説明

摺動性樹脂成形物

【課題】特に、限界PV値と摩耗量が格段に改善されている摺動性超高分子量ポリエチレン樹脂成形物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、超高分子量ポリエチレン100重量部に対して、シリコーンオイル2〜10重量部と炭酸カルシウム6〜30重量部を含む超高分子量ポリエチレン樹脂組成物からなる摺動性樹脂成形物が提供される。このような摺動性樹脂成形物は、好ましくは、上記超高分子量ポリエチレン樹脂組成物をプレス成形することによって得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動性樹脂成形物に関し、詳しくは、超高分子量ポリエチレンとシリコーンオイルと炭酸カルシウムを含む超高分子量ポリエチレン樹脂組成物からなり、摺動特性にすぐれた摺動性樹脂成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の合成樹脂のなかでも、超高分子量ポリエチレン、ポリアミド、フッ素樹脂等は、すぐれた摺動特性を有することから、種々の摺動性樹脂成形品として、機械部品や電気部品のはか、医療用途にも用いられている。
【0003】
例えば、超高分子量ポリエチレンを樹脂成分とする摺動性樹脂成形物として、超高分子量ポリエチレンと炭酸カルシウムを混合、溶融し、これを冷却、固化させて得られる成形物が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、超高分子量ポリエチレンに炭酸カルシウムを配合しても、得られる成形物は、超高分子量ポリエチレンからなる成形物と比べて、摺動特性は僅かに改善されるにすぎず、そこで、超高分子量ポリエチレンの強度や耐熱性のようなすぐれた特性を活かしつつ、その摺動特性を一層、改善した成形物の開発が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−117891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、摺動性樹脂成形物における上述した問題を解決して、上述した要望に応えるためになされたものであって、特に、限界PV値と摩耗量を格段に改善した超高分子量ポリエチレンを樹脂成分とする摺動性樹脂成形物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、超高分子量ポリエチレン100重量部に対して、シリコーンオイル2〜10重量部と炭酸カルシウム6〜30重量部を含む超高分子量ポリエチレン樹脂組成物からなる摺動性樹脂成形物が提供される。このような摺動性樹脂成形物は、好ましくは、上記超高分子量ポリエチレン樹脂組成物をプレス成形することによって得ることができる。
【0008】
本発明によれば、このような摺動性樹脂成形物において、シリコーンオイルは50〜10000mm2/sの範囲の動粘度を有し、炭酸カルシウムは1〜100μmの平均粒子径を有する粒状物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明による摺動性樹脂成形物は、超高分子量ポリエチレンからなる成形物に比べて、格段にすぐれた摺動特性、特に、格段に改善された限界PV値と摩耗量を有しており、かくして、すぐれた摺動性が要求される種々の機械部品や電気部品のほか、医療用途にも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による摺動性樹脂成形物は、超高分子量ポリエチレン100重量部に対して、シリコーンオイル2〜10重量部と炭酸カルシウム6〜30重量部を含む超高分子量ポリエチレン樹脂組成物からなり、超高分子量ポリエチレンからなる成形物に比べて、格段にすぐれた摺動特性を有し、特に、格段に改善された限界PV値と摩耗量を有する。
【0011】
ここに、本発明において、PV値とは、面間接触圧力(P)速度(V)との積であり、限界PV値とは、角板のような成形物の表面に一定の面圧力を加えながら、例えば、鋼からなる中空円筒形状の相手材料を一定速度で回転させ、接触させて、成形物が相手材料と接触する面において異常な損傷が生じるときの相手材料の速度と面圧の積をいう。
【0012】
また、本発明において、摩耗量とは、同様に、丸棒のような成形物の軸に直角の端面に一定の面圧力を加えながら、例えば、鋼からなる円板状の相手材料を一定速度で回転させ、接触させて、成形物が相手材料と接触する上記端面において摩耗した量をいう。
【0013】
本発明において、超高分子量ポリエチレンは、重量平均分子量が100×104以上であることが好ましい。重量平均分子量が100×104よりも小さいときは、所期の効果を得ることが困難となる。超高分子量ポリエチレンの重量平均分子量の上限は、特に制約されるものではないが、通常、1000×104である。
【0014】
本発明において、シリコーンオイルは、その化学構造において、特に限定されるものではないが、好ましくは、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等が用いられる。但し、本発明において、シリコーンオイルは、JIS K 2283に従って測定した動粘度が50〜10000mm2/sの範囲にあることが好ましく、特に、80〜7000mm2/sの範囲にあることが好ましい。シリコーンオイルの動粘度が500mm2/sよりも小さく、又は10000mm2/sよりも大きいときは、所期の効果を得ることが困難となる。
【0015】
このようなシリコーンオイルは、超高分子量ポリエチレン100重量部に対して、2〜10重量部の範囲で用いられ、好ましくは、2.5〜9重量部の範囲で用いられる。超高分子量ポリエチレン100重量部に対して、シリコーンオイルの割合が2重量部よりも少なく、又は10重量部よりも多いときは、所期の効果を得ることが困難である。
【0016】
