説明

摺動子及び前記摺動子を用いた電子部品

【課題】 特に、従来に比べて耐久性を効果的に向上させることが可能な摺動子及びそれを用いた電子部品を提供することを目的としている。
【解決手段】 本発明は、摺動面上を摺接可能な接点部を備える摺動子であって、先端から基端側に向けて延出し、前記先端から前記基端側への長さ方向に対し直交する幅方向に間隔を空けて配列された前記接点部を備える複数本の摺動片2と、各摺動片2の基端側に位置する固定部3と、各摺動片2と前記固定部3間を繋ぐ中間部4と、を有する弾性変形可能な材質からなり、前記中間部4は、各摺動片2の根元部2bに接続し前記幅方向への寸法がT1で形成された第1中間領域4aと、前記第1中間領域4aと前記固定部3との間に位置し、前記幅方向への寸法が前記T1よりも小さいT2で形成された第2中間領域4bとを有して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、可変抵抗器等の電子部品に用いられる摺動子(ブラシ)に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には摺動子の固定構造に関する発明が開示されている。特許文献1の第1図や第2図には、ロータ(符号16)に固定される固定部から4本の可動接点片(符号12)が延出して構成された摺動子が開示されている。摺動子の可動接点片は第1図や第2図に示すように所定形状にて折り曲げられており、折り曲げ頂部が特許文献1の第3図に示すプリント基板(符号36)に当接するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−54219号公報
【特許文献2】特開平9−298103号公報
【特許文献3】特開平11−295015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の摺動子の構成では、ロータとの固定部から可動接点片(符号12)が直ぐに4本に分割して形成されている。このため、摺動子1をロータに組み込み、可動接点片をプリント基板の摺動面上に摺接させると、可動接点片の根元部に応力が集中し耐久性を適切に向上させることができなかった。このように可動接点片の根元部に応力が集中することで、前記可動接点片の本数を増やすこともできず(本数を増やすことで各可動接点片の幅が小さくなり益々、耐久性が低下する)、摺動面に対する接触安定性および精度の向上を図ることが難しい。
【0005】
特許文献2及び特許文献3についても同様である。特許文献2では図3等に示すように固定部から多数本の指部が延出する接触子の形状が開示されており、また特許文献3には、図2等に示すように固定部から直ぐに二本に分割された摺動子の形状が開示されている。このように、特許文献2及び特許文献3においても、固定部から直ぐに分岐した構造であるため、分岐部分の根元に応力が集中しやすく、適切に耐久性を向上させることができなかった。
【0006】
そこで本発明は上記従来の課題を解決するためのものであり、特に、従来に比べて精度向上と尚且つ耐久性を効果的に向上させることが可能な摺動子及びそれを用いた電子部品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、摺動面上を摺接可能な接点部を備える摺動子であって、
先端から基端側に向けて延出し、前記先端から前記基端側への長さ方向に対し直交する幅方向に間隔を空けて配列された前記接点部を備える複数本の摺動片と、
各摺動片の基端側に位置する固定部と、
各摺動片と前記固定部間を繋ぐ中間部と、
を有する弾性変形可能な材質からなり、
前記中間部は、各摺動片の根元部に接続し前記幅方向への寸法がT1で形成された第1中間領域と、前記第1中間領域と前記固定部との間に位置し、前記幅方向への寸法が前記T1よりも小さいT2で形成された第2中間領域とを有して構成されることを特徴とするものである。
【0008】
また本発明における電子部品は、上記に記載された前記摺動子と、前記摺動面を有する基板と、前記摺動子の前記固定部を固定支持する支持体と、を有し、前記摺動子の接点部が前記摺動面上を摺接することを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、固定部を固定支持して、摺動子の接点部を摺動面上に摺接させたときに、各摺動片の根元部にかかる応力を低減すべく、各摺動片の根元部と接続した第1中間領域よりも基端側に第1中間領域に比べて幅の小さい第2中間領域を設けて、各摺動片の根元部から離れた固定部近傍の前記第2中間領域に応力を集中させるようにしたことで、先端側で分岐した各摺動片の根元部に作用する応力を従来に比べて効果的に低減することができる。これにより、従来に比べて耐久性を向上させることが可能になる。
【0010】
また本発明では、各摺動片は、前記根元部よりも先端側で前記幅方向に間隔を空けて複数本の指片に分割され、各指片に夫々、前記接点部が設けられることが好ましい。各摺動片への応力集中を効果的に抑制できるため、各摺動片の先端側を複数本の指片に分割して接点部を増やすことができ、これにより接触信頼性と精度の向上を図ることができる。
【0011】
また本発明では、各指片は、所定角度にて折り曲げられており、各指片の先端が前記接点部である構成に効果的に適用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来に比べて耐久性に優れた摺動子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は支持体に固定支持された本実施形態の摺動子の斜視図である。
