並べられていることを特徴とする請求項5記載の摩擦試験装置。
【請求項8】
前記整形体は、複数設けられ、
前記複数の整形体は、前記氷結層の表面と接触する面の面粗さが互いに異なっており、
前記各整形体は面粗さの大きいものから小さいものの順に前記氷結層に押し付けられるように前記氷結層の移動方向に沿って並べられていることを特徴とする請求項1乃至7に何れか1項記載の摩擦試験装置。
【請求項9】
前記整形体として、トレッド部に溝がないタイヤが用いられることを特徴とする請求項1乃至3に何れか1項記載の摩擦試験装置。
【請求項10】
前記第2荷重付与機構は、前記整形体を前記氷結層の表面に離間接近する方向に移動させる第1移動機構を含んで構成されていることを特徴とする請求項1乃至9に何れか1項記載の摩擦試験装置。
【請求項11】
前記第2荷重付与機構は、前記整形体を前記氷結層の移動方向と交差する方向に往復移動させる第2移動機構を含んで構成されていることを特徴とする請求項1乃至10に何れか1項記載の摩擦試験装置。
【請求項12】
前記氷結層の表面に生じた水分を吸収する吸水機構を備えることを特徴とする請求項1乃至11に何れか1項記載の摩擦試験装置。
【請求項13】
前記整形体に該整形体の温度を調整する温度調整手段が設けられていることを特徴とする請求項1乃至12に何れか1項記載の摩擦試験装置。
【請求項14】
試料を氷の層または圧縮された雪の層からなる氷結層の表面に押し付けて摩擦試験を行う方法であって、
前記氷結層を移動させ、
前記氷結層の表面に前記試料を予め定められた荷重で押し付け、
前記氷結層の表面にエラストマーからなる整形体を予め定められた荷重で押し付け、
前記氷結層の表面に前記整形体を押し付けた時に生じる摩擦熱で前記氷結層の表面を溶融して整形する、
ことを特徴とする摩擦試験方法。
【請求項15】
前記氷結層の表面に整形体を押し付ける荷重は、前記氷結層の表面に前記試料を押し付ける荷重と等しいかそれよりも大きいことを特徴とする請求項14記載の摩擦試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−149870(P2011−149870A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−12398(P2010−12398)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)