炭酸カルシウムも、その形状において、特に限定されるものではなく、粒状、板状、ウィスカー状等、任意のものが用いられる。但し、その平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置にて測定したとき、1〜100μmの範囲にあることが好ましく、特に、5〜50μmの範囲にあることが好ましい。
【0017】
炭酸カルシウムは、超高分子量ポリエチレン100重量部に対して、6〜30重量部の範囲で用いられ、好ましくは、5.5〜28重量部の範囲で用いられる。超高分子量ポリエチレン100重量部に対して、炭酸カルシウムの割合が6重量部よりも少なく、又は30重量部よりも多いときは、所期の効果を得ることが困難である。
【0018】
本発明による摺動性樹脂成形物は、必要に応じて、熱安定剤、光安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止性剤、防黴剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0019】
本発明による摺動性樹脂成形物は、上述したような超高分子量ポリエチレンとシリコーンオイルと炭酸カルシウムと、必要に応じて、その他の添加剤をヘンシェルミキサーのような適宜の混合手段にて均一に混合して、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物を調製し、これを押出成形、射出成形、プレス成形等、適宜の成形手段によって所要の形状に成形することによって得ることができるが、特に、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物を適宜の金型に投入し、加圧加熱するプレス成形によることが好ましい。また、このように、プレス成形によって得られた成形物を切削することによってフィルム又はシートを成形物として得ることができる。
【0020】
プレス成形は、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物を適宜の金型に投入し、通常、金型を温度180〜200℃に加熱しながら、圧力30〜50kgf/cm2にて15〜30分間程度、加圧すればよい。但し、プレス成形の条件は、上記例示に限定されるものではない。
【0021】
本発明による摺動性樹脂成形物は、上述したように、超高分子量ポリエチレンに対して所定の割合にてシリコーンオイルと炭酸カルシウムを含む樹脂組成物を、好ましくは、プレス成形によって得ることができ、すぐれた摺動特性を有し、特に、限界PV値と摩耗量において、格段に改善されている。
【0022】
即ち、本発明による摺動性樹脂成形物は、超高分子量ポリエチレンや高密度ポリエチレンからなる成形物に比べて、限界PV値が約2.5倍であり、摩耗量は約90%低減されている。しかし、超高分子量ポリエチレンを高密度ポリエチレンに代えて、これにシリコーンオイルと炭酸カルシウムを配合してなる樹脂組成物を同様にプレス成形しても、得られる成形物の限界PV値と摩耗量は、高密度ポリエチレンからなる成形物と殆ど、変わらない。
【0023】
更に、本発明による摺動性樹脂成形物は、摩擦係数や摩擦熱においても、著しい低減効果がみられる。
【0024】
このように、本発明によれば、樹脂成分として、超高分子量ポリエチレンを用い、これにシリコーンオイルと炭酸カルシウムを所定の割合にて配合してなる樹脂組成物から成形物を得ることによって、摺動特性が著しく改善された成形物を得ることができ、特に、限界PV値と摩耗量が同時に格段に改善された摺動性樹脂成形物を得ることができる。このような本発明による摺動性樹脂成形物は、種々の機械部品や電気部品のほか、医療用成形物にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0026】
以下において、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物のプレス成形によって得られた試験用サンプルの限界PV値は、JIS K 7218に準拠して、オリエンテック(株)製摩擦摩耗試験機(型式EFM−III−EN)を用いて、速度0.5m/秒、荷重25MPa、時間30分(1回の試験時間)、相手材料SUS304の条件で測定した。
【0027】
また、試験用サンプルの摩耗量は、オリエンテック(株)製摩擦摩耗試験機(型式EFM−III−EN)を用いて、JIS K 7218に準拠して、速度2.0m/秒、荷重25MPa、時間360分、相手材料SS400の条件で測定した。
【0028】
実施例1
超高分子量ポリエチレン(ティコナ(株)製ホスタレンGUR、重量平均分子量800×104)50kgとシリコーンオイル(松村石油(株)製バーレルシリコーンフルードM−1000、ジメチルポリシロキサン、動粘度1000mm2/s)1.5kgと炭酸カルシウム(三共精粉(株)製、平均粒子径20μm、粒状物、以下、同じ。)10kgをヘンシェルミキサーを用いて、3分間、混合して、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物を調製した。
【0029】
この超高分子量ポリエチレン樹脂組成物200gを金型に投入し、金型温度190℃、面圧力50kg/cm2にて20分間プレス成形して、縦横各150mm、厚さ10mmの板状成形品を得た。この成形品を平削り盤にて切削加工して、縦横各60mm、厚さ2mmの角板を試験用サンプルとして調製し、前述したようにして、限界PV値を測定した。
【0030】
また、上記板状成形品を旋盤にて切削加工し、直径5mm、高さ8mmの丸棒を試験用サンプルとして調製し、前述したようにして、摩耗量を測定した。
【0031】
実施例2
シリコーンオイル(松村石油(株)製バーレルシリコーンフルードM−1000、動粘度1000mm2/s)1.5kgに代えて、シリコーンオイル(松村石油(株)製バーレルシリコーンフルードM−100、動粘度100mm2/s)1.5kgを用いた以外は、実施例1と同様にして、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物を調製し、これを用いて、実施例1と同様にして、試験用サンプルを調製し,限界PV値と摩耗量を測定した。