【図2】図2は本実施形態における摺動子の先端部分を拡大した部分拡大斜視図である。
【図3】図3は、本実施形態の摺動子を備えた電子部品の模式図(側面図)である。
【図4】図4は、本実施形態の摺動子に作用する応力の分布を示すCAE解析結果を簡略化して示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は支持体に固定支持された本実施形態の摺動子(ブラシ)の斜視図、図2は摺動子の先端部分を拡大した部分拡大斜視図、図3は、本実施形態の摺動子を備えた電子部品の模式図(側面図)、図4は、本実施形態の摺動子に作用する応力の分布を示すCAE解析結果、である。
【0015】
図1に示す摺動子1,1は、複数本の摺動片2と、各摺動片2の基端側に位置する固定部3と、各摺動片2と固定部3との間を繋ぐ中間部4とを有する導電性の板ばねより構成される。板ばねの材質としては、ステンレスばね材、アルミ板、リン青銅板、ベリリウム銅板等であるが、特に材質を限定するものではない。また、摺動子1は、多数本の炭素繊維を樹脂により含浸した構成とすることもできる。
【0016】
図1に示す固定部3は、支持体7の平面(X1−X2方向とY1−Y2方向にて規定される平面)上に既存の固定手段により固定される。図1に示すように、固定部3から延出する中間部4及び各摺動片2は、Y1−Y2方向よりもややZ1方向に傾斜しながら延出している。すなわち図1の実施形態では、中間部4の根元部分が固定部3との境界付近で少しZ1方向に折り曲げられている。
【0017】
図1に示すように中間部4は、X1−X2方向への幅寸法がT1で形成された第1中間領域4aと、X1−X2方向への幅寸法がT2で形成された第2中間領域4bとで構成されている。そして図1に示すように、第2中間領域4bの幅寸法T2は、第1中間領域4aの幅寸法T1に比べて小さくなっている。
【0018】
図1に示すように第1中間領域4aは各摺動片2の根元部2bに接続しており、第2中間領域4bは、第1中間領域4aと固定部3との間に位置して、第1中間領域4a及び固定部3の双方に接続している。
【0019】
図1に示すように、各摺動片2は、第1中間領域4aに接続された根元部2bから先端2aに向けて延出している。図1の実施形態では、一つの摺動子1につき3つの摺動片2がX1−X2方向に間隔を空けて配列されている。
【0020】
図1、図2に示すように、各摺動片2は更に先端側で二股に分割されて複数の指片5を構成している。そして図1,図2に示すように、各指片5が途中位置から略Z1方向に折り曲げられ、先端2aが摺動面上を摺接可能な接点部(以下、接点部2aと称する)として構成されている。
【0021】
ここで摺動子1の寸法について具体的に記載する。ただし、以下に示す寸法は一例であり、下記寸法に限定されるものではない。
【0022】
摺動子1の板厚は0.04〜0.07mm程度、摺動子1の長手方向の長さ寸法は、4.5〜6.5mm程度、第1中間領域4aの幅寸法T1は、1.5〜1.8mm程度で、第2中間領域4bの幅寸法T2は、1.2〜1.5mm程度である。また、幅寸法T2/幅寸法T1は、0.9〜0.6程度である。また第1中間領域4aの長さ寸法L1は、1.4〜1.6mm程度で、第2中間領域4bの長さ寸法L2は、1.1〜1.8mm程度である。
【0023】
図3に示すように本実施形態における摺動子1は、例えば電子部品としての可変抵抗器10内に組み込まれる。図3に示す摺動子1は図1に示す摺動子1の表裏を反転させた図となっている。
【0024】
図3に示すように摺動子1の固定部3は基板11の上方にて支持体7に固定支持されており、このとき、摺動子1の先端に位置する接点部2aは、基板11表面の抵抗パターン12上に接した状態とされている。摺動子1側及び基板11側の少なくとも一方が移動可能に支持されている。可変抵抗器10は、回転式であっても直線移動式であっても、あるいはそれ以外の移動方式であっても特に限定されるものではない。摺動子1の接点部2aが、抵抗パターン12上を摺動することで、抵抗値が変化し、これにより回転角やスライド位置等に応じた出力を得ることができる。
【0025】
本実施形態では、弾性変形可能な摺動子1は、その固定部3が支持体7に固定支持されて基板11との間で所定の圧力を受けた状態にて、接点部2aが抵抗パターン12上を摺動する。このとき、摺動子1に作用する応力分布を図4にて模式図的に示す。なお図4では、応力分布を三つの範囲に区分けしたが、実際には、応力が高い範囲(1)と応力が中間の範囲(2)との境界付近や、応力が中間の範囲(2)と応力が低い範囲(3)との境界付近では、徐々に応力が変化している。
【0026】
図4の応力分布図は、CAE解析結果であり、この実験での摺動子1の材質を、銅合金とし、摺動子1の板厚を0.05mm、第1中間領域4aの幅寸法T1(図1参照)を1.6mm、長さ寸法L1(図1参照)を1.5mm、第2中間領域4bの幅寸法T2(図1参照)を1.3mm、長さ寸法L2(図1参照)を1.2mm、摺動子1の長手方向の長さ寸法を6mm、各摺動片2の長手方向の長さ寸法を2.4mm、各摺動片2の幅寸法を0.35mm、各指片5の長手方向の長さ寸法を0.6mm、各指片5の幅寸法を0.1mmとし、各接点部2aに対しZ2方向(図1参照)に所定の圧力が加わったとして応力分析を行った。
【0027】
図4に示すように、中間部4のうち根元部分に相当し幅寸法が、各摺動片2に連結する第1中間領域4aよりも小さく形成された第2中間領域4bに応力が集中し(図4の実験によれば、この部分で応力が最大となる)、一方、各摺動片2の根元部2bに加わる応力及び各指片5の根元部に加わる応力を効果的に低減できることがわかった。このように分岐する各摺動片2及び各指片5の根元部に応力を集中させないようにできるため従来に比べて耐久性を向上させることができる。
【0028】
各摺動片2の先端側を複数の指片5に分割しない構成も本実施形態に含まれるが、図4に示した通り、各摺動片2への応力集中を効果的に抑制することができるため、各摺動片2の先端側を複数本の指片5に分割しても各指片5に作用する応力は小さくしたがって本実施形態では、優れた耐久性を維持したまま接点部2aの数を増やすことができ、これにより精度および接触信頼性の向上を適切に図ることができる。精度については、各指片5の接触位置の平均値により左右され、接触安定性についても接点部の数を増やすことで削れ粉に対する影響を小さくできる。
【0029】
また各摺動片2に設けられた接点部2aの位置は、先端面でなくてもよいが(途中位置とすることもできる)、図3に示すように、各摺動片2(指片5)の先端側を折り曲げて、その先端面を接点部2aとし、基端である固定部3を支持体7に固定支持して前記接点部2aを摺動面上に摺接させた構成とすれば図4のように、効果的に分岐する各摺動片2及び各指片5の根元部への応力集中を抑制できる。
【0030】
また指片5を図3に示すように摺動面である抵抗パターン12表面に対して略直交方向となるように折り曲げて、その先端を接点部2aとすることが好ましい。また図2に示すように、各接点部2aを凸型の曲面状とすることによって摺動面に対する接触不具合をより効果的に低減でき精度および接触安定性を向上させることが可能である。
【0031】
また中間部4は、各摺動片2の根元部2bに接続し幅寸法T1の大きい第1中間領域4aと、第1中間領域4aと固定部3との間に位置して、幅寸法T2が幅寸法T1よりも小さい第2中間領域4bのみならず、例えば、第1中間領域4aと第2中間領域4bとの間に、幅寸法が、幅寸法T1より小さくて幅寸法T2よりも大きい第3中間領域を備えていてもよいし、第2中間領域4bと固定部3との間に、幅寸法が幅寸法T2よりも大きい第4中間領域を備える構成としてもよい。ただし、固定部3と接続し、各摺動片2から最も離れた中間部4の根元部分を細くすることで、効果的に各摺動片2の根元部2bに作用する応力を低減することが出来る。
【0032】
なお第2中間領域4bにおける幅寸法T2は、X1−X2方向の両側面が、第1中間領域4aの両側面よりも絞られて細くされた形態以外に、例えば、第2中間領域4bの両側面は第1中間領域4aの両側面と一致しているが、第2中間領域4bにはその中央に貫通孔が形成されて、第2中間領域4bの幅寸法T2(貫通孔の部分を除く)が第1中間領域4aの幅寸法T1よりも小さくされた形態とすることもできる。
【0033】
また図1では、支持体7に2つの摺動子1が固定支持された2出力タイプの構成であるが、支持体7に一つの摺動子1が固定支持された構成であってもよい。
【符号の説明】
【0034】
T1 (第1中間領域の)幅寸法
T2 (第2中間領域の)幅寸法
1 摺動子
2 摺動片
2a 接点部
2b 根元部
3 固定部
4 中間部
4a 第1中間領域
4b 第2中間領域
5 指片
7 支持体
10 可変抵抗器
11 基板
12 抵抗パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面上を摺接可能な接点部を備える摺動子であって、
先端から基端側に向けて延出し、前記先端から前記基端側への長さ方向に対し直交する幅方向に間隔を空けて配列された前記接点部を備える複数本の摺動片と、
各摺動片の基端側に位置する固定部と、
各摺動片と前記固定部間を繋ぐ中間部と、
を有する弾性変形可能な材質からなり、
前記中間部は、各摺動片の根元部に接続し前記幅方向への寸法がT1で形成された第1中間領域と、前記第1中間領域と前記固定部との間に位置し、前記幅方向への寸法が前記T1よりも小さいT2で形成された第2中間領域とを有して構成されることを特徴とする摺動子。
【請求項2】
各摺動片は、前記根元部よりも先端側で前記幅方向に間隔を空けて複数本の指片に分割され、各指片に夫々、前記接点部が設けられる請求項1記載の摺動子。
【請求項3】
各指片は、所定角度にて折り曲げられており、各指片の先端が前記接点部として構成される請求項2記載の摺動子。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載された前記摺動子と、前記摺動面を有する基板と、前記摺動子の前記固定部を固定支持する支持体と、を有し、前記摺動子の接点部が前記摺動面上を摺接することを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−174407(P2012−174407A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33289(P2011−33289)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】