【0032】
実施例3
シリコーンオイル(松村石油(株)製バーレルシリコーンフルードM−1000、動粘度1000mm2/s)1.5kgに代えて、シリコーンオイル(松村石油(株)製バーレルシリコーンフルードM−5000、動粘度5000mm2/s)1.5kgを用いた以外は、実施例1と同様にして、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物を調製し、これを用いて、実施例1と同様にして、試験用サンプルを調製し,限界PV値と摩耗量を測定した。
【0033】
実施例4〜7
シリコーンオイル(松村石油(株)製バーレルシリコーンフルードM−1000、動粘度1000mm2/s)と炭酸カルシウム(三共精粉(株)製、平均粒子径20μm、粒状物)をそれぞれ、第1表に示す量にて用いた以外は、実施例1と同様にして、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物を調製し、これを用いて、実施例1と同様にして、試験用サンプルを調製し,限界PV値と摩耗量を測定した。
【0034】
比較例1
実施例1において、炭酸カルシウムを用いなかった以外は、実施例1と同様にして、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物を調製し、これを用いて、実施例1と同様にして、試験用サンプルを調製し,限界PV値と摩耗量を測定した。
【0035】
比較例2
実施例1において、シリコーンオイルを用いなかった以外は、実施例1と同様にして、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物を調製し、これを用いて、実施例1と同様にして、試験用サンプルを調製し,限界PV値と摩耗量を測定した。
【0036】
比較例3〜10
シリコーンオイル(松村石油(株)製バーレルシリコーンフルードM−1000、動粘度1000mm2/s)と炭酸カルシウム(三共精粉(株)製、平均粒子径20μm、粒状物)をそれぞれ、第1表又は第2表に示す量にて用いた以外は、実施例1と同様にして、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物を調製し、これを用いて、実施例1と同様にして、試験用サンプルを調製し,限界PV値と摩耗量を測定した。
【0037】
比較例11
超高分子量ポリエチレン(ティコナ(株)製ホスタレンGUR、重量平均分子量800×104)200gを金型に投入し、金型温度190℃、面圧力50kg/cm2にて20分間プレス成形して、縦横各150mm、厚さ10mmの板状成形品を得た。この成形品を平削り盤にて切削加工して、縦横各60mm、厚さ2mmの試験用サンプルを調製し,限界PV値を測定した。
【0038】
また、上記板状成形品を旋盤にて切削加工し、直径5mm、高さ8mmの試験用サンプルを得、摩耗量を測定した。
【0039】
比較例12
超高分子量ポリエチレン(ティコナ(株)製ホスタレンGUR、重量平均分子量800×104)200gに代えて、高密度ポリエチレン(三井化学(株)製ハイゼックス、重量平均分子量7×104)200gを用いた以外は、比較例9と同様にして、試験用サンプルを調製し、限界PV値と摩耗量を測定した。
【0040】
比較例13
超高分子量ポリエチレン(ティコナ(株)製ホスタレンGUR、重量平均分子量800×104)50kgに代えて、高密度ポリエチレン(三井化学(株)製ハイゼックス、重量平均分子量7×104)50kgを用いた以外は、実施例1と同様にして、超高分子量ポリエチレン樹脂組成物を調製し、これを用いて、実施例1と同様にして、試験用サンプルを調製し、限界PV値と摩耗量を測定した。
【0041】
上記実施例1〜7と比較例1〜3において得られた試験用サンプル(成形物)の限界PV値と摩耗量を第1表に示し、上記比較例4〜13において得られた試験用サンプル(成形物)の限界PV値と摩耗量を第2表に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
第1表及び第2表に示す結果から明らかなように、前述した条件下に測定した超高分子量ポリエチレンからなる成形物の限界PV値が0.24MPa・m/sであり、高密度ポリエチレンからなる成形物の限界PV値が0.23MPa・m/sであり、前述した条件下に測定した超高分子量ポリエチレンからなる成形物の摩耗量10.0mgであり、高密度ポリエチレンからなる成形物の摩耗量が10.5mgであるところ、本発明による成形物はいずれも、限界PV値が0.6MPa・m/s以上であり、磨耗量が1.00mg以下であって、限界PV値と摩耗量において著しく改善されている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリエチレン100重量部に対して、シリコーンオイル2〜10重量部と炭酸カルシウム6〜30重量部を含む超高分子量ポリエチレン樹脂組成物からなる摺動性樹脂成形物。
【請求項2】
超高分子量ポリエチレン樹脂組成物をプレス成形して得られる請求項1に記載の摺動性樹脂成形物。
【請求項3】
シリコーンオイルが50〜10000mm/sの範囲の動粘度を有するものである請求項1に記載の摺動性樹脂成形物。
【請求項4】
炭酸カルシウムが1〜100μmの平均粒子径を有する粒状物である請求項1に記載の摺動性樹脂成形物。


【公開番号】特開2010−202800(P2010−202800A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50985(P2009−50985)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(391033827)作新工業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】